●リプレイ本文
ジム・ヒギンズ(ea9449)が、冒険者酒場での卓でこの冒険を知ったのは神聖歴1000年の12月に入ってからであった。
「今回、手伝わせてもらうことになったジム・ヒギンズといいます。よろしく!!」
と、やっている内に、船を仕立てて行くはずが、時間重視で様々な魔法の道具と馬とで高速移動する事に話は決まっていた。
シュー、フィーシルに先行の理由を改めて説明し、遺跡の正確な位置や注意事項をまとめる。
カイ・ミスト(ea1911)は主君である少年エルフのフィーシル・カンに告げる。
「‥‥悪魔の暗躍、古代の魔法陣、魂の篭った宝玉‥‥これら全て他地方の破滅の魔法陣の話によく似ているのです。多少なりとも対処策は見つかりつつありますが‥‥」
シクル・ザーン(ea2350)も警告を発する。
「半球状の空間にまんべんなく彫られた古代魔法文字、魂の封じられた宝玉‥‥それがもし破滅の魔法陣なら、発動すればカンが滅びます。
一刻も早く宝玉を回収しなくてはなりません」
エルリック・キスリング(ea2037)も恐怖を訴える。
「件の遺跡はやはり、『破滅の魔法陣』の可能性が高いでしょう。予定より現地到着を早める事にお許しを頂けますように。もしあの遺跡が『破滅の魔法陣』で有ったなら、何より時間が大事です。発動すればカンの民にも甚大な被害が及ぶ代物ですから」
アルル・ペルティーノ(ea4470)と、エルリックからの言葉に、依頼したのはこちらだ、ベストを尽くしてほしい、と笑ってフィーシルは一同を送り出した。
「それと従姉殿をよろしく」
「そうですね、それに例の場所がどれくらいの広さかわかんないんだから、急いだ方がいいかも。入ってみて一日じゃたりません、じゃヤバいしぃ。フィーシル様が了解してくれてよかったって感じ」
アルル・ベルティーノ(ea4470)の号令の下、一同はパリを出る。
歩調を揃えながら、同感よと、ヒスイ・レイヤード(ea1872)も頷く。
「やっと、眠りについている心の在り処‥‥わかったと思ったら、遺跡なの? しかも魔法陣の中央って‥‥最悪‥‥悪魔の復活の生け贄に、されそうね〜今回は、時間との勝負ね?」
騎士団加入以前、カンの街に皆が急ぎ向かったように、彼も大急ぎの移動という洗礼を受ける事になった。 しかし、冒険者達はその出立ギリギリまで破滅の魔法陣の情報を集めていた。
「‥‥お疲れ様です‥‥。‥‥何かいい情報は入りましたか‥‥?」
休む間のない出発に汗をかきつつ、ヒール・アンドン(ea1603)はついついぼやく。
「‥‥ミュレット様をちゃんと抑えられるといいですがね〜‥‥。‥‥というか‥‥ミュレット様が暴走しなければなんの問題もないわけですよね‥‥」
判った事はそれらしき物がどうすれば発動するか、それぞれにバラバラらしく。
シュバルツ城の破滅の魔法陣が、この世のどの文字にも類似していない、にも関わらず、カンの破滅の魔法陣らしき物は古代魔法文字で描かれている。
この一点を取ってしても、破滅の魔法陣の定義が曖昧であり、シュバルツ城の破滅の魔法陣の様に50人がかりで──しかも神聖魔法のブースターとなる聖櫃なくして──浄化できるか? 儀式の内容も公開されていない。人数も足りない。
浄化できなくて破壊した場合、どんな災厄を冒険者達が待ち受けているのか、とんと見当もつかなかった。
やがて辿り着いた遺跡で、彼らは四方に通じる回廊を発見。
自分が先導をと息巻いているエルフの少女ミュレット・カンが、氷雨絃也(ea4481)の指導で出撃の音頭を取る。
「みんな、私の伯父様の『心』を助ける為、力を貸して。きっと、伯爵閣下もお会いしたいと思っているから」
その声を機に一同はミュレットも入れて人数を3分割して、それぞれにタイムアタックする事になる。
しかし、ここで誤算が出た。
ミュレットを前線に立たせない為にもランタン持ちをさせようとしたのだが、彼女の自衛の武具が重すぎて、移動力が半減する。
絃也はミュレットに訴える。
「長に求められるものは、『洞察力』『判断力』『決断力』のみっつ、お前さんはどうも強さにのみ重き置いてるように見える。
それも必要だが、みっつをおざなりにした者は長の器に非ずだ、この意味わかるな」
絃也は一呼吸置き、耳元で囁く。
「お前さんを、心から心配している者がいる事を忘れるな。もし無為な行動した場合は1日俺に付き合ってもらう」
「デートならお断りよ」
「もっと楽しい事だ」
体力強化の地獄の特訓フルコースである事は敢えて、絃也は伏せていた。
アルルは、“清らかな聖水”をミュレットに渡しつつ‥‥。
「指揮するミュレット様が倒れられたら大変でしょ? 私には風の精霊がついてるから大丈夫。
レイスや、精霊使いのアンデットは、ミュレット様が思われてる程たやすくありません。
もし将として騎士を率いるおつもりなら、私達の必死の戦いを無にせず、心の宝玉を無事持ち帰る事だけお考え下さい。
主君の命を全うしてこそ騎士ですよ」
「判らないけど、判った事にしておく!」
レティシア・ヴェリルレット(ea4739)はそんなアルルに自分の“聖なる聖水”を渡しつつ。
「ほれ、風のウィザードでは、地のウィザードとは相性悪いんだろう。無理せずこれを持っていきな」
相性を言っていたのはリュリュ・アルビレオ(ea4167)である。風のウィザードでは些かクレイアーマーには分が悪い。
聖水を提供してくれたレティシアに礼を述べるアルル。
「ありがとう──」
片や、響清十郎(ea4169)は悪魔に対する力を持つ聖遺物箱を担いで、ぼやく。
「何かいつもと違う雰囲気になってるね。それとこれ持ったら、おいら手が塞がるからフォロー宜しく」
「ミュレット嬢も無茶はしないで‥‥みんなが心配しているんだしぃ?」
リュリュはそう言って励ます。
「それじゃ私が年中、無茶をやっているみたい」
「だから、そうだと言っている」
絃也の苦労は尽きないようだ。
「では、皆の者、命があったらまた会うのだ」
ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)がトールの十字架を持って、小柄な体を活かして、遺跡へと潜り込んでいく。
「やれやれ、子供はいいですね、小さくて。最も自分もそんなに体格に恵まれていませんが」
その背後からヒールは、ついついぼやきつつ、遺跡に潜り込む。
「‥‥フッ、この間の事、忘れるなよ。前に出るのは兵のやること。将は大局を見て兵を動かさねばならん」
ミュレットの肩を叩きつつ、オルステッド・ブライオン(ea2449)も遺跡にランタンの明かりを点す。
ジムも熱血しながら遺跡に舞い降りる。
「なるほどね、遺跡と悪魔か、面白そうだ!! パラの血が騒ぐってもんだ!!」
「‥‥妙な感じがしますが‥‥やれることをやるまです」
カイも呟きながら続いた。
潜入グループは以下の通り。
1班(東から)
シクル。
リュリュ。
ロックハート・トキワ(ea2389)。
カイ。
ヒスイ。
2班(南から)
清十郎。
ヒール。
レティシア。
オルステッド。
ヤングヴラド。
3班(西から)
絃也。
エルリック。
アルル。
ジム。
ミュレット。
「‥‥今まで潜ってきた遺跡に比べれば‥‥‥‥!」
ロックハートが今まで潜ってきた遺跡と比較して、空け放しの落とし穴、矢が切れたままの石弓など、この遺跡は明らかに“ショボイ”モノであった。
しかし、目の前を徘徊する無数の牙を口の中に持つ、グールの群れには辟易していた。
切っても、切っても弱らないのだ。
アルルとはテレパシーのスクロールで連絡が取れているが、罠のショボサは本物でも、モンスターと迷宮とも言うべき遺跡の構造の厄介さも本物であった。
しかし、グール程度、ロックハートの相手ではなく、掠め切る様な一撃を両手で確実に浴びせて、切り伏せていく。
シルバーナイフは些か威力不足であったが、八握剣──対アンデッド用の手裏剣──は確実な威力を発揮していた。
八方に刃が突き出た手裏剣を拾っては投げ、その合間を仲間がフォローに入る。
「‥‥さて、次はどんな事が起きるのか‥‥‥‥‥」
扉にとりつくと、古びた鍵を開けるべく神経を研ぎ澄ますロックハート。
結論としては、錆びているので、力任せに開けた方が早い事が判明した。
テレパシーで会話が入る。さすがにアルルの魔力もエルリックから譲って貰ったソルフの実でもきついようだ。
ロックハートは心で対話する。
(こちらアルル、具合はどう?)
(多分、今最後の扉を開けている所)
(じゃあ、タイミング合わせで行くから──GO!)
「‥‥ここが宝玉のある部屋‥‥ですか‥‥。‥‥あまり、楽しい雰囲気はしないですね〜‥‥」
ヒールもテレパシーとは別に呟く。
皆もショボイトラップと、グールの群れを押し分けてここに至ったのだ。
北を除く3方向の扉が同時に開かれた。
巨大な空間にドワーフの形をした土塊が立っている。
どうやら何かの警報が存在して、それにより、予め準備をしていたようだ。
本来は透けて通る様な姿なのだろうが、クレイアーマーの魔法により、土塊の様な姿に映っているのだろう。
一同は違和感を感じる。何か魔力が減退しているような‥‥。
そして、宝玉を一同は目にした。透き通った水晶球の様な──それでいて、心というには何か違和感を感じる雰囲気を持つ──それを。
「星辰は巡ったのか──?」
重々しい声と共に詠唱が始まった。一同は身構える。
土塊の人形がアルル達の方に視線を合わせると、赤い淡い光に包まれ一瞬で呪文を成就させる。
巨大な爆風が吹き荒れる。
そして、続く亡霊のリアクションは彼らの想像を超えていた。
東から潜入した1班の方に空中から向かい、リュリュを目指して飛び込んできたのだ。
リュリュは咄嗟にウインドスラッシュを発動させて、一撃を浴びせようとするが、魔法が上手く発動しない。
(魔力が歪んでいる?)
これもこの『破滅の魔法陣』の特性のひとつなのか、シクルが立ちはだかろうとするが、残念。ジャイアントと剣のリーチを以てしても空中の相手には剣が届かない。
「星は満ち、紅い目、金髪、我が約定の時は来たれり!」
「待て! 話せば判る」
オルステッドがソニックブームを撃とうとするが、直径100メートルの空間は、あまりに遠すぎる。
殺到する一同。
その間に空中からリュリュに接触したドワーフの亡霊がいた。
ヒスイがホーリーフィールドを高速詠唱で発動させようとしたが、一歩及ばなかったのだ。
亡霊はまるで水を乾いた大地に染みこませるかの様に、少女の身体へと憑依していく。
剣撃を止めるシクル。
(──このままでは、リュリュさんも傷つけてしまう)
少年は過酷な判断に涙した。
淡い茶色い光が収束していく。
「大いなる父の使徒なら、立ち止まっちゃ駄目よ。導き手として私の様なクレリックがいるんだから」
ヒスイが詠唱を始める。
それと時を同じくして、ヒールも意を決する。
「剣無き人の、盾にして剣として、立ちあがったこの身です。聖なる母よ我に力を」
どうやら、この魔法陣内では亡霊以外は精霊魔法の力は削がれる様だ。
「リュリュ、気をつけろって言ったのはあなたでしょう!?
あなたがしゃんとしなくてどうするの!」
しかし、一瞬の詠唱と共に爆風が同じく吹き荒れる。
一部は相殺、抵抗したものの、一同はポーションを隠しから取り出し始める。
抵抗力が弱まったまま、強大なウィザードとやり合うのは得策ではない。
しかし、不思議な事に魔法陣には傷ひとつついていない。
岩をも鉄をも砕く、ファイヤーボムだというのに。
そこへヒスイとヒールの魔法が完成する。
「大いなる父。魔道を蔑ろにする者に教訓を」
「聖なる母よ、慈愛を知らぬ者に戒めを!」
ヒールのホーリーと、ヒスイのニュートラルマジックの魔法が、リュリュ目がけて収束していく。
黒く淡い光に包まれるヒスイと対称的に、白く淡い光に包まれるヒール。
ニュートラルマジックでクレイアーマーが破壊されて、ヒールのホーリーがリュリュの中のゴーストを打ち据える。
「後は連打で行きます」
ヒールが宣言して、魔法の詠唱を始める。
「てっきり、遺跡が壊れると思ったけど、取り越し苦労ね、大いなる父よ──」
ヒスイも手数を増やす事を前提に高速詠唱抜きで術を開始する。
「それより、宝玉を──」
カイが叫び、先程まで亡霊が立っていた所に転がっている、宝玉を拾い上げる。
それは氷の様に冷たかった。
手近にいた清十郎がやってきて、それを聖遺物箱に回収する。
「とにかく、上へ急げ!
罠もグールも、もう大丈夫だ──」
ミッションの是非がかかっており、語気もつい荒くなるカイ。
「──ここは自分達でどうにかする!」
リュリュの懐に飛び込む絃也。
鋭い動きからのスタンアタックを食らわせて、リュリュをのびさせる。
闘気の低い故に呆気なく憑依されたが、同じ理由であっという間に戦闘不能にされるのだ。
憑依したゴーストは生きていた頃の自分の肉体がドワーフ故、そんな事は考えもしなかっただろうが。
「じゃあ、行くわね、マキシマムで」
多数の被害者を治す傍ら、オルステッドはリュリュへ心苦しく思いながらもロープで縛り上げた。そこにヒスイがブラックホーリーを最大出力で叩き込む。
二度目のそれで、縛られてから気付いて暴れていたリュリュの体がおとなしくなった。
「これでリュリュは正気付くかな?」
エルリックが縄目のまま、彼女の応急手当をしながらヒスイに尋ねる。
「そろそろじゃない?」
ぱっちりと彼女も金銀妖瞳の眼を開く。
正気に戻ったようだ。
「やれやれ、一番良い場面を見逃したな」
「誰だ!」
北の扉から響く声。
何者かは判らない。
一同は殺気立つ。
「残念ながら宝玉の回収は間に合わなかったようだ。だが魔法陣の発動が止められるわけではなし、諸君らを今回は家に帰してあげよう。我は──魔王アスモデウスの臣の一人、名は捨てた」
「破滅の魔法陣なのですね? それとどうしてリュリュが狙われたのです」
「最初の言葉にはこう返してあげよう。我の言葉は嘘かもしれないぞ。
次の問には純粋な魂を、と思ったからだが。よくある話で退屈だろう?」
言葉と共に扉が開いてパラ並みの小柄な身体が、魔法陣の間に姿を現す。
足下まですっぽりとマントで被っているが、手には十字架をあしらった剣。覗く顔は端正だが野性味を感じさせる風貌であった。
覗く逞しい腕の肌は褐色、肩までの髪は黒、目は瑪瑙色であった。
「やはり、あのムシオタクは、先に潰しておくべきだったよ。魔王の読む星の命じるままに──」
そこへジムとロックハートがダッシュをかけ、一気に間合いを詰める。それを見てか、男は槍を脇に抱えて合掌し、黒く淡い光に包まれる。
ジムとロックハートは唐突に見えない壁に遮られる。
「ホーリーフィールドね」
絶叫するヒスイ。
「あなた達の得物では多分壊せないわ!」
ジムのフレイルとワスプレイピア、ロックハートのシルバーナイフ共に破壊力に難がある。
ジムは両手にそれぞれフレイルを持とうとしたが、双棍にして、尚かつワスプレイピアを持つには体力が不足していたのだ。それでも意地が──。
「大丈夫、任せて!」
ジムが全重量を乗せてフレイルを壁に叩きつける。こちらの破壊力は十分だ。
「さぁ、こい!! パラの強さ見せてやる!!」
ジムが挑発し、フレイルで殴りかかるが、男はそれを避けた。
続いてロックハートが双刀のシルバーナイフで男を切り裂こうと詰め寄り、今度は的確に利き手を傷付ける。
「一人くらいは使える者がいるということか」
「ところがどっこい! 一人じゃないぜ」
借り物のワスプレイピアとのコンボで、ジムもまた一撃を加える。男はかろうじて動き、今度はギリギリでかわした。
「‥‥次から次と、魔王崇拝者も飽きねえよな‥‥? 悪魔ってのは勤勉かよ。それとも飽きる前に騒動起こして飽きないようにしてるだけか?」
レティシアは言って銀矢を放つが、扉を背にして、尚かつ前衛がいる為、思うように撃ち込めない。
「人の時間で計れるお心ではない。この計画にしろ何百年前から考えられていた事か──」
「暇人!」
レティシアは言いながら更に矢を番える。
(ま、いいかどうせ威嚇だし。でも、勿体ないな〜)
それでも2発目は命中する。男が血を吐いた。
「我が倒れても、続く者は多いぞ」
「可愛げねーの!」
「可愛い悪魔は小悪魔だけで十分だ」
「ならばこれでどうだ!」
絃也が詰め寄って魔剣で斬りかかる!
「もう潮時か」
言って、男は片手で印を組む。
途端に周囲が黒い炎の球体に包まれる。
黒い炎に照らされて、男とジムとロックハートは3人きりの閉鎖空間に閉ざされる。
魔剣での絃也の一撃はその黒い炎での結界で止められていた。
「見よ、これが魔王から与えられた力だ。この黒い炎は、破壊は不可能。デビル以外のモノが通ろうとすると、地獄の炎で焼かれるというシロモノだ。この中で、せめてお前達は道連れにしてやろう」
「誰がされるか!」
ジムがレイピアとフレイルのコンボで殴りに入る。男の逃げる方向にロックハートが回り込み、フレイルとシルバーナイフが男を襲う。
「我が魂は地獄に下り、魔王と共に復讐を遂げようぞ。我が同士達もカン城の中に入っている‥‥見えるぞ、見えるぞ、地獄が──!」
「同士だと?」
ロックハートが倒れた相手の言葉に反応するも、男の口からは血が流れるのみ。もう何も言わなかった。
血は赤かった。
出ようと逸るジムを抑え、ロックハートは先日見た様に炎が消え失せるのを待ってから、皆と合流する。
翌日。カンから、カイが貸し与えた武具を持って、騎士団が合流した。
「日が良かったらしいな──手柄は総取りだ」
レティシアがぼやく。
帰りの船旅の中。
「そうですか、そのようなことが。しかし、宝玉だけで『破滅の魔法陣』と決めつけるには拙速すぎるでしょう。自分はこの後パリから折り戻し、ゼントラン閣下の肉体と心を結びつける儀式に入りますが、古代魔法語に通暁しているのはあのジプシーのラモアですね。彼を中心に調査すれば、空も飛べるから持ってこいでしょう。もちろん皆さんにもお付き合いいただきましょう」
「まあ、やっぱりロシアでもそうだったけど、ハーフエルフは人使いが荒いのね〜。あなたもロシア生まれだから?」
ヒスイが気安げに応える。
「ハーフエルフなど、完全を目指す大いなる父の教えのロシアで、『狂化』という忌まわしい性癖を持っているのに君臨している。ろくな者ではありません」
あまりにも、きっぱりと断言されてしまった。シュー自身もハーフエルフだというのに。
「あら、私はハーフエルフ優越論者には少なくとも反対はしていないわよ」
「それが大いなる父の教えに沿う、完璧への道と思うならご自由に。私は狂化で愛する人を失いました。人にとっては遙か過去の事ですけれど、エルフならば、つい最近の事ですよ」
「あらあら、そんな言い方では黒の教えは厳罰主義のように聞こえてしまうわ」
「確かにそんなイメージがありますね。ですが、私は狂化と折れ合って生きていくのではなく、狂化を超越したい。その方法を長らく探していたのです」
「おー、黒の王道なのだな」
白の使徒のヤングヴラドの言葉で神聖魔法“黒”の使い手達は談笑を終えるのであった。
「皆さん、今回もありがとうございました。お借りした魔法の武具で騎士団もより精進するよう、騎士団団長を通じて命じておきました。皆さんは魔王崇拝者よりも対魔王戦に備えて、備えを確かにして下さい」
人にすれば12歳の白髪青眼のフィーシル・カン伯爵──いや、この肩書きも間もなく返上されるであろう──は船内での最期の晩餐で一同に声をかけるのであった。
その場でジムはパイプを吹かし、戦いの余韻を反芻する。
こうして、謎を残したまま冒険の旅路は終わった。そして、疾風怒濤の如き冒険の旅が待っている事を彼らは知らない。
これらが冒険の顛末である。