僕より幸せな奴はやな奴だ。特に男【壱】

■シリーズシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 31 C

参加人数:3人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月09日〜12月12日

リプレイ公開日:2008年12月13日

●オープニング

「どうです、お姉さん。僕と一緒に今年のクリスマスイブを過ごして。来年はバレンタインにチョコレート贈ってくれませんか?」
 天界人の少年、杣柳人(そま・りゅうと)十二歳は、アトランティスから江戸に来て、幾たび目の失望を味わっていた。
 女性と見れば、シフール以外は、オーラエリベイションを発動させ、即座に口説きにかかる。
 ボーイソプラノで柳人少年が口説いた(?)相手からは、否定的な答えが返るか、クリスマスって何? という疑問的ないらえがあるのみ。
 しかし、その容姿は背中にロングソードこそ背負っているものの、未熟さを感じさせる、華奢な肢体(上半身は革鎧。下半身は化学繊維の光沢も異質を放つスパッツに、革のハーフブーツ。要所要所をスポーツプロテクターが覆っている)白い肌にそばかすをちりばめ、思春期だろ? というのに、ぱっちり開き、潤んだはしばみ色の目は、大振りな眼鏡で隠されている。少女めいた、を通り越して幼女めいた顔立ちに、踵まで伸ばした波打つ栗色の髪。問題は恋愛感情を喚起させるには、かなり不安の残る127センチという身長。
「クリスマスが何って? イブには──ええと、愛し合うひとが一緒に過ごすんだよ」
 クレリックと言わずとも、ジーザス教徒ならもっと気の利いた返答を返してくれるだろう。
 祖国である日本ならではの経済型混合宗教では、ひとつひとつの祭事で細かい知識は要求されないが、それにしても、あまり柳人少年の脳味噌は細事には向けられていないようである。
「そういえば、あの人から困ったら冒険者ギルドに相談する様な、事があったっけな?」
 自問自答しながら、柳人少年は冒険者ギルドになけなしの金をはたいて『困った事』を依頼する事にした。
 まずその前に受付嬢を口説こうとする事を忘れない。初志貫徹しすぎであろう。
「美少年のお言葉嬉しいですが、残念ですが、先約があります」
 冒険者ギルドは陰陽寮、即ち西洋諸国からの知識やら、何やらの影響を背景に成立している組織である、その為、ジーザス教の知識も知っているものもいたのだ。
 とはいえ、『困った事』を聞いて、受付嬢も頭を重ねた。
 期待の眼差しを込めて自分を見る柳人少年と視線が遭うと、受付嬢は心が折れる。
「クリスマスパーティーといっても、江戸では正直ギルドが開いてから、と先日の月道の変動以降に諸国から入ってきた分しかないので、知識階級とか、冒険者や大商人といった方々しかしられていませんけど‥‥」
 そこで柳人少年の目が輝く。
「つまり、江戸の街にクリスマスを普及させる、というのはありなのかな?」
「あり‥‥と言えば、ありですけど──果てしなく遠い道のりですよ」
「ありなんだね?」
「人の話は最後まで聞いて下さい!」
「よし、イブにはデートだ。ふたりでモーニングコーヒーを飲むぞ!」
 天界と違って、ジ・アースにでコーヒーは未発見である。
 そして、柳人少年は拳を天に突き上げた。
「うおぉぉぉ。恋人大募集」
 そして聖夜に鐘が鳴る、か?

●今回の参加者

 eb4249 ルーフォン・エンフィールド(20歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 ec2159 サン・プル(48歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ec5898 ツアカムイ(65歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)

●リプレイ本文

「先に言っておくけど、俺は男だぜ」
 ルーフォン・エンフィールド(eb4249)の、杣柳人への絶妙なカウンター。金髪碧眼に、少女めいた容姿と、加えて惜しげもなく露出された生足のルーフォン少年に、柳人少年の告白は封殺された。
 絶句して大きなはしばみ色の瞳に涙をためる柳人少年の肩を力強く叩く老爺『ツアカムイ(ec5898)』。彼は蝦夷渡りのコロボックルであり、禿頭の事から判ぜられるように、一同の中でも最年長である。
 右の瞳がすみれ色なのが、何とも言えない異風を醸し出していた。
「まあ、柳人坊‥‥気を落とすでない」
 街中で見ていて、面白そうだからという理由で依頼に乗ったツアカムイは冒険者ギルドでジーザス会の江戸支部の位置を聞き出し、そこで柳人の依頼する、クリスマスパーティーの前振りを考えている。
 神聖ローマ帝国から渡ってきたサン・プル(ec2159)は、細身の肉体に、金髪碧眼。
 しかし、四十を過ぎた彼には既に子供がいる。それが公言されているかはここでは語らない。
 サンはラテン語の地元、神聖ローマ帝国出身の意地として、ツアカムイの発想を自分の言語能力でフォローする心積もりであった。如何にツアカムイが古代魔法語を嗜んでいたとしても、それは現実に力を持ちはしないのだから。
 そこで話を天界人たちに振る。僅かな疑念も残さない為に。
「ところでルーフォンさん。アトランティスはどんな所でした? 向こうでも冒険者ギルドがあったと風の噂に聞きますが」
 サンの言葉にルーフォン少年曰く──。
「アトランティスと言っても、俺が居たのはウィルの方だぜ。冒険者ギルドからの依頼と言っても、まあゴーレムでサッカーやったり、淑女の書物朗読会まで色々あったけど──、柳人くんはどうった?」
「まあ、それなりに。しかし、ゴーレムか、うらやましいな。僕はメイの辺境で仕事してたよ。でも剣が重くてさ。ギルドに拾われて間もなく先月の事だけど、そこでようやく月道が繋がって、それで日本らしい──よね、この国は──ジャパンに来たんだけど、やっぱり時代劇の世界だよね、新撰組とかいるらしいけど。でもこの江戸も戦争だっていうし、やっぱりメイに居た方が良かったかな? あっちだったら会話だけは通じたし」
 声変わり前の少年の声が響く。
「おふたりはアトランティスに来る前は天界にいたのですよね。天界はどんな所です?」
「天界でもイエスさまは信仰されてるぜ。最強の世界宗教だよな。異教弾圧と異端審問で屍山血河を作った‥‥と、いう」
「イエス?」
 天界人のキリスト教と、ジ・アースのジーザス教とでは微妙に話に食い違いが出てくる。更に互いに母国語ではなく、囓っただけの言語同士の為、細かいニュアンスはスポイルされた為、ルーフォン少年の言葉はサンにスルーされた。
「柳人坊、天界はどんな所だ?」
 ツアカムイも柳人少年に水を向けた。
「地球って言ったら、眼鏡と水洗トイレだよな。こっちへの月道を潜る時に眼鏡が消えて、往生したな。後、ファンタジーな世界でもトイレは‥‥」
 うなずく柳人。
「やっぱりトイレはね──こちらに来てもすぐ帰れると思っていたし。それと週刊雑誌の続きと、ビデオの留守録が‥‥」
 さすがに来訪したのがDVDが普及している当時ではなかったようだ。
「まあな、俺は地球だと、香港という所の生まれだぜ? 柳人くんは名前からして日本の生まれっぽいけどな」
「うん、横浜──青葉台の方、良く中華街にも食べに行ったよ」
「中華街? ああ、華僑」
 今のところ、天界人らしいふたりの会話に齟齬はでていないが、サンは会話に微妙な違和感を感じていた。
「ところで柳人さんは聖夜祭(クリスマス)を祝いたいんですよね? ジ・アースではこうなっています、まあ自分も神聖ローマで聖職者に仕える身でしたから──」
 12月24日の降誕祭(ジーザス誕生前夜)から、1月6日の主顕節(ジーザスが洗礼を受けた日)の約2週間、旧年を振り返り新年の到来を祝う祭りとなっている。
 クリスマスツリーとは、常緑樹の青々とした姿を聖書にある楽園の生命の木と結びつける概念と、聖書の一節にある常緑樹を尊ぶ一節にあわせて、クリスマスツリー‥‥ジーザスを讃える飾りつけとして成立したという。
 また、サンタクロースは主に、赤い毛皮の防寒服に身を包んだ、白ひげの老人(特にドワーフ)として描かれている。
 その赤い服は、聖ニクラウスが生きていたころの司教服がもとであり、この色は、自分の命をかけて他人を助けること、血を流して人々のために尽くすことを表す印とされている。
「そういった宗教的な事はさておき、俗事に言葉を変えると、ケーキは基本はドライフルーツや肉類、野菜類を詰め込んだパンケーキやプティングになります」
──とサンは一般論として語った。
「地味だね──」
 ルーフォンと柳人が異口同音に語った時、一同の前にジーザス会の布教所が見えてきた。数人の僧衣を纏った西洋人の男女。そして、簡素な木の十字架を帯びた数人の和装の人々の姿があった。
 ツアカムイが一歩進み出て──。
「とりあえず、ジーザス会とはここで良いのか?」
「はいそうです。どういったご用件でしょうか?」
「いやラテン語は解らん──なんだジャパン語か?」
 ツアカムイ一世一代のぼけ。むっと、視線を合わせると──。
「作麼生!」
 と声をかける。腹の底から出た声であったが、周囲の反応は鈍い。
「すみません、聖夜祭の事でお話が」
 と、さりげなくサンが話をラテン語で振る。
「大丈夫です。ジャパン語も判ります。伝道師として修行して参りましたから」
 と、ひとりの僧衣姿の若者が進み出る。
 月道の変化に伴って、今まで行き来に不自由していたジーザス教を崇める諸国も、それなりに布教を始めたようであり、その母体がジーザス会という事のようだ。
 そんな内幕は置いておくとして、ルーフォン少年が開口一番。
「是非とも聖誕祭を江戸でも祝いたいので、こちらから何かご協力できる事があれば嬉しいのですけど」
 柳人少年が尼僧に何か言おうとするのを制して、小声で告げる。
(思春期なのはわかるけど、先走りすぎりだぜ、女性に嫌われるな。下心は隠しててけよ)
 自分はとうに思春期が終わったような口ぶりである。
「協力できる事ですか。人手は幾らあっても足りません。戦火の江戸で平和を祈念すべく、クリスマスイブには厳かなミサをしたいと考えてますが──」
 クレリックに微妙な口ぶりに、ルーフォンが懐から小袋を取り出す。
「浄罪です。いくらかでも足しに成れば──という事で」
 袋の中身は数十枚の金貨である。大半がアトランティスで入手したものだ。
「ありがとうございます。ミサの足しにさせていただきます」
「ジーザス会とは愛を説くとどこかで聞いた記憶が」
 ツアカムイが難しげな顔して切りだす。
「ええ、もちろん愛は大事です。『汝の隣人を愛せ』聖書の言葉で、自分が一番好きな文句です」
 と、如何にも“聖なる母”に仕える聖職者らしい言葉が返ってくる。
「そこのお嬢さん、僕と一緒にモーニングコーヒーしませんか?」
 ルーフォン少年の制止を振り切って、年の頃、十四五歳の尼僧に声をかける柳人少年。
「コーヒーとは何か判りませんけど──朝を共に迎えるつまり、徹夜の勤行に付き合っていただけるのは構いませんよ? それは“大いなる父”の与えたもうた試練ですから」
 あっぱれ、大いなる父の信者らしい言葉であった。
 こうして一同は柳人少年に無事クリスマスを迎えさせる、という大業の一歩に手を貸した。
 今度は聖夜だ──。