●リプレイ本文
「デビルか──先日の事件は魁に過ぎず。これが本番でござるか」
結城友矩(ea2046)が半分人さらいのように連れてきた、ジルベルト・ヴィンダウ(ea7865)に甲斐の国を前にして漏らす。
「酷〜い。死ぬかと思ったわ」
ラテン語が母国のビザンチン帝国出身という事で、死体発見現場にあった、謎の符牒の解読をできるのでは? と、友矩に期待されてジルベルトは一同に同道する羽目になっていた。
瀬戸喪(ea0443)は妖艶な青い瞳で──。
「今回は第一に長安さんの身柄を確保することですね。
まあ、こういったことで疑われるのはいい気分ではないでしょうけど。
何を敵に回したのかはっきりとわかりませんが、おっと友規さんはデビル関連と見ているようですね。自分もデビル対策の装備をしてますし、常に警戒は怠らないようにした方がいいですね。
今回の件に関して調べることもありますし、自分の身くらいは自分でね。
残されたメッセージに意味はあるのか‥‥その現場を見られるようなら見ておきたいですね」
もう、十日も経っている。現場は清められているだろうが、それでも喪は強調した。
西園寺更紗(ea4734)は、江戸に一度舞い戻ったとき、死者蘇生を行えるような大きな寺で、一度謎の文章『主が下僕たる魔王の下僕に命ずる伝えよ』と言う文章について思いつく事は無いか尋ねてみた。
空振りだった。
それを確認した後、急ぎ一同に合流して甲斐の国に舞い戻る。道中何らかの妨害を念頭に置き道のりを急いでいたが、幸か不幸か、往路での戦いは無かった。
その時間を消化する道中の間に、自分の頭を捻って何らかのヒントが得られないか、と、今までの事を踏まえつつ考えをめぐらせる。
特に更紗にとって、文章の配列が今のままでは意味がイマイチなので、自分ながらの解釈を交えながら考える──。
『主たる魔王が下僕に命じる、伝えよ下僕‥‥』といった意味に最終的に彼女はおいてみる、これなら後に何かが続けば意味が通りやすいという判断であった。一旦纏める。
しかし、後の文章なるものは最初から存在しないという武田側の解読を信じるならば、この文章なら更紗にとって都合の良い解釈が出来るだけの事に過ぎない。
最初に発見した音無藤丸(ea7755)を怪しむ位しか無くなってしまう。確かに後ろ暗いところがあるにはあったが──‥‥、それも忍びの者の定め、やんぬるかな。
「まさか国でデビル絡みの仕事をしようとは思いませんでした‥‥」
同じく、忍びの者である城戸烽火(ea5601)が江、戸に戻った際、大久保屋敷から着替えを受け取るべく動いたが、屋敷中に神獣や、四神相応に関する何かが無いかを見るレベルまで勧めず、玄関先でしばし待たされると、やってきた大荷物を担いだ奥女中が数人来て同道すると言い出した。
いずれも劣らぬふくよかな美女揃いである。
長安の趣味が窺い知れた。
さすがに顔には出さないものの、口に出して烽火曰く、道中、これでは足手纏いになる。必要最低限の荷物だけまとめて、自分が長安様に引き渡す、と主張して、何とか余計な足手纏いを引き連れずに済んだ。口に出さなかった事、言わぬが花という言葉もある。
「一刀の元に人を切り捨てられる人材‥‥‥確かに豊富であった、がそんな事しても我々には何の得も無いのだがなあ‥‥‥あの妙な血文字も気になるし。長安殿を陥れる陰謀と言うのが一番考えやすいであろうか?」
方向音痴故、皆に一番後ろからついてきた石動悠一郎(ea8417)がぼやくが、確かに誰にしてもメリットがあるものはいない、少なくとも武田と源徳と、冒険者ギルドでは。
ひょっとしたら、武士の少なくないものが求めんとする、謙信勢の飯綱の法とやらかも知れないが、そんな胡乱なものが現実にあったとして、デビル絡みともとれる様な訳の判らぬ事件を引き起こしておいて、謙信勢にも何のメリットがあるのまるで見えない。
等と、それぞれの胸中では(更紗の胸の片隅を置くとして──)長安は被害者であるという方向性に動くが、一同は大体に於いて、被害現場を見たいという方向性で動いていた。それが最早、刻が移ろいすぎているとしてもである。
黒川金山のお膝元に入り、一同がそれぞれに身分を明らかにすると、役人が案内してきて、烽火、藤丸、友矩をのぞいた一同は殺害現場に導かれていった。
「何か痕跡が残っていなくとも犯行現場を調べることは必要でしょうから見に行きますが」
「何言っているんですか? あれから10日も経っているんですよ。もう、洗い清められています。現場には、ぶちまけられた血だの臓腑だのって、そりゃ酷い有様でしたからね、まったく」
武田側の役人が喪に言葉を返す。
更紗の金山の赴ければ現場をもう一度検分してみるという想い。落ち着いてみれば見落としに気がつくかもしれないと言う安易な考え、自分でも思ったとおり安易であるが、見落としがあったとしても、洗い清められているのでは仕方がない。
ジルベルトは友矩がいないので、晴らすべく豊かな胸にため込んだ憂さをラテン語で呟く、端から見ると危ない女だが、元々が異国人なのでそれほど気にもされない。
しかし、ラテン語が判るものが聞けば、心胆寒からしめた事であろう。
綺麗な現場につくと、ジルベルトは目を皿のようにして、何か、残っているメッセージはないか? たとえ、殺害者が残した謎のメッセージだけでなくとも、ひょっとしたら、被害者が残したメッセージはないかと地に、壁に、床に、視線を這わせるようにしていく。
しかし、何も見つからなかった。
絵にして、資料に残そうにしても、羽ペンはあれど、紙も羊皮紙もない。
悠一郎は、拙者達が出来る事‥‥現場検証に死者の身元確認、対人関係等の聞き込みと言った所か? と想いながら──。
「怨恨の線も全く無いとも言い切れまい、逆にそれが無く、無作為に殺されているとしたら儀式の生贄の可能性が高くなるであろうな。
殺人が複数個所で起こっているなら地図と照らし合わせて手がかりを探ったりも出来たかね?」
「いや、そんな事件は起きていませんよ。こんな血なまぐさい事件が起きていれば、鉱山から人が退きますわ。そう、変わった事と言えば、小判を懐にしてましたね、こいつは呑兵衛で明日の酒代にも事欠く様な奴なのに」
烽火と藤丸は到着したら身嗜みを整えて長安の拘束された場所へと向かった。
最初の場所とは違った屋敷に通される。どうやら、身柄に何か変化があったらしい。
「何があったのでしょう?」
問いかける烽火。
「金堀連中がな。長安殿の探し当てた鉱脈から金が大量に出ると言いだしてな、福の神をぞんざいに扱うな、というのだ」
「では、実際に金脈が?」
藤丸の言葉に気をつけなければ判らないほどの鋭さが伴っていた。
「うむ。金堀はペテン師を相手にかばい立てするような連中ではないしな」
等と語り合いながら藤丸と烽火は長安のいる離れに通された。もちろん、監視というより警護の意味合いで、武士がふたりついてきている。
「大久保様、不自由でしょうが何か欲しいものはありますか?」
ただ今、皆動いています。しばし、お待ちください」
「そうか、残念だな‥‥今、一番欲しいのは自由なのだがな。まだまだ、金山には手をつけていない鉱脈がありそうなので、是非とも掘ってみたいのだが」
「──そうなると少々お待ち下さい。後、僅かですが着替えなどを、お館の方から荷物として預かっています」
と、侍女衆から預かってきた着替えなどを渡す烽火。
しばし、他愛のない会話をすると、金堀の集まっている場所に烽火は藤丸を案内する。 今回は前回のように人が集まっているとは言い難かった。
ともあれ、藤丸はまずは被害者が、金山のどの集団の中にいたのかを確認したく、鉱山仲間や親方衆に会う為と、証言を聞き出す為、前回、怪しげな侍女として行動した烽火に紹介を頼んだ。
「ああ、あの酷いやられ方をした奴だな、世の中、いくさだけでも物騒だっていうのに、鉱山にまでそんなものを持ち込まないでもらいたいものだ」
親方
「あの殺人を発見した大久保様の配下のものです。犯人を見つけるためにお手数でしょうが話をお聞かせください。まずはどこの所属か?」
「ああ、あの塩八は、黒兵衛のところで働いていたな。いま、黒兵衛は長安の旦那が見つけた金脈の金堀で忙しいからな」
「それでは、そこに行くには少々手間取りそうなので、親分さんには塩八の人柄や、何か拘っていた事や、最近何かを見た付けられてる等聞かなかったか? 仕事はどの場所でしていたのか、知っていたら聞きたいのだが?」
「まあ、金が入れば入るだけ呑んじまうような奴でな。正直、人望は無かった。但し、腕の方は全うでな。とはいえ、見ただの付けられているだのは、黒兵衛に聞いても判るかどうかは怪しいな──」
(殺害された場所は偶然でしょうか)
と、藤丸は尋ねたかったが、酒飲みで人望が無ければ、ひとりで酒を呑んでいたというのも十分にあり得る事だろう」
「彼と親しかった者は?」
「まあ、まともに相手をしていたのは、黒兵衛くらいだったな。メシだの何だのを良く奢ってやっていたよ」
(結局、金山にいかねばならないか? 多少観察が必要か?)
「この山の神様は? いや興味があったのですが、鉱山ともなれば何か安全の為に祀っているのではと思いまして。例えば玄武様」
「玄武だか、ハチの頭だかは知らないが、そんなものは祭っていないよ。大山津見神(オオヤマツミノカミ)が、守り本尊さ、ほらスサノオが嫁にしたクシナダ姫の父ちゃんさ」 スサノオと言えば、ヤマタノオロチと天叢雲剣のエピソードがついて回っていると、ジャパンの正史である古事記、日本書紀に記された英雄神として知られている。
「いや、待てよ‥‥──」
「まさか、デビルが──‥‥」
藤丸が声を顰める。
「なんでい、その『でびる』とかいうのは?」
デビルの影響の薄い、ジャパンの一般人の反応はこんなものである。
「いや、『蛇神の金脈』を大久保長安が突いちまったんじゃないかって」
「子細を詳しく伺いたい、出来るだけ詳しく」
その頃奉行所では──。
現場の翻訳は正しかったのだろうか──と、煩悶するジルベルトが書き写されたラテン語のメッセージを見て、1秒で判断した。
「翻訳は全く間違っていないわね」
少なくとも数時間は苦労するかと覚悟していたのだが、彼女のペースで翻訳すると、刹那の時間で判断されてしまう。
一方、友矩は吟味筋と面会する。その場で独自に殺人事件の捜査を行う許可を取ろうとしたが、何の含みがあって、その様な事をするのか? と、逆に勘ぐられた。
被害者の代弁者として、資料を見せるのも良いだろう、互いに意見交換をするのもいいだろう、だが、冒険者ギルドから派遣された一介の冒険者が、何の勘違いをしているのか? と一笑に伏された。
冒険者ギルドの威光は万能ではない。ここでは自分たちは部外者なのだ。
とはいえ、吟味筋が集めた被害者の身元や交友関係等は教えて貰えた。
しかし、友矩の推理は進む。
一刀のもとに人を切り捨てる剣士は達人である。
武田家家中に猛者は多けれどもそれ程の達人はさほどおるまい。
ならば容疑者は絞られる。
剣の達人で事件当日犯行時刻にアリバイの無い者が容疑者だと目し、武田家剣術指南役に面会し達人の顔ぶれを聞き出す。
そして達人達の周囲で聞き込み捜査を行い事件当日のアリバイを確認し絞り込む。
と、そこまで友矩は話を進めたが、揺り返しが来る。世の中には浪人や、単なる人斬りもいる。
そこまでして、武田家中に犯人を限る必要性はあるのか? それとも犯人が武田家中にいなければいけない理由がそちらにはあるのか?
と、逆に武田家の方から吟味役を通じて叱責が来た。
「うーむ、源徳家が強く出られない現状では仕方がないでござるか」
友矩は呟くが、そもそも源徳家が強く出られれば、長安の身柄は最初から江戸に戻っているだろう。
武田家の方が、まず怪しいのは自分たちではないか? と言われないだけましであった。何しろ、自分たちは源徳家の家臣ではなく、長安が個人的に雇った、冒険者ギルドのメンバーに過ぎないのだから。
そもそも、アリバイを調べると一口に言うが、戦時中の武人の位置がそうそう特定できる訳ではなく、友矩自身の短い滞在期間で不在証明を行って、返答が返ってくるかも怪しい。
それにアリバイがあると武田家側の方が言って、怪しく思えたら、それをどうやって立証するのか? 本当にデビルが絡んでいるならば、幾らでも誤魔化す方法はあるのだ。
一応は『好意』として、教えてくれた範疇では、馬で半刻で往復できる範疇にはそれだけの(馬術を含めた)達人級の剣豪は武田家側にはいないという事である。
ただし、これ以上の好意を期待しても無駄であろう。
友矩が成果らしい成果を上げられずに帰ったのに対して、藤丸と烽火は異様に怪しい話を持って帰ってきた。
友矩がリアルに真相を求めたのに対し、藤丸はファンタジーに真相を求めた、その方法論の差であろう。
この金山を拓く際に独りの上人『鉱彦(ひろひこ)』が黒川金山を掘り進むのは良いが、この石より北は掘ることは許さないと、白い石を示し、この託宣に逆らうならば、天罰が下ろう、と言い出したという。
ところが、その白い石より北を、実際に掘ってみた無謀な金堀がおり、その場に行くと、金は出るが、次の瞬間、全身を岩に包んだ大蛇が現れ、その上人『鉱彦』に姿を転じ、淡い褐色の光と共に生み出した、ひとふりの水晶の刀を持って、金脈を掘った、金堀を斬り捨てたという。
少なくとも富士山が噴火する以前の話で、その富士山の噴火により、肝心の白い石の在処は知れず、天罰が下る事もないので、今の金脈の繁栄があるのだという。
もっとも、その繁栄も昔日の影に過ぎず、新たな希望として長安の献策によって、新規の技術によって掘られた鉱脈がその『蛇神の金脈』に触れている可能性もあるのだという。
「と、すればその鉱彦が下手人とも──? 少なくとも八百万の神々がラテン語を使うとは思えないが?」
友矩が全う至極な疑問でその太刀さばきの様に激しく斬り返す。
「交渉する必要はあるのではないですか?」
藤丸が静かに受け止める。
「少なくとも、犯人の可能性は消しておく必要性があります」
ジルベルトは自身の知識からその失われた『神』が『エレメンタルビースト』、しかし、地の精霊に属すると判断した。
地の精霊ならば、火の精霊魔法主体の自分は優位に戦えるはず──もっとも、自分の力量を楽観できるほどではなかったが。
とりあえず、長安の元を訪れる一同。
そこに曲者だ、出逢え! との長安の声が轟く。まさしくわれ鐘を叩くような大音声であった。
しかし、藤丸が、塩八の関係者である黒兵衛の監視に回っている間に、先行した影が武田家家中の者を斬り伏せ──長安に迫っていた。
普通の武家の格好をしたパラである。しかし、手にするは忍者刀。ただし、相当肉厚である。
しかし、長安はその重い一撃を受け止めるが、逆に受け止めていた小太刀を一刀の下、へし折られる。
ジルベルトは咄嗟に行燈の明かりを赤い淡い光に包まれながら制御して、炎の龍と化して、襲いかからせる。
「何やつ!」
名を名乗る訳がないと判っていて、悠一郎は愛刀を振るう。気合いを込めた衝撃波が襲撃者、おそらく忍びの者を襲う。
その忍びの者は衝撃波を避けきれず、咄嗟に印を組み、煙に包まれる(残念だが、更紗と喪は、得物が長物である為、修羅の槍を離れの中では存分に振り回せなかった)、爆風が吹き荒れ、視界外へと逃走した。
烽火がエウリュトスの弓から矢を射ようとするが、弓を痛める為、常時弦を貼りっぱなしにしておくわけにもいかず、遅れを取ってしまった。
「どうやら、やつら『春花の術』を使う様だ。護衛が真っ先に眠らされた!」
離れへと次々に武張った一団が現れ、周囲に警戒をもたらす。
やがて、凱歌が上がり、忍びの者が討ち取られた様だ。
しかし、反応は鈍い。幾人かの武田方の忍びの者が追いすがって討ち取った様だが、途中で自害されたらしい。毒を飲んだ挙げ句、舌を噛み切る。
武田方の忍びの者達は、相手の忍びの者が舌を噛み切った段階で、顎を外し、舌を気道から引っぱり出したが、それに手を取られてしまい、毒の処置までは手が回らなかったようだ。
「ともあれ、相手がバーストアタックで助かった。着込みも無いのでな──まあ、受けきる自信はあったが‥‥」
長安は自分の武勲をそれとなく語り出す。
「どうやら、身につけた品からは、この忍びの者は、上杉の手の者らしい──」
と、検分をした武士から報告が上がってくる。
「欺瞞でござるな」
友矩が断言する。
「同感だ。どこに自分の主君を証し立てる忍びの者がいる? では、どこから来たのか‥‥それが問題だな。ともあれ、矢は放たれた挙げ句、狙いを外した」
状況は混迷を深めるが、そこへ騒ぎを聞きつけて戻ってきた藤丸が合流して、とりあえず、今までの段階で黒兵衛には特筆すべき事がない事を手短に語った。
「そうなると──この忍びが一刀の下に斬り捨てたのだろうか? 確かに腕は立つ様に見えるが?」
「腕は立つ。確かにひと太刀でワシの護衛を斬り捨てたよ。ただし、春花の術で眠っていた相手をだがね」
「春花の術で眠っていれば──楽に斬り殺せるね。面白くないけど。じゃあ、一刀で斬り伏せた意味は何かあるの? 自分の腕を誇示したいのじゃなければ、何度も斬って、監視を拡散させた方が得じゃない? まあ、春花の術だったら、ひと太刀浴びせたら起きちゃうけどね」
言いながら唇を舌で湿す喪の言葉に対し。
「おそらく、デビル召喚の条件か何かではないの?」
と、ジルベルトが案にもなっていない、案を出す。
「デビルだからっていうのは思考停止だけど、ここにデビルの専門家がいない以上──最も、デビルの専門家なんてものはいないけどね──モンスター知識全般を修めている知識人じゃないと、判らないわよ」
「まあ、それは置いておくとして、何の用事があって、ワシの下を訪れたのかね? まさか、最後に茶を呑もうという趣向でもあるまいに」
「それが──解決してしまったようなのですが、くだんの惨殺死体の下手人に『鉱彦』という大蛇が捜査線上に浮かび上がりまして」
と、藤丸が『鉱彦』と、その逸話に関して、説明をしようとする、しかし、思い直して。
「すまん、烽火頼む」
「はい、何でも地の霊力を持った大蛇がその祟りで、惨殺事件を起こしているのではないかという仮説が出てきまして」
「ふむ、火龍が以前、鉱山に出てきたという話も聞くし、ない話でもないだろう。しかし、ジャパンの天津神の長である『天照之帝』の霊譜を引く、神皇の伯父に当たる源徳家の弓を引くとは不届き千万、これ以上『蛇神の金脈』とやらで、天罰を下すならば、源徳家の代理人として、この地を訪れている自分が調伏せねばならん」
周囲の武田家の人間からどよめきが漏れる。
ここまで露骨に神に弓引く発言をする人間は珍しい。如何に背後の背後に神皇家の威光が控えているにしてもである。
ジャパンは神が生きている国なのだ。
「それでは、信玄公に伝えて欲しい。ワシこと大久保長安は如何なる妨害があろうと、過日の戦費に値するだけの金脈を絞り尽くすまで、この鉱山の開発は諦めないとな。枕を高くして、眠られるがよかろう」
そして、止めの一言。
「頼んだぞ皆」
そのまま一同を見下ろして、大久保長安は宣言した。
(本当についていって大丈夫やろうか、このお人?)
更紗はさりげなく視線を逸らす。
これが結局の所、何も解決していない様に見える冒険の顛末である。