夜に散歩しないかね?(弐)

■シリーズシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:11〜17lv

難易度:難しい

成功報酬:8 G 11 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:03月05日〜03月13日

リプレイ公開日:2006年03月12日

●オープニング

 一姫には逃げられた。あまりにも拘束用のコアギュレイトの間合いが短すぎたのだ。
 モンスターの博学なものがあれど、如何せん実戦での応用力が低すぎた。
 相手は空を飛ぶモンスターだと判っていて、この結果なのだ。
 挙げ句の果てに首を刈られるものまで出てくる始末であった。後ろからとはいへ、守りが甘すぎた。
 しかし、相手の攻撃パターンは読めた。少数を襲い、多数からは逃げる。
 依頼主の慧少年は父親からは式神に関して、多くを知らされていなかった。口伝と幼さでは仕方有るまい。
 しかし、とある志士は父の生きていたら知っていたであろう以上の情報を以ていた。
 とはいえ、当人が首を持って行かれては仕方がないことである。
 一姫はサイレンスによる隠身、ブレスセンサーによる索敵、ストリュームフィールドによる遠距離戦への備えと一通り、こなし、人気の無いところを見計らって首を刈りに行くのだ。
「すみません、こんどこそ一姫をどうにかして下さい──」
 慧少年の声は沈痛な響きを秘めていた。
「一姫に言われた言葉が忘れられないのです」
「あんたらをあたしをなんだと思っているんだい? 血に飢えた悪鬼? それは式神としてのさだめさ。唐渡りとはいえ、武蔵の国の国津神? ああ、それを語るには時が経ちすぎた。それとも只の討伐されるべき精霊? あたしは一体何々だい!」
 とはいえ、星辰は巡り、血の惨劇が武蔵の国の東の街道筋で血の饗宴が繰り広げられる。おそらく一姫だろう。
 絡繰り仕掛けの様に冒険の幕が上がる。

●今回の参加者

 ea0029 沖田 光(27歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2046 結城 友矩(46歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea5970 エリー・エル(44歳・♀・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea6177 ゲレイ・メージ(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb0939 レヴィン・グリーン(32歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)

●サポート参加者

七瀬 水穂(ea3744)/ ニヴァーリス・ヴェルサージュ(ea9359)/ セルーリア・トーン(eb2142

●リプレイ本文

 レヴィン・グリーン(eb0939)がスクロールを広げ、さやけき月光の下、念を込め、淡い銀色の光に包まれると、うすぼんやりとした、半球が創造された。月の精霊魔法“ムーンフィールド”だ。
 それを沖田光(ea0029)が筆頭となって、テントを上に被せていく。
 ムーンフィールドは1EP以上の物は弾くので、こうならざるを得ないのだ。
 レヴィンは続けて紅い淡い光に包まれ、続けて緑色の淡い光に包まれたりと、魔力の消耗の激しい、スクロールや高等な魔法を立て続けに使う。
 今日は雲の加減も良く、一晩中月光が照らし出しそうである。これで一姫の初撃を何の加減もなく食らうという事はないだろう。
「不覚でした、昔から兎と忍者には気を付けろと言われていたんですが、イタチも付け加えておきます」
 と、メモろうとするが、生憎と光は筆記用具は持ってないので、頭の中の箪笥にしまっておく。
 光は依頼主の慧少年が知らないなら少しは自分で調べなくてはと思い、まず一姫の言い残した言葉の意味を考えて、様々な文献を慧少年の家や代々の書面から調べようとしたが、事の重要性からか秘匿性の高い古代魔法語で記されており、彼の判る所ではなかった。おそらく暗号化もされているのだろう。

「国津神と言うからには、元は神格視されていたモノなんでしょう‥‥そして、あの言葉から推測すると、契約が失敗しても式としての呪縛は残っている、そんな気がするんですよ。だから、そこを解決しないとどうにもならないのかなぁと」
 彼のモンスター全般に関する博識もその仮説を裏付けていた。
「で、解除方法としては長々しい魔法儀式とか、膨大な精霊力が必要になる訳ですね。これは一朝一夕には── 」
「ともあれ、前回捕らえられなかった落ち度が街道での血の饗宴を起こしている以上、今度こそ捕まえる」
 カイ・ローン(ea3054)が最悪殲滅戦に打って出る事を宣言する。沈痛な面持ちの慧少年。
 しかし、悲壮な雰囲気はなく── 。
「今まで、処置が間に合わなければ命を落としていたことなんて何度もある。確かに怖いけど。今、生きている以上、今更首を落とされたくらいで冒険者は辞められないよ」
 と冒険者の誇りをさらりと言ってみせる。
「かっこいいのねん、カイ君。それに、一姫にこれ以上、人を殺させるわけにはいかないわぁん」
「どっちの立場としての発言か? 一姫か、それとも旅人か?」
「女よ」
 カイの言葉にエリー・エル(ea5970)は気負わず応える。
「それは強いな、世界の半分か‥‥」
 膝の上の愛猫ムーンを撫でつつ、ゲレイ・メージ(ea6177)曰く‥‥。
「使役されていただけあって、人並みの知性があるのか。難しいだろうが、説得の余地があるはずだ。
 一姫は、自分の立場か記憶が判らなくて暴れている様な気がする。
 一番弱い一姫でこれだから、構大刀兄弟の残りは、一姫を倒すと手が付けられなくなりそうだと思うんでね」
 結城友矩(ea2046)はゲレイのその言葉に対し── 一言。
「ならば、打ち倒すのみ」
「ま、私だってフライングブルームは持っているが、おたくらが乗馬する様に、その上で魔法を唱えられないし、高速での空中戦は無理だな。ともあれ、レヴィンの魔法が完成した以上、周囲を取り囲むのが最善の道ではないかね?」
 月は欠けている方が多いが、天上天下を照らすには十分だ。
 一同は黒塗りの糸を背中に結びつけて散開し、友規が最初の番として残る。噂がばらまかれ── 正確には情報と言うべきか?──旅人の数は少ない。
 友規は鼻歌混じりに、最終日故、テントを背中からやや離し、一姫を誘うが、ひとつの誤算があった。サイレンスは対象の発する音を消す魔法であって、別に範囲内の音を消す魔法ではない。
「む、感有り」
 レヴィンのブレスセンサーの範囲に1メートルほどの大きさで、通常馬の2倍の速度で接近する呼吸体がある。
 急いで糸を引っ張るレヴィン。友規が引っ張り返すのを確認して、一同にテントに戻る様指示を出す。
 そのまま、テントのある方を凝視し、ムーンフィールドから零れる淡い光を凝視。近づく飛翔体を確認すると、ゆっくりと空中に大きく印を描く。
 緑色の淡い光に包まれ、放たれた、最大出力の雷撃は“一姫”を打ち据えた。悲鳴をあげる一姫、容赦なく、友規は小太刀の間合いに進入しようとするが、その様な小回りの効く技は中条流や陸奥流の様に奥義にはなく、行動を無駄にするのみ。
 フライングブルームで急行して、低空で飛び降りながら淡い青い光に包まれながら水飛礫を放ったゲレイの行動が無ければ、首を落とされていただろう。
 しかし、ゲレイの魔力の消耗は重要。
 幸い友規は首の皮一枚で済んだ。
 沖田は幾つも使う、魔法の準備に時間がかかり、エリーも呪文詠唱にはきっかり10秒かかる、つまり10秒間釘付けになるという点を忘れ、一歩踏み出せる予定でいたのをタイミングがずらされる。
 術の後に行動出来る高速詠唱は生死を分けるのだ。
 己の行動の無駄さをさとり、攻撃を当てに行く友規であった。相手の一姫は自分の属性であるとはいえ、膨大な風の精霊力で打ち据えられ、行動力は半減している。
 友規が、問答をする暇もできるのだ。
「一姫よ。拙者が思うに、そなたは風の力が具現した存在だ。力に善悪は無い。力は其処に在るから有るのだ。そして善悪があるのは力の使い手の方だ。如何なる目的で力を揮うか使い手しだい。だが今そなたは、そなたの意思でそなたの力を揮っている。拙者は人として同族がそなたに屠られるのを黙って見ている事は出来んのだ。侍の誇りにかけてな」
「私が単なる力だというなら、この血の染みついた、有り様はその力の使い手故さ。私に意思はない!」
 サイレンスの魔法が切れたのか、一姫が声を発する。
「ならば、元の一陣の風に帰れ!」
(ゲレイさん曰く『あなたのやりたい事は何です?』そして、光さん問うては、『では、貴女はなんでありたいと思いますか?貴女ほどの力だ、再び国津神として祭られるか、それとも討伐されるただの血に飢えた精霊と成り下がるのか、全ては貴女の決断しだいだと思いますよ』)
 レヴィンがスクロールからテレパシーを発動。銀色の淡い光に包まれながら、思念を一姫に届ける。
 やりとりが聞こえず、一姫のためらいが判らず、躊躇した所へスピアを構えたカイが叫ぶ。
「青き守護者、カイ・ローン参る」
 肉薄して、一撃して曰く。
「前回の台詞に対して返すが、自分が何者かか。そんなの一生懸命生きて息を引き取るその間際になっても分かるかどうかのものだろうが。そして、今残虐を行っている以上、どの様な理由であれ俺にとっては敵という以外何者でもない」
「そうか── 敵か、ならば滅ぼすのみ」
 平坦な口調で一姫が返す。
「誰って、あなたは一姫でしょぉん。私でも、他の誰でもないじゃない。ちゃんと、自分の意思で行動してるでしょぉん。何であろうと一姫はぁ、意思をもった一つの存在なんじゃないのかなぁん?だからぁ、私は一姫が何だろうとぉ、セーラ様に仕える身として一姫にぃこれ以上殺人をさせるわけにはいかないのぉん」
 エリーが力の限り叫ぶ。
「私は一姫── 。そ・れ・以・外・の・何・者・で・も・な・い」
「月影よ、我が下僕を縛れ、急々如律令」
 テントの中に潜んでいた慧少年がシャドウバインディングで、一姫の動きを封じる。
 影が消えない内に、カイが改めて、コアギュレイトで戒め、かつてから光が慧少年に依頼していた、鉄檻と鎖とで戒める。
「私の質問に答えてください。あなた方はなぜ、暴走したのですか? なぜ、あなた方は構太刀と呼ばれるまでに強大な存在となったのですか?」
 返答は慧少年が、構太刀三兄妹の、真の名を知らなかったが故、慧少年の茜屋家で伝わる秘法では、真の名前を以て、式神として土地神── 西洋人から見れば精霊でしかない── を御するが、その真の名前を知っている存在は、亡霊となっているかもしれない、慧の父親か(おそらく六道のいずれかを彷徨っているだろう)、さもなければ、名前という呪縛と引き替えに、莫大な風の精霊力と知恵を授けた、高尾の土地神白乃彦(しろのひこ)が知るのみだろう。構太刀は真の名前を覚えては居ない。何故なら覚えていれば、こうやって対象から逆に呪縛を受けるだろうから。
「で、結局。何がしたい。というより、何でこんな事やっているのです」
 暗殺に使われ続けた連鎖故、血を求めざるを得なくなった。
 それを聞かされた慧少年は衝撃を隠せないで、その場にへたり込んだ。
「何を今更驚く事がある。汝の父祖達は白乃彦から我らを“来るべき時”に備え、鍛錬せよと預かった時、この力を以て、殺しを行う道を選んだのではないか?」
「では、来るべき時とは何です?」
「知らぬ、天狗と白乃彦に聞け」
 レヴィンは最後に訪ねた。
「では、あなたは何がしたいのです」
「ただ、風の吹き荒ぶ如くに。とは言っても、既に血の匂いを運んだ風故、拭うのは容易ではないだろうが」
「あらん、そういう時でも悔い改めの道があると聖なる母は仰ってるわん、やり直せない事は無いわよ」
 エリーは気軽に返した。
「そうだな。汝の敵を愛せよ、とジーザスも仰っている」
 カイも白の教徒として、エリーの言葉を否定せざるを得なかった。
「だが、私の体には血が染みこみすぎている多少の悔い改めでは、追いつかないだろう」
 光は笑って返した。
「千里の道も一歩からと言いますよ」
 これで一姫は戦力にはならないにしろ、暴れる事はなさそうであった。血の匂いに釣られて逃げ出す事の無いよう、檻に入れておく必要はあったが。
「やったね。まだぁ、ふたりもいるんだよねぇん」
 とは、云うが明るいエリーであった。