●リプレイ本文
「色々依頼をこなしたが‥‥ついに犯罪行為とはな」
自嘲気に呟くカオル・ヴァールハイト(ea3548)だが、横目でああでもない、こうでもないとアルル・ベルティーノ(ea4470)が投石機造りに焦っているのを見て、厄介だな‥‥と心配する。
「細かい仕組みも判らないし、材料も時間も労力も何も足らない。それに私は木工なんてやった事もない! 造ってテスト以前の問題です」
材料集めからして、ある程度の量をやれば、人目に付く。
クリス・ハザード(ea3188)が木工の方面でフォローしてくれる。しかし、彼女は一応、技術を持っているが、あまり根本的な解決になっていないようである。
「この策は諦めましょう」
アルルは頑張っているクリスにねぎらいの言葉をかけて、猟師として培った技能で浅く広い落とし穴と、堀を掘ろうとするが、手持ちに短剣一本すらない事に気づく。
そこへ浪人薊 鬼十郎(ea4004)がスコップを持って手伝い、というより主力になる。
「冒険者としてでは無く、剣客薊鬼十郎として受けましょう‥‥という気概でしたが、少し萎えた様な気がします」
「ごめんなさい、この借りはいずれ精神的に──」
最後にクリスが魔法で水を流し込んで終わり。
ランディ・マクファーレン(ea1702)が罠の位置を確認。
「準備は万端整ったようだな。しかし‥‥好色な老爺も居たものだ」
と溜息をつく。
カオルとランディ、それにブルー・フォーレス(ea3233)が旅人を装って教会で懺悔するふりなどをして、教会内外と逃走経路を改めて確認。
「教会を襲撃‥‥少々心苦しいな」
ランディがジーザス教徒として、ごく当たり前の感想を漏らす。
「でも、たまには囚われのお姫様を救い出すような仕事もいいもんですね」
「そうだな、そう考えれば気が楽になるな」
帰りには一同にジィ・ジ(ea3484)も加わっていた。
「話せば判って貰えるものでございます。司教様とは話がつきました」
と、人が自分たち以外に一切いないのを確認して、今後の打ち合わせを始めた。
「セーラ神に仕えるクレリック、ラヴィと申します」
そう言ってラヴィ・アン・ローゼス(ea5780)はメイドの手を握りつつ呪文を唱えようとしたが、残念な事に神聖魔法は両手で合掌するか、十字架を握っていないと発動しない。
笑顔のまま凍り付くラヴィ。
メイドは怪訝気な顔をしている。
改めて十字架を握りしめて呪文を唱え、ラヴィの体が白く淡い光に包まれると彼女の身を聖なる力が打ち据える。
悲鳴をあげるメイド。
これで邪悪な人間か、普通の人間かの二択に絞られた。
既に彼はヒルダからの羊皮紙はパリに送り終えたが、冒険者ギルドが自分たちを通さない依頼に関して、返答を返すかどうかは大きな問題である。
おそらく黙殺されるだろう。
そして、結婚式当日。
数台の馬車と8人の騎士。そして、彼等の随行が通っていく。
一同が揃うと前座としてカノン・レイウイング(ea6284)が酒場で披露しスカウトされた喉を発揮する。
「異国であるイギリスの恋歌、そしてノルマンの恋歌、自在に歌ってご覧にいれましょう」
最初は物珍しさにイギリスの恋歌に注文が寄せられたが、そこで実力を見せつけたのはいいまでも、聴衆が落ち着いてきてノルマンの恋歌をリクエストされると、簡単な歌詞でしか応えられない。語彙の差は歴然としていた。
その一方、壇上に脂ぎった大男と並び、ウェディングドレスを着込む、金髪の整った顔立ちのやや大柄な女性。彼女が持つのはアメジストで飾られた十字杖、これが大天使の杖というものだろうか?
彼が噂に聞いたのはヒルダは新参者らしいという事だけだったが。ロムローデは女性と見れば言い寄り、落ちなければ貴族との結婚を餌にしてちらつかせ、一晩床を共にしたら、即座に教会に命じて、結婚の解消を願い出るのである。離婚とは違い、結婚そのものが無効だったとするのだから、婚姻関係は消滅。
無事、大天使の杖も彼の手元に戻るという仕組みらしい。
メイドと一緒に式場に赴いたラヴィも、その女性がヒルダだと確信した。萎縮している様子からも断言できる。
「はいやー!」
そこへ冒険者いや、盗賊一団同様、覆面にローブを被ったランディが日本刀とダガーに闘気を纏わせて教会の周囲を警備する衛兵に突撃をかける。
残念な事に、突撃すると、全ての行動力を一気に使う為、日本刀をひと振りするのが限界であったが。
別方向で吹き荒れる闘気と氷片の嵐。クリスの魔法であった。
(何とか今は調子よく行っているけれど──この幸運も魔力も長くは続かない。早く相手の抵抗力を奪わないと)
手加減しようにも、魔法自体の殺傷力がそれほど高いわけではなく、力を抜いたら、今度は相手の巻き返しが怖い。
せめて重傷くらいには持っていきたいものであった。
焦るクリス。
閑話休題。
衛兵の後ろに忍び寄ったブルーが後頭部を殴りつけて昏倒させようとするが、どうにもうまくいかない。相手を気絶させるにもコツというものが必要なのだ。
(弓矢ばかりでは駄目という事ですか──殺せれば楽なのですが、それは御免被りたいですね。第一戦いは苦手何ですが‥‥)
そのブルーの受け太刀一方の中、陸奥流の見事な手並みで我羅斑鮫(ea4266)は次々と衛兵を失神させていく。
斑鮫は事前に忍術を行使しての潜入工作で、教会の構造は隅々まできっちりと把握しているから、奇襲が出来るのだ。
「ためらっていては、やられる」
「ありがとうございます。でも、考え方の相違も考えて下さい」
「──俺は一振りの、心に刃を乗せた者に過ぎない」
僅かな間を置き、斑鮫は呟いた。
「『大天使の杖』そういえば以前、怪盗には『天使の瞳』という物を持っていかれたな」
クリスが何とか衛兵を無力化し、教会内部でもざわめきが激しくなってきた頃、薄暗い内部を照らすロウソクの炎が一段と大きく燃え上がった。
天薙龍真(ea4391)の魔法である。
そして、次の瞬間、龍真の一刀の下、扉が大きな音を立てて両断される。
開けた空間からランディが堂々と宣告する。
「‥‥ご機嫌如何か、お集まりの紳士淑女の方々。この婚儀に相応しき日和、心より御祝い申し上げる。願わくば、その幸福を欠片なりとも分け与えて頂きたく、名宝『大天使の杖』を頂戴しに参った次第。‥‥無益な殺生は不要、命を惜しまれる方は壁際にて大人しくされよ!」
「ええい、賊だ! ものども出会えい!」
早速騎士団と一同のチャンバラが始まる。
「うわっ、すごいステロ」
とは、龍真の意見である。
その騒ぎに人々の意志が集中するように、メロディーを唱えるカノンだが。銀色の淡い光に包まれるという怪しさ大爆発な事をやっていては、騎士団もそちらに向かってくる。
一方。
「ヒルダ殿こちらへ──」
と、ジィが司教との打ち合わせ通り、裏口の方へヒルダを連れ出す。
「どうぞ」
「感謝の極みでございます」
その裏口から入り込む影。
シフールのタイム・ノワール(ea1857)であった。
今にも血管が切れそうなロムローデに向かい囁くように歌いかける。
気持ちよく月の精霊力で昏倒した後はタイムは撤退する。
「その御歳でその精力‥‥羨ましい限りです。ふふ」
と、寝顔にちょっぴり羨ましげなラヴィ。
裏口から教会を離れた一同は‥‥。
「ありがとうシフールさん──‥‥心苦しいですけれど、実は」
そこでドレスを一気呵成に脱ぎ捨てて、紳士然とした姿を現す。
細身でロマンスグレイの男である。
「私は『怪盗』で通っている」
驚いたメイドは言葉もないようだ。
「さ、詐欺!」
聞き耳を立てていたアルルも思わず言葉を漏らす。
「ふ、さすがに初夜の床まではごまかしきれないからね。そこで男だとばれては彼の心臓が持たないだろう。あのメイドは責めないでやってくれ、何も知らないのだから。
流石に監禁されたらスクロールも持ち込めなくてね、脱出できないから一芝居打ったわけだ」
司教も腰を抜かしている。
「では、大天使の杖、確かに頂いた」
「させませぬぞ」
と、ジィが連続して、杖で怪盗を転ばせようと試みるが、怪盗は難なく見切っている。
「私は人に傷を負わせるのも、傷を負うのも御免でね。すまないが体術にはちょっとした自信がある。それでは──今度は怪盗として会おう。アデュー。だが、ちょっとしたヒントをあげよう『893』だ」
言いながらもジィ自慢の健脚とデッドヒートを繰り返しながら、ぎりぎりで引き離した。
一度、視界から逃れられたら、相手がどんな変装をするか予想はつかない。
怪盗は見事逃走した。
「命が惜しい者は下がれ‥‥ええぃ退かねば斬る!」
教会に続けて突入したカオルの声が響く。
「面倒です‥‥全員纏めて掛かって来なさい!」
鬼十郎の挑発。
ただ、混乱するばかりの村民を挟んで、騎士との一種即発。
そこに塔の鐘を鳴らし、タイムの喉も裂けよとばかりの声が響く。
「『大天使の杖』と花嫁が盗まれた!」
大音声の中、兜割りの秘太刀で相手の剣を折ろうとする龍真だが、鍛錬不足でそこまで相手に隙を見いだせない。
そこで、相手にかすり傷を負わせるのを主眼にフェイントを中心に手傷を負わせていく。
「や──もとい、私の剣は受けさせませんよ!」
柳生の剣が相手に炸裂する。
たまりに貯まった負傷で、相手の動きが鈍った所に兜割りの太刀で剣を一刀両断する。
とても女性に間違えられる様な容貌とは裏腹な酷薄な剣である。
「さあ、まだ戦いますか?」
「はっはっはっは、ヒルダは頂いたさらば!」
壇上にヒルダがいなくなったのを見た一同が慌てふためくのを見て、カオルは高らかに宣告すると、突入組はそれぞれの愛馬へと跨っていく。騎士達の馬は予め、所定の場所より追い立てて、この場所にはおらず、追う術は無かった。
一方、カノンは騎士の方々の士気を高めようと、呪歌を歌ったのだと言い抜けて、無罪放免。
三々五々、カノンを除く全員は逃走。
それからしばらく、遅れてきたカノンも含めて全員が合流し直した地点には、そろいの衣装や覆面を揃えるのに使った金額を抜いても、結構な額の金貨が残されていた。
「山分けだな」
ランディが告げる。
「天使の次は大天使ですか。ジーザス教には疎いのですが、神の使徒にも、色々あるのですか?」
龍真は尋ねる。
「ああ。だが、怪盗が何を狙おうとしているのか、朧気に判ってきた気がする」
天使とアメジスト。
だが、アメジスト──紫水晶はジーザス教のホーリーシンボルにもよく使われ、神秘と霊力を象徴する貴石である。
「ふうむ、仏教とはまた違いますか?」
やはり異郷の事はあると龍真は妙に感心した。
怪盗との因縁はまだ繋がったままではあれど──。