私が愛した怪盗

■シリーズシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 3 C

参加人数:12人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月17日〜09月22日

リプレイ公開日:2004年09月20日

●オープニング

 彼女の枕元にはラテン語で1枚のカードが添えられていた。
『9月18日。座天使の宴を頂きに参上する──怪盗』
「とうとう私の番なのね──10年間は長かった」
 そう言ったエルフの熟年の女性、アルフリーテは乱れた髪を掻き上げた。
「最後の守護者として、最善を尽くさなければ」

 豪奢な衣装を身を纏ったアルフリーテが十字架も明らかに、冒険者ギルドを訪れたのはその日の午後であった。
 怪盗という単語に過剰反応した受付嬢が、女性相手だけに遠慮がちに顔を触るのを笑ってさぐるままにされ、しかる後に、依頼を出した。
「私が今、指にしているこの紫水晶の指輪『座天使の宴』を守りきって欲しい。前後の準備も考えて5日間の間、それなりの腕の冒険者を雇いたい。怪盗の体術は達人クラスでもなければ、歯が立たないので、主にウィザード系と、盗賊の技量に長けているだろう、レンジャーを指名したい。
 あの男は人に怪我を負わす位なら退く、そういう人間だから、白クレリックや神聖騎士は不要。
 アイスコフィンはスクロールを3本準備してあります。
 それと私はこの指輪は守りの為とはいえ、一切外しません、これは絶対条件です」
「なれてますね、怪盗対策。もっとも当ギルドの冒険者達も日夜、怪盗関係には目を光らせてますが」
 受付嬢の言葉に憂いを含んだ笑みを浮かべ、アルフリーテは囁いた。
「昔、愛した男ですから」

●今回の参加者

 ea1333 セルフィー・リュシフール(26歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea3188 クリス・ハザード(29歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea3233 ブルー・フォーレス(26歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea3484 ジィ・ジ(71歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea3548 カオル・ヴァールハイト(34歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ea4078 サーラ・カトレア(31歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ea4266 我羅 斑鮫(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4470 アルル・ベルティーノ(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea4548 フェルロ・レーチィル(30歳・♂・レンジャー・エルフ・イスパニア王国)
 ea5215 ベガ・カルブアラクラブ(24歳・♂・レンジャー・人間・エジプト)
 ea5601 城戸 烽火(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea5950 チャミリエル・ファウボーラ(17歳・♀・ナイト・シフール・イスパニア王国)

●リプレイ本文

 9月18日、アルフリーデの家から使用人は出ていき、代わりに冒険者達が代理となる事になった。
 だが、傍から見れば、調理した食事などせず、保存食を食べているのだから、怪しさ大爆発である。
 もっとも、ブルー・フォーレス(ea3233)が慣れない手付きで全ての鎧戸を釘で封じたので、中の光景など見えはしない。
「大工仕事ですか‥‥うまくできましたかね」
「単に中から閉じればそれでいいのではないでしょうか? 十二分の出来かと存じます」
 ジィ・ジ(ea3484)が所々月光の漏れる光景を背景に彼を労う。
「ところで」
 と依頼人のアルフリーデに向き直り、好々爺とした表情でジィは尋ねる。
 まずは依頼人様から怪盗様に関する情報収集と世間話にと、水を向ける。
「どうやらアルフリーデ様と怪盗様はお知り合いのご様子ですし、今後の参考にもなることでしょう。
 9月18日は何かの記念日? 怪盗の言った『893』というヒントの意味は?」
「記念日と言えば、記念日ね。私と彼が初めて会った日」
「ロマンチックでございますな」
 自嘲するアルフリーデ。
「ノルマン復興前のこと、あくまで独立の為の機運を高めようとする彼と、白の神聖魔法と人間のみを認めるローマ至上主義の中、あくまでセーラの使徒の端くれとして、少しでも人間以外の種族の地位を高めようと、彼等に妥協し続け、飼い犬となった私が初めて出会った晩よ」
 あの頃は同じ年頃に思えた──少なくとも表面上は。
 そのアルフリーデのムードを高めるかのように、控えの間からクリス・ハザード(ea3188)のオカリナの調べとベガ・カルブアラクラブ(ea5215)の高音域がとろけそうなほどに甘いボーイソプラノが響いてくる。
「彼を弓で射て、傷ついたけれど、彼は私が渡したポーションを決して飲もうとしなかったわ」
「ほう、その頃はさほど得意そうな──失礼、アルフリーデ様の弓でも命中したのですな。で、捕まったと」
「ええ。他人を傷つけずに、逃げるだけ逃げ切ろうというスタンスはそこから生まれたのでしょうね」
「予告状がラテン語だったということは、アルフリーデ様のみが対象だったのでしょう。
『893』は天使の位階? 第8位が大天使、第9位が天使、第3位が座天使。
 しかし盗んだ順番が違うのが気になります」
「いえ、順番は盗む順番ではなく、鍵とする順番よ。あるものの。これらは教会から下賜されたものを、私の下にいた者達に配って、行方を紛れさせたのだから」
「10年前に何があったのかを知りたい。これは俺の予想だが、この天使アイテムは本来同じ場所に保管されてあった、位階なるものがあるらしいから全ての天使のアイテムがある。それはノルマン王国の復活にかかわりがありある種の条件で複数にアイテムは分散した、という所ではないのか?」
 少ない語彙を振り絞り、我羅 斑鮫(ea4266)がアルフリーデに尋ねる。
「多分、9つの位階に対応する天使の名を冠されたアイテムはあるのでしょうね。きっとたくさん。でも、ノルマン王国の復活を成し遂げたのは、イギリスの円卓の騎士たちとジャパンの武士たちの助力を受けた、人の和よ。魔法なんて、幾らでも限界があるのだし」
「ふうむ? 俺がまだ童だった頃にはそんな騒ぎがあったのか」
 斑鮫は異国の歴史に自国が関わっていたことを知り、僅かに感心する。
「ただ、私がこの『893』で何が封印されているかは言えない。セーラ神にかけて誓わされた事だから」
「信仰とは厄介なモノだな」
「追う者と追われる者同士で色々あったのでしょうね」
 と、ベガと一緒に現れるアルル・ベルティーノ(ea4470)。
「私は追い、彼は逃げる。傷ついた私を彼が癒してくれた事もあったわ。でも、神聖ローマの支配下で、それは許されないこと。こうしてノルマンが解放されなければ、今でも私は彼等の下僕だったでしょうね。そして、10年間、彼は姿を現さずに、再び私の前に姿を現した。逃げるな──というセーラ神からのお告げかもしれないわね、でも」
 唇を噛み破りそうになるアルフリーデ。
「私は誓約という檻から逃げる事は出来なかった」
「もう逃げてもいいんだよ」
 怪盗が鎧戸を開けて現れた。手には3本のスクロール。
「罠は?」
 ブルーとカオル・ヴァールハイト(ea3548)それにアルルは叫ぶが、答えて怪盗。
「如何にも未熟」
「捕まえることはあきらめて、追い払うことを考えましょう」
 礼服を着込み、屋根に潜んでいたフェルロ・レーチィル(ea4548)が囁く。
「やっと、会えたな。この3日ばかり、キミと接触を取ろうと走り回っていたのに。もっとも、どこを探せばいいのか、見当もつかなかったけど」
「残念ながらアポイントメントを受け付けていないがね。ところでアルフリーデ?」
「はい」
 と彼女と異口同音に応える城戸烽火(ea5601)。人遁の術では化けきれず、更に変装を施しているが、怪盗の視線はアルフリーデに直接向かっている。
 セルフィー・リュシフール(ea1333)は怯える振りをしてしがみつく。
 だが、しかし──。
「なかなか、見事な忍法だが、私は先日、彼女と既に会っている。それを忘れていないかい? 儚き人と違い、エルフのメトセラぶりは同じ時を約束しないのを、私は彼女の寝顔を先日見て、改めて思い知らされたよ」
「敵襲!!」
 叫んだシフールのチャミリエル・ファウボーラ(ea5950)が闘気を高めると、彼女を中心に淡い桃色の光が収束していく。
「人のものを盗む悪い人は聖戦士の私が許さないんだから!! アルフリーデさん逃げて! オォォラ、ショットォッ!!」
 気の塊が怪盗を打ち据え、苦痛に呻かせる。
「まだ、ありますぞ」
 とジィがスクロールを広げる。
 その合間に淡い青い光に包まれた詠唱を済ませたクリスが氷の戦輪をアルルに渡す。練習して隙をつこうと考えたのだが、どちらにしろ青い光を発するので、隙も何もないと結論。
「援護しますわ」
 唸る戦輪だが、殆ど身動きもせず避けられてしまう。魔法の補助が加わっても、根本的に格が違いすぎる。
「座天使の宴は守って見せます。時間を稼がせてもらいますよ」
 と、サーラ・カトレア(ea4078)が前に立ちはだかる、互いに避け会うもの同士、戦いにならない。
「させないよっ!」
 チャミリエルが再び闘気を高める、
 体術の差で、ディフェンスを抜かれたサーラの脇をすり抜け、闘気が再び怪盗を打ち据える。
 クリスがベガにも戦輪を渡し、投擲するが、やはり掠りもしない。
 カオルのナイフの投擲による牽制。
「今度は真っ向勝負、大人しく縛につけ」
「残念だがその予定はない」
 使い慣れたロングソードと違って、カオルのナイフの切れはそれ程でもない。
 様々な飛び道具が行きつ戻りつ、飛び交い、部屋の中は混乱状態であった。
 逃げられないと悟ったセルフィーは呪文を唱え始める。淡い青い光が彼女を中心に収束した。
 その力はアルフリーデに解き放たれ、エルフの高い精霊への抵抗力を打ち破って、彼女を一体の氷像に変える。
「なるほど、これでは──負けを認めざるを得ませんね。今日の所は諦めるとしましょう」
 怪盗は帽子を脱ぎ胸に当てる。
「ふたりなら逃げる事もかないますが、3人ではそうもいきますまい」
 言って、窓から再び屋根に飛び出す。斑鮫も気配を可能な限り殺して、そこへ飛び出す。続く烽火。
 だが、怪盗はスクロールを読み上げると、月光で出来た影の中に吸い込まれる様に消えていった。
「しまった、魔法があったか──油断も隙もない」
 斑鮫は視界の遥か果て、そこで更にスクロールからムーンシャドゥを唱えて圏外へと脱出するのを敢えて見守るしかなかった。
 爪が掌に食い込み拳から血が出る。
「斑鮫‥‥」
 烽火はそんな彼を見守るしかなかった。アルフリーデの姿のままで。
 こうして、第一の挑戦は退けられた。
 しかし『893』と守護者の謎が解けない限り、第2、第3の挑戦が待っているだろう。
 アルフリーデはセルフィーの謝罪を快く受け入れ、この日はもうこれ以上、何も無く過ぎていった。
 9月19日になり予告状の効力は失効する。
 これが事件の顛末であった。