僕より幸せな奴はやな奴だ。特に男【弐】

■シリーズシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 62 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月19日〜12月26日

リプレイ公開日:2008年12月29日

●オープニング

 師走も新たな年にその座を譲ろうとしている今日この頃。
 杣柳人(そま・りゅうと)少年はすきま風吹き込む、ジーザス会の提供する寄り合い小屋でひとりクリスマスイブ、正確にはそのミサの時を待っていた。
 栗色の踵まである波打つ髪、少女の様なかんばせを修飾するは、眼鏡をちょこんと乗せたはしばみ色の瞳とそばかす。十二という年の割にしても小柄すぎる肉体の持ち主である。
 今はロングソードを壁に立てかけ、スパッツに包まれた細い足を、同じく細い手で懸命に擦り、寒さを堪え忍ぶ。
「あー寒い、ぶるぶる。今年のイブは──何としても彼女をゲットしてやる! せっかくアトランティスから来たんだ、彼女のひとりくらい出来たって罰は当たらないよね‥‥」
 幸いにもジーザス会のパ^ティーは先日頼んだ冒険者によって、巧く仲介できた。少なくとも柳人少年の所持金以上の事はやってもらったのである。
 残るは江戸の人々がどれだけジーザス会のミサに顔を出してくれるか──そこまで来ると、冒険者云々ではなく、伊達と八王子勢のいくさの帰趨がどうなってくるかにかかっている。伊達と八王子勢、どちらも人事は尽くすだろう──残るは天命を待つ事だろう。
 どれだけ冒険者ギルドで、この戦時に手の空いた人材を見つけられるか──柳人少年の野望はそこに焦点が置かれている。
「とりあえずクリスマスに素敵な出会いを期待したいな‥‥サンタさん、いい人プレゼントしてくれないかな? うぉぉぉ、恋人大募集ッ!」
 吠えてすっきりした所で冒険者ギルドに、江戸のミサを手伝ってくれる有志募集の依頼を出しに行く柳人少年であった。
 聖夜を巡る悲喜劇が始まる。

●今回の参加者

 eb2292 ジェシュファ・フォース・ロッズ(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb4249 ルーフォン・エンフィールド(20歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 ec2159 サン・プル(48歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ec5911 風祭 亜寿佳(20歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「大丈夫この調合なら暴発しない」
 PANG!
 江戸の街、その一角で黒色火薬の炸裂音が響いた。
「メ‥‥げほげほ、おかしいな、予想と違う‥‥?」
 ルーフォン・エンフィールド(eb4249)の顔は真っ黒に。
「‥機器が揃わなかったから? それとも材料に問題が‥‥まあ、初めてにしては上出来かなぁ」
 天界出身の13歳の少年は体についた埃を払う。この異世界で行った火薬作りは、ひとまず成功と言ってよいだろう。
「少なくとも、この世界の物理法則は地球と同じみたいだ」
 クラッカー(っぽい何か)を脇に置いたルーフォン少年に、ジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)が興味深げに好奇心あふれた、つぶらな視線をなげかける。
「これが天界式のクリスマスだぜ、ジョシュア」
「すごいねぇ、こんな大きな音がするのに、魔法じゃないなんて。天界の技術って進んでいるんだね。そうそう、天界では薬学が発達しているって聞いたんだけど、教えてくれないかな〜」
「うーん、医学なら魔法の方が全然凄いけどね。薬学に限れば、まあ、比べ物にならないけど」
 実験結果は不満足なものだったが、熱心に話しかけてきたジェシュファ少年に、ルーフォンは満更でもない顔で言葉を返す。
「へぇ〜、天界じゃ、カビで労咳とか治すんだ」
 ルーフォン少年が語る自分の聞いた事のない発想に、ジェシュファ少年はひたすらうなずくばかり。
 もっとも、ルーフォン少年は医者ではないので、化学の知識と、一般論として語ったのみだが、それでもジ・アース人には驚天動地の内容である。
「実際に薬を作るところもみたいなぁ」
「ああ‥‥えーと、ここじゃあ機器が無いから、今すぐは難しいぜ」
 当たり前にあるものが、当たり前に無い中世世界。粗悪な火薬程度なら何とかなるが、それでも危険を伴う実験だったことは否めない。ルーフォンの知識を十分に発揮する事は難しい。
「時間が必要だ。黙って待てば千年くらい先にはな‥‥ただ、既に知識があるんだから、そんなにかからないはずさ」
「うーん精度の高いものをつくるには、それを作る為の精度の高いものが必要なんだね。その繰り返しか〜。一年くらいで何とかならないかな〜。僕はエルフだから百年くらいは待てるけど‥‥」
「俺が待てないぜ」
 話しながらジェシュファは予め、戦地とは離れたパーティー会場に運び込んだ食糧や酒が次々と並べられていくのを確認する。
 その会場の中央のもみの木は、小兵なれどれっきとした冒険者の サン・プル(ec2159)は子供たちが見やすいようにと配慮したのか、もみの木の下の方に集中的に飾り付けがなされている。
 ともあれ、その視線は食糧酒類の搬入を采配していたジェシュファ少年に向けられる。
(僕より年長者とは驚きました。神聖ローマ帝国ではエルフを見た事が無かったからな。
 さて、と──柳人さんは?)
 と、そこまで思いを巡らした所でどよめきがあがる。
 風祭亜寿佳(ec5911)が、長身を大きくかがめて、杣柳人の唇をうばった瞬間のそれであった。
 少女めいた──というより『男』に見えない柳人少年と、対照的な赤毛の『少年』に間違えられそうな少女、亜寿佳──と、書いて『あすか』と読むのだそうだ──が礼服に身を包み、接吻をする‥‥如何にも倒錯的な図であった。
「ん? んっ! ん!」
 呼吸困難に陥った柳人少年から、名残を惜しむように亜寿佳が唇を離す。
「今は何も言わずただ愛させて」
 と亜寿佳は、小悪魔的な笑みを浮かべて、しれっとしながら心のなかではガッツポーズをとり、柳人さんゲットだぜ! と胸を張る。
 ──そこで一呼吸置き。
「背の高い女の子嫌いですか?」
 流石に身長差が頭ふたつは微妙なのだろう。のみのカップルといっても──まあ、それらは当人の趣味思考次第、だが。
「──ちょっと高すぎる──ファーストキスの相手が! 夢にまで見たのにぃ」
「背が高い──判っていたけど‥‥でも」
「惰弱な事を言わせるな──僕がそのねじ曲がった心根を試してやる、抜け!」
 腰からクルスソードを引き抜いたサンが、若々しく、とても四十を越えているとは思えないい容貌に緊張をみなぎらせる。
 柳人少年も背中に回した鞘から突き出すロングソードの柄に手をかけ──。
「駄目です、これじゃ天界風のお祭りできません!」
 そのふたりの間に割って飛び込む亜寿佳。
「邪魔をしないでください、亜寿佳さん!」
「退きません! 仏教に後退はなし! 奉じる教えは違っても、人々を幸せにしたい思いには変わりはないはずです」
「ここは聖夜に剣を抜こうとした僕が悪かった──しかし、次は場所を弁えて、こちらの問いに答えさせて貰います」
 サンの頭には先日の違和感がまだ鮮明に残っていた。
「大変だね〜キスされたり、剣を向けられたり」
 ジェシュファは恋愛感情は欠落しているらしく、柳人少年の恋人募集は対岸の火事状態であった。
 恋愛を感情として実感できない──今の所は──ともあれ、書物などで知識としては十分判っている。
「恋人ってそんなに欲しいの」
「うん!」
 思いっきり頷く柳人少年。
 違和感を感じて、逆に柳人少年が問い返す。
「ジェシュファくんはどうなの?」
「恋人は今の所居ないし、特に欲しいとは思わないね〜、本が恋人? ともちょっと違うしね。
 ま、あと百年位したらいい人でも見つかるんじゃないかな」
 思いっきり楽観的な事を考えている、ジェシュファ少年だったが、柳人少年は百年が工業化に費やされるのと、同じタイムスパンで語られているのには目眩がした。
 柳人少年が失敗し、惨々たる結果になったのを見てジェシュファ少年は妹を紹介する約束をします。
「今、キエフにいるんだけどね。ちょっと性格はキツイけどいい子だよ」
 そうジェシュファが微笑むと、柳人少年はヘッドバンキングして。
「そうか──僕、ジェシュファさんの事をお兄さんって呼ぶのかー」
 そんな窓の外には白いものがちらつき始めた。
 雪である。
 聖誕祭を祝福するかのように、白い切片が宙を翔けていく。
「きっと、大いなる父からの贈り物だよ。この寒気を越えて、尚前進しろってね」
 そして、ジェシュファをお兄さんと呼ぶ妄想に支配されつつある、柳人少年の心も白く染まっていった。
 これが冒険の顛末である。
 メリー・クリスマス──。