夜に散歩しないかね?(壱)

■シリーズシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:11〜17lv

難易度:普通

成功報酬:6 G 24 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:02月14日〜02月21日

リプレイ公開日:2006年02月22日

●オープニング

「次の方どうぞ」
 と、江戸の冒険者ギルドの受付嬢が促すと、上がり込んできたのは、狩衣姿──しかも、古めかしい──を着込み、曲玉を連ねて首から下げ、髪をみずらに結った、ひとりの中性的な12才ばかりの少年の姿であった。
「茜屋慧(あかねや・さとる)といいます。流れの陰陽師をやっていますが、今日は失態をしでかしたので、その後始末をお願いしたく参上しました」
「はあ、失態と申しても色々あります、先ずは順を追ってから話してください」
 慧少年が切り出すには、彼は陰陽師であり、家では代々式神を使役していたという。
 代々と言っても古すぎて判らない位、古くから使役している式神にしても、窮奇の霊脈に連なるという鎌鼬(かまいたち)の末であり妖力は甚大。
 慧少年の家では構太刀(かまいたち)の大旋、3兄弟として知られ、一番弱いのが長女、一姫(かずき)、中堅所が丹太郎(にたろう)、尤も妖力甚大なのが沙茄子(さなすび)だというが、これらは慧少年が病死した父から継承する際に、儀式の手順を間違って野に放ってしまったのだという。
「どこかで聞いた名前ですわね──とはいえ、お父君の事、お悔やみ申し上げますわ。で、どこから手をつけるべきだとお考えで?」
「はい、彼等は夜に動くのが長い間の性となっており、血に飢えている為、辻斬り紛いの行為を繰り返していると思われます。そして、必ず血文字で自分の名前を記している筈です。
 特に一姫は自制心に欠ける為、最も辻斬りを繰り返してる可能性がある。
 最後に鎌鼬ではなく、構太刀と呼ばれている所以は、姿こそ通常の鎌鼬なれど、ただふたつ、両手から伸びているのが鎌鼬ではなく、大太刀の如き刃で、それで人の首を一刀両断できるというのだ。
「多分、正体不明の辻斬り事件が起こっている辺りを調べれば出てくると思いますよ」
 慧少年はそう言って、受付嬢に仲介料を手渡した。
 受付嬢は慧少年の後ろ姿を見て漸く気がついた。
「あの依頼人、パラだわ──天然なので気がつかなかった」
 冒険の幕が上がる。







●今回の参加者

 ea0029 沖田 光(27歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2046 結城 友矩(46歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea5970 エリー・エル(44歳・♀・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea6177 ゲレイ・メージ(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb0939 レヴィン・グリーン(32歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)

●サポート参加者

レジエル・グラープソン(ea2731)/ ウェントス・ヴェルサージュ(ea3207)/ 風御 飛沫(ea9272

●リプレイ本文

 沖田光(ea0029)が依頼人の茜屋慧に構大刀の事を問い質すが、本人も、契約は急な父の横死に端を発する事と、契約そのものに失敗している事で情報らしい、情報は得られなかった。
 一方、光の知っている一般の鎌鼬と言えば西洋では、トッドローリィと呼ばれる、1体で動く風のエレメントであること。全長は1mばかり、行動は主に攻撃か、逃げるかのほぼ二択。少々の深傷を負っただけで逃げ出し、獣並の知性しか持っていない事が行動原理の最たる物であった。
 戦闘に於いては非常に迅速な鎌の攻撃と、馬に倍する飛行速度を誇り、魔力に於いては劣るものの、全身を魔法の障壁によって覆われ、人間の成人男性なみの体力を持っていた。
 爪捌きは専門家的な域に達し、鎧などの隙間を狙い打ちする武術に秀でていた。移動速度に満身してか、回避には道が暗い。
 風のエレメントと言っても、日本では夜刀神をのぞけば最下級の地位にあり、3種類の風の精霊魔法を使うのみ。
 魔法への抵抗力、闘気への抵抗力。共に人並みであり、外見は両手に鋭く長い爪を持つ狐だという。つむじ風と共に現れ、道行く者にいきなり切り付けるというものであった。
「‥‥以上が通常の鎌鼬の特徴となります。てっきり、三位一体で動く習性があるものと思っていたのですが、単独で行動しているのは踏み台にされるのを恐れてなんでしょうか?」
 と、小首を光は傾げる。
「困った物です。楽しみで人を殺しているような態度、許してはおけません。みんなが安心して暮らせる世界を、僕は守りたいですから。
「すいません、僕が未熟なために──光さんの提案通り檻と縄は準備しておきましたので、存分にお役立て下さい」
 とは、依頼者の慧少年の弁。
 良く女の子と間違えられる光とは対称的に、派手な顔立ちの結城友矩(ea2046)は、眉間に皺を寄せつつ──。
「逸れの式神か、とんでもないものを解き放ってくれたものだ。身の丈に合わぬ力は、我が身を滅ぼすだけだろうに。力の相続が最大の試練か、業の深い事だ」
 そして更にカイ・ローン(ea3054)の顔を見ながら詫びるように呟く。
「すまぬが、馬よりも脚が速いとなると、拙者ひとりでは貴殿を庇いきれぬでござる。全身を以て庇う所存であるが、構わぬ事があるかもしれぬ」
 カイは友矩に対し、一言返した。
「諦めない限り、いつだって可能性はある」
「忝ない」
「ともあれ、原因はどうであれ、まずは人死にを起こしているやつを止めないと」
 儚げな笑みを浮かべ。
「前にも鬼神の小柄を所持していたら放火犯と遭遇してな。その不運を今回も期待だ」
 カイはそして慧少年に向き直り、
「逃げ出した使い魔が起こした事件とはいえ、逃がした原因は貴方にあるのですから、被害者にちゃんと詫びに行って下さいね。それが妖を扱うものの覚悟だと思います」
「覚悟ですか‥‥──」
「そう、覚悟です」
「そうシリアスにならないのぉ☆ フォレストローズの女学生、17歳のエリーでぇす。みんな、よろしくねぇん」
 エリー・エル(ea5970)はいまだにケンブリッジの学生気分が抜けないらしい。
「慧くんから色々聞こうと思ったけどぉ、お父さんの方の管轄じゃしょうがないのねぇ。じゃあ、聞き込みに言ってくるのぉ」
 ゲレイ・メージ(ea6177)は彼女の後ろから声をかける──。
「私は真実を追究する求道者だ。難しい依頼を達成し、腕を上げたい。通常の鎌鼬と同じように構大刀が行動するか判らないが、そこで構大刀の殺害現場の資料があったら見てみたい──特に被害者が単独行動か、馬に乗っていても現れたか。それとも徒党を組んでいても襲われたかだ。ひょっとして一姫はブレスセンサーの魔法で襲う相手を決めているのかもしれない」
 その後、膝の上の猫ムーンを撫でつつ、パイプを吹かす。
「逃げ出したモンスターを殺さず捕えれば良い訳か‥‥。
 難しいだろうが、一姫を生け捕りにできれば、構太刀3兄弟の残りを捕える事が楽になるはずだ」
「構太刀さん‥‥出来れば退治したくはありませんね‥‥」
 レヴィン・グリーン(eb0939)は悩みつつも言葉を捻り出す。
「沖田さん、あなたの知識ならご存じかも知れませんが通常の鎌鼬というのは呼吸するものなのでしょうか?」
「しますよ」
「そうですか? それなら私も少しは役に立てるかもしれません」
 しかし、被害のあったという街道筋でエリー達が調べてきたところによると、周囲はまだ未開拓であり、光の知っている鎌鼬程度の大きさならば、いてもおかしくはなく。また、襲われたの者で徒党を組んでいた者はいないとの事であった。
 その情報を聞くと、レヴィンは使うスクロールをリヴィールエネミーに切り替え、その多芸さを披露した。

 ──そして夜。友矩とカイが適当に離れて、それぞれ酔漢の振りをする。
 カイは木剣に盾と重武装しようとしたが、酔漢らしからぬ事と、咄嗟にコアギュレイトの詠唱をする際に合掌できない事から見送られた。
(悪いが得物が得意の槍でないんでね。下がって魔法での捕縛に専念させてもらうよ)
 罪悪感混じりだが、一陣の旋風がカイの首筋を打つ。
 背骨から喉仏まで一刃の刃が通り抜けた。
 首を失ったカイは絶命した。
 旋風に気がついた友矩が引き返した時には全長1メートルの、そして刃渡り2尺ばかりの巨大な刃を持った『構大刀』がそこにいた。
 ぴちゃぴちゃと刃についた血を舐めている。
 そして、地面にはカイの血で署名された『一姫』の文字があった。
「畜生! 野郎ども一姫だ。やるぞ」
 取り方組も黙ってはいない。ゲレイが一瞬で詠唱したウォーターボムの魔法が淡い青い光と共に一姫に向かって放たれようとするが、前を行くエリーの姿に対象を逸らさざるを得なかった。
 エリーが鞭と日本刀の合わせ技で間合いを支配しようとする。
 しかし、迂闊な一撃は許されない。鞭で徐々にダメージを与えるのみ。それも掠り傷の域を出ない。
 それでも拘束に一縷の望みを託し、鞭を振るうエリーであった。
 後方で、光は淡い赤い光に包まれながら火の精霊力に働きかけて己の精霊力を高め、さらに地の精霊力を以て大地から一振りの水晶の剣を生み出す。
 レヴィンはスクロールを広げ、アグラベイションの魔法を行使する。しかし、耐えきる一姫。
 慧もシャドゥバインディングで動きを拘束しようとするが、これも凌がれる。
 消耗戦に疲れた一姫が一同の士気を挫くべく選んだのが、慧であった。魔法の詠唱に専念し、体術に優れた彼が選ばれたのは当然であろう。 唐突に空中に身を泳がせ、エリーの間合いから一気に離れ、急降下で慧の首を狙う。
 しかし、そこへ立ち塞がる光。
 だが、急な行動と、剣術の未熟が祟って、鎌を受けきれず、腕が飛び、続いて首を飛ばす。
 そこまで来て、一姫は初めて口を開いた。
「あんたらをあたしをなんだと思っているんだい? 血に飢えた悪鬼? それは式神としてのさだめさ。唐渡りとはいえ、武蔵の国の国津神? ああ、それを語るには時が経ちすぎた。それとも只の討伐されるべき精霊? あたしは一体何々だい!」
 友矩が仲間をふたりも護りきれなかった怒りに吠えて、詰め寄るが、一度仕留め損なった相手に執着しない質なのか、それとも圧倒的な力量差を感じたのか、虚空へと再び身を躍らせる。
「ぼんやりしている場合ではない。急いで寺院に運び込めば首は繋がるかもしれない!」
 レヴィンがふたりの首を抱えて残りの武芸の達者達に身体を抱えさせると寺院へと急いだ。復活の相場の金の倍、120Gを吹っかけられたのは、首を繋げるのも高度な魔法であるからであり、僧侶達の悪意からではない。
 単に今までの犠牲者が助からなかったのは、死亡から時間が経ちすぎていたからである。
 現実に僧侶はサービスとして光の腕も繋ぎ、全員の傷跡を消してくれた。
 ゲレイはフライングブルームを使って、朝方まで追いかけっこを、一姫としていたが、魔力の消耗に伴い、振り切られてしまった。
 落ち合うのは冒険者ギルドの前となる。
「すみません、僕がもう少し精霊魔法に長けていれば──やり用はあったのでしょうが」
 慧少年はそう言って謝るが、金は出してくれなかった。今後の依頼や生活の事もあるのだろう。
 しかし、苦い幕引きとなった。
 これが冒険の顛末である。