絶対に何人たりとも妥協してはならないII

■シリーズシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:10〜16lv

難易度:難しい

成功報酬:11 G 64 C

参加人数:14人

サポート参加人数:2人

冒険期間:11月15日〜11月30日

リプレイ公開日:2005年11月22日

●オープニング

「元冒険者と有志の神聖騎士の方で、悪魔崇拝者の首魁ルガーとモーゼルは取り逃がしたものの、一応の所、トンプソンの方は安定したようです」
 魔王崇拝者に関連して、以前のアンドラス事件の調べ物でパリに訪れた、エルフの少年伯爵フィーシルであったが、随従の予想に反して電撃的に冒険者ギルドを来訪、依頼に訪れた。
「ところで──伯父と同様に、冒険者ギルドの仲介でお願いしたい事があるのですが──この依頼は自分とギルド内部以外閲覧不許可の扱いとして頂きたい」
 取れたてのワインの入ったゴブレットを手の中で弄びながらも、堂に入った姿勢で、白髪青眼の少年貴族は、通された部屋で、受付に依頼内容を言うでもなく、まず情報の取り扱いに関する事から始めた。
「伯爵閣下には相応の理由がお有りなのでしょう──ならば、必要とする手続きも増えますが」
「承知の上です。依頼する皆さんは以前に騎士団試験に合格した方、及び彼らが推挙する方々に絞り込みたいのです」
「して依頼内容は──?」
「カン伯爵領騎士団団長である我が伯父メルトラン・カン、並びにその腹心、シュー・ドゥモッサーの人間関係を“隠密の内に”洗い出して頂きたい。
 自分の後見人と、その信頼する人物が怪しいというのは情けない話ですので、この報告書は自分とギルド関係者のみの閲覧を。と、お願いしたのです。そして、間違っても僕の従姉のミュレット・カンには読ませないで頂きたい」
 フィーシルの話によると、騎士団に新規メンバーが参入した。シフールの男性のジプシー“ラモア”だという。
 この様にフィーシルのあずかり知らぬ所で、いつの間にか人事が大きく動いており、その幾つかはいささか叔父の挙動に不審なものが見えるという。かといって、なんら表向きは失態もない後見人に直裁に物を言える立場ではない為、少年としては影に潜まざるを得ないというのだ。
「とにかく、ミュレット従姉さんだけは悲しませないでください、よろしくお願いします」
 それが何人たりとも妥協してはならないポイントであった。
 こうしてギルドに仲介料が手渡された。
 これがカン伯爵領騎士団を巡る第2の冒険の始まりである。

●今回の参加者

 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1603 ヒール・アンドン(26歳・♂・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea1643 セシリア・カータ(30歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1681 マリウス・ドゥースウィント(31歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1872 ヒスイ・レイヤード(28歳・♂・クレリック・エルフ・ロシア王国)
 ea1911 カイ・ミスト(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2037 エルリック・キスリング(29歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea2350 シクル・ザーン(23歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 ea2389 ロックハート・トキワ(27歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea2449 オルステッド・ブライオン(23歳・♂・ファイター・エルフ・フランク王国)
 ea4167 リュリュ・アルビレオ(16歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea4169 響 清十郎(40歳・♂・浪人・パラ・ジャパン)
 ea4470 アルル・ベルティーノ(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea4481 氷雨 絃也(33歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

マギー・フランシスカ(ea5985)/ ファースト・パーマン(eb1514

●リプレイ本文

「イヌは飼っているか?」
「ええ、元気なのが1匹。でも船旅は嫌いみたいで‥‥」
「いや、そうではなく」
 氷雨絃也(ea4481)は、カンへ行きがけの船の中、こちらは帰路のフィーシルに密偵(イヌ)はいるか、と問い質したのだが、上手くニュアンスは通じなかった様である。
(乱破や忍びを見れば主人の人間性が判るとは聞くが‥‥ここまで陽性だとな──逆に一抹の不安を感じる)
「つまり、盗賊ギルドなどの繋がりはないという事だな」
「ありません。過剰な犯罪の防止弁としての盗賊ギルドは一応評価しますが、それに為政者が関わると、拗れた関係になってしまいますから」
 彼はもう一つ、フィーシルの護衛兼、彼の監視を行うという目的を自分自身に課していた。
 実は依頼者が陰謀を企んでいたという本末転倒的なことにならないよう、保険的なものとして、護衛と共に監視するというものだった。この調子では護衛だけで済むだろう。
 また、それとは別にカンの騎士団と、11年前の事についても時間の許す限り調査を行う。
 特に、古株の騎士及びそれに順ずる熟練騎士。それらに加えて厨房を預かる厨房長、兵装関係の管理者、これらについて、綿密な聞き取り調査を行った。
 その結果、カンの騎士団は3番隊構成になっており、常時近衛など花形を務める第1隊。実戦で、兵科の様々な層の厚みによる強さを持つ第2隊。最後は他の隊を合計した人数を持つカンの水便を取り仕切る第3隊と分かった。
「自分達は第2隊扱いという事になるらしい、な」
「ええ、そこを叔父に無理を押して、第1隊を魔王崇拝者の調査に当てています。悪感情といえば、大体に於いて第1隊は規模の点で第3隊を忌々しく思い、第2隊は優遇された第1隊を快く思わず、一方、第3隊は海戦で使える様々な人材を要する第2隊を羨望する、という公式が成り立ちますね」
 ちなみにメルトランはカン騎士団団長兼第1隊隊長。シューが隊長補佐を務めているのだという。
「何にしろギルドには自分であたりをつけるしかないか、前の情報屋から伝っていけば某かの成果は上がるだろう。姫さんも大事だろうが‥‥」
「だ、大事だなんてそ‥‥そんな」
「‥‥お前さんも要であることを忘れんようにな、故に少々張り付かせてもらう」
 彼らの話が一段落したところでの、エルリック・キスリング(ea2037)のストレートな問いに、フィーシルは少年らしく真っ直ぐに返した。
「前回に参加した折、騎士団への仕官の声を掛けて戴きました。
 非能非才の身ですが全力をもって当たります。
 最初にフィーシル伯爵にお聞きしたいのですが、卿は誰が一番怪しいと思っておられますか?
 問題に直面している人が、回答に近いのもまま有る事ですから。」
「シュー・ドゥモッサーだと思っています」
「成る程、ではそういう事で調べさせていただきます」

 名も無き船がカンについた所で、魔王の復活の先触れとされ、瑠璃色の死神と噂される、ジャイアント・モス、インセクトのキャピー襲撃の報に、街からは慌ただしく人々が避難しようと試みている。
 そこへ、シクル・ザーン(ea2350)はカン城で、朝焼けと共に出陣しようと兵を整えているメルトラン・カン騎士団団長に面会を申し出る。
「人払いと──魔法による感知をお許しください」
「もうすぐ出陣だ、手短に頼む」
 と言って、従僕を勤めていたシフールに席を外させる。これがラモアだろう。
「それでは──」
 一瞬の詠唱と合掌の後、黒く淡い光に包まれ、この場にいる生命の位置を全て暴き出したシクルであったが、特に不審な場所は無かった。
「申し訳ありません。
 僕がいても、ジャイアントモスを魔王崇拝者達に奪われてしまいました。
 もうご存じと思いますが、ジャイアントモスは差し渡し12メートル以上の身体を持ち、麻痺毒の鱗粉をばらまいて飛ぶ巨大昆虫です。
 既にキャプテン・ファーブル達はジャイアントモス討伐に動かれましたが、こちらでも対策をしておくべきと存じます」
「具体策は?」
「現状の軍備を見ないと何とも──ともあれ、ファーブル島でのキャピー飼育の注意事項などを元に、肌を覆い、特に呼吸器官は濡れ布巾などで厳重に守って、できるかぎりの飛び道具と毒消しを用意する」
「濡れた布やマントの着用は徹底した。毒消しはある分だけ用意したが心もとない。とはいえ、今から補充できるものでもなかろう。だが、キャプテン・ファーブルに倣って射手を加えよう。第2隊の準備急げ!」
 この準備時間が、後にキャプテン・ファーブルの雇った冒険者達がキャピーを討つ時間に繋がっている。
 話し合いから戻ってきたメルトランとシクルに対し──。
「キャピーの脅威が迫る今、カンの民を護る事が我らの使命。そのために街の視察と対策を考えねば」
──オルステッド・ブライオン(ea2449)は訴えるが、時間的に無理があった。
 それにメルトランは野外戦を考えている様だ。
「それと、オルステッド卿、キャピーの囮の餌を捕まえたそうだが、大義であった」
「その程度の事‥‥幾らでも」
 そして、キャピーは冒険者に討たれ、この事件の黒幕らしきデビルがアスモデウスであるという事が判明。代わりにキャプテン・ファーブルはカンを追放される事となった。

 そんな後始末はキャプテン・ファーブルに任せ、一同は訓練に励むのであった。
「やっぱ、騎士団入ったからにはちゃーんと挨拶しなきゃね」
 リュリュ・アルビレオ(ea4167)がミュレット・カンの護衛の合間を縫ってスマイルをふりまく。
 アルル・ベルティーノ(ea4470)は一方で礼儀正しく。
「私程度の魔法でも感覚を掴んで貰えたら嬉しいです、よろしくお願いします」
 折り目正しいアルル。
 彼女もミュレットの警護上、第1隊と訓練を一緒に受ける。古参騎士団員は自分に向かってくると判っていれば、盾で幾らでもウインドスラッシュでもライトニングサンダーボルトでもいなしていく。
「ほら、魔法にばかり頼っているから‥‥」
 ふくれるリュリュに対し、お姉さん気分に浸るミュレット。
 だが、彼女も日本刀に頼っており、大同小異であった。
 しかも、彼女は日本刀に振り回されているのだ。
 リュリュは訓練も一緒に受けて、打ち解けてもらえるようになった所で、友達同士の相談的に『最近の団長のこと』などを訊いてみる。
 話をしてもらえないとか呟いていたのが気になって‥‥と。
「いいのよ、もう。だって、父親が娘にこの歳になって過剰に干渉するなんて鬱陶しいだけでしょ? だから、もう」
「え〜、それでいいの、みたいな?」
「大体1年くらい前にシューさんを正式に団に入れてから、あまり話す機会はなくなったの。いいの、代わりにシューさんが気を配ってくれるから」
「本当にぃ、それだけ?」
「本当はもっと話をしたいし、軍功を立てた時以外で話もしたいの。フィーシルも魔王崇拝者への対処で忙しいし。本当はもっと、みんなに構って欲しいの」

 その頃、ヒール・アンドン(ea1603)はカン城内部を見て赤面しつつ(別にいかがわしいモノがあった訳ではない)。
「‥‥そういえば‥‥騎士団になってから‥‥城に来たのって初めてなような‥‥。
‥‥って、あたりまえか‥‥。‥‥依頼自体が2回目なわけで‥‥」
 と、ひとりごちつつも、白兵戦では自分と同体格の、エルフの騎士に押され気味になる。やはり、流派はノルドが多い様で、中々に呪文を出す隙を与えてくれない。
「やっぱり、高速詠唱とか必須ですね。でも十字架どうしましょう? 戦闘中に合掌するのは激しく危険な気が‥‥。
‥‥‥むぅ‥‥訓練とか微妙に苦手なのですけどねー‥‥。‥‥特に白兵戦は‥‥。
 ‥‥いや、苦手を克服するためにするから訓練なのか‥‥」
 と見事なひとりボケひとりツッコミをしながら、自己批判するヒールであった。
「確かに盾で受ける事が出来れば、一撃で破壊する様な技を以てしなければ無敵だと思います──しかし、これはどうです」
 と、月桂冠のみを頂いた風烈(ea1587)が馬上の騎士に向かって見えないほど鋭い蹴りを叩き込む。
 首筋で寸止め。
「見えなければ受ける事、避ける事も適わないでしょう。これが俺の奥義、鳥爪撃です」
 むう、見事な技であった、と賞賛される烈。
 マリウス・ドゥースウィント(ea1681)も見事なオーラの技のバリエーションを出して、古参騎士一同を驚かせる。
 そこで一定の評価が得られた一同はメルトランの人となりに関して問い質してみる。
 古参騎士からは、単なるブラコンという悲しげな声も上がったが、全体の評価としては、柔軟性があるが、真面目。いつも何かを探しているかの様、という評価が多かった。
「伊達に血縁だけで、騎士団長をやっているという訳ではないようだな」
「そう言えば、『11年前に選択した事』というのは噂では聞いた事があるが、それはどういう事だ?」
 と烈が問えば、
「‥‥過去‥‥11年前の戦いのこと‥‥何か知っていたら聞かせて欲しいのですが‥‥」
「先輩、これから騎士団員としてやっていくこの身です。守るべきカンの事をしっかりと知っておきたいんです」
 ヒールに続いて、アルルも訴える。
「そうです。仕える地の歴史を知らねば道化もいいところでしょうから。」
 カイ・ミスト(ea1911)と烈、ヒール、そしてアルルの声に熟年のエルフのナイトが──。
「ああ、それか? あれは復興戦争の折に騎士団が挙兵して、カン城を奪還しようとした時、神聖ローマの連中がこの城に立て籠もったんだ。
 で、ジャパンやイギリスの援軍を受け、カン城の包囲をした時にだ、後方で敵軍の動きがあった。そこでメルトラン騎士団長は初戦を勝って奪還作戦の士気を高めるためと、敵の動きがこちらの後方を遮断に入る様に見せかけた囮だろうと、判断した。
 それで当時の旗印であるゼントラン・カン前伯爵閣下に出陣願った訳よ。そうしたら──」
「そうしたら──って、肝心なところで焦らさないでくださいよ〜」
 ヒールは急かす。
「それがだな、後方の動きはカンを逆包囲しに来た敵軍の本隊で、伯爵閣下は戦死。遺児を団長に託して、聖なる母の下に召されたわけだ」
「つまり、騎士団長の采配ミスで前の伯爵閣下が亡くなった訳だな? 騎士団長として自分が出れば良かったものを、それを誤った、それが『選択』だな」
 烈が確認する。
「“メルトランの選択”って言ったら、この辺りなら吟遊詩人の語り草にもなっているしな、兄弟仁義で、お涙頂戴の」
 その背後でセシリア・カータ(ea1643)は元気いっぱいに練習を続けるのであった。
 一方で響清十郎(ea4169)は騎乗突撃の練習をしている。地に足をつけては、一度の戦いで騎士団入りを確定とした腕前であり、馬上でランスを使えれば、隔絶した破壊力を誇ることになるだろう。。
 カイも驚嘆する程に、馬の扱い、騎乗の腕前ではない、馬馴れの方だ、も素晴らしい。
 シフール・ジプシーのラモアも翔んできて、妙技に見入るのであった。
「すごいですね、自分もあそこまで馬を乗りこなす人を初めて見ましたよ」
 ラモアの言葉に清十郎は──。
「いや、おいらみたいなパラはシフールと同じで体力ないから、ランスって中々装備できなんだよね、結構鬱屈溜まってるかなって。ね、ジプシーでしょ? 何か魔法見せてみて」
「すいません、今、魔法の方は騎士団長の命で探索に使っているので、魔力に余裕がないんです。ご免なさい」
「ふーん、探索ってどんな? なんて秘密だから、そんな事は言えないんだよね」
 その時、礼拝堂の鐘が鳴った。
 礼拝堂が城塞の中にあるのは、攻城戦にそなえての事である。
 閑話休題。
 一方で烈は悪魔崇拝者が多く、シューが『魔王など出てくるには相応の何かがあるのでしょうね』といった時の騎士団長の様子が少しおかしく感じたので──。
「いつごろから悪魔崇拝者が増えてきたのか、何かきっかけとなる出来事や伝承等がないのか教えてもらえれば」
「やっぱり、シュー殿が来た頃合いからでしょうかね? その1年くらい前から、噂だけは先行してましたけど、実際に行ってみると、流言飛語だったってオチが」
「それと関係あるかどうか判らないけれど、騎士団長が自分の部屋を変えた、というのもあるでしょうかね?」
 それを背中で聞いたマリウスは侍女の力仕事の手伝いなどをして、周囲を華で賑やかす。
 メルトランとゼントランとの関係はどうだったかと尋ねれば。
 メルトランはゼントランの良き弟であり、親友であり、戦友であった、という。
 それは死す時まで変わらず、メルトランに息子を託された事でも察せられる(もっとも、他に人材がいなかったからという事もあるにはあるが)。
 メルトランがフィーシルをどう評価しているか──。
「英邁な君主に成られるであろう、と。
 今の内から政治にも秀でて、カンの将来は安泰だ、とまで仰っていましたからね。でも、どうしても、前の伯爵閣下と比べ勝ちで‥‥。
 でも、夢見がちで、頭でっかちな所がある。ほら、セージになりたいなんて、ね。
 本当にそんな凄い魔法使いいるのかしら?」
「──成る程、それは懸念すべき事かもしれないな‥‥他には?」
「自分の判断ミスで前の伯爵閣下の命を奪った事に今でも深い悔いを残しているみたいよ」
「でしょ、でしょ」
(愛国心溢れる者が忠の者とは限らない。よい人物だからこそ国を憂う余り謀を行う事もある)。
 マリウスは己の言葉を肝に銘じ、不正規な相手への戦い方に戻っていった。

 ミュレットと手合わせしながら、エルリックは彼女の弱さに驚いた。
 手数、技倆とも明らかに彼女が下である。
「武器を変えた方がいいのでは?」
「いや! これがいいの」
 エルフの腕力で扱える武器は重量が限られる。オルステッドは彼女から与えられたレイピア“ダルタニアン”を捧げる様に構える。
「フッ‥‥この剣、ダルタニアンを授かった上は、身命を賭してお仕えしよう。
 まあ、レイディの扱いは素人だがね」
「『レイディ』は『レイディ』でも『サー、ロード』の対となる方の騎士の『レイディ』よ。お願いだから手加減しないで」
「騎兵突撃は騎士道の華。
 だが私達エルフは決定的に力に恵まれない。むしろ器用さと俊敏さを生かした格闘か‥‥知略だ、な」
 と、そこで回想に耽る振りをして、過去にコボルドから村を奪還する際、体力が低かったゆえの失態を呟く。
「やっぱり、エルフって損よね、どんなに頑張っても力が伸びないんだもの。そうよね、ならば知力とスピードで勝負よ」
「フ‥‥その意気だ」
 さりげなく11年前の話や、城内やカン市街の案内なども頼んでみる。
「‥‥武勲話をお聞きしたいものだ」
 と言った所で、彼女の武勲は担ぎ上げられた、トンプソン城のモーゼルとルガーの魔の手から村人を逃がす陽動をやった程度しかない。
「‥‥いざという時のため」
 と、街の案内を依頼する。
 短いながらも平穏な日々が過ぎていった。

 マリウスは冒険者コトセットと、キャプテン・ファーブルが話し合った結果である、アスモデウスが持つであろう7つの特殊能力に関してまとまった事項を大きく板書する。

「これが今後の仮想敵に関してです。

1.かなり多くの言語を使いこなす。あらゆる言語に精通しているともいわれる。
2.体を他の生物に変化させる。最大はおそらく自分と同程度、最小はハエまで。
3.地上にいるのと同様に空中を動く能力。突進できるほど早くはないらしい。
4.姿を透明にする能力。
5.魔法か、銀及び攻撃補助の魔法を施した武器以外からは傷つかない。
6.他の生物に憑依する能力。憑依されるてもデビルの意のままに動くわけではないが、ある程度その意向に即した行動を取ることが多いと言われる。
7.瞬時に違う場所に移動する能力。距離の制限はほとんどないらしい。

 他にもアスモデウスは並の剣ならば、一撃で破壊するだけの魔力や、黒の神聖魔法、デビル魔法と呼ばれる特殊な魔法を使いこなす様です」
 続けて闘気を使いこなせる資質のある者を探す。
 第2隊ではドワーフやジャイアントも比較的多く見られ、彼らなら可能性は持っているだろう。
 それでも、資質を開花させるには、数多の実戦を積まねばならないようであった。
「そうですね。
 その気と才能があっても、依頼を複数こなさなければ、オーラを使いこなす技術なんて身につかない。
 それも最小レベルのものです」
 教えられるのは気構えだけであった。それでもマリウスは根気よく闘気の心構えを教え続けるのであった。
「という事で未来予知でオーラパワーを使える者に関して何か見えないか判りませんか?」
 という名目でジプシーでシフールのラモアに近づき、マリウスは情報を得ようとしたが、ラモアは今、魔力を使い切っているとの事だ。
「すいません、今、自分魔力切れなので眠らせてください。あ、起きても魔法を団長閣下の為に使わないと‥‥」
 マリウスの石の中の蝶ははためかなかった──。
「団長、ジプシー使いが荒いので困っているんです。遠くを見るのに魔法を貸せだの、やれ“心”を探すのに魔法を使え、だの‥‥。あ、すいません、今のは聞かなかった事にしてください」
「いいや、聞き捨てなりません」
「いいんだよ、ラモア」
「あ、団長」
 寛いだ衣装のメルトラン・カンがそこにいた。

 彼は行き会った所をロックハート・トキワ(ea2389)から相談を受けていたところである。
 若者の悩みは、というと。
(う〜ん‥‥騎士になっても前回の様に召集されても忙しくて来れなかったりするし、世間一般で卑怯と言われる行動が出来なくなるし色々動きづらくなるんだよな‥‥‥‥だが、騎士にならないと信用されないし‥‥‥‥さて、どうしようか?
 騎士にならずに信用を得られるのがベストなんだがな‥‥。
 あ〜、直接隊長に聞いてみようかな〜‥‥だけどそんな暇無いしな〜)
 と、回廊脇で転がっていた所をメルトラン、いや正確には先触れの侍女に発見され、精しい話を問い質されたのである。
 話し合いの結果としては、第2隊にいれば、騎士らしい戦いはしなくても構わない。招集は出来るだけ応えてほしいが、もっともな理由があるなら強制はしない。ただ、理由無く応じないというのは認められないが。
 第1隊が騎士団戦の花形。第2隊がオールマイティの何でもあり。第3隊が水戦特化型という形で住み分けられている。

 一方、男装の麗人(?)ヒスイ・レイヤード(ea1872)がカンの街を行く、酒場にて──。
「少し調べたい事が、あるがいいだろうか?
 尚、他言無用なんだが」
「ファーストから話は伺っていますが、後はお代次第で」
 無言でヒスイは小袋から金貨を覗かせる。
 向こうの態度は柔らかくなった。
「調べるのは、怪盗3世と騎士団長の事、評判とか新人のジプシーとシューの事など」
「怪盗3世ですか‥‥? 本格的に調べるのは骨が折れますぜ、何しろ月道渡りの、本物のニンジャって奴らしいですから。
 判っているのは名前は甲斐人、姓は不明。
 あのローマを相手に不傷で盗みをやってのけた『怪盗』の孫。
 ニンポーには精しくないんで、割愛を。
 で、騎士団長ですか、あれは筋金入りのブラコンですな。
 前の伯爵が亡くなっても、その忘れ形見である伯爵の事を遺言通り馬鹿正直に心配して自らの手の内に収めかねない勢いだ。。
 公人としては、柔軟だが真面目というのが表の顔です。
 しかし、兄を生き返らせることが出来るとなったら、裏で悪魔と手を結んだって驚きやしませんが。
 もっとも10年以上前の死体を生き返らせる魔法なんてジーザス様でもなければ、出来やしないでしょう」
「で、ジプシーのラモアに関しては?」
「魔王崇拝の村で、討伐隊に危うく魔王崇拝者扱いされかかった所を、騎士団長に助けて貰ったのが、騎士団に入った契機と聞きます。実際の加入と昇進にはどうやら、例のシューさんの手が伸びていたようですが。それでも第1隊にいるのが不思議な事ですよ」
「ふーん、悪魔祓いとしては聞き逃せない話ね。で、シューに関しては?」
「それが国籍も種族、性別も不明で、にも関わらず、第1隊に収まった、風雲児と言いますか、それこそ悪魔の様な、と言いますか? これ以上の調べは別費用となりますが?」
「いいです‥‥今の所」

 仲間の事は知って置きたいと言う建前でラモアの素性やどう言う経路で採用された人かを先輩に尋ねていたアルル。
「同じ新人として仲間の事は知って起きたいの。でも直接聞くのって恥ずかしいから教えてもらえませんか?」
 私はシフールで陽魔法使いなら聖遺物や魔法物探査には持ってこいだと思ってます。
 という彼女の話に古参騎士も同意して、明かしてくれた話だと、かなり強引なシューの割り込みがあったとの事だった。

 そして──。

 メルトランはシュー、そしてフィーシル・カン伯爵と絃也を連れてラモアとマリウスの前にいた。
「良いんだ。今、シューと話し合って過剰な隠し事は止めにしようと決めたんだ。ラモア、ソルフの実だ。もう一働きしてくれ」
「それは清十郎さんにも何かを見せてあげたいですけどね」
 ソルフの実をふたつ囓って、ラモアは見せたいモノがあると清十郎を呼ぶと、メルトランの部屋の大窓まで出て行った。
「じゃあ、行きますよ」
 ラモアは激しく踊って、黄金色の淡い光に包まれ、フィーシル、清十郎、マリウスに触れていった。
 彼らの視界が一気にズームし、城を遠く離れた城の中にひとりの中年男性が寝台に横たわっているのを見た。
 中年のエルフである。メルトランと同じ金髪とフィーシルと同じ青い眼を持っていたが、心ここにあらずといった体であった。
「父上‥‥」
 フィーシルは眼を見開いたまま涙を流した。
 やがて、視界は徐々に本来のそれに戻る。
「今こそ明かしましょう。私の素性を‥‥」
 男にしては高すぎ、女にしては低すぎる声で、シューが繊細な手で黒衣のフードを払うと、そこには銀髪を丁寧に撫でつけた、人──否、ハーフエルフの男の顔があった。
「自分はロシアの出身ですが、どうしてもハーフエルフ優越主義についていけず、自由の国、ノルマンならば──と、思って放浪した者です。
 精しい経緯は省きますが、その旅の最中にとある、復活の力を持つ聖遺物、を手に入れ、人を1回だけ復活できる力を得ました。
“怪盗”と言う輩と何度かやり合いましたが、何とか守り抜いて、その一度だけの力を“カンの英雄”である、ゼントラン様に使いました。
 人の命の重さは同じとは申しません。自ら課した使命の重さによるものだと自分は考えています。
 そこで、その死で何人もの人々の運命を狂わせる要となったゼントラン様に聖遺物の力を使ったのです。この魔王崇拝者が跋扈する中、ひとりでも英邁なお方がいた方がいいでしょう。それが君主の器ともなれば尚更です。
 しかし、ジーザス白の聖遺物の力を黒の信徒である自分が使ったのがいけないのか、それとも自分の力量不足だったのか、肉体は復活すれども、心は別の所で具現化してしまいました。
 ラモアの予知の力でカン領内にあるのは確実です。
 ですが、心と体が長い間離れていると、どんな奇禍が起きるやもしれません。そこでラモアをメルトラン様の心を落ち着けるべくお側に置いて、ゼントラン様を看護できる態勢をつくりつつ、悪魔がこの状況に対して、何か手出しを出来ない様に、と手を打ったのです。
 かかる重要事項を、伯爵閣下にお知らせしなかったのは、閣下がまだ、魔王崇拝者への対応と同時に、この状況を把握出来ないと判断したからで、自ら動いてこの状況を打破為されようとした事で、成人には十分と認識したのです」
「では、父上の心を取り戻せば、11年前からを、またやり直せるのですね?」
 フィーシルの問いに、はにかんだ笑みを浮かべてシューは告げた。
「それを伯爵閣下が望むなら」
 メルトランは剣を己の胸先に擬しつつ、騎士団の忠誠の証を見せつつ応えた。
 これが冒険の顛末である。