【胡蝶と竜】三河巡り

■シリーズシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:21 G 72 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:05月22日〜06月06日

リプレイ公開日:2007年06月01日

●オープニング

 江戸は荒れていた。源氏の正当たる後継者を標榜する者が現れ、そして奥州の軍勢は江戸城を攻略。
 まだまだ武蔵国には潜在的な源徳勢力が存在するものの、この機に領土拡張を狙う者も出て混沌とし、確実なまとめ頭が不在であった。
 そこで、八王子代官の大久保長安は三河源徳家を頼るべく考えを巡らす。
 まず急ぎ三河への使者を送らなければならないが、長安はそれと同時に八王子に身を寄せている家康の側室お茶阿の局を三河へ送る事にした。
 激戦を生き延びた源徳家康が三河に逃れたという噂がある。三河行きは茶阿自身の望みだが、長安にも茶阿の政治力を利用する考えが無いとは言えない。その胸中には一刻も早い江戸奪還を望む心もあるのだろう。
 となれば、道中の警護は尋常な訳には行かなくなる。
 乱の後で街道も安全とは言い難いし、かといって秘密裏の使者に物々しい護衛は有り得ない。
 護衛役として選ばれたのは冒険者の一団であった。
 実質的な正使者は茶阿となるが、冒険者の手腕が必要とされるだろう。三河までの長い道のり、剣の腕より舌先三寸が要求される仕事になりそうであった。

「三河にいって父君さまの無事を確認して参ります。それまでは」
 と、お茶阿の方は息子の実年齢9歳だが、14にも15にも見える若君、浅黒い肌に吊り上がった瞳が如何にも凛々しげな実子、長千代に語りかけるが、返す言葉は───。
「赤子の俺を捨てた親爺なんかしらない。長安、しばらく世話になる。食った分の働きはするからな?」
 ともあれ、お茶阿は冒険者ギルドを通じてこっそり人を集める。

 三河を巡る冒険が始まる。

●今回の参加者

 ea0282 ルーラス・エルミナス(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2046 結城 友矩(46歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2741 西中島 導仁(31歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea3597 日向 大輝(24歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6764 山下 剣清(45歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb5817 木下 茜(24歳・♀・忍者・河童・ジャパン)

●サポート参加者

ジルベルト・ヴィンダウ(ea7865)/ ミュウ・クィール(eb3050

●リプレイ本文

「此方は日本橋の越後屋の妻女でござる」
「‥‥」
「いやいや、我らは冒険者ギルドを通じて集められた護衛でござる」
「‥‥」
「最近の江戸は物騒でな。妻女の実家へ里帰りして、情勢が落ち着くのを待つのだそうだ」
「‥‥」
「得心されたご様子。通っても良いでござるかな?」 
 結城友矩(ea2046)は三河に続く街道の関所で茶阿の局を連れ───茶阿は商家の妻、日向大輝(ea3597)はその息子───として関所を通ろうとした。
 友矩の口上を聞いた関所の役人は、じっと彼を見つめていたが、暫しと言った。
「見ればお疲れのご様子。暫し此方で休まれるが良かろうと思うが如何か?」
「有り難き申し出、かたじけのうござる。なれど我ら、予定がござるゆえご遠慮致す」
「いや、越後屋の妻女を歓待せず素通ししたとあっては我らの名折れ。更に申さば、天下の越後屋が妻女を江戸落ちさせたと風評が立つのも正直宜しく無いのだ。御上にご相談申し上げる故、何卒ゆるりと休んで頂きたい」
 関所役人の言葉に、一行は心中穏やかでない。相談も何も、調べられればすぐ嘘とばれる。 
「何と、伊達公は大商人の妻女を人質にお望みか? 更に、拙者らは雇われた冒険者として期日通りに依頼を果たす責任がござれば、承服できかねる」
「そうでは無い、が、今の江戸は物騒だから逃げると言われては我らにも面子がござる。安心されい、然るべき手続きを取った後は、この後の通行の無事は当方が保障致すゆえ」
 役人は安堵させようと穏やかな口調で言い聞かせた。大商人の妻女が強力な冒険者を引き連れて関所に来たならば、特別扱いも無理からぬところか。
「所で、結城殿は先日の戦では大層なご活躍であったと聞く。連絡の間、国への土産話に高名な冒険者の方々の戦話など聞かせては頂けませぬかな?」
 役人はそんな事を言った。華の乱の初戦にて大戦功をあげた友矩の事を見知った者が居たのだろう。政宗は源徳方についた冒険者に罪無しと触れを出していた。役人の言葉にも勇者への敬意が感じられたが。
「うむむ、これでは予定が狂う」
 友矩は困ったように仲間達を見た。
「弱りましたね」
 ルーラス・エルミナス(ea0282)は役人の態度を警戒半分と見て取った。しかし、関所の兵に明らかな敵意は感じられない。対応も意外に紳士的だ。ルーラスはあくまで役人を説得したかったが。
「ここは強行突破も已むを得ません」
 女中に変装した河童の木下茜(eb5817)がこっそりと言う。此方は時間が経つほどボロも出やすい。越後屋の子供と言っている大輝は実は志士だし、女中に変装した茜も目を付けられるかもしれない。
「‥‥しかし、争わずに済む者とまで戦うことは無いでしょう」
「確かに褒められたものではござらぬが‥‥」
 ルーラスは不賛成だったが、友矩は確認の使者が出てからでは遅いと考えた。
 冒険者達は目配せし、ここは自分が───と、忍びである茜が兵の隙を見て先行する。

「忍!」
 10秒かけて印を組み、茜の体がポンっと煙に包まれる。
 伸ばした水かきのある掌から、淡い梅の花の香が立ち上り、前を遮る10人の奥州軍の内、3人を眠らせる。
「な、なんと! この関所を破るおつもりか!?」
 周囲の兵が一行に槍を向けた。
「下策ですが───」
 槍を手にしたルーラスは淡い後悔を抱きながら正面を受け持った。側面から走りこんできた兵の日本刀を盾で楽々と捌きつつ、自分の間合いを活かした動きで奥州兵を翻弄する。
「下策なればこそ───やり通さねばならぬ。気の毒だが、これも戦。―――計算違いか」
 思ったより関所の役人が職務に熱心だったのか。注意をひかないほど小者に化ければ良かったのかもしれないが、偽りが多くなるほど疑われ易くもなる。元より至難の仕事で、だからこそ、こんな時の為に選ばれたてだれである。

「戦は避けるべきであったが、最初からこれか」
 返り血を拭いながら、西中島導仁(ea2741)は依頼の困難さを改めて感じた。6人の冒険者は関所に居た奥州兵を殆ど斬り倒した。追手を防ぐ時間稼ぎだが、全ては討てなかった。
「是非も無い。我らのお役目と彼奴らのお役目がぶつかったのだ」
「ああ、過ぎた事を悔んでも仕方なし。かくなる上は、無事、三河に送り届ける為に為すべき事を為そう」
 導仁は全力を尽くす気だった。少々雲行きが悪くなったからと言って、途中で放り出すような男ではない。
「なろう事なら、戦は避けたいが」
 それを聞いて、山下剣清(ea6764)は───。
「人数が少ないので厳しくなりそうだ」
───と呟く。
 しかし、警戒しながら伊達の関門をすり抜け、富士を通り過ぎれば───奥州勢と、その味方とて無限の兵力を持っているわけではない───結城の予定通り、宿の離れを貸し切って、一同は商家とその護衛という仮面を押し通す事に成功した。
 その間に大輝少年は16の誕生日を迎え、一同に明るいムードを添えた。
「そういえば長千代は母親に甘えたりする姿はあまり想像できないけどお茶阿の局さまに対してどんなんなんだろ?
 道中長いし機会があったら聞いてみるか」
「あの子は腕白で、その上無鉄砲だから‥‥見ていられなくて。子供の時、眦があまりに裂けていて、二の腕に鱗が有ったので、家康さまは一目見るなり『捨てろ』と。まあ、捨てられたけど、私が手を尽くして実子と認めさせましたけどね」
「何か随分と入り組んでいるんだな」
 単なる神皇の従兄弟という訳ではないんだな。
 と、八王子の長千代を思い出そうとするが、別の面影が大輝少年の脳裏をよぎった。

 三河近くに入れば、茜が先に友矩から借りた、三つ葉葵のご紋の入った、刀子を見せて先行すれば劇的に待遇は良くなった。
「成る程、三河では源徳家の威光は健在という事でござるな」
 更に若武者達が先の奥州戦で一大戦功を立てた友矩らについてくる。
 その中には髷を結っているにもかかわらず異種族の血───有り体に言えばエルフであるが───が居て、一同の注意を些か引きつけた。
 友矩はどこかで見た事のある顔なのだが、と首を捻る。
 程なくして城から迎えのものが来て、一同を謁見の間へと通す。そこに居たのは源徳家康、三河へ落ち延びたという噂はどうやら真実だったようだ。
「待っておったぞ茶阿。冒険者ギルドから依頼の事とはいえ、そなた等には苦労を強いた」
 ルーラスは一歩進み出て。
「罰は如何様にもお受けしますが、失礼ながらお聞かせ願いたい事がございます」
 ルーラスは源徳に逢う事が出来たら、今後の事を聞きたいと思っていた。半ばその為に参加したと言っても良い。仲間達にも少なからず同じ気持ちがあっただろう。
「僭越であろう、上様の御前であるぞ」
「良い。おぬし達は長安の使者でもある。わしの存念を伝えるに支障は無い」
 家康にしても武蔵に残る源徳勢との繋ぎは最重要の一つだ。冒険者達は下に置かない扱いを受ける。
「時機が来れば話すが、今は、江戸は政宗に預けおくつもりじゃ」
 そこへ友矩が───。
「江戸の冒険者は今はまだ源徳贔屓でござる。だが時が移ろえば、それも変わるかもしれませぬ」
 伊達政宗は冒険者を懐柔する気でいると思われる。それは冒険者に限らず、民や武士にも同じ事が言えるだろう。もっとも、伊達が暴政を行えば逆に反乱の機運が高まる事も在り得る。
「今、三河よりの大軍が江戸奪還に動いたなら、それに呼応して江戸の冒険者も蜂起致すでござる。そして切り札は江戸城地下の大空洞でござる。先日、我らは大空洞を通じて江戸城より逐電した次第。拙者達が落ち延びた道筋を逆に辿れば、内部から一気に江戸城を制圧出来るでござる」
 確証あっての言葉ではないが、在り得る話だろう。しかし、家康は頷かない。
「確かに、その策ならば江戸奪還はかなう。しかし、新田、伊達のみならず上杉、武田も敵。江戸に入るは自ら包囲に飛び込むのも同じじゃ。政宗が危険を冒して江戸城に居る訳は、わしを誘う罠かもしれぬ‥‥。
 戦に勝てば良いという訳にはいかぬ。勝ってどうするかが大事なのだ」
 家康は即時の反撃は行わず、情勢を探りながら三河で死んだ振りをする気らしい。実際、源徳軍の受けた被害は甚大である。摂政としては評判を落すばかりで上策とは言えないが、春日山と平泉の真意を探る事が先と言った。
「ならばこの拙者の案、肝の片隅にでも留めおいて下され」
「命をかけて三河まで来てくれた勇者の言じゃ。忘れはせぬぞ」

 今回敗れた家康、勝った諸将の運命はまだ決してはいない。伊達が奢れば次は家康が勝つかもしれず、或いはこのまま家康は零落の道を転がり落ちるのみかもしれない。
 冒険者達は使命を全うして帰路についた。