己を売った勇者の血──強く生きてみせよう
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■シリーズシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:9〜15lv
難易度:難しい
成功報酬:4
参加人数:15人
サポート参加人数:2人
冒険期間:08月25日〜09月09日
リプレイ公開日:2005年09月02日
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●オープニング
「『仁』、『智』、『勇』。みっつのテーマからなるカン伯爵領騎士団登用試験の最後のひとつ、『勇』の試験ですが──」
パリの冒険者ギルドで、黒衣の人物シューを脇に控えさせた、エルフのカン伯爵領騎士団団長、メルトラン・カンが、受け付けに切り出した。
「まあ、受けるのは冒険者の皆さんの行動次第ですからね。で、お話の続きをどうぞ」
「失礼。悪魔崇拝者の根拠地のひとつが確定したので、そこの殲滅という事で候補者に伝達願います」
その受付の言葉に対して、メルトランが、シューに対してギルドに具体的な情報を提示するように促す。
「騎士団にカン伯爵領の農民からの通報がありまして──」
男性にしては高すぎ、女性にしては低すぎる声でシューは語り出した。
情報を手早く纏めると、カンの街から歩いて1日程東に離れたコーネル村の近くの丘にある洞窟で、ここ最近の『9』のつく日に、怪しげな声や煙が上がり、村人の見知らぬ人々が多数出入りするという話があったというのだ。
「この暑い盛りに、現物を持ってくる訳には行きませんが、8月の9日の際には、血まみれの黒山羊の頭が洞窟に放置されており、それで何やら怪しげな魔法陣が描かれていたそうです。報告の遅れが有りまして‥‥だから、騎士団の増強を図るべきだと主張しているのですが。おそらく我々が動いている間にも悪魔崇拝者の礼拝行為は行われているのでしょう──」
「山羊の頭はアイスコフィンか何かで、冷凍して持ってくれば、ヒントになったモノを‥‥」
「カンでは良い水のウィザードが育たないもので──ともあれ、ファーブル殿に鑑定して貰った結果」
「え、あの人、インセクト以外に興味が在ったのですか? 失礼──」
受付は驚くが、シューは動じずに。
「モンスターの内、インセクト単独を扱う学問は無いと聞き及びますので、ファーブル殿は他のモンスター全般に秀でているのですよ。もちろん、デビルにも。
ともあれ、悪魔崇拝の儀式が行われているのは確認出来ましたので、8月29日の集会に合わせて、試験を行う事とします。
本当は『智』の試験に集っているメンバーをそのまま、動かしたかったのですが、折悪しくこの報が飛び込んできた時には皆が帰った後でして、本当にタイミングが悪い。
ともあれ、冒険者ギルドを通じて人を動かす以上、打ち合わせに手間取りますので、次善の策という事です。本当はもっと完璧にやりたい所ですが──」
以上、よろしくお願いします、とシューは受付に頭を下げた。
帰りはカンの大型船舶を出して、パリへと冒険者達を送ってくれるという。無論、食費などは只。この船の上で騎士叙勲の正式な祝いが為されるというのだ。
さあ、今ここに、冒険の幕が上がる。
●リプレイ本文
オルステッド・ブライオン(ea2449)は出発前に、ささやかに合格祝いの祝杯を一人で挙げる。
誓いを立てたマロニエの前である。
(兄弟よ、恋人よ、この兄は、ついに‥‥ついに就職が決まったぞ‥‥! とは言えまだ試用期間。本当の戦いは始まったばかりなのだ‥‥)
と、拳を握りしめた。
「いかん、急がないと、皆の移動用アイテム分配に遅れてしまう」
誓いを新たに冒険者ギルドに走り出すオルステッドであった。
一同は悪魔崇拝が行われているコーネル村へ行く前に、カン城とその城下町で各自調査を行うのであった。
カイ・ミスト(ea1911)と風烈(ea1587)は、メルトラン・カン騎士団長の下に情報の詳細を確認しに向かったが、聞いた以上の情報はここでは手に入らない。
「お忙しいのは重々承知。されど、仲間の命がかかってきますのでね。考えうる行動は全て行いたいのです」
と、カイが頼み込むが、判っている情報があるなら、先に公開しているだろう、と返される。
「で、具体的に何の情報に関してか、聞きたいのですか?」
とシューが冷ややかに返す。
代わりに烈が粘って、情報入手の際、身元の正当性を示すため、カン騎士団の紋章の入った文章を入手した。この探索の期間の間だけ、正規の騎士団員ならば、という事で、この場はシクル・ザーン(ea2350)にその文章は委ねられた。
「それにしても、前回の悪魔はいつ私達の事を知ったのでしょう」
「それは大切な疑問だね」
メルトランの言葉を聞きながら、文章を隠しに入れて、シクルはメルトランと、脇にいるシューに尋ねた。
「念のため、打ち合わせなどの際には、デティクトライフフォースで仲間や騎士団に悪魔が潜り込んでいないか確認したいのですが」
(まさかシュー様などという事は‥‥)
「私の顔に何か──?」
「いえ、何でもありません」
女性にしては低すぎ、男性にしては高すぎる声でシューがシクルに尋ねた。
「では、この場にいる面々から始めたいのですが? 構いませんか」
「結構」
とメルトラン。
「どうぞ」
シューが答える、そして烈は。
「気にするな」
十字架のネックレスを握って、大いなる父に祈りを捧げるシクル。黒い淡い光に包まれた少年は視界内にいる生物の位置と、魔法により探知された生物の位置関係に矛盾が無い事を確認した。
「どうやら、この場では不要だったようです」
シクルの言葉にシューが返して曰く。
「黒の神聖魔法では悪魔の探査に限度があるでしょう。不在の証明の方が難しいですから。シクル殿の所にピンポイントで現れたのでしたら、先日の試験の計画を立案した面々と、実際に運んだ者が怪しいですね。皆が集まった時に私がデティクトライフフォースで探りを入れておきます。一応、カイ殿の言葉に応えて、未確認ですが情報を開示しますと、このカンの悪魔崇拝者は魔王を崇拝しているそうです。魔王など出てくるには相応の何かがあるのでしょうね」
「相応の品か‥‥」
メルトランは籠もるように呟いた。
レティシア・ヴェリルレット(ea4739)はそんな状況に構わず鼻歌交じりで──。
「ああ、魔王か? 殺したら楽しいだろうな。考えてみろよ。闘争だよ。きっと血塗れ、毒塗れになるだろうな」
仁問答。繰り返すような状況か、自嘲しつつ、レティシアはメルトランに問う。
「『‥‥選べない選択、選ばない選択』か。
大局見れば、ひとり助ける為に百人捨てれねえだろ。それが誰だとしても。
『百+ひとり』を救うのに必死になるのは前線の仕事なんだぜ、騎士団長?」
「それでは私がまるで前線に居た事が無いように聞こえるな──私が11年前に選択した事は──」
メルトランの言葉を遮る様にシューが口を挟む。
「閣下、あえて過去に流した血を、お悔やみなさりますか!?」
「悔やんでいるのではない。無謬の存在扱いされる事に耐えられないのだ。
まるで、カンにとっての勇者の様な扱いをされようと、過去の過ちは消えないのだ。
諸君はレティシア殿から聞いているかもしれないが、私はひとりと、百人とを計りに掛けたことがある。そして、その選択はひとりの少年の生涯と、カンの歴史をねじ曲げたのだよ。
私はノルマン独立戦争当時に兄でもあり、親友でもあった先のカン伯爵、ゼントラル・カンと轡を並べていた。
神聖ローマ軍との戦いの際、敵の陽動作戦に対して、兄を牽制に引き向けたのだが、それが陽動ではなく、相手の本軍であった事が判った時には、兄の率いる部隊は潰走し、兄の命は燃え尽きる寸前であった!
だが、それでも兄は『メルトランが生きていた良かった、フィーシルを頼む』と言って、私の腕の中で事切れたのだ──!」
一方、氷雨絃也(ea4481)は可能性は少なそうだが情報捜し。街の酒場を巡り、情報屋を探す所から始めた。結果、カンに魔王崇拝が広まっている事。カンにある村の半分が悪魔崇拝をしている事。地獄の魔王は聖なる品を求めてこのカンを狙っている事など、話半分にしか聞けない様な情報ばかりであった。
「パリで大騒ぎになっていたからと言って、この田舎でも“魔王”などという言葉が出るとはな‥‥時差とは恐ろしい」
絃也は交換情報として“冒険者として”関わってきたデビルとの遭遇を話し、具体的なデビルの情報と、曖昧な情報との交換に成功し、事実上チャラにした。
そして、29日、コーネル村についた冒険者一同は、烈とヒール・アンドン(ea1603)が中心となって村人から情報を集めていた。
しかし、パラの響清十郎(ea4169)は道中で思いの丈を明かしていた。
「おいら、騎士団に入りたい!
そうすれば、闘技場で命懸けで日銭を稼ぐような生活からおさらば出来るからね。
今まで参加できなかったからかなり難しいことは解ってる。
だから、この戦で手柄を立てるんだ〜!」
その言葉にヒールは──。
「ま、とりあえず悪魔の力を借りるなぞ言語道断‥‥。きっちりと始末をつけないといけないですね‥‥、手柄はどうあれ。さて、とりあえず9のつく日はどんな感じなのか聞いて見ましょうかね‥‥」
「さすが、騎士はおちついているね。それが成功の秘訣?」
「どうでしょう? しかし、このノルマンだけでこれだけの悪魔崇拝者がいるとは‥‥。後顧の憂いを建つためにここで出来るだけ減らしておかないといけませんね‥‥」
「その為にはおいらは手柄を立てるんだ! そのためには名の売れた敵の首を取る事だ〜!」
マリウス・ドゥースウィント(ea1681)はコーネル村に着いたら、農民から怪しい人物が出入りする洞窟を教えてもらおうとしていた。
洞窟内部の広さと周辺の地形を把握するべきだと。
出入り口が他にもあるなら突入直前に封鎖するか罠を設置しておこうと提案するが、珍しく男装のヒスイ・レイヤード(ea1872)が──。
「お止めなさいよ‥‥。村人の中に悪魔崇拝者がいたら、ど・う・す・る・の? 大声だけが勇じゃないでしょ? 騎士様。最も、この人数で村に入った時点でアウトみたいな気がするけど」
片や、ロックハート・トキワ(ea2389)は不敵に呟く。
「力試しか‥‥入団資格を得ても、待遇次第で逃げるかも‥‥」
不穏当な発言をさらりと言ってのける少年。
「でも、『勇』とは‥‥己の中にある恐れ、迷い、欠点を理解し‥‥。
尚且つ、自分が歩んでいる『道』から足を踏み外さず、進みつづける事‥‥
己を知る勇気、己を貫く勇気……此れが俺の『勇』だ。
――父からの受け売りなのだがな」
しかし、リュリュ・アルビレオ(ea4167)にとって『勇』とは──。
「あたしの『勇』は、前衛の剣をいかに威力を殺さず敵まで届かせるか、よ。腕力無いんだもん、頭と魔法使うしかないじゃん」
「そうか、リュリュは賢いな」
少女の頭を撫でる少年ロックハート、そして向き直り。
「とりあえず、俺は洞窟の偵察に行ってみる」
しかし、オルステッドは洞窟の方面の情報を、普段遊び場にしている公算の大きい、子供たちから聞いてみる事にした。
その情報を元に、戻ってきたロックハートとの情報を付きあわせて、洞窟の概要を更に細かく詰める事に成功した。
マリウスはそこで、オルステッドとロックハートを連れて逃走経路を潰しにかかる。
「それだけじゃ足りませんよ♪」
更にアルル・ベルティーノ(ea4470)が新鮮な空気を取り入れるのに必要な空気の逃げ道までも塞ごうと画策する。
我羅斑鮫(ea4266)は自問自答する。
最後の試練が実践なんだな? と‥‥。
「しかし、あの天使ノエルとあって以来、冒険に出る気がしなかったんだが失敗したな。何とかしないとなと」
「どうしたの斑鮫さん?」
戻ってきたアルルが背中から声を掛けたのに一瞬で向き直る斑鮫。
「『勇』について、考えていたの? 自分にとって『勇』は、どんな状況でも最善を見出す決断力と、それを実行に移せる勇気だと思うの。
例えそれが敗走に繋がるものでも、最善の方法なら選択する強い心。
仁、智ともに使い方を間違っては思う様な効果は得られませんわ。
そういった意味でも勇は、重要な資質だと思います」
「ノエルが天に帰ってから半年か──漫然と過ごしていたような気がするが、今ので活が入った、礼を言う」
そして、黒い山羊を連れた、十数人の怪しい影が洞窟に入り、松明が点され、怪しげな詠唱が聞こえてきた。
「今だ」
烈が叫び、ロックハートと斑鮫を見張り打破に促す。
(未知を恐れぬは無謀、恐怖を知りなお立ち向かおうとする事こそ勇気か)
「異変は起きていないようですね。突入しましょう」
ヒールが一同を促す。
各員は付与すべき魔法を全て付与し終わっていた。
その時、見張りを倒し終わった、斑鮫とロックハートから合図が送られてきた。
セシリア・カータ(ea1643)は勝ち誇ったように呟く。
「これで準備は万端。私の一撃受けさせてみせましょう」
洞窟の内部構造は大体把握している。
マリウスは事前に裏情報を調べていた知り合いから女侍『雪輝』が突き技主体で戦う事を聞いていた。
スマッシュは大上段に振りかぶるものばかりではない。『シルヴィア』に関しては情報らしい情報が無かったが──。
カイはオルステッドに借りた魔力の籠もったヘビーボウの具合を確かめ──。
「本職ではないので、どこに当たるかわかりませんよ」
と苦笑いをリュリュと、ヒスイに向ける。
ヒスイ宣うには。
「悪魔崇拝とは‥‥かなりしつこいわね? 邪魔をするなら、容赦しないわ‥‥覚悟は、できているでしょうからね?」
「行きましょう」
シクルは言って、見張りの倒れた地点より先に進む事を宣言する。
その言葉に鳴弦の弓の弦を、オルステッドはかき鳴らす。
「恐怖に駆られた者ほど、攻撃的になって突っ込んでくるものだ。それは動物でもできる行為だ。恐怖を押さえ込み、冷静に状況を読んで、時には不名誉を覚悟で引くことができることこそが、『勇』と言うものだ‥‥と思う」
かたやロックハートはヘキサグラム・タリスマンを起動し、対悪魔戦に備える。
一同が突入すると、おそらく『シルヴィア』らしい壇の高いところで、無数の数字が書き込まれた魔法陣の中心で一心不乱に何か念じている女と、それを守護するように薙刀を構えた筋骨逞しい、『雪輝』らしい女がいた。
「後で宗教裁判かけられたくねえ奴は武器置いて下がれ! 壁際で両手あげて喋るな!!」
レティシアが叫ぶ。
驚いたシルヴィアが口上を述べる間も与えずに、リュリュはウィンドスラッシュを発動。
「シルヴィア、危ない!」
その雪輝の声に、咄嗟に印を組むシルヴィア。黒い淡い光に包まれ、大いなる父の破壊の力を解き放ち、ウィンドスラッシュを相殺する。
その刹那の攻防のやり取りの間、悠長に呪文を唱えているシクル。
シルヴィアに言ってやりたい事はあるが、今は呪文で精一杯。
更にリュリュはブレスセンサーで呼吸をしていない者を探る。
祭壇の下に倒れている面々──それなりに武装もしており、迂闊に戦えば、こちらも危なそうである──は、アルルの策により、松明の煙が籠もった為か、呼吸は荒く、戦闘できる状況にありそうにない。
その状況はともあれ、清十郎はシルヴィア目がけてソニックブームをジャイアントソードで撃ち放つ。示現流の蜻蛉の構えから、一気に剣の重みを乗せての一撃。シルヴィアは高速詠唱できるだけの余力が無く、血風渦巻き一撃で落ちた。
「やったー、これでおいらも騎士団入団だ!!」
アルルもライトニングサンダーボルトを撃ちはなって雪輝を沈める。
マリウスは絃也はできるだけ息を止めて、煙の充満している地帯を突破すると、壇に駆け上り雪輝と激しく打ち合う。
更に後方から、ヒールのホーリーが激しく雪輝を打ち据える。
オフシフトで避け、オーラリカバーで傷を治しながら戦うが、雪輝はジリ貧になり、打ち負ける。
そこへ、こっそり近づいたアルルがスクロールを広げると淡い褐色の光に包まれ、石化の魔力に雪輝を捉える。
しかし、自らの運命を悟った雪輝は自らの舌を食い千切り、自害し果てた。
「次の転生では、地獄道にこそ生まれ変わろうぞ!」
それが雪輝の最後であった。
リュリュの持つ魔法の品、石の中の蝶にも悪魔の反応は無い。
窒息寸前の悪魔崇拝者達をお縄にし、持ち帰れる各種品を回収後、絃也主導の下で、二度と儀礼に使えないように、この洞窟の内部は破壊され尽くした。
そして、カンへの帰還後。セシリア以外が受勲された祝いの席で、絃也は騎士団隊員の辞退を申し出る。
「誠に申し訳ないが今回の任命の件謹んで事態させて頂く、任命された手前悩んだが──やはり俺はただの人斬りだと確認できたのでな」
少年伯爵、フィーシルは唐突な言葉に戸惑ったようであったが、きっぱりと断言した。
「いいえ、その様に自分を認められる者こそ、向上心の余地があると僕は考えます。正式な身分ではなく、名誉騎士として残って貰いましょう。権利もありませんが、義務もありません」
「忝ない──だが、帰りの船旅はご一緒させて頂く。仲間と別れを惜しみたいのでな」
こうしてカン伯爵領騎士団に13人とひとりのメンバーが加わった。
祝いの宴の後、船でパリまで送られる一行であった。
これが冒険の顛末である。