●リプレイ本文
冒険者ギルドからの依頼の報を聞くと、今まで大久保長安に関わっていた冒険者達は、電光石火の早さで踵を返し、甲斐の国へと向かった。
一応、新顔のアイーダ・ノースフィールド(ea6264)は道中で、オーラテレパスで意思の疎通が出来るほど、旧来の冒険者達としたしくなった。
オーラテレパスは顔と名前が一致した程度で発動できる程、容易い魔法ではない。
甲斐の国に着くと結城友矩(ea2046)は───。
「今更ですが。開けましておめでとうございます。早速ですが、依頼の打ち合わせを始めましょう」
「まあ、確かに遅れた気がしないでもないな。まあ、今年もよろしく。色々と依頼を出すかも知れないが、腕利きの冒険者は限られているのでな‥‥よろしく頼む」
友矩は、まず荷馬50頭を引き連れて直江津まで通行可能な道筋。その道筋で襲撃を受けそうな予想地点が知りたがった。長安自身が知らないという事なので武田家中で知っていそうな人物を紹介してもらい事前に確認を取った。
(上杉が沼津城に籠もっているのがもっけの幸い。その状況を去年の内から見越して、この策を立てたのか?)
次に直江津で馬を処分する業者と、船を借りる問屋、そして人足を手配する口入屋を紹介してもらい。業者、問屋宛、口入屋に紹介状を一筆したためて貰うというのが、友矩の案であったが、残念な事にそんなジャパンの裏側にいる様な人物達に知り合いのいる者はいなかった。
「水物ですね。土地勘も、案内の無い場所で馬を乗り付けるというのは?」
馬術の達人である刀根要(ea2473)が道行きの困難さを思い思わず口にのぼせる。
「なーに、囮だ。目立つくらいの方が良い」
大久保長安は自分の現場ではないので、放言をうつ。
「怪盗ですか、盗賊とは違うと言うのですね。
輝の話で聞いたこともありますね、確か『竜脈暴走』事件の時に手強かったと言ってましたね。
私と違い速度もかなりのものだとか‥‥ふむ」
それは戦い方の相違だろう、と大久保長安。
「動きが速くて、確実に大ダメージを与えてくるなら、恐るべき相手だろうが、動きが速ければ、自ずと打撃も限られてくるか、魔法などの限定された手段にならざるを得ない、どちらが優れているという事はない」
まあ、魔法にしか出来ないこともあるし、カタナでしか出来ない事もある───と長安は締めくくった。
「合い言葉なども決めておかんと? どうでやす」
西園寺更紗(ea4734)の言葉に一同は頷き、今までの経験を元にした合い言葉をひねり出す。アイーダはオーラテレパスの使用で識別という事になった。
噂が正しければ、怪盗3世の一行はオーラ魔法は使えないはずである。闘気をベースとした忍法でも、オーラテレパスの真似事は出来ないだろう。ましてや、怪盗3世の一同が魔法を使おうとすれば、オーラの淡い桃色の明かりではなく、煙に包まれるか、青く淡い光に包まれるので、一同が区別はつかないという事はないはずである。
城戸烽火(ea5601)は年明け早々に、駿馬が一角馬へと変化してしまい、今回は要の相方のモンゴル馬を借りて一同に随従してきていた。
「怪盗3世、また懐かしい名前───が出てきました。ジャパンに来ていたというか帰ってきていたのですね。
ノエル様は元気でしょうか」
「ああ、自分も冒険者ギルドの報告書で散見しただけだが、天使と色々あったようだな」
「ええ、本当に色々と───ノルマンでもギルド一時開店休業騒動とか色々ありましたし」 尚、彼女は鍵師ではあるが、鍵を持ち歩いているわけではない。別に生業が鍵師だからといって、鍛冶道具など一式を持ち歩いているかは別の次元の話なのだ。
生業が○○だからといって、○○に必要な道具や知識が付随するわけではない。
音無藤丸(ea7755)はジャイアントである己の身を儚み───。
「乗馬術がないのが痛いですね、体重のある拙者を運ぶ馬というものが身近に居なかった為でもありますが、今回はどの様に行動するべきか、荷の1つになると馬の負担が増えますね」
そうですね、と要。
「やはり『韋駄天の草履』ですか」
目立つが、この際は目立つのが目的なので、よしとされた。7尺を越えたジャイアントが馬と同じ速度で走っていくのだ。良い宣伝になるであろう。
他にも甲斐の国を立つのは甲斐の国は武田家の騎馬隊、武蔵の国は源徳家の騎馬隊、若手の冒険者を集めた騎馬隊、そして、一同を含めた4方面となる。
中でも最も大回りとなる一同は一番外見的にも何かありそうな一団であった。
大雑把な地図を頼りに直江津まで進んでいく、途中で上杉家の面々とやりあったり、野獣の群れを蹴散らしたりと挿話には事欠かないものであったが、冒険者ギルドとしては能力的に大きく差がある戦闘の子細を書き留めても、後の冒険者の参考にならないとおもわれる為、実力の半分も出さず、上杉家の一団は突き放し、獣の群れは追い返し。血の一滴も流すことなく、直江津までたどり着いた。
もちろん、食事の買い逃しと言う初歩的なミスによるタイムロスもなく、一同は50頭の荷馬を連れて、日本海の潮の香りを嗅ぐ事になる。
もちろん、この間に荷馬の管理を務めていた馬廻りの要の尽力があった事は言うまでもない。もう一桁上の馬を任せても何の遅延もなく直江津にたどり着いていただろう。
そこから、要や友矩が荷馬を買い取る業者を探して、見知らぬ街を歩き回る。要と友矩はふたり一組で動き、アイーダの提案で、誰かひとりでも残っていると人遁の術で、怪盗3世につけ狙われる隙になるから、という理由で、烽火と藤丸と、更紗とアイーダと一緒に番になる。
というより、このメンツではこれ以上に分割のしようがない。
ともあれ、番になるまで荷馬から降ろしたダミーと大久保長安の行っていた荷物を番する事になる。
適度に休息を入れながら、しかし、小用などでも目を離した相手には様々な合い言葉の投げ槍が飛んでくる。
やがて、捨て値で荷馬達の行き先が決まった。友矩にしても、要にしても取引を長引かせる必要性よりも、廻船問屋相手に更に時間が費やされる事を恐れたのである。
「もっとも十二分な金額でござるが───」
友矩が袋から僅かに零した金の粒を見せて、一種自慢げに言う。
「これだけの量の馬を一度に取引したのは初めてですからね───相場は良く判りませんが、廻船問屋へ一筆書いて貰う事で手を打つ事にしました。長安さんが見たら安すぎるというかもしれませんが」
しかし、蝦夷の付近は何やら怪しいので、こちらは難航した。海峡を一気に渡りきる足の速い船を要求せざるを得なかったのだが、そこで藤丸が金の現物を持って、女性陣を後にし、廻船問屋を回るのだが、藤丸が素人の自分を船員として雇い入れる様に主張すると、まとまる話も纏まらなくなってしまう。
「藤丸殿。卿は口を噤んでいた方が良さそうでござるな」
と、真っ正面から友矩が直言する。
「やはり、ジャイアントは目立つのであろうか?」
「馬と一緒に走るなど、悪目立ちしても構わない、と長安殿はいった。しかし、藤丸殿がいなくなれば、少人数のこの一行に大きな戦力の穴が空いてしまう、烽火どのもそれでは背中を預ける相手がいなくなるであろう」
友矩は渋く。
「それもありますけど、船の事を知りもしない、素人に危険な蝦夷廻りのルートを任せるわけにはいかないんじゃないかなぁ?」
少年のように屈託のない要。
「ならば、影に徹する───これで問題は‥‥」
「ないでござるな」
「ありませんね」
こうして藤丸は自分の役回りを思い出したのであった。
仕切り直し、船を回って3艘目───ようやく、海峡を横断し、尚かつ荷物と、自分たちを乗せて、風と波の許す限り手早く江戸まで回ろうという船長(ふなおさ)と出会えた。
「要はあんたらが幾ら出すか‥‥だ。見合わなければ、この話は受けられない」
藤丸が背負っていた金の袋から金の粒を巨大な掌で掴んで出すと、その船長は掌に唾を吐く、一瞬固まったものの、友矩も掌に唾を吐き互いの掌を打ち合わせる。
「商談成立でござるな」
「積み込むものがあるなら早くしてくれ、潮はこちらの思うようにはならねえ」
船長の声に3人は、急ぎ宿にとって返すと烽火、更紗、アイーダと合流し、大金のダミーを持って、船に乗り込む。
こうして、滑り出すように船は港を離れ、日本海の荒海の中を進み出すのであった。
しかし、トラブルは続く。
馬を大量に売り、船を貸し切る大金を持った一同に副船長が、船長に対して叛意を持ち、気がつくと、一同は船室に押し込められていた。
「さて、幸い荷物は一緒だ。釣り銭も、囮の方も」
友矩が手早く状況をまとめる。
「もっとも、うちら相手に兵糧攻め程度しか、打つ手はないで」
刀を手入れしながら、更紗が答えを促す。
最初の日の食事に毒を仕込まれ、大半のものが腹痛に苦しんで、毒消しやリカバーポーションにヒーリングポーションといった大事な資産を費やす羽目になったのだ。
「幸か不幸か、兵糧は江戸に回る分まではある。ひとは水がなければ2、3日で。食料がなければ2、3週間で死ぬそうだが、相手もそこまで食料の持ち合わせはないと思いたい。
封じられて二日目、船は進んでいるようだが、どこに向かっているかまでは判らない。「打って出るか───」
桃色の淡い光に二度包まれる友矩。
そのまま得物の霊剣『タケル』を引き抜くと、気合い一閃、木の扉を叩き割った。
「───は、そんな得物振り回せるかよ!」
短刀や刀子を逆手に手にした俄海賊はジャパン最強とまで謳われた友矩の気迫に押され気味。
「言われるだろうとは───思っていたがな」
そのまま、パンチ一発! オーラを込めた一撃で短刀目がけて殴りに入る。
当然、自分の体で受け止める事はなく、短刀の峰に拳が入る。しかし、その一撃は短刀を破壊し、相手の旅衣を破壊しても勢いは止まらず、相手を吐血に追い込む。
更に甘い香りが漂い、周囲を埋め尽くす。印と詠唱により、煙状の闘気を発生させた烽火による春花の術である。
更に窓から飛び出して、海面を走って甲板に飛び上がった藤丸が次々と船員に当て身を与えていく。
それからのリカバーが大変であった。船を動かすには絶対人数の不足があり、反乱を起こした、あるいは看過した様な輩しか残っていなかったのだ。
活を入れ、縛り上げた後、改めてその人物が信頼ではなく、信用にたり得るかを厳しく見つめ直す。
「仕方ないでしょう───しかし、怪盗3世の影はまるでないな‥‥こちらを囮と見抜かれた?」
要は唸るが、誰ひとりとして指示を受けたという言葉を出さない。
副船長が企てた計画にしても、ジャパンでもトップクラスの相手を本気でしかけるにしてはあまりにお粗末なものであり───要はどちらかがギブアップするまでの体力勝負である。
結局、船は蝦夷周りで進んでいたが、肝心の海峡越えでは何も起きなかった───有り難い事ではあるが───何にしろ情報が不確定なので、船乗り達も必要以上に神経質になっていたのである。
そして、一同は江戸についた。
出迎えはいない───当然の事ながら、連絡の伝令ひとつ寄越していないのだから当然である。
ともあれ、大久保長安の一筆を持って、江戸城に行くと、一同はしばし待たされて、大久保長安の屋敷に回る様に指示を出された。無論、大久保長安が下城するであろう夕刻まで待ってくれ、との但し書き突きである。
しかし、江戸城の雰囲気は暗かった。
大久保長安が女衆も大勢含めた派手な供回りを連れて、下城してくると、一同は軽く挨拶をして、本人かどうか確認される為の僧侶の使用するムーンアローのスクロールの洗礼を受け───無論、ダメージを受けない様に各自、一時的に防具を貸し出され───広間に通された。
「うむ、してやられたわ」
大久保長安の一声はそれであった。
本命の軍資金は最短距離を行く、若手の冒険者に委ねたられたというのだが、途中で怪盗3世の人遁の術により、散々内部をかき回された挙げ句、全ての金を持って逃げられたという。
「災難でしたな」
と、友矩。
「残念です」
要の言葉に相乗りするかの様にアイーダが───。
「結局失敗って事?」
「金山での謎はどれも解けませんでしたな」
等と、残念そうに藤丸が。
「ひょっとして、皇虎宝団と手を組んで?」
烽火が思いついたことを口にしてみる。
「君たちは良くやった。しかし、全体の作戦自体は失敗した訳だ。誰が腹を斬るやら、斬らぬやらで江戸はしばし揉めるかもしれんな」
「自分はその腹切りの中に入るとはお考えにならぬので?」
と、大久保長安に友矩が尋ねる。
大久保長安は鷹揚に頷き。
「次の金山は誰が掘ると思っているのだ? 黒川金山の様な所でも、不死鳥の如く復活させた大久保長安がいれば、金など湯水の様にわき出てくる」
「金は有限だと思いますけれど‥‥」
と、要が自信なげにつぶやくと、自信たっぷりの大久保長安が───。
「なーに、湯や水も有限だが、底は見えん。金も同じ事よ。その内、ブランの鉱脈でも掘り当ててみようぞ」
ブランとは魔法金属で、加工される前は黒い消し炭状であるが、一度精錬されれば純白の輝きを持つ。金の百倍の価値を持つ貨幣として、伝聞はした事があるかもしれないが、流通しているのは誰も見たことがないという、非常にいぶかしげな金属である。
何しろ、鋳溶かして固めれば、それだけで純白の魔法の武器が出来上がるという、まことしやかな伝承があると、大久保長安は云っていた。
「まあ、さすがにブランはそうジャパンでもほいほいと出てきはしないだろうが、一生に一度くらいは掘り当ててみたいものだ。そこで鍛え上げた純白の大鎧と斬馬刀を持って、いくさ場に立つのが、生涯の夢じゃ」
「随分と豪奢な夢ですわ。長安さんの治める八王子ではブランは出たりしないんですの?」
その更紗の声に大久保長安は顎を捻り。
「ふむ、考えてみたことも無かったな」
と、返す。
「まあ、天狗どもが春まで結界を安定させる事が出来れば、当分は安泰と行っておるしの、それに合力するのも悪くはないだろう。ま、どんな大妖怪が封じられているかは判ったものではないが。そういえば、構太刀の件はどうなったのだろうか? まあ、江戸にいる内に聞き出しておくか」
その大久保長安の言葉に烽火は───。
「随分とお忙しい様で───皆が太平に暮らす影にはお武家様の奔走あり、という事でしょうか?」
「なーに、忙しいのはいい。生きている実感があるからな」
「生き急いでおりますね」
大久保長安の言葉に藤丸は神妙な言葉を吐く。
「それはそうだ。『浪漫、女、金』。男が真剣になれるのはこのみっつで十分。それをどれだけ味わえるかで生涯が決まると思っているよ。まあ、一応、主君や武士道も付け加えておくか。その方が外聞も良いし。と言う事で人に聞かれたら『主君、武士道、浪漫、女、金』のいつつに大久保長安は生涯を賭けている、と言ってくれたまえ。まあ、言っている内に本当の事になる事もあるだろう」
「口は災いの門」
藤丸はぼそりと呟いた。
「嘘から出た真、という言葉もある、世の中何が起きるか判ったものではないよ。まあ、だから、出来るだけ自分の事は良い様に言っておく。これが大久保流の世渡り術だな」
ジャパン語は良く判らないまでもアイーダにもこの剛胆とも呆れたとも取れるニュアンスは通じた様で、大きなため息を漏らさせた。
「魔物ハンターが、せっかく人に思いを向けたと思ったのに───相手がこんな呆れた人物だったとはね、本当に驚きだわ。ある意味、魔物よりもタチが悪いかも‥‥」
「まあ、何はともあれ、だ。知り人が居れば、茜屋少年には近いうちにこちらと奉行所から召喚状が行くかも、と伝えてくれ。確か結城くんは知り合いだったな?」
「構太刀を巡る最初の冒険では不覚を取られました」
傷跡こそ残っていないものの、首と両腕を落とされたのだ。忘れようにも、一度『死んだ』事は、忘れられない。
「結局、天狗の方でも、封じているものが何かを明かさないままだ。天狗の長『大山伯耆坊』は封印を守り抜く覚悟があるのだろうが、何にしろ天狗の言う事だ。話半分に取っておいた方が良い。
それに───皇虎宝団の事もあるのだからな」
天上天下の秘密を明かすかの様な囁き声、大久保長安はやはり、不安を隠せない様だった。
構太刀というカードを切るにしても、皇虎宝団という鬼札は見過ごせない。あの、黒川金山での事件で示されている『魔王』の正体が何かも明かされていないのだ。
「では、ずばり伺うが、大久保殿はどれを一番重要視すべきだとお考えか?」
友矩が新陰流の太刀行きの如き、破壊力溢れた口調で尋ね返す。
「自分としては、誰にでも使われる可能性のある、構太刀とそれを使役する茜屋家を重要視する。仮にも一番格下が、奇襲とはいえ、天下の侍『結城友規』を討ち果たしたのだ。
奇襲専門の忍者と同じかと思われるかもしれないが、殺されて生き返るには相応の手間がかかる。それに精神的なショックも大きい」
「長安さん言い過ぎでは? そこまで言われても友規さんの方も面はゆいでしょう」
「有り難う要殿」
大久保長安の褒め殺しに対して、守りに入ってくれた要の言葉に、友矩が丁重に礼を言う。
「ともあれ、構太刀を重視するという事は、やはり倭の守護者の件も捨て置かない、という事でござるか?」
何はともあれ、褒め殺しから立ち直った友矩が長安に尋ねるのであるが──。
「結局、何をどうやっても高尾山に戻ってきてしまうな。天狗の隠里か───そういえば四神相応で、白虎とかもいたな、白乃彦だったけか?」
悩み始めた長安が爪を噛み出す。それを見とがめた更紗が───。
「長安はん、それは子供っぽいどすえ」
「すまんな更紗くん。みっともない所を見せてしまった、癖という訳ではないよ、単にどこの重視をするという事になってしまっても、全てが鎖かたびらの輪の様に繋がり合っている。どれを無視するというのも出来ない。せめて、高尾の大天狗の大山伯耆坊が封印しているものが何なのか判れば‥‥それだけの知恵者はいないものだろうか?」
大久保長安がひとりごちるが、結局この事件は自分たちは十二分に仕事を行ったという形でケリがついた。
そして、大久保長安から宴が催され(さすがに新鮮とはいかないが、船が着く時間は冒険の依頼から数えた、出立の日時から逆算していたのだろう)、一同はひさしぶりに水気のある食事を食べる。
さすがに冬の空の下での食事は味気ないものなのだ。後半は船だったとはいえ、気の収まらない日々であった。
その日もようやく終焉を迎えた。
多少のトラブルはあったものの、結果だけ見れば大勢は失敗だっっとしても、最後にこうやって労ってくれる依頼主なのだ。
まあ、いきなり僧侶を使ってスクロールからの初級ムーンアローで当人か否かの身元確認するような困った周囲に悩まされてはいるものの、それだけ大久保長安は大事と関わっているという事だ。
ともあれ、大久保長安は罪を許され───正確には単なる疑惑というべきだろう。公金横領の犯人という事ではないのだから、ただ無罪を証明できないだけだったのだから───いや、疑惑を晴らして、こうして源徳家のお膝元、江戸に戻ってきている。
また、近いうちには江戸を立ち、八王子代官の仕事につくのだろう。
それまでの豪奢な屋敷での夢の様な日々。一行はそれをしばし分け合ったのである。
「今度は皇虎宝団を殲滅してから会いたいものだね」
大久保長安はそう言って、館から、家中の美女を集めて一同を送り出した。
長い長い、冒険者達の旅路は終わった。
これが大久保長安の黒川金山を巡る冒険全ての結末である。