●リプレイ本文
風が轟々と吹いていた。
夜半から強くなった風は一同の心身を寒からしめた。
その風景の中、夜 黒妖(ea0351)の盟友である神聖騎士カイエン・カステポーはこのオークロードが絡んでいるらしい事態を報せに愛馬を駆り立てて、人々の下に向かっていた。
夜の中、黒妖は幼さげに見える外見とは裏腹の冷静さを以て、相馬ちとせ(ea2448)を同道させる。
「たとえ、信ずる神が違えど‥‥同じ信仰に生きるもの同士、見捨ててはおけませんね‥‥」
彼女は黒妖が組織する化物殲滅戦闘集団「Anareta」のメンバー。通称『戦巫女』と呼ばれる。その名に相応しき行いを果たせるかの試金石がこのミッションであった。
「そうだな。俺は神罰地上代行人、不浄なる者に死の祝福を。AMEN」
黒妖が不吉げな宣告をもたらすと、少年神聖騎士、アウル・ファングオル(ea4465)が──。
「神の名はみだりに口にするべきではないが‥‥俺は、セーラ神に仕える方達ほど優しくは無いですし」
と、更に不穏当な発言をする。
「カレン、魔法の準備はどうだ?」
黒妖が魔法を唱え、雷の罠を作り続けるカレン・シュタット(ea4426)が小休止とばかりに答える。
「修道女さんたちの住んでいる場所に手を出すなんて‥‥その様な輩には雷の茨で鞭打ちます」
と、発言すると周囲の修道僧達が『はあ?』とばかりに口を開ける。
「あの我々は男子のみですが──女性の方は修道僧にとっていらぬ懸想をかき立てる為、清貧の誓いに従い、遠ざけておりますが」
「そうなんですか。でしたら私の先入観が先行していたようです、埒もない事を口にしてしまいました」
と、懸想をかき立てる蠱惑げな胸を揺らし、作業に戻る前につぶやきを漏らす。
「援軍がくる前に決着をつけませんと‥‥組織立っていますか──厄介ですね」
魔法での策敵担当として老志士七刻 双武も加わる。
「無事に帰ってこい。そうしたら俺が守ってやる」
ロシアの傭兵、セイクリッド・フィルヴォルグ(ea3397)が黒妖の目を見つめて囁く。
「‥‥先に防衛を主にさせてもらう‥‥。
なにぶん何も無くてな。すまない」
「潜入だけが全てじゃないし、後ろは頼んだ」
「助かる」
一方、クオン・レイウイング(ea0714)も魔法ではなく、猟師として持ち込んでいた資材からそれなりの罠を作っている。
「何、これは只の布石に過ぎない。悪漢に止めを差すのはヒーローの仕事だ。格好良く決めてくれよ」
と爽やかに微笑み、親指を立てた後、周囲を見渡しる。
「あれ、ロヴァニオンが居ないな?」
と、一同に問いかける。
ロヴァニオン・ティリス(ea1563)の所在に関する大体の返答は、酒を呑んでいるか、酔っぱらってそこいらで寝ているだろうという非常に好感触なものであった。
これでもパリの実力者である──。
「占拠された修道院か‥‥。近付いてくるモンスターがいる以上、挟撃される前に確実に殲滅したいところだ」
一方で岬 芳紀(ea2022)は街道沿いに援軍に備えて、逆茂木を設置に励んでいた。クレリック達のグッドラックのせいもあってか、ダガーを半分使い潰しているようなペースで木々を鋭く削っていく。
「できれば落とし穴も掘っておきたい所だが、そろそろ時間だろう」
星の位置から大体の時間を推し量る。
普段はこんな事をしなくとも、宗教施設の鐘の音で大体の時間が判るものだが、そこが占拠されていては、囓っただけの学問の殿堂に縋るしかない。
その間にもアトス・ラフェール(ea2179)は筋骨隆々とした体格とは裏腹にオーガ知識に関して、グッドラックの助力も借りて、一同にレクチュアを始めた。
ガブリエル・アシュロック(ea4677)が指を鳴らす。
「さてと、オークの大群を相手にとは厳しい戦いになりそうだ。皆さんと協力して必ずや、オークどもを倒し修道院を取り返してみせよう」
彼に対してそう急くなとばかりにレクチュアが始まる。
「オークという連中は見たとおり弛んだ体に豚の様な顔をして下顎から牙が上に生えているのが特徴です。
力量としては専門的な戦士ならかなり楽に戦えますが、戦いを囓っただけというレベルでは命に関わります。
私では五分五分ですね。
もっとも、これは表層的な事で、大事なことはオークは攻撃性と臆病さを兼ね備えている事です。
たとえ、誘き出しても遠距離射撃、トラップや魔法で一網打尽にしなければ、警戒して修道院から出てこなくなるでしょう。
そこに援軍がくるのですから、一撃必殺が要求されます。
一方、オーク戦士は武芸の専門家でなければ相手になりません。
戦闘経験が豊富で慎重さと勇猛さを持っているのです。
残念なことですが、トロールに関しては皆目見当がつきません」
ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)はその解説に対し、改めて自分の役割を知る。
自分の修行の成果は、神聖騎士として人々の盾となり、剣となり、依ってセーラ神の威光を守る事ではなく、セーラ神の御力を地上に伝道するため、費やされてきた。生あるものを唯一傷つけるホーリーとて、クレリック達の加護があっても成就するかは危うく。ならば、準備万端整えてホーリーフィールドで魔法使い達を守護。
そして、あまりにも脆い、自分の結界を守る為、その守護になろう。
騎士団で習った形だけの剣技がどれほど、オーク達に通用するのかは二の次、今はやるべき事をやるしかないと。
「トロル。たしか、厄介な相手ですよ。その上、オーク付きで篭城ですか。烏合の衆ならともかく、統率されて篭城している相手が簡単に出て来てくれるとは思えませんけど‥‥」
と、魔法で穴掘りを終わったデルテ・フェザーク(ea3412)が修道僧達に修道院の見取り図を描いてもらっている間、受けたレクチュアを元に疑問をぶつける。
「篭城している相手に対するなら、損失覚悟でコチラから出向くのが筋です。そもそも、無計画な籠城ではなく、援軍を前提にしての籠城のようですから、その辺どうお考えかと」
誘き出しに失敗したら、前置きした上でデルテは、誘き出しと同じ策で陽動し、待ち伏せ組が遮蔽物の多い別方向から近付き、修道院内部に侵入し敵の不意を衝きます。敵に予想され伏兵されていても力押しで対処。
壁があれば魔法で穴を開けます。
「もっとも、援軍が現れたら即撤退しますけれど」
如何にもパリの実力者に相応しい、現状把握と自信にあふれた言葉であった。
「まあ、ともあれ、一団が落ち着くと攻めるのも大変だ。また時間を掛ければ籠城している方が有利になる。なるべく短期間の内に敵の戦力を削ぎ、修道院から追い出した方がいい。そしてトロルは倒しておきたい。あの怪物は危険度は高そうなので放置するには危険すぎる」
とコトセット・メヌーマ(ea4473)が一同の希望論とも言うべき意見を代弁する。デルテもそれには賛同していた。
「特にトロルは中々見ないモンスターだ。皆に語るべき特性は、炎によらない攻撃による傷は短時間で治癒してしまう。間違いなくオーク戦士以上の破壊力と武芸を持っているでしょう」
という事だと、アトスの知らない一面を披露した。
こうなってくるとバーニングソードの使い手達が魔法を如何にタイミング良く割り振るかである。
コトセットは潜入班の4人にフレイムエレベイションを付与する事から、グッドラックの加護があっても、魔力を半分以上持って行かれるだろう。
「知識と力を勇者に‥‥これが私の生きる道だ。<星の探求派>がひとり『破魔の炎』として」
片や、レティシア・ヴェリルレット(ea4739)は唐突な遭遇の為、準備していなかった毒矢の製造に追われていた。
「ギルドからの正式な依頼ならともかく、こんな突発時にまで毒を準備しているかっての──毒だって劣化するんだぜ。切り札と武器は絶対に手放すなってね、て言われたけど、皆の矢にまで手が回らないじゃん」
それでも自分の分の以前刻みを入れた鏃に改めて毒を塗りつける。
「まったく、冬じゃくて良かったぜ。
こないだホブゴブリンで毒実験しといて良かったな、俺!
ホブゴブリンなら掠るだけで即死するくらいの奴を使うべきだよな。もっとも、今回はそうはいかないようだな、毒草が取れる季節を考えて襲撃をしろってんだ」
もっとも、前回の毒は殆どがレティシアの矢の手腕が死因で、毒は大して大きな要因とはなっていなかったようであるが。
「しかし、トロルね。出てきたなら目を狙えって‥‥目って狙い難いんだぜ?
ここは足狙いでいくか。もっとも相手の体格を考えると、相当な毒を塗らないと死にそうにないな、鏃じゃ毒を塗り込むにも限度があるし‥‥おい、そこにいるのは? なんだルリか?」
とレティシアが茂みの暗がりで泣いているルリ・テランセラ(ea5013)の後ろ姿に声をかける。
熊の縫いぐるみを抱いて、うずくまって泣いている、その姿はとても16才には見えない。冒険者ギルドではとても登録できないような年齢とレティシアの目には映る。
「セイクリッドさんの言う通りに魔法を唱えればいいって判ってるのに、るり怖いの‥‥みんなが怪我したり、死んじゃったらって考えたら。でもね、でもね、るり‥‥みんなのお役に立つようにがんばる‥‥」
「そうか、みんながみんな、俺みたいに死と隣り合わせ、死に神が後ろで鎌を振り上げているんじゃないかって──緊張感が好きな訳じゃないんだからな。
戦いは怖くて当然なんだぜ。それで泣いても、誰も笑ったりは、まあ、多分しないだろうな。だけど大事な事は、今自分に何が出来るかって事だぜ」
「るり、みんなの手当ができる‥‥クレリックさんたちみたいに魔法でぱっとは出来ないけど、手当くらいならできる‥‥と思う」
「クレリックのみんなが神のご加護をくれるんだろう、思うじゃなくて、出来るんだよ。あーあ、こんな説教じみたことガラじゃ、全然ないぜ、俺」
「おーい、ルリ見なかったか?」
セイクリッドが心配してルリを探しに来た。
「ほら、セイクリッドが来たぜ」
「うん‥‥るりはここにいるよ」
黒妖達一行が、修道院に向かったのは夜明けの事。コトセットのレクチュアでオークの夜目は猿程には利くようで、明かりを維持しなければいけない分、不利な夜間より、太陽を味方につけられる今、この時の方が陽動に適しているとの判断である。
だが、一同には気配をさほど消せる者がいないという陽動部隊だから許される欠点があった。
双武の魔法で進路上、修道院の外にロヴァニオンを発見する。
同時に上がる火の手。大した事はない。修道院では主要な部分は石造りであり、彼が油瓶と松明を景気良く投げ込んで、焼いたのは家畜小屋の屋根である。修道院は自給自足がモットーなのだ。
「うまく行けば、乾燥した家畜の糞に燃え移るかな‥‥。焼き豚で一杯やりたいもんだな」
「さて、神罰が下る時間だ‥‥覚悟はいいな?」
黒妖が厳かに宣告し、印を結ぶと、大ガマが形成された。
「行くぞギュー!」
名付けて大ガマに飛び乗る黒妖。
「ほら、ちとせ。オーラつけてやろうか?」
「忝ない」
とロヴァニオンも念じる。桃色の淡い光に包まれてちとせの小太刀に闘気を帯びさせる。
火の手に乗じてちとせも石壁に大きく振りかぶって一撃を浴びせる。
「Anaretaが戦巫女…相馬ちとせ。推して、参ります‥‥!!」
だが、闘気を帯びたとはいえ、小太刀では如何にも貧弱であった。石壁に鮮やかな斬撃痕が浮かぶに止まる。
「新陰流が初手、斬釘截鉄が──くっ、己の分をわきまえ‥‥努力精進する所存とはいえ‥‥これが分か」
石壁を破壊するのには少々オーラを帯びたとはいえ、小太刀では力不足。
かといって、彼女の持てる技を存分に発揮すれば、力の入りすぎで有効打とはならないだろう。
そこへアウルが確実なオーラを帯びた太刀筋で、全力をもって岩壁を斬りつける。 桁が違う破壊力であった。剣一筋なら少年でもここまでやれるのだ。
恐るべしコナン流。
ともあれ、それはオーク達の注意を引きつけるには十分であった。
桃色の光やら、鉄すら両断するような響きがあれば、当然であろう。
『侵入者だオーク』
『ぼやぼやするな火を消せオーク』
『トロールを押さえろオーク』
おそらくそんなことを言い合っているのだろうそこへ、黒妖が微塵隠れで更に派手な爆発音を鳴らす。
だが、敵は統制が取れており、出てこようとしなかった。
この大ガマの出現にようやく気づいたのか、オーク達も火消しに移った一同を除いて、開口部の方に移動する。
だが、黒妖には大きな誤算があった。
ギューの能力は使用者のそれに比例する。
格闘も体捌きも習練を形通りだけにした、“忍術使い”である黒妖のギューはオーク達の攻撃に避けるも、舌をのばしての攻撃を当てるもならず袋叩きに会ったのであった。
消滅するギューに見切りを付けて、ギュー弐を形成して逃げ出す一同。
ギューは消えては生まれ、また消えては生まれた。
その度に一同は自分がこれだけの驚異であるとアピールしなければならなかった。
思いっきり剣を振るうロヴァニオン。その斬撃にオーク達は撤退寸前。
アウルはその点、レクチュアを受けていた為、ある程度守勢に回り、自分はこんなに鴨なんですよ、とオーク達を安心させる役目に回った。
トラップ地帯に来ると、ギューから離脱する黒妖。
エリナ・サァヴァンツが、代わりに詠唱の間、彼女の護衛に立っている。
「今の内に安全地帯へ」
「さぁ、来たぞ!皆で力を会わせれば不可能なことはない」
ガブリエルが一同の士気を鼓舞し、自らも前線に出る姿勢を目指す。
その前線予定地では、トラップに引っかかり、転倒する者、身動きが取れなくなった者、更には雷に絡め取られたものが現れた出た段階で、オーク達は恐怖を覚え、撤退していく。
「まずは魔法で牽制します。その隙に攻撃を!」
アトスが指示を出す。
「ごめんなさい、これ、るりのお仕事なんです」
「先手必勝!」
ルリとカレンが呪文を唱え、アイスブリザードとライトニングサンダーボルトの範囲魔法でオーク達に僅かずつだが、ダメージを心身共に与え、撤退の機運に直結していく。
だが、それを許さないフランク・マッカランと、その後ろで、後衛から雷を浴びて抵抗力が弱まった相手をセーラ神の力で金縛りにし、次なる生け贄へと捧げんとするリューヌ・プランタン。
逃げようとする相手を自慢の足で攪乱するエリナ・サァヴァンツが、足止めしたところへロックフェラー・シュターゼンが戦いを挑む。相手が受けた瞬間にそれに倍する力で押し倒し、吉村 謙一郎が止めの一太刀を浴びせる。
一応、戦線が落ち着いてくると、レティシアやクオン、それにカタリナ・ブルームハルトといった弓使いが逃走しようとするオーク達に矢を射かける。
「やはり、致死毒を作るより、この程度の格の相手では狙って撃った方が、楽か?」
とぼやくレティシア。
「オーク共、死を告げる矢の味はどうだ?」
どこからともなく、飛んでくるクオンの弓にオーク達は恐怖を隠せなかった。
そこへ芳紀が乱入し、日本刀と短刀をもって、相手の無いに等しい鎧の隙間を縫うような一撃を確実に浴びせていく。
ふたつの牙の交わる所、生きて残れるものはない。
だが、目聡いオークもいた。
ニルナが張ったホーリーフィールドを一撃で破壊し、クレリック達とエルザ・ヴァレンシアを人質に取ろうとした未練がましい者もいたのである。
セイクリッドが2匹のオークと接敵するが、シールドで全て受けきるという自分の信念とは裏腹に手数の関係で受けきれない、という現状があった。
負傷ばかりが増えて行くが、負ける気は全くしない。
「仕方がない」
剣を一振りすると、オークの戦槌が落下する。流派の王道とも呼ばれるエンペランの基本技である。
「最初から斬った方が楽だったか」
「さぁ、今だ!やれ!」
と援軍に入るガブリエル。相手も落とした得物を拾ったので、これで1対1にまで持っていける。
続く冷静かつ沈着な攻撃の積み重ねの中、セイクリッドはホーリーフィールドの中にいる黒妖と視線が合う。この一瞬の視線のやり取りで互いの意意は汲めた。
自分と同じ流派のセイクリッドにガブリエルは──。
「見事だな。今度お手合わせでも願いたいものだ」
「それよりオーク退治だ」
一撃で自分の誇りであったホーリーフィールドをうち砕かれ、ニルナはそれでホーリーの術による至近距離での魔法戦を諦め、ダガーをとり、セーラ神の加護を受けて戦う。
全身を赤く染め。大地をも濡らしていく。。
「我──我、『Anareta』に仕えしモノ。天空にて汝の生を蝕み、魂を掻き斬る漆黒の翼」
それでも立ち上がる。
「死を伝える鳥‥‥あなたは知っていますか?」
彼女こそまさしく死の天使そのものであった。
言った次の瞬間、防御を捨てた一打がオークのこめかみに痛打を与え、昏倒させる。倒れた瞬間に喉を掻き斬る。
「黒死鳥は死を伝える鳥です。ここで死ぬつもりは毛頭ないですよ!」
だが、リカバーポーションを取り出そうとする手もおぼつかない。それではポーションの無駄遣いだ。エルザは己の信念の元、クレリック達と彼女を癒しに入った。
「もう、誰も死なせない」
白く淡い光が彼女を包む。
「戦力の逐次投入とは愚者の行い、やはりオークか」
とコトセットは援軍に来たオークの軍列を見て評した。その合間にも彼が勇者と見込んだ者達の武器に炎を付与するのを忘れない。
ロヴァニオンもリクエストがあったので皆にオーラパワーを付与する。
ふたつの力は解け合い、強大な力と化す。
その間にもトロルとオーク戦士の威容が姿を現す。若干の取り巻きを連れているようだが、それは敗残兵も含まれている。
「指揮官は逃さないで下さい」
アウルの声にクオンとレティシア、さらにカレンから雷や弓矢が降り注ぐ。
だが、最初の一撃こそ雷撃は威力を与えたものの、次からは盾を向けて、相殺するつもりの様だ。
そこへ突撃するロヴァニオン。
「受けて見ろ!」
まだ持っていた油瓶と炎のついた松明を投げつける。瓶は我、流れ出した油が豪華となる。
トロールは恐怖にいななくが、決定打にはならない。突出したところで袋叩きにされかかったロヴァニオンのフォローに回る一同。アウルがオーク戦士と斬り結ぶ。
相手の槍も相当なものであったが、腕の面では一日の長があり、更にはセーラ神の加護までついているのだ。
ガブリエルも、ロヴァニオンと一緒にトロールと向き合う。
相手にとって不足はない。ロヴァニオンは袋叩きにされたが、傷はオーラリカバーで癒し、問題なし。そして、黒妖の仲間達が集まってくる。
ガブリエルの予想通りの結果となった。
炎の剣をもってしても、トロールはいくさ狂いから抜けきらず、只々棍棒を振り回すばかり。怪我を再生しようとしても治らずパニックに陥るという事に一瞬の隙を見いだし、前衛陣が可能な限りの強打を浴びせて血の海に沈めた。
オーク大帝の旗は引き下ろされた。
そして、荒らされた修道院ではアウルが慣れない石積みをちとせと、そしてクレリック達と行っている光景が目に付いた。
一部延焼した部分に関してロヴァニオンは──。
「モンスターに占拠されるくらいならいっそのこと、とセーラ神様もおっしゃるに違いな、あだっ!舌噛んだっ!」
不信心の賜だろう
「これも神の試練だ。ドンマイ!
全焼しなければ勘弁してくれっかな? 」
約束通り修道僧は半壊までは神の試練だという最初の意見を曲げず、更に戦い傷ついた一同を労うため、大量のベルモットを振る舞ってくれた。
この修道院の特産物だという。
だが、オーク大帝とやらの在処は知れない、それを知らぬ限りこの修道院に安息の日々は戻らぬだろう。
事件の顛末を記すには、まだ出来事が続いている──。