●リプレイ本文
冒険者ギルドとカン伯爵に、風烈(ea1587)は申し込んだ。
『怪盗3世へ。手札を伏せて林檎の都で待つ。互いに席に着けば手札を明かす用意あり。かつてともに戦った者、爆裂旋風』と書いた羊皮紙を張り紙を彼らと連絡用に張り出そうというのだ。しかし冒険者ギルド側としては、『あれは、あくまでルノルマンさんの依頼』として、怪盗に人材を提供した事もあったが、名指しでとなると、そうはいかない。ギルドでは対応不可能だった。
その為。怪盗3世は聖遺物ハンターの3代目という文面に置き換えられ、カン伯爵縁の地のあちこちに張られていった。
フィーシル・カン少年伯爵にしても、自分の城に易々と潜入された過去は忘れられず、烈の意見に全面的に賛同できていないようであった。
「それでは皆さんを騎士団に編入した意味がないではありませんか?」
そんな事も知らず一同は魔法の道具にものを言わせ、カンへと向かうのであった。
セシリア・カータ(ea1643)も風を切りながら、往路を急ぐ。
(前回‥‥見事にやられましたからね‥‥)
「厄介な戦力ですからね」
「どちらがです?」
尋ねるマリウス・ドゥースウィント(ea1681)。
「両方です」
「そうね、前回は、悲惨だった‥‥数は、多いし裏切り者もいたし、散々だったけど。ここで、諦めるわけには、いかないわ‥‥やられたのは、何倍も返してあげるわ‥‥リベンジね?」
ヒスイ・レイヤード(ea1872)は僅かな休息の合間に呟く。
「そこまで出来るでしょうか? まさか3人シュー殿、ゼントラン殿、メルトラン殿とも堕ちていたとは‥‥、我々が甘かったようです。
せめて姫の流血による魔法陣発動だけは阻止しましょう!」
シクル・ザーン(ea2350)の言葉にローテンションでロックハート・トキワ(ea2389)は。
「しかし‥‥こうも嫌な予感だけ当たるとは。
‥‥これで最後のはずだし、死なないように‥‥勝ちに行く。その為にはこれだ」
ロックハートは言いながら、九紋竜桃化(ea8553)に自らの聖剣を託す。
「最初から実力者が持っていたら真っ先に破壊されそう‥‥うん、破壊されたら弁償な!」
あ、と思わず心の中の声まで出てしまうロックハート。
妖艶な笑みを桃化は浮かべる。
「その約束、例え我が父母の居る地に行っても、決して違える事はないわ、きっと」
「それにしてもアスモデウスの奴“剣の侯爵”とか呼ばれていた割には、得物は違う武器なんだよな──魔剣を、しかもデビルには扱えない、リミッター付きの伝説級の魔剣を持つくらいのサービス精神は無いのか?」
「‥‥行こう、姫が助けを待っている‥‥」
休息の甲斐あって、疲れが取れた所で、オルステッド・ブライオン(ea2449)が皆に告げる。
「とんだ新年だな‥‥いや、年の初めに魔王を倒すのだ、なんとも縁起のいい話じゃないか」
オルステッドの言葉に一同から笑いが零れる。
その傍ら、響清十郎(ea4169)は皆に確認。
「おいらはただひたすら魔王崇拝者達をやっつけて、アスモデウスをやっつければいいんだよね?
それと破滅の魔法陣もね」
ノア・キャラット(ea4340)もはにかんだ様な笑みを浮かべ──。
「他にも沢山、する事はあるような気がするけど──フィーシル様のお父君とか? メルトラン団長とどう片をつけるか、とか?」
「ああ、そんなのもあったね」
清十郎は、ぽんと掌を打つ。
「ま、ともあれ、おいらは出来ることをやるだけだよ」
「キャピーの仇を討つ! 仇に協力する者も同罪! 覚悟!」
いきり立つ声。
ラックス・キール(ea4944)の肝にもその言葉は命じられていた。
ラックスはこの執着を妙に思っているが、もう止められない。
殊に、この件に絡むことになった原因の、ジャイアントモスのキャピー事件で止めをさしただけあって、ラックスの心は重い。
コトセット・メヌーマ(ea4473)も微妙に方向性は違いながらも、スタンスをラックスと同じとする。
「私は、星の探求派『破魔の炎』。魔を滅ぼすために力と勇者を求める者。
アスモデウスの野望を阻止し、叶うなら奴を滅ぼさん‥‥」
「出来るだけの事があるだけ、羨ましいわ。魔法陣のお陰で、精霊魔法は神聖魔法組が終わるまでどうしようも無いのだし‥‥」
アルル・ベルティーノ(ea4470)もぼやく。
彼女自身もコトセットと同様、情報の解析に参加したかったのだが、時間というものは一度逃げると、もう追いつきようがない。
どうやら、岩をも断つ様な太刀筋や、魔法攻撃以外にも聖剣などの攻めは有効らしい。
ともあれ、子殺しの悲劇を見たくないので、アルルは一同に加わっていたのだが──。
「氷雨さん怖い顔をしていますね‥‥」
氷雨絃也(ea4481)に、井伊貴政(ea8384)が語りかける。
「ああ、覚悟を決めたのでな」
「そうですか。でも、何もかも自分ひとりで背負い込んでは駄目ですよ。
遺跡から帰れたら、美味しいもの──」
「やめておけ。そういう事を言っていると死ぬ羽目になる」
「はははっ、お約束ですね」
「あんたも、前と同じで気合いの入った格好しているな」
「返り血が目立たないように、予め紅い威子を着込んでいるのですよ〜。何てね」
などとやっていると、整備されていない街道の前方にひとつの影が見えてきた。
白髪を生やした老婦人が、籠をかいこみ、駿馬の脇で佇んでいるようである。
籠には一杯の林檎。
脇を通り過ぎようとするが、老婦人は咄嗟に駿馬に乗ると、烈目がけて追いついてくる。
「こら、爆裂旋風! 人を呼びつけておいて、何だ?」
「何だ、怪盗3世か?」
老婆のしわがれ声を想像していた一同は、飛び出した甲高い声に拍子抜けする。
言い出しっぺの烈が怪盗3世と交渉を始める。
「カンに着く前に追いついたから、合流してやろうと思って、判りやすいように、カンのシンボルの、林檎まで持っていてやったのに」
「この時期に赤々とした林檎を持っていれば、訝しむだろう!?」
「瀬戸物の作り物だよ。それ位‥‥と、まあ、水掛け論をやっていても仕方がないな。誰かニュートラルマジックの使える奴いないのか? 老婆の演技をしているのも疲れた」
「じゃあ、私の出番ね。大いなる父の名に於いて──」
ヒスイがクルスダガーを構えつつ、呪文を詠唱。黒く淡い光に包まれると、人遁の術は解け、老婆は黒髪、緑色の瞳の少年へと、姿を変えていった。
怪盗3世の姿が現れる。狩衣にハーフブーツという出で立ちも前と、変わらない。
しかし、今年で12才という成長期だけあって、細身ながら、若干成長しているようである。
「で、明かすべき手札って何? アスモデウス戦では、大介くらいしか力になれそうにないけど」
そこで残念そうな顔をする怪盗三世。
その合間に、烈は手短に状況を説明する。
「そっか、大介なら、去年の内に、パリの月道で一足早く、長崎まで五右衛門と帰っていったよ」
「‥‥知りたいのは聖遺物に関してだ」
「って、漠然と言われても困るけど。まさか、アスモデウスに効果覿面な聖遺物を偶々所持しているなんて、ご都合主義を当てにしている訳じゃないよね?」
「何か無いのか?」
「多分、エチゴヤの福袋でも買った方が運任せだけど、手に入る可能性が高いよ」
「素直にないと言えないのか?」
「ない」
「じゃあ、聖遺物の限界に関してだが──11年も前の死者を生き返らせるブツはあるのか?」
「さあ? そこまで行くと、マグダラの止まり木、エレナの聖釘、ロンギヌスの槍、聖杯クラスでも無理じゃないの?」
まあ、現物を弄った事がないから判らないけど、と怪盗3世は前置きして。
「大体、死後1年経てば、成仏しているか、深い情念を持っていれば、ゴーストになっているかのどちらかだろうし」
「ノルマン人も成仏するのか?」
「さあ? どちらにしろ、真っ当な形の復活は無理だと思うよ」
「心と肉体の分離した復活など、真っ当でない、の分類に入らないか?」
烈は更に問うが、怪盗3世は──。
「その分離した心が偶々破滅の魔法陣の関係した場所に復活したなんて、与太話以外の何者でもないと思うけどね?」
と受け流す。
「やはり、聖遺物というのはフェイクか?」
コトセットが言葉を挟み込んでくる。
「それだけの奇跡を起こせるシロモノなら、何らかの形で記録に残って当然だろうね」
「もっとも、その出自すら明らかになっていないシロモノを見てどうこう言うのは、アスモデウス対策の役に立ちそうにないけどね?」
結論を一言で纏めると、デビルの陰謀だろう、というのが怪盗3世の意見であった。
「しかし、何故途中で合流なんて事をしたんだ?」
と、烈が問えば、少年は、あのファンタスティック・マスカレードみたいに、わざわざ王様の前に出るほど胆が座っていないからさ、と剽げて応える。
一応、忘れてはならないが、怪盗3世はカンに於いても犯罪者である。
「じゃあ、力になれなかったけど、ごめんねー! しかし、騎士サマも大変だね」
烈はその言葉にキッパリ──。
「騎士、約束、関係ないな。俺は守りたいから守る、己の全てを懸けて」
──と返す。
「じゃあ、ジャパンに帰るけど、もし来たら、お手柔らかにね〜。もっともスリルが無ければ盗む気はないけどね」
と、怪盗3世はパリ方面に向かって馬を走らせるのであった。
遺跡に到着する一同の視界には、既に騎士団の歩兵部隊が展開している。
早速に突入する部隊を編成したマリウスが檄を飛ばす。
「アスモデウスを倒すことが目的ではない!
カンを滅ぼす破滅の魔法陣を発動させないことが目的。
我々はカンを守るために戦うのだ!」
この言葉で、メルトラン団長と相争うことに、迷いを見せていた騎士達の迷いも半ば吹っ切れる。
「万が一の場合、戦力が遺跡に集中された隙を突いて魔王が城を強襲する危険もある。
が、伯爵閣下にはノルマンのため、我々が魔法陣に戦力を集中する覚悟をしていただきたい」
オルステッドがフィーシルに注意を喚起する。
「無論。それにあそこにはもう失う物などありません」
その間にも兵の編成は進んでいく。
「果たす目標は魔法陣を発動させない事が第1、魔王を倒す事が第2です。
それ以上は、臨機応変に」
シクルの言葉により、突入部隊は、3班に分かれ、各班が60人ずつ兵を連れて遺跡に入る事になる。
東から突入する班は、マリウス、ヒスイ、ロックハート、オルステッド、コトセットが兵を束ねる事となる。
南方面からは、桃化、貴政、セシリア、アルル、ラックスが中心となって侵攻。
西側を押さえるのは、シクル、清十郎、絃也、烈、ノアである。
北は以前、相手に押さえられていた事から、突入は危険視された。
東班はロックハートが先行して、トラップなどに気をつけつつ、潜入しようとするが、ロックハートの十八番の忍び歩きと、鍵開けだけでは限度がありすぎ、あっという間にトラップにかかる。
「‥‥だ、駄目だ。これではヘ、ヘタレンジャーの汚名を返上できそうにない」
無論、コトセットのフレイムエレベイションのサポートがあっての事である。
落とし穴の底には、鋭い槍に汚物を塗られた駄目出しが設けられ、扉のノブには鋭い毒針が仕込まれている。
最初のトラップで、相手の本気を感じ取ったロックハートはオルステッドと、部隊のレンジャー達が四苦八苦しながら、罠を解除していくのを見守るしかなかった。
無論、ロックハートが受けた傷や毒は、部隊にいる白クレリックのフォローを受ける事になる。
他の方面から進行した面々もしかけ直された、あるいは新設されたトラップに悩まされつつ、前方に──破滅の魔法陣へと進んでいく。
マリウス、桃化、シクルは皆、一角の用兵家であり、部隊の士気は破綻が無い。そのまま進んでいく。
そして、一番先に魔法陣に着いた東班には、目の前に立ち塞がる相手がいた。15人の魔王崇拝者を引き連れたメルトランである。
「ラモアの啓示通りだな‥‥自分が立たなければ魔法陣は発動しない、か」
マリウスは瞬時に覚悟を決めた。
──メルトラン殿が前に立ちふさがるならば倒すしかない。
彼を救うには私の力は微力すぎる。
「‥‥団長閣下、いや、メルトラン!‥‥もう一度だけ言う‥‥愚かな真似は止せ‥‥」
「もう、遅い。11年前からこうなる事は、判っていたのだ‥‥騎士ならば‥‥仁智勇のみっつを兼ね備えた者ならば、私の屍を超えて──」
そこまで言った所で、鋭い金属音が響き渡る。瞬時に音もなく脇に回り込んだロックハートの一刃を防ぎきった音である。
おそるべきはロックハートの隠身で、これだけの人数が居るにも関わらず、まるで気配を感じさせなかったのだ。
しかし、その気配を感じ取ったメルトランも天晴れであろう。オルステッドが叫ぶ。
「私の刀‥‥そして姫君を奪った‥‥その雪辱、晴らさせて貰うぞ!」
最悪の場合、メルトランとミュレットは斬らねばならん。
そんな予感がオルステッドを貫く。
「団長‥‥カンの為、英雄としての責務を果たされよ‥‥」
「英雄に残された道は常にひとつ、死ぬ事しかない。かつて、如何なる英雄でさえ免れる事の出来ない運命としてだよ! 私はただ、カンが滅びようと構わない、兄が側で笑ってさえいてくれれば‥‥」
「もう強行手段取らせてもらうわよ? どきなさい‥‥会えなくなった人に、また会いたい気持ちは、よく判るけど!」
剣を交えあったマリウスとオルステッド、そしてメルトランにヒスイは絶叫する。
「ちょっと、やりすぎよ? 自分の娘を犠牲にしてまで、やる事? そもそも成功すると思うの? 失敗するに決まっているわよ?」
そして、ヒスイは全ての力を込めて乱戦の中、無理矢理攻勢に転じようとしたオルステッドの刃を受けようとしたメルトランの小太刀に、黒の神聖力を注ぎ込み爆砕する。
受けられず、脇腹に深々と突き立つオルステッドの刃、続けてマリウスの一撃が降り注ぎ、意識を失わせる。
「英雄に残された道は死路のみか‥‥英雄の肩書きとは恐ろしいもの──しかし、メルトラン殿、人である限り、誰もが皆、死への一本道を歩んでいるのだから」
魔王崇拝者が浮き足だった所へ、一部の医療班を残し、攻勢に転じた東班の面々が雪崩れ込む中、コトセットは物悲しげに呟くのであった。
やがて、護衛の兵に周囲を囲ませたヒスイが、デストロイで魔法陣を破壊しにかかる音が聞こえてくる。
「空気が変わった?」
ノアが、ヒスイの魔法による破裂音と共に、破滅の魔法陣の精霊力吸収の力が失われたのを敏感に感じ取る。
「フォローに入ります。みんな退いて!
大気に宿りし精霊たちよ、炎と成りて我に力を与えよ! 爆炎となり隠れし敵を蹴散らせ! ファイヤーボム」
爆風が魔王崇拝者達を消し飛ばす。
「ここからが勝負ですね。少しでも皆さんの力になれば良いのですが──武器をこちらに、焔の力を付加します。‥‥大気に宿りし精霊たちよ、炎と成りて武器に集い、焔の力を開放せよ! バーニングソード!」
同時にスクロールのフレイムエリベイションで自らの士気を鼓舞する。
「おっしゃ、おいらも燃えてきたぞ」
清十郎も、愛剣のワイナーズ・ティールが燃え盛るのを見て自分も戦意が燃えるのを感じる。
前線を数に明かせて突破し、シクルはそこに15人の崇拝者に守られた、アスモデウスとミュレットの姿を見た。
「観念しろアスモデウス、もう破滅の魔法陣は使えまい!」
烈が指さす。
「ふふふ、魔法陣など、他の崇拝者に作らせれば済むだけの事だ。
デビルの時は無限。故に屈辱も永久に残る。
その怒りのやり場だけでも潰しておかねばな」
木剣の切っ先を向ける烈。シクルは大いなる父に祈りを捧げ、伏兵の位置を確認しようとしたが、如何せんこの乱戦の中では集中し切れない。
絃也の長巻が闘気と炎の二重奏を奏でながら、15人の護衛兵を清十郎に任せ、アスモデウスに斬りかかる。
「行くぞ〜!」
任せられた清十郎はバーストアタックとスマッシュを加えたソニックブームにより、次々と強大な破壊の力を撃ち込み、相手を寄せ付けない。万が一外れても、魔法陣を削るという一粒で二度美味しい寸法。
もっとも命中率の方は芳しくなかったが、皆の炎の精霊力が安定して来た事で、ノアの努力は無駄でなかった事を知る。
そして、大混戦。
結果。ついに中央に10人ばかり残るだけになったアスモデウスと、その崇拝者達を追いつめる。
「私が前の、そして今のカン伯爵、ゼントラン・カンだ。頭が高いぞ、控えろ」
背筋のピンとしたエルフがバリトンで自ら声を上げるが、シクルは即座に──。
「その人は偽者です。きっとデビルか崇拝者が化けているに違いありません」
と切り返すが、問題があった、生命反応のあるミュレットはふたり居たのだ。
「私が本物よ!」
「誰が助けてって言ったのよ、こんな危機、自分で切り抜けてみせるわ」
微妙な状況にシクルは早速に切り返す。
「本物なら抵抗して下さいよ」
兵の壁の裏から、姫君に、ブラックホーリーを撃ち込むそぶりを見せるが、片方は慌てて、偽者と知れる。
もちろん、フェイクは私が本物と主張した方だ。
そして、戦いが続く内にアスモデウスの崇拝者は最後のひとりが倒れ、残りはアスモデウス一体のみとなった。
「キャピーの仇!」
ラックスが斬りかかるが、オーラパワー、バーニングソードはもうデビル魔法で追加のダメージは見込めなくなっていた。
しかし、同じ武器ではアスモデウスに抵抗力がついてしまっても、オルステッドの様に、武器を片端から並べて使い回すという戦い方は有効であった。
「だが、隙はいくらでも出来る!」
アスモデウスが武器を取り替えるタイムラグを縫って、オルステッドの背中に槍が三連打で、突き刺さる。
3つの頭から全て同じ破壊力の炎を吹き、騎士団員を駆逐、蹂躙、殲滅する。
更に前衛の魔法への抵抗の弱さをも計算に入れ、ロブメンタルで冒険者の魔力を奪いつつも、自己の魔力をも回復し、皆がオーラ魔法で凌ごうとする所をたったひとつの魔法で逆転した。
「デス」
オルステッド、貴政、セシリアが中心となった一撃に、合わせて放つ魔法。
マリウス、ラックスと桃化は精神攻撃を無効化するオーラエレベイションを、レジストマジックを掛けていたシクルは無事であった。
後方のクレリック部隊がメンタルリカバーを以て、何とか息を吹き返すが、それまでに騎士団の被害は増大する。
精鋭の前衛が1度に、4人欠けた穴は大きかった。
それでも食い下がるシクル。
「無駄だ、及ばぬよ」
懸命の太刀さばきでも、到底及ばない領域。幸運という者に縋る気は少年には無かった。
「諦めなさい。あなたが傷つくばかりだわ」
桃化はシクルを諭す。
「魔王──女の挑戦受けるか、受けぬか。昇竜の桃化、逃げも退きもせん」
「面白い。ジャパンの太刀か?
当たればこちらの勝ちだな」
「来い!」
桃化は焦っていた。相手が魔王なればこそ、挑発に乗りこそすれ、向こうから攻撃を仕掛けてこなければ、彼女の奥義『絶昇竜』に一撃を賭けられるのだが。
向こうは王者の貫禄である。まさしく魔の王。だが、唯一の救いがあるとすれば、向こうのデビル魔法『エヴォリューション』による抵抗力は、魔法をかけ直しても引き継がれないという事である。
桃化が“肉を切らせて骨を断つ”策に出た次の瞬間、アスモデウスが呪文を唱えた。
「仲間を攻撃」
デビル魔法の言いなりになって、一番手近にいたシクルに斬りかかろうとする。
「ほう、爪先に太刀を突き立てるとはな。だが、どこまで続く? 楽しみだな」
だが、アスモデウスは忘れていた。気配を新月の闇の様に消せる少年の事を!
アスモデウスの腰布を後ろから一気に降ろす! 筋骨逞しい臀部と狡猾そうな蛇という取り合わせだが、そんな事はどうでもいい。
狙い澄ました一撃を浴びせる時だ!
しかし、現れた毒蛇に噛みつかれ捲る。
「解毒剤を──」
オマケに魔力の防御なので、隙間が一切無い。
尚、下半身は鵞鳥なので異形ぶりが際だった。
しかし、問題はそこではない。腰布を下げられて動きが鈍ったという事なのだ!
(今度こそキャピーの仇を討ってやる!
この依頼を請けられなかった仲間達、そしてキャプテン・ファーブルの思いが俺の肩に乗り掛かっているんだ)
ラックスが、鉄弓からの一矢を撃ち放つ。
万感の一撃はアスモデウスの喉頸を貫通した。後は、皆が思いの限りをぶつけるだけ。
そして、ミュレットは無事、本物と確認され、父親との離別が待っていた。
父、メルトランは修道僧として、人生のピリオドを打つという。
フィーシルの決定である。
「今生で出会うのも、これが最後になるだろう。しかし、娘に罪はない。伯爵閣下にも落ち度はない。そして、私は英雄を必要としない世界を望んで、聖なる母に祈り続けよう」
アルルは告げる。
「デビルに加担し、ゼントラン様を復活させるなど天命を全うした者への冒涜です
フィーシル様が、代命による復活を望んでない事をご存じでしょうか? 姫の命を奪わなかっただけでも、本道に戻す余地はあると思います。
前回の言葉から後悔の念もあると思います。
メルトラン様とミュレット様はかけがえのない父子であり、父親は、どの様な結果が待ち構えていようとも子殺しを防いで、その絆を改めて繋ぐ役に立ちたいのです。
お節介ですか?」
「例え、神が許しても、娘を手にかけてもいいという言葉は本当だった。だが──もう、一度やり直せるなら、それもいいかもしれないな」
「あなたに神の安らぎを」
アルルが告げる中、シクルは滂沱していた。悲しみではない、喜びの涙である。
「本当に良かったです。でも、魔王と戦った僕をお父様は一人前と認めてくれますよね?」
大量の恩賞が渡された冒険者達の未来の前途は洋々に思えた。
これが彼等のアスモデウスとの戦いの顛末である。