●リプレイ本文
●新撰組三番隊番外編 3−1
寄らば斬る。寄らば斬るぞと剣を抜く。
悪を切り、正義の為にと剣を抜く。
段だら模様の羽織を背負い、誠一字を背中に背負って。
この世の悪を討ちに行く。
それが一人の修羅なのだ。
「は〜い。新撰組三番隊組長補佐‥‥現在臨時組長代理の小春です。最近色々と京都の治安が悪くなっていますが、私たちの仕事は京都の治安を回復することではありません。これ以上治安が悪くなることを防ぐ事です。悪事が横行し出すと『少しくらいなら大丈夫』っと誰も彼も思いだしてしまう物です。そうならないためにも‥‥悪いことをすれば処罰される。それが普通なんだ‥‥っと言うことを、刃と恐怖で京都に知らしめましょう。‥‥‥‥っで良いんですよね?」
見まわりの為の冒険者を集め、小春が親身に説明を行う。
それでも彼女のセリフは斉藤一の受け売りで、三番隊の存在理由なのかも知れない。
「強く無ければ生きていけない‥‥だが、優しく無ければ生きて行く資格はない。それでも俺達の仕事は一人でも多くの悪を蹴散らして、正義を示す事だ。例え自らの親兄弟を‥‥肉親を失ったとしても、決して悪に屈しない正義を示すこと‥‥それが我々の仕事だ」
そう言って斉藤一が静かに言葉を付け足す。
「まぁ小春が代理を務めるのはもう1〜2ヶ月の間だけだ。その間ヨロシク頼むぜ」
そう言って斉藤が微笑を浮かべる。
巡回は相変わらず鴨川の岸辺の往復だ。
京都は河が多いため、犯罪者は河にそって逃げたりすることが多い。
チャンバラでも、橋の上での戦闘が多かったりする。
道は他の隊に任せて、三番隊は河を守ろう‥‥っと言うのがモチーフらしい。
「まぁまだ夜は冷えるけど、風邪なんかひかないように楽しくね?」
斉藤が見えなくなって、いつものペースに戻る小春。
しかし、彼女の服装は相変わらずで、黒い股引と胸を隠す為の黒いサラシ。足と手に巻いた黒いサラシだけと言う至ってシンプルかつ露出度の高い服装である。
その上から新撰組の羽織を羽織っているだけなのだ。
月詠葵(ea0020)がそんな小春の隣に張り付く。
彼の仕事は的確に敵を斬って捨てる事。そのための配置である。
「寒くないのですか?」
彼の質問に小春は笑顔と無言で答えた。
「新撰組‥‥三番隊だな?」
一行の進む道の正面に一人の男が声をかけてくる。
蕎麦の屋台で蕎麦を啜っていた長身の大男。斬馬刀を持っているが、浪人風の出で立ちだ。
「もし‥‥どなたですか?」
サーシャ・クライン(ea5021)がそう言って提灯の明かりをかざす。
空が曇っている為顔までは確認出来ない。
男は蕎麦の器を屋台に返し、銭を払うと、一同の前に歩み寄ってきた。
「俺の名は岡田以蔵‥‥人切りだ。金で雇われ、てめえらを斬りに来た」
そう言って大きく息を吸ってはき出す。
っと同時に一瞬で空気が変わった。
剣気。達人の持つ気である。
存在感とか格と言い換えても良い。
剣術をかじっている物なら分かる『肌で感じる強さ』っと言う奴である。
それが刀を抜く前から、爆発的に放たれているのである。
ちりちりと背中を駆け抜けていく物がある。
全身を冷たい汗が流れ出す。
新撰組の隊長各が本気で放つ物と同等の剣気である。
「良いのかい?」
岡田以蔵が不思議そうな顔をする。
「言っただろ? 俺はおまえたちを斬りに来た‥‥っと」
そう言って岡田以蔵が刀を抜く。
今まで以上に剣気があふれ出す。
「岡田さん。待ってください。今日は僕の当番ですよ?」
不意に闇の中から声が聞こえる。
真っ赤な着物に銀色の長い髪。
岡田以蔵とは異なり、二回り以上も小さな身体である。
だが、よく見ると、その着物が血で真っ赤に染まっているのだと分かる。
「キミ‥‥は?」
剣気に当てられながら、ベアータ・レジーネス(eb1422)が小さな男に質問する。
「不知火抜刀術、河上彦斎‥‥。岡田殿同様に人切りでござる」
そう言って彼は腰から、やや短めの刀を抜いた。
「そうだな。斉藤一が留守なんだ、俺達2人が同時に出る必要も無いな。よし、今回はお前に譲ってやる。次は俺の番だぞ?」
そう言って岡田以蔵が刀を納める。
「舐められた物なのです」
そう言って月詠葵が刀を抜いて間合いを計る。
っが、そんな彼を無視して飛び出した男がいる。山崎剱紅狼(ea0585)である。
闇に目を慣らした彼の斬りつけは的確だ。
そしてその腕前も達人級だ。
そんな彼の飛び込みざまの一撃を、河上彦斎はバックステップでかろうじて交わすと、一気に間合いを詰めて、彼の懐に入った。
山崎剱紅狼が左手で攻撃をしかけようとするが、あまりにも距離が近すぎる為に、美味く刀を振るうことが出来ない。
それでも先ずは彦斎の力を奪うべく刀を持った右手を切りつけた。
だが、彦斎はそれを身体を回転させ、渦を巻くような動きで回避する。
っと同時に普通なら正面の敵に飛び込む物だが、島津影虎(ea3210)は後方へと距離を開けた。
戦術的に言うならば、正面の敵に気を取られている間に、側面か背面から敵が来る‥‥っと判断したのである。
そして、彼の読みは見事に当たっていた。
河原にいくつかの黒装束の人影を目撃したからだ。
「新撰組! 天誅!」
黒装束の男数人‥‥5人ほどだろうか‥‥っが左から襲ってくる。
事前にソレが分からなければ、刀を抜く間も無く、斬られていただろう。
っが、島津影虎の鳥笛の合図でそれは知らされていた。
水葉さくら(ea5480)がその一撃を受け流す。
彼女も夜の闇を見通す優良な視覚を持っている。
我羅斑鮫(ea4266)がそれに着かず離れず様子を見つめる。
隙あらば敵の後ろに回り込もうと言う腹である。
術印を結ぶ余裕は無いが、刀で切り捨てるには十分な間合いである。
大降りはせず、的確に敵を斬りつける水葉さくら。
重い武器での一撃より手数で勝負。
今回の彼女の装備はそんなところだ。
ガイン・ハイリロード(ea7487)のオーラショットの一撃が、賊の一人にたたき込まれる。
っと言っても即死させる程の力はない。
暗闇を切り裂くような光に敵が一瞬たじろぐ程度である。
それでもターゲットを捕捉‥‥ロックオンするには十分な光だった。
ウィルマ・ハートマン(ea8545)がショートボウを放つ。
今オーラショットを喰らった敵に、追い打ちに矢が突き刺さる。
重く鈍い骨に達する音がする。
っと間髪入れずに2本目の矢を放つ。
甲矢と乙矢の二段撃ちに流石の賊も動きを鈍らせる。
ベアータ・レジーネス(eb1422)のブレスセンサーがようやく発動する。
っが、流石にこの人数が入り乱れて動き回っている状態では、数を感じる事が難しい。
それでも敵の増援が無いか、必死で遠い範囲の動きを確認する。
前衛が居れば後衛が居る。
後衛が力を発揮するには、壁と成る前衛が必要である。
ティズ・ティン(ea7694)がガディスアーマーをガチャガチャ言わせて前にでる。
敵は彼女を素通りして、後ろを相手にすることは出来ない。
彼女の脇を通り抜ける事は可能だ。
っがそれは、彼女の後ろの敵に刀を向けると同時に、彼女に背を向けることになる。
単純な話、後ろから攻撃されると非常に避けにくい。
攻撃が見えづらいとかそんな話ではなく、逃げる場所が無くなるのだ。
普通敵の攻撃を避ける時は横か後ろに避ける。
挿まれたらそれまでなのだ。
ゆえに、鎧の上からでは美味く切れないと分かっていても攻撃せざるえない。
そして彼女はそれを理解している。
敵の刀が彼女の鎧で阻まれるのを、カウンターで放つ彼女のラージクレイモアの一撃が叩き折る。
通常カウンターで攻撃してきた相手の武器を攻撃するのは、かなり難易度が高い。
それでも彼女はそれをやってのけた。
そこに達人の領域の技を見て取ることが出来る。
「まとわりつくな!」
山崎剱紅狼がそう言って両手の剣で河上彦斎を斬りつけようとする。
‥‥その一瞬の隙をつくようにして、彦斎の刃が剱紅狼の胴を薙いだ。
「不知火抜刀術! 難攻不落の円の型!」
彼の技はスタッキングポイントアタックだ。
スタッキング前提をクリアしていれば、これほど有効な技は無い。
っが彼もそのままやられたままではない。
ダブルアタックの片方が彦斎に浅くダメージを与えている。
「河上彦斎! 覚悟なのです!」
月詠葵が河上彦斎に刃を向ける。
胴薙ぎの一撃だったが、彦斎はそれを紙一重で避ける。
そして、スタッキング状態の山崎剱紅狼にその刃は突き刺さった。
大あわてで剣の威力を止める月詠葵。
出来る限り振り抜かない様に、最小のダメージで止めようと剣を止める。
そしてその動きの『落ちた』刀の隙間を、彦斎の刃がすり抜けていく。
月詠葵の肩がはじける。
そして、じわりと血がにじみ出した。
浅い。
河上彦斎の動きは素早く、目で追うのも熟練を要する。
彼の刀も達人の動きだな。それでも山崎剱紅狼の技に比べればやや劣る。
っが、彼は戦い慣れている。
一人で沢山の敵の中で戦う事を大前提にした戦い方だ。
集団で戦う新撰組や冒険者のやり方とはだいぶ異なる。
密着した相手を盾にし、相手の近付くことで安全地帯を作り上げていくようだ。
「相変わらず、ちょろちょろとネズミみたいに動きまわりやがるな」
岡田以蔵がそう言って2杯目の蕎麦を啜り始める。
水葉さくらが賊の一人を切り捨て終わった所で、目の前に河上彦斎が現れる。
その後ろには月詠葵の姿が見える。
ガイン・ハイリロードがとっさにオーラを発動させようとするが、賊を倒して息が上がっている。
一日放てるオーラショットは威力を抑えても6発が良い所らしい。
「そこ! どいて!
ティズ・ティンのラージクレイモアが、振り下ろしの猛烈な一撃で地面に穴を穿つ。
っと同時に懐に飛び込む河上彦斎。
ウィルマ・ハートマンの弓が彦斎に狙いを定める‥‥っが、もし避けられれば矢は直進する。
それは仲間の誰かに当たることを意味する。
河上彦斎とティズ・ティンが同時に動いた。
斬りかかる河上彦斎。それにカウンターアタックを合わせるティズ・ティン。
120cmと小さな彼女の身体。その鎧の隙間を、彦斎の刀が的確に捉える。
っと同時にクレイモアの一撃が彦斎の身体を捕らえた‥‥かに見えた。
絶妙のタイミングでティズ・ティンの身体に痛みが走る。
痛みにより、ほんの一瞬鈍った切っ先が、彼を捕らえるには至らない要因を作り出した。
もし、彼の攻撃を鎧で受け止められたなら、今頃河上彦斎の身体は胴から真っ二つに成っていただろう。
っが、ティズ・ティンはそのたった一撃で重傷を負っている。
山崎剱紅狼もまた重傷を負っている。
動きの落ちた敵にトドメを刺さないのは、負傷者が相手の足を引っ張る事を知っているからだ。
彼はひらりと身をかわし、ウィルマ・ハートマンの懐に飛び込んだ。
弓を構えようとする彼女だが、至近距離過ぎて弓を構える事が出来ない。
っが、河上彦斎にも誤算が2つあった。
彼の後ろを月詠葵と水葉さくらの刃が駆け抜けて行く。
河上彦斎はそれを寸前で交わす。
水葉さくらの刀は忍者刀。そして月詠葵の刀もまた忍者刀だ。
忍者刀は密着した状態でも‥‥スタッキング状態で有ったとしても、苦も無く振れるのだ。
故に河上彦斎は彼らの懐には入らない。‥‥いや、入れない。
逆に長い武器を持っている物の懐に入り、同士討ちを誘発した方がお得だからである。
「小春流! 4連脚!」
何かが河上彦斎に飛び込む。
組長補佐の小春である。
彼女はライトニングアーマーを身体に纏い、徒手空拳で彦斎に襲いかかる。
無論彦斎はそれを全て交わして避ける。
2つ目の誤算とは、彼女が素手であることだ。
河上彦斎の刀が小春の胴を薙ぐ。
っと同時にダメージを受けたのは、河上彦斎本人だ。
痛み分けになるが、ライトニングアーマーがかかっている物を刀で斬ればダメージを受けるのだ。
彼女の懐に入って一撃で彼女に重傷を与えれば容易に決着は付く。
だが、彼女の懐に容易に入れない理由がある。
彼女の回りには乱気流が渦巻いている。
もし飛び込めば、乱気流で動きが鈍く制限される。
その状態で、彼女以外の攻撃を避けるのは難しくなる。
水葉さくらと月詠葵の攻撃も決して避けやすい物では無いのだ。
「ライトニングサンダーボルト!」
避ける事の出来ない魔法の雷撃が河上彦斎を襲う。
放ったのは水葉さくらだ。
もちろん深手を負わすことは出来ないが、負傷を与え相手の動きを鈍くすることは出来る。
「ちっ、雑兵ずれが‥‥全滅か‥‥」
側面から攻撃してきた覆面5人が倒されているのが分かる。
死体が邪魔で行動が制限される。
やむなく彼は地面を蹴って河へと飛び込んだ。
「今日の所は引き分けと言うことにしておいてやる。続きはまたまた後日!」
そう言って河上彦斎は一目散に走っていった。
流石にそれを追う戦力はない。
「お前はやらないのですか?」
月詠葵が山崎剱紅狼をかばうように前にでる。
彼の目線の先は‥‥岡田以蔵である。
「あぁ‥‥好きじゃねぇんだ。他人のおこぼれに手だして、漁夫の利かっさらおう様なやり方はよ‥‥。やるなら正々堂々正面から打ち合いてぇんだ。‥‥だから今日の所は殺る気はねぇよ」
岡田以蔵がそう言って2杯目の蕎麦代を払う。
そう言って岡田以蔵はその場を後にした。
●そして‥‥
新撰組屯所では傷を負った者達の治療が行われていた。
山崎剱紅狼とティズ・ティン。2名の重傷者をだしながら、死者を出さずに止めた。
そして、2人は血を大量に流しながらも一命は取り留め、傷の治療のサポートも受けている。
「さて、河上彦斎とのリベンジをするためにも、新撰組三番隊の正式隊士に取り立てて貰うでし」
月詠葵がそう言って、水葉さくらの肩を叩く。
「あの‥‥私もですか?」
彼女の言葉は山崎剱紅狼の言葉に遮られる。
「んじゃ3人登録だな」
まだ傷がふさがって間もない彼も登録を希望する。
「あの‥‥私もメイドとして雇わない?」
3人に続いてティズ・ティンが仮隊士の募集に希望する。
「いいぜ、これから受けるテストに合格出来たらな?」
斉藤一がそう言って試験課題を用意する。
試験の内容は‥‥熱いお風呂にみんなで入るガマン比べと、ざるそばの大食い競争であった。
「‥‥見つけました。河上彦斎は、京都の外れの廃墟の寺を根城にしている様子です」
島津影虎の『送り狼』から戻り、斉藤一に報告したのは、次の日の昼過ぎであった。