ファーブル大昆虫記〜大芋虫の段1〜
|
■シリーズシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 9 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:04月26日〜05月02日
リプレイ公開日:2005年05月02日
|
●オープニング
「ちょっと、ドレスタットに向かいたいのだが、記録係兼雑用係を捜している、いい人材は居なかったりするのかね?」
そうカンから、冒険者ギルドで有能な人材を求めて、快速船コメート号で訪れた赤毛でマッチョの昆虫学者、シャルル・ファーブル。だが、人は彼を“キャプテン・ファーブル”と呼ぶ!
話を巻き戻す。
シャルル・ファーブルはカンの北の海域にある『ファーブル島』で巨大昆虫の研究に勤しんでいたが、そこへ何やらでっかいトカゲ(ファーブル談)で大騒ぎのドレスタットから、同好の士であるウィッグルズワースというクレリックから、巨大な芋虫を山中で見たとシフール郵便で連絡が来た。彼は今まで知らない昆虫だという直感に基づき、ドレスタットに赴き、食料や住環境などの確認をした後に捕獲に踏みきり、ファーブル島で観察飼育をしたいと熱望していた。
予算の関係で大量の人数を雇う訳にはいかないが、その代わり少数精鋭で行きたいという。
「そうだね、5〜6人という所かね、もっとも少々懸念があったりするけれどね」
「と、いいますと?」
とパリのギルドの受付嬢。
「去年、ドレスタットに向かった時にシーウォームという怪物が居た。かなり剣呑な相手だったが、冒険者達の力で事なきを得たがね。ひょっとしたら、ドレスタットの近海にいるのは1匹とは限らないかもしれない」
「‥‥物騒ですね」
「もっとも、私はこの街の冒険者の質に関しては万全の期待を寄せているから、少人数でも十二分に対抗できると信じているがね、うん」
こうして、パリからドレスタットへ、そして、昆虫観察の後、捕獲。そして、再びパリ方面へと帰る事になると、ファーブルから確認を取った。まあ、ドレスタットに残りたければ、それも自由だが、できれば代わりの人材を推薦してからにして欲しい、とは依頼人の弁。
「少々急ぎなのでね、できれば早めに人材をそろえてほしかったりする。では、準備はよろしいか?」
言い置いて、キャプテン・ファーブルはきびすを返し、愛船へと向かっていった。
残されたのは冒険依頼の内容を示した、黒板のみ。
そして、後日にその依頼が張り出され、港に向かう冒険者の影がちらほらと見られたのであった。
●リプレイ本文
──ああ、コメート号がパリの港を離れ、セーヌの河を下っていく。
「必ず帰ってくるんだぞ〜」
リスターが出航する快速船コメート号に向かって真っ赤なスカーフを振って見送る。
「ああ、せめて麗しい女性、最も女性は皆、麗しいですが‥‥に見送られたかったものです」
ムーンリーズ・ノインレーヴェ(ea1241)は髭を生やした男の見送りに優美な眉をしかめる。
「まあ、我々、ファーブルメンとしては、ひとつの魔法実験をしたい所だな」
とロヴァニオン・ティリス(ea1563)。
「邪悪な野心を以て、魔法を利用するものとは徹底的に戦いたい所だが、その実験とは一体何だい、ロヴァニオン君?」
キャプテン・ファーブルことシャルル・ファーブルに従うは、ファーブルメンたち(ロヴァニオン談)。軟派人間ムーンリーズ、鋼鉄人間ロヴァニオン、そして『酒精漬けの脳』岬芳紀(ea2022)。快速船コメート号に乗って、往くは輝くドレスタットの港!
「『船乗りのお守り』が酒にも効くか試してみよう。と言うわけでどんどん飲むぞ」
「では、私もベルモットを‥‥いかん、家に置いてきたままであった。まあ、いい。酒屋の店主がいるのだ。呑もう」
「よし、勝負だ! じゃあ、ベルモット行くぞ!」
ロヴァニオンのウォークライに、井伊貴政(ea8384)が無言で包丁の晒しを解き始め、予め確認しておいた厨房で皆から集めた保存食をリメイクし始める。
「まあ、私は魔法の専門家じゃなかったりするけれど、魔法実験大いに結構、頑張ってくれたまえ」
芳紀とロヴァニオンが一本目の壺を空けた所で、香しい薫りが漂い、何かごった煮の様なものが出される。
それのふたを取ると、光が溢れ出す。
「何!」
とロヴァニオン。
「何だと?」
芳紀も驚きは隠せない。
一掬いしたふたりは口に運ぶと、唐突に巨大化し始め、腕はコメート号のマストをへし折り、足はコメート号の甲板を突き破り、浸水し出す。
「これは本当に『う〜ま〜い〜ぞ〜!!』」
とロヴァニオンが叫ぶと、芳紀も負けずに絶叫する。
「おかわり!」
だが、こうしている内にコメート号は浸水。海峡に出る前に沈没するのであった。
これが冒険の顛末である。
ファーブル大昆虫記〜大芋虫の段〜終劇
「終劇じゃあ、ないだろうって、ファーブル先生、記録係に勝手なコメントをつけさせないで下さい」
舵を取りながら、3人の会話に適当にアテレコしていたファーブルに貴政がツッコミを入れる。
「いやはや、人間も中々面白いものだねぇ」
「というより、出番がないんですけど」
ノア・キャラット(ea4340)が一方的に進んでいく話についていけず、ようやくツッコミを入れるチャンスを見いだす。
「ところで、ファーブル先生、真面目な質問ですけれど、スクロールは生半可な腕じゃ作れないって本当ですか?」
「うーん、自分の知っている範疇では、自分の使える魔法である事と、達人級の精霊牌に関する技がないと『不可能』だそうだ。まあ、揺れる船の上ではそれだけの技量があっても、お勧めできないね。ペンとインクも不安定だから、繊細な作業には向かないだろう」
「人生設計間違えたかも、じゃあ。雑用頑張ります」
「よろしくお願いする」
ともあれ、ロヴァニオンの実験は酒切れで、ロヴァニオン自身がアルコールをミルク代わりに呑んでいたような体質だったので、樽の5杯程度を戦友と分かちあって呑んだ所で、ぴくりともしないので、ノーコンテンストで終わった。
「シーウォームか‥‥去年の夏はラージウォームを捕獲していたのだが,どちらが強いのだろうか?」
少々、酒が過ぎたのか呂律が回らなくなった舌で、キャプテン・ファーブルに問いかける芳紀。
「それは虎と獅子のどちらが強いか尋ねる様なものだね。生息環境が違いすぎるから、陸ではラージウォーム。海ではシーウォームの勝利だったりする事になるだろうね。まあ、タフさではシーウォームの勝利だろうが」
そんな光景を遠目に見ながら──。
「はぁ‥‥移動に次ぐ移動で少し疲れますわ‥‥‥‥」
ドタバタ騒ぎと長旅に疲れた少女、ロゼッタ・デ・ヴェルザーヌ(ea7209)は潮風に身を委ねながら、遥か彼方に見えるイギリスを見やった。
『お疲れですか、お嬢さん?』
ラテン語でかかる声。少女に声をかけるのはマナーと信じるムーンリーズの声に、美しい髪と共に振り向いたのは、育ちの良さ気な顔立ちであった。彼女はゲルマン語で返す。
「そんなに無理して頂かなくても結構です。この辺りで使われている言語なら大概はマスターしていますから
。おおよそ普通に見聞きする言葉でしたら分かりますし、特にラテン語には自信が有りますから任せて頂いても結構ですわ。
聖書などを読む為にもラテン語は必須ですからね」
「志の高い方ですね。私も世界の、現代使われている言語なら大概話せますよ、お嬢さんのような人材がいるなら、資料の編纂役はお任せしましょう‥‥マドモアゼル、貴方の微笑みはまるで太陽のようだ」
「そうですか、大人の方に言われると本気にしたくなりますね。ところで、途中、何かモンスターが居るのかもしれないのですか?
そうなったら、えぇと。アッシュエージェンシーで囮となる身代わりを作成して、それから‥‥囮に引き付いたところにアイスコフィンで封じ込めればよかったのかしら?
うぅ、あたしと同じ姿形をしたものを犠牲にするのは見ていて気持ちの良いものではないですわね」
「その様な事は私がさせません、今の話から察すると、あなたが火と水の魔法が使えるという事は水の魔法に相応の力量がお有りの様ですから、この船はウィザード全属性と肉弾戦系という方向でバランスが取れているようですね。
回復役が薬に頼るしかないのは少々不安材料ですが、現地につけば、回復役のクレリックにも当てが有るようなので、大丈夫でしょうが」
「良く喋る方ですね。でも頼りにしていますから」
「忝ない。全身全霊を以て、そのご期待に応えましょう‥‥貴女と共に風になって大空を駆け回りたいですね‥‥おお、これはノア殿」
懲りないムーンリーズであった。
そして、明日あたりドレスタットに着くであろう海域で、浜辺の船溜まりに船を寄せ、ロヴァニオンの進言通り、光を消し、ひねもすのたりする。
だが、アクシデントは忘れていた頃に起きたのだ。貴政が料理のリメイクをして、炎を使っていると、不穏当な波の動きが──。
見張りに立っていたムーンリーズが囁く。
「‥‥今、あの辺が動きませんでしたか?」
「何、本当に来たのか、ならば、全員準備にかかってくれ、貴政にも急いで、準備をするように言ってくる」
ノアがスクロールを広げて、淡い黄金の光に包まれ、その海を透かし見るが、いかんせん、光源が淡い月影と星々しかない為、シーウォームの姿を確認する事は出来なかった。
「‥‥来ますよ、準備は宜しいですか?」
ムーンリーズの言葉と共に、ノアも呪文の詠唱に入る。スクロールを取り敢えず、船上に放り出した後では、得意の火の精霊魔法に頼るしかない。
キャプテン・ファーブルの手により、錨が引き上げられコメート号は海に出る。
「‥‥結構揺れますね、船酔いのお守りが役に立つ日が来るとはね」
軽口の多いムーンリーズの言葉とは対照的にノアの呪文が着々と積み上げられていく。
「大気に宿りし精霊たちよ、炎と成りて武器に集い、焔の力を開放せよ! バーニングソード!」
貴政も日本刀を両手で構えいつでも、触手が這い寄って来ても良いように、準備をしている。
その刃に焔が点る。
ロヴァニオン、芳紀の得物にも次々と焔が点されていった。
そこへ、ムーンリーズの呪文が成就する。
夜の闇の中、淡い緑色の光が収束する。
「‥‥海を渡る奔放な風の精霊よ‥‥我が呼び声に応えて顕現せよ‥‥我は雷神の系譜に連なるものなり」
彼の手から収束された雷が伸びていき、波間に潜む灰色の影に突き刺さる。
「一発では逃げてくれそうに‥‥ありませんね」
続けてノアもスクロールを引きずり出し、雷を放つが、こちらでは出力が弱すぎて掠り傷が精々であった。抵抗されなかったのが、知性の低い、相手の性質から来る不幸中の幸いだ。
しかし、魔力の消耗は激しい。そこでおびき寄せて──。
「大気に宿りし精霊たちよ! 炎を成りて我に力を与えよ! 火球と化し邪魔する敵を蹴散らせ! ファイヤーボム」
爆風が吹き荒れ、幾本もの触手がうねりながら迫ってくる。
「みんな、引き寄せて派手に呪文を盛大に使ってくれ、他の船に迷惑にならない様に一旦、沖に出る」
「よーし、酒も切れたし、行くぜ!」
ロヴァニオンを中心にピンク色の淡い光が収束し、闘気の塊と化して、触手を打ち据える。
「おらおら、魔力なんぞ所詮飾りだ!」
高速詠唱も併用された、闘気と雷が合奏を成す。
その間にも軽口がロヴァニオンから出てくる。
「別に捕まえるとか退治とかするわけじゃねえ。とりあえず追い払えばいいだろ」
その言葉は舵を取るキャプテン・ファーブルに向かう。沈黙するキャプテン・ファーブル。
「‥‥まさかと思うが、もう一匹欲しいとか言いださねえよな、キャプテン?」
「いやぁ、そんな事は──────言わないよ、いや、まったく」
「シーウォームの行動を束縛します」
スモークフィールドを発生させ、行動を制限しようとするノア。
「大気に宿りし精霊たちよ、煙と成りて敵の視界を遮断せよ! スモークフィールド!」
濛々とわき上がる煙。
「じゃあ、これでお終いですね」
ロゼッタが淡い青い光に包まれ、煙からはみ出した触手に呪文を唱えると、一瞬の間隙を置いて、氷像と化すシーウォーム。
氷塊をロープで引っかけ、沖まで引き回し、他の船から十分に離れた距離で、解放し、自分達も全力で風を捕まえ逃げに入るコメート号。
「かくして、ドレスタット近海にシーウォームがいる事が確認された。後の処置は他の冒険者ギルドに任せるか、商業ギルドへ報告をして彼らのしかるべき判断に委ねるかのいずれかであろう」
ともあれ、氷結から1時間後、シーウォームの怒りの叫びを聞いた様な気がするロゼッタであった。
そして、ドラゴン騒動の中、ドレスタットへ到着するコメート号。一同は聖なる母の教えを奉じるクレリック、ウィッグルズワースと合流し、15日間の昆虫観察の日々へと移行する。
これが新たな冒険の始まりであった。