近江の豚鬼退治4
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■シリーズシナリオ
担当:凪
対応レベル:7〜11lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 17 C
参加人数:9人
サポート参加人数:1人
冒険期間:10月17日〜10月27日
リプレイ公開日:2005年10月25日
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●オープニング
●近江の3つの怪談
近江には3つの怪談話がある。
一つは月の無い夜に現れる屋台の蕎麦屋の食い逃げの幽霊の話。
一つは雨の降る夜に船を襲うと言う巨大蟹の話。
そして、最後の一つは蓬莱山に住むと言う伝説の鬼の話である。
一つの伝説が二つ目を呼び、そして3つの伝説が、今新たな神話を作ろうとしている。
伝承。それは伝えられる真意。
伝説。それは伝えられる逸話。
神話。それは人知を越えた偉大なる話。
●血に飢えた豚鬼軍団の覇者!! 鋼の魔神・鐵!!
血に飢えた野獣の声がする。
大地を揺るがす雄叫びが聞こえる。
闇の中から打ち広がる声に、人々は恐怖の表情を隠せない。
唸るようにそれは人々を恐怖の底へと陥れる。
暗闇を引き連れて、奴らはやってくる。
蓬莱山に住む最強のオークロードを自負する鐵。
彼は6人の豚鬼王を従え、1000の豚鬼達を配下に納め、そして万の民の傘下におさめる。
鋼の魔神。オークロード鐵。
彼の配下の中に胃にそぐわぬ特異点だが、1つの力有る物が加わっていた。
傷つき倒れたオークを、その牙にかけ。
年老いたオークを、その牙にかけ。
既に戦えなくなったオークを、その牙にかけ。
10を越える豚鬼死人憑きを作り上げ、黄泉将軍『黒煙鬼(自称)』が蓬莱山を降り、近江の村々を襲っていた。
村々を襲い、人々を血に染め。その精気啜り、その数を徐々に増やしながら。
暗闇を引き連れて奴らはやってくる。
坂下城を攻めるため、戦線を徐々に南下させていた。
「待っていろ‥‥神楽坂紫苑。貴様に受けた同胞の痛み‥‥苦しみ‥‥貴様にも味合わせてやる。そして‥‥京に住む者達に‥‥昔年(せきねん)の怨みを‥‥」
闇の死人軍団はその牙を坂下城に向けていた。
●奴派手に決めろ!! 鋼鉄山猫隊!! (アイアンリンクス)
実は神楽坂紫苑は大津町奉行の任命を受けていた。
水浴び着コンテストの審査員やゲストキャラなんてやってる暇なんて本当は無いのだ。
しかし、彼女は戦場へと足を運ぶ。戦場での指揮が彼女の仕事だからである。
あくまでも現場仕事を大切にする彼女であるが、部下の間からは、出世したのだからお城から命令を出していてくれても良いのでは? っと言う声も上がっている。
それでも彼女は最前線で闘うだろう。
そして、彼女の精鋭の部下は彼女に付き従うだろう。
気高く強く、誇り高く。
傷つく事などおそれない。正義の刃を胸に秘め。
命の炎を燃やし、敵を討つ。
それが神楽坂紫苑であり、鋼鉄山猫部隊(アイアン・リンクス)なのである。
山猫の魂を胸に秘め、彼らは今日も蓬莱山の豚鬼達と熱き戦いを繰り広げている。
「ガン・サイ! 水平斉射!! ニャオ・ファンは隊列が乱れた所に! 私は‥‥正面から撃ち抜く!! 続け!! アリサ!!」
先兵とも言うべき数匹の豚鬼死人憑きが彼らを襲う。
風よりも早く、ガン・サイは同時に3本の矢を放ち敵を討つ。
3本の矢は3匹の豚鬼達に1本づつ同時に突き刺さる。
だが、敵はその歩みを止めない。
右の豚鬼に対して、ニャオ・ファンが疾風の如く間合いを詰める。
ニャオ・ジャオ・ジィ!! 彼女の持つ最大級の必殺技が敵に炸裂する。
左の豚鬼に対して、アリサがゆっくりとそして力強く突進する。
敵の攻撃を利用し、破壊力抜群のクレイモアでのカウンターの一撃が敵に突き刺さる。
「必殺!! 神風ボンバー!!」
中央の豚鬼に対して、神楽坂紫苑がオーラソードを突き立てる。
オーラソードを中心に発生する闘気流にを敵にたたき込む。
激戦に寄って彼らは敵を退けたが、敵はその数を減らしていない。
神楽坂紫苑は冒険者ギルドに、人員と人材を補充するべく伝令を飛ばした。
『冒険者の皆さんへ、坂下城は現在、謎のオーク達に攻められている。大至急援軍を求む。』
である。
●リプレイ本文
●序章
静かなる時。
静かなる場所。
静まりかえる空間の中に一人の男が立っていた。
男は黒ずくめの忍び装束だった。
男の名は『黒煙鬼(自称)』。忍び装束に身を包んでいるが、黄泉将軍である。
そして、彼に付き従う様にして、もう一人の忍び装束の男と、10を越える豚鬼死人憑きの影が月明かりに照らし出された。
蓬莱山の豚鬼達にはいくつかのルールがある。
それは猿の群れや、狼の群れ、ライオンの群れにそれが有るのと同様に、それを守る事が群れの掟であり、決まりなのである。
一つはリーダーに対しての絶対的な服従。
一つはリーダーの作ったルールに対しての絶対的な服従である。
この2つが守れない豚鬼達にも3つの選択肢がある。
1つは群れのリーダーを倒して、自らがリーダーに成ること。
2つ目は静かに群れを去ること。
そして、最後の3つ目は、リーダーの制裁を受けて死を受け入れることである。
1000を数える豚鬼達は蓬莱山の主・豚鬼王『鐵』に絶対服従することによって、蓬莱山に身を置くことを許されている。
だが、人間の世がそうであるように、オークの中にも群れの決まりを守れない者達も居る。
そんな『とが豚達』がしめやかに、黄泉将軍の手に渡され、生を抜かれ、豚鬼死人憑きへと変貌していた。その数は10を越える。
そして、もう一人の黒装束の男‥‥彼は『向こう側の住人』である。
蓬莱山の奥には一万を数える人間達が豚鬼達の支配下に置かれ、生きている。
しかし、全ての物が豚鬼達に服従を誓っている訳ではないが、豚鬼達に逆らった人間は、速やかに彼らの胃袋に納められている。
また、それと同時に『率先的に彼らに組みする者達』も存在する。
オークロード鐵に絶対的服従を近い、彼らの手足と成って働く人間達である。
豚鬼社会の中に地位を確立した人間達である。
今回、そんな彼らを『向こう側の住人』と呼ぶ物とする。
黄泉将軍『黒煙鬼』に付き従っている一人の黒装束はまさにそれである。
彼の仕事は『黒煙鬼』が裏切らない様にという監視と、『黒煙鬼』に知恵を授ける軍師としての大役を任された、鐵社会でそこそこ身分の高い位置に存在する人間である。
「ふん‥‥、山賊上がりを監視として付けるなど‥‥舐められた物よな。いや、それ以上に‥‥『山の掟で日没後は山を下りない事にしてるから部下は貸せない』っと言うのは、一体何を考えているのだ? あの豚鬼共は‥‥」
黒煙鬼がぽつり‥‥っと愚痴をこぼす。
時は真夜中‥‥、豚鬼死人憑きに村を襲わせ、自らの手によって、村人達の精気を喰らい、死人憑きを増やしていく。
食事と兵を増やす一石二鳥の攻撃をしながら、彼は静かにそうつぶやいた。
「彼はそう言う『遊び』が好きなんですよ。人間共を自分の遊び道具くらいに思ってる。強くなる事‥‥強い物を倒すこと‥‥そして戦う事をこよなく楽しんでいる‥‥。死も‥‥苦痛も‥‥それを楽しむための代償の一つでしかないとお考えなんですよ‥‥。蓬莱山の掟なんて、結局は人間と楽しく戦って殺す為のルールでしか有りませんからね」
彼はそう言ってにやりと微笑んだ。
年は30を越えているだろうか、黒装束に黒いひげ面の中年‥‥っと見て取れる。
「ふん‥‥山猿共が‥‥それで付けたのがこんな男一人とはな‥‥まぁよい、3日後に改めて坂下城を襲う‥‥それ時にはお前にも‥‥存分に働いて貰うぞ‥‥」
そう言って黒煙鬼は静かに微笑した。
●突撃
鋼鉄山猫隊の戦闘部隊は、一部の冒険者と隊長の神楽坂紫苑、そして4人の部下に寄って構成されている。
無論、他にも戦力と呼べる部下は居るのだが、それらを前線に投与して『死人憑きの仲間入り』されることを彼女は警戒したのである。
モンスター退治に不慣れな部下を使うより、餅は餅屋。冒険者上がりや現役冒険者を使った方が遙かに効率が良い‥‥っと彼女は考えている。
「先ずは黒煙鬼を斃さないとね、死人憑きが増えないように」
月詠葵(ea0020)は静かにつぶやいた。
時刻は深夜、場所は坂下城を抜けだし、豚鬼死人憑きを求めて戦場。
明かりを持てば道を照らすことは訳はないが、相手に気づかれる為無灯での移動中である。
「(敵はこの2km先の村を根城にして滞在している様子‥‥敵の数はおおよそ10〜20)罠や伏兵の様子はありません)」
闇から小さな声が聞こえる。それに首を縦に振る山崎剱紅狼(ea0585)。
今回は彼の発案で、情報収集に甲賀の忍を利用した。
彼らは手を出さず、情報収集にだけ力を入れている。
流石に神楽坂紫苑の目にかなうだけ有って、仕事に手抜かりはない。
冒険者全員が一丸に成って移動する。戦力の分散を防ぐためである。コレも冒険者達の発案だ。
「汝ら冒険者‥‥、オマエタチは魔物退治のプロフェッショナルだ。アレをしろ、コレをしろと、口うるさい事は言わぬ。じゃが、わらわが一つだけ命令を出すとするならば‥‥そう、『派手にやれ!』じゃ」
神楽坂紫苑に後押しされるようにして彼らは村に向かった。
村の入り口には2匹の豚鬼死人憑きが番の役割を果たしている。
「アグラベイション!」
コユキ・クロサワ(ea0196)の術が発動する。
村の入り口に居た豚鬼死人憑きの一匹に彼女は術をかけた。
実の所豚鬼死人憑きはそれほど強くはない。
もちろん普通の豚鬼と比べてである。並の人間では勝てるわけがない。
だが、彼らには豚一倍打たれず良いと言う能力がある。
死人だけに痛みも感じず、その巨大な身体は、多少の矢が刺さろうと、刀で斬られようと、槍が腹から背中まで貫通しようと元気なのである。
人間で作った死人憑きとは比べ物にならないとんでも無いタフネス(当社比)である。
一つ一つ倒して中に入ってはとてつもなく時間がかかる。
っが、無視して進むと退路を断たれる。
故に道を確保するために何人かを配置するのである。
「ここはボクが引き受けるのです。おねぇちゃんたちは中へ!」
右の豚鬼死人憑きをコユキとニャオファンが
左の豚鬼死人憑きを月詠葵が受け持つ。
「新しく憶えた必殺技も試したいですしね」
チィィィィン。
鍔なりの音が聞こえる。
っと同時に豚鬼死人憑きの胴体に水平に刀傷が入る。
ブラインドアタックにシュライクとポイントアタックEXとカウンターアタックを合成した超デンジャラスな必殺技である。
斉藤一の使っている合成と全く変わらぬ、後の先の一撃が豚鬼死人憑きの胴を襲った。
だが、その一撃では胴薙ぎに真っ二つにするには至らなかった。それでも有効打を与えていることには変わりないが。
「動けない敵を襲うのは、不本意ですが!」
月詠葵に触発されるかのようにしてニャオももう一匹の豚鬼死人憑きに見えぬ蹴りをたたき込んでいた。
「今日ぉ〜の、オイラは戦中〜。明日も、きっと戦中ぅ〜っとくら〜」
山崎剱紅狼を戦闘に6人の冒険者達が中に入って行く。
そして、それに対して6匹の豚鬼死人憑き達が立ちはだかる。
「ここは私が時間を稼ぎましょう。皆さんは黄泉人を倒してきてください。
島津影虎(ea3210)が忍者刀を抜き8匹の敵の前に躍り出る。
倒す必要はない。彼らが敵を倒して戻ってくるまで時間を稼げば良いのである。
「ならば、あたしもお手伝いするわね? コレが終わったら美味しいおにぎりをつくってあるから、みんな無事に戻ってくるのよ?」
百目鬼女華姫(ea8616)がそう言って敵の前に立ちふさがる。
「みんな‥‥スマン」
風間悠姫(ea0437)が言葉を一つ残して行く。
4人はさらに奥へと進んでいった。
●決戦
一軒の家の前に4人はたどり着く。
家の中からただならぬ気配を感じる。庭の方からだ。
4人は庭に回り、それを確認することにした。
庭先には一人の美しい娘が立っていた。この村の長者の娘の様である。
しかし、彼女一人が廃墟と化した村に生き残っているというのはどう考えてもおかしい。
っとすると‥‥考えられることは‥‥一つである。
「死人は死人らしく、土にかえるっす!」
右手の槍にオーラパワーを付与し、左手の盾を構える太丹(eb0334)。
娘はそれを見て不敵な笑みを浮かべた。
「ふん。4人とは舐められた物ね。そんな物で私が倒せるとでも思っているのかしら?」
娘がそう言う。それが堰を切った様にして詠唱に入る物が居る。黒畑丈治(eb0160)である。
そしてその詠唱の声に合わせるようにして、風間悠姫と山崎剱紅狼が切り込みをかける。
2人合わせて同時に4発の攻撃が入る。そして追い打ちをかけるようにしてホーリーの一撃と槍の一撃が入る。
突然に重傷を負い、愕然とする黄泉将軍。
もっと優位に、格好良く。人間達をこてんぱんに倒して、頃合いを見て逃げ出す予定で有った彼の目算は大きく崩れた。
自らの能力を使い、傷の再生を図る黄泉将軍。
だが、それと同時に、冒険者達の一斉攻撃が再度降り注ぐ。
黄泉人の中でも格段に強い黄泉将軍が、京都決戦であれほど驚異として名をとどろかせた黄泉将軍が、たった4人の冒険者の、30秒にも満たない時間の間に粉砕された。
『無念』の言葉を残す事も無く、彼は死んだことすら気づかぬまま、この世を去った。
「怖いねぇ。怖い怖い」
どこからともなく声がする。
黒畑丈治が目線をあげる。
家の上に一人の忍びがこちらを窺っていた。
「私は無益な殺生は好みません。だが、無益な殺生をする者には容赦しない!」
彼はそう言って、忍びに対してもホーリーを撃ち込む。
「おっと、その言葉には否定も肯定も出来ませんな。俺の任務は彼を逃がし、冒険者達をここ(近江)に出来る限り足止めすることだったんだが‥‥任務は果たせそうにありませんなぁ」
棒読みのセリフを吐く忍び。
「お前は降りてきて、戦わないのか?」
風間悠姫がそれを挑発する。だが、彼は少しだけ首をかしげてから答える。
「申し訳ない。‥‥そいつが殺されたら、後のことは気にせず帰ってこいって命令なんでねぇ。なんのおかまいも出来なくて心苦しいのですが、さっして下さい」
彼はそう言ってにやにやと笑いながら大爆発を起こし、姿をくらます。
4人はそれを‥‥ただそれをあっけにとられて見ていた。
●静かなる物
ベェリー・ルルー(ea3610)は村はずれで静かに様子を見ていた。
忍びに繋ぎをとり、伝令としてがんばっていた彼女であったが、もし、虎と蛇女郎が現れたなら、それらを説得するために待機していたのである。
だが、東の空が静かに明らむ。
琵琶湖の向こうから太陽が昇り始めたのである。
「今回は来なかった‥‥のかな?」
彼女が合流の為にその場を立ち去ろうとするとき、草むらの中に何かが居る気配を感じた。
彼女はテレパシーの魔法を唱えると、それに対して会話を試みた。
「ポチ? ミケ?」
言葉に反応してそれは草むらから姿を現した。
残念ながらポチでもミケでもない。一匹のオークである。
しかも生だ。
身の丈は2mほど。漆黒の大鎧と武者兜に身を包み、両手用の斧を持って現れたそれは、外見は昔会った玉鋼によく似ている。
「玉鋼‥‥さん?」
ベェリー・ルルーがオークに質問すると、彼は静かに首を横に振って答えた。
「あいにくと俺は玉鋼ではない。人は私を鐵と‥‥呼ぶ」
その言葉にベェリー・ルルーの表情に、幾ばくかの緊張感が生まれる。
「本当なら‥‥この時間にここで‥‥客人を迎える予定だったが‥‥どうやら仕事をしくじったらしいな‥‥」
そう言って、大きく息をつく鐵。
「あっ‥‥あの‥‥」
何かを話しかけようとするが、あまりに突然の登場で有ったために、彼女は言葉を用意していなかった。しどろもどろに何かをしゃべろうとするベェリー・ルルー。
「親の仇か? それとも兄弟や親友‥‥知人の仇か? なんにせよ、俺の命を狙うのなら、相手をしてやってもいいが‥‥お前丸腰だろう? 何か武器は持ち合わせていないのか?」
鐵の言葉に首を横に振るベェリー・ルルー。
「そうか‥‥なら立ち合いは次の機会で良いだろう‥‥俺の命が欲しければ、蓬莱山に来ればいい。俺の前まで来ることが出来たなら、その時はいくらでも相手をしてやろう」
鐵はそう言って微笑すると、静かに朝日の中に消えていった。