●リプレイ本文
何を言われても微笑を浮かべている浪人、瀬戸喪(ea0443)は──。
「気が利くかどうかは別物ですけどね‥‥ええ。
愛想だけなら何とかなるんですけども」
応えて依頼人の大久保長安曰く。
「愛想だけでは困る。目端の利く者が欲しいから冒険者ギルドに依頼したのだ」
「そうですか。それはおいといて、金掘については‥‥どうしましょうかね?
僕が女装して気のある素振りを見せて誘惑してみるというのも手かもしれませんが──。
ああ、でもそれよりも裏切ったらお仕置きの方が効果があるかもしれませんね。
それにその方が僕も楽しいですし。
試しにロープで縛り上げたら駄目ですかね?
できれば恐怖で縛り付けるようなことはしたくないんですが‥‥ねぇ」
「何を考えている。怯えた雌牛からは乳は搾れん。美味い草をやって育むのだ。誘惑をするとして、何人を相手にすればいいと思っているのだ」
「いや、僕若いですし──」
「よし、何なら試してみようか?」
「それもご一興」
謎めいた笑みを唇の端にのぼせる喪。
そこへ先導していた結城友矩(ea2046)が舞い戻ってくるのが見えてくる。
「宿の方は手抜かりないでござる」
彼は街道筋での宿の采配を自分から買って出て、それを見事に成功させているのであった。と、言っても行軍の資金の出所は源徳家という事になるのであるが。
「大久保長安さまですか、甲斐との交渉権を持つ方とは凄いですね」
(源徳公が安泰になれば、那須も少しはしのぎやすくなるでしょうから、この交渉成功して貰いたいですね)
自分の身分を隠して依頼に参加した刀根要(ea2473)であったが、仮にも要はジャパンの実力者と謳われる身であり、共に冒険した者や、少し鼻が利く者にとっては正体を隠し通せはしなかった。
十中十、長安には自分の本当の主君は知られているだろうが、向こうはそれを口の端にも上せはしない。その辺りは要にはひしひしと感じられる。
(煮ても焼いても食べられそうにはありませんね。源徳公が狸なら、こちらは狐と言った所でしょうか?)
「源徳の財政圧迫が解消されれば、難民の救済にもなるし、上州等の騒動の解決にも繋がるかな」
その点、隠し立てのする所のない、カイ・ローン(ea3054)は堂々と正論を述べられる立場にある筈なのだが、自分から外国人の観光者という枷を填めてしまい、友矩と一緒に先行していたが、さすがに街道に猟師の仕掛けるような罠を置くほど、脳天気な相手はおらず、結局何も判らなかった。
友矩の手配した、全員が宿泊できるだけの離れを持った宿に落ち着くと、西園寺更紗(ea4734)が──
「大久保はんは、異人はんの血が流れてるっ聞いたんやけど、ほんまなん?
因みに見ての通りうちは異人はんとのはーふというやつなんぇ」
と、抜けるような白い肌と、銀髪に対照的な黒瞳で長安に接する。
「世間の風評だな──と、言っても誰も信用すまいよ。更紗はどう考えている?」
「‥‥え?」
「ならば、それが更紗にとっての『ほんま』だ。他人からの意見で揺らぐような『ほんま』だというなら、それだけの事」
「答えになっとらへんで」
「そりゃ、答える気がないからな」
「うち役に立ってるんやろか‥‥」
と、更紗は疑問を口に出したりもする。
「今のところは役に立っていないな。このまま金山に行って、何をする気だった?」
「人足に声かけたり──『頑張っておくれやす、うちには声援を送るぐらいしか出来へんけど』とか。
金山では策謀をめぐらせられるほど器用ではあらへんので、人足の人たちに笑顔を持って声をかけて回ったり‥‥」
「一体、何を期待してこの依頼に入ってきた? だから、自分で出来る事も考えないで、冒険者ギルドの仕事に入るものではない──という事だ」
侍女姿──と言っても忍び装束だが、の──城戸烽火(ea5601)の言葉が割って入る。
「長安様、その程度になさっては如何?」
「そうだな。だが、更紗。単純に斬った張ったで済む仕事なら、源徳家の家臣団で済ませている、それを選ばなかった意味をよく考えてみるのだな」
更紗は退室した。
「藤丸はどうなっている?」
と、烽火に長安は、音無藤丸(ea7755)の状況を尋ねる。
「予定通り連絡がありません。動くのは我らが甲斐に入って──長安様が秘事の公開をなさってからの事です──それに連絡があるとすれば、一事あっての急報でしょう。藤丸様ほどの忍びの者はそうは居らぬ故──一撃で倒せなければ、自分の身命より、任務の遂行を優先して、連絡の手を打つはずです。藤丸様を一撃で倒せる相手となると、見当もつきません」
「信頼されてるな」
「信用です。忍者は用いても、頼らず。友であろうと、己の五体であろうと全てが用いるべき道具──失礼」
と、元の侍女の体を繕うと、そこへ石動悠一郎(ea8417)が──。
「武蔵と甲斐を巡っての旅か‥‥それにしても、新しい採掘法で枯れた鉱山を蘇らすとは大きく出たな、長安殿は。‥‥そう言えば、ノルマン帰りと言ってたか、ならゲルマン語とかは話せるのだろうか? いや、だからどうと言う訳でもないのだが」
「郷に入っては、郷に従え──という事だ。ジャパンの者とはいえ、向こうに観光で行くのでなければ、外国で使われている言語を学ぶのは当然の事と考えているが?」
「それが長安殿の流儀か。と、なれば後は‥‥金堀達への働きかけか? 確かに方法を伝授してしまった者が他所へ行っては意味が無い、知識と言うのはこういう所が厄介でもあるな。
拙者としては待遇さえ良ければそうそう逃げるものでもないのでは? とか思ったりするのだがな、後は下手に逃げると技術漏洩防止のために消されるとかいう感じの話をそれとなくするとか、後は堀師に家族がいるならそちらを押さえるのも手かと。なんだか働きかけと言うより政策の話になってしまった様な‥‥」
「喪にも言ったが、幾ら鞭で打った所で、牛は乳を出さず。武田家の家臣ですらない相手に権威を盾に横槍を通せば、逆に知識の分散に繋がる」
「それにしても掘り方ひとつでそんなにも変わるものなのであろうか? 素人ゆえにかもしれんが拙者にはピンとこぬな」
「自分も聞くまではさっぱり判らなかったな。向こうの発想の転換には驚かされるものがある」
そこへ、ふくよかな胸や、蠱惑的な四肢を、スカーレットドレスや、フェザーマントに包みこみ、上品な顔立ちからは『聖母の赤薔薇』のふたつ名を容易に同期させる淑女、フィーネ・オレアリス(eb3529)が現れる。
「私が大久保長安さんの株を上げてみせます。大久保長安さんは社会的な信用を無くしてしまったのですから、名誉を回復したいという事なのでしょうか?
及ばずながらですけれど精一杯頑張れせていただきます」
フィーネの言葉に長安が返して曰く。
「名誉を回復というより、訳が判らない事件に巻き込まれてな──それで、自分は清廉潔白だが、犯罪の証拠は魔法で調べられる以前から、準備されていたらしい。まあ、大雑把に言うと公金横領だな。大金が館に隠されていた。しかし、冒険者が過去を見られる一ヶ月以上前から隠されていたので、犯人はそこに大金を隠していた。そこで犯人ではないか? という事になったのだが、この大久保長安、金を回す事においてはジャパンに並ぶものなし、と自負している。そこで、この度の戦乱の資金繰りに武田家との話を持ちかけたのだよ」
「じゃあ、金山の事は知っていたのですか?」
その言葉に長安は意味ありげな笑みを浮かべるのみであった。
甲斐の国に入り、一同は黒川金山へと通された。武田側としても、長安は知っており、そこで時間を取るよりも一刻も早く、金の卵を産んで欲しい、という公式が出てきたらしい。
友矩が派手派手しい鳴り物入りで一同を導いていく。金堀達は予定通りの到着日だったので、最も大きな陣屋で一同を出迎えた。
そこで、くだくだしい挨拶が応酬され、長安に具体的にどうすれば、金山の発掘量を跳ね上げる事が出来るのかと問い質すと、大久保長安はふたつの提案を出す。
いままでは鉱石(純粋な金の鉱脈など早々出るわけがない)を鉛と交ぜて、高熱で焙る事で、純金を分離していたが、それを今度からは鉛に変わって水銀を用いる。こちらの方が『確保』できれば効率は良い。そして、精度の高い水銀を得る手早い手段である海外への月道は誰が握っているか?
「では、今度はもっと単純で発想を変えただけの案を示そう。鉱脈を縦にではなく、横に掘れ」
今までの露天掘りの方式、単純に地面から鉱脈のありそうな場所にあたりをつけ、ひたすら下へと掘り進んでいく方法論。
これは井戸掘りとは逆に、水が出ない事を祈るしかない。
水が出れば、その鉱脈はもうお終いである、掘れば掘るほど水が出てくるのだ。
しかし、長安が提案した通り、横に掘っていけば、水が出てもそれを汲み出して、外に放棄できる。
悠一郎は脇でその言葉を聞いていて、縦のものを横にする。言うのは易いが、思いつきはしなかった。少なくとも間違ったことは言っていない。
(武田はよく、これだけの人材を手放したな? いや、武田を出奔して、ノルマンなどの異国に行ったから、それだけの知識を得たのか)
しかも、これらの手段は黒川金山のみならず、どの金山でも通用する。
その傍らでフィーネが着飾って、白米のおむすびを出し、茶を入れていたが──。
珍重はされても、フィーネ自身の家事に関する能力に限度があり、形を為さないおむすびだの、塩が妙に利きすぎているおむすびといった、多様性あるいはバリエーションに溢れた品は必ずしもプラスに動いたとは言えないようであった。
また、ジャパンに居ても神聖騎士は茶道を覚えられない。まあ、この点に関しては金堀達も茶の道をたしなんでいるわけではないので『まあ、そういうものか』と、異国の文化として捉えられてしまったが。
やはり、花嫁への道は遠いようである。
その頃、要は金山掘り達が鉱山から出てくるのを見ていて──。
「凄いですね、何時もこの様な重たい物を運んでいるのですか? 仕事を知る為に少し手伝わせてください」
と、考えるより先に身体が動く質の要は無邪気に手を貸そうとするが、普通貴重なものを持っているものが、唐突な要の言動を素直に受け取る訳がない。
「何のつもりか知らないが、人様のものに手を出すつもりか? 叩き出してやろうか!?」
「私はそんなつもりは──」
そこへ入る声。
「いいじゃないか? それ位。勝手に苦労したがっているんだ。──だが、その前にあんちゃん、自分の名も名乗らない気かい?」
と、ジャイアントの大男が上から声を降らせてくる。
「失礼しました。刀根要です」
「ああ、噂には聞いているよ。しかし、凄い筋肉じゃないか?」
「色々あったもので──すみません」
「すまながる筋合いはないや。だが、武家は武家の仕事をしろや。金堀は金堀の仕事をする」
「はあ、ところで金山だと、山賊や藩が直接支配を狙う者とかいるのではないですか?」
「したがるだろうな。だが、金堀は誰の配下でもない。山賊が来ても仕事をしない、殺せば自分たちで金を掘るしかない。武士でも同じだな。強いて言うなら神皇さまの下にいる。大和の森も山も、神皇さまの領土だからな」
「良く判りませんけど──でも、今は武田藩の保護下にあるんですよね、やはり他藩に誘われれば他の金山にも移るのでしょうか?」
「保護じゃないって、同等の盟約だ。しかし、誘われて武田家との筋が通れば、他の領主の所にうつるがな」
要の一幕の一方、カイは自分で自分を縛ったとおり、外国人の観光客として振る舞い、金山などの重要な場所には入れなかった。
更紗は金堀に声をかけ──。
「頑張っておくれやす、うちには声援を送るぐらいしか出来へんけど」
正直、更紗自身にも何を頑張れ、というべきかが判っていないため、やっぱり長安から自分の立ち位置が判っていないのか、と言われるのか思うと、憂鬱な気分になってくる。 また、烽火が長安に供応されるもの全て──もちろん、金堀の主立った者と交渉に入る時でも、食事に関して、水を含めた、交渉を快く思わない者(手を組まれたくない他藩、支配下に入りたくない金山、技術のみだけ目当ての武田)もいるだろうと踏み、それでもこの段階では警告がメインで、毒と言っても殺傷力は多少落ちるという見込みの下に、毒味をし、長安の金堀が寄せる信頼を確実に減じていた。
一方、藤丸は鉱山の唯一のリーダーというものがなく、合議制で事が動いているのを、遅ればせながら(後方からの防御を旨としていたため)知る事となった。
中枢の一箇所があれば、話は楽に進むのであるが、世の中、そんなにシンプルに出来ていないし、誰から当たるかで一思案するべき事であった。
しかし、一晩明けると、金堀達は長安の検案を駄目で元々と受け入れており、その動きは藤丸を通して、長安の耳には既に入っていた。
そして、具体的な横掘りの鉱脈に関して話を直接聞こうという動きであり、鉱山でひとつやってもらおうじゃないか、という動きになると、藤丸に伝えられていた。
「どうやら、内密に事を運びたいようで、護衛は下げてもらおうという流れ」
烽火も下がれ、という事らしい。
「ならば、鉱山では藤丸様では身体がきついでしょうから、あたしが隠密の内についていきます──少々忍法には自信はないのですが‥‥」
人遁の術で適当な相手に化けて紛れれば、一時的には凌げる。何かあっても微塵隠れで逃走して『上杉の陰謀』でごり押しすれば話はまとまる。
彼女が喋れなければ──の話ではあるが。
藤丸の情報では今の所、その様な動きはないが(あったら大変なことだ)、火のない所に煙を立てる。情報操作も忍者の仕事の内であった。
「という事で長安様、お慣れではないでしょうが腹芸の程、宜しくお願いします」
「いや、それはまずいだろう。確実に武田側にも忍びの者はいる。お前の力量を信じているが、ここは退いてくれ」
「では、鉱山の入り口まではお見送りします。侍女らしく」
そして、暁時、一刻ばかりの時が流れ去り、長安と金堀の主立った面々が戻ってきた。 金堀達の目は一様に興奮に満ちている。
「よもや、あの様な所に鉱脈があったとは‥‥不覚」
「まったく、大久保殿、何故、あの鉱脈を武田に居る時に教えてくださらなかった、知っていればこの金山を任されもしたでしょうに」
「いや、自分は欲張りでな──実は今の八王子代官の地位でも足りないくらいなのだ」
「おかえりなさいませ」
「うむ、大過なく戻った」
烽火が胸をなで下ろすと、藤丸が巨体を明らかにして現れた。
異常事態である。少なくとも、藤丸は『影』の身である。
「人死に──尋常ではありません」
まだ、陽が昇りきらない内の事件である。
単純に血の匂いを藤丸が嗅ぎつけたのは偶然である。
路地裏が発生源であった。
厄介事にかかずらあっても、『影』としての仕事には百害あって一利無しであるが、上杉関係ならば、長安の仕事にも関わってくるであろうと、一応確認の為に、のぞいてみた。
若い男の死体であった。しかし、見るからに袈裟懸けの一太刀で命を奪われ、挙げ句に腑を引き摺り出され、周囲に血で何やら文字が描かれているのは尋常ではない。
文字は西洋のそれであろう。イギリス語、ゲルマン語でないことは藤丸の知識から判った。
早速藤丸が奉行所に引っ立てられることになった。
しかし、得物の忍者刀では如何に藤丸がジャイアントとはいえ、一太刀で切り伏せるには力不足である。
最初は第一発見者を装っての犯行か? と思われたが、奉行所縁の忍びが、藤丸のただならぬ穏身の術から、余程込み入った事情が無ければ、十二分にその忍者としての才覚だけで逃げられる、と判断した。
どうやら書かれている文字はラテン語らしいと報告があった。詳しい内容は判らないが、『マスターが下僕たる魔王の、下僕に命ずる、伝えよ』といったニュアンスの文章らしい。
一同がもっとも怪しまれたのは、神聖騎士として、医師として、自らの素性を明らかにしたカイが検死に加わった結果として導き出した、一刀で抵抗のヒマもなく、人間を斬り捨てられる人材が豊富に揃っていたからだ。無論、長安もこの数の内に入っている。
「我が事ながら怪しいな」
ともあれ、奉行所が断じたところでは、この殺害行為はデビルを召喚する儀式ではないか、という案であった。
ジャパンではそうそう強大なデビルは出てこない(いや、どこの国でもだが)。しかし、風聞でも伝わっているのが、デビルの結社『皇虎宝団』が狙っている高尾山の管理権を握っている、八王子代官の存在──つまり、大久保長安である。
タイミングがあまりにも良くはないか? 大久保長安がデビルではないか、と疑われたが、フィオの持っているマジックアイテムで、奉行所周囲にデビルが今現在いない事は確認できた。
「では、何を伝えたのか?」
友矩の疑問はその一点に集中した。
魔王が相手なら知略を練りもしようが、その下僕では現物を見ない限りなんともし難いものがある。それこそ魔王の副官から、雑多な小悪魔まで様々、下僕といっても、格というのはあるものだ。
具体的には検討もつかないが。
(逢えば必ず討つ。しかし、それも召喚者の考えの内‥‥? いや、デビルならば何年もの尺度で陰謀を図れる筈。しかし、その様な小細工など新陰流で打ち砕く!)
しかし、それ以上に考えを巡らす暇もなく、長安を送り届けた一同の帰る刻限は迫っていた。結論だけ述べるならば、責任者である長安は残り、冒険者達は報告書を携え、戻る事になった。
一同は武田領を振り返り、振り返りしつつも、ウォーホースで距離をおいていく。
「予想していた毒より厄介です‥‥デビルとは──」
烽火は思い詰めたように呟いた。
「いいんじゃない、デビル斬れば?」
目に見える目標が出てきそうな気配に喪は上気する。デビルだ。幾らいたぶっても、誰からも文句がこない存在だ。今の装備では斬れないが、宝剣を履けば切断できるだろう。後はどれくらい、いたぶり甲斐があるかだ。
「それでは真相は見えません。悪の巣は滅ぼさなければ」
フィオが来た時とうって変わった普通の衣装で、神聖騎士としての誓いを述べた。
一方、要は羽生を肩に止まらせ、甲斐の国の方を見据えている。
上杉に真田、乱世になれば力を示せる人々の動きが、この勢力図を崩す可能性を見逃す訳がない、自分たちは『皇虎宝団』のデビルという因子を呼び込んで話をややこしくしてしまったのではないだろうか?
カイの結論はひとつであった。自分は神聖騎士である。今度からは神聖騎士としての誇りを自らの寄る辺とするべきではないか? 観光客などという任務を放棄した立場に自らを据えず、聖なる母の加護に恥じない様に活きるべきである。
(結局、何の力にもなれへんかった‥‥)
更紗が後悔する。
『うち役に立ってるんやろか?』
という、長安への問いかけに関する無惨な答えという現実。
自分に出来るのは人斬りだけなのか?
童顔を軽く膨らませ悠一郎は皆に一言言った。
「みんな行こう。皆が迷っていては拙者などは一生かかっても江戸に辿り着けない。また、甲斐に来るためには一度、冒険者ギルドに事の顛末を報告しないと‥‥」
その言葉に一同の顔に僅かながら笑顔が戻った。
そう、今は乱世に再びデビルが雄たらんと名乗りを挙げた事。
あの若者の死はささやかなれど、その狼煙。
しかし、デビルなどは多少の力があっても、人々が団結し、覚悟があれば、容易ならねども弾き返す事は出来る。
それは今まで数多の冒険者たちが証明してきた事ではないか?
それを再び、甲斐の国で証明するだけの話だ。
これが冒険の顛末である。