●リプレイ本文
毒吐き姫のデルテ・フェザーク(ea3412)はコボルトへの牽制に村人を使おうという一同の案に、辛辣な意見を述べた。
「多数の決定には従いましょう。ですが、今後のために言わせていただくと、ギルドを通した正規の依頼で、依頼主を危険に晒した上に手を煩わせるなど冒険者として失格だと思います。村人の方々は安全な場所にいてもらい冒険者のみで遂行すべきです」
そこで呼吸を整え、彼女は──。
「素人に協力して貰わなければ──まともに依頼遂行できないような三流以下の冒険者に斡旋するとは、パリのギルドの質も随分と落ちたものです」
(「コボルトの数は14匹、対して冒険者15人。一人一殺でケリはつきますのに。跳ね橋を下ろしたり、村人に協力を仰いだりする必要も無い筈です」)
彼女の強硬論に村人は驚いたように互いの顔を見合わせている。
村を取り戻すのに指をくわえて見ていられない村人と、その意識を無視できない冒険者にデルテは大きなビンタを与えた。ただ作戦の遂行がやはり数の理論に従って執行されるのに、彼女自身も貴重な一戦力として組み込まれるには抵抗しない。
心中はどうあれ、依頼は果たさねばならないのだ。
「マドモアゼル、ニール‥‥貴女の事を思うと夜も眠れませんでしたよ。きっと色々なドレスが似合う事でしょう」
と、ムーンリーズ・ノインレーヴェ(ea1241)が──パリで流行のドレスを数着とアクセサリーを数点、二ールに広げて見せた。
鮮やかな原色、淑やかな中間色のドレスらは匂い袋の香りを移してある。それらと貴金属、宝玉の悪戯な輝きのコラボレーションを辺境に生きる女性、ニールに見せつけるた
「本当にいいんですか? ──頂いて」
「もちろん、ニール嬢。貴女の笑顔を取り戻すために必ず、村を解放して見せます、吉報をお待ち下さい」
「こんなにして頂く価値はありませんというのに」
「花は花であるだけで尊いものですよ。願わくば、勝利の暁に只一度の口づけをお許し下さい──その為ならば、愛と友情と正義の為、獅子奮迅の戦いを見せてご覧に入れましょう」
「ニールさん、あなたと可愛い子供達を後ろに下がってください。何か飛んできたら危ないですから」
フィア・フラット(ea1708)が後方から進入する仲間に一通り『聖なる母』の祝福を施し終えた後、保育士の面目躍如、戦闘要員になれない面々を後方に下げる。
「そうですね。コボルトにも知能がないわけではありませんから‥‥。前回以上の警戒や防備がある可能性はありそうですね」
「でも、コボルトは何匹か討ち取ったのでしたら、その分、陣容も薄まるのでは?」
「そうなれば、楽ですね。私に出来る事は以前も今回も同じです。ただ、最善を尽くすだけ‥‥」
一方、洞窟側ではムーンリーズがコボルトの呼吸の痕跡が無いかどうかを魔法で確かめて、その様な事実が存在しない事が判明してから、奥へと進んでいった。
その戦列の中、オルステッド・ブライオン(ea2449)は、ただ思う。己の役目と、今度のパーティーの皮肉な取り合わせを。
(フッ‥‥魔物殲滅集団Anaretaが11番目の従僕『蝙蝠』‥‥なに、魔物退治は仕事以上でも以下でもない、か‥‥。パリ闘技場で共に戦った者が3人もいる‥‥これは面白くなりそうだ)
その博識から、モンスター全般に関して、周囲から、一目も二目も置かれているコトセット・メヌーマ(ea4473)の指示で、コボルトの混乱を誘い、尚かつ太陽が昇る事で視界がこちらに有利になる、暁時の行動である。
最も、彼は村の外の囮組にいつつ、突入の混乱を見計らって仲間に士気向上の精霊魔法をかけるタイミングを待っている。
「さて、城門がいつ開くか、それが勝負だ」
言いながら、自らも弓の弦を張り、矢戦に備えていた。
その目は険しい。
「‥‥万物共通の弱点は目だとさ」
レティシア・ヴェリルレット(ea4739)が軽口を叩く。
「人々の笑う顔──は、いまいちどうでも、いいけどさ、俺は。
俺の趣味と大っぴらに毒草実験しても問題ナシって利害の一致で冒険者してるしなあ。ま、さっさと片付けて次の実験のために庭弄りにでも勤しむか? 報酬が出る限りは、『オシゴト』だしな」
まあ、その庭が毒草の園でも庭弄りには変わりない。
「しかし、デルテの言う事にも一理あるんじゃないか? 村の奴が戦力になるとは最初から期待してねえよ。
それに、素人ってのは訳のわからねえ動き方するからなあ。味方に当てる程、とろくねえつもりだが、射線の上でうろちょろされると逆に邪魔なんだよな」
「飛び道具は考える事が多いな。今回の依頼では、前回と俺の役目は変わっていないので、頭を使わなくて良いのは楽かな」
バルバロッサ・シュタインベルグ(ea4857)は祭壇の下までくると、全身の筋力を振り絞り、地下から祭壇をずらす。
「‥‥集え火精よ、纏え焔よ」
と詠うようにアクセントをつけ、ムーンリーズのスクロールから、オルステッドが一同に炎の精霊力を付与し、破壊力を増大させていく。
忍び出るも、コボルトの警戒は無かった。
「俺がおびき寄せる。何、派手に暴れればいいのだろう?」
バルバロッサはジャイアントソードとミドルシールドを構え直すと、礼拝堂からしばらく離れた所で見付けたコボルトに向かって雄叫びをあげる。
コボルトも金切り声を叫び、がむしゃらに剣で斬りかかってくる。そこを楯で軽くいなし、体勢が崩れた所に必殺の一撃を浴びせる。肩から腰まで斬り下げ一撃は見事の一言であった。
「‥‥集え、雷精よ‥‥我は雷神の系譜に連なる者也、我が腕に雷神の石弓を持たせ給え」
一方でムーンリーズも家屋の屋根によじ登り、一連の呪文を唱える。だが、悲しいかな。スクロールから魔法を付与するには大量の──発揮される効果に対して大量の──魔力が消費される。
自らを魔弾の射手としようとしたムーンリーズはとりあえず、門番のひとりを打ち倒したが、戦果はそれで打ち止めのようであった。
今度は戦いは内側に向いた様で、外部への攻撃はお留守になっている。
だが、オルステッドが守護する、全身を黒装束で包んだ『影』。本名──荒巻 源内(ea7363)が、城門の開閉装置目指して俊足で駆け抜ける。残念だがオルステッドは源内の快足にはついていけそうになかった。
(「刀だけではなく‥‥拳、足、頭脳‥‥己が体の全てを使い、任務を遂げる。‥‥それが『忍』」)
彼の胸裏を知る者はおらず、ただ呼吸音が幽かにするだけである。
「主の命なき今‥‥己が技を磨くため。──いや」
オルステッドが炎に包まれたダガーを片手にようやく追いつく。
「早すぎるよ、追いつけない、どうにかならない?」
「動機無く、心無く、己なし。あるのはただ成すべき事のみ。‥‥それが『忍者』だ」
そこへ隠れて待ち伏せしようとしていたコボルト。さすがに暁時では焔に包まれたダガーはターゲットになる。
「忍者の相手をしていたって‥‥──!」
毒の塗布された剣を、軽く避け。ダガーでオルステッドはコボルトに切りかかる。僅かながら勢いを殺いだところへ、柄で犬耳の後ろを強打する源内。失神したところに返す忍者刀で止めを刺す。
「舞うは黒影。残るは屍。行くぞ」
言って、コボルトが右往左往する中、吊り橋の操作をする源内。コボルトにも判る程度の簡便なものであり、木々の軋む中、吊り橋が下ろされていく。
「任務完遂。‥‥影は闇へと消え行くのみ‥‥」
源内はコボルトの混乱の中、その場から姿を消す。
レティシアがコボルト殺しのスコアを順調に伸ばす中、彼の矢に追い立てられる様に跳ね橋へと逃げるコボルトも、村民達が先日習った方陣を敷いているのを見ると、息を止める。
その橋の手前で、セルフィー・リュシフール(ea1333)が堂々と呪文を唱えているのを、村の外の一同は確認する。
(「今回できっちり片付けよう‥‥こっちも後がないからな‥‥」)
と、洞窟から入り込んだファイゼル・ヴァッファー(ea2554)が後ろから、コボルトを跳ね橋へと追い立てる。
さすがに村人の多少なりと作戦に参加したい、つまりは村の中に突入するなら自分達もとの意見には一同が難色を示し、跳ね橋周辺に人影はない。やはり、血気に逸った村人が慣れぬ戦闘に臨機応変に対処できるとは、到底考えられないからだ。
「セルフィー、今! コボルトがあふれ出すぞ、壁の上の連中は俺がどうにかするから、奴らを頼む!!」
手伝うわ、とデルテと、矢を補充し終えたシルバー・ストーム(ea3651)。
デルテは壁の近くに立っている木々を操り、コボルトの行動を阻害していく。石を投げようとした相手にはシルバーの長射程の弓矢が行動を阻む。
3人の守りの中、セルフィーの身を被うように青い淡い光が収束していく。そんな彼女を妨害しようと、コボルトは必死になって石を投げたが、そんな行為はファイゼルが体当たりで止め、木の枝が払い飛ばしていき、シルバーの弓もさえ渡る。
重要な局面。プレッシャーは感じるはずなのだが、コトセットの士気を上げる魔法の付与により、そんな事は無かった。
そして、吊り橋が音を立てて、本来の位置に戻った瞬間。
コボルト達にアイスブリザードが吹き荒れる。
死をもたらす。雪の女神の抱擁。
凍って、内から爆ぜ割れた赤い血が、紅の花を思わせた。
その後ろから、巨体がふたつ。と言っても、コボルトの族長と隊長であった。
今度は楯の重厚な防御は無く、隊長と思しき個体がミドルシールドにモーニングスター片手に突撃しようとするのを、眼力ひとつで止めた北道 京太郎(ea3124)は呟く。
「哀れだな‥‥」
オーガ語での罵詈雑言を聞き流しつつ、我流の日本刀を振るう。
その重厚な刀捌きの前には、コボルトは受ける事も、反撃を加える事もなく、ただ橋の上に血みどろになって倒れるのみであった。
「恨むなら図に乗った自身を恨め、犬鬼」
「手助けできる事があるのに放っては置けないわ。それに‥‥コボルト達には人々を苦しめた報いを受けてもらわないとね‥‥」
フェリシア・ティール(ea4284)が冷静に戦況を見ると、族長は 京太郎が隊長を相手にしている間に、凍てついた瀕死のコボルトを避けつつ、表に出ようとしていた。
「これ以上進ませる訳には行かないの‥‥私が相手よ。その身に刻みなさい!」
村人を巻き込むのは最小限にしたいという気持ちは空回りせず、村人は彼女を遠巻きに囲むように状況を見守り、だがコボルトを逃がさない姿勢を取っている。
しかし、相手の使っている武器がモーニングスターとミドルシールドという組み合わせは厄介であった。
受けても、そこから変幻自在に弧を描く鉄球である。相手の武器が違えば、些か、いや五分以上に持って行く自信があったが、相手の変幻自在な動きに惑わされ、着実にダメージが累積していく。
鞭で受けは出来ないのは当然として、体術も劣り、一方的になぶり殺されるかと思ったが、そんな事はない。
フェリシアの武器が鞭である事を見越したラックス・キール(ea4944)が高台から、ピンポイントの狙撃を試みる。
乾坤一擲、その一矢はコボルト族長の目を貫いた。
「コボルトにしては、多少やる様ですが、此処に留まった代償は、高すぎると教えて上げますわ。此処より先は、通しませんわよ」
九紋竜 桃化(ea8553)が橋に仁王立ちすると、視界を失い、荒れ狂うコボルト族長の剣を軽々と見切り、交差法で切って落とす。
「コボルトの方々、貴方方の敗因は、守衛の優位性を信じ、対局を見誤った事ですわね」
そこで倒れ伏すコボルト族長。
「私達が来るまでに、此処から逃げ出せば討たれる事も無かったと気づくのが遅いですわ」
「ラックスさんの弓がもう少し早ければ──」
そこへ突き立つラックスの矢とシルバーの矢。
族長の耳から頭蓋内に貫通している。
「名乗りは、相手の止めを刺してから言ってくれ」
ラックスが桃化に告げる。
そこで、橋の上で死にきれないコボルト6匹への村人の復讐が始まった。
「ああ、殺戮っていいなぁ、やっぱり毒草とこれがなきゃ、生きている気分がしないぜ」
レティシアが死んだコボルトの数を勘定しながら、そう呟く。
「次の矢を──いや、もう必要なくなったようです」
シルバーが今まで矢を手渡してくれていた村人にそう呟いた。
そして、ムーンリーズは‥‥。
「大した活躍できませんでしたね。これではあなたへの約束を果たした事になりません」
「でも、私たちは勝利しましたわ」
「そうですね──」
重なるふたつの影。
「‥‥私は風のような者です、一所には留まれませんしかし、貴女が困っている時は何時でも駆けつけます」「期待しています。きっと、やってきてくれるって」
こうして周囲のコボルトはこの一帯にしばらく手出ししないだろう。
コボルトは深く掘られた穴に放り込まれ、醜悪な人生にピリオドを打った。
一同は攻城兵器の修理に尽力した後パリへの帰路に。
逃すコボルト一匹としてなし。
これが一騎当千の強者の冒険の顛末である。