【毘】黒川金山接触せよ

■シリーズシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:9 G 32 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:12月20日〜12月29日

リプレイ公開日:2006年12月28日

●オープニング

 自由を取り戻した大久保長安は結局の所、甲斐の国に残り、金山採掘の技術指導に当たっているようだ。
 しかし、安泰なはずの小久保長安から冒険者ギルドに再び護衛の依頼が届いた。単なる護衛なら、源徳家でも良いようだが、武田領という事と、前回までの働きを見て、という事らしい。
 護衛の依頼内容というのは、首を転がされていた遺体が、鉱山で複数発見されていたというものである。しかも一様に、首と頭の分かれ目の断面図が異様な傷口である、これは絵画では現しづらいものらしい(少なくとも切れ味のいい刃物で斬った訳ではないようである)。
 ただ、助けを呼ぶ声を聞いて、駆けつけた者はいるが、それは褐色の光を目撃したにとどまる。
 この事件に、金堀達は過去の禁忌とされている『蛇神・鉱彦』の禁足地とされていた『蛇神の金脈』に今度こそ触れてしまったのではないか? と、恐れおののいている。このままでは金堀の士気が下がり採掘作業に手間取る。
 という事で、この怪事件を『処理』して欲しい、との大久保長安からの依頼が、長安屋敷の家人を通じて、冒険者ギルドに伝達された。
 追伸にはこうあった。おそらく相手は地のエレメンタル。相応しい霊刀があれば、持ってきて欲しい。また、石化の可能性もある事から、ストーンの魔法を受けた際の準備のため、ニュートラルマジックを使える者が必要となるだろう。つまり、神聖魔法の使い手が必要という事である。
 英雄とも言うべき冒険者なれど、相手も蛇神ともなれば、討つにも相応の準備が必要であろう。
 そして甲斐の国で蛇神を巡る冒険が始まる。

●今回の参加者

 ea2046 結城 友矩(46歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2473 刀根 要(43歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea4734 西園寺 更紗(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5601 城戸 烽火(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea6177 ゲレイ・メージ(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea7755 音無 藤丸(50歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea8417 石動 悠一郎(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ヒナ・ホウ(ea2334)/ スギノヒコ(eb5303)/ 葛木 五十六(eb7840

●リプレイ本文

 まだ、若さを残す少年めいた容貌の石動悠一郎(ea8417)曰く──。
「蛇神、か──まあ、確かに神、とまでは言わずともモンスターの類が引き起こした事態と考える方が考えやすいかもしれんか。
 今回は戦闘を想定して件の鉱山に向かうと言う事で良いのかな?」
 エキゾチックな西園寺更紗(ea4734)がそれに返しては、とりあえず彼女自身の意見として──。
「坑道内に入らず、坑道入り口及び鉱山を監視する。むしろ、監視と言うよりは有事に備えるという考えやねん」
 という方向性を明確に打ち出した。青き守護者、カイ・ローン(ea3054)は平然と。
「昔話で、すでに目印から北を掘るなって警告されているのだから、可能なら穏便に済ませたいな」
 などとやっている内に黒川金山が見えてきた、大久保長安がいる場所を仕事明けの金堀に尋ねると、見ない顔が多いせいか、丹念に教えてくれる。
 城戸烽火(ea5601)は花の咲くような笑みを浮かべ──。
「鉱山で起きる事件は──きっと解決しますわ」
 と視線を向ける。
 金堀曰く。
「全く、祟りだが何だか知らないが、金が取れるようになった途端にコレだ。本当に呪われて居るんじゃないか?」
「ふむふむ、オタクら、ジャパン人にとっては呪いというのがどういった現象と、民間では定義づけられているか、非常に興味深い。いや、金は名刀の材料にはならぬ故、あまり興味はないが。呪いというのはジャパンでもヨーロッパでも共通の認識であるかが‥‥‥」
 ゲレイ・メージ(ea6177)が立て板に水の調子で切れ目無くまくし立てる。
 音もなく、手刀をゲレイの首筋に『とん』と立てて失神させる音無藤丸(ea7755)。
 ジャイアント故の巨体が、普通の人間であるゲレイの首筋に立てるのは面倒くさそうだ。もっとも藤丸当人はそんな事をおくびにも出してはいないが。
 目の前の離れ業に目を白黒させる金堀。
 結城友矩(ea2046)がそんなゲレイを愛馬に担ぐと、ひと鞭当てて、金堀の教えてくれた方向へと威勢良く走り出す。
 友矩は、頭には獅子立兜、顔面には白虎の面、身体を装うは大鎧『金色』その上から、玄武の法被を纏い、腰には鬼剣『斬鉄』反対側にはチャンピオンシールドという今にも大群に突入しそうな物々しい出で立ちであった。
「拙者達が事態を打開するでござる。お任せくだされ」
 人々に友矩はそう声をかけると、長安の元にたどり着くと、バックパックから一振りの得物を取り出す。
「長安殿、ご希望の一振りをお持ちいたした。七支刀でござる。エレメントスレイヤーの力を持つ逸品でござる」
 事実上、エレメントに対しては倍の破壊力を持つ一刀である。互い違い枝の如く刃が刀身の左右から突きだした、通常なら祭器に用いる様な品に見えた。
 そんな便利な逸品を大久保長安は固辞しようとするが──。
「拙者はこの斬鉄がありますので。心置きなく七支刀をお使いください」
 という友矩、ジャパン最強の侍の言葉に揺り動かされた。
「ならば、忝ない。出来るだけの力にはなろう」
「大久保様も向かわれるので?」
 刀根要(ea2473)はそう尋ねる。
「あ、とりあえずは、大久保様、前回は参加できずに申し訳ありません。そのお詫びからさせてください。
 もう隠すのも失礼ですし、殿の招集により那須に行っていました」
 と、深々と礼をする。
「私は、那須藩士の刀根要です。今後とも宜しくお願い致します。
 大久保様、お聞きしたいのですが、現れている者が、何かを守りし者であれば、退治する事で、更なる災厄に見舞われる可能性があるのですが? 交渉が成功するのならその道を選んでも良いでしょうか?
 私は九尾の魔物達との戦いをして感じました
 人と対するのであれば、私達を簡単に倒せるものは少ないでしょうが‥‥‥‥一目置いてるのですよ、人外の者の戦闘力、対応能力には──」
 と、語りながら要は苦笑いを浮かべる。
「──負けないように修行はしているのですがね」
「そうか──? 私は人間の方が怖ろしいがね? 職種による武器、武術、魔法の制限はあって無きが如し。それらを組み合わせて、どんな不条理なタクティクスで攻めてくるか、個々人にあまりにも違いがありすぎる。人外の者はその種の定石を越えた戦いはできないからな」
 と、深淵の如き瞳で、長安は要に視線を合わせた。
「だから、私は冒険者の方が怖ろしい」
「坑道内での戦闘になる。申し訳ないが工夫達を一時引き上げてくだされ」
 早速、翌朝から長安を交えて、一旦金堀を中止して、横穴の中に入る事になった。閉口するのは藤丸である。少なくともジャイアントを入れるような前提で横穴は掘られてはいない。
「妥協しろ」
 長安は一声浴びせて、藤丸は退去の場合のフォローに入る事になった。要は鉱道の外である。これには更紗も加わる事になった。
 閑話休題。
 カイは発見者らに聞き込みをして、事件の時間帯や、殺害場所と地図から行動範囲を推測。
 特に意味を見いだせなかった。
「今回の事件が昔話に関係するなら、現場より北に元凶がいるはず」
 可能なら金山に関わる伝承等を調べる。
「怪異の鎮め方によって更なる悪影響が出るかもしれないから、調べるだけ調べとかないと」
 とは言っても、具体的にどう調べるかのヴィジョンはなく、またカイ当人が伝承に詳しい訳ではなかったので、一晩では以前の伝承以上の事はなかった。
 それは別として、烽火の方は黒兵衛に対し──。
「すみませんお時間をいただけますか? 塩八さまは亡くなる前にお金を手に入れてお酒を飲んでいたのでしょうか? 給金が出たのですか、それとも個人的に臨時収入でもあったのでしょうか? もしかして坑道内で何か金ではないものを発見したとか言ってませんでしたか、聞いていたらその場所と何だったのかを教えてくださいません?」
「給金を出す日はもう少し先だし。何か変わったものがあればとは、聞いていないが?」「そうですか──草薙の剣や、スサノオノミコトに関するのとか、神剣に関するものを見つけたならお金になりますね。それがデビルに関係してくるのかもしれません」
「おいおい、そんなものを見つけたら大騒ぎになるよ。伊勢や京都や、出雲の話じゃないか? 甲斐の国じゃ、縁がないよ、どっちかというと小判を持っていた事の方が驚きだよ。それだけあれば飲み代にしちまうだろうからな」
 藤丸は被害者が居た場所、所属、鉱山のどの位置で仕事をしているのかを調査して次の事件に対応するように準備をしこうと試みた。
 親方衆に前回聞いた鉱彦について真実味を帯びてきている事は間違いなかった。
 こういう験を担ぐ者達、侍等も同じであるが、不安に駆られ、個人的な調査も始めているかもしれないと踏んだが、そこで地道な情報は得られなかった。
 藤丸が責任感を持つ、黒川金山を離れる事を考え出す親方衆も現れるかもしれない現実。それは新しい知識の流出も防ぐのも依頼のひとつある筈ですから何とか思い留まって貰う様にしないといけなかった。
「だが、具体的な手段は考えていなかったな、鉱彦をどうにかするしかないか?」
 親方衆に金山の図面を起こしてもらい坑道が、どの方面に向っているのか新たに開いた道と過去からある場所を示して貰おうとするが、平面の地図はまだ作成技法は確立されていなかった。
 それだけ平面から立体への方向性の変換はインパクトが強かったのである。
 各坑道の親方衆の配置、被害者の所属した場所を確認共通点がないものかを調べたが、特に共通点は見いだせなかった。
 被害にあった場所が何処なのかも確認できたが、直接、中に入るには藤丸の身長が邪魔をした。
 とりあえず、聞いてみたのは、白い石の逸話に類するものを見なかったである。
 これもヒットは無し。
 それでも少ない推理材料から、被害や次の現場発生している場所を推測。
 白い石から北と、話にあったようなのであるなら被害はある一定の場所から北、新たに開かれた坑道から場所を推測する。
 一晩でとはいえ、何とか範囲に入っている坑道を絞り込む事に成功した。
 そして、絞り込まれた鉱道の中──。
 前衛に立つのはひとりが限度という事で、友矩が最前列に立つ。ジャパン最強は伊達ではない。
 所々に照らされた照明の中で、一同は身を屈めるように、進んでいく。
 カイの鉱山での移動順序は殿。
 探索中は定期的に地面や壁に耳を当てて地中を移動するものがいないか確認。
「アースダイブは地面に潜れるけど、音を立てずに移動できるわけじゃないはずだ。また地中を移動するなら、上や下といった通路にならない場所も注意しないと。特に1体だけとは限らないし」
 なお、ゲレイの木人1号は長安によって、あまりにも非力過ぎるという理由で同行を拒絶された。
「さ〜て、犯人の正体は?『蛇神・鉱彦』の話から考えると、犯人はスモールヒドラか?」
 長安が応えて曰く──。
「ゲレイの予想通り、相手がスモールヒドラだとすれば──それは私も同意見だが──地の精霊魔法を使うだろう。地の精霊魔法でこれだけの人数を一掃しようと試みるならば、まずグラビティーキャノンだろうな。木材で作られたゴーレムにも十二分な破壊力を発揮する。
 それに巨体の割りに十分な戦闘力を持っていない。それだったら破壊されるだけのデメリットしかない。命令に従う=高い戦闘力を持っている訳ではない」
 と、断じられた。
 悠一郎はいかなる状況にも対応できる戦列を──と、頭を捻ったが、狭い鉱道の中、限界がありすぎた。そもそもそんな便利な陣形があれば、皆が使っているだろう。
 ともあれ、明かりに反射する金の粒が素人目にさえ、見て取れる鉱道の中にて、気配──。
 一瞬にして斬鉄を刺突の構えに替えると、友矩は無意識のうちに雄叫びを上げながら突進し出す。
 要は全身の闘気を集中させて淡い桃色の光に包まれる。
「契約を破ったのはこっちなのだから、工夫たちには悪いけどまずは話し合いを持って解決に望みたいね。天災で目印がなくなったのだから、こちらだけが悪いとはいえない。もう一度境界線決めなおせばいいんじゃないかな?」
 言いながらカイはホーリーフィールドを形成しようとするが、両手に妖精の杖を持っていては、合掌する事も、十字架を握ることも不可能。聖なる母の神聖魔法に頼ろうには根本的に問題がある。
(しくじったか!)
 しかし、時は既に遅く、10メートルはあろうかという全身を岩に覆われた大蛇は何かを呻くと全身を一瞬くねらせ、褐色の淡い光に包まれる。
 その魔力は要を襲った。
 まず足元から石化が始まる。
 あまりにも精霊魔法への抵抗が低いことが原因であったが、単純にスペルキャスターを潰すという普通の戦略をとっただけだろう。
 しかし、巨体に友矩が一刀を浴びせ、手応えから十分に、その岩の如き鱗を貫通できる事を確認し(尚、新陰流の友矩は貫通出来なければ鎬で、岩鱗を破壊しようと考えていたが、鎬は刀で最も脆弱な箇所である。下手をすれば折れていただろう)、長安が七支刀で重く鋭い一撃を浴びせ、このスモールヒドラ、おそらくは鉱彦を精霊殺しの霊力で痛めつける。
 悠一郎もアマツミカボシを振るい一刀を浴びせる。
 重い一打に鉱彦は動きを止めた。
(刀根要と申します。土地神の鉱彦ですか?
 何故人を殺めるのか? もしかして古の禁を私達が犯しているのでしょうか?
 禁を犯しているのであれば再度その場を教えて貰いたい、私達も無理に禁を侵したくは無いのです。交渉の余地はありませんか?)
 ようやくに要のオーラテレパスが成就したが、高速詠唱を持たない悲しさか、皆が戦端を開いて、一掃した後での問いかけとなる。
「何を戯けた事を──」
 それがそのスモールヒドラの最後の言葉となった。そう、言葉であったのだ。
 何も無理に魔法を使う必要はなかった。古代の伝承でも鉱彦は、メッセージを伝えているではないか?
 だが、魔法を使わなければ話し合いになったのか? それとも最初から神罰を下す積もりで現れたのか? 友矩が絶叫もろともに斬りかかっていったのが、話し合いの芽を摘んだのか? 結局は不明なままであった。
 鉱彦を構成していた岩の固まりは土の固まりへと変じ、精霊力の顕現であった地のエレメンタルビーストが、ただの土塊へと変じた事を明かした。
 結局の所、残った負債は要が石化したという事実である。結局の所、金堀を含めた皆が力を合わせて、寺院に運び込み、鉱彦にかけられたストーンの魔法を、ニュートラルマジックで解除してもらう事になる。無論、費用は費用は源徳家持ちである。
 カイはそれを寺院の外で待つ。
「異教の寺院では反りが会わないだろう」
 同じ白に属する神聖魔法の使い手とはいえ、弥勒と聖なる母では手を握り逢うわけには行かない。いや、多分、握れるだろうが、どちらかが窮屈さを感じるだろう。
「何もしてやれなかったから、せめて要にかかった魔法くらいは解除したいが──こうなる事を見越していたのか?」
 出てきた長安にカイが尋ねると、長安は頷く。
「おそらくは──99%そうなるだろうと、思っていたがね。残り1%はデビルの持つ邪眼の魔法だ」
「デビルだったら?」
「結果は同じ。ニュートラルマジック以外では解除は不可能。もっともジャパンはデビルの土台が薄い。そんな強力な魔法を使うデビルはいないだろうが」
「神──この言葉を使うのには聖なる母の信徒として、抵抗があるが『八百万の神々』も居れば、デビルもそうそうは攻め込んでは来ないだろうな」
「もっとも──一柱減ったがね」
「デビル攻略の足がかりを作ったのか?」
「結果だけ見れば、そうなるな。ともあれ、少なくとも、事前にオーラテレパスを使う、と相談されていれば──交渉の手段として‥‥使うと聞かされていれば、止めたろう。魔法を使って、自分たちが平和の使者である、というのは本当に初対面で互いに悪意を持っていない場合でも成立は難しい──それに相手がこちらに対して意志を伝える手段を有しているというのは、伝説を見れば明らかだ。もっとも、友矩の出で立ちと雄叫びを聞いた段階で交渉という言葉は吹き飛んだだろうがね」
「精霊殺しの霊刀を受け取った段階で、交渉の意志があった様に見えないが?」
「最初から交渉するつもりはなかったからね──天照を祖とする神皇に連なる系譜の霊脈を引く、源徳家に弓引く輩は神と言えども討たれて当然」
「──絶対、交渉はしたくないな長安殿とは。そんな強引な理論、あの自己中心国家『神聖ローマ』だって言い出さないぞ。自分はジャパン人から見ればかなり傲慢で偏見のある意見に見られていると思っているが、長安殿には負ける」
「おっと、いけない、友矩殿に霊刀を返す事を忘れていた。幾振りも持っているだろうが、返しておくに越したことはない」
「いや、今の意見拝聴しました。魔法を使うことそれ自体で、敵意を疑われても仕方がないというのは今後の参考にします」
 入れ違いに寺院から出てきた要が頭を掻きながら決まり悪げに応える。
 ともあれ、鉱山は再び活気を取り戻し、今までの事が嘘の様に鉱脈は広がっていく。
 そして、相応の金が貯まる事が黒兵衛を通じて一同にも伝えられた。
 採掘法に精錬法、共に新機軸を使っている事と、新しい鉱脈が嘘の様に金の採掘量があり、武田、源徳両家の軍事費用の穴埋めをしようという意図を越えた収穫があったのだ。 無論、この金を源徳家は寝かせておく訳には行かず、甲斐の国から、江戸まで運ぶ必要が出てくる。
 そこで、長安がまたしゃしゃり出てきて、冒険者をこき使おうとする。
 もちろん、報酬は出るのだが──。
「来年の話をすると鬼が笑うというが、断じて行えば鬼神もこれを避く、という方針で話を進めたい。まず、金塊の運搬を行う荷駄隊をみっつに分ける。武田家の家臣が護衛する部隊と、源徳家縁の人間が護衛する部隊と、『君たち』が護衛する部隊とにだ」
「あのう、聞かれてもいないのに最初から自分たちは戦力の内?」
 悠一郎が手を上げて尋ねるが、長安は無言で首肯する。
「荷物をみっつに分割する、という手間は省き、ひとつの部隊に全てを任せる。武田家縁の部隊にだ」
「あら、つまり、うちらは囮ですのん?」
 ゆっくりと言い終えると、更紗が茶を啜りながら、香りを楽しむ。
「なーに、武田家の連中にも、源徳家の人間にも、自分たちが囮だと言っておく」
「策士策に溺れるという言葉をご存じか?」
 今回地図作りで手一杯だった藤丸が、鬱憤が溜めに溜まったかの如き、思いを吐き出すかのように寸鉄釘を刺す意見を披露する。
「つまり、真相を知っているのは長安様自分ひとりという状態を作りたいのでしょうか?」
 烽火が結局、塩八の持っていた金貨の謎を解けずにいるまま、疑問を投げかけた。
「これだけの金が動くとね──人間を信じて、その善意だけでやっていくには限度がある。そこで互いの顔を立てる事にしたのさ、君たちも含めてね」
 毒のような笑みであった。そのまま、一同は眠りに就く。
 そして、そんな長安の策をあざ笑うかのような事件が起きた。
 一同が江戸へ出立しようとする朝、長安の枕元に1枚の書状があったというのだ。
「とりあえず見てくれ」
 上品な透かしの和紙に墨痕鮮やかに──。
『怪盗3世、金塊頂きに近日見参』
──と、だけ記されていた。
 長安が説明すると、異国の話だが、怪盗3世とは忍者である。3世というからには元祖がいるのだが、それは神聖ローマがノルマンを占領していた当時に、神聖ローマの所有する聖遺物を、ミッションの成功率はどうあれ誰ひとりとして傷つける事無く、盗み出していた伝説的なレンジャー『怪盗』(本名は知られていない。冒険者ギルドに『ルノルマン』という名前で依頼を出していたが、これも本名という訳ではないだろう)であり、ジャパンに渡った怪盗の息子が忍者の里でジャパン人の忍者と結ばれ産みおとした孫であり、、忍術の天才的な使い手の孫である甲斐人(名字不祥)が怪盗3世と名乗って動いていた。彼をサポートするのは高速詠唱の使い手、水の志士の大介、神速の抜き打ちを誇る夢想流の浪人、五右衛門のふたり。
 全員が未だ13才かそこら程度である。
 この3人は聖遺物の類を狙うのは元祖『怪盗』の影響を受けての事であろうが、決定的に違うのは怪盗3世達は人を傷つける事を、自分の狙った対象を得るためならば躊躇わないという事であった。
 まあ、怪盗関係に長安が詳しいのも、別に稚児趣味という訳ではなく、八王子の霊山、高尾山から、冒険者の警戒を突破し、不動明王像の本尊を盗んでいった(正確には偽物とすり替えておいてから挑戦状を出し、あたかも自分が警戒をかいくぐって盗んでいった様に見せかけただけだが、結果だけ見れば盗まれた事には変わりない)という事件があったからであった。
 一方、元祖怪盗当人に関する情報はノルマンにいた当時に噂で聞いていた程度であると長安は語っていた。
 尚、怪盗はノルマンでジャパンから来た外法の剣客集団により命を落としたそうである。
「とにかく、こうなると、軍資金運びの話が自体がややこしくなりそうなので、実際の作戦の話し合いはまた今度の機会としてもらいたい。しかし、来るなら覚悟を決めて貰いたい。ともあれ、この軍資金を江戸に運べば、私は無罪放免。しかし、江戸表に運べなければ磔獄門だ。切腹もさせてもらえない」
「やはり、ジャパンの名誉の概念──武士道というのは、騎士道と違っていて判りづらい」
 切腹云々の発言を聞いて、医師として命を大事に思っているはずのカイが世界観のギャップを漏らす。
 ともあれ、実際の運搬の話は来年という事で、一同は甲斐の国を立ち去る事が出来るのであった。
 そして、黒川金山を巡る最後の冒険が幕を上げようとしている。
 これが冒険の顛末であった。