華の都のその下の──(承前)
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■シリーズシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:18 G 10 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月14日〜01月29日
リプレイ公開日:2010年01月23日
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●オープニング
華の都のその下の──
江戸城の最奥部、数多の魔法と悪意により、守護された『大規模魔法制御装置“やまと”』。
制御する権利をかけて、今、見たものを黄金に変える邪眼と、膨大な水の精霊力を操る魔法具『霧露乾坤網』を御し、なにやら怪しげな力で大半の攻撃を反らす“七大魔王”マンモンと、ヒヒイロカネの具足に身を包み、全ての防御を無力化する太刀を手にした“元”八王子代官『大久保長安』が、片腕を落とされた、源徳長千代とその仲間達、大叔父の源徳義仲──パラディンにして立ち技最強のオーラと武芸の持ち主──と、少年仙人、六大精霊と、オーラを修めた、役小角が戦いの機を伺っていた。
更に戦いの中で深手を負った仲間がいるが、誰も命さえあれば戦いをやめないという英傑ぞろいである。
この状況で困った事は長千代側にとってであるが、やまとを破壊するべきかどうかである。
破壊した結果──。
1.全ての精霊力魔力が暴走する。
2.全ての魔力が喪失する。
3.この様々な竜脈を維持していた現状が続く。
4.精霊力はあるべきバランスを取り戻す。
と、行った結果が考えられる。最初のふたつは、多かれ少なかれ、マンモンの悪意にはうれしいものだろう。
ざっと見た限りで判るのは精霊碑言語と古代魔法語を併用しており、相応のレベルでないと制御できない。
そのノウハウを調べるのは今すぐには不可能である可能性が、超越した達者であっても、かかるという見込みであった。
何より最悪なのは先ほどまでの戦いで、皆の魔力が、底をついた事であろうか。
掛け値なし、文字通りゼロである。
反撃に移るのは、後衛としては魔力を補充してからであろう。
マンモンもすさまじき勢いでふたつの頭を使って、ポーションやら魔力回復の品を使用している。
「さて、北斗七星という『天の竜』を用いて、大地の弓、このジャパンを両断しよう。何、私の知識を用いてすれば造作もない事。霊的野蛮人であった、古代ジャパンの創造物は判らなくても、それ以前の品ならば、知識がある。その間、守りは任せたぞ長安」
「御意。という訳で刃向かいますぞ──長千代、片腕で何処まで抗えますかな」
義仲もオーラソード、オーラショット、オーラアルファー、オーラパワーといった攻撃的な魔法はマンモンに対して使用済みであり、既にエヴォリューションで耐性があるだろう。
幸いなのは大久保長安がまだデビル魔法を見せていない事か?
故に何が飛び出すか判らない。
しかし、長安のヒヒイロカネは魔法、物理如何なるものをも無視し、更にエチゴヤの秘術で鍛え上げた一品、加えて──。
「くっくっく、見るものには見えると言う事か。その通り、この太刀は高僧百人の命をすすり、さらには我が魂を込めたもの。通常の回復魔法では──治らんよ。呪いという事だ」
「長安、長口舌ご苦労、少しでもこちらに来る時間が稼げればいい、後一分もすれば『やまと』への指示が終わる。後は嘆こうが喚こうが──ジャパンが滅びるのを特等席で見る事だ──これがジャパン最後の夜明けだ」
マンモンの宣言は自信に満ちていたが、長千代の低い声はそれ以上の確信を込めていた。
「俺は人間を信じる」
最終決戦が始まる。
●リプレイ本文
男は死の床に在った。
男は貧困の底で生まれたが才気あり、一代で巨万の財を築いた。
今は愛しい家族と沢山の友に見送られ、その生涯を閉じようとしている。
「お前のおかげだ‥‥ありがとう」
「何、気にするな」
男は親友に感謝の言葉を残し、幸せに死んだ。
「‥‥いつまで、このようなお戯れを続けるおつもりか」
残された家族の世話まで行う親友に、闇から声がかかる。
「貴様もしつこいな。これは俺の生き甲斐だ、止めないぞ」
「‥嘆かわしや。他の魔王様方は、着々と魂を集めておられますぞ」
闇が溜息をつく。
「それが下らんというのだ。魂集めなど、天使の業が抜けぬ証拠よ」
せせら笑う若き王は、数千年後、最下級悪魔にも劣る下衆と、地獄一の軽蔑を受けていた。同時に、最も無敵に近い魔王と呼ばれている。
「長安、全てを砕くのは剣士の技でござる。
そんな事すら判らぬからデビルにつけこまれる」
結城友矩(ea2046)は人間をやめ、デビルと化した大久保長安と一足一刀の間合いを超えようとしていた。
互いの玄妙な間合い取りが、心理戦へと移行していく。
「ふ、砕くだけなら阿呆にも出来る。新陰流の業など用いなくても、大金槌をふるうだけの事」
「しゃらくさい、世に新陰流を伝えし摩利支天に成り代わり天下の大猪が成敗してくれる」
「京都で、摩利支天が出たというのは知っているか?」
「ずいぶんと昔の話だな」
「摩利支天は魔王に仕えしデビルが一柱。そのデビルが伝えたという業で魔を制しようとは笑止千万」
友矩の武士としての、鋭い感覚が虚偽を見破ろうとした。
長安は自分がうそをついていると思って語ってはいない。
虚が産まれる。
削がれた気を、
「マンモンよ、大元帥バアルにも申したが今一度人間の諦めの悪さお見せしよう」
「おいらはパラだけどね」
紅林三太夫(ea4630)がホーリーアローを撃ち放つ。
(伏兵は──ない)
ブレス・センサーで視界内とその近くに、潜んでいる相手がいない事を確認したガユス・アマンシール(ea2563)は、青色の淡い光に包まれ、友矩に呪文を付与する。
(この肝心なときに、高速詠唱を覚えていないとは──出がかりを潰される)
更に続けて。
「フロンタルさん、センジロウさん、打ち合わせ通りにお願いします」
黒い光に包まれながら、白銀麗(ea8147)が『天』の力を呼び起こす。
「全ての魔に終焉の言葉を告げる事を」
魔力がマンモンを包もうとする前に、赤いマフラーをなびかせた、役小角が友矩とツーカーで、サイコキネシスとクリエイトファイヤーを同時に発動して、煙で結界を創り出す。魔を制する籠目の文様がマンモンを苦しめる。
しかし、銀麗の魔法で破壊するに値しなかったようだ。
シーナ・オレアリス(eb7143)曰く。
デビル魔法には『レジストゴッド』という神聖魔法系への防御魔法がある。おそらくそれではないか、という事。
続けて相手の魔法を破壊する──なんでも良い、相手のリソースを削るのだ。いくらなんでも全ての魔法を人外のレベルでかけられる様な相手なら、もう負けは見えている。
(‥‥‥くっ)
シーナは知識を総動員して死闘を凝視する。
敵と味方の一挙手一投足を見守り、マンモンの能力の正体を見極める。
(財貨の王ならば、或いは伝説の聖鞘の本物を所蔵しているのかと思いましたが、これは‥‥?)
シーナの知識では、分からない。ただ彼女の知性と直観は、事実が真逆であるような恐れを抱いた。しかし、聖鞘があるなら回収したいかも、そう考えるシーナが正解を得る事はない。
「まだ分からぬか? つくづく、忘恩は人の特技よな。素晴らしいぞ」
彼女の視線に気づいていたマンモンが苦笑。
「先刻も、長安が余計な事を云ったじゃないか」
(長安? ‥‥‥まさか!)
シーナは想像を廻らせたが、冒険者の本能がそれを全力で否定。危険すぎる。罠であれば、全滅が確定。試してみない事には‥‥。
「どうした? 迷っている時間は無い筈だが」
くっ、他人事だと思って。シーナは腹をくくる。
「皆さん、財布を捨ててください!!」
富と財を司る物欲の魔王。もしかしたら『財宝』で幾ら殴っても、彼には効果が無いのではないか。
「欲望、物欲を捨てない限り、マンモンへの攻撃がそれる可能性が在ります。エチゴヤで鍛えた得物や、レミエラ。クロっぽい物は全て捨ててください。これが答えなら悩みは解けました」
「なっ」
絶句する仲間達。色々と無茶である。
「30点‥だが、まあそんな所だよ。試してみるが良い、我は構わぬぞ」
エチゴヤで鍛えていない品は、強力な冒険者であればあるほど事実上ない。詰まる所は敵の目前で武装解除せよと言うに等しい。ぶっちゃけ有り得ない。
「馬鹿馬鹿しい。元より、命は捨ててござる」
吐き捨てる友矩。云われてみれば、マンモンの場合は魔法障壁の類というより呪い――武器や己自身が目眩ましを受けたような正体不明の感覚。金の呪いと思えば、合点が行かぬ事も無い。
次々と起きる財布を落とす音。
「ふぉふぉふぉ。富がなくても、戦う手段はある。大地の精よ、剣となり──」
マギー・フランシスカ(ea5985)は水晶の剣を生み出すべく、しわがれた声での詠唱。
長安に向かう、義仲もヴァジュラを捨て、素早くピンク色の淡い光に包まれ、マギーの剣を受け取る。
「今はこれが精一杯じゃ」
「感謝する」
無数の攻撃が長安を押し切ったと見たところで、友矩が間合いに踏み込もうとするところで、逆に進み出た長安が押切に入る。友矩も正眼に構えていたが、この強引さには舌を巻く、この攻撃で押し切れていた──と思ったのが、友矩の読みの甘さであった。
相打ちを覚悟で、獅子王に己の命の全てを込める。
──一刹那、あれば奴の血脈をかっきり、戦乙女の飲み薬で傷を癒す。
その相打ち覚悟と言いながら不徹底した行動は甘さを生む。
ヒヒイロカネの輝きが赤く染まる。
如何なる防御をも無効化する絶対の刃は易々と心臓を貫いた。
「死人に剣は振るえぬ──」
長安が言った中で、ガユスの風の刃が迫る。
「だから、猪なんて自分でも誇らなければいいのに」
更に竜巻が巻き起こり、長安を巻き上げる。
そこで、長安の表情は引きつった。
普通の場所なら、たたきつけられたところで、ダメージは与えられない。
しかし、ここは古代遺産のまっただ中、魔力は充ち満ちている。
天井に巻きあげられてたたきつけられ、落ちては魔力で砕かれる。
落下ダメージに鎧は利かない。
「──?」
ガユスは仲間の亡骸を巻きあげた事で、後ろめたさが合ったが、今度は逆に不安感が合った。
これで良いのか?
「旦那の敵」
三太夫がクリスタルソードで長安の首を押しきる。
最近の黙示録騒動で判った事だが、デビルを滅ぼすには地獄、あるいは本気を出させる必要がある。
長安が仮にもデビルならば、これで滅ぼした事には成らないかもしれない。
一陣の風が吹き荒れ、ヒヒイロカネの刀も鎧も虚無へと散じる。
「でも、世界の為にやらなければってね──恥ずかしいよね、この物言い」
三太夫の着流しが銀色の淡い光に包まれる。飛びだす一塊の銀の矢。
目標は欲望の魔王マンモン。
目に見える巨体で間違いは無い。
銀麗が呪文を唱えている間に、小角も魔法を唱え、次々と、相殺し合っている。互いに魔力が多めであるとはいえ、超越級の魔法を乱射出来るわけではない。
マンモンが霧露乾坤網で水を生めば、小角は雷と風の刃を持って応え、広範囲に広げれば、義仲がオーラアルファーで蹴散らす。
隻腕のままの長千代、いや忠輝はオーラソードでギリギリの間合いへと持ち込む。
「下がって──」
シーナが合図すると、何やら手にした短剣が砕け、膨大な凍気が煽れる、彼女を包む青い光は強大な氷の奔流と化した。
白い霜を帯びて、マンモンは砕け散る。
「──」
何か言おうとしたらしいが、その間も無かった。
幾星霜後に地獄から舞い戻る可能性はあったが、この場はこれで終わりである。
シーナはその後、大あわてで『やまと』の制御システム──無数の光が点る、硝子板をいじくり回す。
半分以上は勘であり、残りは知識である。
少なくとも、後にここの形状を天界人に話すまでは、この球体が『ジ・アース』である事さえ判らない。
だが、精霊力の流れは御された。
北斗七星の影響力は、星辰の彼方へと去った。しかし、ジャパンだけに限っても竜脈の制御は無理である。
有限の力であり、無限ではない。
この時間を稼いだだけでも、友矩の落命は無駄ではなかった。
「この腕は、呪いが在るかもしれないので、それを祓ってから、どこかの寺院でつけてもらえば?」
シーナは長千代の腕を布で刳るんで、当人に渡す。
「ありがとう。でも、俺は色々と大事な物を失ってしまった。八王子勢も源徳と伊達の和睦が成った今、役目を終えただろうしな」
この地上で天下布武の旗を押し立て、虎長が迫っている事はまだ知られていない。
長安は名誉の戦死。友矩はマンモンと相打ち。その効を以て、八王子の初代侍大将となる。
そして、様々な弔いが合った。来るべき嵐に向かう為の、僅かな休息が。
結城家の墓に友矩の棺を納めようとしたとき、友矩の家臣として三太夫は言った。
「鍵はかけないでやってください。旦那の事だから、幽霊になってでもひょっこり、いくさ場に出てくるかもしれませんから」
その言葉に、長千代は笑い、八王寺の軍神として名を残す友矩の墓を後にする。
そして、その年の内に大叔父である義仲と共にパラディンとなるべく、インドゥーラへ向かう事になった、というのがもっぱら伝えられている絵物語であった。
これが冒険の顛末である。