【鳳凰翔ぶ!】波に乗り、風に乗って──

■シリーズシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:15〜21lv

難易度:難しい

成功報酬:15 G 84 C

参加人数:12人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月16日〜03月31日

リプレイ公開日:2006年03月25日

●オープニング

 不死鳥経典頭首、伊織は再び冒険者ギルドに封印の島での捜索活動を依頼した。
 主な内容は、一つ目巨人との交渉、失敗した場合は殲滅と、おそらく鳳凰が封印されているであろう、岩山に踏み入り、不死鳥を石化から解除する事である。
 事に前者は不死鳥経典が決死の覚悟で挑めば、不可能ではないかもしれないが、後者は不死鳥経典がどれだけの戦力を集めても為しえない事であり、特に対魔法戦を想定して布陣を敷いて欲しいという。
 おそらく鳳凰は岩山に封印されており、物理的なトラップで大がかりなものはないが、太田道灌がしかけたかも知れない魔法的なものは判らないという。
 今回の依頼、というより一連の依頼は江戸の冒険者ギルドから非公開にしたいので、今回も補助要員(サポート)は使わせないという。
 過酷な状況下だがよろしく頼むと伊織は頭を下げ、冒険者ギルドを辞した。

●今回の参加者

 ea0294 ヴィグ・カノス(30歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea2350 シクル・ザーン(23歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 ea2557 南天 輝(44歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3094 夜十字 信人(29歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea3484 ジィ・ジ(71歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea3693 カイザード・フォーリア(37歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4202 イグニス・ヴァリアント(21歳・♂・ファイター・エルフ・イギリス王国)
 ea4481 氷雨 絃也(33歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4868 マグナ・アドミラル(69歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea5708 クリス・ウェルロッド(31歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6177 ゲレイ・メージ(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

「ゲレイ、ジィ。貴重な魔法な品だ。大事に扱ってくれ」
 出航直前、甲板でヴィグ・カノス(ea0294)はゲレイ・メージ(ea6177)に風精の指輪を渡し。
 ジィ・ジ(ea3484)にスクロールを渡した。
「確かに」
 と希少な指輪を貸してくれたヴィグにゲレイは返答し。
「── 感謝の極みでございます」
 同じく、返礼として、ジィは深々と頭を下げる。
「鳳凰を開放した後の策と、その準備を明示されなければ、俺としてはまだ信用出来ないが‥‥さて‥‥」
 とヴィグがふたりにイギリス語とゲルマン語を使い分けてやりとりをしていると。
「おや、珍しそうな品、持ってますわ。さすが冒険者といったところで、と」
 伊織が声をかけてくる。
「その様な秘蔵の品を使ってまで、鳳凰開封の事に当たってくれるとはありがたい事ですわ」
(ヒトの都合で封じられたモノが、ヒトやヒトの街に敵意を抱くのはごく自然なこと。
 また、もし鳳凰が富士に飛べば、かの山が噴火する恐れもあります。
 依頼人には万が一に対する配慮や責任が感じられないので、鳳凰の解放には内心、反対です)。
 ジィはそう言いたい心を押し隠して、伊織に笑みを浮かべてみせる。
「さて、潮風は腰に老体に応えます故、早々に下がらせて頂きます」
 背をピンち伸ばしたジィはそう言って場を辞そうとする。
「前の航海で何も無かったからと言って、油断は禁物ですわ── まあ、心配のしすぎですけど。ま、雇った皆様方もローテーションを組んでおられるでしょうし、前の悪魔がうちにまとわりついていた騒動があるから鋭気を養うのも当然でしょう」
 その場を離れたジィと、ヴィグは船室── と、言っても西洋のような間仕切りのはっきりしたモノではないが── に滑り込むと天使のひとひらを用いる。しかし、何のインスピレーションも感じられなかった。
 そして、聖なる釘に魔力を込めながら、船床に打ち付ける。これにより退魔の魔力の籠もった結界を形成する。
 その中で緑色の淡い光に包まれながら、ブレスセンサーを用いるジィ。魔力により周囲の呼吸をしているものの位置の掌握。結果、特に変わったモノは感じられなかった。
 そして、本番のムーンアロー3連発である。防具をしっかりと着込んでいるので、かすり傷以上のダメージは受けない。
 それを確認しながら、銀色の淡い光に包まれるジィ。
 まず、1番目の目標指定である『デビルである伊織』に対する反応は、形成された光の矢は迷走したまま、ジィに飛んできた。苦痛のうめきを押し殺して堪え忍ぶジィ。
 続けての── 。
『悪魔崇拝者である伊織』
『伊織に憑依しているデビル』という目標指定のパターンも結果は同じであった。
 最後は耐えきれず、かすり傷を負ったが、6分程おとなしくしていると、痛みも引いていく。
 一方、ヴィグも隣の部屋で、赤い淡い光に包まれながら、インフラヴィジョンを発動。船内を── それほど広い物ではないが──歩き回り、熱源の無い人物、生物といった尋常でない存在を探していた。結論、全員シロ。不死鳥経典の人物も、当然冒険者諸氏も全員問題がない。
 なぜならシクル・ザーン(ea2350)が乗船時、堂々と。
「すみません。前回のようにデビルが紛れ込んでいないか調べさせていただきます」
 とデティクトライフフォースで全搭乗者の確認をしたのだから当然と言えば、当然の結果であるが── 。
 その上でインフラヴィジョンで全面子を確認した上で更に、ヘキサグラム・タリスマンを発動させたヴィグの方も芳しい反応はない。聖なる力に反応して苦しみ出したり面子がいない事で確認が取れた。
「前回の事は下級デビルが自ら計画したと考えるより、背後に中級以上のデビルや、デビルと結託した人物が居ると考える方が自然ですね。
 もう、カンのような悲劇を繰り返さぬよう、これまで以上に慎重に行きます」

 一方で、南天輝(ea2557)は六兵衛と会話を交わす。
「すまんな、伊織についていた犬な何時からいたんだ? 教団がこの島を探す前からいたのか? 教えてくれ、以前、外国を周った時にデビルに組するものがいた。この国にも目的はわからないが、いるかも知れん。
 仲間を疑うのは嫌いなんだが安心したいんでな、犬が現れた頃に教団関係者になった者が誰か教えて欲しい」
 ジャパンにデビルがいるか、いないか── という問題ならば実際にいる、と六兵衛は返した。
 そして少なくとも教団のトップに伊織が立つ以前からあの犬は居たという。
 ただ、ジャパンでは何の因果かは知らないが、西洋で言う中級や上級といった強力なデビルの話は聞かないという。
 犬が現れた頃のメンバーと限定すると、伊織の父親が立ち上げた団体なので、ほぼ全員がそれに該当するのではないか? という返答。
 輝はそこに通りかかった伊織の白面に対し、正対すると。
「伊織、デビルに唆された訳でないなら鳳凰解放後も考えているのだろう? 教えろこうも奴等がかかわるのは、この解放は奴等の意図と重なるのではないか?」
「奴等というのはデビルの事です? だとすれば大きな力を持った、あるいは関わろうという者の所にデビルが来るのは不思議な事ではないと思いますわ」
「では、鳳凰を解放してどうする気だ?」
「鳳凰を本尊として祀る我らが、不本意に── まあ、ひょっとして自分から封印を望んだのかもしれませんが── 封じられている鳳凰を解放したら、やる事はひとつ‥‥‥‥神として祀りあげる事ですわ。当座は島の主── あるいは別の場所を望むかもしれませんが、その時はその時の事── として、何か鳳凰の方に展望が無い限り、出来るだけ江戸の四神相応を崩すような位置に動いてもらい、何千人もの冷害者を出した、あの大火事の再来を防ぐことですわ。それが大きな力を動かす事ですから、悪用しようという者がいるのも驚くに値しない事。その為に自分たちだけの力では不足と感じて、輝さんを初めとした冒険者の皆さんを雇ったのですから。ヴィグさんなどが持っていたような便利そうな魔法の道具や、シグル殿の様なニュートラルマジックなど持てない我らが様々な職能を持つ冒険者を雇いたがるのはおどろく事ではないでしょう?」
 通りすがりのヴィグが口を挟む。代案を見せてくれ、と。
「悪いが、言われるだけでは信用出来ないのでな、俺は」
「祀る事を実際に見るしかありませんわ。それにジャパン独特のの儀礼に関して説明したって真贋の説明がつく程、伝承に長けているという噂も聞きませんわ」
「ま、そういう事だろう」
 と、カイザード・フォーリア(ea3693)。
(実は密かに、開封云々はどちらでも良い。
 我等が手伝わなくても、何れ他冒険者が開封手伝わされるだろうし。それに── )
「強力な冒険者に匹敵する手錬の志士と陰陽師が12名もいる集団が、神皇勢力の影響下でなく、デビルに篭絡されているとは信じられぬしな。称号や生業が出任せで無いならだが」
「どうか、私達を信じてくださいヴィグさん、カイザードさん」
「仕事の内だな、仲間も依頼人も、どちらも信じたい」
 カイザードは伊織の言葉に言い切った。
「封印を解いた後の方策として、何か代りの物で補うのだろうか? それと解放した鳳凰はどうするのか、についても聞けたしな。通りすがりにいい話が聞けたものだ」
「そういえば、あの邪魅が化けていた犬は元々どこで手に入れたんだ?」
 人が集まったので、何かと思ってのぞいてみたイグニス・ヴァリアント(ea4202)が伊織に尋ねるのに、彼女は少し考えて応えて曰く。
「3年ほど前ですね。京の都で」
 応えられながらも、イグニスは心中で。
(例の島まで往復13日ほどかかったよな。
 それだけ離れた場所から江戸に影響を与えているとしたら‥‥鳳凰の力推して知るべし、といったところか)
 と煩悶していた。
 すまないが人払いを願いたい。
 氷雨絃也(ea4481)はいつの間にか通路を塞いでいる六兵衛を中心とした集団に宣告した。
 願っている対象は伊織だ。
 三々五々人々が散っていくのを見届けた上で。
「今回を四神に対応させ考えると、残りの三神、これを崇める団体は存在するのか」
「確か皇虎宝団とかいうのは聞いた事はありますが、青龍と玄武を崇める団体は既に滅びたとしか聞いた事がありませんわ」
 話を聞き、ジッと見据え、推し量ろうとするが絃也は諦め、立ち去り際に一言。
「鳳凰の力── 破壊と再生と聞く、お前さんの望みの行く末見極めさせてもらう」
「どうぞ、ご自由に。ただ、吹聴されては困りますわ」

「しかし、アレですか。行き成り小太刀を突きつけてきた奴── 蜂助とか言いいましたな── も居るし、やはり、何処か得体の知れないところがありますな、依頼主の奴らは‥‥気配の消し方と良い、よもや、蜂助もデビルでは無いでしょうか‥‥!?」
 と、夜十字信人(ea3094)が、ジィと同じく、スクロールのムーンアローで対象を“一番近いデビル”として的中を狙ったものの、目標を見失った光の矢の制御に失敗し、ジィと同じく魔法への抵抗に成功し、かすり傷も負わなかったクリス・ウェルロッド(ea5708)の背中に声をかける。
「そんなに大きな船ではありませんし、悪魔がよほど特殊な防御手段を持っているので無い限り、ムーンアローは対象目がけて飛んでいきます。そういう魔法ですから──鳳凰が関連している依頼、一筋縄ではいかないと思ってはおりましたが、まさかデビルまで絡んで来るとは‥‥。
 ── これ以上に入念なデビルの選別も、視野に入れなければなりませんね」
「どちらにしても、封印場所にデビルの影ありですし。
 何とかしないといけないというのは確かですね」
 と、山本建一(ea3891)が話をまとめる。

 マグナ・アドミラル(ea4868)は上陸に際してのリーダーシップを取り。
「前回は果せなかった上陸を此度こそ果して見せようぞ」
 と意気込んでいた。
 絃也も伊織を説得し、彼女の配下である不死鳥経典の志士と陰陽師を適当に振り分けさせる。
 主に陰陽師が説得班に入り、志士は火を扱う者が全員だという事で、戦闘班に入った。
「一つ眼巨人には、説得班が小船で近づき説得し、残りの者は、少しづつ船を近づけ交渉決裂の場合、説得中にかけた、ウォーターダイブで、島まで上陸し接近戦に持ち込む。
・説得班としては、ジィ殿、ヴィグ殿。
・戦闘班には夜十字殿、クリス殿、ゲレイ殿、山本殿、南天殿、シクル殿、イグニス殿、自分だ」
 説得班には伊織を中心とした陰陽師3人。戦闘班には蜂助を中心とした志士9人が加わる。
 増えた志士達へのウォーターダイブだが、ヴィグから貸してもらったスクロールを使っての、陰陽師達が助力し、彼らへの予想以上の魔力の消費は避けられた。
 ちなみに現在の天候は晴れである。ヘヴンリィ・ライトニングの危機はない。
「人語を解するといいのだが── 」
 ヴィグの心配は杞憂に終わった。
 ヴィグのスクロールを行使してのレパシーの通じる遙か遠くの間合いから一斉に緑色の淡い光に包まれた一つ眼巨人達のライトニングサンダーボルトが6発が一同に降り注いだのだ。
 もっとも、威力自体は大したことはなく、深手を負うような者はいない。
 ヴィグは小物入れからスクロールを出し、いくつかの魔法を行使するが、小舟自体が安定しないので、なかなか上手くいかない。
 一方で伊織は集まった一つ眼巨人の集団に対して、銀色の淡い光に包まれながら、シャドゥボムの魔法を乱打し、好調に打撃を入れていた。
 残るふたりも淡い金色の光に包まれながらサンレーザーで着実に打撃を入れていくが、汗を掻きながら伊織は呟いた。
「あの連中は常人の4倍もタフな上、魔力に関する防御も万全ですわ」
「それを先に言え!」
 ヴィグは押し殺した声で囁く。
 そんな中、後方から回り込んだ、マグナ率いる戦闘集団が上陸。
 9人の志士もそれぞれ赤い淡い光に包まれながら、ファイヤーバードの魔法を唱えて、高速で接近、着実に一つ眼巨人の体力を削ぐ。
 算を乱して、一つ眼巨人達は逃げまどう。特にマグナが志士たちからバーニングソードを付与された斬馬刀で相手に着実な一撃を無音で与えていく。
 海水と血潮が混じり合いながら蒸発する。
「さて、人語は解しますかな? それとも魔力が必要ですかな?」
 倒れ伏した一つ眼巨人にジィが丁寧に訪ねる。
「お、おれたち、しゃべれる。ひと、くえるとおもってまほううった」
 ジィの眼に怒りが燃えた。
 淡い赤い光に包まれながら、結印と詠唱を始める。その手が灼熱に燃えた。
「あなた方の様な輩が居るから!」
 過去の傷跡を掻きむしられ、ジィは一撃しようとしたが、その肘にヴィグの縄ひょうが絡みつく。
「やめろ、情報は貴重だ」
「で、太田道灌はどこに鳳凰を運んだの?」
 伊織がさらりと聞き流せないフレーズを言い放つ。
「じいちゃんからきいた、どうかん、ほうおう、いしにしてあのいわやま、はこんだ。どうかん、じいちゃんたちにめいれいした。このしまにくるものをくってよいと」
「で、その“じいちゃん”達とやらはどこにおるのでしょうか?」
 ジィは凄みを聞かせながらも丁重に訪ねる。
「しんだ。しんでそのにくくった、まずかった」
「ジィ。やめてくれ」
 ヴィグがその手を強引に止める。
「いわやま、か。あれくらいしかなさそうだな」
 この島でもっとも眼につく存在、針の如き岩山にヴィグは眼をやった。
「後は信じるかどうか── か」
「岩山のどこです。応えなさい」
 伊織は詰問するが、一つ眼巨人達の返答は“じいちゃんがそういっていた”の一点に尽きた。つまり、自分たちで見た者はいないのだ。
 とりあえず捜索は、マグナの主導で── 、
 A班、クリス、夜十字、ゲレイ、カイザード、氷雨、南天。
 B班、ヴィグ、シクル、山本、ジィ、イグニス、マグナ。
 という所に落ち着いた。
 不死鳥経典の、志士と陰陽師達は船に戻り、魔力の回復に努める事になる。
 とりあえず、班分けして探索にあたろうとしたが、イグニスが鋭い視力によって鳳凰の居場所を発見していた。
 岩山の頂上である。
「また、行きづらそうな場所を‥‥」
 イグニスはぼやく。
 見える鳳凰の外見は翼を大きく広げた孔雀にしか見えない。孔雀と言ってもインドゥーラ出身者でなければ、まず、見たことはないだろう。
 もっとも、石化しているからであって、石化を解けば、色々と単なる孔雀とは変わってはいるのであろうが。
 その間に怒りを燃やし尽くしたジィが正気に戻ってシグルにスクロールからフレイムエレベイションの魔法を付与しておく。
 対デビル戦用だ。
 万が一、伊織に憑依した(その可能性は無いはずだが)デビルが、鳳凰を開封せんと、唯一ニュートラルマジックを使えるシグルに取り憑いて、その意志を無視して、危険かもしれない、鳳凰の開封を行わせない為の予防線である。
 少なくともイグニスの報告を受けた伊織が確認した範疇では鳳凰の筈である。おそらくストーンで石化されているのだろう、との事。
 霊鳥だけあって、鳳凰の魔法への抵抗力は高い。火の精霊に関わりが深いからにはフレイムエレベイションも使うのだろう。それを使って尚、石化しているのだから、重傷か瀕死に陥っている筈である。
 また、再生の力を持っている(と、伊織が主張する)鳳凰が、急場にある時、その抵抗力を下げる傷を放置するとは考えにくく、おそらく長い戦いか、何かの拍子── 奸計であろう── に魔力をも失っているが故だろうとの解釈を示した。
 その証拠にイグニスの眼には傷を深々と負っているのが良く見える。
 そう述べた後、伊織が一同の探索に同行する事を宣言する。
「魔力はありませんが、依頼主として開封の場に立ち会わない訳にはいきませんわ。足手まといかもしれませんが、同行させてもらいます」
「大変な道のりになると思います。だから── 引き返した方が‥‥」
 シグルが勧めるが、伊織は首を横に振って拒絶の意を示す。
「では、大いなる父が見守っている事を祈りつつ‥‥進みましょう」
 伊織はB班に所属する事になった。
 しかし、班分けをしたものの、どこをどう分担するという事はなく、漫然と岩山を目指して進む集団が取り回しの良い、二手に分かれただけであった。
 そして、岩山につく。
 麓でジィが岩を削って造った精霊碑文学の文章を発見し、それを解読するのに時間を要した。
 四神相応の結界を張り江戸の霊的幸運を作り出した、太田道灌からのメッセージのようだ。
「ふむふむ。ここに海の四神たる鳳凰を封じる。我が築きし四神相応の陣を崩し、板東の精霊力の理が崩れる事を恐れるならば、これより前に引き返せ。汝等が開封するモノは大崩壊への最初の一歩なり。遠路はるばるご苦労であった。しかし、徒労に過ぎぬ。我この地を『沖ノ鳥島』と名づくる、この地より早急に去るが良い── ずいぶんと偉そうなメッセージですな」
「まあ、100年前の人ですし」
 信人がぽつりと呟いた。
「えーと、続きは何々、バーニングトラップ!?」
 ジィを中心に炎が膨れあがった。
「警告兼トラップとは恐れ入りました。仏教の真言も大したものですな」
「しかし、情報は欲しい所」
 伊織が苦々しげに吐き捨てる。
「いや。この程度の情報なら、どうにでもなる要は読まずに進めば好い事だろう」
 マグナが断を下す。
 後は精霊碑文学で何か、偉そうに彫り込んである部分を無視して、進めば好い事だった。太田道灌も100年間もこのトラップが放置されている── 自分の秘術が後継者に伝わっているだろう、という傲慢な発想だろう── とは思わず、錆びた槍がびっしり埋まった落とし穴だの、石弓の仕掛けられた回廊、という古典的なトラップは輝が笑いながら解いていった。
「時間というモノは、哀れで、儚いものだな── 」
 とはいえ、最後の罠を外し、山頂に達する頃にはもう夜であった。
 鳳凰の石像は間もなくである。
「ああ、この時をどれだけ待った事か── ?」
 伊織が滑るように白い頬を紅潮させて囁く。
「まあ、その前に── 石化されている上、この夜空では判り難いかもしれませんが、確実に鳳凰ですな。間違っても、鳳凰に類似していた他の怪物という可能性はありませんな」
 ジィが咳払いしてから呟くと、伊織も冷静になり、じっと石像を見つめる。
 そして、その緊張がとぎれた瞬間。
「間違いありません深手を負っていますが、鳳凰です。もう見ていられません、シグル殿早く!」
「とりあえず、鳳凰と戦いになってはしゃれになりませんから、皆さん武器を納めてください」
 伊織が指示をするが、一同はどんな可能性があるか判らず、いささか中途半端な武装解除となる。
 その一方で‥‥。
「父よ、大いなる父よ──」
 と、始まるラテン語の聖句が山頂の風に乗って流れ、黒い淡い光がシグル少年目がけて収束した。
 そして、その光が収まった時、一羽の霊鳥が居た。
 全身を夥しい傷が覆い、痛々しい姿である。
 マグナが懇願する。
「鳳凰よ、その怒りを鎮め、我らの声を聞いて貰えぬか」
「良かろう。我が名は翠蘭」
「怒っておらぬのか? 人間がこれだけ酷い事をしたというのに── 」
「── その時の人間と汝等が違うのは一目瞭然、人間ならざる者も混じっている故一目で判る」
「人間ならざる者!」
 ジィが殺気立つ。
「まさか、デビルの類!?」
「確か、太田道灌の配下にはエルフだの何だのはいなかったという記憶の事だが。それに遠方の民が多くて、、ジャパン人ではあきらかにないのも変わっている」
 胸をなで下ろす一同。だが、伊織への疑惑は絶えない。
「この方に雇われているに過ぎんのでな。事後について等は聞いて頂いた方が早いだろう」
 カイザードが伊織に水を向ける。
「どうか、火気をお鎮めになり、江戸を覆う精霊力のバランスをお鎮めになってください。その上で我ら不死鳥経典が祀る事をお許しになってくれれば幸いです」
 伊織は膝を屈して、翠蘭に頼み込んだ。
 祀り上げられるのは構わないが、経典の教義の理解と、傷を癒すためにしばらく時間が欲しいというのが翠蘭の返答であった。
「では── これが当不死鳥経典の秘伝書です。どうか、祀り上げる事をお許し頂ければ幸いです」
 巻物をひとつ置き、伊織は後ずさった。
 江戸の街まで一往復するのに2週間ほどかかりますので、願わくば、その間にお心をお決め下さい。
 伊織は鳳凰── いや、翠蘭にそう告げると、一同にこの場を辞する様に指示した。
 帰り際に翠蘭は訪ねる。
「ところで江戸とは何か? 地名というのは理解出来るが‥‥」
 このジェネレーションギャップもどうにかしなければ、翠蘭をどうこうしようという勢力が現れた場合に危険かもしれない。ヴィグはその点を心に刻み込み、その場を辞した。
 半ばまで帰りの道程を来たところで── 。
「帰り道故、これ以上の疲れるのは勘弁して欲しい」
 伊織はそう言うと、ムーンシャドゥの魔法を一瞬で唱えると麓まで一気に降りていったようであった。
「疲労困憊故、先走りさせてもらい、忝ない」
 麓で一同を迎える伊織。
「後は最低でも火気を鎮めてもらえれば、これまでの道のりも無駄では無かったというもの」
 言って、一同は船に乗り組むのであった。
「本当に解除は正しかったのだろうか?」
 復路の船縁でシグル少年は自問自答する。
 長い航海であった。
 これが冒険の顛末である。