来い──いくさ場へ!

■シリーズシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:6 G 51 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月06日〜01月09日

リプレイ公開日:2010年01月09日

●オープニング

 正月を迎えようとしている板東。
 源徳忠輝(冒険者ギルドの記録の統一上、以降は長千代と表記する)は家康無き後、家督争いに身を出さず、先日の烏帽子親騒動で自分の立場は決したとばかりに、八王子勢の収集に努めていた。
 八王子勢はそれほど大きな規模ではない。しかし、後方の大久保長安(おおくぼ・ちょうあん)の、魔術めいた力量により、装備品だけは一級品である。
 もちろん、底上げをした程度で、軍隊が動くわけではない。
 現状維持は源徳贔屓の冒険者たちの手腕によるところが大きい。
 この度、前時代の少年仙人『役小角』と、インドゥーラ帰りの源徳家の傍流のパラディンとして加勢に来ている『源徳義仲』が蛮勇をふるう中、魔王『マンモン』の操るマジックアイテム『霧露乾坤網』が江戸地下で力を発揮し太田道灌は氷に包まれ(アイスコフィンの様な封印術ではない。文字通り水に包まれ、その水を凍結させる事で死亡させたのだ)てしまった。
「次は敵討ちではない。それは兄者たちに任せよう」
 長千代の宣言。
「武運が絶えて、倒れた者を徒に生き返らせた所で、自己満足の上、世代刷新の機会を捨てる事になる。孫まで居れば普通ならば大往生の身だ」
 家康は北条勢の背反によって討たれた。東進する際、源徳側につくか、さもなく滅ぼす、という二択により、戦力を維持したが、その言葉が完全に通用すると思いこみ、自らの守りを怠ったのが命取りだ。
 この事に関する徹底的な報復を行わなければ、四公と更によしみを結ぼうという動きがあっても、それを止めるだけの実行力がないと天下に喧伝するも同じ。
「人を敵と思うから、話は進まない。敵とその目標を、明確にする──敵はマンモン。目標は「やまと」の最終的な無力化」
「しかし、先日の冒険者は──」
 ゴーレムの群れに阻まれ、多数準備したソルフの実などの消耗品も大半を使い切った。
「ならば、冒険者だけでは動かない。精鋭の冒険者に加えて今まで八王子勢の任に当たっていた。シノビを全員投入。更に八王子勢から選りすぐりの武人を以て『江戸地下』の鎮圧に充てる。江戸城地下の陰陽寮から術者を募る──陣頭指揮にはこの忠輝自らがも当たる。
 まずは伊達と八王子勢で互いに戦力分散の愚を犯す事が前提だ。こちらは一カ所に大兵力を投入せず、ひたすら遅滞戦術を取る。そして、本命の冒険者と精鋭によって、電撃的に「やまと」を制圧。この際だ、天狗は無視する。斬るのは験を担ぐ身としては縁起が悪いからな」
 そこで長千代は一瞬思案し──。
「可能ならば、高尾山の白虎の『白乃彦』、江戸城に石化して封じられた『鳳凰』の翠蘭を解放して欲しい。やまと制御の際に役に立つかもしれない。白虎どのは黄竜の封印が解けて、自分の役割を見失っているようであるし、翠蘭殿は魔法で石化させれているので、神聖魔法が必要だが、単純に人の争いに巻き込まれ続けるのは可哀想だ。
 その上で。長安、お前も来い、この際、戦い手はひとりでも欲しい。それとも腰の得物は飾りか?」
「この長安は武士ではありますが、いくさ人ではありませぬ」
 そこで鞘の太刀から一寸ばかり、刀身をのぞかせた。純白の刃。月光の晧さではなく、蝦夷の樹氷の様な無情な輝きであった。
「されど我流なれど実戦剣法、介者剣術と蔑まれようと、この太刀を使いこなせるのは不詳自分のみ。刻忘れの刃にいかなる守りも無効。エチゴヤで力を高めた如何なる得物も打ち砕き、如何なる具足をも粉砕しましょう」」
「ならば良い。後は可能な限り、古代魔法語、精霊碑言語が使える人材を集めろ。回復に解呪の出来る人材も集めろ。むしろこちらの方が、マンモンの邪眼、戦力の維持には欠かせない筈」
 長千代の声は少々掠れ気味であった。
「そして、改めてこの八王子勢の威を借りようとする者達に伝えておけ。神皇陛下より、東国平定の全県委任の沙汰を受けたのはひとり、志士の『日向大輝(PC)』のみ、この八王子勢ではない。確かに御所と誼を結んだが、神皇陛下が雷王剣を貸与する際、権限を『八王子勢』ではなく『彼ひとり』に限定したのか。それを考えないで、徒に八王子勢を御所の代理の様に扱う者は最悪の場合死罪を下す。これは戦時下に混乱をもたらす者への制裁であり、戦時が解ければ、自ずと無くなるものだ。だが、死罪を下す、という事は強調しておいてくれ」
 はたして、天の鎌は、大地の弓を割るのか?
 最後の日々が始まる。



●今回の参加者

 ea2046 結城 友矩(46歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea6264 アイーダ・ノースフィールド(40歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb4803 シェリル・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 ec0129 アンドリー・フィルス(39歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)

●リプレイ本文

 戦火に蹂躙され、それでも人々が希望を捨てぬ東洋最大の都『江戸』。その奥底まで八王子勢が分散して進行。確実に忍者を仲間に加え、更に冒険者ギルドの精鋭も加わり、この電光石火の進攻に、江戸城で伊達政宗がどのような表情をしたかは記録に残っていない。
 しかし、江戸の奥底を占領されては、如何なる独眼竜といえども、西から来る源徳の各人が連携をとってしまえば、雪隠詰めである。
 冒険者ギルドに急ぎの触を出し、自身も忍びを送り込み、源徳のペースに巻き込まれていた。
 シェリル・オレアリス(eb4803)は魔法の解除、などで魔力はいくらあっても足りない状況。彼女は口の中がソルフの実の味で満たされて、味覚が死にそうになる感触を感じている。
 量に桁の違う、仮面と仮称で通している(なお、ギルドでは信頼できる仕事を出来るもの、集まりのため、ジークリンデがやっている事は問題があった)ジークリンデ・ケリン(eb3225)も超越魔法が神聖魔法、精霊魔法のデフォルトという状況にソルフの実の最後のひとつに触れた。
(最初から輝きがあるのは、大久保長安)
「何かピリピリしてます?」
「まあ、戦いでできれば、冒険者より討ち取る首の数で負けたくないからね」
 義仲の持ち込んだソルフの袋も力なくぶら下がっている。
 そこで、最後の魔力で散った太田道灌の命を吹き返す。もちろん、眠れば魔力は回復するのだが。
「長千代様。江戸城と鎌倉の交換は行う予定ですが、私と家臣たちは路頭に迷う事になりますので、窮状の打開策はないか相談します」
「──‥‥? 何でそれを自分に」
「ええと」
「今まで関わっていない事件に、口出しをするのも状況が言われたから、というのは施政者として自分はなりたくない。第一自分はこの件が済んだらインドゥーラに行くつもりだから、帰ってきたって、政治的な立場はない。平たく言えば、自分に相談されても困る」

「目を覚ました?」
 シェリルがマンモンとの激闘のあった部屋で、氷が溶け、細胞膜が破壊されて、常人なら復活出来ないような、損傷を体に受けても、クローニングの魔法が微に入り、際に入り、全ていやされる。
 生きる伝説というべき、シェリルの手でも、ため息をつかざる事を得なかった。
 年を取った。
 肉体の根本的な枯渇。
 人間年齢で70を超えたこの男には一言だけ述べる瞬間があった。
「マンモンを倒すのは針の穴をらくだが通る程度の難しさ‥‥──」
 これが最後の言葉となった。
「後に弔いの準備をしよう。自分と主張が一致しなかったからというだけで、この陰陽寮を墓場とするには忍びない、いやそれが本懐かもしれない」
 源徳忠輝(当記録書では以降、過去の資料との検索の弁を考え、幼名である長千代で通す)
「ではこの長安にお任せあれ。しかし、新年から弔いが続くとは──」
 言葉を反らす大久保長安であったが、武人としては立派な東西折衷の装備である。長千代の目の前で見せたものを信用すれば刀身はブラン製だという事だ。
「勝敗は戦争の常、冒険、政治、戦争、夫婦げんかのいずれでもでござる」
 結城友矩(ea2046)がふたふりの魔剣を手にしながら、かつて負けたものを引き連れている、深手を負い陰陽寮に石化されて秘匿された火を司る鳳凰の『翠蘭』と、高尾山で太田道灌と契約をかわし、四神相応の一角を形作った存在である。
 アイーダ・ノースフィールド(ea6264)も愛弓を手に、前方に目をこらす。 今回の彼女は長年の友であった、翠蘭と再びあえた、そして彼女は魔力も体力も取り戻し、どこへでも羽ばたいていける。
 特に変わった事などない様に振る舞うアイーダであったが、翠蘭は微妙に距離を寄せていた。
 本来ならばいかにクールな彼女としても、数多なモンスター達に魔力を込めた矢は使い果たしていた。
「さて、と。マンモンにはしばしご退場を願おうか? 物欲魔王には地獄にたたき返す」
「残念だね。私が物欲魔王なら、さしずめ君は──名誉の亡者だよ」
「マンモン!」
「その通り!」
 姿を現したのは白い司祭服を着込み袖からはカラスの足が、双頭の頭はカラスのそれだった。
 挑まんとするは黒騎士とでも言うべき出で立ちのパラディン、アンドリー・フィルス(ec0129)。青龍偃月刀を背中に背負う。腰の得物は抜かない。
 夜の中に照り映える、虹のような乱舞がマンモンを押さえる。これだけのスピードを出せるなら、通常ならばついてはいけない──筈だった。
 強い、シンプルに強い。
 相手がデビルでなければ──。
 最初の一撃が最大の一撃、シェリルもソルフの実を飲み下す。
 一方で義仲、長千代は別方向から来ているゴーレムの大群、狛犬であるが、更に凶暴さを増したように感じられるそれと相対。
 互いにオーラショットで確実にスコアを上げていく。
「マンモン、己の富くじの成果を見せてやるでござろう。染めるでござる『七支刀』!」 散れ!!
 友矩の言葉に刀の枝のひとつひとつに黒い渦巻きが回転し、黒い稲妻となる。
 どんな防御手段も、突破でき名絶対防御。人間の無意識のうちに持つ、本能的な魔法を半減させるそれも無視する。
 黒い雷はとっさに展開した霧露乾坤網で防御しようとしたが、ジークリンデがサイコキネシスで分散させるという荒技を以ち、更に小角もそれに倣って水の精霊力、ウォーターコントロールで巻き込みて、ちょうど開いた死角をくぐって黒雷力を拡散しないまま水を突き抜けマンモンの太ももをえぐった。
 更にジークリンデが床からマグマを打ち上げる。
「今日はこれくらいで──手打ちだ」
 マンモンが指を鳴らすと、その場から姿を消した。
 焼鳥屋屋台のにおいがした。
 忍者達も奥深くに潜入していくグループと、伊達の連絡網を寸断するべく浅いグループとに別れて戦いを繰り広げられていた。、
 長い旅路。
 悪意前回のトラップ。
 問答無用なモンスター。
「やっぱり極めた術者がいるとラク」
 アイーダがかつて、漁師の心理トラップなどの応用で、対人用の罠までは対処しきれない。
 純粋に今まで、未帰還がなかったのは過剰なまでの幸運である。
 ただ、今回の仕事はまじめに挑むと──赤字である。

 そして、シェリルは地図を信じるならば、最奥部と思われる地点に着いた。ブランと言うより、白い瀬戸物で作られた壁。円筒形で直径15メートルは在ろう。
 部屋の真ん中には、5メートル程度の球体がある。周囲を見回るのにキャットウォークが準備されていた。
 茶色が三分に、青が七分。
 まるでジャパンを上から見下ろした様な光景。
 更に目をこらしてみると、褐色、青色、赤色、緑色、金銀の幾つかのポイントで強調するかのように浮いている。

「これが──やまとだ。どこにいようと、魔力て操れるという。教本を手に入れられなければ、ただのガラクタだが、意味を理解できるものみれば、これは宝物だ」
 鋭い刃の音が響いた。
 ひとつはシェリルに深手を与えようとする一撃。ホーリーライトの明かりをビーコンに瞬時に、アンドルーが大久保長安の太刀『ヒヒイロカネ』に切り裂かれる。
 その刀身はアンドルーが幾重にも張った、防御魔法、高品質の防具、全てをすり抜け、肉体を破壊。
 そして、生き残った彼に無惨に浴びせられた一刀が翻って長千代の腕を断つ。
 赤で彩られた、ヒヒイロカネの刀身。
 大久保長安であった。
 アンドルーは血だまりの中に倒れ伏す。
 その血が怪しくうごめき、魔法陣を作り出す。
 その最果てへと大久保長安は叫んだ。
「マンモンよ、おぬしとの契約を果たした。故に契約を履行せよ。我にヒヒイロカネの具足を!」
 次の瞬間、魂を全て捧げた大久保長安は、夢通り全身をヒヒイロカネの大鎧で固めている。
「契約は成就した」
「やまとで、西には風の精霊力を送ってみて、黄泉人達にカシを作るべきだ」
 しかし、マンモンも深手を負い、クリエイトウォーターで水塊を出しながら、片方のくちばしでソルフの実をかじっていた。
(底なしの魔力──マンモンもこちらをそう思っているでござろうか?)
 友矩はこの魔力断つ手段を考える。
 空気が冷え、マンモンが微笑む。
「だが、長安。私もそれなりに考えがある。天の鎌で大地の弓をたたき割る。
 言い方が悪かったかな? 天の北斗七星を以て、ジャパンという大地の弓を一刀両断しようという儀式だ」
「風流に聞こえるが、所詮思い上がり」
 友矩が七支刀を足下に落とし、獅子王を構える。
「予算以上に報酬もらえそうね」
 長千代に微笑みかけるアンドリーがささやく。
「長千代の腕が治ったら、大僧正に推薦状書いてやる。義仲のじいさんも書いてくれるけど──友達は多い方が良いだろう?」
「台座に掘られている文字は間違いなく『やまと』。先ほど、実際の制御法の本があると、マンモンは語っていた」
 小角は微笑みながら語る。
 マンモンを青い光が包み。周囲に再び水球が浮いていた。
「さて、ソルフの実が無くなり、相殺できなくなって、氷漬けになるまで戦うか?」
 小角はその言葉に精霊力同士の相性なら、水は火に勝つ。もちろん、この少年も風の業を所持している。だが、相性は悪い。
 そんな彼を見越し、ジークリンデは入った。
 私たちはひとりひとりでは『火』。でも、ふたつなら『炎』と化す。
 下手ないじり方をするうまいいじり方をする敵の存在は怖い。でも、還りたい場所がある、愛している人がいる。それだけで絶望に落ちない理由になる」

 1月8日は奇しくも、新たな書状が出ている。江戸城を伊達が退去する旨であった。
 しかし、その後の采配は神皇が振る事になっている。

 地下深く、忠輝は肩を押さえながら立ち上がった。
「人間をなめるな、バケモノ。来い、戦ってやる!」
 その声は少年ではなく、若者のそれであった。
「戦わせてもらう。経費を持ちならね」
 アイーダがすかさず立ち上がる。
 最終ラウンドのゴングが鳴る。