●リプレイ本文
「穏便にキャピーの身柄を取り戻す術がないっていうなら‥‥仕方ないわな。やっつけるしかないだろ。死人が出ている。
このままじゃ、悪魔に操られていてもいなくてもカンの人にとっては悪魔の化身に見える。
そして、それを生み出したファーブルさんと関わった俺達冒険者にも憎しみの眼差しが注がれるだろう。
やるなら一思いに。なるべく時間を掛けずに。俺達が倒すのは『瑠璃色の死神』なんかじゃない。
ファーブル島で暮らせるはずだったキャピーだ」
ラックス・キール(ea4944)は船内で一同にしみじみと語った。
「カン城方向に向かう道すがら、通る先々で生き血を吸い放題か、厄介な事に成ったもんだな。
俺はキャピーが羽化するのを見ただけなんでそう思い入れもないが、‥‥」
(長いこと関わった奴は気が重いかも知れないな)
こうなった以上やる事をやるしかない。
レイ・ファラン(ea5225)も決意を固める。
さて、キャピーをおびき寄せる囮の餌に、何人かが自らの馬を差し出そうとしたが、ゼタルとファースト、オルステッドが手配した動物を使うことで収まった。──特にオルステッドはカン伯爵領騎士団として、書類を配備して金銭面の負担がファーブルのツケになるようにしたのだった。
その為、オルステッドは数日遅れの便でカンに着くことになるのだが、これは余談。
ともあれ、ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)が先手を打って──。
「カン伯爵領騎士団に協力して乗りかかった船なのだ。こうなったらカンのため、キャピーの侵攻を食い止めるのだ! 残念ながら余はキャピーには思い入れは無いゆえ、思いっきりやっちゃうのだ。キャピーが降下してくるところを接近戦でたたくのだ」
と、言いながら呪文も装備品の重さで使用できない今、ヤングヴラドには無用の長物と化した口をぬらした手ぬぐいで覆い、毒鱗粉よけとしている──気持ちだけの問題であるが。
「まずは、戦いの定石、敵の機動力を奪うべしなのだ。羽を狙って攻撃して、飛び上がれないようにするのだ。他に、口吻を叩いて血を吸えないようにしたり、触角を叩いて感覚を奪うことが考えられるのだ。むむ〜、残酷な気もするのだが、許せ、お前は力を持ちすぎている」
「キャピーとの決着をつけなくてはいけないのですね、退治しなくても良い方法はないかと思案しましたが、結局何も思いつかず‥‥・最後は連れてきた者の責任として参りました、よろしくお願いします」
ノア・キャラット(ea4340)が碧色の目を赤く泣きはらしている。
キャピーの偵察を行っていた彼女は、進路を一同に伝える──余程、迷走しなければ、カンの都のこの地点で彼の旅路も終わるだろうと。
「私の準備は出来ましたよ。こんな事態にならなければ、保存食を皆さんにお渡しする事も無かったのですが──」
囮の動物を馬車馬風に仕立て、周囲に山と保存食を積んだマリウス・ゲイル(ea1553)が合図を送る。
どうせ、毒塗れになるならば‥‥という事で、マリウスは先行して、食事を忘れた冒険者に往復の分の食料を配っていた。
「お忙しいでしょうが、キャプテン・ファーブル。まず魔王の正体を知るべく、これまでの遭遇を元に『血を抜いた体の肉を欲する悪魔』『予言の【収穫】という言葉が似合う文字通り【大食漢】と形容される悪魔』がいないか、尋ねさせてください」
キャプテン・ファーブルことシャルル・ファーブルは腕組みをして唸る。
「大食漢だけならベヒモスだろうね、文字通りの大食漢だからあれは。だが、血を抜いた体‥‥となると、それはバンパイアの方ではないかね?」
いいや、と。コトセット・メヌーマ(ea4473)は言を左右するファーブルに対し、一言で斬り捨てる。
「ここまで来たらもう言っても良いでしょう──相手は上級デビル、アスモデウス──破壊を司る魔王だと」
一同に戦慄が走る。
上級デビルだと?
それでも激昂に駆られつつ──コトセットは冷え冷えと。
「キャピーの始末をつける。そしてキャピーを道具にしようとした者に相応の処分を。
キャピーは野生だ。野生は大勢の人とは共存できない。
人が野生より強ければ野生を滅ぼすし、野生が人より強ければ人を滅ぼす」
そっとクレア・エルスハイマー(ea2884)が言い添える。
「前見たキャピーはまだ幼虫でしたのに、大きくなるのは早いですわね‥‥。
しかも、倒さなければならない対象として再び出会うことになるとは‥‥辛いですわ」
「そう、確かに辛い。しかし、キャピーが羽を持って、その自由を我々が制御できなくなったときから、このような悲劇はいつか起きる可能性のあるものではあった。
人の身である私にとって、人を襲う野生は打ち倒さなければならない。
哀しいが、これが正しい生存競争というものだ。もし力がなければ、人はキャピーに襲われ続けることになる」
「そうですね、もし、倒さずに捕まえても、被害を受けた方々が許すはずがないでしょうし、それならせめて‥‥と考えたキャプテン・ファーブルの意思を汲んで、私も全力で向かうことにしますわ」
「この哀しい現実を利用しようとするものが居るとは。それも魔の者達が‥‥!
キャピーに短い生を強いた者よ、破滅せよ!」
憤激するコトセットがいる一方で、自分の無力に駆られるミレーヌ・ルミナール(ea1646)の姿。
「あの時インプを撃ち落としていれば‥‥」
亡くなった人々の魂に申し訳なく思う乙女。
しかし、彼女に出来る事はひとつしかなかった。
キャピーが降りてくるのを待つこと──。
もちろん、岬芳紀(ea2022)は自分なりのスタンスがあった。
「キャピーに関しては静観を気取っていたのだがな‥‥」
カン方面での調査から戻ってきたのだが、例の“予言”が取りざたされて、衛士もかなりやきもきさせらているようだ。
無論、カン城や、衛士の牢屋には厳重な見張り付きで、魔王崇拝者がひしめいている。
芳紀もリトルヴラドのそれにならい、手ぬぐいで口元を覆っていた。生き延びるためには不可欠の工夫だ。
「すまない、本当に済まない──みんな」
キャプテン・ファーブルは心からの涙を流した。
そして払暁。
「おはようございます。ごきげんよ‥‥よろしくはないですな」
と、ため息をつく姿あり、ジィ・ジ(ea3484)であった。
「ジィ・ジでございます。デビルが原因とはいえ、不始末の落とし前は付けねばなりません。
神よ、罪なきキャピーに慈悲を」
「彼が救われる事を期待しよう、主よ、我が望みを聞きとげたまえ」
カレン・シュタット(ea4426)も意を決したかの様に──。
「後味が悪いですけど、やるしかありませんね」
と口を開く。
一方で、起きるや否や、レティシア・ヴェリルレット(ea4739)は自分の毒草の在庫を確認する。
「‥‥久々に会った巨大虫が悪魔かぶれってのも‥‥ったく。カンは大変だよな。さすがにあれだけでかいと、手持ちの毒じゃ効果は期待出来そうねえな」」
レティシアは弓に弦を張りつつ──。
「俺は、小ヴラドみたいに容赦なくキャピー倒しに行かせて貰うぜ?
それこそ、ノリと勢いで騎士団なんざ、ガラじゃねえところに入っちまったが。入った以上は仕事しなきゃならねえしな」
弦をピンと鳴らす。
「ついでに、だ。
確かに俺は毒草マニアで、動物毒も、昆虫毒も、鉱物毒も興味ありまくり──だが。
毒とはいっても、あれは量で薬にもなるからな。
だからといって、無差別に何も考えずに毒殺されるのは論外なんだよ。薬師としても、毒薬師としても!
‥‥と、まあ、感情論はここまでにして」
興味と、実際の知識は別物である事は確認しておかねばならない。
一方で──。
「かといって、うーん、こーなった以上やっぱりキャピーくんを討つしかないのかな‥‥。
まー、虫との間──どちらかと言えばキャピーくんの方から──に感情が芽生える訳も無いのですけど、やはりこちらとしては愛着もあった訳でー。
でも、これ以上、カンの人達を苦しめてはいけないし、ある意味僕達のせいでもあるしで‥‥かなり複雑な心境ですねー」
悩む井伊貴政(ea8384)の言葉とは裏腹に、青い影が曙と共に見えてきた。
「朝餉の時間も取らせてくれないとは‥‥」
ラックスのヘビーボウ、レティシアのミドルボウ、ミレーヌのショートボウに番えられた矢に、炎の精霊力を付与すべく、バーニングソードがかけられていく。リトルヴラドは警戒のための、たき火の燃えさしに、ひとひらの天使の羽をくべる──。
「むう、反応は無いのだ」
どうやら、アイテムで調べても、100メートル以内に悪魔の反応は無いらしい。
「接近戦になりそうですね! 皆さんの武器をこちらに、焔の力を付加します」
ノアも近接戦にいつ移るか判らない面々にバーニングソードを付与していく。魔力が激しい勢いで消耗していき、それを芳紀も提供したソルフの実で補う。武器はあって困りすぎる事はない。
「大気に宿りし精霊たちよ、炎と成りて武器に集い焔の力を開放せよ! バーニングソード!」
クレアもそれに同調する。
「炎の力を‥‥」
特にマリウスの長巻にはコトセットが士気を上げて唱えたバーニングソードが朗々と燃えさかっていた。
ラックスのそれも然り。
彼は一撃必殺で行ける者に魔力の半分を託したのだ。
ともあれ、彼女らが放つ、赤々とした淡い光に反応したのか、キャピーはこちらに寄ってくる。
ラックスはその隙を使って、更に自らを淡い桃色の光に包ませ、炎の矢に闘気の力を加える。更に己の士気を高めるべく闘気を奔出させようとするが、これは失敗。更に続けて闘気を練り上げるラックス。
「この矢は他の生物に変身した悪魔に当たります!」
同じタイミングでジィもスクロールを広げ、銀色の淡い光に包まれ、光の矢を発するが、空中を三次元的に迷走した光の矢は己に的中する。
ノアもスクロールを広げて緑色の淡い光につつまれ雷を生み出したが、残念な事にキャピーには抵抗され、かすり傷すらも負わせられなかったようだ。
ジィは黒髪をかき乱した後、一同に礼を取る。
「むぅ、複数いるか、全くいないのか、これでは判りかねます‥‥ひょっとしたら、100メートル以上先で誘導しているのかもしれませんし、魔王ともなれば従僕を連れている事もあるでしょうし‥‥ともあれ、お役に立てなくて恐縮でございます」
しかし、その間にもラックスのヘビーボウの弦が鳴り、キャピーに向かって突き進む。
当たるか否か、五分五分の所を避けられるラックス。
「勝負運は向こうに有りってか? すまん、コトセット」
「埒が開かない。敵の数もジィさんの言葉を信じれば判らないのに、相手があれだけ頑丈だとすると、どのスクロールで迎撃すればいいの?」
ノアの手持ちのスクロールは初級ばかりであり、決定打に欠ける。
それをチョイスしようとするノア自身もパニックに陥っている。特に後に対悪魔戦を想定しようとすれば尚更である。
威力が弱く、かすり傷も与えられないスクロールか、さもなければ威力はあっても、エルフの彼女の泣き所である闘気を要求されるキャピーの毒鱗粉の圏内である15メートル四方に入るかの二者択一を要求される事となる。
しかし、今までの攻撃を攻撃と認識していないのか、キャピーは瑠璃色の毒鱗粉の防壁に包まれながらマリウスの用意した食料と、パリで調達された生き餌の上に覆い被さる。
ジィはスクロールを広げ、叫んだ。
「シャドゥバインディング!」
香り袋の匂いに一瞬エキサイトしたキャピーの動きは止まった、しかし、周囲には毒鱗粉が漂う。ジィもその餌食になる。
しかし、コトセットの目には何か、降り立ったキャピーに違和感を感じた。
「ライトニングサンダーボルト!」
雷が迸った。
緑色の淡い光に包まれた、カレンの魔法も冴え渡る。急ぎ次の呪文の文句を口の中で並べていく。
「タイムアタックなのだ! 参る。と言ってもエンペランの基本技はディザームのみ、後は武器で勝負なのだ、参る“トールの十字架”!」
リトルヴラドが全力で叩きのめす。まずは羽から──と思ったが、羽を狙えば、必然的に鱗粉が撒き散らされる。
皮膚から浸入した毒は早速に、彼を麻痺させるのであった。
「むう、不覚である」
言いながら、最後の力を振り絞ってポーションを一飲み。さすがはエチゴヤ印のポーション。解毒効果も覿面であった。
マリウスは先端と端の間が長い、長巻の柄のリーチをフルに活用し強大なスマッシュ。彼はルークの要である防御を捨てて、攻撃に走る。
ミレーヌもレティシアも彼らがエンゲージする前から番えていた矢をようやく放つ。
キャピーに攻撃する際、ミレーヌの脳裏に餌を与えたりした思い出がフラッシュバックする。
しかしそれを振り払うようにミレーヌは、
「ごめんね、キャピー」
と呟いて矢を射放つ。
手加減‥‥はできない。
レティシアが口笛を吹く。ジィの決死の行動に関してだ。
「全く、あの爺さん、とんだところで博奕をしやがって」
「私が助けにいくわ、解毒剤を飲ませないとキャピーに潰されちゃいそう」
「ん、そういう細かいの任せた」
ミレーヌが決死行に走るのをレティシアは鼻歌交じりで送り出す。伴奏は矢羽根の鳴る音だ。
「ち、二重遭難か」
ミレーヌが毒鱗粉の地域に入ってポーションを出した所で倒れるのを見て、レティシアは頭を掻きたくなった。
「俺並みの体力しかないのに、良くやるな」
一方でクレアはキャピーの差し渡し12メートルという巨体の理を活かしてファイヤーボムで地道に体力を削る。殆どがかすり傷だろうが、それでもソルフの実を囓りつつ、キャピーを痛め続ける。
爆風烈雷が吹き荒れる度に鱗粉が飛び散り、一同を麻痺の危機へと落とし込む。
ある者は倒れ、又ある者はギリギリでポーションの蓋を開けて口の中に流し込む事に成功する。
そんなマラソンは長く続かなかった。
キャピーが危険を感じ、ボロボロの翼で空中に舞い上がったのだ。
コトセットが叫ぶ。
「黒い淡い光! 黒の神聖魔法だ!」
乱戦の中、それが聞こえぬ一同。
「莫迦な──飛べる筈がない‥‥時間はまだ十分に在ったはず!」
ジィが言葉を漏らす。
「何故だか教えて欲しいですか、そんな初歩的な魔法を解く事など造作もない。児戯にも等しい事、降臨するのが早すぎましたかな? 失礼、私は破壊の魔王アスモデウスと名乗っておきます。この場では」
空中から声が響く。
問答無用でクレアとカレン、そしてノアが魔法を放つ。
虚空へと収束する一瞬の黒い淡い靄と詠唱。見えない場所から放たれた一塊の黒い炎がレイの剣を捉え、粉みじんに吹き飛ばす。
ほぼ同時に発生した雷や炎を遮った黒い炎に、その声の所在は包み込まれる。
「カオスフィールド、デビル魔法か!」
コトセットは叫ぶ。
「これで互いに雪隠詰めと言いたい所だが、カオスフィールドは内側からの攻撃も、外側からの攻撃も完全に遮断する諸刃の剣──つまり──」
「そう、帰還するのですよ。林檎の都に。それとも留守のファーブル島に行って、一悶着起こしましょうか? ちょうど、皆さんが出払っている事ですし、もっと悪趣味な人形劇も考えているのですが──それはまた今度、という事にしておきましょう」
言って声は途切れた。
「転移能力、自分が一度行った場所ならどこにでも瞬間移動できる能力か──相手が声を出すのを止めただけならともかく──本当なら上級デビルと限られたごく一部のデビルだけが持つ力」
空中にヨロヨロとはためいていこうとするキャピー、その後頭部に狙いを定めたラックスは──。
すまんなキャピー。
と、言って、弓弦を引きはなった。
瑠璃色の死神はそこになく、ただ、巨大なだけの昆虫の死体が、茜色の朝焼けに乱反射して、紫色に煌めく、鱗粉に包まれて横たわるだけであった。
6分後に空中の黒い炎は消え失せる。
カンの騎士団本隊が駆けつけたのは、ミレーヌが涙を全て流し終えてからであった。それでも彼女の目は尚も紅い。
場所は移って、カン城。
重厚な建築といい、塔の数といい、規模はノルマン有数のものであった。
そこの謁見の間で、玉座に埋もれるように座る、青い服を着込んだエルフの少年伯爵、フィーシル・カンがいる。
「シャルル・ファーブルと勇敢な冒険者の方々、カンの苦難を食い止めていただき有り難うございました。
デビルの陰謀は今だ判りませんが、よりいっそう注意するとしましょう。
ところで、キャプテン・ファーブル。ついにあなた自身が恐れていた事が起きてしまいましたね。
あなたの収拾していたインセクトが悪用されるという事態が。
この地を治めるものとして、あなたに認めていたファーブル島でのインセクト収拾を中止し、その処理の終了後の、領内からの追放を命じます」
「伯爵閣下、カンの民への謝罪の証として、キャピー号という名の船を贈りませんか?
船体を瑠璃色に塗って」
マリウスの言葉に、フィーシルは悲しげに微笑んで。
「もし、死者が出ていなければ、それも選択肢のひとつとしてあったでしょうね。ですが、聖なる母の前で審判の日を待つ人々には、その言葉は届かないでしょう。ですが、生き残った人々には必要になるかもしれませんね。何年かかっても構いませんから、船の建造も贖罪のひとつの形として認めましょう」
「船の建造の担当はウィッグルズワース修道僧に委ねましょう」
ファーブルが厳かに言う。
「私は船は動かせても、人は動かせませんから」
謁見の間を離れて、一同は客間に通される。
そこでジィは──。
「ところで、コトセット様、どうして私がキャピーの腹を割こうとしたのを止めたのですか?」
そう、戦いが終わった後、コトセットはジィがキャピーの腹を割き、万が一の可能性で存在したかもしれない卵を取り出そうとしたのだ。──個体数が少ない生物が効率よく繁殖する方法として、雄と雌の生殖機能を一個体に併せ持つ、自然には希少かつ不自然なまでの少ない存在する実例があるが、キャピーがそうだったかは結局分からない。
しかし、それはコトセットによって止められた。
もし、やっていたら冒険者一同は火あぶりは免れない所だろう。
「いや、キャピーの腹が前、見た時より更に凹んでいるのを見てね、これは──と判って。多分あなたの考えは正しいのだろうな、と思っての事だ」
「希望は残っている、と?」
「さあ、神ならぬ私には判らない事だ。だが、それが起きるのは奇跡にも等しく、辛うじて繋がった運命の糸が繋がっていくのを神に祈るしかない」
コトセットの言葉に深々と腰を折り、ジィは何時ものフレーズを述べる。
「──感謝の極みでございます」
そこでキャプテン・ファーブルはベッドから飛び降りると、一同に宣言した。
「きわめて希少なキャピーの死体を晒しっぱなしにする訳には行かない。できれば毒鱗粉をどうにかして、ファーブル島に持ち帰って、標本にしたいのだが、いいアイディアを誰か持っていないか?」
「あ、毒鱗粉だけで──グワガァゴ」
レティシアが挙手するが、毒が趣味の彼はアッという間に周囲に袋叩きにあった。
「では、ストーンで地道に石化していくか、地道にフリーズフィールドで冷たい結界を作り出してアイスコフィンで運んでいくかのどちらかになりそうだな。ま、お約束だが」
「キャプテン、あなたはめげない方でございますな。して、ノルマンを引き払った後はどちらに?」
ジィの言葉にキャプテン・ファーブルは。
「うむ、ジャパンにでも行こうかと思っている、蜂比礼と言ったかな? あんなアイテムが作り出される以上、インセクトもきっと豊富なんだろうと思ってね──話は変わるが、相手のアスモデウスは槍、神聖魔法黒、デビル魔法を使いこなす。しかも見た様子から、一度にひとつの系統の魔法ならふたつ同時に発動させる魔法技術も持っているようだ。カンの騎士団に宜しく伝えてくれたまえ」
コトセットとキャプテン・ファーブルが話し合った結果、デビルの7つの特殊能力に関してまとまった。
1.かなり多くの言語を使いこなす。あらゆる言語に精通しているともいわれる。
2.体を他の生物に変化させる。最大はおそらく自分と同程度、最小はハエまで。
3.地上にいるのと同様に空中を動く能力。突進できるほど早くはないらしい。
4.姿を透明にする能力。
5.魔法か、銀及び攻撃補助の魔法を施した武器以外からは傷つかない。
6.他の生物に憑依する能力。憑依されるてもデビルの意のままに動くわけではないが、ある程度その意向に即した行動を取ることが多いといわれる。
7.瞬時に違う場所に移動する能力。距離の制限はほとんどないらしい。
「やはり、レイの剣を恐れたのはデビルスレイヤーだからだろう。いくらデビルでもひどいダメージを受ける剣とは正面切って戦いたくあるまい」
「そんな事の為に──あの剣を‥‥さすが悪魔、やる事が汚いぜ」
レイは怒りに燃えていた。エチゴヤで並んだ日々の数々を思い返して、その炎に油を注ぐ。
「ともあれ、次回は標本制作という事で宜しく」
キャプテン・ファーブルの最後の冒険が始まる。ノルマンを実質追放され、ジャパンに行くにはギリギリのタイミングなのであろう。
これが冒険の顛末である。