●リプレイ本文
「ただいま。やっと帰って来れたわ、またよろしくね」
とにっこり微笑みながら、アルル・ベルティーノ(ea4470)はドレスタットから帰ってくると、パリの冒険者ギルドで薊鬼十郎(ea4004)とノア・キャラット(ea4340)に声をかける。
「お帰り、アルル」
ふたりの声。久しぶりに会うアルルは一段と成長したかのように見えた。
「大変だったようだな、その荷物は?」
「あ、これ。良い斧があるんだけど良かったら使って、速さを生かした接近戦なら向いている武器だと思うわ」
ブレーメンアックスの銘を見ると、ジィ・ジ(ea3484)が興味をそそられた。
「これはわが祖国フランクで技を磨いた武器作りの達人、アレキサンドロ・マシュウの品ではありませんか? いやぁ眼福いたしました。銘だけで歴史に名を残す品を作りたいものでございます」
説明に、遠慮がちに受け取ったレイリー・ロンド(ea3982)が斧の重みとバランスの良さを実感した後、大荷物から一枚のスクロールを取り出すと。
「ありがとう、アルルの代わりにこいつを使いこなして見せるよ。そうだ、アルルは精霊碑文学を学んでるんだろ?
お礼にスクロールをあげるよ、俺には宝の持ち腐れだし、今回の依頼で魔法使いは何も貰える様な物は無さそうだからな」
「そうそう、依頼の件がありましたな。皆の旧交を温めていると、つい忘れがちになってしまいます。で、ノエル君の保存食の準備は、と」
とジィが今回の冒険に際して、石化金髪茶眼の少年『ノエル』を連れ出す事に対し、鬼十郎は心中穏やかではなかった。
以前、魔王の糧と呼ばれた、ノエルを冒険から連れ帰った、その冒険の時に、魔王の糧という言葉に過剰に‥‥いや当然の反応をした仲間の矢により、深手を負ったところを、封印から解かれたノエルが目の前に突然現れた形になる彼女を、迷いもせずに魔法で癒したのであった。
(以前に敵か味方か解らない私を癒した行動を見ても、彼は優し過ぎる子だと思う。
私は、そういう子は好きだし尊いと感じる。
だが冒険者としては、時にはそれが仇になる事もある‥‥それが心配だし怖いと思う)
そう、鬼十郎は考える。
一方、ノエル自身はジィと鬼十郎のふたりの厚意も断り、冒険者ギルドで下働きを勤めている。
傍ら鬼十郎はラテン語の読める者に頼み込んで、彼の着込んでいた僧衣から、身元が洗えないか、と調べていたが、やはり形が神聖ローマ帝国建国カール大王戴冠当時のものに近いとしか判らなかった。
以前教会に帰属していた。かといって、彼を教会に身柄を預けるのも危険な感じがした。
(これは剣客としてもの‥‥? それとも)
我羅斑鮫(ea4266)もノエルに興味を抱くひとりであった。もっとも興味があるのは、なぜジャパン語も堪能に話せるのか?
「ジャパン語がえらく流暢だな。ジャパン人と関わりがあったのか? 怪盗にあの時代にはジャパン人が来ていたと言っていたが、その所縁か?」
「ジャパンの人が来ていたんですか? そう言えば、鬼十郎さんもジャパンの人ですし、妙に多いな、って思っていたのですけれど? ジャパンの人って、イギリスから月道を通ってくるしかないんじゃないんですか?」
心底不思議そうに目をくりくりとさせて、ノエルは斑鮫の言葉に答える。
「十年前の事件も、百何十年か前の事件も知らないのか? 確かに鬼十郎の調べが正しければそうなるか‥‥ずっと、あの洞窟の底で封じ続けられればな」
と、そこで斑鮫は神聖ローマがノルマンを占領し、それをジャパンとイギリスが協力して解放したという話を伝えようとしたが、ジィの方がさすがにそういった知識に詳しく、ノアとそういった話題に関して、レクチュアした。
「それでも、何があっても人と人が傷つけあうのは悲しいものです」
ノエルが感想を締めくくる。
そして、一同は冒険の旅に出る事になった。
道中、トラブルとして、何人かが行きに3日という数字を考え違いして、帰りの分を忘れるアクシデントがあったが、そこでノエルは再び、クリエイトハンドの魔法で、飢えた者にそれを施す。
鬼十郎はいざという時、ノエルの治療に使う魔力の浪費を防ぐべく、ポーションを持参していたが、少年の力がこういった形で消費されていくのを、ただ見るだけであった。
「なーんか、あんたも石になったり雑用になったり大変だねぇ‥‥」
五十嵐ふう(ea6128)が甲斐甲斐しく働くノエルを見て評する。
「石になったのは判りませんけど、人の役に立てるのは嬉しい事ですから」
「そうかねぇ、周りの奴等に振り回されてばっかりじゃあ、つまんねえだろ? たまにはあんたの方からかき回してやらねえとな、ヒヒッ」
自立をふうは促した。
口から先に生まれてきたエルフ、レティシア・ヴェリルレット(ea4739)曰く。
「てか、俺は植物毒系統しか判らねぇけどな。
まぁ‥‥…使われた場合な。毒矢の毒と決まったわけじゃねぇんだろ?
剣に塗られてたとか華国の‥‥アレとも限らねぇわけだし。
どうせなら失敗したって奴の死体見ときたかったとこだが、無理か。もう、とっくに埋められているか」
言うことは物騒だが、射手と植物毒の腕に関してはパリでも定評がある男である。
だが、お喋りしている内に、カレン・シュタット(ea4426)が敵陣を発見した。
吊橋の手前に布陣している。
ノアは相手をスモークフィールドで霍乱してからの策を考えていたが、あまりの間合いの遠さに近づく段階で矢襖になる事が確定したので、諦めて、皆の武具に炎の精霊力を纏わせる事に専念した。
控える敵はジャイアントとしても規格外のラージクレイモアとプレートアーマーに身を包んだ巨体。それに2名の戦士が従い、如何にも武闘家風の、片手に包帯を巻いた男。そして後方には弓を持った十数名のレンジャーらしき連中が、ローブに身を包んだ影を囲むように控えていた。
そして、そのレンジャーが何やら巻物を取り出して、淡い茶色の光に包まれ、前衛の3人に術を付与している。
「スクロールに特化しているレンジャーか、しかもこちらのロングボウを見ると、遠距離からの狙撃に備えるとは──役割分担も相応と見た」
更にジャイアントもピンクの淡い光を纏う。前回よりは人数が多く、また手ごわいと見たのだろう。
「よ〜動く! 馬鹿と冗談が総動員だわ、感心するよ」
ふうが相手を見ると、逆に余計饒舌になる。
一方、クオン・レイウイング(ea0714)が相手に先手を打たれた事に衝撃を隠せないが、相手の得物がショートボウである事を見切ると、即座にこれ以上のスクロールの行使を止めさせるべく、ロングボウの弦に矢3本、急ぎ番えた。
狙い済ました一撃がウィザードに向けて放たれる。だが、ウィザードは一瞬の内に魔力を紡ぎ挙げ、爆風で矢をまとめて破壊した。
「ち、こちらの矢が尽きるのが先か、相手の魔力が尽きるのが早いかの勝負だ!」
一方、風烈(ea1587)は畳ほどの大きさのあるなめし革を巻いた木の板を盾代わりにして、矢への対策として前進を試みるが、何にせよ重い。動きも制限される一方で、相手は逆に複数方向から矢を射込む。人数が相応あってならではの戦法である。逆に回避という長所を殺し、一方的に矢を鋳込まれる形となる烈であったが、そこへ、ノエルが駆け込もうとする。
「止めてください、何も争う事は──」
「来るな! ノエル」
烈の声にノエルは一瞬で、不可視の壁を形成する。
「毒矢らしいな」
蹲って結界の中で矢を抜く烈。
血が滴り落ちる。
「待ってください、毒を取り払います。試し続ければ、毒は消えます──だから」
その横で激しい剣と刀がぶつかり合う音がした。
ノアの精霊力によって炎と燃える鬼十郎の刃が敵の戦士と鋼を交える音である。
烈は苦笑いする。
「やれやれ、あのかすてーら好きの武闘家だったら一度拳を交えてみたかったが」
「血が‥‥」
「奴が来る本気で‥‥な」
右手の包帯を振り払い、どす黒く変色した巳の奥義を会得した証を見て、烈は血が滾るのを感じた。結界から自然足が出る。
「我が名は爆裂旋風、闇を吹き飛ばす旋風だ」
「ほう、あのパリでも実力派と名を聞く」
烈は鳥爪撃を相手に見切られなければ、かなり分が良くなる賭けに出た。
見切られたら、それは己の命という最も高価な代償を支払うだけだ。
一瞬の見切り、相手が毒手を閃かせる直前に大鵬は羽ばたいた。
その蹴りの一撃は重く、相手の肋骨をへし折る音がした。
「さすが──見切れなんだ。だが、こちらも生きている」
言って、飛び掛る巳の武闘家。
足裁きで相手の動きを惑わす烈であったが、相手の力量は別格であった。深手を負っているにもかかわらず、自分の動きがスローに見える。
一撃を浴びた烈は苦痛よりも体の感覚が麻痺していく恐怖に怯え倒れ伏した。
「今、楽にしてやる」
と歩み寄る。
「そうはさせませぬぞ」
ジィが鞭を振るうが、ことごとくかわされる。
「むう、やはり実力の差ですかな、ですが引く訳には──」
「よーし、あたしは『アチョーとやってくる』奴と戦ってみてえな! 前回はいいトコ無しだったから、今回こそ暴れてやらぁ!」
と、ふうが意気込んだ所へ、レティシアの毒矢が武闘家の背中に突き刺さる。
「‥‥毒殺。
まったく。人の趣味を取らないでくれよ。ちくしょう。
まあ、いいか。同じ趣味の奴がいるってこたぁ、楽しいもんなぁ」
「みんな頑張って、もう少しよ!」
アルルが雷撃を敵の首魁と思われる重装備のジャイアントに向かって放とうとするが、躊躇する。ウィザードの常識として、風の属性は、地の属性に弱い。しかも他人に付与できるほどの強力な地の精霊力である。
気持ちを切り替えて、レンジャー達の方に向かって放つ。算を乱す相手に追い討ちをかけるクオン。
ついに相手も矢を打ち落とす魔力が突き、3本の矢が続けざまにあたり、命を落としたのだ。
敵の首魁を狙い撃ちしようにも魔力で防御されている以上、戦いは前衛に委ねられた。
そこへ敵のボスの護衛を打ち払おうとして苦戦するふうの姿があった。
「刻むぜ、剣のビートッ!」
異国情緒とも前衛的過ぎるとも取れる舞を踊るかの様に刀を振るうが、苦戦は免れない。
一方、アルルにストーンアーマーの魔法を付与してもらおうとしたが、彼女のレベルでは自分にしか効力が及ばず、護身の為、後衛でもスクロールを使わせて、安全を確保してから飛び込んだレイリー。
「新たなる斧牙を貴様らの心と体に刻みこめ!」
しかし、斧の力は、決定打とはならず、ふうの手助けで、ようやく相手の手数を押さえて勝利する。
「どこ見てんだ、あんたの相手はこっちだぜ」
当然、空いたふたりは鬼十郎の所へ助勢に入り、今度は圧倒的な戦力差で敵の護衛団を叩きのめした。
「友には手出しさせん!」
レイリーはを睥睨する。
一方、他のことは深く考えない。なぜならばそれがコナン流だからだ、と。グラン・バク(ea5229)が、清々しいまでのコナン流的な生き方を見せる。
「ルーク!? あの地味で目立たない流派の代表選手。しかも重装備過ぎてガード使えねーし、選択ミスじゃねぇか。あ、だから、魔法使っているのか?」
最後はコナン流らしく雄叫びをあげて飛びかかる。
だが、魔法をプラスした事で、相手はカウンターに切り替えた様であった。
鋼と鋼、そして岩の砕ける凄まじい音が響き渡る。
互いに血を吐いたが、相手が魔法を加わった分有利になった。
「畜生、エリックめ何が聖なる母の加護だ。もうちょい、マシな加護しやがれ」
しかし、その負傷もイワノフ・クリームリン(ea5753)にとっては、絶好のチャンスであった。メタルロッドがうなりをあげる。
ひとつの難点があった。首魁の使っていた魔法は、オーラ魔法の奥義とも言うべき技、オーラマックスであった。切り返しはまだ来る。
──その刹那、首魁の場所がずれ、吊り橋の前が空いた。
その間隙を縫って城戸烽火(ea5601)は闘気を練り上げ前進を煙に包ませると、微塵隠れの術で吊り橋を突破する。
彼女が手にしているものは言わずとも知れた、智天使の掌であった。
それを見送ったイワノフの一打も首魁はカウンターで返す。
「何!」
相手の武器も落とせず、意表を突かれても、そこは堅実なエンペラン。取り乱したりはせず、ギリギリで急所をそらす。
大降りで危うく命を落とす所であったが。それでも両脚で立つ。
だが、レンジャー達はジャイアントが倒れ伏したのを見て、今度こそ完全に算を乱して逃げ出した、ジャイアントの装備は剥ぎ取られ、イワノフとグランがエチゴヤの買取値段を一同に支払う事で話がつき、レンジャーやファイターの落としていった装備も矢を除きエチゴヤに引き取らせ、一同で山分けにする事になった。
ストーンアーマーの巻物も一本手に入り、これはアルルに渡される事になった。
「やはり、あなたでしたか」
ルノルマンの館に着き、応接間に通された一同の内、ジィはルノルマンの正体を予想通りだった事に気がついた。
『怪盗』である。
「余程、縁があるようだね」
「この『掌』を運び込ませたのは、偶然だと?」
「二番目の冒険者を期待するほど、無計画ではない。それなら最初から名指しで依頼していたよ」
「そもそも、何のため『天使』の品を集めるのです? ノエルを利用するつもりなら、渡しませぬぞ」
「ああ、封じられていた『魔王の糧』だね。この件に関しては、私はギルドの報告書を読むまで、何も情報は得られなかった。
前にも言ったかな? 魔王の糧の場所を知っていれば、最初からニュートラルマジックが使える神聖魔法の使い手を連れて行けば済む事だと。私も魔王の糧は破壊すべきだと思っていたよ。
神聖ローマの様な行き過ぎた所では反動がままあるだろうからね。
私が聞いている情報は天使の位階全ての品を集めれば、魔王の糧を解放できる、と。
まだ、解放が不完全なのだろう、天使の位階の品が全部そろっていない以上は」
そして怪盗は切り出した。怪盗は以前、残りの全ての品をそろえており、ノルマン各地に隠していた。しかし、ノルマンを離れて十年、どのようになったかは判らない。
それを探し出し、回収するのも、ノエルの処遇も君たちに任せようと。
「場所は追って、冒険者ギルドの依頼という形で伝える、資料を洗いなおさなければならないからね」
これが新たな冒険の始まりであろう。
「ノエル君と言ったね? 君は何がしたい?」
怪盗は微笑んで尋ねた。
「僕は僕の事を知りたいです」