●リプレイ本文
「やってくれるな‥‥犬鬼‥‥」
城壁の端々に除く犬耳を見て、北道京太郎(ea3124)が押し殺した様な呟きを漏らす。
コボルトに占領された村に潜入しようとする、オルステッド・ブライオン(ea2449)曰く──。
「よく考えたら、どこに人質がいるか厳密には解ってないような‥‥急だが、人質探しの為、手分けして探し回る必要がないか?」
オルステッドは彼と、強敵と書いて友と呼ぶ関係の女傑、フェリシア・ティール(ea4284)に向かい、笑みを浮かべ。
「さて、この間の見事な腕前、また拝見するとしようか」
「ええ。子供と女の子が人質に‥‥? 殺される前になんとしても助け出しましょう」
黒いローブに棘つきの鞭という退廃的な格好の彼女は臆することもなく、九紋竜桃化(ea8553)に向かい。
「陽動班との連携が非常に大切な作戦だと考えているわ、陽動班の負けはこちらの敗北を意味するのよ、命預けたわよ」
「委細承知。東洋の兵法の粋を見せてご覧に入れます。とはいえ、戦はまだ前哨戦、此処で被害を出すわけには、行きませんわ、指揮は守衛ですわね」
「いいえ、良策があります」
ヴィーヴィル・アイゼン(ea4582)が提案を出すのに、桃化が耳を傾ける。
ヴィーヴィル曰く──。
「村人30名中、10名を予備兵力として後方に配置し、20名で夜明けを期して入り口にめがけて目立つよう方陣を組みます。
わたし個人は、疲労の度合いが少なければ、続行して村人の護衛に当たります。この白地に赤のラインが入った甲冑なら、十分に目立ちましょう。
城壁からコボルトの援護射撃が来る場合は後退を指示。再び跳ね橋が上がるなら負傷者を置いて再度進撃、兎に角、敵に圧力をかけます」
「ならば、前線指揮は任せる。私は後方から、状況を見る事にしよう」
と桃化。
さっそくヴィーヴィルは、方陣の訓練に農民を集める。
他にも重装備や土嚢をヴィーヴィルは期待したのだが、生憎とごく普通の農民相手ではそれは無理であった。方陣の訓練とて、村を取り返したいという気持ちの強い村人相手でなければ、そもそも成立しなかっただろう。
しかし、いかに堅固な陣を敷こうとも、向こうは人質というカードを切れば済む。
桃化の思った策も危うい。破城椎を作りたかったが、オルステッドが山の様にバックパックに詰め込んでいる武器のひとつにハンドアックスがあるだけでは、攻城椎を作るのは至難の業だろう。桃化としては自嘲的になるが、結論としては、如何にして相手を城壁に貼り付けるかの一点にかかる。
その隙に潜入班がアキレス腱を繋ぎ直す事を期待するのみだ。
ともあれ、ヴィーヴィルは提案した通り、村人に方陣の訓練が始めた。先走りがちの村人を、なんとか統率しようとする声が響く。
訓練に憂いた村人のぼやきを聞いた、バルバロッサ・シュタインベルグ(ea4857)は村人と一同に活を入れるべく、村人に一席ぶつ。
「金額など関係ない、前線でのリスクは俺達が負おう。その代わり前へ、前へと出たい其の気持ちを抑えてくれ。
他所の者に何がわかると言いたいのは判る、だが、作戦が成功するかはそこに掛かってる。
今回人質を救出しても、新しい人間が捕まったのでは何にもならない」
一方、クオンと顔と己を隠した忍者、荒巻源内(ea7363)も村に続く地下道の確認を村人としている。もっとも源内は一言も発せず、クオンが問い質すのみであったが。クオンは真夜中には立たなければ行けない身、明け方の潜入作戦には参加できない。それはシモーヌもアリシアも一緒である。
「全くパリの馴染みの店で一杯やろうと思っていたが、話を聞いたのにスルーしたら酒が不味くなる。子供と女性をパッパと救出しようぜ。パリで再会したら、一杯奢ってやるぜ」
言いながらも、ラックス・キール(ea4944)が軽装に着替え、ロングボウとダガー、そして守りにライトシールドの装備をしている。
「まったく、早く勝利の美酒が飲みたいものだぜ。源内、そっちはどうだ?」
源内は黙って首を横に振るのみ。寡黙な男である。、
「‥‥目的忘れそうだな、洞窟抜けてる間に」
鼻歌交じりのレティシア・ヴェリルレット(ea4739)は子供の救出よりも、むしろコボルトの殺戮に向かいたい気分が先走る。
(さってと。バケモンの種類くらい見ときたいよな〜。
いや、コボルトには詳しくねえけど何度も見てるんだし、コボルト戦士がいるかどうかくらい‥‥は〜)
一方、ファイゼル・ヴァッファー(ea2554)が快活に潜入組に情報のリンクを促す。
「レティシア、そんな事より、油断するなよ。コボルトが気がついて、トラップとかをしかけるかも知れないからな。後、伏兵とか」
陽動班のシルバー・ストーム(ea3651)は彼らに一言告げた。
「時間は稼ぐ」
と。そして、黙々と愛用の弓の手入れに勤しむ。
口には出さずとも、京太郎も同じ思いである。
デルテ・フェザーク(ea3412)はそんな光景を見てぼやく。
「また、このパターンでの冒険ですか? 運が良いのか悪いのかよく判りませんねぇ。でも人命が掛かっている以上、放置する訳にもいきませんし、尽力させて頂きますね」
女性のエルフながら、巻き込まれ冒険率ナンバーワンな気がする彼女には、いつものパターンに思えた。それで全力を尽くさないわけでは、もちろんない。
ムーンリーズ・ノインレーヴェ(ea1241)は彼女の声に対して──。
「レディの救出劇。此処で動かねば、誰がノルマン男子と言えましょうか!? 気合十分です。あぁ〜まだ見ぬニール嬢、今少しの辛抱です」
「半分私情入っていませんか?」
言い返すデルテに顔を覆いつつ。
「何を仰います、マドモアゼル? 私情と義憤が一致しただけですよ。ところで、今度一緒に一杯私の作った酒精など如何でしょうか? 最高級の夜をお約束しますよ」
右目の赤と、左目の蒼が蠱惑に揺らめく。
「明日考えるわ」
「では、いついつまでもお待ちしております。エルフの時は長いですからね」
一方イギリスの少女、セルフィー・リュシフール(ea1333)はジレンマに立たされていた。
彼女の使う呪文アイスブリザードに関してである。
アイスブリザードは円錐状に広がっていく。つまり、後方で放てば、前方にクリアーな空間が必要となる魔法である。詰まる所、前衛に誰もいない、もしくは先頭付近でなければ、使い難い。もちろん、仲間が魔法に関する対抗手段を持っていれば話は別である。特に今回は、まったくこうした事態に慣れていない村人が多数加わっている作戦だ。それを考慮すると、自分が前衛に立ち、身の危険を冒さねば使用出来る局面は限られてくる。
即ち彼女の魔法は、禁じ手である無理な突出──少なくともウィザードの少女にとっては──なしには不可能なのだ。
水の精霊魔法を行使するウィザードにつきもののジレンマであった。かといってアイスコフィンを連打するには魔力が乏しい。
「でも、それしかないか‥‥」
彼女は魔力を大量に消費し、尚かつ確実に効果を挙げられるか否か判らないアイスコフィンに賭けるしかなくなっていた。
そんな思い詰めた彼女に、フィア・フラット(ea1708)は肩を寄せ──。
「私にも直接的な戦闘能力があれば‥‥。前線に立った時に足を引っ張らないだけの力があれば、もう少しお役に立てるかもしれないのですけど‥‥今、私に出来る事はこの程度で限界ですね」
と、セルフィーに囁く。
はっ、と胸を打たれる彼女。
ティアの他人への洞察力は人並み外れている訳ではないが、それだけ顔に出ていたのであろう。
「ティアさん、私も‥‥そうなんです。使える魔法が前列に立たないと有効なものばかりで、後衛に回るっても、普段の冒険ならいざしらず、城攻めみたいな今度の一般人を戦いに巻き込む様なものは、不得手なんです。ああ、何でこの場所に居合わせてしまったんだろう──」
「大丈夫、聖なる母はきっと魔力が尽きたあなたでも居場所を作ってくれます。例え、あなたの魔力が尽きたとしても、みなの為にという意志が有る限り、あなたの動くべき場所はあるのですから。今は戦場で、私があなたを必要としています。それだけでは不十分でしょうか?」
そう言った後、セルフィーはがらりと表情を変えて、周囲の地勢を見渡し、ため息をつく。
「飛び道具や周囲の状況を見渡せる事を考えると、出来るだけ高くて見晴らしがいい場所を確保出来るといいのですけどね‥‥。それなら、同時に礼拝堂へ行く方達から目を逸らす事も出来そうでしたのに」
無論、彼女は知っていた。これは聖なる母が与えた試練ではなく、単なる偶然である事を。
翌未明、陽動部隊が村に向かって進撃を始めた。ロクな楯代わりもなく、攻城椎もない、文字通りの肉弾戦である。
そして、バルバロッサの鷲の様に鋭い視線が捕らえた物は、城門上の見張り段で禍々しく立ち上る湯気であった。おそらくは城門を攻めれば、熱湯が容赦なく注がれるのだろう。
村人に聞くと、コボルドとの戦いでも、向こうに熱湯を上から注いでいたという、それを戦訓としての戦法だろう。さすがにコボルトの頭でも真似は十分にできるようであった。
攻城椎が完成していなくて良かった──桃化は逆説的にそう思った。対処無く、城門に突撃していたら、と考えると胸がゾっとする。
そして、相手は籠城の構えを見せて、跳ね橋は上がったままであった。
コボルト達が手に手に岩を持ち、攻め寄る一同に投げかける。
ヴィーヴィルの号令で、拙い方陣を組む村人達。
しかし、楯と言うより、間仕切りでは岩を裁ききれない、犠牲者も少なくない。
軽傷とはいえ、累積すれば、無視できない物がある。
「無理はするな、負傷したら下がれ」
京太郎は村恋しさに血が上る村人を制止する。
その一方で、戦いの始まりを告げる音から、心臓の鼓動を500数えたレティシアは地下道に向かう一同に出立を促す。
「とりあえず人質より、コボルド殲滅を最優先しちゃおうかなって‥‥結構、本気だけど」
「それも一興。化物殲滅集団Anaretaが従僕『蝙蝠』‥‥フッ、久々の仕事、か」
オルステッドがマントを翻して、源内が洞窟に入り込むのを待つ。
「‥‥‥‥」
源内は洞窟の前で呪文を唱えて印を結ぶと煙に包まれる。その後軽やかな脚捌きで足音を立てずに洞窟に陣頭で進入した。
その後ろをついて行くレティシア、ラックス、ムーンリーズ、ファイゼル、手書きの地図を携えたデルテ、そしてフェリシア、ラックス達。
ムーンリーズが聞いても、空気がよどんだ理由は人間大サイズの者が多数通っていったものだけであった。幸か不幸か、途中でコボルトも会わなかったし、罠も仕掛けられていなかった。いかんせん、ロングボウなどは取り回しは余り良くなく、洞窟外に出る前に整備が必要になった。
僅かに漏れる光で教会の祭壇に到着したことが分かる。あまりにも定石通りで拍子抜けするが、ファイゼルとラックスが力を振り絞ってずらしていく。予め、デルテが地図にどの方向に祭壇をずらせばよいかも確認しておいた為、徒労は無く、スムーズに事は進む。
そして、一同の予想通り、そこに子供とニールはいなかった。
オルステッドが、子供達の居場所を探そうと分散案を出すと、首を横に振ったデルテが手早く緑色の淡い光に包まれて“バイブレーションセンサー”の魔法で、動いている物の位置を探る。そして、再び地図と照らし合わせて、隠れている位置との照合を行い、動くものの場所を確認する。
村長の家と思しき所の地下に子供達とニールらしい反応。加えて、3つほど小柄な反応がある。
「これが見張りでしょうね。自分は、石や岩なら、穴を魔法で開けて奇襲できますから」
正面門から木と岩のぶつかり合う音が聞こえる中、村長宅に向かう。そこは荒らされてはいるものの、確かな生活臭を感じる。
魔法の反応を頼りに、射手たちを穴を開ける場所の周囲に位置させる。
レティシアはひとつの弓に2本の矢を番え、ラックスが闘気で士気を高めると一矢をギリギリまで弦を張りつめ、オルステッドもダガーで衝撃波を相乗して打ち出すべく、構えを取る。
そして、デルテの魔法が唱えられた。彼女が淡い茶色の光に包まれると、ぽかりと穴が開く。
天井から唐突に朝の光が差し込んだ中、混乱したコボルト達に次々と、矢と衝撃波が降る。為す術無く倒れたコボルトの傍らに、子供達とうら若い女性、ニールがそこに後ろ手に縛られて転がされていた。
「今、行きます。待っていてください。マドモアゼル・ニール」
ムーンリーズが地下室への階段に急ぎ走り寄る。
全員がコボルドの毒に侵され、体力的な衰弱が著しい者もあるが、ラックスが予想していた通り、コボルトは解毒剤を持っていた。それを子供達とニールに飲ませると、体力の消耗が押さえられていく。手元にあったリカバーポーションを呑ませ、傷も癒やす。これらで村人から分けて貰った分もすべて使い切った。
フェリシアは彼らに微笑みかけながら励ます。
「頑張ったわね。もう大丈夫だから‥‥さあ、外へ出ましょう」
「ニール様ですな? 助けに参った‥‥安心されよ。」
源内がしゃべり出す。
「様と言われる程の者では──」
「いいえ、あなたは──美しい。それだけで十分です。ああ、あなたの美しさを讃える言葉に乏しい、吟遊詩人ならぬこの身が恨めしい」
とムーンリーズが彼女を説得(?)している中。源内は一番気品と、衣装の衣装の仕立ての良い、ニコラス少年と踏んだ相手に対し。
「‥‥ニコラスよ。うぬは、今はまだ護られるだけでいい‥‥だが、やがてうぬが大人になった時には、今度はうぬが村人を‥‥弱き者達を護る事になるのだ‥‥その事を忘れるな」
「あ、あなたは一体?」
「拙者か?拙者は‥‥『影』だ」
「???」
いきなり、現れた見知らぬ男に唐突な発言をされて、とまどうニコラス少年。
「早く撤退したいが、攻城兵器の状況も知りたい」
ラックスが提案する。
すると、フライングブルームを取り出した源内がその眼の良さも活かして、空中から観察する。
しかし、これが仇となって、コボルト達から空中の彼に岩が放り投げられる。
フライングブルームで空中戦は無理である。
この事が契機となって、城門近くでの岩投げから、村長宅へと、コボルト達は移動しようとする。だがそこで、ヴィーヴィルとファイゼルの指揮した農民達が方陣を組んで空堀へと押し寄せ、セフィールが2匹ほど、コボルトを氷棺に封印する。遠距離で放った魔法をすべて成就させ続けるには、彼女の魔力ではまだ未熟だったようだ。
そこへ──
「騎士が雑兵の一軍に匹敵することを忘れたか!」
とバルバロッサが咆哮し、コボルトの動きを一瞬止める。
そこへ狙い澄ました矢がコボルトに突き立つのを確認しながら、シルバーはどうやら時間稼ぎの陽動作戦に成功したようだ、と僅かな満足感を得る。
「頃合ですわね。敵に人質奪回を悟られずに、こちらも密かに後退を始めますわ」
桃化は決定打を持たない自分たちの陣営の状況が分からず、村人が熱狂しているのを、ヴィーヴィルの冷静さに任せて全体を引き留めさせる。
ラックスは攻城兵器の修理が全く成されていない事を──コボルトの頭数と頭の中身ではそこまで手が回らなかったのだろう──耳打ちされ、最早ここにいる意味は無いと、礼拝堂に向かい、襲ってくるコボルトに対し、潜入班の殿を努めた。
「さて、お手を」
とムーンリーズがニールを降ろすと、オルステッドが後の子供達が自力で降りようとするのを手伝う。
源内はそのまま空中から戦域を離脱し、撤退しつつある陽動班に合流する。フィアは空中戦用ではないフライングブルーム故、当たった岩で傷ついた彼に向かい、聖なる母の加護を願う。
「怪我をされた方は私の方に。魔力の続く限りですけど、回復と解毒を行います。自分で動けない方は周りの方が運んであげて下さい」
言い終わると呪文を唱え、十字架を掲げると、彼女を白く淡い光が包む。
「母なる神の息吹よ、傷ついた命に救いの手を…」
信じる神が違えど、セーラ神の癒やしの力は確実に源内の傷を塞いでいく。
頭を垂れる源内。
「やりとげてくれたか‥‥」
人質救出作戦が成功した事を悟り、京太郎は膝を叩く。
「えー、殺し足りないよ‥‥まあ、毒草の準備が無いから、今回やっても楽しみが半減するけどさ」
とレティシアが駄々を捏ねる様な振りをしながらも、子供達を引き連れて帰ってくる。
ラックスも無事帰還。というより、この力量で傷を受けたら、その相手は単なるコボルトではないだろう。
そこへ声が響く。
一行には意味不明なオーガ語で喋る、大柄なコボルトが2匹、両者とも他のコボルトとは体格差がある事から、ここの族長、部隊長なのだろうという事は朧気ながらも察しはつく。
多分宣戦布告か何かだろう。降伏という様にはどうやっても見えない。
弓で狙撃を試みようとする者もいたが、2匹とも自分の楯に加えて大楯を持った配下に自分を守らせ、弓でも魔しかし、法でも一撃必中のチャンスを与えない。
「族長とかなら、ゲルマン語で喋れ、この犬畜生!」
レティシアは罵倒するが、言いたい事を言うと、相手もそそくさと城壁から降りてしまう。
向こうが逆撃をしてこないという事は、相手が礼拝堂のトリックに気づいていないという事だ。
だが、向こうが攻め出してこなくても、こちらの農民達の食料の糧は日一日と寒風の前に削られていく。
正面突破は難しい。何しろ相手には跳ね橋を降ろす理由が無いのだから。
相手は村人の蓄えた物品で、暖かくなるまでやり過ごす積もりなのだろう。
もちろん村人は村を取り戻したい。そのためにはコボルトを叩き出す必要がある。
だが、それに正面撃破方策を執らなくても、こちらには礼拝堂への地下通路という“鬼札”もある。それのみともいえるが。
どちらを取るかは、指揮を執る冒険者次第だ。
「今回ご助力いただいた皆さんに、このままお力添え願えれば。それに騎士団にしても、衛士の皆さんにしても、歓待するお金というものがいりますし」
と神父。神聖魔法は使えない、僧侶万能を修めたあくまで生業としての神父である。
「まあ、我々、冒険者にはその様な気遣いは無用だな」
京太郎は苦笑いする。
「しかし、次はギルドを正式に通して貰わないとな。我々も先の仕事の報告があり、装備も整える必要がある。ギルドへの仲介料も考えておいた方が良い」
幸い、一同の神聖魔法で癒せないほど深傷の者は居ない。だが次は、正面からの衝突、特に体術に自信の無い者はコボルトの手数で押されかねない。
こうしている間にもアイスコフィンの魔法で封じられたコボルトも、氷の戒めから解き放たれ、相手の戦力は回復しつつある。
「しかし、コボルトが精々20匹足らずとはいえ、立て籠もられると、ここまで厄介になるとはな」
京太郎が重々しく呟く。
死亡確認したのは人質の見張り番をしていた3匹と、シルバーに撃ち殺された2匹のみである。後は、徹底して要害に頼って、生きながらえている。
そんな状況を確認しながら、バルバロッサがまだ戦い足りぬと村人に錯覚させる様子で、左右で色違いの瞳が映り込む程に磨かれた得物──ジャイアントソード──を、更に愛おしむ様に手入れし始める。
「さて、次の戦は3月の初めといった所か? さっきも言ったが、俺たちも対抗するには手間と時間がかかる。多分、この辺境では手に入らない物が多数あるだろうからな」
そのバルバロッサの言葉に天を仰ぎ、声をあげる者がいる。
「それまではしばしのお別れですニール嬢、その時はパリの流行のドレスでもお持ちしましょう。あなたの黒髪に映える、白いドレスなどいかがでしょう?」
語り倒しているのは明記するまでもなく、ムーンリーズである。女性たらしの巧さにかけてこれほど達者であり、これほどまでに熱心な者が彼以外に誰がいようか──?
ともあれ、この武装離村におけるコボルトとの戦いは勝負に負けて、試合に勝ったという所であるが、冒険者達の逆襲はここから始まる。
勝利の他に選ぶ者は何もないのだ!