●リプレイ本文
●【近江の豚鬼退治 別働隊1−1】
進むあてどない荒野でも、勇気の炎で明かりをかざせば、道は確かにそこにある。
近江。京都に最も近い賑わいだ国。(大阪と良い勝負)
近江。平織虎長の直轄地にして、最も力を持った国。
そんな近江について、予備知識として一通り説明しよう。
そうすれば、何故このような作戦が取られたのか、ご理解頂けると思う。
近江は、琵琶湖の回りの対岸にドーナツ状にその領地が存在する。
その回りの対岸に大小様々な港町が存在し、船での移動が可能である。
近江は交通の要所であり、天下の米所でもある。
琵琶湖は海とは異なり、その波は穏やかである。
おかげで比較的小舟でも、荷物の運搬や渡し船としての移動が可能である。
特に琵琶湖は常に北から風が吹いているため、帆掛け船での移動が行いやすい。
無論、風を味方に出来ない若者は、船を転覆させることも後を絶たないが。
琵琶湖のおかげで流通は思いのほか楽であり、また琵琶湖のおかげで南近江は天下の米所として名を知らしめている。
近江は大きく分けると3つの特色を持っている。
琵琶湖の南側の南近江は交通の要所として、また天下の米所として大きく大発展をしている。
特に大きな街と城が3つもある。
琵琶湖の北東に位置する長浜港、小谷城と小谷の城下町。
琵琶湖の南東に位置する近江八幡港、安土桃山城と安土の城下町。
琵琶湖の南西に位置する大津港、大津城と大津の城下町である。
逆に琵琶湖の西側から北側におおきな港は一つもない未開の土地である。
特に西側に続く4つの山。比叡山。蓬莱山。比良山。阿修羅山は、決して人が踏み込んでは成らない鬼や天狗が住む山として唄われてきました。
故に近江は、その4つの山脈がある西側を避けるようにして発展して行ったのです。
近江は尾張に近く、平織虎長直轄してして、大変栄えた国である。
特に御家老の浅井長政は若輩なれど、光る政治的手腕と才能の持ち主で、安土城の金蔵には、千両箱が唸るほど積み上げられているともっぱらの噂である。
もし万が一、京都で何か起これば、平織諸藩で最大規模の近江は、京都に最も近い最も力を持った国となるだろう。
先の大戦でも、3000騎の精鋭兵を挙げたのは、他ならぬ近江なのだ。
そんな近江の国を長い間悩ませてきたのが、冬の大雪、夏の海賊、そして蓬莱山の鬼達である。
今までの近江の方針では、出来るだけそれらには触れないようにし、必要最低限の予算で『これ以上被害が拡大しないように据え置きにする』っと言う方針が取られてきた。
だが、ここに来て、『出来ることなら予算を余りかけずに、被害を縮小したい』っと言う方向に変わってきた様だ。
「まぁそうな訳で長い前振りをぶった切ってご挨拶。今回皆さんに同行することに成りましたガンサイと申します。以後お見知りおき下さい。」
大津城主神楽坂紫苑直属の3人の1人、ガンサイは深々と頭を下げた。
元々はモンゴルだか華国だかの生まれで、その弓の腕を見込まれて、近江の鋼鉄山猫隊に所属している。
鋼鉄山猫隊は豚鬼退治のエキスパート達を集めた対豚鬼精鋭部隊である。
「ワシは弓以外なんの取り柄もないただの年寄りドワーフじゃけん、出来る限り皆さんの足を引っ張らないようにがんばらさせて頂きます。」
案外頭の低いガンサイ。
彼が用意したのはやや大きめの丸子船。15人は乗れる特別な輸送船だ。
夜の闇に紛れて静かに出航する。
深夜やや大きめの漁村港らしき物を発見する。
地図には載っていない。
「アレは一体何だろうか?」
風羽真(ea0270)が暗闇の中で目をこらす。
水温は4度にほど近い。‥‥寒い。
しかし、明かりを付けると目立つために、無灯火での船移動である。
「地図に載ってないって事は豚鬼の住む港なんじゃないかな?」
ミネア・ウェルロッド(ea4591)がそう言って酒を口に運ぶ。
寒いときには酒に限る。身体が温まるしなかなか高カロリーだからだ。
「予想外の展開だ‥‥な。ダレも居ない雪山を探索するのかと思っていた。‥‥が、アレは人間の漁村らしい。船が人間サイズだ。もう少し寄せて貰えれば分かるかも知れない‥‥が」
レイ・ファラン(ea5225)が目を凝らして漁村を窺う。
それほど規模の大きな物ではない。
小さな小舟が何隻か有るだけである。
それでも桟橋などが作られているのは謎であるが。
「‥‥寄せてみましょう。何か分かるかも知れない」
ベアータ・レジーネス(eb1422)がブレスセンサーを唱えて静かに桟橋に近付く。
呼吸を感じるのは一つ。明かりも一つ。
目をこらしてジッとそれを確認する。
提灯の明かりに一人の老人が夜釣りを行っているようだが‥‥はてさて。
黒畑丈治(eb0160)が防寒着姿で岸へと上がる。
老人はそんな我々に気がついたのかゆっくりとこちらに近付いてきた。
「いらっしゃいお客人。行商人かね? それとも罪人かね?」
老人の言葉に一同は少し困惑した。
「どういう意味ですかご老人?」
黒畑丈治が質問すると老人は静かに答えた。
「ここは陸の孤島さね。雪と森と豚鬼達に支配され、船だけが出入り出来る小さな漁村さね。せやから時折船で行商人が物を売りに来る。それ以外の船は大抵は京都や近江で悪さして、居られなく成った罪人達が逃げ込むタメに来るんじゃ。‥‥そのどっちでも無いとしたら、お前さん達は珍しい客人じゃな」
そう言って老人は一同+馬を見て少々驚いた様子を見せた。
「ここは‥‥豚鬼の支配地なのですか? ご老人?」
長寿院文淳(eb0711)が質問すると老人は静かに答える。
「そうじゃよ?。雪が積もると豚鬼達も殆ど来やせんけど、そう言う事になるんじゃろうのう? っと言っても豚鬼が支配し取るわけじゃない。わしゃらは村を豚鬼に襲われん様に年貢をしはらっとるだけじゃ。豚鬼共の扱いは村長様が相手にしてるでウチらは殆ど見たことがねぇだ」
老人はそう言って酒を片手にまた釣りを始めた。
老人の話ではこうである。
この辺は豚鬼達が支配する場所ではあるが、豚鬼等は殆ど来ない。
取れた魚を豚鬼に納め、代わりに村に襲ってこないようにしているだけなのだと。
また、近江から罪を成して逃げてくる物も時折くる。
彼らは漁村から離れ、近くの村や山で畑を耕したり、豚鬼の陣営に加わったりしてるのだとか。
漁村の人数は分からなかったが、見て取れる家の数は20程だろうか。
合掌造りの家々が雪に埋もれているのが分かる。
一同は村はずれにある空き家の一軒に陣を構えることにした。
「家が有って大正解ですね。これで雪の中で野宿しなくて住む‥‥っと言っても余り変わらないような気もしますけど」
山本佳澄(eb1528)がそう言って窓の外を指さした。
積雪3〜5mと言うのはすばらしい。
人間がすっぽり埋まって十二分におつりが来る‥‥ジャイアントでも生き埋めに成る量の雪である。
それが村の中にもどっさり、村の外にもさらにどっさりと雪が積もっているのである。
隣村に行くとかそう言う事が全く出来ない環境なのである。
ネフィリム・フィルス(eb3503)が野営を行う。
ぐるりと回って建物を見つめる。
合掌造りの家はとにかくでかい。天井も高い。雪に家が押しつぶされない設計なのである。
次に村の方向を見つめる。
ひょっとしたらよそ者が来たと言うことで村人達が押し寄せてくる‥‥なんて事も考えたが、静かな物だ反応は少ない。
「少し考えた‥‥」
彼女は独り言を言い始めた。
スコップ片手に上の回りの雪を少しかき分けつつ彼女は語る。
「何故‥‥彼らはこんなへんぴな‥‥漁村で生活しているのか‥‥何故、豚鬼達から逃げないのか‥‥その気になれば船でいつでも逃げ出せるのに‥‥」
彼女はそう言って言葉を続ける。
「変わらないからだ‥‥人間に支配されるのも、豚鬼に支配されるのも‥‥な。年貢さえ払っていれば殺されないと言うのなら‥‥どっちも同じ、同じならわざわざリスクを払って村を捨てることもない‥‥っと言うことなのだろうか?」
彼女は独り言を言いながら、森の方を見つめる。そこにはガンサイの姿があった。
彼は毛皮に身を包み、わらの靴を履き、建物の回りに罠が無いか見て回っていた。
完全に消せない彼の気配を感じ取って彼女は独り言をつぶやいていた。
たき火は暖かい。
北風が吹雪く外の体感温度は軽く−10度近くまで下がっている。
それに比べて隙間風はややあるものの、家の中は囲炉裏の炎でとても暖かい。
もっとも、その薪は事前に彼らが持ち込んだ物だ。コレが無ければ凍死していたかも知れない。
「野営を立てて、火を絶やさないようにしましょう。明日からは回りの村人に悟られないように少し港の回りの山や村を探索してみましょう。
風羽真がそう言いつつ、探索記録に文字を書き込んで行く。
新港発見‥‥っと
●二日目
船には帰って貰い、荷物を持って空き家を後にして山へ
こうすることで彼らは帰ったのだと村人に思って貰うため。
ザックザックと雪を掘る。
スコップ片手に雪を掘る。
掘ると言うよりは崩れないように固める作業。踏み固めながら道無き道を進む。
山歩きでは道に沿って歩くより、高低差を気にして歩く。同じ高さを出来るだけ歩く。
地図を完全に無視しながら北西へ。
この当時の絵地図では高低差など書いていないのである。
ミネア・ウェルロッドが力一杯スコップで地面を叩く。
コロネとクロワッサンがそれをお手伝いする。
猫と犬が雪の上を転がり回っているダケに見えるのだが、それはそれ。
なんとも微笑ましい光景である。
レイ・ファランがそんな彼女を見て何か言いたそうだ。
雪山では余り運動してはいけない。暖かくなるけど汗をかく。
汗が蒸発するとまたからだが冷えるからである。
「おや‥‥こんな所に人間が居るなんて珍しい。」
どこからともなく声がする。
黒畑丈治が声のスル方向を見つめると、そこには人間の女性の姿があった。
艶やかで雅やかな着物を着込んだ絶世の美女。花魁姿の娘である。
それは何事もないように雪の上に立っている。
まだ踏み固められていない3m程の雪の上にまるで鳥の羽の様な軽さで立っているのである。
「お前は‥‥鬼か?」
黒畑丈治が質問する。美女は静かに考え答える。
「鬼‥‥かな? 一応こっちでは九月鬼と名乗っております。どうぞお見知りおきを‥‥」
そう言って着物の裾を持って、西洋の女性がこうべを垂れるようにしてお辞儀をした。
「‥‥あれ? 呼吸してます?」
ベアータ・レジーネスが美女に対してブレスセンサーを試みたが、息反応がない。
「申し訳ありません。息をするのをすっかり忘れておりましたわ♪」
彼女はそう言ってにっこり微笑んだ。
豪華な作りの扇子をパタパタさせながら、静かに冒険者達を見つめた。
山本佳澄がライトニングソードを握り、ライトニングアーマーをかける。
いつ襲ってきても良いようにジリジリと間合いを詰めていく。
だが、相手は雪の上、上手く攻撃を仕掛けるのは難しい。
「‥‥デビル‥‥なのか?」
ネフィリム・フィルスがレジストデビルの術を唱える。
それを見て九月鬼がにっこり微笑む。
「そうですねぇジャパン以外の国ではそう呼ばれることも有ります」
そんな彼女にティールの剣+1を構えジリジリと間合いを詰めるネフィリム・フィルス。
神聖騎士は対デビルのエキスパートだ。
「あらあら、確かにそれならば私を倒すことが出来るかも知れません。しかし私には奥の手があります」
そう言って彼女は雪の玉と作って投げてきた。
「えいえい! どんなに強くても手の届かない敵は倒せないでしょう!」
そう言って雪玉を投げてくる九月鬼。そんな彼女に対してみんなも雪玉を投げつける。
「きゃ〜一時撤退」
すいすいと雪の上を歩いていく九月鬼。それを必死で追いかける一同。
彼女は雪山の斜面の途中の雪の塊の上にとどまった。
「つ‥‥疲れた‥‥」
ぜぇぜぇ息を切らせる九月鬼。
追いつめた‥‥っと思った瞬間。実は追いつめられていた。
「いけ! カニッパーアタック!」
雪の塊かと思われていた物は、身の丈3mの巨大なカニが雪を被った姿だった。
突然雪崩の様な雪に襲われ、埋まっていく一同。
「あ〜ごめんなさいやりすぎちゃったかしら‥‥」
生き埋めに成っている人達に手を伸ばす九月鬼。
「ありがとう‥‥ひょっとしたら貴方はいい人?」
ミネア・ウェルロッドが九月鬼に質問する。
「‥‥残念、凄く悪い子です」
九月鬼の術が発動する。
そのとたんにミネア・ウェルロッドの身体は子猫の姿に変わってしまった。
今まで着ていた防寒着が雪の上に脱ぎ散らかる。
ミミクリーではない。ミミクリーなら身体の大きさが変わるはずは無いのだ。
見知らぬ魔法の力によって、彼女は子猫の姿に変わってしまったのである。
「彼女が猫質よ! 彼女を人間の姿に戻したければおとなしく‥‥こら、暴れるな〜」
子猫に引っかかれて手を離す九月鬼。猫の姿ですたすた逃げるミネア・ウェルロッド。
「アレはアレで凄く楽しそうなんじゃないのか?」
レイ・ファランが突っ込みを入れるが九月鬼はすまし顔である。
「じょ‥‥状況は変わってないわ! 彼女を人間の姿に戻したかったら私の言うことを聞くのよ!」
詰め寄る九月鬼に対して汗をかく一同。
そこに突然現れる一匹のツバメ。
「案ずるな。猫に成った彼女はしばらくすれば元に戻る。ダマされては行けない!」
体長150cmほどの直立歩行するツバメが突然やってきて、突然凄いことを言う。
「貴方も‥‥鬼ですか?」
黒畑丈治が直立ツバメに質問する。
「いや‥‥そんなこと全然無いですだよ。私は普通の通りすがりのツバメですだよ」
可愛い女の子の声で150cmの直立ツバメが言葉を返す。
「おのれ‥‥千剣。私のなんの怨みが有るのだ! この間のあんころ餅をつまみ食いしたのは謝ったじゃないか!」
九月姫が直立ツバメを千剣と呼んでズバっと指を指す。
「あんころ餅の怨みは深いのよ!」
ビシッと言い返す
取りあえず一同はあんころ餅の怨みで助けられた様だ。
「分かった‥‥今日の所は引き下がろう‥‥。今度ちゃんと弁償するから‥‥ね? 美味しい葛餅ご馳走する♪」
九月鬼の『葛餅』の言葉に手が止まるツバメ。
九月鬼はトテトテと蟹に乗って雪の中を去って行く。
「大丈夫でしたか? 向こうに古寺が有ります。もし良ければ暖を取られてはいかがでしょう?」
150cmのツバメ姿の女の子に助けられた一同は古寺へと案内されていった。
●古寺にて
古寺には暖を取り、美味しいみそ味の肉鍋をご相伴にあずかる一同。
ここから北にしばらく行った場所に、近江牛を育てている牧場があるのだとか
「ツバメさんはこの土地に来て長いのですか?」
子猫から戻ったミネア・ウェルロッドがツバメに対して質問する。
「えぇ、元々はもっと蓬莱山の南の方に住んでいたのですが‥‥、ほら、人間の世界で大きな戦争とか有って、何かと物騒なので、お師匠さまと一緒にこっちまで引っ越してきたんです‥‥あっ、私のことは千剣と呼んでください」
そう言って牛肉たっぷりの豚汁を啜るツバメ‥‥千剣。
「我々はオークロード鐵に仇なす者。千剣殿がこのあたりの情報に詳しいので有れば、是非お力を貸してくだされ」
黒畑丈治が単刀直入に千剣に話すが、千剣はチョット困った顔だ。
「ん‥‥お師匠様のさらにお師匠様のお話なのですが、出来る限り人間の争いには手を貸しては行けないと‥‥言われているのです」
千剣はそう言って困った顔をする。
「その師匠の師匠は何処にいるんだい?」
レイ・ファランの言葉にすんなり応える千剣。
「比良山です。ここから南へ、蓬莱山の少し手前に見えてくる山です。お師匠2人は冬眠状態なので、私は暇なのでこっちに来て遊んでいるのです」
千剣はそう言うと申し訳なさそうに付け足した。
「ごめんなさい‥‥私皆さんの事を騙してました‥‥実は私‥‥ツバメじゃ無いんです」
そんな者見りゃ分かるわ〜っと言う一同からの激しい突っ込みを喰らって、千剣がいそいそとツバメ衣装を脱ぎだした。
すると中から可愛い女の子が。
年の頃は14〜15くらいであろうか?
身長はおよそ130程であろう‥‥かなり小さい部類に入る。
黒い‥‥これでもかと言うほどに艶やかな黒髪を後ろで束ね、ピンク地に鶴の模様の千早と赤く染まった長袴で着飾った巫女衣装。頭にかぶった立烏帽子。
これだけならばどこかの巫女か白拍子と言ったところなのであろうが、彼女の胸は年不相応な大きく膨らんだ胸をしていた。そして背中には大きな黒い翼が。
京風のおしとやかな顔立ちではなく、江戸風の活発そうな顔立ち、化粧はしていないが、決して悪くない容姿である。美しい‥‥っと言うよりは可愛いの部類にはいるが。
「可愛いじゃないですか」
お褒めの言葉を授かって少々照れる千剣。
「皆さんのお手伝いは出来ませんが、この辺は私も良く遊びにくるので、色々ご説明することは出来ますです。はい」
古寺の東に漁村(船で上がった所)今津。北には沢山の牧草地帯に成っており牛が育てられている。
西と南には水田と蕎麦畑が広がっており、お米とか野菜とか蕎麦なんかを収穫しているらしい。
「話を聞いて、想像するに1万人近い人間達が居るんじゃ無かろうか?」
話として、蓬莱山に居を構えるオークロード鐵。
その部下にはオークロード数匹を含む数百の豚鬼達。
そしてその胃袋をまかなっている数千人(1万人近い)人間達の村落が有る‥‥っと言う事になる。
「そして‥‥その人間達の集落を取りまとめてる、鐵配下の豚鬼王が阿修羅山に居る‥‥っと言う事になるねぇ」
ガンサイの言葉に付け足して纏めていく。
そして人間達の中には積極的に豚鬼に味方する夜盗崩れなどがいる。それらを『向こう側の人間』っと呼んでいるらしい。
「えーと、阿修羅山に住んでる豚鬼王さんは凄くいい人だったよ。話の分かる(?)人で、彼は戦う事も出世することも嫌いじゃないけど、それより何より美味しい物を腹一杯食べてお昼寝するのが何よりも好きな人で、それ以外の事には全く興味ないって感じだったわ」
そう言って千剣が何かを考えながら説明する。
「もう少し詳しく説明して貰っても良いかな?」
ネフィリム・フィルスが千剣に説明を望むと、千剣は考えながら答える。
「えーとね、美味しい物が食べられるなら努力は惜しまない人かな? 例えば船で美味しい物を持って売りに来る人が居れば、ちゃんとお金を出して買うの。そのためのお金も領地で取れた鉄や農作物なんかを売って手に入れてる見たい。それに荒れ地を耕して畑や田んぼを作る時は力仕事を配下の豚鬼達にやらせたりすることもあるんだよ」
そんな説明を聞くとなんだかとてもいい人に思えてくるから不思議だ。
「でも、悪いことしたり、村から逃げ出そうとする人が居ると、食べられちゃうの。だから村人達はおとなしく従ってるし‥‥年貢もそれほど高くないから、割と楽な生活をしてるんじゃないかな?」
グルメな豚鬼の話など聞いたことがない。
しかし、世の中は広い物でそんな人も居るのだなぁっと思わされる情報だ。
「でも、豚鬼さんは自分の領地で取れたお米は余り食べないの。お肉とかお魚とかの方が好きみたい。お粥とかお餅も気が向けば食べる感じだねぇ」
そのために牛を育てているのだろう。
もちろん全ての豚鬼が肉を食べている訳ではない。米や野菜を食べている者もいるだろう。
いわば、美味しいお肉が食べたいなら、一生懸命働いたご褒美に上げるから、がんばって働け‥‥っと言う事なのであろう。
なかなか良くできたシステムだと感心する部分もある。
「まぁ初回としてはなかなか良い情報が手に入った。‥‥千剣殿はこの古寺に住んでいるのかな?」
風羽真の言葉に千剣が首を横に振る。
「今日は村里に降りた帰り‥‥人目を忍んでツバメに化けて居たんだけど、偶然あなた達と会ったから‥‥」
人目を忍んでかどうかは分からないが、あの格好で村人達が突っ込まないのは、暗黙の了解なのだろう。
多くの情報を手に入れ、千剣殿に見送られて古寺を後にする。
もし、後方の豚鬼王がこちら側に寝返れば、形成は一気にこちら側に有利に働くかも知れない。