【真紅の滅び】大戦の影で【黙示録】

■シリーズシナリオ


担当:BW

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:17 G 37 C

参加人数:12人

サポート参加人数:1人

冒険期間:02月18日〜03月01日

リプレイ公開日:2009年03月11日

●オープニング

 その日、チェルニヒフ中を一つの情報が飛び交った。
 それは誰もが覚悟していた事で、しかし願わくば、その時が訪れなければ良いと、そう願っていた。
「魔王軍、侵攻を開始しました!」
「‥‥ついに動いたか。皆の者、戦の用意は出来ておるな!!」
 これを受け、大公ヤコヴはすぐに兵達に指示を出す。騎士団の各所への配置、商人ギルドや各傭兵団への協力要請。そして‥‥。
「さて。冒険者か‥‥」
 状況を思えば、一人でも多くの戦力が欲しい。キエフの冒険者ギルドにも協力の要請を行おうという考えはある。
 ただ、その実力のほどを大公はまだ把握できずにいた。先日、能力の一端を見るべく魔王の軍への偵察を依頼した。しかし、残念ながら期待したような結果は無かった。噂ほどの知恵や実力があるのか、些か疑問があった。
「どうしたものか」
 悩み、ふと窓の外を見やった。
 城下。そこには、今だ他の土地へと逃げることなく、この街に留まり続けている民が大勢いる。このロシアでは、人が住める場所は限られている。チェルニヒフを出たところで行くあてなど無く、野で倒れるくらいなら、この街と心中する覚悟の者が大勢いるのだ。それでも、いざとなれば逃げ出したくなる者が出ないとも限らない。その時には、大きな混乱が起こるかもしれない。
 ふと、大公は先の依頼において、生存者の救出に全力を注いだ冒険者達もいたことを思い出す。
 助け出された村人達から敵軍の有力な情報を聞き出すことはかなわなかったが、次々に襲い来る悪魔達を退けた冒険者の武勇は興味深い内容であった。
 冒険者らは個性の強い者が多いとの噂もある。いきなり騎士団や傭兵団らと連携を組ませるには不安があったし、それならば魔王軍との戦の中心からは離れて、独自に動いてもらう方向で依頼をした方が良いかもしれない。
「やらせてみるか‥‥」

 その頃、キエフ南西の街にて。
 魔王アラストールの前に、イペスはいた。彼女の最近の役目は主に伝令であり、今も、侵攻を開始した部隊の動きを見た公国側がどう動き始めているかをアラストールへ報告しに訪れていた。
 その中で、イペスには気になることがあった。
『あの程度の戦力でよろしかったのですか? チェルニヒフを陥とすには、少しばかり‥‥』
『構わぬ。元より、それが目的ではない』
 実は、アラストールはまだ軍の本体を動かしてはいなかった。チェルニヒフへと向かった戦力は数にして千。かなりの数ではあるが、事前に調査したチェルニヒフの戦力を考えると、相手側の方が少し上である。攻め落とすことが目的ではないとすると‥‥。
『おお。では、やはり例の‥‥』
『我らが求める力にして、我らが恐れる力を秘めし物』
『すなわち冠が‥‥』
 暗闇のどこからか聞こえる声。それは、イペスやアラストールのものではない。周囲の、強き力を持つ高位の悪魔らのもの。それが期待に胸を躍らせ、しかしどこか恐怖するように、ざわめきだす。
『静まれ』
 魔王の一言。訪れる静寂。
『‥‥ではアラストール様。あの五人を向かわせたのは、やはり、秘密裏に冠を探させるために?』
『全てを滅すが我の望み。しかし、あれだけは滅ぼすことなく、この手にせねばならぬ』

 後日、冒険者ギルドに公国より依頼が届く。
 内容は、魔王軍と公国軍の戦における協力。その主な内容は後方での民の護衛、怪我人の治癒、緊急時の避難誘導など、との知らせであった。
「前線での仕事じゃないのか」
 誰かが不満そうに言った。とは言え、必要な仕事ではある。
 この時、冒険者達はまだ気づいていなかった。目に見える大きな戦いの影にこそ、本当の戦いが待ち受けていたことを。

●今回の参加者

 ea0042 デュラン・ハイアット(33歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea1274 ヤングヴラド・ツェペシュ(25歳・♂・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea4744 以心 伝助(34歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea9285 ミュール・マードリック(32歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9527 雨宮 零(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb0655 ラザフォード・サークレット(27歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb0882 シオン・アークライト(23歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb3529 フィーネ・オレアリス(25歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb5706 オリガ・アルトゥール(32歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb8664 尾上 彬(44歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ec0199 長渡 昴(32歳・♀・エル・レオン・人間・ジャパン)
 ec0569 ガルシア・マグナス(59歳・♂・テンプルナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

ロイ・ファクト(eb5887

●リプレイ本文

 日常が、突如として崩れる。
 かつての平穏な日々は遠く、喧騒が世界を包む。
 
 その日。街に着いたばかりの冒険者達の表情は暗く、デュラン・ハイアット(ea0042)は特に不機嫌だった。
「やれやれ。この私も随分と虚仮にされたものだ」
 彼がそうなった原因は、チェルニヒフに入ろうとした時、見張りの兵達に追い返されたフィーネ・オレアリス(eb3529)にあった。
 魔王軍の接近により、チェルニヒフは城の兵から各商会の傭兵団まで総出の厳戒態勢。そんなところに、フィーネが連れて来たペットは火の妖精が二匹。絆は深くとも知性は獣並で、うち一匹は発火の魔法を使う。
 これから火事の警戒に全力を挙げるべく知恵を絞っていたデュランからすれば、顔に泥を塗られたどころの話ではない。他の冒険者も心情は彼と似たようなものだ。
「仕方ありません。彼女のことは忘れて、今は目の前のことに集中しましょう」
 長渡昴(ec0199)が兵から聞いた道順を思い出しつつ、宿場町へと足を向ける。移動手段の高速化を行ったことで、両軍の衝突が予想される時間までに少し余裕がある。今のうちに出来ることを、と冒険者達はそれぞれに動き始める。

「では、余は西側へ行くのだ」
「うむ。自分は、東側から回ってみようと思う。では、後ほど」
 ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)とガルシア・マグナス(ec0569)は白と黒の宗派の違いこそあれど、ともにテンプルナイトという特別な地位を持つ。悪魔の企みを阻止するために、今こそ神の名の下、人々は手を取り合うべきだということで互いの意見は一致していた。二人はそれぞれの宗派に属する教会を回り、協力の要請を行った。なお、ガルシアにはシオン・アークライト(eb0882)が同行した。
 ロシアの国は、一般に黒派の信徒が多い。ここチェルニヒフも例に漏れず、街のほとんどの教会が黒の宗派だった。
「皆も知っての通り、この国は魔王という恐るべき脅威に曝されている。今こそ、我ら神の信徒が、試練に立ち向かう人々に手を伸ばすべきだ」
 ガルシア達は多くの教会を回り、炊き出しや治癒、慰労の面で協力の約束を取り付ける。商人らも交えたが、そちらは主にシオンが説得を担当し、各種物資の供給を依頼。それなりの成果を見せた。ただ、出来なかったことが二点。一つは、各教会に悪魔に効果のある聖水の供給を依頼したが、その手の魔力を持つ聖水は希少品であり、大きな教会でも一本あるかどうかという品。所持していた教会を見つけても、滅多なことでは使えないと提供を断られた。また、悪魔の魔法に対抗する術を持つ優れた人材を他所から呼び込むことが出来ないかと相談したが、そういった者達は既に何処かで何かの責任ある役割を担っている場合が多い故、どこからも良い返事は無かった。
 一方のヤングヴラドは、街に白の教会が少ないこともあり、すぐに要請を終えて、その後は不安に怯える人々の慰問に動く。若く凛々しい名高き騎士の存在に、街の人々は勇気づけられた。彼が宿場町に足を運ぶ頃には、仲間達の準備もだいぶ進んでいた。
「ご苦労様です。炊き出し用の食料はこちらに運んで下さい」
「毛布の数が全然足りないな。後でもう一度、零に外回りを頼むか」
 オリガ・アルトゥール(eb5706)やラザフォード・サークレット(eb0655)は、仲間の集めてきた物資の確認と整理に忙しそうだ。
 雨宮零(ea9527)は避難民の誘導に力を尽くし、長渡昴(ec0199)は天幕を張った後、街のあちこちから集めてきた薬や布を整理して、これからの戦いに備えていた。
「だいぶ集まってきましたね」
「街の規模に比べると、随分と少ない印象ですけどね。やはり、ほとんどの方は既に他の土地に逃げられたのでしょう」
 零と昴が周囲を見渡しつつ言葉を交わす。怪しい人物がいないかなども警戒しているが、それらしい者は見つけられない。

 時は夜に移る。
「いやはや。全く魔王のせいで、こちとら商売あがったりだ」
「こっちもだ。でも、苦労して貯めた金で、ようやく自分の店を持てたっていうのに、それを捨てて逃げるなんざ、俺には出来ねえ」
「そうかそうか。おめえらも言いたい事があったら、言っとけよ。何にもしてやれねぇが、愚痴くらいは聞いてやるよ」
 一部の商人から提供のあったエールを飲み交わしつつ、男達は愚痴を交わす。その中に、変装した以心伝助(ea4744)がいた。
(「う〜ん‥‥特に妙な噂とかは無いっすねぇ」)
 伝助は、内部から悪魔の使いとなった者が情報戦を仕掛けにくることを警戒した。時折、過度の不安から周囲を煽るような声が無かったわけでは無いが、純粋な苛立ちから欲求を吐いているだけで、わざと混乱を招こうとしているように見える者は無かった。ともあれ、民の不安を受け止め、早急に対処を試みるのは大きな混乱を予防するのに効果もあるだろう。彼らの心が少しでも軽くなればと、伝助は密かに交流を続けた。
「それでは奥様方。これで失礼。またお逢いしましょう」
 伝助が旦那方の話を聞く一方で、デュランは女性陣の会話に滑り込んでいた。何かあれば知らせて欲しいと顔を売り込むのと同時、火の元への用心を呼びかけて、火災対策に努力した。何気に外見上は品の良い男なので、彼は街の奥様方の間で、ちょっとした人気者になった。

 同じ頃。宿場町の隣にある歓楽街で、尾上彬(eb8664)は派手に動いた。賭場を回り、女に声をかけては金を撒き‥‥。
 歓楽街そのものは、さすがに戦の影響もあって人の姿は少ない。しかし、生死の決まる間際だからこそと、最後になるかもしれぬ一時の幸福を求めて、出歩く者達もいた。
 ‥‥故に、彬の狙いは外れた。
「ちっ。駄目か」
 彬の狙いは、派手に目立つことで街の裏稼業に携わる者達との接触を試みるというものだった。ただ、今回の彬のやり方は、迫る死の恐怖に自棄を起こした者のそれと思われがちで、また、残念ながら彼の繁華街知識や対異性話術などは、正直に言って素人の域を大きく出ない。相応の技術を要する行動だけに、知識が足りていないのだ。
 仕方なく、彬はそのまま街外れで待つミュール・マードリック(ea9285)のところへ向かう。
「どうだい、首尾は?」
「‥‥情報屋は、見つけた」
「さすが。で、どうだった?」
「商人や要人の中に、人手を集めている者は、いる‥‥が、怪しい者を絞れない。この状況下だ。自分の身や財を、守るためか‥‥密かに人を、集めている者は、多いらしい」
 訊ねる内容を誤ったかもしれないと、ミュールは息を吐いた。
「こっちの情報の売り先を知らせてくれって話は?」
「言ったが‥‥どうにもな」
 前回で冒険者達が得た魔王軍に関する情報は、その多くが既に公国軍や商会ギルドの兵に知らされていて、商売道具にならない。元より特秘するような重要な情報を得られていたわけでもないので、なおさらだった。
 彼らの行動は大きな成果を上げることなく終わってしまう。

 夜が明けて。
 冒険者らが予定の区域で避難所を整え終えた頃。遠くで公国軍と魔王軍の戦闘が開始される。
 剣や魔法が乱れ飛ぶ戦場から遠く。避難所もまたすぐに、一種の戦場に変わった。
「重傷者はこっちに!」
「急ぎの治癒魔法が必要な者は、神父さん達のところに回して下さい!!」
 昴や零の必死の声が響く。彼らも簡単な応急手当くらいは出来るが、大きな傷を受けた者への治療は難しい。優秀な治癒魔法の使い手が一人でもいれば、目の前を運ばれていった死者の何人かは救えただろうか。
「うぅ‥‥。もう嫌だ。俺達、みんな悪魔に殺されるんだ‥‥」
 凄惨な光景に、避難民の男から弱気な声が出る。
「‥‥そうかもしれない。しかし、兵士達は例え傷つき、剣が折れても諦めず、戦う力が無い者達を護る為に戦っているのだ。‥‥なれば、我らは勝利を信じ、今の自分達に出来る事をするべきではないかね?」
 ラザフォードの言葉。怯える男の肩の震えが止まった気がした。敢えて、顔は見ないでやる。
「大丈夫、もう怖くありませんから。私たちが守ってみせますから」
 オリガは怯える子供達を抱きしめ、温かな声をかける。負傷者と共に、戦場の様子は見えぬが戦いの経過が伝わってくる。情報によれば、公国軍が優勢だとの話だ。ただ、あくまで情報のみ。皆、いつ戦いが終わるかと不安で堪らなかった。

 丸一日が経過した。悪魔達は退却し、戦いは公国軍の勝利に終わる。
「何とか‥‥なりましたか‥‥」
 一日中、負傷者の対応に追われて、昴は心身ともに疲れ切っていた。
 だが、嫌な疲れではない。冒険者達が各所に協力を呼びかけ準備を進めた甲斐もあり、多くの負傷者を救うことが出来た。救えなかった命も多いが、自分達に出来るだけのことはした。それに悔いは無い。
「しかし‥‥こうも何も起きぬとは‥‥」
 デュランは安堵した一方で、内心、拍子抜けしていた。敵の規模を考えれば、今回の進軍は何かの陽動ではないかとの疑いが強かった。しかし、少なくとも彼らの警護していた避難所の周辺で、悪魔やその使いによる騒動は起きていない。
「ふはははは! 悪魔どもめ。余に恐れをなして逃げたのであるな!」
 ヤングヴラドが高笑いして言う。だが冗談ではなく、それは実際にありえる話だ。地位ある高名なテンプルナイトが広く教会に声をかけ、人々に神の救いを説いて回った。戦の始まる前から効果をあげたが、それ故に、こちらの存在が潜入した悪魔側に筒抜けであった可能性は否めない。
「抜けられたかねぇ。やっぱ、表だけ見てても駄目か」
 もっと多くの協力者を得られていれば‥‥と、彬は悔しがった。ただ、それに関して救護所に長くいたオリガや伝助はあることに気づいていた。
 ここには多くの避難民が集まっていたが、負傷して動けないわけでもなく、健全な働き手の男性も多い。こちらから指示をしたわけでもないが、負傷者の運搬や救護活動については、自主的に協力してくれる者も多くいた。広い街の全てを警備するのは冒険者達だけでは無理だったが、彼らと交渉し、誰かが上手く指揮をとるなどすれば、即席ではあるが、ちょっとした包囲網は張れたかもしれない。それでも、監視する場所をある程度絞る必要はあるだろうが‥‥。
「わあ、お兄さんすごーい!!」
「ふっ。この程度、私にとっては造作もないことだ」
 落着きを取り戻した避難所の一角で、ラザフォードは子供達に軽業を披露して見せていた。すっかり打ち解けた子供達に、ラザフォードはちょっとした質問をした。
「この街に、何か面白い昔話や宝物の伝承などはないかね?」
「う〜ん‥‥」
 子供達は頭を悩ませた。色々な昔話を聞かせてくれたが、このチェルニヒフを舞台としたものに関しては少なく、それらしい気になる話も出てこなかった。だが‥‥。
「でも、宝物ならあるかもしれないよ」
「何? どこにかね?」
「お城。だって、大公様ならきっと色んな宝を持ってるよ」
 深く考えない子供の素直な返答。
「‥‥いや、そうか」
 ありえる話だと、ラザフォードは思慮を巡らせた。ここチェルニヒフは商業の街。今回の戦での協力関係を見ても分かるように、大公と商人達は友好な関係を築いている。自然と、大公の元に商人達が各所の珍しいものを売り込んでいる可能性は高く、その中に『冠』に該当する品が存在していた可能性は高い。それでなくとも、大公ともなれば、先祖から受け継がれた家宝のようなものがあるかもしれない。
 交易の盛んなこともあって、宿場町の近くには門や港もあった。そこから城の方面に向かう道もあるが、戦の最中は、たまに冒険者の誰かが見に行く程度。元々、冒険者達は避難所の他は、どこを重点的に警備するかということには気を払っていなかった。とは言え、城そのものは兵達が守りについているはずだが‥‥。
「おい、聞いたか? 何か、戦のどさくさに紛れて城の方に潜入者がいたとか」
 噂が届いた頃には、犯人達は全員逃げた後だった。


「何ということだ‥‥。悪魔どもめ、やはりこれを狙っているのか‥‥」
 大公ヤコヴは、その手に一つの杖を持っていた。
「絶対に渡すわけにはいかぬ。この『キングスエナー』だけは‥‥」