【新撰組三番隊 番外編1−1】

■シリーズシナリオ


担当:

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 64 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月01日〜05月08日

リプレイ公開日:2005年05月09日

●オープニング

●夜の蕎麦屋
 京都左京区、区外地域の一軒の酒場。
 日も落ちて、提灯の明かりに誘われるようにして、人々が店に入って酒を呑む。
 京の酒は甘いと言うが、一杯引っかけてヒモノをつつき、一杯引っかけて蕎麦を食う。
 そんな人々が寄り添う、一軒の酒場で、酔っぱらいが少々難儀に暴れていた。
「なにぃもういっぺん言ってみろ!! 俺達は天下の志士様だぞ? その俺達から金を取ろうと言うのか?」
 一人の男が店の主人にくってかかる。身なりからして侍‥‥もしくは志士、3人連れの様である。
「そう言われましても‥‥お武家様。私どもは、これにておまんまを食っているのでございます。払ってもらわなければ困ります‥‥」
 そう言って店の主人は、ビクビクしながら3人のお武家達に代金を要求する。
「それなら二度と飯を食わなくても言いように、その首叩っき斬ってやろう。表にでろ!!」
 そう言って、酔った勢いで武家は刀を抜く。店の中の客達も、流石にそれには驚いて、各々店の外に悲鳴を上げて飛び出して行く。
「お武家さま、ご勘弁下さい。ひらにひらに‥‥」
 そう言って土下座をする店の店主、だが武家達は刀を納める気は無いらしい。
「ならぬ、外に出ないと言うのなら、今ここでその首たたき落としてくれる!!」
 そう言って刀を振り上げてるお武家様。
「刀を納めなさい。大人げない。天下の志士が食い逃げをしようと言うのですか!!」
 一人の娘が武家にくってかかる。
 三人の武家の視線が、娘にそそがれた。胸をどんと張った娘では有るが、足がガクガク震えている。
「その娘さんの言うとおりだ‥‥。天下の志士様が、食い逃げなんてみっともないですよ‥‥」
 騒ぎの中で、一人だけ逃げなかった、黒い着流しを着た浪人風の男が、ざるそばをズルズルと啜りながら、武家達の方も見ないで意見する。
「何だと!! 小娘!! 浪人!! まずはお前達から叩斬ってくれる。表に出ろ!!」
 そう言って刀の切っ先を、浪人に向ける志士。
 浪人は蕎麦を飲み込むと、ほぅっとため息を一つ付いてから店の外に出て行く。3人の志士たちもそれを追うように、表へと出て行った。

●火花散る鋼と鋼
「よくぞ逃げなかったな。褒めてやろう!」
 刀を振り回していた志士の一人が、そう言って、浪人風の男に斬りかかった。
 浪人風の男は半歩だけ身体をズラし、志士の刀を左肩で受けると、目にも止まらぬ早さで刀を抜き、右胴払いのカウンターの一撃で切り捨てた。
「なっなっ‥‥」
 一人が地面に倒れ込むのを見て、他の二人が刀の抜く。
「カウンター使いが、お前だけだとは思うなよ!」
 そう言って男は、刀を身構え、カウンターアタックの構えを取った。
 浪人風の男は刀を右手から左手に持ち替えた。どうやら左利きの様である。
「ふぅ‥‥」
 ため息一つ付いて、男は一足飛びに待ちかまえる志士の懐に飛び込んだ。
 そして閃光一閃刀を振り上げる。
 志士の男の右腕が切り落とされ、空に舞ったのはその瞬間であった。
 腕を切り落とされた男は、声にならない悲鳴をあげる。
「なっ‥‥俺達は天下の志士様だぞ? なぜ俺達に刀を向ける!! お前にどんな得が有ると言うのだ!!」
 最後に残った一人が、そう言って叫き散らす。
「‥‥優しい誰かを守るために‥‥。悪・即・斬という、己が正義を貫くために‥‥」
 そう言って、一足飛びに間合いを積めると、左片手平突きの一撃が、志士の土手っ腹に突き刺さる。
「急所は外してある。急いで寺に駆け込み治療してもらえば‥‥まぁ死なんだろう。‥‥その腕‥‥くっつくかもしれんぞ?」
 そう言って浪人風の男は刀を引き抜くと、一降りして血を払い、左手で器用に左腰の鞘に刀を収めた。
「貴様、このままではすまぬぞ‥‥名を名乗れ!!」
 腹を刺された男は、血を流して地面に倒れている男を背負い、腕を切り落とされた男は、自分の腕を拾って逃げる準備をしていた。捨てぜりふである。
「新撰組三番隊組長、斉藤一。次に会うときは手加減は無用だな?」
 そう言って男は店の中に入っていった。
 三人の志士の顔が真っ青になる。
 見ていた町人達の顔まで青い。
「店先を汚してすまんな‥‥」
 そう言ってもと居た席に戻る斉藤。しかし蕎麦はすっかりのびきっている。
「‥‥やれやれ‥‥。蕎麦が伸びでしまったじゃないか‥‥」
 仕方がないなと言った感じで、伸びきったざる蕎麦を静かに啜りこむ斉藤一。

●そして‥‥
 彼が、冒険者ギルドを訪ねたのは、次の日の昼過ぎの事であった。
「これはこれは。新撰組のお方が、どのようなご用件で?」
 男の言葉に、斉藤は自らの財布から金を取り出し、依頼を申し込んだ。
「左京区区外地域の夜回りをお願いしたい。三番隊の方でやっても良いんだが、人手が足りなくてな‥‥。それに、壬生狼がうろうろしてたら、売り上げを落としかねん。出来る限り隠密裏に‥‥警備を頼む」
 こうして、冒険者ギルドに一つの依頼が発生した。
『なるべく目立たないように左京区区外地域の夜回りを一週間する』である‥‥。

●今回の参加者

 ea1765 猛省 鬼姫(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea2246 幽桜 哀音(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea3207 ウェントス・ヴェルサージュ(36歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea4138 グリューネ・リーネスフィール(30歳・♀・神聖騎士・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea5480 水葉 さくら(25歳・♀・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea6945 灰原 鬼流(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7278 架神 ひじり(36歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8428 雪守 明(29歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea8545 ウィルマ・ハートマン(31歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 eb0712 陸堂 明士郎(37歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●京都とは
 京都とは南北約5.2km程、東西約4.5km程の長方形の形をした区画整備された街である。
 街には縦横に碁盤の目の様に整備された道が整備されており、その道幅に寄って大路、小路などと呼ばれている。
 中央を縦に走る巨大な朱雀大路を基準に、東半分を左京、西半分を右京と呼ぶ。(地図で言うと右が左京で左が右京)
 ちなみに朱雀大路の道幅は85m近くあるので、その整備の力の入り方が伺える。
 東側の左京は外の地域まで街が広がっており、中央に鴨川が流れている。
 西側の右京は桂川の湿地で沼沢が多く、現在は寂れた状態と成っている。

 この左京の碁盤の外まで栄えた部分を新撰組3番隊では左京区区外地域と呼んでいる。
 今回の依頼は、この左京区区外地域の夜回りである。
(新撰組3番隊以外ではこの様には呼ばれていません。ご注意ください)

 実はとても広大な地域なのである。
 区画整備されていない場所に、適当に家を建て、適当に道を引いているので、かなり入り組んだ適当な作りをしている。

「それでは今回集まった10名の皆様。斉藤に成り代わり一つヨロシクお願い申し上げます」
 一人の名も無き新撰組3番隊平隊士見習いの一人が、皆にそう言って挨拶をすると3つの提灯と拍子木を渡してくれた。これで一週間夜回りをせよと言うことなのだろう。
「斉藤の方も手が空いたら覗きに来るとは言っておりましたが、なにぶん多忙な身。そしてこの広大な土地です。運良く会えましたらヨロシクお願い致します」
 名も無き平隊士見習いは礼儀正しく挨拶をするとその場を後にした。

●巡回1
 水葉さくら(ea5480)は提灯を片手に静かに他の二人と夜回りをしていた。
 拍子木は鳴らさない。忍び足で静かに気配を消して夜回りをする。
 光とは何かにぶつかって初めて物を照らし出す。
 提灯を持つことで昼間の様に明るくなる訳ではないが、建物と足下を照らし出す程度の効果はある。っと自分たちが不審者に間違われない為の予防策である。
 音は立てないが一応に明かりを持って移動してる。
 ‥‥暗闇から何かが水葉さくらの肩をポンっと叩く。
 3人とも足音は立てていない。もし何者かが近づけば音で分かる筈なのだが。
 肩を叩いた何かも全く音を立てずに近づいてきていた。
「ひあっ‥‥」
 巫女姿の水葉さくらが、小さな悲鳴を上げる。彼女の横を、音も立てずにウェントス・ヴェルサージュ(ea3207)が動く。右手には刀を左手には盾を装備している。
 達人の領域に達している彼の剣を避けることは非常に難しい。
 だが、未確認人物は彼の振り下ろした刀を、自らの刀で受け止めた。
「まて、まてまてまて‥‥」
 静かに、声を殺して、彼は叫んだ。
 背の高い、やせた狼という印象を受ける男である。
 やや後方から二人を見ていた灰原鬼流(ea6945)が一気に間合いを積める。
 腹部に一撃入れ、スタンアタックを発動させようとした彼の拳を、男は黙って左手で受け止めた。
「お前ら少しは落ち着いたらどうなんだ?」
 男はそう言って、半歩後ろに退いて右手の刀を鞘に納める。
「あの‥‥ひょっとして‥‥斉藤様‥‥ですか?」
 水葉さくらに言われて、はた二人も刀と拳を引く。
「貴方が斉藤一さんですか?」
 灰原鬼流が男に質問する。男は静かに首を縦に振った。
「何で分かった? 水葉?」
 ウェントス・ヴェルサージュが水葉さくらに質問する。何故斉藤と見破ったのかと。
「二人の攻撃を‥‥退けた‥‥から」
 彼女はそう言って斉藤の方を見つめた。
「身分を証明する物はあいにくと持ち合わせていないが、私が今回の依頼者の斉藤一で有ることに間違いは無い」
 黒い着流しに黒い袴。腰には2本差しの日本刀。
 だらりと長い髪を後ろで束ねただけの髪型。鋭く細いつり目。話には聞いていたが‥‥見るのは初めてである。
「巡回の方が順調か見に来たんだが、まさかいきなり攻撃されるとは思わなかった。‥‥やれやれ、雇い主が雇われ冒険者に斬られたんじゃしゃれに成らんな‥‥」
 彼はそう言って頭をぽりぽりとかいた。
「どうして‥‥私たちだと?」
 逆に斉藤はどうして彼らが依頼を受けた冒険者だと分かったのか、水葉さくらは斉藤にそれを質問した。
 斉藤は彼女の持つ提灯を指さしながら答える。
「その提灯はウチの若いのに頼んで持たせた物だ。そいつを持っていたんで分かったと言う訳だ‥‥」
 斉藤はそう言って水葉さくらの肩を抱き寄せ、背中をポンポンっと叩いた。
「あの新撰組と共に仕事ができるとは嬉しいものだね。俺は『蒼眼の修羅』、ウェントス・ヴェルサージュだ。宜しく頼む」
 ウェントス・ヴェルサージュが通り名を付けて自らをアピール(自己紹介)する。
「新撰組三番隊組長の斉藤一だ。依頼の期間中はヨロシク頼む」
 斉藤は静かに佇みながらそれに答えた。
「さて、それじゃ俺は仕事の合間を抜けてきたんで、戻らせてもらうが‥‥夜回りの方がヨロシク頼む‥‥くれぐれも無理はしないようにな」
 彼はそう言って、また音も立てずに闇の中に消えていった。

●巡回2
 深夜の酒場、酒を片手に仕事帰りの若い衆が一杯引っかけていく提灯酒場。
 酒が入ればいざこざの一つも起こる物。喧嘩もそのもめ事の一つである。
 提灯片手に、グリューネ・リーネスフィール(ea4138)が酔いつぶれた酔っぱらいを照らし出す。
「こんばんは‥‥どうか‥‥したの‥‥?」
 幽桜哀音(ea2246)が酔っぱらいに語りかけた。
 どうやら酔いつぶれてここでうたた寝していたらしい。
 彼女に起こされて、酔っぱらいはトボトボとまた家路につく。一件落着だ。
 だが、陸堂明士郎(eb0712)は大きくため息をついた。
 別に酔っぱらいの介抱が嫌いと言うわけではない。
 困っている人を助けるのがイヤという訳ではない。
 ただ、もっと派手な大捕物を期待していた彼にとっては少々期待はずれであった。
 おそらくグリューネ・リーネスフィールや幽桜哀音も同意見だろう。
「浮かない顔してるね。おねぇちゃん達、こっちに来て一緒に飲まない?」
 実際には女性三人ではないが、暗がりなのでそう見えたのだろう。
 酔っぱらいの一人がグリューネ・リーネスフィールに千鳥足で近づいてくる。
「余り飲み過ぎませんように。そろそろお家に帰られてはいかがですか?」
 余り流ちょうではない日本語で、グリューネが酔っぱらいに語りかける。
「そう言わねぇでさ。一緒に飲もうぜ?」
 酔っぱらいがそう言って彼女の腰に手を回す。
 そんな酔っぱらいの目の前で陸堂明士郎は刀を抜いて、酔っぱらいを黙らせた。
「ふぅ、今日は雑用だけで終わりそうだな」
 陸堂明士郎がぼやくなか、一人の怪しい人物が彼の前に近づいてくる。
 旅装束の女性
 顔には天狗の面を着けている。
 明かりは持たず、その手には弓が握られている。
 怪しい‥‥っと良く見たら、同じ冒険者のウィルマ・ハートマン(ea8545)であった。
「ちょっとまて、それ怪しすぎだ。せめて明かりくらい持ったらどうなんだ?」
 陸堂明士郎の言葉にウィルマ・ハートマンは静かに弓を見せた。
 両手がふさがっているから持てないと言うことなのだろう。
 陸堂明士郎は大きくため息をついた。

●巡回3
 東の空が白み始める。
 夜通し彼らは夜回りをしたことになる。そろそろ引き上げ時であろう。
「思ったほどじゃぁ無かったな?」
 猛省鬼姫(ea1765)が雪守明(ea8428)に語りかける。
 雪守明は静かに首を縦に振った。彼女はそうは言うが全身に力が入りまくっている。

 ゾクリ!!
 猛省鬼姫の背中をふるえが走る。
 猛省鬼姫のお尻を何かが触れる。いや、触れると言うより撫でられている。
 彼女は拳を作り、振り向きざまに力一杯の裏拳を放つ。
 ゴス!!
 鈍い音と強烈な手応えと共に、お尻を触っていた浪人風の男が吹き飛ばされる。
 黒い着物、月代(さかやき)は無く、ただぶっきらぼうに伸ばした髪の毛を後ろで束ねている。細いつり目の鋭い眼光‥‥。
「斉藤殿‥‥か?」
 架神ひじり(ea7278)がそう言って浪人に話しかける。
 拳を振り上げる猛省鬼姫から逃げるように、架神ひじりの後方、背中に隠れる斉藤一。
彼女の身体を抱きしめるようにして、猛省鬼姫との間の盾にする。
 後ろから回された両の腕は、架神ひじりの胸を包み込むように抱きしめている。
「軽い挨拶のつもりだったんだが‥‥」
 架神ひじり肩越しに話す斉藤一
 ちなみに架神ひじりの身長は180cmを越える。斉藤はそれよりも5〜8cmほど低い。
 猛省鬼姫も同様に180cm程である。
「これが‥‥斉藤一?」
 雪守明が斉藤一を見て、目をぱちくりさせる。
 そして腰の刀を抜く
「あんたが本物なら、私の剣を受けられる筈だ。もし偽物なら、世間を騒がす不逞の輩として、そなたを斬る!!」
 そう言って間合いをジリジリと離していく雪守明。
「ほれ、斉藤どの? いつまでもわしの胸にしがみついておらんで、期待に応えてやったらどうじゃ? 無論おぬしが本物だったらじゃが」
 架神ひじりの言葉に、渋々と胸の手を離し、対峙する斉藤一。腰の刀を抜き左手に持ち替え、ゆらりと静かに平突きの構えをとる。

「チェストー!!」
 一足飛びに間合いを積める雪守明。チャージングの一撃を斉藤一に放つ。
斉藤はそれを左手の刀で受け止め、カウンターアタックの一撃で、右手の掌底(しょうてい)を彼女の胸へと放つ。いや、掌底と言うよりも彼女の胸を鷲掴みである。
 雪守明が受け止められた刀と鷲掴みにされた胸とを交互に見て目をぱちくりさせる。
「それまで‥‥って事で良いんじゃね? しかしとことん胸や尻を触る奴だな」
 猛省鬼姫がそう言って呆れた顔で斉藤を見つめる。
 雪守明も刀を鞘に収めじっと斉藤を見つめる。
「まぁそのなんだ‥‥色々俺に聞きたいことが有りそうだから‥‥取りあえず湯屋にでも行かないか? 実はこの先に行きつけの温泉宿があるんだ。この時間なら混浴に成るが貸し切りだぞ?」
 斉藤がそう言って3人を風呂へ誘う。
「いきなり初対面の年頃の娘を3人も風呂に誘うのはどうかと思わんか?」
 架神ひじりがそう言って斉藤に語りかける。
 斉藤はそんな彼女に静かに答える。
「そうか、残念だな。風呂に入りながら飲む甘酒と、風呂上がりに喰うその店の白玉ぜんざいが、また格別に美味いんだがなぁ」
 そう言って斉藤も左手で器用に左腰の鞘に刀を収める。
「ふむ!? まぁそう言うことなら仕方有るまい。同じ刀を持つ者同士、腹を割って話すには、やっぱり裸のつきあいが一番じゃからな。ささ、参ろう参ろう」
 架神ひじりがそう言って斉藤一の背中を押す。
 3人は斉藤と共に風呂屋に行くことになる。

●湯屋にて
 なし崩しに、3人は斉藤一と風呂に入ることになった。
 風呂屋はこの時間空いていないのだが、斉藤の友人と言うことで特別に入れて貰えることに成った。
 檜で出来た湯船に入る4人。無論全員裸である。武器は携帯しては居ない。
「意を汲んでもらってすまないな。一応俺は表の顔も有れば、裏の顔もある。人通りの有る場所では話せない様な事もある。それで人目を忍べるこんな場所に移動してもらったわけだが‥‥」
 斉藤はそう言って手ぬぐいで汗を拭った。
 温泉の縁に背中をもたれかけ、3人の方を見つめる。
「手癖‥‥女癖が悪いのは、表の方かの?」
 架神ひじりが斉藤に質問する。
「‥‥そうだ。酒好きの女好き。酒癖が悪く、女癖も手癖も悪い。それは俺の表の顔だ。もっとも、半分は地なんだが‥‥」
 斉藤がそう言って目線を流す。多少目のやり場に困る状況である。
「俺の尻なんか触って楽しいのか?」
 そんな斉藤を、猛省鬼姫がジッと見つめながらつぶやく。
 彼女の身体はかなり引き締まっており、筋肉質である。
 しかも斉藤よりも背が高い。そんな娘のお尻を触って楽しいのだろうか?。
 そう思いながら斉藤をジッと見つめる。怖いもの知らずな彼女だから出来る、芸当である。
 斉藤はそんな彼女と目線を合わせないように、薄ら笑いをしながら目線を流している。
「わしは先に上がって白玉ぜんざいを堪能してくる。斉藤殿はお二人とお楽しみあれ」
 架神ひじりがそう言っていそいそと脱衣場へと歩いて行く。
「お楽しみあれって言われてもなぁ‥‥。取りあえず背中でも流してやろうか?」
 右手に手ぬぐいを持って、斉藤が雪守明に語りかける。
 その言葉を聞いて、雪守明が頬を赤らめる。っと言うか耳まで真っ赤になる。
「俺が洗ってやろうか?」
 猛省鬼姫が斉藤の持っていた手ぬぐいを取り上げ、斉藤をイスに座らせる。
 そして斉藤の背中をお湯で洗い流す。
(この時代のジャパンには石けんは存在しない。むくろじゅがあるが、殆ど広まっていない。主に垢擦りやヘチマ、手ぬぐいなどで身体を擦ってお湯で流す)
「こんな美人さんに背中を流して貰えるとは嬉しいね。ウチの隊にもこういう娘が居るとありがたいんだがねぇ」
 斉藤はそう言って微笑を浮かべた。
「左京区区外地域の見まわりは、今後も続けていく予定だ。これに懲りずに、また次の募集の時に来てくれれば、会うこともあるだろう。その時には、美味い蕎麦屋でも紹介するよ」
 そう言うと斉藤は微笑を浮かべ、今度は猛省鬼姫の背中を流してやるのだった。

●そして‥‥
「私を新撰組に入れて貰えませんか?」
 ウェントス・ヴェルサージュが斉藤一に入隊を希望した。
「3番隊にか?」
 斉藤の質問に彼は静かにうなずく。
「何でウチなんだ? 10番隊とか2番隊とか、他にいくらでも格好いい隊は有るだろうに‥‥」
 そう言って斉藤は静かに考える。
「よし、それなら3番隊仮隊士見習いって事にしておこう。俺に認められるような事を3つ出来たら見習いは外してやろう」
 そう言って斉藤は彼の肩をポンポンと叩いた。