●リプレイ本文
ドレスタットの街、冒険者ギルドにて──。
「フォーゥ☆
我輩こそ、イギリスに輝く褐色の秘宝! その名も輝くマスク・ド・フンドォォシッ!!
むッふふふゥ〜、我輩良い身体であろうファーブル殿?」
「う、ううむ」
マスク・ド・フンドーシ(eb1259)が蝶をイメージしたマスカレードと、山羊印のフンドシのみが隠す肉体美をシャルル・ファーブル(ez1009)、いやキャプテン・ファーブルに見せつけようとするが、マリウス・ゲイル(ea1553)が持ってきた、異臭のひとつに興味が湧いたようである。
早速、笑顔で、土産を差し出すマリウス。
「お久しぶりです、キャプテン、ウィッグルズワーズさん。ジャパンのお土産に虫の料理の詰め合わせを持ってきましたよ」
「おお、これはマリウス君。ジャイアントマンティス捕獲以来ではないか?」
「これは‥‥これは、覚えていらっしゃいましたか?」
「はっはっはっは、共に死線を潜った中だ。忘れられないよ。しかし、ジャパンでも虫を食べるのかね。まぁ、巨大昆虫でなければ、大した感慨は湧かないが‥‥」
等とやっている一方で、貧相な白クレリックのウィッグルズワースはフンドシの肉体美には興味を持たず、マスクの意匠となった蝶の種類に興味が湧いたらしく、熱心に羊皮紙にマスクのマスカレードの意匠をメモしており。時折、マスクの声にかき消されながらも、質問を発しているらしい。
そこへ羽音を立てながら、シフール少年のアルフレッド・アーツ(ea2100)が、飛んでくる。
(キャプテンとは‥‥クリスマス以来ですけど‥覚えていてくれてるのかな?)
そんな心配をよそに喜色満面のキャプテンがアルフレッドに向き直ると──。
「これは“古ワイン友の会”ナンバー1、アルフレッド君ではないか? 息災にしていたかね? 長い間、顔を見ないと思っていたが、よもやドレスタットで出会うとは思っていなかったよ」
と、キャプテン・ファーブルはブランクを微塵も感じさせない砕けた口調で、アルフレッドに話しかける。
「ちなみに古ワイン友の会ナンバーゼロはかくいう私だがね」
「‥‥やっぱり、お変わりはないようですね」
「う〜〜み〜〜が〜〜好き〜〜〜〜〜っ!!
うちの名前は漣 渚。元漁師で、今は水先案内人の侍ジャイアントやねん」
漣 渚(ea5187)がキャプテン・ファーブルファーブルの前に小舟を漕ぎながら、大波と共に現れる。
頭からしぶきを被るアルフレッドとキャプテン・ファーブル。
「やあ、これははじめまして、マドモアゼル。頼りにさせてもらうよ、渚君。今回はコメート号が如何に早く河での突入離脱を出来るかが、計画の分け目となる。漁師としての経験を当てにさせてもらうよ。自分は船の操縦は出来ても、波を読む事までは手が回らないのでね」
「任せてつかぁさい」
豊満な胸を平手で叩く渚。
今回のみ? のヘルパーを集めてキャプテン・ファーブルは旧来のメンバーと合流する。
「ところで、あれは何なのです?」
アルフレッドの目には、全身をヘビーアーマー、ヘビープレートで覆い、左手にタートルシールド、右手には‥‥ちゃぶ台を持った人間にしては大柄な影が映っていた。
ロヴァニオン・ティリス(ea1563)である。
「ああ、キャプテン。でかいのから、ちっこいのまで良く集めたな。懐かしい顔もあるしな。アル坊も狼依頼以来だな、しっかし全然大きくなってないな──その年頃っていったら、1週間でむくむくと背が伸びるものだぜ。それとキャプテン、今、ノアとムーン達がキャタピラー相手に罠の準備をしている最中だぜ‥‥ああ、あの香り、あれをツマミにして一杯やりてぇ──いや、軍馬を手に入れるまでの辛抱だ。とにかく、ベルモットを百杯買ったから、その跳ね返りが──しかし、うう」
ツッコミをアルフレッドが入れる間もなく、アルコール断ちをしているロヴァニオンの思考は迷走しているようだ。
ともあれ、以前の打ち合わせ通り、ラーンの投げ網をアルフレッドはロヴァニオンから借り受ける。この網が真価を発揮するのは水中にいるアニマルだが、この際、贅沢を言ってはいられないのだろう。
「とにかく、作戦は打ち合わせ通りで構わないのだな?」
と、マスク。
「うむ、未知の要素が多すぎるのでね、何とも言えない。ならば、知恵を絞るしかなかろう」
キャプテン・ファーブルも苦渋の選択を迫られざるを得なかった。
「大気に宿りし精霊たちよ、炎と成りて我に力を与えよ! 爆炎となり大地を削れ! ファイヤーボム」
ノア・キャラット(ea4340)の声が響き渡ったかと思うと直径15メートルの大穴が空く。そこへ次々とファイヤーボムを打ち込んで、穴を深くしていく。
「穴掘りだったら、マグナブローの方が良かったかな?」
ともあれ、ノアにとって、概ね満足し得る、尚かつ、運び出すのに支障のない、という実に微妙な──実際にやってみなければ、如何とも評価し難い深さまで掘り終えると、ムーンリーズ・ノインレーヴェ(ea1241)がぼつりと呟く。
「‥‥さてアレは此処に来るのでしょうかね? とりあえず、ベストを尽くしましょう」
言って、皆から集めたジャパン産のくさや、ワイン付けの保存食など、匂いのキツイ“もの”を穴の縁でロゼッタが灰から作った分身に持たせ、名状し難き芳香を一面に漂わせる。
「‥‥さてと後は捕獲班のかたがた頑張って下さいね」
ムーンリーズは一種、諦観したかの様な言葉を発し、監視に回る。
「『無傷で捕らえる』とは,理解は出来るが無茶でもあるな」
岬 芳紀(ea2022)は困ったような笑みを浮かべながら、近くの農家から買ってきた鶏を放し、更なる囮とする。
「準備は出来たようだね」
と、キャプテン・ファーブルが一同を労いに向かってくる。
ロゼッタ・デ・ヴェルザーヌ(ea7209)が穴からギリギリ15メートル離れた地点に位置しながら、その言葉に応じる。
「それにしてもノアさん、ハッスルしてましたわね。魔法を使う事よりも魔法の体系を理解して、世界の理を知る事のほうがあたしは好きですもの」
「おやおや、それではセージでも目指しちゃったりするのかな」
とのファーブルの言葉に、真摯な声でロゼッタは──。
「四大精霊の理を修めてから考えますわ‥‥はるかに遠い道程ですもの。でも、目の前に控えているオオイモムシ、キャタピラーと言いましたわね、の捕獲の方が大事ですわ」
井伊 貴政(ea8384)は勿体ないといった視線で、芳紀が放した、ニワトリの方を見ている。家禽だけあってさぞ肥えているだろうに‥‥。
風下から木々をへし折る破壊音が聞こえてきた。
ムーンリーズが囁く。
「‥‥アレです。皆さん、準備は宜しいですか? 申し訳ないのですが、皆さんは以降、呼び捨てにさせて頂きますね。作戦の混乱を招きますので」
ニワトリは一目散に逃げだそうとするが、繋がれているため、混乱の悲鳴を上げるだけ。
ロヴァニオンが飛び出す。どうやら、彼のにとっては常軌を逸した禁酒生活に頭がパニクっているらしい。
「ああ‥‥クサヤが虫畜生に食われちまう! させるか!!」
だが、重装甲の重み故、出足も鈍る。人間は卓袱台と盾を手に持ち、ヘビープレートを着込んだまま走り出すような仕様にはなっていない。
穴の中に大音声と共に落ち込むキャタピラー。
マリウスが鎖鞭で動きを牽制する。
アルフレッドがそこへ上空からラーンの投げ網でキャタピラーの後半身を包み込む。
タイミングを間違えていたら、投げ込んだ網は穴の中の面々もまとめて、絡めて取っていたであろう。そんな危うさが一同には感じられた。
「ゲットやで〜」
渚も続けて慣れた手捌きでキャタピラーの前半身をラーンの投げ網で絡め取った。
芳紀は両手にそれぞれロッドを持って、超近接戦闘に入り込む。
しかし、自分の得物が長すぎて、却って不自由し、網で絡め取られたキャタピラーと同等の動きしかできず、運悪く噛みつかれて、麻痺毒を流し込まれる。
そこへ落下してくるマスクとロヴァニオン。続けて貴政がダイビング。
貴政は先ず、芳紀の身の安全が大事と、全力で引き離す。
「やらせはせん、やらせはせんぞー!」
ちゃぶ台で押さえ込むロヴァニオンが叫ぶと、マスクは刺又で投げ網の絡み合っている部分を補強して、押さえ込みを完全にしようとしながら負けずに。
「ふうぅ〜、マッスッル☆!」
と全力を込める。
しかし、力の比較的弱いマスクの方に、キャタピラーは向き直ると、筋骨逞しい臀部に噛みつく。絶叫するマッスル。
「うりぃぃ〜ッ!」
毒はジャイアント印の根性でカバーして、皆の助力で立ち直った。さすが丈夫で長持ちのジャイアントと自負するだけの事はある。更にノアが周囲の蔦を魔法で操り、キャタピラーを完全に絡め取った所へ、渚が負の闘気を流し込み動きを鈍らせる。
最後に真打ち登場とばかりに淡い青い光に包まれたロゼッタが、キャタピラーを氷の中へと封印する。
それからが大変であった。投げ網などで比較的持ち上げやすいとはいえ、キャタピラーの重量はこの人数で持ち上げるにはかなりの時間を要した。
マリウスの準備した、狼煙の合図に慌ててかけつけたコメート号まで、一同の持っている愛馬まで総動員して、ようやく船の上まで担ぎ上げたのである。そこから、エンドレスで渚のオーラホールドと、ロゼッタのアイスコフィンが繰り返され、船がドレスタット港に到着した頃には、とっぷりと3日目の日も暮れていた。
明日からまた、自警団の試験監督に出るアルフレッドとマスクは早々に引き上げようとする。
「また、何かあったら力になりますからね」
「筋肉あるところにマスクありと覚えていてくれ給え」
ふたりはそういって、ねぐらへと戻っていこうとするが、貴政が引き留めて、無事であったニワトリを使っての手料理を振る舞うのであった。
それは生半可な料理店の及ぶ所ではない腕の冴え渡りであった。
キャプテン・ファーブルとウィッグルズワースは一同に食事の後、酒を振る舞い、ロヴァニオンはタダならという事で休肝日は取りやめとし、久々に痛飲するのであった。
その合計金額を聞いてキャプテン・ファーブルは卒倒しそうになるのであった。
「‥‥無事につけると良いのですが、しかしコレをパリまで持ち帰るのですか」
ムーンリーズはキャプテン・ファーブルを振り返る。
「多分、きっとどうにかなるだろう‥‥」
芳紀はそれでも一応、キャプテン・ファーブルに釘を刺す。パリへの帰路でシーウォームが欲しい等と言わさぬよう。
「いやぁ、あれは食費がかさむからね──雄か雌かも未だ判らないし、交尾や成長過程でも見物したいなら話は別だが‥‥ところで気になっている事があってね。冒険者ギルドに行って求人の張り紙を見たのだが、ドラゴン騒動のせいか、シーウォームを倒してくれという依頼はどこからも出ていないのだよ。つまり、だ。また、あのシーウォームと対決する羽目になるかもしれないという事。
まあ、詰めが甘かったという事で諦めてくれ」
酒精が入っていても一同はそんな不穏当な事項は聞き逃せなかった。
これが冒険の顛末である。