近江の豚鬼退治2

■シリーズシナリオ


担当:

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 57 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月01日〜06月09日

リプレイ公開日:2005年06月09日

●オープニング

●近江の3つの怪談
 近江には3つの怪談話がある。
 一つは月の無い夜に現れる屋台の蕎麦屋の食い逃げの幽霊の話。
 一つは雨の降る夜に船を襲うと言う巨大蟹の話。
 そして、最後の一つは蓬莱山に住むと言う伝説の鬼の話である。

 そしてその、蓬莱山の豚鬼を退治するために、新たな部隊が発足されようとしていた。

●鋼鉄山猫部隊(アイアン・リンクス)発足
「それでは、神楽坂紫苑。そなたを新たに発足される、鋼鉄山猫部隊隊長に任命する。人員、兵装、運用、全てそなたに任せる故、権利と予算の及ぶ範囲で好きにするがよい。また、松風率いる部隊を傘下に入れ、再編成し、人員装備を有効に利用するがよい」
 小谷城の一室にて、城主浅井長政より任命を受け、神楽坂紫苑は近江の豚鬼退治を取り仕切る最高責任者と成った。旧松風のひきいて居た部隊の人員装備を傘下に入れ、増員増予算で新設運用されるあらたな部隊である。
「‥‥良いか神楽坂紫苑。私は多くは望まぬ。今更、近江の豚鬼達を根絶やしに出来るとは思ってはおらぬ。‥‥っが。これ以上豚鬼の被害を大きくせぬ事を最優先とし、事に励むように」
 浅井長政様に命を受け、謹んでそれを受ける神楽坂紫苑。彼女も決して低い身分ではない。いや、近江の中では彼女の家柄は高い方だと言えるだろう。それでも今回の任務は大抜擢である。下手な町奉行と同格の絶対的な権限と、小さいながらも城を持つことを許されているのであるから。
「それでは、この神楽坂紫苑、謹んで承ります」
 そう言って、紫色の髪を左右で束ね(西洋風に言えばツインテール)。紫の着物を着た女武者。神楽坂紫苑(かぐらざか じおん)は深々と頭を下げた。

●坂下城にて
 比叡山の東に有る坂下城。蓬莱山の鬼達が大津まで南下しないための最後の砦であり、鋼鉄山猫部隊の居城として、西近江を管理するために与えられた城である。
「‥‥金子は有る‥‥武具はそろっておる‥‥部下も十分におる‥‥しかし、実戦経験の少ない兵ばかり。教育というか訓練度が必要じゃが、私も道場剣術、机上の論理じゃからのう‥‥」
 関係書類に目を通しながら神楽坂紫苑は、ほうっとため息をついた。
 彼女は三千石の旗本の跡取りである。
 それなりに剣術の腕も立つし、兵法も学んでいる。しかし、実戦経験が限りなく少ない事も自覚していた。
 そして、それを補うために、2人の異国人を城に招き入れ、鋼鉄山猫部隊に召し抱えていた。
「華国出身の武道家で、ニャオ・ファンと申します」
 ハーフエルフの武道家はそう言って深々と頭を下げた。黒字に金糸で刺繍を施した武道着が目を惹く。
「同じく華国出身の弓戦士で、ガン・サイと申します」
 ドワーフの戦士はそう言って深々と頭を下げた。初老で白い髪、白い髭、黒い冒険者服が目を惹く。
「ガン・サイには松風の使用していた鉄弓を貸し与えよう。浅井長政様拝領の弓である。大事に扱う様に。それと、2人には私の側近‥‥護衛をしてもらうことにする」
 紫苑の言葉に2人は深々と頭を下げた。
「さて、早速ではあるが冒険者の腕試しをしようと思う。その後に冒険者を引き連れ、蓬莱山の見物じゃな。マズ、味方の実力を計り、次に敵の実力を計ろうと思う」
 神楽坂紫苑はそう言って木刀を取り出した。
「親方様が自らなさらなくても、このニャオ・ファンがお勤め致しますが?」
 ニャオ・ファンはそう言って十手を両手に構えて見せた。
「ふむ、では、私が4人、そなたが4人、試験をすると言う事で行こう。冒険者に優劣を付ける訳ではないが、死傷者は出来るだけ少なく止めないからのぅ」
 そう言って紫苑は静かに微笑を浮かべた。
「(いや、どっちかというと親方様が怪我されたら困るんですが‥‥)」
 ニャオ・ファンはその一言を、グッと最後に飲み込んだ。

●蓬莱山守護鬼神・凱旋
 蓬莱山はその日、主(ぬし)の凱旋で活気だっていた。
 東方へ武者修行(?)に出ていた鐵が帰ってきたのだ。
「どうでした? 東方は?」
 留守を任されていたオークロード玉鋼が鐵に語りかける。
「板東武者は強かった。十分に楽しめた。お前こそ留守をご苦労」
 鐵はそう言って玉鋼の肩をポンと叩いた。
 オークロード鐵。彼の配下には6人のオークロード達が身を寄せている。
 彼らはその6鬼を、『6人の破壊四天王』と呼ぶ。
 だが、その全てが戦闘狂と言うわけではない。
 確かに彼らは人間を殺し、血肉を喰らい、好戦的ではあるが、全てのオークが戦闘狂と言う訳ではない。
 人間には沢山の欲望が有るように、オーク達にも沢山の欲望がある。
 食欲・性欲・支配欲・物欲・名声欲・そして戦いに興じる戦闘狂。
 有る者は美味い肉が食いたいから、有る者は良い女が抱きたいから、鐵の配下に収まっている。
 6人の中でも戦闘狂は、赤銅と青銅‥‥それに玉鋼を含む3鬼だけである。
 もっとも、その配下の豚鬼戦士や熊鬼闘士達の中には、戦闘狂な者も多く見られるが。
 鐵・玉鋼・青銅・赤銅・人間に最も恐怖を与えるのは彼らだ。
 逆に他の3鬼の王は、このオーク至上主義国家を維持するために10000人を越える人間達を従えて、国家の継続の為に力を注いでいる。
 労働力となる人間が居るからこそ、オーク達は飢えることなく裕福な暮らしをしていられるのである。
「そう言えば、板東武者との戦いでは、トドメを刺さぬ所か、瀕死の輩共を神社仏閣に見逃してやったとか、またお戯れが過ぎましょうぞ」
 赤銅がそう言って、酒の入った一斗瓶を持って鐵の元へと歩み寄る。
 赤い体毛に赤い大鎧。人は彼を赤銅‥‥ないしは赤銅王・赤銅鬼と呼ぶ。
 鐵は柄杓を手渡され、酒瓶から酒をすくい口へと運ぶ。
「屈辱は与えてきた。見所の有る奴も居た。奴らが力を付ければ、いずれ我を討伐にくるやもしれん。儂はそやつらを返り討ちにし、今よりもっと強くなろう」
 戦闘狂である。強くなるためにはなんでもする。彼の中には間違いなく鬼の血が流れているのだ。
「最強‥‥私はその名に憧れる。いずれ最強の名をこの手に入れて、鬼の王の称号さえも、手に入れたいものだな‥‥」
 オークロード鐵はそう言って自らの甘さと弱さに微笑を浮かべた。

●かくして
『近江の豚鬼退治に参加する冒険者の軽い腕試しと豚鬼討伐が行われます。我と思わん腕自慢のお人はふるってご参加下さい』
 京都冒険者ギルドに、そんな依頼がふいに舞い込んだ。

●今回の参加者

 ea0020 月詠 葵(21歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0196 コユキ・クロサワ(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea0585 山崎 剱紅狼(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3108 ティーゲル・スロウ(38歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3115 リュミエール・ヴィラ(20歳・♀・レンジャー・シフール・モンゴル王国)
 ea3610 ベェリー・ルルー(16歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea8616 百目鬼 女華姫(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea8820 デュランダル・アウローラ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●近江の豚鬼退治2
 近江の豚鬼退治の拠点坂下城。
 その坂下城の本丸御殿、『武家屋敷』。
 坂下城城主である神楽坂紫苑の住む屋敷であり、風呂や涼みやぐら等も完備されている。
 そして、武錬を行う屋内、野外、練武場も城内の敷地内、武家屋敷からさほど遠くない所に存在している。

 その日、神楽坂紫苑は2名の男性と共に室内練武場に足を運んでいた。
 一人は長身筋肉質。年の頃は20代後半と言ったところであろうか、筋肉質だが涼やかイメージを与える御仁。山崎剱紅狼(ea0585)
 もう一人は異国の猛者。白鷺の様な純白の髪、白魚の様な白い肌。サファイヤの様な澄んだ瞳の混血のエルフ。デュランダル・アウローラ(ea8820)
 山崎剱紅狼は両手に一本づつ木刀を構え、デュランダル・アウローラも一降りの木刀を構える。
 対するは紫の髪を左右で束ね、漆黒に着物に黒袴。銀糸の刺繍が栄える一人の女性。神楽坂紫苑。彼女は右手にひのきの棒を一本握りしめている。
 旗から見れば大人と子供の戦いである。
 山崎やデュランダルの身の丈は180を越える。だが紫苑の身長は130は越えるが140は無いだろう。圧倒的な体格の差が見て取れる。
「かまわぬよ。ぬしらの実力を知りたいと言ったのはわらわの方‥‥手加減は無用じゃ」
 そう言って紫苑は一歩前に踊りでた。
 素人剣術と言うわけではない。彼女はなかなかの剣の達人だ。
 だが、実戦で磨き上げられた錬磨は感じられない。
「それじゃまずは‥‥俺からいくぜ?」
 言って剱紅狼が前に出る。右手の左手の同時攻撃である。
 達人の領域の、さらに一歩先での攻防である。
 彼女は右手に握った檜の棒で剱紅狼の左手の攻撃を受け止めた。
 だが、それと同時に剱紅狼の右手の攻撃が彼女の身体に被弾する。
 稽古場の中に鈍い音が響く。
「左右同時の攻撃とは恐れ入る。これが実戦の中で身につけた冒険者の剣術という奴か」
 今度は紫苑が反撃を仕掛ける。
 だが、彼女の攻撃を剱紅狼は右手の木刀で受け止めた。
 そした2人は後方へと跳び間合いを開く。

「さて、今度は俺の番だな?」
 両手で木刀を握りしめ、一足飛びに間合いを詰め、紫苑へ振り下ろすデュランダル。
コナン流や示現流に見られる一撃必殺の技である。
 紫苑はそれをヒノキの棒で受け止めた‥‥が。
 デュランダルの一撃はそのヒノキの棒を一刀両断に叩ききった。
「ほう‥‥木刀でヒノキの棒を叩き斬る‥‥か。まさに剛剣。わらわには真似できぬ技であるな」
 紫苑はそう言って折れたヒノキの棒を後方に引き、突きの構えを取った。
「せっかくお二人が習得されておる技を見せてくれたのじゃ。わらわもそれに応えねば礼に恥じる。っと言っても、わらわが身につけておる技は‥‥これ一つじゃ」
 そう言って彼女は折れたヒノキの棒をデュランダルに向け突く。
 だが、デュランダルとの距離は1m以上離れてる。
 その距離を埋めるようにして、折れたヒノキの棒の先端から、渦巻く突風が生み出され、それは扇状に広がって、デュランダルに襲いかかる。
 無論折れたヒノキの棒ではダメージなど殆ど発生しない涼風の様な物であるが。
「神風ボンバー‥‥っとわらわは命名しておる」
 ソードボンバーの一撃を見て2人は軽く拍手をし、紫苑の礼に応えることにした。

●腕試し、ニャオ・ファン(鳥・迷)
 城内の野外練武場にて、ニャオ・ファンとの練武、テストを行う者達が集まっていた。
 マズ一人目の挑戦者は月詠葵(ea0020)。
 身長は低く、小太刀の使い手である。
 ニャオは彼に対して二刀十手で応戦する。
 月詠葵が抜刀術でニャオに襲いかかる。
 ニャオはそれを左手の十手で受け止めた。
 ニャオが今度は月詠葵にキックを放った。
 避けきれず、鈍く蹴りが横腹に被弾する。
 っと同時に月詠葵のカウンターが唸りを上げる。
 ブラインドアタックの混じったそれを。真剣な眼差しでニャオ・ファンが追う。
 そしてその一撃を右手に握りしめた十手で弾いた。
「なかなかやるねぇ。でもその攻撃力じゃ、肉厚の有る豚鬼は苦戦すると思うよ」
 ニャオはそう言って月詠葵との練武を終わらせた。

 続いてのお相手はコユキ・クロサワ(ea0196)。彼女はウィーザードである。
「あの、それでは、ニャオ様。ヨロシクお願いします」
 相手に畏怖を感じながらコユキが術を唱える。
 草むらの草がニャオの足にからみつく。
「ふむ。この攻撃はおそらく豚鬼にも有効だろう。現場を遠目で見てきたが、現地は鬱蒼とした山林だった。飛び道具で迎撃するには、遮蔽物が多すぎて上手くねらえないかも知れないが。草のツルなら有効かも知れない」
 ニャオ・ファンはそう言ってコユキの肩をポンポンっと叩いた。

「武芸者ではないが、ちょいと強敵を相手にしなくてはいけなくなった‥‥腕試しさせてもらうぞ」
 ティーゲル・スロウ(ea3108)がそう言って日本刀を構える。
「我流剣技、奥義!葬魔刀・絶!!」
 特攻。すさまじい特攻がニャオ・ファンを襲う。
 ニャオ・ファンはその正確な動きを見きり十手でそれを受け止めた。
 突進の勢いでニャオが後方に吹き飛ぶ。
「突進系の技なんですね。なかなか良い攻撃力だと思います。ですが、山林地帯では助走距離を稼ぐことは非常に困難だと思いますし、少々使い勝手が難しいかも知れませんね」

「アナタは何が出来るんだい?」
 3人の訓練を終えたニャオ・ファンにふとティーゲル・スロウが質問する。
彼女は十手で敵の攻撃を受け流し、軽くキックを撃ち込んでくるだけの戦法であった。
「私ですか? 蹴技なら一つ自慢できる物を習得していますが‥‥たいした物では無いですよ?」
 そう言って彼女はにっこり微笑んだ。

●ガンサイくんの暇な日常。
 お城のお庭でシフール2人。そしてガンサイくんはひなたぼっこをしながらどぶろく酒を呑んでいた。昼間から酒を飲める良いご身分らしい。
「儂の名はガンサイ。華国生まれの華国育ち、弓兵だ。ヨロシク」
 ガンサイはそう言って真っ赤な杯を差し出し、どぶろくを注いで進めた。
「リュミエール・ヴィラだよ。よろしく。お酒は大好きだよ」
 そう言ってリュミエール・ヴィラ(ea3115)は進められるままに酒を口に運んだ。
「初めまして、ベェリー・ルルーです。特技は精霊魔法月です」
 そう言ってベェリー・ルルー(ea3610)はいくつかの魔法を使って見せた。
「ほうほう、お嬢ちゃん達たいした物だ。特にそのファンタズムは使いように寄ってはとても重宝するまほうだな」
 そう言ってガンサイは魔法と言う者に一つの可能性を見いだしていた。
「例えばどんな使い方を?」
 ベェリー・ルルーが質問する。ガンサイは酒を呑みながら応える。
「例えばカーテンだ。煉瓦の壁や木の壁の幻影を作れば、弓矢で狙われにくくなるだろ? なんと言っても『幻影の向こう側は見えない』んだからなぁ」
 そう言ってガンサイはにんまり笑った。
 彼は弓使いである。おそらくそんな経験も有ったのだろう。
「あら、なんだか楽しそうね? あたしは百目鬼・女華姫(ドメキ・メガヒメ)よ〜」(ウィンク)
 百目鬼女華姫(ea8616)が三人の元に寄ってくる。忍者である彼女は今回の腕試しは辞退している。暇なのである。
「はっはっはっ、儂の名はガンサイ。初老の老人だがまだまだ枯れてはおらぬよ。まぁ儂の仕事はもっぱら狙撃術じゃから、皆さんと行動を共にすることは少ないと思うがの」
 そう言ってガンサイは漆黒の鉄弓を皆に見せた。
 浅井長政様ご拝領の、松風が愛用していたお下がりではあるが。名品である。

●夜半の出来事。
 その日の夕刻、冒険者達が食事をし、酒が振る舞われている席で、ティーゲル・スロウは神楽坂紫苑に呼び出され居た。山崎剱紅狼、デュランダル・アウローラも内密に呼び出されている。
「うむ。マズ、3人に至極重要な話があるの。我々武士と言う者は、武士道を重んじ、法や礼を大事にしている。そして、主君には忠を持って従う物なのだ」
 彼女はそう言ってほぅっとため息をついた。
「そして、大人はメンツと言う物を大切にする。特に地位の高い武士ほどそれを重んじるだろう。だから、本来なら近江の豚鬼退治は近江武士の手によって退治したい‥‥っと思っているものも少なからず居るのは確かだ。だが、会えて私はおまえたちを登用する。私は実力の有る物は誰で有れ、尊敬するからだ」
 そう言って彼女は待たしてもため息をついた。
「3人にはこれからガンサイの部下として、私の側近として働いてもらう。だがその前に襟を正してもらわねば成らぬ事が二つほどある」
 紫苑はそう言って言葉を続けた。
「ティーゲル・スロウ。何故そなた達冒険者は一人も私の元に挨拶に来ない? 私が依頼主であり、鋼鉄山猫隊の隊長で有ることは分かっているだろうに」
 彼女はもう一つ言葉を続けた。
「さらにもう一つは‥‥お主達は何か作戦を立てているな? だが、私はそんな話は一言も聞いていない。聞いていない以上おまえたちを含む全ての部下を動かす事は出来ない」
 彼女はそう言ってお茶をひとのみして、大きくため息をついた。
「そいつは気づかなかったな。てっきりベェリー・ルルーか、月詠葵当たりが報告していると思ったが‥‥」
 そう言ってからティーゲル・スロウは一つ疑問を感じた。
「だが、何故その話を俺に?」
 ティーゲルはそう言って紫苑に質問した。
「私はな、伊達や見栄えの為に隊長をしているのではない、これでも過去の実績や家柄を買われてこの席にいるのだよ。そう我が神楽坂家は近江では名門の家系。私も幼い頃より軍師としての、戦略や戦術と言う者を学んできている。そんな私だから言う。お前には軍師の才能がある。1つ1つ憶えていけば、京に名の知れる軍師と成るだろうと思ってね」
 神楽坂紫苑はそう言って静かに笑みを浮かべた。
「さて、おまえたちの考えた作戦と言う者を聞こうじゃないか」
 そう言って3人の言葉を聞く紫苑。まずは陽動部隊が敵を揺動し、それに対して攻撃部隊が攻撃を仕掛ける‥‥っと言う作戦である。
「その作戦は賛同しかねるな‥‥っというか、もしそれを行えば、おまえたちは全滅するぞ?」
 紫苑は冷たく言い放った。
「これはタダの戦闘ではない。小規模ながら戦と言い換えても良いだろう。その布陣ではマズ、法螺貝を吹く前に陽動部隊が敵の本陣深く入り、法螺貝を吹いて攻撃の合図を行うのだろう? その前に敵兵に四方を囲まれ、つつみうちに会うのがオチじゃ。もし攻撃部隊が敵の一方を倒したとしても、合流する前に陽動部隊は全滅。そして、陽動部隊を攻撃していた敵兵が一気に攻撃部隊へ流れ込み、攻撃部隊も数に押されて全滅するだろう」
 さらに紫苑は付け加えた。
「それに、法螺貝を吹かずに敵陣に入り込むのは、暗黙の了解を破ることになる。また、敵に襲われたときに法螺貝を吹く‥‥それは撤収の為の法螺貝を合図の為に使うと言うことであろう? それも暗黙の了解を破ることにはならぬかな?」
 紫苑の言葉にティーゲル・スロウが反論する。
「それはそうだが、敵は数が多い、何かしら作を論じなければ」
 その言葉に紫苑は応える。
「狩りに陽動部隊が全滅しない戦力なのであれば、切り離して使う意味はない。正面から突入しても十分に敵を倒せる戦力だと言うことになるのだからな」
 彼女はそう言ってにっこりと微笑んだ。
「こんな小娘の言葉では信用出来ぬか? 納得出来ぬか? 納得出来ぬなら納得せずとも良い。口やかましい雇い主だと恨んでくれても良い。本来ならおまえたちの言う通り作戦行動を行わせ、敵を倒させ、おまえたちには死んでもらう。その後に我らが本体が襲いかかる。それでも良いのだ。だが、私はおまえたちが気に入ってる。松風と共に戦った者も居ると聞く。故に私はおまえたちに生き延びてもらいたいと思っておる」

「さて、本来なら私の本当の実力と言うのも見せて、おまえたちの私に対する忠誠心を高めさせようかとも思ったのだが、もう夜も遅い。おまえたち三人には鋼鉄山猫隊隊員として正式に認める故、ガンサイの部下として、この城に自由に出入り出来る事を許可する。
筆頭同心同様の権限を有して折る故、多少の無理も出来るであろう。しばらくは城の敷地内で隊列や陣形の勉強でもしてくれると助かる。私もそなた達が忠誠を誓うに値する隊長になるように心がけるとしよう」

 宴会の夜もたけなわの時に4人は静かに言葉を交わし、杯を交わした。

 これから新しい戦いの始まりなのである。