キャプテン・ファーブル〜サヨナラ〜

■シリーズシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:4〜8lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 30 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月04日〜12月11日

リプレイ公開日:2005年12月12日

●オープニング

「あの美しい羽もこれで見納めか──」
 キャプテン・ファーブルことシャルル・ファーブルは、地のウィザード達によるストーンの魔法で部分部分が石化されていくキャピーの亡骸を見て呟いた。
 最早、冷気が忍び寄る季節故、腐敗は進行していないが、湿気は雪を呼び、早めに標本にすべく処理をしなければ、瑠璃色の羽も損なわれるだろう。
「ファーブル島とも最早お別れか──生きている内に帰ってくる事は出来るだろうが、やれるだけの事はやらないとな」
「自分も出来るだけの事はします」
 ズワースことウィッグルズワースもキャプテン・ファーブルの後ろから声をかける。
 数日かかって、あちこちのキャピーの毒により麻痺した被害者に鱗粉にアンチドートの魔法をかけて解毒してきた所だ。
「とりあえず、追放までの日限が切られている以上、ファーブル島での標本の仮処理に限られた時間しか使えない。手広く冒険者を集めて、早めに内蔵のくりぬきなどの処理をして、キャピーを立派な剥製にしてやりたいものだ」
「デビルさえいなければ──幾らでも見るべき所はあったのに、誠に残念です」
「ああ、コメート号とファーブル島の采配は、追放刑が解けるまで、ズワース君、君に一任するから。だが、それまでは私が現役だよ」
「判っていますとも。そしてパリの冒険者ギルドに人を集めにいくのも私の仕事なのでしょう」
「──おお、判って居るではないかズワース君」

 という様な事がありまして、とパリの冒険者ギルドの受付にズワースは告げる。
「成る程、接触で効果を及ぼす毒を持った、インセクトの処理をする以上、解毒手段か、防寒着などの対処手段を講じて欲しい、と」
「はい、一応、往復路の食事は、私がクリエイトハンドで作り出しますので、保存食の心配はいらない、とお伝え下さい」
 数日後、打ち合わせが済んだ冒険者を連れてパリから、快速中型船コメート号は出発するという。
 これがキャプテン・ファーブルのカンでの最後の冒険である。

●今回の参加者

 ea1553 マリウス・ゲイル(33歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea1646 ミレーヌ・ルミナール(28歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea2884 クレア・エルスハイマー(23歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea3484 ジィ・ジ(71歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea4340 ノア・キャラット(20歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea4621 ウインディア・ジグヴァント(31歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea4944 ラックス・キール(39歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea8384 井伊 貴政(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

大隈 えれーな(ea2929)/ 酒井 貴次(eb3367

●リプレイ本文

「ごきげんいかがでございますか、ファーブルさま。ジィ・ジでございます。
 この度はご出立にあたり、お手伝いに参上いたしました。よろしくお願いいたします」
 ジィ・ジ(ea3484)が年長者として代表の挨拶を述べる。
 ノア・キャラット(ea4340)も悲しげに──。
「キャプテン・ファーブル、旅立つのですね!
 私たち冒険者が、もっとしっかりキャピーやデビルに対して対処していれば、こんな結果にならなかったはずなのに、申し訳ありません、最後にお手伝いさせてください。」
「ありがとうノア君。その言葉だけで十分だよ」
 一方で、ストーンを解除する要員として、ニュートラルマジックが使えるクレリック達を対岸のカン伯爵領に戻す間も、力なく倒れ伏したキャピーの亡骸を剥製にする作業は続いていた。
 ジィが桶一杯の水をスクロールを使って華麗に操り、キャピーの亡骸の汚れた部分を優しく洗浄していく。
 もちろん、万が一、風が自分に向かって吹いても良い様に、“まるごとウサギさん”を着込むという、歳の割には念の入ったやりようであった。
 更にキャピーの表面を清らかな聖水で一拭いした後、そっと表面を柔らかな布で水分を取っていく。
 ラックス・キール(ea4944)も懸命にキャピーの屍体を切り開き、最早冷たくなった内臓を取り出していく。
 その単純行為を繰り返しながら、ズワースことドクトル・ウィッグルズワースとの会話を思い出すのだった。
 ‥‥──。
「キャピー号の製作については、仕事を増やしてしまって申し訳ない。
 私もお手伝いできればさせてください」
「いや、それもひとつの道でしょう。無期限の追放よりはキャプテンには良いかもしれません」
 ──‥‥。
 取り出した内臓はクレアがストーンのスクロールで片端から石化させていく。
 それを手伝いながら、島のまかないさん、井伊貴政(ea8384)は悲しげに呟く。
「こう、何かを捌くのは得意ですけれど、これだけ大きいのは初めてですね。あ〜、キャプテンがこの島に居なくなると、恥ずかしながら“島のまかないさん”という、ふたつ名も返上ですね──」
 消えるように呟く言葉。
 だが、それには消せない悲しみが籠もっていた。
「とりあえず、ジャパン料理の“鍋”も仕込んでありますし、この作業が終わったら、皆でつつきましょう」
「そうだね。また、会える事を信じて」
 キャプテン・ファーブルことシャルル・ファーブルも、クレア・エルスハイマー(ea2884)が準備したストーンのスクロールを使って、ファーブル島で飼っていたインセクト達を1匹1匹石化していき、今後に悪用される事の無いよう処理していった事の悲哀を漂わせながら応える。
「ついに最後ですか‥‥。何というか、寂しいですわね」
 クレアが言いながら、スクロールのプラントコントロールで植物を操ろうとするが、この冬に十分に動く草々はない。
「もう──冬でしたわね。貴政の準備する鍋で温まれればいいのだけど」
 そして経過はどうあれ、キャピーの命を奪った者として、その魂が天国へ旅立てる事を祈りたい。
 それがクレアの願いであった。
 プラントコントロールが使えないとなると力仕事の主力になるのはマリウス・ゲイル(ea1553)。
「この期に及んで『立つ鳥あとを断たず』では、拙いですからね」
 膂力逞しいマリウスは笑って応じ、その風体もサンタクロースローブのそれで滑稽さを醸し出していた。
 彼自身は剥製の作り方は判らない為、出来そうな事は力仕事という事で、取り出したキャピーの臓物も石化した後、その分類という仕事に就いていた。
「やれやれ、ここで“ペットのたまご”が出てきたら、石化しないといけませんからね」
「キャプテン・ファーブル? 『ペットのたまご』をお持ちではないでしょうか? あったら、これを私に譲ってもらえないでしょうか? キャプテン・ファーブルとの思い出に‥‥」
「おやおや、この島で出てくるようなたまごを外部に流失したら、カン伯爵から追放ではなく、車裂きの刑に会わせられてしまうよ」
 悲しげに微笑むキャプテン・ファーブル。
『ペットのたまご』は欲しいが、さすがに次のキャピーの悲劇は避けたいノアとマリウスであった。
「キャプテン・ファーブル、このファーブル島で過ごした中で一番の思い出は何ですか?」
 ノアは羊皮紙にメモを取りつつ、尋ねる。
「そうだね、やはりキャピーの羽化の瞬間だね。皆と一緒に見たあの光景は一生忘れられないよ」
「そうですよ、そうですよね──」

「さてと、最後の仕事、頑張らなきゃ!」
 言って張り切るミレーヌ・ルミナール(ea1646)であるが、クレアの眼には無理をしている様にしか映らなかった。
 ミレーヌはマリウスの手伝いを行う。
「こんなに大きいとやっぱり疲れるわ‥‥内臓って石化させて、廃棄しないんですね。これも大事な研究資料って事?」
「そう──いつか帰る日の事を考えてね」
 返ってくるファーブルの言葉に、つい涙がこぼれそうになるミレーヌ。
 彼女のキャピーを討ち取った時の心の傷はまだ完全に癒えてない。
 まるで、触ればまだ鮮血が吹き出す生傷の如きであった。
 しかし、いつまでもそれを引き摺っている訳にはいかない。傷が癒えるのはいつかにしても、今はそれを乗り越えて精一杯明るく振る舞うのであった。
(キャピーとも、ファーブルさんともこれでお別れなのね‥‥)
 そして、二度とキャピーのような悲劇を起こしてはならないと改めて誓うのであった。
 無論、自分自身にである。
「乾杯!」
 ラックスの音頭で、ゴブレットが打ち合わされ、貴政の仕込んでおいた『鍋』を囲んだ宴が始まる。
 鍋に不慣れな皆を取り仕切る、貴政。
「ほら、まだ煮えてませんから。そちらはもう良い具合に火が通ってますよ。今、肉を──」
 ラックスはキャピーの毒塗れの身体をたっぷりの湯で洗い流した後、この場でキャプテン・ファーブルの今後を尋ねる。
「うん。キャピーの件で見せて貰った蜂比令の件があるからね、ジャパンに渡って、そんな強力な魔法の品まで作らなければならないだけのインセクトを見てみたい。向こうにも冒険者ギルドとシフール通訳がいるから、どうにかなるだろうね」
「楽天的だな?」
「な〜に、ジャパンは不慣れでもその内に馴れるさ。まだ、無理が利く歳だしね」
 そして、キャピーの剥製は乾燥を待つのみとなり、一同はコメート号でパリから離れる。
 一行はパリに帰ると、その港からコメート号に乗って、イギリスのキャメロット経由で月道を目指すというファーブルを見送った。
「キャプテン、ジャパンでも頑張ってくださいね。成功を祈っておりますわ」
 クレアは感極まったのか涙を浮かべつつ、キャプテン・ファーブルに握手を求める。
 ファーブルは笑って快諾する。
 しっかりと、そして暖かい手が、握り返してきた。
「キャピーの羽を永久凍土に封じられないのは残念ですけれど。
 前に桃化さんが描いていた詳細な観察図がありますものね──いつでも一緒ですわ。
 私がジャパンに行った際は、是非お会いしたいものです」
 もちろん、ジィも別れの言葉を述べる列に加わる。
 互いにパイプを回しのみし、一服した後。
「さて、ファーブルさま‥‥お名残惜しゅうございますが、ジャパンにてもご健勝をお祈りします。
 彼の国では珍かなる生き物もいるという話ゆえ、堪能してきてくださいませ。
 餞別にこの『妖精のトルク』を。観察のお役にお立てください」
「ありがとう。ジィさんが元気なうちに帰ってこれるとは約束できないけれど、天に召されても、きっと、墓にはジャパンのインセクトの標本を手向けると約束しよう」
「──感謝の極みでございます。ウィッグルズワースさまも何か困ったことがございましたら、パリの冒険者ギルドにご相談ください。
 寿命とヒマが許す限り、馳せ参じましょうぞ」
 と、老いた顔に満面の笑みを浮かべるのであった。
 片やマリウスは──。
「キャプテン・ファーブルとのお別れ‥‥を言うところですが、私もジャパンに行くつてがあるので、また機会があれば、よろしくお願いします」
 と微笑を浮かべるのであった。
「最後になりましたが、キャプテン、ズワースさん。
 そして他の皆さんとは長い付き合いになりましたが、いずれの冒険も、いい思い出になりました。
 これを終わりととらえるのではなく、新たな始まりと考えるべきですね。
 また、どこかでお会いしましょう。
 そしてファーブル島に、サヨナラ」
 ミレーヌもその笑みに釣られて──。
「ジャパンだったら大分住んでいるインセクトも違うかもしれませんね。
 もしよかったら、帰ってきた時、ジャパンの話も聞かせてください。
 それとも‥‥私もジャパンに行こうかしら?」
「それも悪くないね。でも、キャピー号が完成するまで何年かかるか判らないよ?」
「どうしようかな? でも、今まで本当に楽しかったです。ありがとうございました。
‥‥行ってらっしゃいませ」
 これがファーブル大昆虫記、カン伯爵領での顛末である。