●リプレイ本文
●近江の豚鬼退治 別働隊1−2
雪の進軍氷を踏んで、それが平地ならとても良いことでしょう。
ソコが斜面ならスキー場の様にとても綺麗でしょう。
しかし実際には凸凹しています。
木も生えているので10m先に人が隠れていても分かりません。
動物の足跡もありますが、どれがどれやら分かりません。
リスや狐。狼や熊の足跡などが混じっていることは分かります。
道と言うのは常に真っ直ぐとは限りません。
山ですら高低差を気にして道が作られて居るとも限りません。
緩い雪は足を取られやすいので踏み固められた雪道を進みます。
しかし、その左右に大量の雪だるまが並んでいると、なんだかとても不安に成ってきます。
雪中探索第二回。
琵琶湖を船で迂回して、港町を避け、山道を通りながら、古寺へ向かうルート。
その道すがらに有る大量の雪だるま。
獣の足跡。少し不安に‥‥いや、だいぶ不可思議な気分にされる光景。
スコップ片手に雪をかく。風羽真(ea0270)が雪をかく。
雪山では馬は動きが鈍るが、それでも荷物運搬の為には仕方がない。
荷ゾリを引きつつ。ニャオファン引き連れて、道を作りながらの前進である。
彼が雪をかきながらふと、丘の上を見つめると、巨大な雪玉がゆっくりと近付いて来ていた。
「あっ、でっかい雪玉だ!」
ミネア・ウェルロッド(ea4591)が真っ先に反応して、スコップでソニックブームをたたき込む。
っと同時に雪玉は砕け、沢山の雪がドカドカと上から降り注いだ。
「オグ! オグオグ!(任務失敗)」
丘の上で豚鬼達の声が聞こえた。
ダメージは無いが、全員からだ半分雪に埋まって身動きが取れない。
雪を払い、荷物を取り出すのに小一時間の時間を消費して北へ。
今回分かったことだが、阿修羅山の東方と今津付近は平坦な場所が多く、田畑や牧草地が多く見られる。
安雲川と鴨川(京都の鴨川とは異なる)の2つの川が東西に流れており、水の便がよく、琵琶湖と船で行き来が出来るために荷物の運搬も案外楽な様である。
何故、豚鬼に支配されている村の人達は船を使って逃げないのであろうか、ソコが謎である。
阿修羅山の南には険しい山脈が控えているが、阿修羅さんの北と西側は緩やかな山脈がそびえている。
一同は阿修羅山の北側へと移動していた。
雪の進軍氷を踏んで、大きな丘を抜けた所にそれは有った。
巨大な牧場‥‥牧草地である。
雪かきが終わり、若葉の生え始めた牧草地を、巨大な牛達がのびのびと放牧されていた。
白と黒の模様のホルスタインではない。
前進が真っ黒な毛で覆われた黒毛和牛だ。
沢山の近江牛達が放牧されており、豚鬼達がその牛達の見張りをしている。
どこからともなく良いにおいが漂ってくる。
雪山を保存食片手に突き進んでいた冒険者達にしみこむなんとも言えない良いにおいである。
レイ・ファラン(ea5225)がライトソードを握りしめ当たりを警戒する。
特に怪しい物は見受けられない。
「人間‥‥かね?」
一人の老婆が静かに音も立てずに近付き、そして声をかけていた。
「えぇ‥‥多少違うのも混じってるけど、一応人間よ」
百目鬼 女華姫(ea8616)が言葉を返しつつ間合いを計る。
飛び道具なら仕留められる距離に移動しつつ、仲間を見られないようにカバーしているのである。
「そうか‥‥この辺じゃ見慣れない人間‥‥冒険者かね?」
その言葉に少しだけ緊張が走る。
「冒険者‥‥っと言うか、探検家です。豚鬼王が治める阿修羅山の調査‥‥っと言っても良いでしょう。色々と調べたい事も有りますので‥‥ね」
長寿院 文淳(eb0711)がそう言って老婆をけん制する。
老婆は少し考えると、冒険者達の身なりを確認した。
「おばぁさんはこの辺の人間なんですかぁ?」
パラーリア・ゲラー(eb2257)がそう言ってよだれを垂らしながら老婆を見つめる。
先ほどからの美味しそうな香しい臭いが彼女の鼻と胃袋を刺激しまくっているのである。
「とんでもねぇ。私ゃ山姥だよ。人間じゃないよ。人の臭いがするから見に来ただけだよ」
老婆の言葉に山本佳澄(eb1528)と乃木坂雷電(eb2704)が反応する。
腰の日本刀に手をかけ、いつ襲われても言いようにと姿勢を低くして構える。
山姥とはいわゆる山に住む鬼の老婆である。
子供くらいなら一口で食べることが出来るくらいの大食漢+大きな口を持った鬼だと言い伝えられている。
人間に化け、人を騙すとも聞くが‥‥はてさて。
「なんじゃ‥‥腹を空かせておるのか? ちょうど良い。これから昼飯にするだで、お前さん達もご馳走に成ると良いだ」
そう言って山姥が冒険者達を昼食に招待する。
普通ならあり得ない事だ。そして100%と疑ってかかるべきだ。
「今日は特別に肉粥を沢山作ったで、遠慮することはねぇだよ」
その言葉にパラーリア・ゲラーがふらふらと着いていく。
それを追うように一同も後を追うことになる。
「あんた、私ら人間を見ても食べないのかい?」
ネフィリム・フィルス(eb3503)が山姥に質問する。
もちろん彼女は人間ではない。ジャイアントだ。
しかし、同行者の殆どは人間である。
「人間見つける度に食べてたら、人間の奪い合いになっちまうし、人間が激減しちまうじゃないか? 人間達は私たち鬼達に食い物をくれる良い種族だよ? 悪さする人間以外は口にしないし、もし喰うにしても、この地の統治を鐵様に任せられている、白銀(しろがね)様にお伺いを立てるさ」
ばぁさまはそう言って大きな合掌造りの家屋に皆を案内した。
中には数匹の屈強な豚鬼や熊鬼。偉そうな豚鬼が一番上座に鎮座しており、山姥の帰りを待っていた。
みな大きな鍋の様なお椀に粥が盛られている。
「人間の客人が来られましたで、案内して来ました。白銀様」
山姥がかしこまって一番偉そうな豚鬼に挨拶をする。
白銀と呼ばれた豚鬼は、白銀の毛を生やした豚鬼だ。
その身長は2m程、豚の顔に巨大な牙を生やした大柄の豚鬼である。
いや、全ての豚鬼は殆ど身長が2mほどで、体格も似たような物なので何も変わらない。
変わるのは全身を銀色の毛で覆われている事ぐらいであろうか。
鎧は身につけずに、毛皮を纏っている。
逆に回りの豚鬼や熊鬼が大鎧や武者鎧を着込んでいるので、一際目立つ。
「オグ! オグオグオグ! オググ! オグオグオグ!」
なにやら静かに言葉を放つ豚鬼王白銀。
静かではあるがウチに秘めたる力は相当な物であることが正面に立っただけで全身に伝わってくる。
「これがワシら特性の肉粥だ。たっぷり食べんさい」
山姥がそう言って直系30cm程のお椀にたっぷりと肉粥を詰めて冒険者達をもてなした。
彼らの言う肉粥とは、近江牛の肉をスライスしてほどよい大きさにしてから、米と野菜(だいこん・にんじん・ごぼう等)と一緒に味噌と醤油と味醂で、牛の骨で取った出し汁でグツグツ煮込んで作られた物である。
「おっ、もう始めているのか?」
後方から声がして、振り向くと漆黒の鎧を着込んだ人間の鎧武者。それに上半身が娘、下半身が巨大な蛇の姿をした蛇女郎(ラーミア)熊の毛皮を着込んだ巨大な虎の3人(?)が近寄ってくる。
「これからじゃ。お前さん達も早くお椀を持って囲炉裏を囲め、それとお前は尻尾しまえ」
言われて蛇女郎が尻尾をしまって人の姿へと変貌する。
虎も熊の毛皮を脱いでよいこに畳んでいる。
「それでは、我らが主、鐵様に感謝を込めて、頂きます」
そう言って山姥の合図で豚鬼達はモクモクと食事を始めた。
彼らのお椀は直系が50cm程‥‥鍋ほどもある。
それを味わいながら、どぶろくの酒をがぶがぶと飲み始めた。
「ワシらは元々肉は生で喰う。じゃがこの肉粥は気に入ってる。味もなかなかじゃし、肉の節約にも成る。下級兵士達は肉の代わりに魚を入れた魚粥じゃがな」
そう言って山姥はもりもりと粥を口に運ぶ。
「私の名はミケ、こっちがタマ。彼が高坂さん。あなた達は?」
蛇女郎の質問にパラーリア・ゲラーが答える。
「近江牛の大好きなパラーリアです♪ 幻のお肉を求めてきました〜」
そう言ってパラーリア・ゲラーが胸を張る。
「豚鬼王よ。人間の仲間に成らないか? もし仲間に成ってくれるなら。近江の領主はおまえたちに、内密に千両払って良いと言っている」
風羽 真が豚鬼王に語りかけるが、豚鬼王は静かに首をかしげる。
「無駄だ。鬼に人間の言葉は通じねぇよ。通じるのは山姥さま位だ」
高坂と呼ばれた男がそう言って杯に酒を盛り、風羽真に手渡した。
「それに豚鬼王さまは金じゃ動かないよ」
そう言って高坂は自らも杯を口に運ぶ。
暗に毒が入ってないことを見せる為でもある。
ミネア・ウェルロッドが楽しそうにタマの背中を撫でている。
彼女に取ってはでっかい猫なのだろう。体長2mの巨大な猫である。
彼女は今回豚鬼王との謁見が目的であった。
嘘か本当かその豚鬼王が目の前にいる。
それだけで大きく前進した感じである。
「これを‥‥豚鬼王様に」
レイ・ファランがロイヤル・ヌーヴォーを差し出すと、白銀は笑みを浮かべた。
「オグ! オグオグオグ!」
山姥を通事で言葉が帰させる。
「ありがたく頂戴する‥‥っと言いたいが、来月に花見を催す。出来ればその席で、改めて受け取りたいとの事である」
そう言ってロイヤル・ヌーヴォーは静かに返された。
「花見はいつ行われるんですか?」
百目鬼女華姫がそう言って、山姥に質問する。
「来月じゃ。阿修羅山の東で梅の花を愛でる祭りを行う。領内の人間達にも酒を振る舞うし、祭りはしばらく続けられると思うのじゃよ」
山姥はそう言って肉粥を啜りながら、彼女の問いに答える。
「停戦‥‥とまでは行かなくても‥‥休戦っと言うのは可能でしょうか? 出来ればその‥‥将来的な話として‥‥」
長寿院文淳の発言を山姥が伝えると、なにやら相談の末に山姥を通して高坂に耳打ちされる。
「将来的にと言うのであれば可能かも知れない。現在万に及ぶ人間達を統べ、千に上る豚鬼達を統べているのは豚鬼王鐵様。そしてその配下に6人の豚鬼王がいる。白銀様はその中の一人。そして阿修羅山を任される者‥‥だ。蓬莱山は鐵様が統べており、青銅・赤銅の2人が軍事的な事を取りまとめている。白銀様は青銅・赤銅以上に鐵様の信頼を得ている。もし白銀様がその停戦が我々にとって有益であると判断し、鐵様に進言すれば、何年かの休戦‥‥っと言うことも考えられなくもない‥‥っと言っている」
そう言って後、高坂は改めて言葉を継ぎ足した。
「自己紹介がまだだったな。俺の名は高坂、下の名前は無い‥‥捨てた。元々はサムライの家の小せがれだったが、色々あって家をおんでてここに来た。ここには俺と同じ様な境遇の者達も多い、志士の家の者、野党だった者、抜け忍、冒険者崩れ。みな身の置き所に困ってこっちに逃げてきた者ばかりだがな。そんな奴らを集めて兵法やらを教えているのが俺の仕事だ。もちろん豚鬼達にも教えている。陣形の組み方やらなんやらをな」
そう言って酒を一気に飲み干してから言葉を付け加える。
「自慢じゃ無いが俺は弱い。剣の腕は最低だ! 文武平等が出来ない腰抜けで、刀で人なんて斬ったことがない。だが‥‥、ここの奴らはそんな俺を暖かく迎え入れてくれた。こんな悪知恵しか特技の無い俺を高く評価して軍事顧問に抜擢してくれた。だからこうして恩返しをしている」
そう言って高坂はげらげらと笑った。
「あんたらは知らんだろうが、今津は我々の貿易港じゃ。人間の商人を通して船で色々な者を交易しておるよ。肉や米を交易にだし、代わりに衣服や生活雑貨を仕入れたりもしておる。国通しの交易は無いが、闇商人達がこっそりと荷を運ぶことがある。無論彼らは今津が我らの支配下であることを、知らないかもしれんがねぇ」
そう言って山姥はキシャキシャと笑った。
「私たちは元々人間に飼われていたの、でもご飯は少ししか貰えないし、鞭で叩かれるし、‥‥でもここなら、週に一度はお肉をおなかいっぱい食べさせて貰えるし、ご飯も食べれるし、血もいっぱい吸えるし、凄く良いところだよ?」
ミケとタマがそう言ってご飯のお代わりを要求する。
山姥が奥へ言って粥をもそって帰ってくる。
「私はこっちで九月鬼ってのを見た。アレはデビルなんだろう?」
ネフィリム・フィルスがそう言って質問する。
「前に‥‥黄泉将軍と言うのが来てな、人間達を倒すのに力を貸せ‥‥っと言うてきた。鐵さまはそれに対して首を縦に振った。その時に彼女も我々に手を貸してくれる‥‥っと言うことに成ったのじゃ‥‥元々彼女とは交流があったがな。巨大な蟹や海月を操る人成らざる者‥‥っと言う認識であり、デビル‥‥っと言われても私たちにはわからんよ」
そう言って山姥は困った顔を見せる。
パラーリア・ゲラーがまるごとクマさんを見せてタマと遊んでいる。
タマの防寒着は熊の毛皮らしい。
熊の皮を被った虎と言う奴であろう。
「最後に一つ、あんたらの腹づもりを聞きたい。私たちはあんた達の敵に成るかも知れないんだ、それを招き入れて飯をご馳走してくれるなんてどういうことだい?」
ネフィリム・フィルスの言葉に豚鬼王が言葉を発し、山姥が通訳する。
「我々から先手を打つ必要はないからだ。もし貴方達が今すぐ武器を抜き、我々に襲いかかってきたとしても、我々は君たちを倒し、肉粥の代わりに、君たちの屍肉を喰らうだけで、特に何一つ問題はない。ここにいる戦力を、もう一度見てくれ」
山姥はそう言ってネフィリム・フィルスに伝えた。
ネフィリム・フィルスが周囲を見回す。
彼女の国の言葉で言うのならば、オークロードが1匹。オーク戦士が2匹。バグベア闘士が2匹。未知数の戦闘力の山姥が1匹。ラーミアが一匹。虎が一匹。さらに土間には、飼い慣らされた狼が数匹。それに料理をしている物も何人か居るのだろう。
かなり多勢に無勢で有ることが理解して取れた。
「我々は戦は好むが争いは好まない。必要以上に人間を殺したりはしない。‥‥もちろん全ての豚鬼がそうではない、血気盛んな者、人間を見ると無性に殺したく成る者も居る。。そいつらは青銅の配下として最前線で戦っている筈だ。あいにくと白銀様のモットーは腹一杯食べる事と昼寝だからな」
そう言って高坂は高笑いを浮かべた。
そんなわけで一同は倒れる程大量の肉粥を腹一杯食べ、豚鬼領地を後にした。
この報告書を読んで、どうした者かと頭抱える依頼主の顔を思い浮かべながら。
どっとはらい。