●リプレイ本文
今度はアルチュールの父の豪邸に招かれる冒険者一同であった。
その中には食料を買い込まなかった者は街道筋の宿屋で食事を済まし、些かの出費と時間を浪費する羽目になった面々もいたが。
そして、ミッシェルは今度は『正式』に招かれている。
もっとも『アンジェリカとその他』という扱いであったが。それに意気消沈するミッシェルに向かって、ロヴァニオン・ティリス(ea1563)は──。
「少年よ、強くあれ! ‥‥えーと強くってのは腕っ節じゃなくて、図太くなれとか、面の皮を厚くしろとか、心臓に毛を生やせとか、そんな感じの強さだ」
と無精髭をいじりなが、盟友でありは悪友であるリスターから渡されたマスクを握りしめ、熱弁する。
「そういうものなんですか?」
「その通り。ハーフエルフに生まれてノルマンで暮らす限り、ろくでもない目にあうのは避けられねえ。クソババアにインネンつけられたくらいで凹んでちゃ生きていけねえぞ」
と言って、フードを外して髪の毛をもくしゃくしゃにする。
「自分がいると迷惑がかかるとか思ってんのかもしれねえが、家族にはいくら迷惑をかけてもいいんだ。それが家族ってもんだろう」
「そうよ、私だって大事な兄弟だと思っているのだから、兄だか弟だかは微妙だけど‥‥」
ついに結婚したアンジェリカも、彼の尻馬に乗る。
ロヴァニオンが厚い胸をどんと叩き。
「もし家を追い出されて行く所が無かったら、俺ん所に来い。店でこき使ってやるからよ」
「店って?」
「人生の縮図、酒場だ。ただし、結婚は除く、完全にだ」
そして、館に到着。
「で、答えはでたかのう?」
この言葉を発したのはアルチュールの母親である。
豪勢な広間であり、何とステンドグラスの窓という、吟遊詩人が歌にしそうなものまで1枚ある。
その前にお話が、と前置の許可を受けるミレーヌ・ルミナール(ea1646)。
「アルチュールさんを連れ出したのは私の独断です。不法侵入の罰は私が負います。ここにいる皆さんは、関係ありません」
「いえ、それより、まず最初に‥‥勝手に屋敷に立ち入ったことの、謝罪をさせて下さい」
と、立ち上がり頭を垂れる、サラ・コーウィン(ea4567)。
「言い訳は致しません。まことに申し訳ありませんでした」
ふたりの言葉に、アルチュールが両親に訴えかける。
「いいえ、彼女らの言葉に乗って出かけたのは自分です。自分の意志で出たのですから、落ち度は彼らにはありません」
「アルチュール、確かにお前は私の一粒種だ。だが、この館までお前に譲った覚えはない。
この館への招かれざる客人は官憲に引き渡すが、法の定めだろう。
私の妻が、言った事項を論破すれば、罪人まで許してやろうと言っているのだ」
巌の様な外見のアルチュールの父親。迫力で家を保ってきたのだろう。
どこをどうすれば、このふたりから、アルチュールの様な容姿が整った人間が生まれたのか、見当がつかない。
「それに不法侵入の責任と言っているが、冒険者ギルドからアンジェリカの依頼で派遣された一同が、我が家で禁足令が出ていた事を知らない、などとは言わせぬぞ、
何しろ鍵を開けて、館から出した上、皆で、クレリックの元、正式な結婚までしたのだからな。
それとも実はアンジェリカだけが、後ろ暗い特技を持つ輩だけに『偶然』自分の素性の話をしたというのか?」
父は、一気に畳み掛けていく。
そこへ飽きたような口調で、母が問い質す。
「さて、答えを言うがいいぞ、15人全員の答えでも聞いてやろう」
「困った‥‥俺‥‥あんまりジーザスの教え‥知らないぞ」
ウリエル・セグンド(ea1662)が、シャルロッテ・ブルームハルト(ea5180)からうろ覚えながら、借りていた聖書の肝心な所を思い出していた。彼の母国語スペイン語は、ラテン語を語源としているので、判る部分を拾い読みしたのだ。
「俺‥神様達がいるだろうってのは‥‥信じてるし‥創ってもらったことは感謝はしてるんだ。
教え‥‥とか、救ってもらうとか興味ない‥だけで」
聖書をしっかり確認した上で、彼は呟くように語る。
ミッシェルの小さな手を握りながら。少年の感情が高ぶって万が一『狂化』などしたりせぬように。
「どこにも‥‥書いてない‥‥じゃないか」
「何がじゃ?」
「‥‥ハーフエルフが‥‥汚れた種族なんて」
「何、では」
ウリエルの訥々とした言葉に、母親が聞き入る。
「俺の‥‥考えとしては‥‥、単純にカインの‥‥『血』が『望んでない』‥‥からではないかと。‥‥嫉妬は、憎しみにも何にも繋がる、人の中で一番強い負の感情‥‥それを抱いた者が交わる事を嫌がっているからだろうと。
妬んでたんだろう‥? 殺してしまう‥‥程に。子孫永劫‥‥襲う程に。なら血がまだ妬んでいる‥‥‥拒絶してるんだろう」
「答えのひとつにはなっているが、立証はできぬな。確かに現状には即しているがな」
男ながらも、女性らしい柔らかい物腰で立ち上がった、ヒスイ・レイヤード(ea1872)。
「もう、せっかく後少しで、上手く行きそうだったのに。
残念だわ‥‥普通の親は、祝福するものなんだけど‥‥ハア。
そんなに、汚れた血、嫌がらなくてもいいじゃないかしら?
神に、祝福されなかった‥‥そんな事無いと思うわ‥‥ただ、私もね、カインの子らは嫉妬、即ち羨ましかったんでしょうね〜と思うけど。
でも、平等には、救いの手を出したと思うけど‥‥・気付かなかったのかしら? 異種族婚姻は、タブーと言われているけど、好きになったら種族なんか関係ない‥‥‥‥愛さえあれば、と言いたい所」
だけど、世の中そんなに、甘くないのよね〜、と苦笑するヒスイ。
「色々とあるから‥‥。 昔のローマ神話のヤヌス、それは始まりの神だったかしら?
元々、私達は、ひとつの物のふたつの相、ルーツは同じなんだし、途中で変わったりしているから、仲良くできると思うんだけど‥‥大いなる父や聖なる母だって、まさか、自分の作り出したモノが、いがみあい、憎しみあうのは、望んでいないと思うわ‥‥」
「うむ、確かにギュンターなる、オーガの子供の為、あちこちの冒険者ギルドで、署名請求が乱れ飛んだと話には聞く」
「あなた!」
「安心しろ、まだ納得はしていないし、現状の把握を行っているだけで、説明になっていない」
夫妻の言葉に、ルビー・バルボア(ea1908)は及び腰になり、話を告げる。
「俺なりの見解と言う事を付け加えておく。
で、答えは交わる‥‥だな、宗教でどうこう言うのはカンベンだ、俺は珍しく無信仰なんでな。
オーガでも会話が可能と言う話を聞いたことがある。
さっきも話に上がった、ギュンターの様に、言語で会話できる限りは交わる可能性は限りなく高いだろう、言葉と言うものは人に思いを伝える為に用いる物、会話可能ならそういった事も可能だろう。
実際に会話できるのは数少ない‥‥というか、かなり希少だろう
だから、今すぐってのはカンベンして欲しい
ヒスイの生まれた国ではハーフエルフは人々を導く存在と言われていて、この国じゃ迫害の対象‥‥つまり血が汚れているなんてのは人の主観、もっとアルチュール個人を見るべきではないのかな?
‥‥っと薮蛇だったか」
と、ルビーは苦笑いする。
「自分の見解と、逃げを打った挙げ句、異国、意宗派の話とは笑止なり、ロシアはロシアの事情があろう。ここはノルマン也! 何しろ完全、向上、服従が国教の教義なのであろう。挙げ句に納得する意見を出せと言ったにも関わらず、疑問系で返すとは如何なるものか!?」
激昂しかかる母親に、岬 芳紀(ea2022)が劣勢に向かいつつある論陣を立て直そうと試みる。
「待って頂きたい。私は異邦人にして異教徒‥‥実家は神道――ゆえに,ある意味、ミッシェル殿以上に遠い存在であるため,話半分にも聞かれないかも知れんが‥‥。
ひとつ.セーラ神は定常――変化のないことを司るそうだが,我が故国では『生まれ生まれて生の始めに暗く,死に死に死に死んで死の終わりに冥し』と説いた方が居られた。 この世に生きる一切衆生――人のみならず,生きとし物全て――が,『己の望むままに生まれ,生き,死ぬのか』と言えば答えは『否』であり,『この世の一切は流転している』ことを鑑みれば『生まれ』のみで存在を否定するのは重要な判断を誤るかと──」
一呼吸置いて。
「そして、ふたつ。補足にしかならないが、オーガと人が交わらない事に対しては,同じ神を信じているはずの人同士が交わらず,結果としてノルマン王国が一度滅んだことを指摘する事で、立場や状況によってはオーガと人が助け合える可能性を示唆させてもらおう。あなたが、どう感じるかは、あなた次第だ」
「異国の話は判らないが、ノルマンとローマの対立の話は良く判る話だ。先程のオーガの話も合わせてだが」
一方、レジエル・グラープソン(ea2731)曰く。
「答えを考えてみたが、思いつかなかった。全く情けない」
とウリエルと共にミッシェルに寄り添いながら、彼に何かあろうものなら、手加減はしないといった、尖った雰囲気を漂わせている。
そんな白けきった場のフォローをするようにミカロ・ウルス(ea2774)が温厚に議題を提起する。
なぜ、カインとアベルというひとつの兄弟の血筋から生まれた『オーガと人』は決して交わる事が無いのか?
「異種族の間ではただ1つの例外を除き、子供をつくる事が出来ないからです。
子孫が絶える事により、異種族婚姻はタブーとされています。
例外的に、異種族エルフと人間は子供をつくる事が出来ました。
神聖暦880年にジーザス教への改宗の条件付でノルマン王国が建国される以前、神聖暦872年頃には、キエフ公国に『ハーフエルフ至上主義』が形成される様になりました。
そう、神聖暦843年にフランク王国分割に反対して実力行使に及び、暗黒の国に逃げ込んだビクトルが起こした国です。
分割した国西フランク王国からバイキングが起こしたノルマン王国と血のつながりのある国といえるでしょうか」
ロシアに関してひと講釈垂れた所で、姿勢を正し。
「少なくとも、ノルマンに住む人は、聖書の教えに従って、異種族エルフと人間の混血を拒む正当性が有りません。
ジーザス教を受け入れている国にハーフエルフが生まれた後で、聖書の教えに従ったからです。ジーザス教に国家の違いは有りません。
救世主が再臨されるその時まで、全ての人々に救いをもたらす事がジーザス教の有るべき不変の姿ではないですか?
貴女は、『オーガと人』を認めずとも『アベルの子』達の結婚を祝福すべきです」
父親は遠い目をして──呟いた。
「では、このハーフエルフから感じる、嫌悪感は何なのだ、と? そう聞きたい。。
ジーザス白の国と、ジーザス黒の国を巧みに混同させているな。 我々、ローマの末裔に対するバイキングの蛮行は、ジーザス教により、押さえられている。
だが、しかし──オーガと人が交わらぬ理由にはなっておらぬぞ。『アベルの子』同士の結婚は認めろとは人とエルフのみならず、ドワーフや、シフールとの結婚をも祝福しろというのか? 無茶を言う。それとも、そこの白クレリック殿はどうお考えか? ジャイアントとパラが結婚したがれば、それでも祝福するのか?」」
シャルロッテは唐突な指命──いや穏当なかもしれない──に臆する事無く応える。
(親に祝福されない婚儀というのも、悲しいですよね。なんとかしてさしあげないと‥‥)
「言い古された言葉ですが、カインの子たるオーガは神の祝福を受けておりません。
ですから交わることができないのです。
われわれセーラ様に仕える者は全ての者の罪が許されるよう、日夜神に祈りを捧げています。
また、血の絶える結びつきには祝福を与える事はできません。
だから、血が絶えないハーフエルフには祝福を与える事ができるのです。
ミシェル様が生まれたことに罪があるのでしたら許されるよう、私が祈りましょう。
その為、ミッシェルさんに『聖なる母』の洗礼を受けて頂こうかと思います。
カインとアベルは弟のアベルだけが神々の祝福を受け、受けられなかった兄のカインがアベルを妬み殺してしまったことが神々に見捨てられた原因となりました。
ですから、洗礼を受けて神々の祝福を受けていただければ。
詭弁じみていますが、汚れた血ということにならないかと思うのです。
人もエルフの、アベルの子です。乱倫の末の婚姻はともかく、洗礼を受ける資格は十分にあると思います」
「あのシャルロッテさんすいません、僕、家の中の礼拝所に神父様を呼んで洗礼はすませています。それに成年洗礼はとても条件が厳しいのでは?」
貴族の家には籠城した際にもミサが執り行うべく、礼拝所がある事が多い。
「まさしく詭弁なり、ハーフエルフのクレリックは前代未聞という程、いない訳ではない。彼らとて狂化しよう。そんなに汚れた血を祝福したければ、オーガ達を捕まえて、洗礼を受けさせる事だ。それから始めたらどうだ?」
母親がシャルロッテに居丈高に食ってかかる。
「まあ、待て」
堂々と父親が割って入る。
「当人の弁で、洗礼は既に受けていると言っている。だが、聖なる母の祝福だけでは不十分だ」
「ならば、大いなる父の祝福もやってあげてよろしくてよ」
打って出るヒスイ。
「それでは只の背教者になってしまう。そうなったら、余計に、家の結びつきを絶つ事になるだろう。議題はオーガと人はなぜ、交わらぬか、その一点に尽きる。祝福されようと、聖職にあろうと、狂化が起きる事を、議題にしなかっただけでも、我が細君は慈悲を発していると思いたいがな」
シェーラ・ニューフィールド(ea4174)がその声に立ち上がる。
「あたしはウィザードだけど、小難しい事並べるのは好かないの」
え、という周囲の驚きの声を余所に。
「つーわけでシンプルにいくからね、シンプルに」
言いながら語り始める。
「なんで人間やエルフ等とオーガが交わらないかってそんなのまったく別なものだからに決まってるじゃん。
確かに一番最初のカインとアベルは同じ人だったのかもしれないけど、
その後の子孫は神の祝福を受けたものと受けなかったものに分かれたでしょ。
でどんどん代替わりを重ねるたびに差が開いていっちゃってどんどん違うものになったと。
でエルフと人は同じ祝福を受けた子孫同士なんだから交われて当然てわけよ。
まぁ、こんなとこかな」
「答えは同じだな、同じ祝福を受けたもの同士で、血を結ぶ事が出来るなら、何故、それ以外のアベルの子同士は結ばれん? もっとも、オーガと人がまったく別という意見には賛同するが、祖は同じという点を論破できれば、私をも頷かせただろう」
「ところで‥‥交わるってのが一緒に生活できるってことじゃなくてさ。
子供を作れるって事だったらアルチュールの母親は、人とオーガが、子供作れないか試した前例、知ってるのかしら?」
「よせシェーラ」
芳紀の鋭い声が飛ぶ。
岬は家人から、神聖ローマにノルマンが占領時していた当時に山の中に逃げた時、母親の妹がオーガに辱めれた事を聞き出していたのだ。
幸い、彼女はひとりで迷っていたのであり、アルチュールにその話は知られていない。
無論、子を孕む訳がない。だが、心に恥辱と憎悪は芽生え、彼女は自害した。その答えこそが、この問いである。
シェーラは止めない。あえて、止めなかった。
「それ言ったら人間とエルフ以外のドワーフとかの種族同士じゃ子供作れないんだから、それこそオーガとかとでできるかって話しよねぇ。
祝福されたもの同士でも子が作れないのに、全く異種な存在とできるわけないじゃん」
ウリエルとレジエルは左右から、ミッシェルの耳を塞ぐ。
子供には刺激が強い上、有害だと瞬時に判断しての事だ。
「大丈夫ですよミッシェルさん」
一方でサラがシェーラの言葉が終わったのを確認すると、彼の両脇のふたりに頷きかけて、ふたりの手という、ミッシェルの耳の封印を解く。
更に、自分のこと『罪の子かもしれない』と悩んでいるミッシェルに──。
「大丈夫ですよ」
と囁き、傍にいて手を重ねる──既に手を重ねた、ウリエルとレジエルのふたりのその上から。
「なぜ、カインとアベルというひとつの兄弟の血筋から生まれた『オーガと人』は決して交わる事が無いのか? についてにお答えします。
散々言われていますが、神々の祝福を受けているカインの子孫である人間と、エルフとの間では交わることが出来ます。
しかし、神々の祝福を受けているカインの子孫と、神々の祝福を受けていないアベルの子孫との間では交わることが出来ません。
このことから神々の祝福を受けているもの同士でないと、交わることはできないと思われます。
神々の祝福を受けた子孫同士、この場合は人間とエルフとの間に出来た子『「ハーフエルフ』は神々に祝福された子として考えることが出来ると思います」
「あのうサラさん、すみませんが、聖書にも特にハーフエルフは神々に祝福された存在などとは書かれていませんが、」
「え゛」
シャルロッテの持つ聖書には少なくとも、ハーフエルフは祝福された存在とは書かれていない。他の種族と同程度の記述しか、彼女の記憶にはない。
そこへ、アミィ・エル(ea6592)は挑発的、かつ皮肉めいた口調を隠さずに。
「あら、そんな単純なことも分かりませんの」
「うぅん、何か難しい質問だね。あたいよくわかないや」
天然シフールの真 慧琉(ea6597)が首を傾げる。
「嫌いだからじゃないの──?」
「あら、慧琉さんもわかってらっしゃるじゃないですか」
と舌先三尺をフル回転させるアミィ。
「奥方もご存知の通り、ずばり、オーガと人間には愛が存在しませんわ。
カインは少なくともアベルを憎んでいたはずですわ。
憎んでいる二人の子孫同士が愛し合えると思いますの」
「つまりは、嫌いな家柄同士が結ばれるってことなんだよね。無理なんじゃない?」
と不思議げな瑠琉。
「まぁ、あたいはかっこよければどんな種族でも問題ないんだけどね」
冗談を云う慧琉だが、シャルロッテのみならず、その場にいたジーザス信徒は鳥肌が立った。
「それにハーフエルフとオーガの決定的な違いは人間と姿が似ていないことですわ。
愛は心があればいいと云う方もいらっしゃいますが、外見も重要なファクターですわ。ドワーフ、ジャイアント、パラと違い、人間とエルフは外見上も非常に似ていますわよね。
愛が生まれるには十分な状況だと思いませんかしら?
ちなみに不特定多数の変人は論外ですわよ」
「最後は同意するが、どれも、十分体格さえ合えば、現にその様な体格のものはいる事だし、私も相手への好悪は別にして、家の為に結婚した口だ」」
「水掛け論ですわね。もっともオーガとの交わりを考えてでは余計な話題でしたけど」
と云って下僕の慧琉の顔を見た後、アルチュールとアンジェリカに向かってアミィはひっそりと──。、
「実は愛する者に種族など関係ないと思っていますわ」
と自ら、先ほどの論破を否定しておく。
着席すると、慧琉が蚊ほどの声で囁く。
「アミィ様、何で、先ほどの説得のとき、シフールが入っていなかったのですか」
「シフールを、人間の外見が同じと思っている方は、いませんわよ」
「どうして、そんなに家柄にこだわるの? おばさんも愛してるから、結婚したんじゃないの」
慧琉が問いかける。
「あまり関係がないな」
との父の言葉に母は。
「さっきも言ったが、互いの店舗が合同して、店を大きくする為の方便に過ぎぬ。アルチュールという子に恵まれたのは望外の望みというものよ──しかし、こうなっては」
「母上──」
などという、シリアスな舞台が繰り広げられている中で慧琉はミッシェルの首根っこに抱きつく。
「ミッシェルも婿の貰い手がなかったら、あたいがもらってあげる」
「あのう、これ以上、事をややこしくしたくないんです。子供云々ではなく、そんな関係があったら‥‥‥‥」
「ええと、みんなー、今のは冗談だからね、アミィ様がマスターだもん」
場は急速に白けた。
その空気の中、リーン・クラトス(ea7602)は──。
(さて、今回は中々難しいところだね‥‥アベルとカイン、ジーザス教の教え、かぁ‥‥。
本来こういう宗教関係のことは、ボクは少し勘弁して欲しいところなんだけど。
まぁ彼らのためだし、やるしかないか)
と、やる気を奮い立たせる。
「母君自身が体験した──人とオーガには子供が出来ないということ──。
これが一番だと思う。
聞き飽きたかも知れなけど、兄カインと弟アベル、そのうちアベルが祝福を受け、それをねたんだカインがアベルを妬み殺してしまったことからカインは神に見放された。
故にアベルの子孫たる人間やデミヒューマンは神に祝福され、そしてカインの子たるオーガたちには神の祝福は与えられない。
だから、神の祝福を受けた人間とエルフの間には子供が出来る。
祝福されないオーガとの間には子供が出来ない。
確かに、パラやジャイアントといった別種族との間には、子供は出来ないけど、エルフとの間に子供が出来るのもまた事実。
それが答えなんじゃないかな?」
「疑問系で返すのは、無しだと宣言した筈だぞ」
母親がどやしつけるように言う。
それをリーンは受け流すかのように──。
「‥‥ま、命が生まれてくることに理由なんてない、生まれたいって思うからその命は生まれてくる。
それが偶々人間とエルフの間だったりしただけ。
花がそこに咲くように、水が川を流れるように。
宗教に関しないボクの一番の考え方はそれかな」
と、視線を母親に向けるリーン。
「こんな答えで満足してもらえるとはあまり思えない。
だけど、よかったら二人を祝福してあげて欲しい‥‥誰かを好きになることに、やっぱり理由なんてないから。
ボクがそうだったみたいに、ね‥‥」
「そなたの詩人めいた、個人的な体験など聞いてはおらぬわ!」
激昂する母を父が宥め、最後に立ち上がりしは九紋竜 桃化(ea8553)。
「ジーザスの教えに詳しくない為、浅囓りな点をご容赦下さい。
セーラいわく、カインは、神の祝福を受けたアベルを憎み、その身を害し、神に見放されたと聞きます。
オーガと人が争うのは、オーガが、神より見放された恨みを最たるものとし、『服従』「貞節』『清貧』の教えを忘れ、『支配』『傲慢』『欲望』を行うからだと思います」
母親の興味が惹きつけられたのが、周囲には判る。聖なる母の3つの徳の裏返しを行っている、それでは祝福の得られる筈もない。
腕を組んだ父親も鷹揚に頷いた。
「ご母堂様は、カインとアベルにならい、祝福を受けぬ兄が、おふたりの身を害す事を警戒しておられるのでしょうが、セーラの愛は、アベルの子全てに降り注ぎます。
カインはアベルを憎みましたが、アベルはカインを憎まず、祝福されし子らを産みました。
ミッシェル様を認めないのは、セーラの教義に背き、カインの罪に習う事と思います」
一滴涙を流す母親。
「ミッシェル様は、ご自分がおふたりに愛されている事を知っておられます、
おふたりの愛を知り、『服従』『貞節』『清貧』の教えを知っておられます。
ハーフエルフにも大成された方は多く、愛を知る者は祖を為します、お二方を認める事で、ご当家には更なる高みに上られると思いますわ」
「見事な回答です。桃化さん」
シャルロッテも立ち上がって、手を叩く。残った一同も手を叩き、ミッシェルが認められた事に、喜びを表した。
「どうなるかは、判らないが、アンジェリカの母御殿とは私が責任を持って話し合おう」
と父が笑みを浮かべる。
「我が一族が貴族の一員に列する事を、さあ、祝福させてくれ。我が息子と、永遠の愛を誓ったアンジェリカよ」
「血の祖が同じならば、混じり合う事も可能とはいい加減、耳に痛いが、それもミッシェルの事を忌み子扱いした自分の不徳としよう」
とは母。
祝福が終わり、一緒に退席したレジエル達はアンジェリカに対して、3人の趣味について聞いてみて、それで話をつなげようとする。
「そうだ、皆さんはどんな趣味をお持ちなのですか?」
「うーん乗馬かな?」
「優雅な趣味をお持ちですね〜羨ましい」
アルチュールにレジエルが返している内にアンジェリカは。
「主に刺繍かしら‥‥でも、その内、判るけれど、本当は冒険に飛び出したいのよね。日本刀持って」
「何故に日本刀?」
「重さが振り回すのに丁度いいから」
「それなら僕は君のナイトとなろう。盾となり、剣となり。もっとも、から修行しても受勲は無理だろうけれどね、どこかの動乱でも起きて、大活躍しない限りね」
ミッシェル曰く。
「僕は聖書を全部、読破する事が夢なんだ、クレリックになる、とまでは言わないけど」
「ほぉ〜、それはなかなか奥が深そうですね‥‥」
ところで、アンジェリカさんから見てアルチュールさんはどんな人でしょうか? 是非、聞きたいのはズバリプロポーズの言葉は?」
「君が何度木から落ちても、一生、受け止めよう、よね?」
「いや‥‥それは」
赤面するアルチュール。
その表情に、アンジェリカも、ミッシェルも笑みを浮かべた。
一方で冒険者達はご祝儀として金貨が幾枚か入った復路を受け取った。
「こう見えても私は結構ケチでね。息子の事を構ってくれた君たちにもこの程度しか、渡せない」
しかし、せめて披露宴には出て欲しい。
この言葉に一同は賛同し、祝いの席で、ロヴァニオンは見事、この街屈指の、のん兵衛となるのであった。
こうして、ミッシェルの立場がどうなるかは判らないが、アンジェリカとアルチュールはシャルロッテと地元の神父が立ち会う中、祝福をアルチュールからの両親から受け取るのであった。
「ありがとう、みなさん。特に九紋竜さん」
桃化曰く。
「やった事は聖書の行間を読んだだけの事、でも礼は嬉しい」
そして、冒険者達はパリへと帰っていった。
これが、3人の若人が、十余名から祝福を受けた物語の顛末である。