【鳳凰翔ぶ!】さあ行こう、夢に見た島へと
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■シリーズシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:15〜21lv
難易度:難しい
成功報酬:15 G 84 C
参加人数:12人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月15日〜03月02日
リプレイ公開日:2006年02月24日
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●オープニング
「不死鳥経典の方々、どうぞお越し下さい」
江戸の冒険者ギルドで次の依頼人を呼ばわる声が響いた。
それに応じ、十数名の腰に黒い刀を帯びた白無垢に“ほうおうのまる”の紋を控え目に付けた、禰宜や巫女姿の一団が、一斉に立ち上がり受付を目指す。
中でも頭だったモノらしい、黒い小太刀を携えた巫女が一同を制すると、受付嬢の前にずずいとすり足で迫り来る。
「伊織と申します。こんなに大人数で押しかけて失礼します」
「はあ、ひょっとしてかの宮本武蔵殿のお弟子様で?」
「違います。同名なだけです。武蔵さんのお弟子でしたら、二刀を履いている筈でしょうに」
袖で口元を隠し笑う女。
波打つ黒髪につぶらな黒い瞳。一種雪女かと思わせるような白く抜けた肌の持ち主であった、この伊織という女は。
足下には飼い犬なのか、黒い子犬がじゃれついている。
「さて、依頼に関しましては江戸の南に船を出し、鳳凰の封印を解く、とありますが、これは結構な難事ではないかと?」
鳳凰自体が瑞兆として、名前は知られているものの、実態は知られていないクリーチャーである。
しかし、精霊ではないが、火の精霊に深く関わっていると伊織は切り出した。
「で、その火の属性を用いて、江戸を守護する四神相応の一角とすべく、南海の孤島に封じられたのですが──」
それがいけない、と伊織は切り出す。
「鳳凰では火の力が強すぎましたわ。道灌さんも上手の何とやらです。お陰でこの前の江戸の大火事、火が荒れ狂いましたでしょう。その一因にこの鳳凰がある、と私たち不死鳥経典では睨んでおり、最近になってようやく道灌さんが鳳凰を封じた、島を特定できました」
伊織はそう言って、子犬を抱き上げる。
「何にしろ、鳳凰を封印出来る様なおっかない仕掛けやら、怪物がいるのは間違いないでしょうから、この江戸で一番の手練れを選んで──特に僧侶、クレリック、僧兵、神聖騎士でニュートラルマジックの使い手を選んで、対魔法戦にあたりたいのです」
具体的な島の位置は依頼を受けた段階で教えるという。
「依頼は私たちの護衛と、鳳凰の封印の解除──こんな大仕事できる者、江戸にどれだけ要る事でしょうね」
しかし、それにしては不死鳥経典の一団には隙が無さ過ぎる様に、受付嬢には思えた。
「今回は冷やかしは入りませんので、サポートの様な無粋な事は控えていただきましょう。何しろ要の情報がひとつ捻れて、江戸城の大狸の耳にでも入ったら国家転覆かと疑われかねませんので」
伊織はそう告げて、不死鳥経典の一団を引き連れると、冒険者ギルドを後にした。
今、冒険の旅路への帆が上がる。
●リプレイ本文
(今回は依頼自体も、依頼人に関しても色々と腑に落ちない点がある。それと、話によると今回の鳳凰が四神相応の一角という事らしいので、他にも封印されている存在がある筈。鳳凰の封印を解けばバランスが崩れ、他の封印にも影響を与える可能性がある。確証が持てない以上は依頼を遂行するしかないが、一応、依頼人達にも用心はしておくか‥‥)
ヴィグ・カノス(ea0294)は抜け目の無い視線で伊織と他の不死鳥経典の面々合わせて12人を見比べる。
「その島は太田道灌が発見した島で、特に名はなく。封印の島とだけ、書簡に記されておりましたわ──」
「可能ならば島の情報も集めておきたい所だが‥‥」
「残念ながら、長年の情報収集でもこれだけしか情報は集まりませんでした」
問うヴィグの言葉に、伊織はそう返す。
(金か‥‥。
相手が英雄だろうが、悪党だろうが、金を出す方につくのが傭兵ていうものだ。
ただし、『やばそう』なら退くのも傭兵だ)
トール・ウッド(ea1919)は自身の行動指針を明確に定めた。
同じような行動方針のシクル・ザーン(ea2350)であったが、少年はもっと切実であった。
(ふぅ‥‥。帰りの転移護符も手に入れて、ジャパンに来ることは出来ましたが、懐は随分寂しくなりましたね。
このままだと、借家も借りる事が出来ませんし、頑張って働きましょう)。
怪我も予め治し、準備は万端。
「ところで、フェニックスが封じられているとの事ですが、フェニックスは以前に何か悪い事をしたのでしょうか?」
四神相応とかよく分からないシクル少年は素直に尋ねた。
「何も悪い事をしていないなら、解放してあげたいですね」
「悪いことしていたなら、百年が前でも悪名は鳴り響くでしょうね。そんな情報もない所からすると、ただの鳳凰じゃなかった、フェニックスなのでしょうね」
伊織は真面目に取り合う。
(ところで‥‥黒い犬、ですか。
何にでもデビルの影を感じるのは悪い癖ですが、不吉なのは確かですね)
「親父に聞いた事がある。南天の血は朱雀に縁があるとな。俺は鳳凰に逢いたい」
南天輝(ea2557)は誰に言うとも無く問うたが、いらえが帰ってきた。
「ほう、面白い。して、あって何とする?」
伊織の次に不死鳥経典を束ねていると思しき、頭をそり上げた大男──六兵衛が顔を覗き込んできた。
「いや、会ってから考えるさ──しかし、鳳凰か‥‥面白い」
微笑を浮かべる輝とは対称的に驚きを隠しきれない夜十字信人(ea3094)は心の中で──。
(しかし、鳳凰?
随分と凄い名前が出てきたもんだな。無学な俺でも名前を知ってるぞ?
さて。
鳳凰の封印を解くと言ってはいたが‥‥話を聞けば、江戸の守護の為、孤島に封じたとあるが‥‥。
一方的に封じておいて、力が強すぎたから解き放つ?
‥‥オイ、鳳凰さん、どんだけ激怒するか分からんぞ? 八つ当たりで焼き殺されたら適わんぜ。
こりゃ覚悟を決めねばならぬか‥‥)
「なあ、口外はされたく無いんだろ? ま、口の軽そうな奴には、二束三文握らせておけ‥‥」
(‥‥ん?)
と、信人が感じた瞬間、一瞬の内に懐に飛び込まれ、冷たい感触が首筋に感じる。しかし、殺気は感じなかった。
「俺か? オイオイ? 俺は口は堅いぞ」
小太刀を突きつけたのは、やはり、不死鳥経典の小柄なメンバーである蜂助であった。
「結構」
「で、頭のお嬢」
信人が伊織に声をかける。
「おやおや、嫁き遅れも良いところ‥‥と言われるかと思いましたのに」
「そうか? まあ、俺の猫を飼い犬が苛めないようにしてくれよ?」
「目的地や日程等が漠然としていて、非常に詰めにくいですな」
と最近ジャパン語を覚えたてのジィ・ジ(ea3484)が切り出す。
「すみません、ギルドでも申しましたが、万が一天下転覆の事と大袈裟にされても、困りますので。事は秘密裏に進めて、関係者以外は鳳凰が解放された事すらも気づかない様にしたい、というのが伊織様のご意向でして」
と良く日焼けし、肩幅の広い穂丸が頭を掻いて詫びを入れる。
「とりあえず、自分が舵を取りますので、一蓮托生という事で」
ところで、だ、と。
カイザード・フォーリア(ea3693)があえて切り出す。
「紋章や、得物のこしらえを見ても、不死鳥経典がどこかの息のかかったものか判然としない。本当にあんたら何処の藩や国の出先機関でないのか?」
伊織は完全に否定した。他の11人を見てもとりあえず、驚愕していても嘘をついている様には見えない。
「強いて言えば、神皇陛下の秘伝の精霊魔法を使う、陰陽師や、志士が多い故、日本に仕えていると言えばそうなるでしょうが。まあ、国が一枚岩で無い以上、自分達は中立の立場を取っています」
「ならば──そういう事にしておこう」
山本建一(ea3891)はそんな風に言い切れるカイザードが有る意味羨ましかった。
(とりあえず、護衛か──。しかしこの面子でその必要あるのか?)
実に根本的な問題であった。
更に根本的な問題に踏み込むイグニス・ヴァリアント(ea4202)。
「素人考えで悪いんだが‥‥そのフェニックス、いやこっちでは鳳凰だったか? の封印は解くのはマズイんじゃないか? その辺の事を含めてそちらの具体的な計画を教えて欲しいのだが」
「教えたいのは山々なれど、どれ程、陰陽五行の理に通じておる?」
平太郎と名乗る、不死鳥経典の長老格らしい、老人に諭される。
「まあ、有り体に言えばニュートラルマジックの呪文で、石化された鳳凰の魔力を吹き飛ばす。それだけにすぎませぬ。その石化がデビルの所行か、単なる地の精霊魔法かまでは判りませんが、シグル殿の持っている法力だけが唯一の鍵となります故、どうか、身を安んじあれ」
「はい、頑張ります!」
(さて、これがジャパンに来て初の依頼となるわけだが‥‥むぅ、どうやら俺はかなり厄介な依頼に関わってしまったようだな。
冒険者として依頼を受ける以上、危険は覚悟の上なのだが、依頼主が油断ならんというのはどうもな‥‥。
まぁ、鳳凰への興味がかなり勝ったから受ける事にしたが)
「念のため聞いておきたい、封印を解除して何とする?」
氷雨絃也(ea4481)はその身に帯びる魔剣の如き、果断な一言を切り出した。
翻って伊織は──。
「鳳凰様に土地神として、望むべき場所に羽ばたいて頂いて、これで江戸の精霊力が揺るぎなきものとなれば、誰も憂う事なきものとしています。そして、自分達は鳳凰様に付き従っていきます。まあ、迷惑だ、と言われたら別の鳳凰を探しますが」
と、返す。
「そうか。ならば、そういう事にしておこう」
と、言いながら絃也は4つの提案をする。
1.島までの安全かつ最適と思われる航路の選定。
2.探索のベース地の選定及び下準備。
3.以降の方針の選定。本格的な探索は下地を固めた後。
4.探索はベースを中心とした付近を入念に行う。
「よろしいですわ。浮き世離れした私たちと違って、冒険に慣れている方は違いますこと」
マグナ・アドミラル(ea4868)は一連のやり取りを聞きながら──。
(不死鳥経典か、我等には信じ難いが、独自の推論の元、善行を為そうとしているのだろうか?
依頼を受けた以上、依頼遂行に全力を挙げるが。我等を謀り江戸転覆を狙うなら立ち会った者が、その所業を止めねば為らん、何れにせよ大仕事と為ろう、心身に気力が入る依頼だな。
ギルドは中立、故に信用を裏切る事も、災禍を成す事も有っては為らぬな)。
──と、老骨に鞭打つ決意をするのであった。
クリス・ウェルロッド(ea5708)は苦笑を浮かべつつ。
(真実よりも疑惑の方が多い依頼だね。
私も、こういった依頼は何度か請けたけど、流石にここまでは‥‥ま、不死鳥という、世界でも数える程の『美』が、この眼で見られる機会なんだ。多少の疑惑には眼を瞑ろう。
最初は船上での班分けについて。船上でも、襲われないという保証は無いからね。
一同は大型の帆船に乗り組み、南東へ一路走らせる。
そして、その旅路の中で──。
「伊織さん、その犬はデビルです!」
伊織の下に戯れていた黒犬を見て、裏からこっそりとデティクトライフフォースをかけたシグルであったが、黒犬に生物の反応が無いことから、デビル、アンデッド、コンストラクト、といったロクでもない存在である事が確定して、一同に注意を喚起する。
「ちっ、ばれたか」
黒犬は捨て鉢な言葉を履くと姿を消す。それでまんまと逃げおおせたつもりだったが、トールが石の中の蝶を持っていた所までは想定外だったようだ。
呆気なく討ち取られたデビル。
「邪魅ですわね。いやぁ、上手の手から水が漏れるとは、この事です」 伊織が困ったように応える。ノルマン、イギリスから渡ってきた人物は知らないが、邪魅は西洋で言うところのインプにあたる程度の階位のデビルである。
雨雲の中、島が見えてきた。塔を思わせる巨大な岩が突き立っており、その周囲には──。
「あれは一つ目巨人。風の精霊と縁が深いとされるクリーチャー!」
外見は全身小麦色に日焼けした一つ目の3.5メートルの巨人が6体。
頭頂部に角が一本生えており、上半身は裸で腰に布を巻いていた。
伊織の解説によると、怪力で攻撃的な怪物であり、風の精霊と関係が深く、風の魔術を自在に操ることができます。肉食で人間の肉も好んで食べ。金槌を使う事もあるという。
「この雨雲ではヘヴンリィライトニングが使われ放題だ。無理に戦闘するより、デビルの疑惑もある事だし、一旦、江戸に戻ろう」
伊織の決断が下り、一週間かかって江戸へと戻る一同であった。
はたして、春雷は響くのか?
これが冒険の顛末である。