●リプレイ本文
クオン・レイウイング(ea0714)は焦っていた。
彼の弓の達者としてパリに知れ渡る腕前の為、百合十字の面々が城の鎧窓を閉め切り、窓際には寄ってこないのだ。
考えもなく突入すれば、狭い回廊の中で混戦になる中、味方に流れ矢を撃ち込んでしまう可能性がある。
「そうそううまくはいかないものだな──相手がいつまで籠城するか──」
音無藤丸(ea7755)は城戸烽火(ea5601)とその恋人である我羅斑鮫(ea4266)に薫陶を述べる。
「我羅様、わかっていますね。本来拙者達は集団戦闘が主体だという事も。1個の能力が高いのは便利ですが、相手の力量が高い戦いは常にあります。最後にものをいうのは負けない生きるという意志が事の最後を決めます。
今回は確実に必要なのが連携、まず1人では近寄る事も出来ないでしょう。正面きっての戦いではお話になりません、我羅様、拙者達の連携はどうなさるつもりか? 貴方はいずれ跡を継ぐのです。拙者と烽火様の命──お預けします」
対して斑鮫も返す。
「戦闘でどうしても避けたい相手は『天蔵』『駆竜』『粋蘭』。他のどの相手も危険だが隙のない相手、同質の戦闘ではどうしてもレベル差が大きくでてしまう。
狙うなら騎士や他の夜鳴き鳥『十六夜』『赤吉』がいいんだが、格の差はきついな、あれで行くか烽火?」
烽火は応じて曰く。
「戦術『闇霞』で組みます」
藤丸は深く頷いた。。
「なるほど、拙者がこの闇霞編成では決め札となりましょう」
「闇だか、何だか知らないけど、その話乗ったぞ!」
五十嵐ふう(ea6128)が身を乗り出す。
「私もオーラで些かながらお手伝いさせて頂きます」
セシリア・カータ(ea1643)も、オーラ魔法で準備万端。
更に、ノア・キャラット(ea4340)が唱えたバーニングソードの魔法と、オーラが共に輝く。
(ノエル君の本当の居場所に戻る為です、寂しいけど、最後まで付き合いますわ♪)
「では、参ります──大気に宿りし精霊たちよ! 炎を成りて我に力を与えよ! 爆風と化し、ナイトは蹴散らせ! ファイヤーボム」
幸いにも相手は油断しているらしく、烽火はノアと半呼吸ずらして、唱えた微塵隠れで一気に突入する。
浮き足だった所へ瞬時に突入する藤丸。
「全力でいきます」
セシリアは呟き、ロングソードを抜き放ち、ミドルシールドを前に出す。
城門付近で、ナイト達は武器を取ろうとするが、爆風が吹き荒た。カレン・シュタット(ea4426)の雷撃が射抜いた瞬間、激痛が彼らの痛覚を支配する。
次の瞬間、結印と終了と共に、煙に包まれた烽火から甘い春の薫りを想わせる花の匂いが漂う。
春花の術である。
普通のナイトは闘気を鍛えている傾向の為、効果が薄い術ではあるが、攻撃魔法の雨あられ後では、眠りにつく者も出てくる。
そこへセシリアと斑鮫、春花の術に巻き込まれないよう、少し距離を置いていた藤丸、烽火が殺到し、逃げられて後門の虎となるのを恐れて、全員を舜殺する。
やや遅れて、五十嵐ふうが起きているナイトに全身をフルに使い、狂った舞いの如き動きで、攻撃をかけながら。
「合図させる暇なんかあたえないよ、ここはあたいが引き受けた! ──ナイトの下っ端ども、あんたら弱いんだよ、手加減してやろっか?」
「ふう、どけ!」
ふうが1テンポずらして間合いを取ると、そこにブルー・フォーレス(ea3233)とクオンが、矢を豪雨の如く降り注がせる。
死神と疫病神のお通りである。
百合十字のナイト達の死期が更に近くなる。
行動不能になった彼らの脇をすり抜け、通用扉をぶちこわし、内部に潜入する一同。
続く回廊。
混乱を招くべく、ノアは呪文を唱える。
「大気に宿りし精霊たちよ、煙と成りて敵の視界を遮断せよ! スモークフィールド!」
そこに、アルル・ベルティーノ(ea4470)は入念に呪文の準備をし──。
「スモークフィールドの中クリエイトエアーを、敵の集まって来そうな所に複数作りました」
その中に、ファイヤーボムを撃って貰い爆発力UPさせ敵を倒すつもりだ。
「ノアさん準備完了です、あの空気の渦に撃って下さい!」
そう言いながらもライトニングサンダーボルトでの牽制は忘れない。
だが指差されても、ノアには魔法の煙の中ではさっぱり判らない。
とりあえず、彼女はファイヤーボムの中に呪文を唱える。
「大気に宿りし精霊たちよ! 炎を成りて我に力を与えよ! 火球と化し邪魔する敵を蹴散らせ! ファイヤーボム」
威力は変わらなかった。ファイヤーボムはあくまでも爆風発生の魔法である。
とりあえず、スモークフィールドを、進行方向の左右に発生させ、敵の視界から仲間を保護し、城内へと向かう一同。突撃する先鋒は割波戸黒兵衛(ea4778)の創造した『ガマ助』である。
その一撃が、潜んでいた智丸を体格差で弾き飛ばし行動不能にする。
「スモークフィールドで敵の視界を遮断します、その隙に城門へ向かってください」
そこへ、空中から滑り降りる影、甲斐人、いや『怪盗3世』である。志士の『大介』と浪人の『五右衛門』は一同に続いた。
大介はノルマン風の風体。かたや、五右衛門は白木の柄に鞘を落とし差しにした、ジャパン風の出で立ちである。いずれも少年。
来たか、とブルーが微妙な表情を浮かべる。
怪盗3世は空を舞い、早速天守閣に飛び込もうとするが、巨体が現れる『焼消』であった。尽黒い淡い光が点った次の瞬間、魔法が解除され、天守閣寸前の所で術を止められる。
ギリギリの体術で怪盗3世が城壁にしがみつく。
幸い相手はジャイアント、なにかと大振りになる動きの鈍さで、焼尽が向きなおるより先に、怪盗3世は天守閣の中に飛び込んだ。
互いの間合いに進入したのはほぼ同時なタイミングとなり、焼尽の長巻きと怪盗の小太刀刃が交えられた。
一方で、一同は天守閣の回廊を固まって進んでいく。今度の回廊は場内より狭い。カノンの危惧は当たっていた。黒兵衛は泣く泣く、ガマ助に別れを告げる。
ガマ助は黙って命令に服従した。
トリッキーな濡純に濡瑠への対策もあるが、それは大介が引き受けるとの事。志士は志士同士で戦うという事だろうが、ふうも参戦しようとするが──。
「ここは拙者に任せてもらおう、助太刀は不要」
ジィ・ジ(ea3484)は五右衛門の言葉に対し、制止の言葉を向けたが、少年は敢えてタイマンを望む。
「死に急ぎはよくありませんぞ、生きてくだされ」
「その前に、相手がどこにいるかだ」
回廊が開け、広間になっている。そこに幾つかの扉があった。上に続く、階段は見当たらない。ジィが困惑を切り出そうとすると、風烈(ea1587)がドアのプレートを示す。夜鳴き鳥のそれぞれの名前が『漢字』でプレートに書いてあった。
「大丈夫でしょうか?」
と不安げなノエルに烈は頭を揉みくしゃにして笑い。
「それも変わらないな。だが、久しぶりだ、鍛錬によって微力ながら強くなって帰ってきた。また、よろしく頼む」
「ひょっとして、ヘインツ男爵の所にたどり着ける階段があるのでは?」
と、やや塞ぎ込み勝ちになっていたノエルが口を開く。
黒兵衛の言い分は。
「もう戦いたい相手は決まっているのだから、それに向かって進むしかないろう」
という事であった。
それに数人が2、3部屋に分割しても、残りのメンツが後ろから挟撃してくる。
中途半端な人数で各個撃破されるよりはマシだろう。
方針が決まると、一同はタイミングを合わせて魔法を発動させて、誰かひとりが魔法の使用時間が切れないようにする。
バックアップも含めた作戦案を出し、決定すると、各々の武具が炎とオーラに包み込まれ、破壊力を増大される。
アルルもスクロールからのクレイアーマーで自分の身の安全は確保する。
その間にも、濡瑠の部屋からは扉を突き破り、黒い線が伸びてくる。壁の一部が砕け落ちた。
だが、それを打ち消すような、吹雪が吹き荒れる。
「‥‥やってるな大介」
『天蔵』の元へは、クオン、マリウス・ドゥースウィント(ea1681)、黒兵衛が向かう。
「ご助力させて下さい、癒しだけでも力になれます」
『十六夜』と相対するはノアとノエル。
『駆竜』に挑むはブルー、ジィ、イワノフ・クリームリン(ea5753)の3人。
まだ若いと言い張れる年齢女僧兵『粋蘭』には烈とアルルのコンビ。
ナイトを無力化してきた斑鮫、藤丸、烽火は赤吉に向かう。
「大気に宿りし精霊たちよ、炎と成りて武器に集い焔の力を開放せよ! バーニングソード!」
あえてかけておかなかった3人の得物に、ノアがバーニングソードの呪文を力を込めて付与する。
ともあれ、呪文の切れる前に戦いあるのみであった。
悠然とジャイアントの赤吉は佇んでいた。
「来ると判っているのは当然の様だな」
「あれだけ爆発音がすればね。それに分身の術は仲間ので見慣れている」
斑鮫とその一行がたどり着いた赤吉は、以前見たとおりの巨漢であった。文字通り物干し竿の様な僅かに反った野太刀を手にして、臨戦態勢で臨んでいる。
藤丸の分身の術にも、どれを本物と思うような、戸惑いがない。
戦い慣れているのだろう。ジャパン人なら忍者相手の対戦経験があっても不思議ではない。
「さて、ここで同郷の者と遇うとは思っていなかったが」
言いざまに野太刀を袈裟懸けに斬りかかる。目標は藤丸。受けもかわすもままならず、返しの切り上げる一撃──藤丸は倒れ伏す。
佐々木流の大技『燕返し』である。
「まさか──冒険者ギルドで達人級の腕を持つ者を、募集していると聞いたのでな、多少は期待していたが」
酷薄な視線で残るふたりを見る。
「男、女、どちらが先に斬られたい」
いかにもつまらなげな声に、藤丸は辛うじて立ち上がる。
「グレタが魔法で士気を向上させ、聖なる母の加護があり、更に疾走の術を加えていなければ、返しの一打を浴びていた所だ。技に頼りすぎだ」
にやりと笑うが、それ以上に動けない藤丸。
こうして斑鮫が虚勢を張っているが、ふたりが反撃の糸口を見つけてくれるのを待っていたのだ。
そこへ斑鮫が素人同様の鞭を放つが、軽々と見切られる。
そこへ逆襲。燕返しを上段からの一撃と、下段からの返しを受けきれず、避けきれず倒れ伏す。
しかし、その間にも、烽火が印を組み、煙に包まれた彼女の周囲から、周囲に仄かな花の香りが漂う。
抗いきれない者は眠りについていった。
「こうなったら、破れかぶれです。我羅様。どうか、生き延びて下さい‥‥」
狭い空間で春花の術を使ったため、自分も巻き込んでの忍法。辛うじて立っていたのは烽火だけであった。迷わず、赤吉に止めを刺す。
「ノエル君でも治せる‥‥?」
少年の魔法の腕を以てしても、今までの状態ではヒーリングポーションが必要だろう。
「我羅さま‥‥」
ノエルが無事生還する事を彼女は祈るのみであった。
「む、このインフラヴィジョンでも分身の術の熱量はわかりませぬ。申し訳ありませんが、全面対決とならざるを得ない様でございます」
陸奥流の忍者『駆竜』と、その2体の分身、合計3体を前に、ジィは東洋の神秘に驚かされた。
「ならば、全部砕ききりましょう‥‥戦いは苦手ですが、私が選んだ戦いです」
ブルーが片手でボーラを同時に振り回しながら宣言する。
しかし、弓では今回の仲間の誰に引けを取らない彼も、放ったボーラは全て影も掠らない。
ラックスの矢もかわす。これはオフシフトで見切られたが。疾走の術も使っているのだろう。
この分身の術は自分そっくりの闘気を放出しつつも、、自身も高速移動するというものであり、居場所は常に変動し続ける。攻めの忍法なのだ。
故にジィが鞭でなぎ払っても、位置はすぐに入れ替わる。
相手をまとめて吹き飛ばす様な魔法でも無ければ、掃討できるものではない。
もっとも打撃を受けても、消滅するわけではないが。
そこでイワノフが取った策は、オーラボディで防御を固めた上での急所をギリギリで回避し、相手を巻き込んだ上でのカウンターであった。相手が間合いを侵略すると同時に身構える。
予想より疾い攻撃。
金的を蹴り上げるえげつない攻撃を敢えて受け、そこは闘気の守りで何とかやり過ごし、反撃の一打を繰り出す。メタルロッドの暴風に、相手はオフシフトを行使する。
間合いに進入され、十分にロッドを振るえない。相手の力の差を見くびっていたようだ。だが、ブルーの放った、仲間を巻き込んでも構わない、という気迫の最後のボーラが駆竜を絡め取る。これで動きが半減したところで、ブルーが改めて弓を出し、矢襖にする。
駆竜は数の力の前に敗北した。また、この部屋を調べると、上に続く階段が隠されている事を確認した。
一方、ノア対十六夜の方は楽勝といえた。部屋に入ると、ノエルがホーリーフィールドを展開し、そこからファイヤーボムを連打していれば勝てる。出口際に壊されても、壊されても、ノエルはホーリーフィールドを展開し続け、そこからノアがファイヤーボムを撃ち込むのだ。
瀕死になった十六夜を、ノエルはそれでも手当をしようとする。
「ノエルさん優しすぎます。天使でなくても、あっても。それはきっと命取りになりますよ」
「それで命を落とすなら仕方在りません。でも、小鳥の一羽でも僕を必要としてくれる人がいれば、生きていたいです」
だが、応急手当の甲斐無く、十六夜は命を落とした。
そして、魔力もほぼ同時に尽きる。
ふたりは皆のソルフの実で魔力を回復したが、全回復にはほど遠い。特にノエルの魔力はキャパシティの高さの為、中々満たないようであった。
同時刻、如何にも本命そうな部屋に踏み込むグループ。
「おあつらえ向きに天井の高い部屋だな」
天蔵の殺風景な部屋の内装に、不敵な笑みをクオンは浮かべた。
「飛び道具とは卑怯な‥‥」
と天蔵は苦笑いを浮かべる。
「ではこちらがお相手を‥‥」
オーラの盾、オーラに燃える士気、更に全身をオーラに鎧い、マリウスは前進した。
清十郎も、あるだけの業を衝撃波に乗せて飛ばすが、逆に業に振り回されて、軽くよけられてしまう。
微妙な間合いでの激しい撃ち合いが幾十度と繰り返される。
しかし、やってやる! そう感じたマリウスの攻防は、天蔵が全体重をかけて、マリウスをシールドごと押し倒そうとする。抵抗したが適わず押し倒される。
だが、乱戦であればそれもよかっただろうが、天蔵の背中に生暖かい衝撃と、突き刺す痛みが交互に襲う。
クオンの放った肋の隙間を貫通する精密な一打と、改めて作り出されたガマ助の舌による殴打であった。
「甘いな、ひとりで3人を相手に出来ると思った、お前の敗北だ」
クオンが言い捨てる。しかし、天蔵の耳にその言葉は届いていなかった。
「そして、冥土の土産に覚えておけ。お前の魂を刈り取った死神の名を‥‥黒衣の狙撃手の名をな」
これはバーストアタックでは破壊できないシールドで防御に徹した、マリウスの勝利でもあった。
しかし、撃ち合いでの傷も深く、治療用のポーションを2本立て続けに呑んだ。
かたや、敗退したのは烈とアルルである。
肝心の前衛の烈がいきなり奥義鳥爪撃を決めようとするが、見切った粋蘭のカウンターの関節技で脚をグダグダにされ、反撃しようとすればカウンターで返されて、両手を掴まれ、受け身もならないまま、石の床に叩きつけられる。当人の頼みに綱であったはずの体術ですら相手が圧倒しており、始終ペースを取られっぱなしだったのだ。
アルルの魔法のフォローが無ければ、とうに死んでいただろう。
彼女にしても、最初のうちこそ──。
「倒せなくったって隙位、作って見せますわ!」
等のエールや。
「烈さん今です、決めちゃえ〜!」
と叫んでいたが、ムーンアローはかすり傷に過ぎず、抵抗されれば傷にもならない。
それ以上にダメージを与える事は出来ず、魔力の消耗も激しい為、ライトニングサンダーボルトに切り替えようとしたが、粋蘭は列を巻き込む位置を取って、撃たせない。
「戦い──慣れている?」
アルルの呪文でフォローするにも限度があり、撤退を余儀なくされた。
烈の攻めに関する方向性があまりにも弱すぎたのが敗因である。
かといって、アルルだけで来れば、魔法を唱える暇もなく秒殺されていただろう。
ともあれ、アルルは烈を引きずり部屋を出た。
ポーションを二杯のみつつ、傷を癒やす。皆の体勢を万全にする為、かなりの量のポーションが消費された。
だが、駆竜のいた部屋で上に続く階段を発見した事と、ナイトと戦っていた面々が相手を殲滅した事を確認すると、一同は送り狼の危険にイワノフを後ろにつけて階段を昇っていくのであった。
そこをいち早く昇る漣渚が、上階で倒れていた怪盗3世を抱き上げる。視界の隅に倒れている焼尽に勝ったものの、意識は失ったらしい。
そして、そこには左腕に小太刀が突き刺さり、如何にも焦燥したヘインツが、最後の位階アイテムである紫水晶に彩られた鞘『能天使の狭間』を抱きかかえている。
「ここまで来たのか、ついに私もおしまいだ。貴様等などに、いや私以外の誰であろうと位階アイテムを全てそろえさせる事など、認めはしない」
そこに甘く清んだ囁きが聞こえ、ヘインツの動きを止めた。
ノエルのコアギュレイトである。
「嫉妬の大罪で自分を汚すのは止めて下さい。聖なる母と、大いなる父が見守り給いし魂です。いたずらに扱わないで」
その声に一同が振り向くとノエルがいた。背中からは、目映くも白い翼を生やしている。
イワノフは視界が唐突に純白の翼に被われて困惑している。
更に後ろから現れる、怪盗3世の親友一味。深手を負っているが、魔力の尽きかかったノエルにはいかんともし難いだろう。
「すみません、長いこと皆さんに迷惑をかけて。僕が封じられていた時間に、どれだけの人々が救えたか」
詫びるように皆に述べるノエル。
「ヘインツさんは今、魔法で動きを封じています。どうかナイトに引き渡して下さい。
9つの位階アイテムアイテムがそろう事で僕の帰り道が判る筈です」
ノエルが残り少ない魔力で、ホーリーライトの魔法を唱えると、九つの位階アイテムのそれぞれ、今まで地図だと思った部分が組み合わされると、幾つかの文章になっている事が判る。
カレンが目をこらす。
「これは古代魔法語?」
途端にニュートラルマジックでホーリーライトを打ち消すノエル。
「皆さん、この位階アイテム全てをそろえる得られる情報は、今の人間には危険な知識です。お見せするわけにいかないのです。
でも、そうした記憶を取り戻した今でも僕はノエルです。皆さんと一緒に旅をしたり、笑ったりした、あのノエルです。それは変わりません。
でも、僕は最下位の天使、ロー・エンジェルでもあります。
この位階アイテムは人の知られぬように、どこかに分散して封印します」
「ではノエル殿は天界に帰られるのでしょうね、やはり」
ジィが一同の意見を代弁するように、語りかける。
そして別れの儀式が始まった。
「ノエル、故郷でも元気でな」
クオンが肩を叩く。
「はい、セーラ様の加護ある限り、病気はしませんから、セーラ様の加護を受け続けられるよう頑張ります」
「良い返事だ」
烈は静かに──
「俺はノエルの役に立てたかな? 俺でよければ、一声かけてくれればいつでも力を借そう」
ノエルはじんわりと涙を滲ませる。
「相手が困っていたら力を貸す、それが仲間というものだろ。いつかまたお互いが歩む道が交差するその日まで、再見、ノエル」
と、烈は頬笑みで返した。
「これで決着がつくといいんですけどね」
というもの悲しげなセシリアの問いには、ノエルは悲しげに微笑み、3神の御心は僕には判りませんと告げる。
「でも、人間が己の想いで堕落する事も、黒の教えの様に神の後継者ともなれる存在です。道を選べないおもちゃの人形ではなく、自らの意志で立ってどこにでも歩ける。だから、すばらしいと思います」
一方、マリウスは整然と。
「ノエルを元の場所に返すために、百合十字を打ち砕いたのだ。
自分が判らない天使が地上に居続けるのは良くない事だ。それは人も同じだが。天に戻る事で自分を見つけられればいい。
自らの使命がおろそかになって、悪戯に放浪する天使の力は人を魅了させ、自らのものにしたがる。結社を倒しても、また似たような事件に巻き込まれるだろう。
この2つの理由でノエルは天に帰るべきだ」
些か悲しげに述べる。
「悲しいけど、それが現実なんですよね。でも、人々はそれを超えていけると想います。天使はそのお手伝いをするだけですから。そして、今に天使の出番がいらなくなるでしょうね。きっと、そう願いたいです」
かつてノエルに矢を向けたブルーは、照れたような、笑みを浮かべながら、
「怪盗はよろこんでいるでしょうか? そしてあの時、私の弓から身を挺してノエルを守ったあの女も‥‥」
「あの方は、どうしているんでしょうか? 僕はあの人に姉のように、母親の様に接してもらったのに‥‥怪盗の魂はきっと安らいでいるでしょう。そう思います」
「じゃあ──な。ところで、これからも怪盗を続けるようなら、かならず捕まえて見せますからね」
と怪盗3世達に宣告する。
「捕まらないよ。でも、その割には共闘したじゃない?」
「馴れ合いはしませんよ」
『再見』
ジィは囁いた。
「私には判らない言葉ですが、烈さまの真似でございます。
あなたなら、きっと意味が判るでしょう。
使い古しですが‥‥」
と、十字架のネックレスをノエルに渡す。
「この歳ですから。そのうちまたお会いできるでしょう」
握手して頭なでて。
「ありがとう、さようなら」
「僕の方も、養子の事を断ってご免なさい、きっと無意識では判っていたんです。自分の母親はセーラ神ただ一柱だと」
泣くノエルに斑鮫が声をかける。
「これで、全てが揃った。お前が本当に翼を生やしたのは驚いた。だがな、たとえお前が本当に天使であって、天に昇ろうと忘れないでくれ、お前の為にと言うか、力を貸した怪盗に、そして何者であろうと俺達は仲間だ」
「ええ、こうして巡り会えたのは 偶然ですけど、こんなに素晴らしい偶然はないですから」
ノアは泣きじゃくる。
「これで本当にお別れなのですね!
さみしくなります! あなたのことは一生忘れないから‥‥」
滂沱しながらノエルも応える。
「ひょっとしたら、会えるかも知れません。それはとんでもない吉報か、凶報かは判りません」
本当の事を言えば、本当の弟の様に感じ暇を見て世話を焼いていただけに情が移っている。
アルルもこみ上げる感情を抑えつつ。
「初めはハラハラする事もあったけど‥‥」
と、呟き出す。
「上手く言えないけどこれだけは言えるわ、ノエル君が人じゃなくても仲間だからね」
天に向け、ノエルの体が浮いた時、烽火は飛び付き。
「ノエル様、お願いがございます。もしこの地を離れるなら、連絡を下さいね、どこに居ても、必ず駆けつけますからね」
と微笑を浮かべる烽火につられて、にっこりと笑うノエル。
「いつか、また遇う事もあるだろう」
と後ろを向いてイワノフ。
「怪盗の敵討ち、あれで良かったのだろうか?」
「判りません。その返答は人間が出すべきです」
そんな光景でも、ふうは前向きに。
「天使様を助けたってんなら、あの世での生活は安泰かな? ‥‥なんてな、じゃーな、ノエル! 元気でやれよっ」
さすがに羽の生えた背中を叩くわけにはいかず、目の高さになった肩をはたく。
藤丸は神妙に。
「ノエル殿、貴方は目覚めてからめまぐるしい流れにあって幸せですか? これから、更に幸せであって欲しい。拙者は若と同じく、貴方にも幸せになって欲しい、若には忍びとしての道しかないのですが‥‥ね」
「判りません。人の運命は自らの決断次第で転がります。どうか藤丸さんの想いが、斑鮫さんを撓めないように」
ノエルも真摯に応える。
「それでは、みなさん。僕の覚醒につきあって頂きありがとうございました。今度、僕が来る時は、吉報を持ってやってくる様、祈って下さい」
すると空から一条の光が伸びてノエルを包み込む。
それを見た瞬間、スクロールを広げアルルはレビテーションの魔法を発動させ、追従する。
そして、その光に吸い上げられるかの様にノエルは昇天していく。
「ノエル君、いままでありがとう」
アルルの我慢していた涙がこぼれる。
悲しみの涙ではなく、逞しく旅立とうとしている、弟の様なノエルが誇らしかった。
戸惑うノエルの鼻をツンっと弾くとアルルは皆の意志を代表して。
「みんなの事忘れないでね、これからも頑張るんだぞ」
笑顔で離れ、手を振る
「あ、それとコレ」
ジィに頼まれていた魔法少女のローブを渡す。
その意匠を見たノエルは目を丸くして。
「こ、これをどうしろ、と?」
「くすす」
最終的にヘインツは騎士団が捕まったが、濡瑠と、理介、そして粋蘭は逃走した。。
官憲に捕まるまいと、姿をくらました怪盗3世一行から、最後に矢、ポーション、食事などは必要経費として怪盗3世が、シフール郵便で消費した分を現物支給で一同に贈られてきた。怪盗3世は現在行方不明。
「プラスマイナスゼロと、ほんの少しか」
さて、ノエルの奴を心配させないよう、黒衣の狙撃手として、励まないとな」
クオンが笑うと、一同は新たな明日に想いを馳せるのであった。
これが、天使の目覚めて帰りし物語の顛末である。