【真紅の滅び】破壊を司る魔王【黙示録】
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■シリーズシナリオ
担当:BW
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:16 G 29 C
参加人数:12人
サポート参加人数:2人
冒険期間:01月19日〜01月29日
リプレイ公開日:2009年02月07日
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●オープニング
キエフ南西、チェルニゴフ公国。
治めるは大公ヤコヴ・ジェルジンスキー。
中心都市はチェルニヒフ。
ロシアにおいては交通と通商の要衝であり、街の規模に比して市場、商店、宿場町、歓楽街、スラムの規模が大きな街。
そのような街であればこそ、大きな力を持つのが商人ギルド。そして、それに雇われた多数の傭兵部隊である。
常に様々な人と商品が行き交い、雑多な、しかしながら活気に満ちた街で、人々は日々を精一杯に生きていた。
だがその日、突如チェルニゴフ公国を襲った脅威によって、彼らは戦乱の日々へと巻き込まれていることになる。
「申し上げます。ビニツィアの南、チェルニゴフ公国東端の一帯が陥落。敵軍は現在、進軍を止め、街に駐留している模様‥‥ですが、おそらく次の目的地は‥‥」
「‥‥ここチェルニヒフか。あのローレン商会の大傭兵団が、敵出現の報告から二日と経たぬ間に壊滅か。‥‥よもや、実在するとは信じ難かったが、現実となれば認めざるをえぬか‥‥」
騎士団より報告を受け、大公ヤコヴは忌々しげに城の外に目をやった。遠方の、暗い雲に覆われた空の下に、それは確かに存在しているのだ。
永き封印より解き放たれ、無数の悪魔を従えた、強大な魔力をその身に宿せし者。闇を統べるその存在は、こう呼ばれる。
「魔王め‥‥!!」
そこは、かつて自分が手中にした街だった。
そして今、再び自分の街となった。以前は知恵で。そして、今度は力で。
「それなりに自慢の傭兵団だったのだがな。まさか、これほど呆気ないものだったとは‥‥。所詮は人間‥‥か」
その男、ガルディア・ローレンは先日まで大商会の主だった。デビルと手を結び、魔の道へと踏み込んだ人間。自分の地位も立場も全て捨て、そして、その魂を売り渡した相手こそ‥‥。
『ガルディア』
「はっ」
闇に浮かぶのは、黒の法衣を纏いし真紅の髑髏。
名をアラストール。周囲に渦巻く魔力は、憎悪を具現化し炎の如くに練り上げたかのような形容し難い重圧を感じさせる。ただの人間であれば、その気にあてられただけで、心を狂わせかねないだろう。
『我は飢えておる。憎しみが足りぬ。怒りが足りぬ』
「承知しております。しかしながら、御身の力を見せつけ過ぎては、怒りと憎悪の前に、人間どもは絶望のみを覚えましょう。よき実りを得るには、時を待つことも必要となりましょう」
『良かろう。なれば、我はここで一時を待つ』
「御意」
言って、ガルディアはその場を離れた。
「よろしいのですか?」
『イペスか』
ガルディアが去った後で現れたのは、金色の髪をした白き羽の、天使のごとき姿の少女。
「地獄にて、あのアロセールが討たれたと聞きました。力を束ねし人の剣にて、その命を断たれたと。門を守るケルベロスも、あまり旗色が良くないとか。俄かには信じ難い話ですが、あまり長く時間をかけては、こちらに不利になるやもしれません」
その時、空気が震えた。怒気を孕んだ凄まじい熱気のごとき視線が、イペスに向けられていた。
『我が人間どもに敗れると思うか』
「‥‥も、申し訳ありません。私ごときが過ぎたことを‥‥」
逃げるように、イペスはその場を離れる。相手は魔王。それも、破壊を司る地獄の刑の執行長官。上級の悪魔達ですら近寄ることも恐れ多い相手。功を認められ、直々に力を与えられたイペスと言えど、下手な事を言えば一瞬で無に帰すだろう。そういう存在なのだ。
その後、イペスが会った人間が一人いる。名をクラスティ。イペスは先のことを彼に相談した。
「‥‥とは言え、アラストール様も気にはされているようだね。人間という存在の持つ可能性を」
「先日のフィディエル討伐に向かったオティスの破れた一件、ですか。アラストール様の命であったと聞いています。他人事とは言え、あのような戯れに付き合わされた『彼』には、些か同情しますけどね」
「封じられていた間、幾度となく復活の障害になった冒険者という存在の、その力を試してみたかったとか。そんな茶番に使われた『彼』も確かに可哀想だけど、まあ、どちらかと言えば、試したかったのは『彼』の方かもしれないね。ちゃんと命令通りに動くかどうか」
『聞こえているぞ』
風が舞った。見上げれば空に、巨大な翼があった。
「そうだった。君はそういう存在だったね‥‥ホルス」
「世界のありようを守る、巨大な陽の精霊。かつての私達の宿敵。それが今や魔王様の僕となって働いているのですから‥‥ふふっ。本当に、あの方は良い趣味をしていらっしゃいますわ」
キエフ冒険者ギルド。
そこに、チェルニゴフ公国よりの依頼が舞い込んだことで、冒険者達の間に喧騒が広がっていた。
公国の一端を魔王の軍が占拠したとの情報は、ここキエフにも既に届いていたからだ。
依頼の内容はアラストール軍の戦力の偵察。得た情報に応じては、追加の報酬もあるとのことだ。
敵はデビルの大部隊。中級デビルは確定として、中には高位のデビル達も複数いるかもしれない。ただの偵察と言え、間違いなく命掛けの仕事になるだろう。
今ここに、長きに渡る魔王アラストールとの戦いの幕が上がろうとしていた。
●リプレイ本文
そこに待つのは、闇の誘い。
そこに集いしは、道を外れし者。
全ては王が導く滅びの宿命に向けて。
街道に、六人の冒険者達の姿があった。
向かうのは、中心街の入り口にあたる大きな門。以前は、商人らが街を出入りする際に荷物の検分や、それに伴う関税の取り立てなどが行われていた場所でもあった。順番を待つ商人同士の情報交換なども行われて、騒がしい場所であった。それが今は固く閉ざされ、門の前には、武装した番人と思われる者達が数人。ただ、彼らは本来ここを守っていた門番達では無い。悪魔に魂を売り、その僕と化した信奉者達。こちらの姿を見てか、明らかに警戒した様子を見せる。
冒険者の一団にて先頭を行くのは、神の祝福を受けし鎧を纏い、聖母の像が彫られた純白の盾を携えた若く凛々しき騎士。名をヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)という。
「何者だ!?」
門番の男が問う。それに対しヤングヴラドは、
「ふっ‥‥教皇庁直下テンプルナイト、ここに推参なのだ!!」
堂々と、一切の偽りなく答えた。
十秒後。来た街道を全力で逃げ戻る冒険者らの姿があった。
「ええい! 何なのだ、あの数は!!」
その手より雷光を放つデュラン・ハイアット(ea0042)の視線の先。大小合わせ、少なくとも百は超えようかという悪魔の大部隊が空を飛び、地上でも悪魔とその信奉者と思われる人間達が多数集まって、冒険者達を追いかけて来ていた。
「さすがに、真正面から、行ったのは、マズかった、ようですね‥‥」
「でも、派手に目立って、敵を引き付けるという点では、大成功かと」
後方へ吹雪を放つオリガ・アルトゥール(eb5706)と、仲間達を結界で守るフィーネ・オレアリス(eb3529)が少し息を切らしながら言う。
冒険者達が得た最初の敵軍の情報が何であるかといえば、この圧倒的な物量の差だろうか。中心街の入口で敵襲だと門番が声を上げた途端に、この大部隊の出現。下級悪魔の十や二十なら、ここにいる冒険者達の敵ではないが、明らかに桁が違う。足を止めて戦っている間に他の悪魔が集まってきたら‥‥。深く考えるまでもなく、すぐに逃げるべきだと本能が告げた。
「ふん。これは逃げているのではない。あくまでも、戦略的撤退なだけで‥‥ええい!!これで終わったと思うなよー!!」
大声で捨て台詞を残すのは、いまやすっかりロシアにその名を知らしめるウサミミ男、ラザフォード・サークレット(eb0655)。
「‥‥シオン‥‥」
この騒ぎのうちに内部に潜入しただろう恋人の無事を願いつつ、雨宮零(ea9527)はこの場を切り抜けるために、その足に力を込めるのだった。
――その頃。
「無事に入れたわね」
偽りの名『アルト』を称して、門より堂々と潜入したシオン・アークライト(eb0882)は、まずは一安心といった表情で呟いた。
ただ、街の内部の光景は異様という他無い。戦で荒れた街。そこら中を様々な悪魔が我がもの顔で闊歩している。人間の姿もあるが、生気の抜けた、色のない‥そんな表情の者が多い。
「各地の悪魔信者が集まって来ている。その途中、というのもあったみたいだな。まあ、陽動が上手くいったおかげでも、ある」
シオン同様、偽名『ロバ』を使い潜入したミュール・マードリック(ea9285)が言う。ただ、失敗もしていた。二人は自身を蛮族の戦士だと門番に告げたが、ロシアでそう呼ばれる存在の多くはエルフと、少数のドワーフやジャイアントである。ハーフエルフは、人間がこの地に大量に流入した後に数を増やした種族で、基本的には誰もがロシアの政治下に組み込まれているはずの者達だ。複雑な生まれの事情も考えられるが、それにしてもシオンなどは魔法の剣に指輪に鎧、さらには軍馬まで連れているという身なりの良さだ。対して、ミュールは平凡な武装に、ボロの手袋や靴下などまで着けてきている徹底ぶりで、実際、彼の方が周囲の雰囲気に溶け込んでいた。それと一緒に歩くので、なおさらシオンは浮く。もし門番が落ち着いた後、妙な二人組だったと思いだされると面倒かもしれない。
その後はやはりというか、シオンの格好は注目を集めることは出来たが、相手から話を聞き出しにかかりたいところを、逆に自分の素状を探られるようなことが多かった。
余計な苦労をする羽目になったが、酒場‥‥正しくは酒樽が並んで、そうであったと思われる場所に行った時に得られた情報にこんなものがある。
「この街を襲った時の話? ははあ。あんたらも誰と契約させてもらうか決めかねてる口か」
まだ魂を抜かれた様子の無い男。酒が入っているためか、饒舌だった。
「まあ、そんなところよ。何か、すごい攻撃とか色々あったと聞いてるんだけど、詳しく聞かせてもらえない?」
「そりゃ、やっぱアラストール様だろう。巨大な竜巻や猛吹雪を生み出し、天候まで自在に変える。さすがは魔王様ってなぁ。でも一番すげえのは、あれだな。誰も近づけなかったことだ」
「近づけない?」
「いや、まあ近づけることは近づけるんだが、何ていうか、その時にはもう‥‥ああ、上手く言えないな」
シオンが得られた情報で主だったのは、この話だけ。他に関しては上手く口を開いてくれるものは無かった。話術には自身のあるシオンだったが、やはり警戒されたのかもしれない。
一方で、ミュールは自身と同じく傭兵稼業に身を置いていると思える者達に声をかけた。どうすれば、この軍で雇ってもらえるかと聞くためである。
「簡単だ。とりあえず契約する悪魔を見つけて、魂を捧げればいい。後は、その悪魔の指示に従え」
さすがに困った。
「他に‥‥ないか?」
「何だ? そこらの悪魔と契約じゃ不満ってか? 俺らみたいな奴の魂に、そんな高い価値はねぇぞ。まあ、ガルディア様達みたいなのもいるけどよ」
「‥‥達?」
「魔王様が認めて直に力を与えた、特別扱いを受けてる元人間が五人いる。まあ、その人らも元は別の下位のデビルと契約するところから始めたらしい。お前さんも頑張るこったな」
この際、両者のやりとりを密かに覗く人影があった。
(「二人とも、何とかやってるみたいっすね」)
先の陽動に紛れて潜入したもう一人、以心伝助(ea4744)である。彼は、その優れた忍びの技を駆使し、街の各所を駆け巡って情報の収集にあたっていた。
「しかし、どっからこんなに集まったんすかねぇ‥‥」
彼の調べたところ、街に集まっている悪魔とそれに従う信者らの数は、ざっと見える範囲だけで五千は超えている。それに伴い、指揮をとる中級以上のデビルらも相当数がいるとは思うが、魔物の知識に明るくない伝助には、そのあたりの区別は上手くつかなかった。
なお調査の途中、気になる話を耳にした。
『やはり冠はあそこに?』
『ああ。間違いない』
人の息を感じない。悪魔達か。聞こえた方に近づこうとして‥‥。
『‥‥む、何者だ!?』
気づかれたと分かった瞬間に足は反対を向いていた。忍びの術を施した俊足。追いかける敵の姿はなかった。
――ッ。
剣閃が森を舞い、氷輪が空を流れる。
最後の一匹を仕留めたところで、男は息を吐いて刃を鞘に戻す。
「つまらねえ子守で終わるかと思ったが、少しは楽しめるじゃねぇか」
「そう強気なことばかり言っていられませんよ。一刻も早く、皆さんを安全なところまで送らなければ」
その二人、リュリス・アルフェイン(ea5640)とラスティ・コンバラリア(eb2363)は森の中で幾度となく悪魔達と遭遇し、これを撃退していた。
この場には、二人の他にも多くの人影がある。ラスティの魔法で見つけた、生存者の一団だ。悪魔の襲撃を受けた村を捨てて、他の地域へ逃れようとする途中だったのを見つけ、護衛することにした。非常用の食用なりを持ちだしてきたらしく、物資の面では問題なかったが、悪魔らに有効な武器を持つ村人などそういるはずもなく。たった二人で、十数人を守りつつ戦うのは、なかなかに骨だ。
情報は早く欲しいが、彼らの疲労もある。ゆっくり話を聞くのは、無事にこの地域を出られた後になるだろう。
「それにしても‥‥」
「なんだ、やっぱり気になるか」
生存者の所在を調べるのに使用した魔法で、二人はある人物の捜索も試していた。結果、その人物の反応はあった。ただ、反応が見えたのは敵地の中心。中心街の真っ只中である。
考えられることは幾つかある。敵地に潜入している最中か、敵に囚われているのか。これは、まだ楽観的な見方だ。悪魔の陣中で無事な人間となれば‥‥。
「やっぱ、そういうことになっちまってるのかね‥‥」
日が変わって。
――ゴオオオオ!!
中心街の門に、暴風が吹き荒れた。
「「「ふははははは!!」」」
高笑いを上げて姿を見せる三人の男。デュラン、ラザフォード、ヤングヴラド。
「‥‥って、今のは私の魔法だろうが! 勝手に便乗するな!」
「ふっ‥‥負けてはおられんからな」
「世知辛いことを言うな。余には余の立場というものがある。ゆえに、もっと目立たなくてはならんのだ。それこそが余の使命」
何が何だかという感じだが、のんびりとはしていられない。
「また貴様らか!!」
叫ぶ門番と再び現れる悪魔の軍勢に、陽動班の冒険者一同は、やはり即座に逃げた。すぐにフィーネは結界を張る。先の時も、これによる防御と皆の範囲魔法による牽制で凌ぎきった。
だが、敵は悪魔。知恵も働くし学習もする。
「何だ?」
周囲に濃霧が立ち込める。悪魔の生み出したものだろう。逃げるべき方角が見えなくなる。誰もが危険と感じた。
「皆さん、こちらへ!!」
声がした。聞き覚えのある声だ。
「早く」
姿を見せたのは長渡昴(ec0199)。彼女の導くままに駆けた。結界のおかげだろう。敵の攻撃はまだ届かない。そう思っていると明らかな段差に誰かが躓いて、連鎖的に皆が体勢を崩す。
転げ落ちた先、大地が揺れた。いや、そこはもう地の上では無かった。
「出しますよ!!」
船。周辺の調査に合わせて、必要になるかもしれないと考えた昴が機をみて確保していたものだ。ここは、街の側に流れる川の支流の一つ。
「シオン!!」
「零、無事で良かった」
落ち着いて周囲を見れば、街に潜入していた三人も乗っていた。聞けば、混乱に乗じて門番を殴り倒して出てきたという。もっと慎重な脱出はできなかったのかという話だが、門番に不審がられ、素直に通してくれなかったらしい。
何はともあれ、一同は無事にキエフへと戻る。そこには見つけた生存者の一団を無事に逃がし終えたリュリスとラスティも帰っていた。
その後。
得た情報については、ギルドが責任をもってチェルニゴフ公国へ届けた。
ただ、全体的に冒険者らは無理を避け、内部での調査を行った人数も少なかったためか、結果として得られた情報も浅い部分のものに留まっている。報告を受けた大公ヤコヴの表情は、あまり良いものではなかったという。