ファーブル大昆虫記〜大芋虫の段4〜

■シリーズシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 83 C

参加人数:7人

サポート参加人数:2人

冒険期間:06月12日〜06月20日

リプレイ公開日:2005年06月19日

●オープニング

 快速船コメート号は揺れていた。
 船の主、シャルル・ファーブル。人呼んでキャプテン・ファーブルは先程捕まえた大芋虫──キャタピラーと彼は呼ぶ。──が船内でアイスコフィンが解ける度に自由を求めて暴れるのに眉をしかめていたのだ。
 しかも、先日、取り逃したシーウォームがまだ近海にいるらしい、という不確実な情報も入手している。このインセクトが襲ってくるのは昨年のシーウォーム捕獲の際に体液が染みついたせいかもしれない。
 ともあれ、ドレスタットを発って、パリ経由でカンへと帰る、という航海は難航しそうであった。
「しかたない、エチゴヤで先日買った福袋にソルフの実かアイスコフィンのスクロールが入っているのを期待しよう」
 と、えらく消極的な対策しか思いつかないあたり、キャプテン・ファーブルもスランプなのかもしれない。
 友人のウィッグルズワースもドレスタットに残って研究を続ける以上、カンまでの航路、支援は期待できない。
 冒険者の助力があっても、航海は難航しそうであった。




●今回の参加者

 ea1241 ムーンリーズ・ノインレーヴェ(29歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea1553 マリウス・ゲイル(33歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea2022 岬 芳紀(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4340 ノア・キャラット(20歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea7209 ロゼッタ・デ・ヴェルザーヌ(19歳・♀・ウィザード・エルフ・イスパニア王国)
 ea8384 井伊 貴政(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

九門 冬華(ea0254)/ アリアドル・レイ(ea4943

●リプレイ本文

 ロヴァニオン・ティリス(ea1563)が今回の“後悔”の厄よけに白波の指輪を海に放り込む脇で──。
「冬華嬢、名残惜しいですが、またお会いしましょう」
 そう言って、出航寸前の埠頭で、ムーンリーズ・ノインレーヴェ(ea1241)は冬華を抱きしめた。
「ご縁があれば」
 そう言って冬華は名残惜しげに、アリアドルの曲を背にして、ドレスタットから旅立つコメート号を見送った。
 ノア・キャラット(ea4340)が舷で手を振りつつ叫ぶ。
「アリアドルさん、ありがとうございました。パリへ来られた時は一声かけてくださいね!
 必ず会いに行きますので、いつの日か再会できることを楽しみにしていますね!」

 自身がスクロールが使えないから、という理由で、ロゼッタ・デ・ヴェルザーヌ(ea7209)から、クーリングのスクロールを借りたムーンリーズであったが、さすがに持続時間の短いクーリングを連発しても全長6メートルはあるキャタピラーを封印しているアイスコフィンの持続時間を延ばすのは無理があった。
 さすがにこれだけの巨体となると、まんべんなくフォローするのはスクロールの魔力消費量ではどんな大魔法使いでも無理だろう。 藁で縄を結い,巻き藁を幾つも作り、木枠を拵え,それに巻き藁を固定する。それをコメート号の甲板に何層も敷き詰める。
 何層も重ねて立てることで,キャタピラーが暴れた時の緩衝と,外から温かい空気が入ってくるのを少しでも遮っておく。
 水を撒いて,ムーンリーズにスクロールで凍らせてもらう。
 と、綿密に岬芳紀(ea2022)がアイスコフィン融解に対して外気遮断の策を取ったが、それでも当然限界はあった。

 出航直後、早速にアイスコフィンが解ける。
 そこへ早速、マリウス・ゲイル(ea1553)が駆けつけ、ムーンリーズが出資して購入した足腰弱った老体の農耕牛を餌としてちらつかせ、そこに噛みつこうとした所へ、マリウスは矢尻を突き出し、毒の採取を試みる。顎から滴る液体に自らの手が痺れるのも構わず、毒矢を3本作成する。
 それを確認すると、逆手で今度は牽制にはいる。
「ロゼッタさんお願いします!」
「あまり、無理しないでくださいね!」
 ロゼッタは言い終えると、詠唱と共に印を組み、淡い青い光に包まれながら、再び氷棺の中にとキャタピラーを封印する。
「うーむ、見事な手際、天晴れ、天晴れ」
 と、遠巻きにしていたシャルル・ファーブルことキャプテン・ファーブルが頷くのに対し、マリウスは──。
「キャタピラーに名前をつけませんか? キャピーなんてどうでしょう?」
 と、提案する。
「結構、結構。そちらの方が緊急時には判りやすいだろう」
 と返すキャプテン・ファーブルにマリウスは更に問い返す。
「キャピーは成虫になったら蝶になるんですかね。やはり巨大な毒蝶になるのでしょうか?」
「いやー、全然判らないよ。だって、書物で判っていれば、こんなに苦労して、生態観察まではせずに、速攻で捕まえているよ」
「それもそうですね」
「だが、蝶の方がロマンチックなのは確実だね‥‥案外寄生蜂がもう、卵を産んでいるというオチかもしれないけれど」
「それはNGですね。冒険の意味が全くありませんから──」
 と愚痴るムーンリーズ。
「なーに、そうしたら、今度はそれをネタに論文を一本書くさ」
 底を突き抜けて諦観に達したキャプテン・ファーブルに対しロゼッタは──。
「しかし、これでドレスタットの街ともお別れですね。ひと月ほど滞在した事になりましたわね。
 ムーンリーズさんのように思い入れが出来るほどの時間があったわけではありませんけど、少しは名残惜しいかしら」
「私も貴女のような、未来のマドモアゼルとしばらく冒険できないかと思うと名残惜しいですよ」
「で、毒は採り終わったんだろう? 後は牛を裁いて適当に突っつこうぜ、さっきの取り押さえで力を使ったんでな」
 ロヴァニオンが、包丁を持った井伊貴政(ea8384)を前に押しだし。先生お願いします、と拝み倒す。
「そうですね。ロゼッタさんのお好みで‥‥という事で、今回の航海での一番の立役者ですから」
 返答するロゼッタはバックパックからニョルズの釣り竿を取り出しながら──。
「ちょっと私はにわか太公望でもしようと思いまして、その釣った魚を裁いては貰えませんか?」
 貴政は頷いて、ロヴァニオンに告げる。
「喜んで‥‥焼き肉はまた今度という事で、まあ牛さんを囮にするのもしばらくは必要でしょうし」
「率爾ながらお手伝いする。ロゼッタ殿と奇遇にも同じ品を手に入れている故な」
 芳紀もニョルズの釣り竿、3本持っている内の1本を取り出す。
「あーあ、ドナドナ。お前もカンまでの寿命だそうだ。飼い殺しだな。本当に」
 ロヴァニオンの視線を感じて老牛は一歩退く。

 以上、暴れる、凍らせる、解ける、暴れる‥‥のエンドレスを繰り返した後、最初の停泊地についた一同は以前の襲撃があった事もあり、神経を尖らせていた。
「‥‥ふぅ。このまま何も無ければ良いのですが」
 ムーンリーズが月を背景に呟く。
「そうですね。‥‥パリか、何もかも皆懐かしい。今にして思えば、コカトリスと戦ったり、魔法使いの結社とやり合ったりと、色々ありました。黒クレリックとの関わりがやたら多かった気が‥‥それからキャメロットに行ったり、江戸京都と回ったりと色々ありました。ですが、結局ノルマンに戻ってきてしまいましたよ」
 マリウスが背後からムーンリーズに声をかける。
「そうですか。キャメロットですか‥‥懐かしい。私の生まれた地でもあります。でも心はパリっ子ですけれどね」
 振り返りもせずに、ムーンリーズは蠱惑的な声で、マリウスの鼓膜を揺さぶる。
「ふむ」
 と警戒に当たっていた芳紀がムーンリーズに示唆をする。
「遠方に何かの影が見えた。この辺で最近出没するドラゴンかもしれない。スクロールは使えない故、ムーンリーズ殿にお願いしたい。“テレスコープ”を持っていると聞いたが?」
「それは、それは。このシチュエーションに好都合ですよね。では、お待ち下さい」
 ムーンリーズはスクロールを広げて念じると、淡い金色の光に包まれ、遥か彼方を見通す視力を得る。
 芳紀の示唆する方向の波間を見渡す。
「‥‥やれやれ、ヤッパリ現れましたか」
 そこで一呼吸置いてムーンリーズは宣言する。
「シーウォームです」
「気にはなっていたが、最後の最後で出てくるか‥‥‥‥」
 芳紀が唸った。
 一同に警戒の合図が囁かれる。ノアと同室のロゼッタも目を覚ます。
「シーウォームが現れました! ロゼッタさん気を付けて! 芳紀さんからのソルフの実です。魔力を回復させて──」
 言いながら、急ぎノアも身支度を調える。
「今回も遠方から迎撃できる以上、ウィザードである私たちの力が試される筈です」
 甲板に駆け上がると、ムーンリーズは早速呪文を唱えている。
「‥‥雷神の戦槌にその身を焼かれるが良い」
 緑色の淡い光に包まれて掌から目映い雷撃を迸らせている。
 ノアも負けずに魔法のモーションに入る。
「大気に宿りし精霊たちよ、炎と成りて我に力を与えよ! 爆炎となり邪魔する敵を蹴散らせ! ファイヤーボム」
 淡い赤い光に包まれるノア。掌から30センチ程の火球が飛び出していく。
 シーウォームを中心に、雷撃と爆風が吹き荒れた。
 一方、後方で淡い桃色の闘気が膨れあがっている。ロヴァニオンである。
 両手でラージハンマーを振りかざし──。
「俺罰光臨! お前と遊んでいる暇はない! 俺は、行く! ‥‥パリに帰れば、山積みの酒が俺の帰りを待ってるんだ!!」
 住み家に買い置きの酒がこの男の殺る気を支えている。
「おりゃ!」
 叫んでロヴァニオンは海に飛び込もうとする。
「あ、その前に──」
 言って、ロヴァニオンと芳紀の武具に炎の精霊力を纏わせる。
「魔法ですから水では消えません。御武運を」
 飛び込むロヴァニオン。芳紀も負けずに海に身を投げた。
(インセクトの類ならば、節目などがあるはず。中条流の入り身で目に物、見せてくれましょう)
 言って双刀を繰り出す間合いまで接近する。
 その間にもマリウスが、愛用の魔力の籠もったヘビーボウで麻痺毒の込められた矢を撃ち込む。
 正確さと威力の双方が増した矢尻が、深々とシーウォームに突き刺さる。
「一発必中!」
 重い弓の弦を引き絞りながら、次の好機を待つマリウス。
 それを見た瞬間。ノアは思いつき、咄嗟に魔法を成就させる。
「大気に宿りし精霊たちよ、煙と成りて敵の視界を遮断せよ! スモークフィールド!」
 味方もシーウォームも視界を遮られるという条件は一緒。ならば、芳紀の毒で麻痺させて、一方的に殴れた方が、楽に戦いを進められる。
 先日の戦いでの傷が癒えきっていない事もあって、毒は煙で鈍ったシーウォームの全身を駆けめぐる。
 動きが鈍った所へ、ロヴァニオンと芳紀が蛸殴りにする。
 その様を見て、あくまで受け太刀に回るつもりであった貴政がぼやく。
「やれやれ、出番が無さそうですね──さすがに毒の回ったシーウォームは食べられそうにありませんし。解毒剤と一緒に食べるなんて、願い下げですからね」
 そして、シーウォームは止めを刺した事をキャプテン・ファーブルが吟味した上で、本当はここで解剖したいと言い出すのを、ロゼッタがキャタピーの解凍時間が迫っている事を示唆して制止し、どうにか前述のエンドレスを繰り返しながらも、パリへ入港するのであった。
 予め伝書シフールで繋ぎの冒険者を手配してあるので、一同とはここで別れる事になる。
「本当にいいのかい? 特別手当を受け取らなくて」
 キャプテン・ファーブルがアイスコフィン手当をやんわりと断るロゼッタに問い返す。
「アイスコフィンしかする事がありませんでしたから、皆さんと同じ報酬で結構です。戦闘では何の役にも立てませんでしたし」
「そうか──それならば、また今度の冒険する時に埋め合わせよう」
 そのキャプテン・ファーブルに微笑で返すロゼッタ。

 一方、酒場でワインをベースにオリジナルブレンドのスパイスや、ハーブを加えたものをロヴァニオンに進めるムーンリーズ。
「偉くこってるな? どうだ、うちの店でバーテンダーしないかい?」
「どうしましょうかね? ともあれ、呑んでみてください最新作の‥‥題して、ノイン・ラ・キャタピラーです」
 と、差し出した。
 その酒に満足したロヴァニオンが、迎え酒を飲みに、自宅へムーンリーズを誘ったのは言うまでもない。
 長いドレスタットの旅からの帰還はこうして幕を引かれた。
 これがキャタピーを巡る最初の冒険の顛末である。