絶対に何人たりとも妥協してはならないI
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■シリーズシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:10〜16lv
難易度:難しい
成功報酬:8 G 73 C
参加人数:12人
サポート参加人数:1人
冒険期間:10月29日〜11月08日
リプレイ公開日:2005年11月06日
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●オープニング
「えー、パリにいるカン伯爵領騎士団のメンバーに招集をかける、その窓口に当冒険者ギルドを使いたいという事ですね、シュー様」
そうパリの冒険者ギルドで受付嬢から確認をされる、カン伯爵領騎士団の知恵袋、シュー・ドゥモッサーであった。
男にしては高すぎ、女にしては低すぎる声で、黒衣を頭から被ったのシュー氏が答えるには、諾と。
「如何にも、冒険者でもある方々ですから、ここを見ている公算が大きいでしょう。もう、カンに入って動いてる方もおられますし」
「おや、耳がお早いですね」
シュー氏は受付嬢の声にやや間をおいて。
「──まあ、それはともあれ。今回の依頼、いえ任務は魔王崇拝者の巣窟と化したトンプソン村近くの城塞にいる魔王崇拝者の殲滅です。崇拝者ではない方もおよそ百名程、おられると思われますが、それらを可能な限り救出して──」
「百名を可能な限りって‥‥えらく簡単に言いますね。前線の苦労を考えていますか?」
「全員助けろ、あるいは無視して魔王崇拝者殲滅‥‥と極端な方が指示としては楽ですよ。騎士団にスカウトした面々、そして彼らが見込んだ人材なら両立も可能でしょうから」
受付嬢とシューとで話を整理すると、まず人命救助を優先。無理押しはしない。できれば魔王崇拝者対策に伯爵領に散らばっているカン伯爵領騎士団を集結するだけの時間稼ぎだけでもしてほしい‥‥アンド。
シューが難題を出す。
「で、話を戻しまして‥‥可能なら首謀者のドワーフのナイトであるルガー村長は捕縛していただけると有り難いですが」
「あの、以前あった依頼によると情報によると、そのルガーはコナン流の達者で、11年前の解放戦争では神聖ローマ兵の剣を折ること、嘘か真か、千本余り──。剣狩人のふたつ名を持っているそうですから、生半可な覚悟で挑むと」
頷くシュー。
「はい。武器を叩き壊され、盾は砕かれ、鎧は割られるでしょうね。おそらくデビルの魔法と、オーラも併用するでしょうから一対一では勝ち目は薄いでしょうね。そこは数と頭で補って貰います。更に──」
「まあ、人が集まるかどうかは別の問題ですから。どうか、事前情報を多めにお願いします」
「そう言って頂けると有り難い。では、神父として入り込んでいた白クレリックのシフール、モーゼルが、思想上のリーダーですので、これも捕縛をお願いしたい。
また、魔王と契約したものが彼らの親衛隊として三十数名確認されてます。
彼らはヘビーボウにチェインメイルと、十分に武装していますので、遠距離でも近距離でも十分に気をつけて頂きたい。
更に──」
「そろそろ、騎士団員のボーナスも考える時期かと」
受付嬢は黒板に今までの内容を書き付けながら呟いた。
「働き次第です。今回指揮を執るのは騎士団長メルトラン・カン様のご息女、ミュレット・カン様です」
「怪盗の孫の一件で、存じ上げております」
「性格は無理、無茶、無謀です」
「様をつける相手に良く言いきれますね? 確か以前の記録に詳細がありましたね」
「そうですね。事前情報は多い方がいいですから──怪盗三世の一件での汚名を返上しようと、今回の魔王崇拝者討伐に自ら志願なされました」
「シュー様! 何て事を」
後ろから人間換算で15才ばかりなエルフの金髪紅眼の少女。フリルとレースに埋もれ、腰の日本刀は半ば抜かれている。
以前使っていたレイピア“ダルタニアン”から、買い換えたらしい。
当時を知っている者が見れば、重さ的にはレイピアとどっこいの負荷らしい。
勝ち気なリアクションからすると、この少女が当のミュレット・カンだろう。
カン伯爵領騎士団団長メルトラン・カンのひとり娘でもある。
「あ、ついでにカン伯爵領の武器庫には魔法の武器が存在しません、防具はあるのですが。ナイトはいますが、オーラ魔法の使い手も、貴族階級にエルフが多いという事であまり普及はしていません。
ウィザードも伯爵閣下と同様、地の精霊と契約を結ぶ方が多いので、バーニングソードを付与できる様な方が少ないのですよ。
まあ、クリスタルソードを使えればいいのですが、土地柄か、そういう方向に魔法を覚える方が少ないので、騎士団の再編。
有り体に言って、先日の冒険者からの登用という形になってしまったのですが」
シューの口舌をミュレットが、腕力的な方法で強引に止める。
「な、何、身内の恥をベラベラと喋ってるのよ!」
「冒険者ギルド向けの事実の再確認です。
カンで独自に動いている騎士団のメンバーがいるのですから、前回登用したフルメンバーを動かすのは、物理的に不可能です。
そこで今回、ミュレット殿の指揮下に入って頂く者には、いきなり素行の確かでないメンバーをつけるのも問題がありますので、以前の騎士試験で登用された騎士団員──例え、見習であろうとも──からの紹介があった者を、配下につける事にしました。以上、騎士団長であるお父君と相談した上での決定ですが?」
「あの──冒険者ギルド内で‥‥パリ内でも困りますけれど、刃傷沙汰はお止め下さいませんか、お嬢様?」
意を決した受付嬢が目を細めるのに同期するかの様に、周囲の冒険者、並びに周囲のギルド員が身構え始める。
「シュー様?“ミュレット様”が指揮するのですから、成功時、ひとり頭のボーナスはふた桁行きますよね?」
受付嬢はシューに念押しした。頷くシュー。
「何よ! 人の頭越しに」
怒鳴るミュレットを差し置いて契約は成立した。
ルガー村近くまではパリまでやってきたカンの大型船舶『名称募集中』で送り届けるという事に話は決まった。
食事もろもろの旅費は当然、騎士団持ちである。
その代わり、任務には絶対に妥協してはならない。
人質を救出するのだ。
更にルガーとモーゼルを捕まえれば、金貨十枚のボーナスが出る。
その代償である。
代わりに冒険者には高レベルの力量と騎士団内の信用が要求される。
冒険の幕が上がる。
●リプレイ本文
船の中で済ませておくのは、城塞の形状、近隣の地理、逃げる方向と城砦を出た後の確認。
人質を連れ出してから、『この後どうすれば?』では困る。
等と、何時になく熱心に地図に見入っているのはレティシア・ヴェリルレット(ea4739)であった。
城塞内部の見取り図はノルマン復興戦争の混乱に紛れて散逸したが、周囲の地図は幸いある。
レティシアは彼の愛する毒草と同じくらい熱心に、地図を愛でていた。
「斬り応えのあるものが多そうだな」
と、氷雨絃也(ea4481)はそんなレティシアを見て呟く。
彼は騎士団長メルトラン・カンにより、カン伯爵領騎士団正隊員から、カン伯爵領騎士団名誉騎士へと称号を変えていた。
「あのねー! 白兵戦要員はそれでいいかもしれないけれど、飛び道具は『頭』と『毒』が必要なの? 判らない?」
「判らないから、そう言ったのだが」
「‥‥そりゃそーか」
同じく、地図を見ているのはうら若き乙女、アルル・ベルティーノ(ea4470)であった。その彼女がやきもきしているのは、城壁の厚さと潜入位置、そして城壁の厚さの危惧であった。
「100人を逃がせなんて──ウォールホールのスクロールで穴を開けるにしても、壁の厚さを考えると、壁の厚さが1メートルで収まるかどうかは限りなく黒に近いグレイゾーンだし、内部に入ったって、見張りがひとりもいないとは思えないわ。
だから、それに備えて魔力を配分──6分で見張りをどうこうして、中の人達に事情を説明、静かに子供達優先で連れ出して──6分で収まるとは思えないからもう1回スクロール、いや2回スクロールを使うだけで魔力の半分は吹っ飛ぶから」
そろそろアルルも煮詰まってきたようだ。
「‥‥手持ちのウインドスラッシュとライトニングサンダーボルトだけで事を済ませないと──防御の為にとはいえ、シャドゥフィールドのスクロールは魔力の消耗が激しいから使いたくないし」
「アルル、おっけー、おっけー。人質とるよーなヒトデナシには、それ相応の目にあってもらいましょー。‥‥人質救出してからね」
アルルより若い──いや幼い──金銀妖瞳の少女、リュリュ・アルビレオ(ea4167)が、アルルに肩の力を抜くよう促す。
「ブレスセンサーでの探知はあたしに任せてホシィしぃ。だから、スクロールはキミに任せたみたいなぁ☆」
「そうだった、みんなで力を分け合えば、この仕事どうにかなるよね」
その光景を見て、オルステッド・ブライオン(ea2449)は女性陣の苦労を笑い飛ばす。
「‥‥フッ、仕事、か」
就職できたため、余裕の男の表情。
まずはヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)と、エルリック・キスリング(ea2037)の2名を、今回の任務に推挙したオルステッドであった。
「‥‥2人とも腕っこきだ。戦力として心強い」
金髪紅眼のエルフ少女、今回の作戦の指導者──と、書いて役目は旗印だけと読む、のミュレット・カンにふたりの神聖騎士を引き合わせる。
「外様だから、活躍の場は任せるに足りないと思われるだろうけれど、よろしくお願いします」
と、エルリック。
「あら、そんな事ないわ。父様の見込んだ、騎士団の正式なメンバーが推挙した者でしょう。信用するわよ──それとも腕試しして欲しいの? 受けて立つわよ」
受けて立つと言いながら、早速抜刀するミュレット。やる気満々である。
「待てーっ! 待つなのだ、エルリック殿は剣術大会で準優勝した程の猛者、そんな実力者同士がぶつかり合えば、大事な戦いの前に只では済まないのだ」
嘘半分を紛れ込ませるヤングヴラド。
もちろん、嘘はミュレットの力量に関してである。
単に肉弾戦の手腕だけに限定してなら、有り体に言ってエルリックはミュレットの倍以上の力がある。
脚捌きにしても、しかり。
しかも持っている技は同じである、流派だけではなく、持っている技まで笑える程に同じである。
と、なれば基本の部分で、ミュレットに勝ち目は寸分くらいしかない。
あえて、そんな格下相手に戦った所でエルリックが負けてやる義理はないが、ヤングヴラドの機転は和を乱さないための方便であった。
エルリックも看護人という生業と聖なる母の使徒としての立場から、無用な流血を避けたいと思っていたので、渡りに船であった。
だが、そんなヤングヴラドに対し、ミュレットはちいさな問題発言。
「あら、おっきなパラ」
──ピキッ。
「ミュレット隊長殿、それは失礼なのだ。我が輩はこれでも15才であるぞ、まだまだ成長期なのだ!」
キンキン声で喚く、ヤングヴラドの身長145cm。ミュレットの身長162cm。
結構莫迦に出来ない差である。
オマケに頭から順に、ヴァイキングヘルム、グレートマスカレード、プレートアーマーを着込み、更にその上を豪華なマントが彩るという超重武装仕様である。
更に両手にするは、十字架に見えるような装飾を施された巨大金槌『トールの十字架』。
もう、何が何だか。
「ごめんなさい、人間の15才ってもう少し大きいものだと思っていたから」
──ピキピキッ。
(むうっ、ここはひとつ、スカートでも捲りたい所なのだが、仮にとはいえ、上司にそんな事をしたら、オルステッド殿に累が及ぶ。
それに褌を履いてなかったら、悪戯ではすまなくなるなのだ。頑張れ、大人の態度だ! 考えるのだ、むぅ──これだっ!!)
「いや、我が輩もミュレット隊長殿の様な年頃のエルフの『胸』はもう少し大きいものだと思っていたのであるから、おあいこであるな」
「小ヴラド、あなたの仰いようも、それは女性に関して言いすぎではないですか?」
逆転して、エルリックがミュレットの擁護に当たる。世に言う騎士道精神という奴である。
「ん〜、ここは大いなる父の福音の伝道者と、その守護者という事で、この私に任せてもらえないかしらね、同じ宗派の不始末という事で? ね、ミュ・レッ・ト・た・い・ちょ・う・?」
まだ戦時ではないので、華やかな服を着込んで現れる黒のクレリック、ヒスイ・レイヤード(ea1872)が、後ろからリトルヴラドのうなじに指をなぞらせる。
女の子に悪戯するのは好きでも、男にいたずらされるのは馴れていない(除く、女装)ヤングヴラドは背筋に何か這うものを感じ、動きを止める。
「久し振りに呼び出しがかかったと思ったら、またやっかいな依頼ね〜、そんなこんなで、やっかいな任務の前に和を乱した罪として、隊長も小ヴラドも、ご飯1食抜きよ☆ 喧嘩両成敗という事ね──冗談よ‥‥そんな恨みがましい眼で見ないで」
「ところで、ミュレット隊長──私も貴殿より身長は低いのだが?」
言って話を冗談に紛らわせるカイ・ミスト(ea1911)であったが、明らかになった事件の事情に、頭痛に囚われる。
「はあ、騎士団長も色々と難題を示されたものだな‥‥まあ、それだけ期待されているととっておこう‥‥一筋縄ではいきませんね‥‥」
救出した一般人の移送用に馬車が1台でも多く用意できないか交渉を行うカイ。
「救出した人達を早く戦域外へ運ぶ手段があるなら、それに越した事はないと思いましてね」
「それは作戦決行のタイミングをずらすことで対処しましょう」
今まで無言で作戦のサポート役に徹していたシューがようやく発言する。
カイは頷いて、次のプランを述べる。
まず、見取り図が無い以上、現地にて偵察を行い、城門などの出入り口の有無、城門の強度や見張りの状況などを調べる。その結果次第では外からの城門突破は諦めてもらう
「ルガーとモーゼルの人相も知りたいな──」
風烈(ea1587)が至極真っ当な意見を述べる。確かに討ち取ってから別人でした、では洒落にもならない。
「それはカンの街に寄港してから手配しましょう。ただ、ルガーはともかく、モーゼルはあまり期待しないでください」
ルガーは一応カンでの有名人なので、似顔絵描きが得意な吟遊詩人などというものがいれば、精度の高い肖像画を得られるだろうが、モーゼルは普通の神父、顔を知っている者が近辺以外にいるとは考え辛い。
「後、援軍にくる騎士団の戦力増強のためにキンヴァルフの1000本の剣、シルバースピア2本、シルバーナイフふた振り、シルバーダガーふた振りを貸し出そう。武闘家には縁の無い物だ」
ヒール・アンドン(ea1603)も自分の予備にある魔法の武器、聖剣『アルマス』デビルスレイヤー と、レイピア『ヴァーチカル・ウィンド』を貸し出そうと申し出る。
「とりあえずこれで少しでも戦力があがるのなら‥‥ね」
と、赤面しながら述べ、続けて──。
「‥‥まあ、あれです‥‥ミュレット様は陽動で、その力をいかんなく発揮してくださいね‥‥。
‥‥ええ、思いっきり暴れてくれても、きっと大丈夫ですし‥‥」
オルステッドも波に乗り──。
「私の予備の魔法武器は騎士団本隊に貸し出すとしよう。あくまで貸すだけで、返却して欲しいものだ。特に小太刀はいいモノなのでな。そういや『ダルタニアン』とやらを手に入れる方法はあるんだろうか? 売ったとか言うなら、なおさら欲しいものだ」
「この作戦が成功したら、差し上げます」
と、妙に太っ腹なミュレット。
リトルヴラドもかんらかんらと笑って。
「我が輩も魔法武器コレクションが沢山あるので、使うといいのだ。後ろから来る面子は心強い方がいいし、何より我が輩は手が2本しかないのだ!」
咳払いするカイ。
「ともあれ、100人も脱出させようと思ったら、城門を開けるしか方法はないと思います。外からが無理なら、内側から開けるしかないでしょう?」
シューとミュレットは頷く。
蕩々と続く作戦オプションをカイは述べる。
早朝、日が昇る前に行動を開始。
城門突破が可能そうなら、陽動班は城塞近辺で待機。無理なら全員、アルルがスクロールで外壁に穴を開け潜入。陽動班と救出班に分かれて潜伏し、日が昇ると共に見張りを襲撃する。
内部から城門を開けにかかり、その後弓を持っているものを優先的に攻撃していく
ルガー、モーゼルと思しき相手に遭遇した場合、手を出さずに即時に後退、仲間との合流を図る。攻撃は兎に角避けるよう心がける。
そこにマリウス・ドゥースウィント(ea1681)は若干の補正を加える。
監視の弓兵を叩いてから、配置されている弓の弦を切って弓として無効化。
その上で次のカン伯爵領騎士団による攻城時の為、障害撤去。
更に提言を行う。
「城塞と魔王崇拝者の情報からするに、相当数、悪魔と契約したデビノマニがいると思う。
人間相手と考えない方がいい。重い武装だから動きが愚鈍だとは限らない。
冒険者にだって、指輪などの加護であの装備で身軽に動ける者がいるのだから」
「そんな指輪あるの、あったら何がなんでも欲しい‥‥騎士として恥じない範囲でよ?」
ミュレットが言った言葉にシューが付け加える。
「その様な品はエチゴヤでしか手に入らず、非常にレアと聞いています。入手はなかなか困難でしょう。それとこの前、キャプテン・ファーブルから聞いてきたのですが、悪魔崇拝には階級があるそうです。自分の魂を切り売りして、力を1度だけ貸してもらうから、魂を堕落させまくって、完全に悪魔に売却。この悪魔に売却というのが世に言うデビノマニという人間が悪魔に生まれ変わったもので、そう多くはいないそうです」
「そうなんだぁっ」
リュリュが頷く。
ともあれ、最後の締めはカイが行う。
「‥‥以上が我々の考えた作戦です。これでよろしいか?」
ミュレットは少し考えた後。
「陽動班はルガー、モーゼルと接触した場合、騒ぎを注目させるため、そして、あわよくば撃破するため、即座に戦闘。その為、戦力は集中。救出班は各自の判断で行動、以上が変更点ね」
「隊長、今度の作戦は陽動にすべてがかかってます!」
とリュリュは彼女を、おだて上げる。
「意見良いですか?」
とエルリック。
「城門を開けるのに自分達で破城鎚を使うべきでは? 相手が城塞に籠もる場合ですが──籠城戦というのは根本的にどこからか援軍が来るか、状況の変化があって、自分達が優勢になれるのを前提に立てている作戦の筈ですから」
そこで呼吸を整えるエルリック。
「私も相手が野戦に打って出てくれるのを期待していますが、人質という者がいる以上、それをカードに使われるより早く、相手の鎧を引きはがしてはどうかという事です」
「それは難しいでしょうね」
と、シュー。
「破城鎚自体は木を切り倒して、どうにかするとしましょう。
──ですが、相手も籠城している以上、城門などに正面から近づいていくのは甚だ危険かと思われます。
そんな所へ、この船の人員を割くことは帰路の確保から問題がありますし、そもそも周囲の村人が人質に取られたか、避難しているため、必要な人数が集まるかは確約できません。
ですが、村人達の命をチップにそんな博奕をする訳にはいかないでしょう? かといって皆さんで突撃をかけるには体力上、問題のある方々が多々見受けられます。
時間との勝負ですので、破城鎚よりは先程の作戦が適切かと思われます」
カンで破城鎚のための人員募集を行ったが、限られた時間のことで結局は予想以上の人数は現れなかった。
ここでシューは後方支援に移る事になる。
そのまま、オール河伝いに移動し、城塞まで到着。
レティシアは夜明けと共に皆が行動出来るよう、偵察は夜の内にすませていた。
見張りの巡回のタイミング、入れ替わりの人数、城壁の上に12人おり、全員がヘビーボウを装備している。ヘビーボウは人間が持ち歩ける最大の弓であり、設置型ではない。
結局レティシアは、日が明ける前に城壁内には入れず、城門付近まで出来るだけ近づけるように、隠れられる場所の確認を行い、帰ってきた。
夜明け前、潜入ミッションには五月蠅すぎるのでは、とのシューの意見具申の下、ヤングヴラドは甲冑を外す。
そして、位置を確認しようとリュリュの唱えた呪文により、緑色の淡い光が発生、見張りの親衛隊に気づかれる事となる。
「あははー、見つかちゃったみたい」
「ここは我が輩に任せるなのだ!」
ヤングヴラドはトールの十字架を振り回しながら‥‥。
「ふはははははは! ヴラドの参上なのだ〜。義によってカン騎士団に助太刀いたすのだ〜。今回は久々の戦闘で興奮するのだ!」
「エルリック・キスリングです。あなた方を正しい信仰にお導きします。いくぞトゥルーグローリー号」
見付かったため効果を得られたか心もとないがヘキサグラム・タリスマンを信じて、この作戦のキーポイント、アルルを後ろに乗せてエルリックは邁進する。
一方、親衛隊は三人一組で、ヘビーボウの番えの時間を、極力少なくしているらしい。
ちなみにヘビーボウは重たいが、肉弾戦では直接殴打するのにも使えて、その辺の取り回しが気に入られたのだろう。
上から降り注ぐ──といっては装飾過大か──のヘビーボウから放たれた矢を烈は見事なステップで避けていく。
「これはまた困難な依頼だな、それだけ信用されているという証か。期待を裏切るわけにはいかないな」
城壁直前に辿り着く、と見せかけ、後ろを見せないようにしながら、親衛隊の弓兵の注意を引く。
「やっぱり、破城鎚で正面突破した方が時間はかかれども、楽だったろうな」
その人数が集まらなかったから、こうして城攻めを行っているのだが、それはさておき──。
「やあやあ、遠からん者は音に聞け! 近くば寄って目にも見よ!」
ミュレットが愛馬に跨り、城門付近へと注意を逸らそうと、エルフの喉にしては大音声を張り上げる。
マリウスがアルルを城壁まで届けた後、士気、武装、盾、鎧、全てをオーラで加速させ、ミュレットを守り抜こうとする。しかし、他人のカバーをする程の余裕はない──。
ミュレットが避けきれず一本の矢が上腕部を掠める。
「チッ! 後退するぞ!」
オルステッドが叫ぶ。
「隊長も手傷を負った事だし」
「そんな理由で退けないわ!」
そこへエルリックが愛馬を駆って訪れ、流れ矢で傷ついたミュレットに白く淡い光に包まれながらリカバーを施す。
「今はこれが精一杯ですが──」
「ありがとう。この前は刀を向けたりして悪かった。絃也にも、出撃前に言われた『突出しすぎて怪我せんでくれよ、一応姫さんなんだからな』って」
「判っているなら結構です──姫さん」
「私は姫ではなく、“騎士団長”と呼ばれたいのだ」
「ならば、自分相応の相手と戦って、戦歴を積むべきでしょう。背伸びし過ぎては、私の魔法でも、治療術でも手の施しようがありませんから」
「むう、連中、城から出てこないのだ」
ヤングヴラドが一頻り挑発したものの相手は、形勢を崩さない。
「あたたた、向こうさん、矢尻に屍毒でもぬってやがるのかな」
レティシアが射撃合戦の常、射程距離と矢の数で負けて、這々の体で逃げ帰ってくる。
それを見たエルリックは、白い淡い光に包まれ、アンチドートの魔法で、動物毒を消し去る。
「数が足りぬか、となると潜入班が頼りだな」
「壁を壊すと音がでるわ、ここは私に任せて」
アルルは言いながら、淡い褐色の光に包まれて、スクロールから地の精霊力を引き出す。心なしか、頭の天辺が熱い。どうやら、上は上で下に対して痛撃を加えようと──おそらく熱湯でも被せようと──しているのだろう。
焦りに駆られつつ、2回目にスクロールを唱え終わったとき(結局、城壁は1メートル以上厚みがあったのだ)、出来た穴におのが身を投げ込んだ。脚の先が少々熱い、かすり傷程度とはいえ、火傷を負ったのだろう。
リュリュがお湯が注がれる前に敏捷に飛び込んでくる。向こうも無尽蔵に湯を沸かしていた訳ではなく、その命中精度も決して高いものではないのだろう。
「全員は無理でも‥‥出来るだけ」
言って、潜り込んできたヒールはアルルの脚の火傷に十字架のネックレスと手を当てて、白い淡い光に包まれながらリカバーで癒やす。
「傷跡は‥‥」
「──ごめんあそばせ」
男物の衣装に身を包んだヒスイが、そのふたりの間を割り込む形で入ってくる。続けて、カイも滑り込んできて、一時パニック状態になった。
絃也も這い込んで来て、その頃になると表側の穴から消えていく。
リュリュは指輪の中の蝶を見てため息をつく。
「まだ、魂全部売らなきゃ“石の中の蝶”じゃわかんないってシューさん言ってたよね」
「早く村の人を見つけ出さないと大変な事に‥‥」
必死になるアルルに──リュリュはあっけらかんと。
「こっちの方に見張りがいるよぉ‥‥多分、体格からしてね。あと十数人、子供みたいな雰囲気の大きさのが──多分人質」
「じゃあ、リュリュと私とで見えたら魔法で先制攻撃をかけるから。退路の確保もして置かないとね」
「多分、城のぱっと見と、入ってきた位置がこうだから‥‥迷路でもなければすぐに行けると思うわ」
ヒスイの打てば響くような声に、一同は胸を撫で下ろす。
彼と別れて、階段を降りた牢屋の前には4人見張りがいた。
一同の足音を聞きつけて、誰何の声が上がる。
流石に親衛隊と言えど、屋内では長い弓は使えず、殴りかかろうと階段を駆け上がってくる。
真っ直ぐ並んだ所にアルルが一瞬で紡いだ稲妻が、指先からジグザグに放たれる。
呪文が終わると緑色の淡い光が空気に溶けるように消えていった。
続けて、同じく淡い緑色の光に包まれたリュリュの呪文が竜巻を巻き起こして、親衛隊4人を階段から天井まで、短い旅をさせる。石天井と石床に叩きつけられて動けなくなったのが大多数だったが、ひとり根性で堪え忍んだ者がおり、何やら黒い霧の様な物に包まれて何かを呟こうとするが、絃也の一撃まで凌げる程、タフではなかったようだ。
「峰打ちだ。貴様には情報源になってもらわねばな」
壁に掛かっていた鍵の束をヒールは探り、牢を開ける。
上から多数の足音とヒスイの声が聞こえる。
「出口は見つけたわよ。早くして、向こうの新手が来るわ!」
「ルガーとモーゼルは後回しか、やむを得ん、皆行くぞ」
絃也はヒスイと位置を入れ替わり、狭い階段で立ち回りを繰り広げる。
「皆さん、そろそろ潮時です‥‥。人質になっていた方もここにる方は全部助けられたようですし‥‥そろそろ撤退しましょう‥‥」
ヒールは子どもたちにしがみつかれながらも、十字架に祈りを捧げ淡い白い光に包まれる。その光は絃也の目の前の敵を打ち据えた。
悪党どもに聖なる母の慈悲やなし──とは言ったものである。
皆で内側から正門を開け、ついでに簡単には修理できないようにして、正門から飛び出す。
絃也は深傷を負ったものの命に別状無し。教会付きの神父に傷を癒やしてもらった。
そして、この戦いを経て、隊員見習だったものは正隊員に昇格し、エルリックとヤングヴラドには仕官の声がかかった。
絃也が引きずり出した捕虜は舌を噛んで絶命したものの、正門を開け放しにして攻略を容易にしたという事で、作戦は──ついでにミュレットも──評価される事となった。
直後に大攻城戦が繰り広げられたが、今度はカン伯爵領騎士団が数で押し切ったそうである。
しかし、ルガーとモーゼルの姿はなかった。
完璧を期すとまでは行かなかったが、出来るベストの事はしたのだろう。
「そう言えば、父上、最近私と全然話をしてくれない──フィーシルの関係が忙しいのかしら?」
ようやく功を認められたミュレットはぼやく。
そして、彼女の代わりに矢を受けた代償としてオルステッドは、レイピアダルタニアンを賜ったのであった。
勿論、一同が貸与した武器も、無事返品されている。
後に、メルトランの下に新たな側近というより、小姓にシフールのジプシー、ラモアが加わったと聞いたのは、パリに帰る途中であった。
ともあれ、あれこれの暴言も全て帳消しになり、うららかカンの陽の午後であった。
これが冒険の顛末であると、吟遊詩人リルリルは唄う。