●リプレイ本文
●【近江の豚鬼退治】5
降り積もる雪。積雪も4m超えるともはや壁である。
北近江は例年以上に雪が多く、どこが平地であったのか、どこが林であったのか、どこに川があったのかすら、分からぬ状況となっている。
大津‥‥坂下城とは異なり、城下町は活気に溢れている。
近江38万石。今日の都にも近く、交通の要所でもあるそこは、全てに置いて近江の中枢と居ても過言では無い場所に発展していた。
その、大津城下町を静かに見守る大津城。
その大津城のにて、今回の新年会はしめやかに行われた。
深々と頭を下げる面々。
町奉行と言う要職は、街で一番偉いことを表している。
「一同、大雪の中、遠路はるばるよう参った。坂下城が雪で使用が難儀ゆえ、宴会は大津城で開く、みな、今日一日はゆっくりと酒に料理にと楽しんで欲しい。‥‥また、今回の酒盛りは今年一年の豚鬼共達の為の計略の相談の場でもある。皆の意見を存分に聞かせてたもれ」
そう言って神楽坂紫苑が酒と料理を振る舞った。
近江の美味い米と美味い自ら作られた絶品の地酒‥‥琵琶湖から取れる魚や、取り寄せられた山海の珍味がお膳を豪華に並び立ててゆく。
先ずは毒味‥‥っと箸を伸ばした風間悠姫(ea0437)であったが、すっかり酒に溺れていた。
酒に頬を赤らめ、身体を火照らせ、着物を半分脱ぎ、上半身露わな状態で、お酌をするキジ肉を食うアリサに詰め寄る。
「この大雪だ。雪崩を作って敵を一網打尽にすると言うのはどうだ? 敵を引き付けている間に別働隊が上で火系統魔法を使って雪崩を起こすと言う物だ」
風間悠姫の言葉にアリサが静かに答える。
「我々は山の下。彼らは山の上だ。その気なら我々が先に埋められてしまうのではないか?」
アリサの言葉にふむふむと首を縦に振る風間悠姫。
では、先ず斥候を出そう。工作部隊はその後でも良いだろう。
その言葉を聞き、先ほどまで大徳利を3つ同時に飲み干していた山崎剱紅狼(ea0585)が意見する。
「ん〜物見を出すと言うのは賛成だ‥‥、そう言えばガンサイ殿、酒に酔った勢いで、敵陣に一人で攻め込んで戦死してみないかい?」
山崎剱紅狼の言葉にガンサイが笑って応える。
「老い先短い人生じゃ。それもかまわんが、あいにくと道が無い。敵陣にたどり着く前に雪に埋もれて春になってしまうわい」
ガンサイの言葉に山崎剱紅狼は苦笑する。
2人とも既に一斗は酒を飲み干している。
それは風間悠姫とて同じ事。
「アリサ、どちらがどれほど腕を上げているか勝負しようでは無いか?」
風間悠姫の言葉にアリサが苦笑する。
「分かった。少し酔いが冷めたら立ち会おう。負けた方が温泉で全員の背中を流すのだぞ?」
アリサの言葉に風間悠姫は揚々と首を縦に振る。
ティーゲル・スロウ(ea3108)が神楽坂紫苑のお酌を受け、それを返杯する。
「紫苑様。ご無沙汰しておりました。」
そう言って静かにお互い酒を交わす。
目で会話という物を交わす。
「おぬしが色々聞きたいのは分かって折る。相変わらずわらわと一緒で苦労性よな。何なりときくがよい」
神楽坂紫苑の言葉に質問をぶつけるティーゲル・スロウ
「では‥‥黒装束の正体はどうでしたでしょうか?」
その言葉を聞くと紫苑の表情が少し曇った。
「考えるに、彼らは豚鬼共に使える間者であろう。ここ、近江には甲賀の里がある。忍びの技も進化しておる。城下町の鍛冶屋などは忍者刀の銘刀を作り出せるほどにな。おそらく豚鬼共が金で雇い入れた間者か‥‥もしくは向こう側の人間であろう」
そこでティーゲル・スロウは沢山の人間達が豚鬼達の占領地に存在することを改めて自覚した。
「豚鬼死人憑きはあれ以来全く姿を見せて折らぬ。居なくなったのか、かくまっているのかは分からぬがな。我々が打って出る時期‥‥雪解けそうそうには攻め入りたいがそうも言ってられぬであろう。偵察部隊を出し、美味く情報を集めてからまた次の作戦を練ろうと思っている。」
最後にティーゲル・スロウが言葉を付け足す。
「部下達の教育は‥‥盾の配備は可能でしょうか?」
その言葉に紫苑が首を縦にふる。
「うむ。教育は進めて折るよ。弓の練度をあげ、あくまでも防御側の人間として教育しておる。冒険者がオフェンス、兵がディフェンスになるようにの。それと盾じゃが‥‥前に沢山用意してまとめて与えたと思ったのじゃが‥‥たりんかったか? まぁよい。湯を用意しておるゆえ、たらふく呑んで喰った後にはのんびり楽しもうぞ」
そう言って紫苑はティーゲルの背中をポンポンっと叩く。
「では、僭越ながらここで私も一句」
「雪化粧 すべてを包む その衣 はがれし素顔 鬼か人か」
一句を聞いて、笑みを浮かべる紫苑。そしてそれを返杯する。
「雪化粧 全てを隠す その衣 ひそめし素顔 鬼か魔物か」
自らを魔物といいはなつ豪快な一句であった。
「さて、真鯛の兜煮が出来ましたよぉ」
井伊貴政(ea8384)がそう言って紫苑に料理を出す。
先ず城主がハシを一つつけ、それから部下の皿に回される。
一つ間違うと首が飛ぶのだが、紫苑は余り気にしていなさそうだ。
「それに琵琶湖で取れた天然の鰻で櫃まぶしを、先ほど届いたばかりの大ガレイで刺身を作ってみました。ご賞味下さいませ」
井伊貴政が差し出す大皿におおむね箸をつけ、皆に料理を回す。
「良い腕をしておるの。ウチの台所奉行に欲しい逸材じゃのう」
そう言って紫苑が笑みを浮かべる。
「この後に猪鍋を用意して折ります。しかし、贅沢きわまりないお料理。まるでどこかのお大臣様と言った感じですね」
そう言って井伊貴政が神楽坂紫苑を褒め称える。
「猪鍋の用意が出来ました」
フィーナ・グリーン(eb2535)がそう言って井伊貴政の手伝いをする。
彼女もまた料理を手伝う為に、この依頼に参加したのである。
「作ってばかりでもなんじゃろう? お主達もくえくえ、料理はいくらでもあるのじゃからな」
そんな紫苑の言葉ににっこり微笑むフィーナ・グリーン。
「本当にお金持ちのお大臣様みたいですね〜」
彼らはまだ知らない。実質の紫苑が、近江で5指に入る権力者であることを、この時点では理解していない。
百目鬼女華姫(ea8616)がうら若き乙女に化けて酒の酌をし、舞を踊る。
蓬莱山まで偵察に出る予定が、大雪でそれさえもかなわない。
そのぶつける場の無いやる気を、女として披露している。
「彼女もここの生活が板に付いて来ました。そろそろ候補生は免除してもよろしいかと」
ティーゲルの言葉に紫苑が首を縦に振った。
デュランダル・アウローラ(ea8820)は鋼鉄山猫隊で一番の実力者である。
馬上において、彼の右に出る物は無いと言われている。
そして、見識に置いてもティーゲル・スロウに並ぶ見解を示している。
言葉を交わす一つ一つに、いかにコマを進めるかの大儀が盛り込まれている。
「4人の豚鬼の王に‥‥蛇女郎‥‥虎‥‥そしてわらわに深手を負わせた娘か‥‥、雑魚を何匹たおしても、奴らを何とかせぬ限りはなんとも成らぬか‥‥」
いかにして戦力を殺ぎ、こちらが優位に立つか‥‥それが今後の課題と成りそうだ。
黒畑丈治(eb0160)が話に加わり、4人が戦術の話を突き詰めて行く。
盾で弓を蹴散らし、敵のボスクラスを2対1で仕留める。それに白魔法の援護。
「ふむ‥‥わらわは風呂に入ることにしよう。雪見酒を楽しみながらの風呂も悪くはない。皆も一緒に湯を楽しまぬか?」
その言葉に幾人かの人は、大津城名物の温泉露天風呂へと足を運ぶことと成った。
「この鯛メシってのは美味っすね。ご飯お代わりっす」
太丹(eb0334)が一升メシを大きく平らげ、2つ目のお櫃に手を出している。
「死んだら美味しい物が食べられなくなるっすからね。みんな一生懸命話あって欲しいっす。自分は頭脳労働が仕事じゃ無いので、みんなの分も食べるっす」
超越の領域に到達した、ジャイアントの胃袋はおそろしい。
もはや限界と思われている場所は、まだまだ、半分にも満たぬ場所だったりするのである。
彼女たちが風呂から帰ってくるまでに、料理は残っていないかもしれない。
「宴に参加させていただいてありがとうございます」
クーリア・デルファ(eb2244)が神楽坂紫苑について風呂に入る。
心と体はいつでも14才。小さな身体に、すべすべのお肌‥‥。
身長140cmの小さな身体でちんまりと服を脱ぎ、湯殿に足を運ぶ。
本当に年が何歳なのだろう? っと謎に包まれた人物である。
「ふむ‥‥わらわは何より温泉が大好きでのう。坂下城にも大きな風呂をもっておるのじゃぞ‥‥。温泉の無い城はどうもいかん」
神楽坂紫苑がそう言って湯に浸かる。クーリア・デルファはそんな紫苑の肩を湯の中で揉む。
っと同時に神楽坂紫苑に金属盾を作ってみないかと進めていた。
「ジャパンでは、ソードよりブレードの方が主流なのだな。ニホントウと言うのにあたいは興味があってな。自分の手で作る事が今年の抱負なのだ。」
彼女は鍛冶に秀でている様である。
「おけがの方はもうよろしいのですか?」
南雲紫(eb2483)がそう言って神楽坂紫苑の身体を調べる。
小さなおむね。珠のような肌。傷痕一つ無い身体である。
「うむ、おおむね良好である。傷が完治するのを待って依頼を出した故、だいぶ間が空いてしもうたが、これからは積極的に以降と思う‥‥雪が泣ければの」
そう言って微笑する紫苑。
彼女は温いお燗をすいと差し出し南雲に進める。
彼女はハメを外さぬ程度に酒を嗜むことにした。
乃木坂雷電(eb2704)が静かに酒を傾けながら、考えていた。
風呂は混浴‥‥っというか紫苑の個人的な趣味のものである。
ついていけば女性陣と一緒に風呂に入ることになる。
しかし、ここにいても暇である。
そんな彼がふと、座敷の外を見ると、雪の中で2人の女性が剣を交えていた。
風間悠姫とアリサである。
負けた方が宴会参加者全員の背中を流すと言う罰ゲーム付きである。
アリサはヘビープレートとヘビーヘルム。それにヘビーシールドにクレイモアと言う出で立ちでずっしりと構えている。
風間は太刀「三条宗近」+0を抜き、静かに間合いを取っていた。
「いつでも良いぞ、なんなら私から仕掛けても良い」
そう言ってアリサは左手の盾を技と見えるように捨て、両手でクレイモアを握りしめた。
一瞬のすれ違いの攻防。
風間悠姫がアリサに対して一撃をたたき込む。
アリサは身体をよじり、鎧の最も固い部分でその攻撃を受け止め、カウンターの一撃で風間悠姫を吹き飛ばした。
手加減をしているのか、クレイモアの腹の部分での一撃である。
「さて、それでは我々も温泉をご相伴するとしますか」
男性陣が風呂に向かう中で、アリサと風間悠姫は手ぬぐい持ってそれを追いかけるのであった。
追伸:偵察部隊が必要と言う案は受け入れられ、独立して依頼が出されることが決定する。