【ジャパン大戦】出た! 突然出た!【古】
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■シリーズシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:5
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:10月10日〜10月15日
リプレイ公開日:2009年10月21日
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●オープニング
「慧、許してくれ」
源徳長千代の気合いと共に、構太刀たちを封じる格子は断ち切られる。
幾つかの短い、古代魔法語の命令文が構太刀に課せられた、幾つかの命令文をキャンセルしていく。
茜屋慧が課した、命あるものを殺めてはならないというリミットが、精霊のみを倒さなければならない、という絶対的な命令に切り替わる。
「暁の舞姫、彗星の君、雷の帝。西の地に潜む、黄竜が変化した老爺の首を刈れ」
みっつの影が音もなく、西を目指す。長千代の言葉通り、西へとひたすらに。
「黄竜が人を集めている、これ以上千人同心にも冒険者にも、負担をかけられない。ジャパンのどこをとっても大地が哭いている。その声に大精霊の黄竜は如何なる形で応えるか判らない。
精霊だから人を殺めて良いという道理はないし、人だから精霊を殺めて良いという理もない。ましてや精霊同士で殺し合うのは──しかし、富士の向こうから呼び声がすると構太刀は語った。その声を無視できない、と。ならば──」
──神々との戦いを見てみたいとは思わないか?
高尾山近く。
全長10メートルはあろうかという、白い毛に山羊の角、ルフの翼を生やした巨体が、法被姿に半ズボン、白い帽子を被った、青い髪の少女を乗せて、全長、百メートルはあろうかという白い蛇と向き直っていた。
街道から僅かに離れているが、互いの存在感は周囲の耳目を集める。
「それがしは一介の修行者。生悟りにも居たらぬ半端者。されど風聞では、そちらのプロポルティア殿は、地の精霊力に加えて、白の法力を振るうと聞く。
精霊が神の力を宿す事はないと、絶望していたが、あなたが振るえるのなら、師と仰ぎ、弟子として導いて欲しい」
と、白蛇は誓願する。知る人なら、以前に隅田川で大物主を自称して、生き神を演じていた水の精霊だろうと見当はつく。
ただ、その事件で本物の神の奇跡──聖なる母の神聖魔法の事である、見せた当人は現在弥勒菩薩に宗旨替えしているが──を目の当たりにして感動、自分もその力を得たいと何処へともなく去っていったというのは当事者がマニアックなものでなければ判らないだろう。
「困ったな、うち、じゃなくてプロポルティアは修行で力を得たのやのうて、元々ドラゴンの骨に宿っている力に、あちこち、いろんなものを、魔法で力を継ぎ足した、ごちゃまぜの存在や、師にはならへん」
と、巨体の上に座っている少女が必死に答弁する。
このプロポルティア、自我や意志を明確に持ってはいないらしい。テレパシーで大体の意図を汲んだ少女『ガーベラ』が代弁者となっている。
「なるほど、師と仰ぐには、その難関をくぐり抜けろと! 感動しました!」
そこへ、現れる百人程度の村人。皆が水晶の剣に身を固めていた。
その筆頭に立つのはひとりの老爺。
百年干した梅干しの様なしわくちゃの顔面を覆う髭。まっすぐな背筋、服装は端的に言えば襤褸である。されど、不思議な存在感を醸し出していた。
「地の精霊力を感じると思えば、異形な存在か。そなたいったい何者だ!」
「人に名前を聞くときは自分が先に名乗れと習わんかったんか!」
「年長者に関する礼儀をしらんか!」
「一万と二千年前から数えとらへん」
「ほう。ハッタリにしてはすごい。その意気に免じて名乗ろう、この国では大山津神、と呼ばれている。スサノオの義理の祖父じゃ、しかし大陸では黄竜と呼ばれている」
「うちはガーベラ。単なるアルテイラや、で、この竜とか天使とかが色々混じったのがプロポルティア」
「貴様も大地を地で汚し、鋼持て地を掘り起こさんとする輩か!」
「メシ食うのにそんな事考えとらへん。白い米見たら、拝んで食う、それがセーラかタロンか、なんという事は関係ないやろ! ましてやプロポルティアは生半可なメシでは生きていけへん、雲と霞で生きていける程、世の中ご都合主義に出来とらへんのやから、しゃあないやろ?」
「自分が都合が悪いから、という理由だけで物事を動かすと、デビルに堕落させられる隙を造る。その考え断じてゆるせん!」
「じゃあ、大地を傷つけないで生きていける方法が、生まれた瞬間からあらへんものはデビルと手を組むしかないというんか!」
そういうガーベラと黄竜の間に白い巨体が割って入る。
「我が未来の師父を傷つける事は許さん!」
「だから、お前は莫迦なのだ!」
百人近い村人は慣れない手つきで剣を持ちながら、名無しの白蛇を包囲しようとする。
「額に汗して得た糧だが、大地に唾なす事なら仕方がない。どうせ、武士が持って行くのだから。それなら自分達で狩りをして、木々の実を持って行く方がマシだ」
この言葉が高尾山に色々あって、出かけている冒険者達の注意を惹くのは当然の成り行きであった。
そして高尾山。
「西から呼び声がする──」
黄竜を封印する役目を負っていた、白虎の白乃彦は遙か西から感じる強い気配に心を動かされていた。
「もはや、高尾山に残されたものはない。やりたい様にされるといい」
天空に向かって大きく開かれた(封印を解かれた黄竜によって、破られた天井であったが)空間を大天狗『大山伯耆坊』は仰ぐ。
全ては『天』のなすまま──。
「絵理銅、どうしようか。戦争が終わるまでは、ここにいようか──」
昔と比べて、女性らしくなった少女『おの』が、一角馬の『枝理銅』に訪ねる。
「戦火に巻き込まれる訳にはいかない。それに待っていれば──待ち人が来る、きっと」
「待つだけなんて、力がないけど、約束通り、どんな事にも負けない力で、て言ってくれるから、信じられるよね」
彼女の声に枝理銅は無言であった。
終わりの始まりである。
●リプレイ本文
秋の終わりの声の聞こえてきた高尾山の麓で巨躯が向かい合っていた。
ドラゴンキマイラ『プロポルティア』とその代弁者、月の精霊『ガーベラ』、そして数多の農民崩れを引き連れた襤褸を着た老人、自分の言う所では黄竜、記紀には『大山津神』と知られる存在であるらしい。
その対立に割って入り、黄竜に牙をむく、白い大蛇。名前はまだ知られていない。
蹄の音も高らかに、颯爽と軍馬に乗る姿は、結城友矩(ea2046)であった。
「両者またれい。此処は天下の大猪、結城友矩が預かる」
鋭い視線で馬上からそれぞれに真剣な眼差しを向ける。
「そこの白蛇、貴殿はプロポルティア殿の弟子か? 弟子が師匠の前に立つなど百年早いわ! 話がややこしくなる。黙っておれ!」 一方で、グリフォンの鞍ち跨りカイ・ローン(ea3054)も周囲を睥睨する。
もうひとりの仲間であるペガサスの『メイ』にしても、記憶が明確なのは進化後、以前の事は語らない。
その沈黙を破るかが如く、気だるげな声が響く。
「けひゃひゃひゃ、我が輩のことは『西海(さいかい)』と呼びたまえ〜」
西海ことトマス・ウェスト(ea8714)が道化師の面をかぶって、一同に呼びかける。
「顔を見ても区別がつかないだろうが我輩だよ〜、けひゃひゃひゃ」
黄竜は自分を危うく戒める所だった相手の顔は道化の仮面で見分けがつかないようだ。多少時間が経っているせいもある。
一方で、西行は白蛇に声をかける。
「大物主の白蛇? 君か〜、久しぶりだね〜」
「どうにも良い名前が思いつきませなんだ。色々と工夫はしましたが、神の声は聞こえず──」
「なあに、神の声が訪れるのは、人それぞれ焦る事はない。そういうえば名前を聞くのを忘れていたね〜。。名前はなんというのか、名は体を表すという事だからね〜」
「考えた事はありませんでした」
「ふむん、五行とかいう、今はやりの六大精霊の理論とは経路が違う、知識体系があるが、そこから取ろう。白いから金行に照応で西。これでは我が輩の名前と微妙に重なるので、海を少しスケールダウンして湖、そこから『西湖(さいこ)』などはどうかね?
「手前、今後は西湖と言う事で」
こうして西海は西湖の名付け親となった。
白蛇は実質上、何も得ていない──名前というのは人格を持った存在には大きなものであるが──。
「我が輩は高度な学問を修めるため、仏教に帰依したが、聖母には今でも感謝しているし、御仏もまた面白いものだよ〜。あのような大山津神という精霊も、プロポルティアという存在も、、魂の修行の一貫としてその有様を認めている〜。君も我輩に出会い、聖母を知り、見聞を広めていったのだろう〜。戦うばかりが能ではないよ〜」
と白蛇に説く
「君らが戦いあったら、村人を巻き込んでしまうだろう〜。聖なる母はそういうことを望まないよ〜」
白蛇はすごすとと引き下がる。
「分不相応を承知の上、で大山津彦とプロポルティアの白蛇との争いの仲裁を考えてはいけないか?」
陸堂明士郎(eb0712)は深呼吸する。
「この世の命あるものは、須く生まれ出る時の事を自ら選べません。
例えどの様な姿形で生まれようとも、その背負った業を否定し、存在する事事態が罪と責めるのは余りにも無体。
悪意ある魑魅魍魎の類の様に、話し合う事すら出来ないと言うのであれば致し方なしとなる場合もあるでしょうが。
プロポルティアはそれらとは違い無闇に危害を加える存在では在りません。
それに、例え人外のものでも共存出来るのならそれに越した事は無いと考えます。
寛大なる御慈悲の元、その辺の事情を酌んで頂き、何故共存の道を見出す為に御力を御貸し頂きたく」
「とりあえず、前置きは置いておこう。しかし、慈悲の持ち合わせはそれほど持ち合わせていない。大地に根ざした生き方と、巨躯の食べる量。それは明らかに矛盾する。それに人外のものとでも共存出来ると言ったが、それは敵対している存在。まあ、神の使徒や、地獄の諸勢力と言った、敵対している存在と、それぞれ──共存した、しかし、天使やデビルといった存在との共存はこれまた矛盾するねて、人間がそれを止める権利があるのかね?」
「矛盾ですか。それをぶつけ合わせない為に、戦いを解決手段として取るのが慈悲というもの。己の甘さは重々承知。
ですが、その甘さを捨てたら、人生面白くありません」
(魔法ではなく)メロディが流れてきた。
シフールであり、バードでもある、ヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)である。
吟ずるは、ガーベラから漏れ聞いた、アトランティスとムーが地上にあった頃の伝承。
「つまり死に損ないか?」
アンデッドの類なら戦の幕をあけんとする大山津神。
「もっとも、アンデッドが好むのは悲劇だが。確かにそなたの言うとおり、自力で食料を出せるなら、問題は解決するな」
シェリル・オレアリス(eb4803)も黄竜を説き伏せる。
「判り合えない、お前が悪いから殺すというのでは、今、大地を穢している欲深い人間たちと同じでしょう?
一方で、生きるためだから、しゃあないで凡て片付けてもいけないことでしょう? まあ、これはプロポルティアの魔法で解決したけど。何もかも魔法で解決できる訳で無し」
友規も改めて口を開く。
「大山津彦殿、これが大精霊の遣り様とは思えませんな。彼らの話に耳を貸さず。気に食わないから消し去るでは、まるで年端も行かぬ幼子と同じではありませんか。大人気無い」
大山津彦は微妙に表情を変える。
「そもそも貴殿はプロポルティア殿、ガーペラ殿の何をご存知なのかな。歌で語られただけが全てではないでござる。
ご理解いただけるでござるが、彼らは静かに暮らしたいだけでござる。
不徳の致す所であるが、以前拙者の口車に乗って江戸城上空で貴殿と戦った事も後悔なさっている」
「ここ高尾山には伊達藩に、いや人にこれ以上利用されるのを避ける為に落ち延びてきたでござる」
しかし高尾は江戸に近すぎる。いずれ貴君の様に嗅ぎ付ける者もいるだろう。彼らは次なる逃亡先を探っていたのでござる。ひょっとしてここに諸力がそろったのも天の采配」
友規は真摯な目線で、黄竜を見据える。
「彼らの存在が気に食わないのであれば、どうか貴殿の目の届かぬ遠方に彼らの安住の地を紹介してほしい。神々の長老たる貴殿ならば出来るのではないか」
「やろうとして、やれぬ事はない。精霊界に直接門を開く。高尾山の『下の門』。精霊力溜まりの源を解放する」
「その前に聞きたいのだわ。西の方から呼び声がする? って、心当たりあるのかしらん?」
「判らない。強力な精霊使い(黄竜の概念に、志士、陰陽師は存在しない)が、助力を求めているのかもしれない。
一同はとりあえず、デビルをのぞくと、ジャパンの精霊魔法の最高峰と言えば、陰陽寮──京都の、江戸では西という考えに合致しない──。
そんな思惑が交錯するな、明士郎はさらりと大山津彦に問いただす。
「関東の黒幕の正体は?」
「さて? マンモンとは色々あった。しかし、富の亡者では、江戸ならともかく、ジャパンをひっくり返す様な騒動にはならないだろう‥‥?」
大山津神が視線を向けた先にはひとりの12、3の若者の姿があった。
衣袴姿で、有り体に言って古風である。記紀以前の衣装であった。
赤み髪の毛はうなじで束ねて流している。
体つきからは少年とも少女ともつかないが、微妙な声変わりから、少年だろうという推測が出る。
手には正十二面体の宝玉があった。
「はじめまして、皆さん。僕は旅の仙人です。色々な魔法が出来ますが、とりあえずは地に関する魔法が得意です。とりあえず、地の精霊力の変動を感じたので、西の方から来ました」
仙人、一部の報告書で黄竜を地の仙人と誤認しているものがあったが、自分で言い出したのはこれが初めてでは無かろうか?
「精霊界への門は『神』と呼ばれる、精霊ならば可能でしょうが、反動を考えると助力をした方がいいでしょう」
「──!」
次の瞬間、白い光をシェリルが発する。
アンデッドではない。
三体の獣──有り体に言って大鼬である。太刀のごとき前肢を持ち、黄竜の命を奪う為に存在する、終わり無き刺客であった。
カイはとっさに騎乗したまま、シェリルと呼吸を合わせて、魔法を成就させる。
空中で止まった構太刀がそのまま落下する。
「で、聞きたいのであるが、精霊界とはどんな所かね?」
行者に西海は訪ねる。
「このジ・アースがどういう所か説明するのと同じくらい難しいです」
言いながら、ヴァンアーブル女子の力を借りて、地面に精緻な魔法円を描いていく。
「大山津神さま、よろしいですか?」
「もう、先の長くない命だ。しかし、竜脈の制御手段を教えた事だけは悔やまれるが」
驚いた事に西湖も行くと言い出した。
構太刀も放り込み、精霊界の門が開かれなければ、二度と人界に来る事は内容にする。
褐色の光を放つ、行者、プロポルティア。
儀式の最中、プロポルティアが一羽ばたきすると周囲に白い羽毛がたたよった。
夜明けを背に、ガーベラは残る。彼女はまだこの世界を面白いと思っている様だ。
「自己紹介が遅れた、役小角というのが、通り名」
さらりと言ってのける。
その一方で巨大な変化が八王子勢で起きていた。
早朝、精霊門にひかれた、級長津彦が目を覚ました。
「これが──前兆か」
緑色の淡い光が忠輝、いや長千代から流れ出していた。
そして、布津主も居なくなる。
「あれ、級長津彦は?」
長千代は人格事態は継続しており、布津主、級長津彦として自分が行動した事は大体覚えている。
「頼もう!」
陣に新しい、メンバーが加わったのだろう。
謁見の必要は自分で決める。少なくとも、自分の前世であった、布津主も級長津彦もそうだった。
現れたのは十騎ばかりの武士。
挨拶にと、現れたのは50代の男。兜は取っているが、西洋の甲冑に身を包み、遠くに謁見を控えて、安置するは、華国の偃月刀。
しかし、家紋は三ツ葉葵であった。
「源徳義仲──パラディンとして阿修羅教の求める、この度のマンモンとの戦いは、人民と世界を守るべき戦いと判断し、八王子勢に参陣しました、参陣が遅れたのは世界各所でルしファーの脅威があり、落ち着いたのが今であった為で、他意はありません。江戸の戦いを鎮め、多くの兵を西に送る為に、江戸の戦いを一刻でも被害を最小度として早く終わらせる。戦いを終わらせる為の戦いをいたしたく存じます」
「源徳家の血筋、源氏ではなく? 長千代は訪ねた」
「子細は後ほど」
義仲は錆を含んだ声で囁いた。
パラディンという肩書きを持つ義仲を用いれば、戦いの時まで長安とのバランス取りには役に立つ。
何より、長千代は戦いを終わらせる為の戦いという言葉が気に入った。
「失礼かもしれないが──どの様な阿修羅魔法を用いる?」
「用いませぬ。代わりにオーラには自身があります。自惚れや大言壮語ではありません。得物は持ちません。闘気の刃の二刀流ですな」
ならばいい、侍大将としたい所ではあるが、論功行賞の上で、それは出来ない」
「存じております。故に配下は冒険者からなる、遊撃部隊をお任せ頂ければ幸いです」
義仲は深々と頭を下げた。
これが冒険の顛末である。