●リプレイ本文
●近江の豚鬼退治1
大津の北にある前線基地とも言える旅籠で、松風さまと今回の冒険に出る8人は、お出かけ前の打ち合わせをしていた。
あと1刻(2時間)ほどで夜が明ける。
夜が明けたら攻撃に出発なのである。
「さて、まずはお茶とお茶菓子を用意させてもらった。それを食べながら話を聞いてもらいたい」
松風はそう言って静かに話を始めようとした。
「わぁ、素甘(すあま)だぁ。私初めて見るよぉ〜。ひょっとしておじさんいい人? 偉い人? お金持ち?」
リュミエール・ヴィラ(ea3115)が素甘を抱き抱えながら大喜びでそれを頬張っている。
そもそも素甘は庶民の手の届かない高級和菓子である。
「はっはっはっ、ワシは浪人の身の上じゃよ。金をもらって期間限定で一時的に雇われておるだけじゃて。ワシはこう見えてもかなりの高給取りなんじゃぞ?。いやいや、そんなことより、大事になお話を3つするからちゃんと聞いておくれ?」
お前は傭兵か!! っと言うツッコミを入れたく成るようなムードでも無いので取りあえずはあっさりと話を進めておこう。
「まずこれから我々が向かうのは、蓬莱山と言う沢山の豚鬼達が牛耳っている、とってもとっても怖い山なんじゃ。そして放っておくと、山の豚鬼達は村を襲ったりして、略奪をするんじゃ。だから定期的に山間の境界線で戦を仕掛け、数を減らすんじゃよ。山の奥には豚鬼が沢山沢山いるからね? 決して深追いしてはいけないよ?」
松風はそう言ってお茶をゆっくりと啜って、次の話をする。
「2つ目の注意点じゃが、武者鎧や大鎧を着た奴にだけは要注意じゃ。鎧を着込んどる奴は、歴戦の猛者の豚鬼や、豚鬼王と呼ばれる格段に強い奴が多い。ワシの部下も、何人も奴らの前に散っておる。決して手を出しては行かん、要注意の敵なのじゃ」
最後にまたお茶を啜りながら松風は付け加えた。
「そんなわけで豚鬼狩りでは、ワシが奴らに向かって音の鳴る矢‥‥鏑矢を放つ事にしている。この矢の飛んでいった先に敵がおるので、皆はそこに向かっていって敵を倒してほしいのじゃ。後方から指揮を取るのがワシの役目、豚鬼を倒すのがお主達の役目じゃからな。それと、会戦と休戦の時にはホラ貝を鳴らすゆえ、鳴らしたら戻ってきて下されや」
そう言って深々と頭を下げる松風。
気にしないで素甘を食べるリュミエール・ヴィラ。松風の分の素甘も貰えて上機嫌である。
●会戦
日の出と共に出発し、現地に着くまで一時間。
蓬莱山の麓で豚鬼達の様子を見る。
向こうもこちらの様子を窺っているようだ
「それでは、始めるかの‥‥」
松風が始まりの合図を上げようとする矢先に、敵陣に飛んでいこうとする者の姿‥‥ベェリー・ルルー(ea3610)である。
「これこれお嬢ちゃん。それ以上進むと矢が飛んでくるぞ? 暇ならほれ、これを力一杯吹いてくれんか?」
先行偵察を行うべく進むベェリー・ルルーを呼び止め、ホラ貝を渡す松風。
ホラ貝っと言ってもそれほど大きくなく、小振りでシフールにもギリギリ扱えそうものだ。
「‥‥え〜〜〜っと。それでは改めて」
ぶぉ〜〜〜。ぶぉ〜〜〜。
弱々しいながらも、ホラ貝の音が響き渡る。
それと同時に豚鬼達の陣営でも鬨(とき)の声が上がる。
それに負けじとホラ貝を吹き鳴らすベェリー・ルルー。
さらにそれに合わせて、豚鬼達は鬨の声を上げている。
‥‥5分ほどホラ貝を吹いてから、辞めないと相手も叫び続けることに気が付いた‥‥
「‥‥息が‥‥」
流石に疲れたのか、どっと汗を流すベェリー・ルルー。
秋月雨雀(ea2517)が小太刀を抜いて一歩前にでる。まだ矢の飛んでくる距離ではないが、(豚鬼の弓は長弓なので松風の鉄弓より射程が短い)取りあえず先頭に立って前にでる。
ジリジリと前に出る。時折飛んでくる矢が彼に突き刺さるが、巧み技を持って身体を半歩だけズラし、胴丸や羽織でそれをはじき飛ばす。
多少の痛みは有るようだが。
槌を持ち、豚鬼が駆け寄ってくる。そして一撃を放つ。
秋月雨雀はその一撃を小太刀で受け流し、切り裂きの一撃を持って豚鬼に攻撃をしかける。
肩から血を流し後方へと一目散に去っていく。
追撃しようとすると数発の矢が飛んでくる。
さらに棍棒を持った豚鬼達が木や岩の影から攻撃のチャンスを窺っている。
シャクティ・シッダールタ(ea5989)は困っていた。
事前に地元の猟師らを探し尋ね、戦いの舞台となる地勢を調べましょう。と考えていたのだが、危険干渉地域であるこの場所で猟師をやる物など、極端に少ない。いや、居ても既に豚鬼達の胃袋の中かもしれない。生きている猟師を発見出来なかったのである。
やむなく秋月雨雀様らと共に前線で戦いを行う事にした。
っと言っても二人しか前に出ているのはおらんが‥‥。
「さて、それではムリしない程度にがんまりますか」
数匹の豚鬼が彼女の前に踊り出す。
彼女の金棒が唸りを上げる。
一匹目の攻撃を受け止め。2匹目に唸りをあげて金棒を振り下ろす。
痛恨の一撃が豚鬼を襲う。
彼女の身長は2.4m。豚鬼の身長が2.0m。どっちが鬼だか分からない。
一匹の豚鬼の攻撃が彼女の脇腹を襲う。
褌姿で仁王立ち、微動だにせずにその豚鬼に手を伸ばす。
首に手をかけ一気に地面にたたきつける。
スープレックスの一撃で血を吐く豚鬼。
しかし多勢に無勢。二人では押し切れないのだろう。徐々に後方に交代してゆく。
そんな豚鬼の一匹に3本の矢が突き刺さる。
松風が同時に3本の矢を放ちその全てが一匹の豚鬼に突き刺さったのである。
「余りムリはしなさるな。適当に数を減らしてくれればそれで良い。一週間はこの山で戦う予定じゃ。へたに手傷を負って戦線離脱されても困る。奴らに人間は侮れぬと理解してもらうための戦いでも有るのだからのぅ」
年寄りとは思えない一撃に秋月雨雀もシャクティ・シッダールタも言葉を失った。
「さぁさぁおじぃさんは後ろで陣頭指揮を取って、前に出てはいけませんよ?」
桂照院花笛(ea7049)が松風をいたわって馬の手綱を引く。
実は前に出ては居ない。鉄弓の射程距離は200mある。有る意味反則くさい武器である。
「松風様、皆様を、わたくし達を信じて下さいまし」
桂照院花笛の言葉に松風はにっこり微笑む。
「美人さんにそう言われると嬉しいものじゃのう。信じておる。信じておろうよ。ウチの若い衆よりずっと立派に戦って下さっておる‥‥が、人数が3人程足り無くないかね?」
松風のがそう言って当たりをきょろきょろ見回す。
「3人ほど、裏に回って豚鬼達を追い落としてくると言って出かけました」
桂照院花笛がにっこり微笑む。
「山の裏‥‥かの? 歴戦クラスに当たらなければ良いのじゃが‥‥」
松風の心配をよそに彼ら三人は山の裏へと回り込んでいるのだった。
●オークロードとの一戦。
一方そのころ、月詠葵(ea0020)、加藤武政(ea0914)、太丹(eb0334)の三人は、豚鬼陣屋の後ろ側に回り込んでいた。
目の前には岩に腰掛けた大鎧を着た偉そうなオークが一匹。右手に棘槌(ラージハンマー)を持ってグルグル振り回している。
その左右には槍持ちの熊鬼が2匹。そして、何故かよぼよぼのおばぁちゃんが一人キセルでタバコを飲んでいた。
「きっとあの真ん中に居る奴が敵の大将ですよ。だって一番装備の良さそうな豚鬼なのです。(ふに)」
月詠葵の言葉に加藤武政と太丹が息をのむ。
「ぶひ? ぶひぶひぶひ」
大将らしき豚鬼が何かを語ると、槍持ちの熊鬼達がその場から離れる。
老婆もなにやらぶつぶつと言いながらその場を離れていく。
敵は大将ただ一人となった。
飛び込むのは今だ。
三人は一斉に茂みから飛び出し、大鎧を着た豚鬼へと飛びついていった。
おそらくコイツが奴らのボスであろう。
月詠葵が小太刀を使って3回攻撃を豚鬼に浴びせる。
豚鬼は微動だにせずに、手にしていた鎖鞭の一撃を月詠葵に与える。
その一撃が月詠葵をとらえ鈍い音がする。
っと同時にそれに合わせるようにして放たれたカウンターの一撃が豚鬼を襲う。
カウンター+ブラインドアタック+オフシフトの盛大な必殺技が豚鬼に炸裂する。
ガリガリと鎧の表面を小太刀の刃が流れる。
中傷に至るダメージを受け月詠葵が後方にはねのける。
そこへ一気に加藤武政の一撃が放たれた。
ポイントアタックEXで首を狙った一撃である。
だが、豚鬼はそれを紙一重で避け、
「鎧が邪魔なら壊せば良いじゃないですか!! 食らえ!牛角拳!!っす」
太丹が牛角拳を豚鬼の腹にたたき込む。
鎧を通して豚鬼にダメージが伝わって‥‥いない。鎧を破壊しなければ伝わらない技だが、鎧を破壊するに至らなかったのである。
「ぶも?」
横になぎ払う様な棘槌の一撃が太丹を襲う。
それによって横に吹き飛ばされる太丹。
「おのれ!!」
加藤武政がポイントアタックで再度豚鬼の鎧に覆われていない柔らかなポークの部分にねらいを定めた瞬間。彼の背中には2本の矢が突き刺さっていた。
「ひゃひゃひゃ。そちらは3人。こちらも3人。文句は有るまい?」
声のする方向を見ると、先ほどの老婆と弓を持った2匹の豚鬼が存在する。
どうやら声はこの老婆が、弓はこの豚鬼が放った物の様だ。
さらに追撃の一撃が月詠葵を襲う。
肋骨の数本が折れたのか、吹き飛ばされながら吐血する月詠葵。
土煙を上げながら後方へと吹き飛ばされる。
加藤武政は弓を構えたオークの元へと走っていく。
太丹が再度こぶしにオーラパワーを付けて殴りつける。
ずっしりとした手応え。脂肪と装甲に寄って攻撃が妨げられているのである。
「ぶも? ぶひ?」
太丹を棘槌が襲う。
太丹もまた月詠葵と同様に後方に吹き飛ばされる。
‥‥絶対絶命のピンチである‥‥
「ぶひ? ぶも?」
その時オークの鼻がひくひくと動く。月詠葵と太丹の鞄の方をなにやら漁っている。
豚鬼王はおいしそうな食料を見つけた。
どうやら人間の食べ物はご機嫌な様である。
その時、どこからともなく、ホラ貝の音が鳴った。
それと同時に豚鬼王が雄叫びを上げる。
「ぶも!! ぶも!! ぶも〜〜〜!!」
それに合わせて豚鬼兵士達も皆、鬨の声を上げる。
どうやら本日の戦いは終了したようである。
「命拾いしたのぅ、人間どもよ。それじゃ続きはまた明日の」
老婆がそう言って豚鬼王の保存食を受け取り、ほくほく顔で去っていく。
●そして。
「またホラ貝を吹けば良いんですか?」
ベェリー・ルルーが高らかにホラ貝を鳴らすと、豚鬼達は武器を納めて山の奥へと帰っていく。
「ホラ貝は会戦と停戦の合図じゃ。朝一番に鳴らして戦いを、夕方に鳴らして撤退を示すんじゃ。一応お互い暗黙の了解で、それ以後は朝までお休みと言うことになっとる」
そう言ってにっこり微笑む松風。
そんな彼らの元に、傷だらけに成りながら、月詠葵らが戻ってきたのは、それからまもなくの事であった。
「さて、晩飯までまだ間がある。この宿は傷や疲れによく聞く温泉が有りますからな。皆さんも入られるがよろしいですぞ」
松風様がそう言って温泉を案内する。
月詠葵達傷を負った一行はどうやら後から入るようだ。
シフール2人とシャクティ・シッダールタ、それに桂照院花笛が風呂に付き従う。
よく見ると女子供と老人しか見あたらない。
「これはこれは綺麗な娘さん達が一緒では緊張しますなぁ」
松風が褌を付けたままで風呂に入ろうとするところを、シャクティ・シッダールタが引き留める。
「いけません松風さま。温泉に入る時は全ての衣服を脱ぎ、手ぬぐいを湯船に付けてはいけないのです。これは温泉に入る常識なのですよ? 温泉教団で教わりました」
都会の常識なのか温泉教団の常識なのかは良く分からないが、彼女は褌を外して全裸でどぼんと温泉へと飛び込んでいる。
「あっ、かけ湯忘れた」
かけ湯とは温泉に入る前に身体を慣らすために浴びるお湯であるが‥‥まぁ彼女の知識ではこんな物なのかも知れない。
「温泉教団と言えば、謎の温泉教団が近江に引っ越してくるかも知れぬ‥‥っと観光奉行が言っておったな。温泉郷を作って観光名所にするとかなんとか」
湯を浴び温泉に入る松風。ちなみにここの旅籠は一般人は止まれないので温泉郷には成らない。
武家御用達温泉である。いや、保養所と言った方が良いのかも知れない。
昼間は傷ついた兵士が身体を癒すのに使っている。
「そーいえば、蒸し風呂では褌付けて入るし、蒸し風呂主流で育った人達には温泉もやっぱり褌付けて入っちゃうのかしらね?」
難問である。
この辺は一度温泉教団と話をした方が良いかも知れない。
まぁこのシナリオは温泉教団とは全く関係ないので何事も無かったかのような流す。
かくして彼らの長い長い一日は一日は終わった。
明日からまた6日間のオーク狩りの日々が始まる。
チョット大変かも知れないが、毎日お茶菓子とおいしい夕食と温泉が付いてくるのだ、良い経験値稼ぎと思ってがまんしよう。
●戦い終わって
一息ついて汗を流す。今回働きの良かった者には報償が配られている。
ベェリー・ルルーは何故かホラ貝(法螺貝)を頂くに至っている。