【五龍伝承歌・終】刃鋼の提案
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■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月18日〜09月23日
リプレイ公開日:2007年09月27日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「‥‥はい? 何ですかこれは」
「読んでの通りだ。今回、冒険者の方々には、刃鋼殿と戦ってもらう」
ある日の京都冒険者ギルド。
ギルド職員の西山一海は、友人でもある京都の便利屋、藁木屋錬術が持ってきた依頼内容を聞いて目を点にしていた。
依頼の差出人は、丹波藩主、山名豪斬。
依頼の内容は、金翼龍・刃鋼を含む五行龍二匹と、彼等を試すために戦ってもらいたいとのことだった。
「何でも、刃鋼殿のほうから提案があったらしい。自分も含め、今までの事件で五行龍はヒトとの共存の道を順調に歩んでいる。しかし、共存するからには助け合うのが当たり前。ならば五行龍も、丹波藩のために何か仕事が出来ないか‥‥という考えに至ったらしい」
「り、立派と言うかなんと言うか。で、その話が藩主である豪斬様の下に届いたと」
「そうだ。折角の五行龍からの提案だけに、豪斬様も安易に扱えない。『いやいや、お気遣い無く。皆さんはご自由に生きていてください』などという応対は、お互いを対等と見ていない証拠だからね。‥‥それに、正直言えば精霊龍五匹が藩に協力するなどと言う話は前例が無い。実力から言っても、かなりの戦力になるだろうしな」
「でも、そんなことしたらまた周りの藩から文句が来ません? 八卦衆と八輝将、合わせて16人の凄腕魔法戦士たちと、今度は五匹の精霊龍まで従えるとなれば、河内の楠木様辺りが黙っていないのでは‥‥」
ジャパンには、神皇家と神皇家の許しを得た者以外は精霊魔法を持ってはいけないという決まりがある。平織や源徳は政治力を使って上手いことやっているが、山名は来るもの拒まずで手を出した。それも凄腕が揃ってしまった。裏を返せば他藩では仕官し難くて丹波に集まったとも言えるが、周辺諸藩から見れば面白い筈もない。一流の魔法使いは、ある意味一軍にも相当する兵力。
都から離れた遠国ならいざしらず、最も近い丹波藩の近況に、周辺諸藩は何かと神経を尖らせているのだが、山名豪斬は全く気にしていない風だった。
「従えるわけではない。あくまで五行龍のほうから協力を申し出ているのだから」
「いやいやいや。そんな理屈、通用しないでしょう」
「通用はしないだろうね。これでまた他藩から睨まれるのも事実だろう。しかし、折角築き上げてきた五行龍とヒトの絆を、『他藩が気になるから無理』で壊すわけにもいかないのだよ。刃鋼殿は説明すればわかってくれるだろうが、他の五行龍はどうだろうか? 豪斬様も、色々悩んだ末に承諾したのさ」
「うーわー‥‥。私、次に生まれ変わっても藩主にだけはなりたくないですね」
「気苦労が絶えないものさ‥‥上に立つ者は。‥‥話しを戻すが、五行龍が丹波藩に協力するようになるに当たり、豪斬様自ら五行龍の人となりや戦闘能力をお測りになるらしい。冒険者と五行龍の戦いをご覧になり、本当に協力してもらっても大丈夫か、そうなった場合の有効な采配はどんなものか、慮るとか」
「なるほど‥‥。五行龍が冒険者の方々と戦うのはあまり気持ちのいいものじゃないと思ってましたが、要は御前試合みたいなものなんですね。黄泉人とか人身売買組織の陰謀とかが絡まない分、平和でいいです」
「何気に五行龍も身体を動かせてストレス発散になるかも知れないし、な。では、依頼書を頼む」
「了解!」
ヒトと共存することを選んだ五行龍は、新たな一歩を踏み出そうとしている。
それを試験するためのこの戦い‥‥果たして、力を合わせた五行龍の力とは―――?
●リプレイ本文
●顔合わせ
「我ら冒険者一同、集合いたしました。いつでも始められます」
「八卦谷までの道のり、大儀であった。双方の戦いぶり、見せてもらうぞ」
「‥‥心得ております。黄泉人撃破に力を貸していただいた五行龍の皆様の心‥‥是非御照覧を」
某月某日、晴れ。
八卦谷に集合した冒険者と、丹波藩主、山名豪斬が儀礼的な挨拶を交わす。
琥龍蒼羅(ea1442)や山王牙(ea1774)が代表となり、間を取り持っているようだ。
「肩が凝りますわねぇ。わたくし、かたっ苦しいのはあまり好きではございませんわ」
「右に同じだぜぃ。ぐだぐだ言ってねぇで、さっさと始めちまえばいいのによ」
「こ〜ら。そういうわけにもいかないでしょ。聞くべきときは聞く。これも大人のたしなみよ」
「じゃあ、僕は子供だからパスってことで‥‥」
「やれやれ、元服の年齢を越えていれば便宜上は一人前ですよ。ええ」
順に、少し後方に控えていた、ぱふりあしゃりーあ(eb1992)、伊東登志樹(ea4301)、南雲紫(eb2483)、草薙北斗(ea5414)、島津影虎(ea3210)が、豪斬たちに聞こえないよう小声で囁きあう。
陰謀もない、軋轢もない今回の模擬戦は、言ってみれば同窓会のようなもの。
ただ、それを丹波藩の藩主が見学する‥‥その程度の気構えでいた方がよいのだろう。
そして、話が終った豪斬の呼びかけに応じ、二匹の精霊龍が姿を現した。
『あ、よかった〜。顔と名前が一致してるヒトはいないや。そのほうがやりやすいもんね〜♪』
『ん‥‥そこの赤い髪の女の子は見覚えあるな。南雲さん‥‥やったっけ?』
刃鋼と共に現れたのは、水牙龍・氷雨。
身体の大きさと牙の鋭さにおいては、五行龍随一を誇る蛟(サーペント)だ。
面識のある者もない者も、やはり精霊龍が二匹並んでいるのを見ると心が騒ぐ。
実は五行龍たち自身も他の五行龍と直接的な面識は殆ど無く、先日の黄泉将軍撃破の時初めて五匹勢ぞろいした。
こうやって気兼ねなく(とまでは行かないかもしれないが)丹波藩内を移動できるようになったのも、全ては冒険者たちの活躍のおかげであり‥‥ヒトと精霊龍が結んだ絆の証なのである。
「氷雨さんでしたか。誰が来ても楽ではありませんが、また厄介なお相手です。五行龍さんたちの力を十分お殿様に示させた上で、こちらもなんとか健闘する‥‥。なんとも難しい課題ですね」
「模擬戦は刃鋼さんの提案なんですね? 精霊龍が模擬戦を望まれるなんて珍しいことですが、精一杯戦わせて頂きますね」
「特別強い力を持つ5体の精霊龍、か。人語も解するようだし話せるなら話したいが‥‥」
ベアータ・レジーネス(eb1422)、ジークリンデ・ケリン(eb3225)、カノン・リュフトヒェン(ea9689)。
この三人に限らず、今日集まった十人の冒険者はいずれも名の知れた凄腕だ。
それに対し、五行龍は二匹だけなわけだが‥‥さてさて、どうなりますやら。
やがて、豪斬がお供の藩士と共に距離を取り‥‥高らかに開始を宣言した―――
●金と水
突然だが、世の中には物理法則と言うものがある。
そして、どんなに強くともヒトはヒト‥‥魔法無しで空を飛べるわけでなし、物体を透過できるわけでなし。
結局何が言いたいのかと言うと、『分かっていても避けられない攻撃がある』ということだ。
戦闘開始直後、刃鋼は氷雨との位置を利用し、全速力で冒険者たちに突撃した。ことスピードにおいて、翼持つ蛇は人を遙かに凌駕する。いかにも待ち構えている山王は攻撃対象から外し、後方を狙う。相手を選ばれるのは、刃鋼が空を飛び、そして人とは移動力が違い過ぎるためだ。
空中をくるくる器用に旋回し、硬く鋭い翼で冒険者の後方を蹂躙‥‥しかし、幾人か足りない。刃鋼は頭を巡らすが疾走の術で全速離脱し、人遁とパラのマントで姿を消した草薙は発見できなかった。
「おっと。しかし刃鋼さん、失礼ですがこれで私を捉えられると思われては困りますね」
『器用やね、島津さん。けど、他のヒトたちはどうやろ?』
巨体と速度を活かした刃鋼の攻撃を島津や南雲は何とか回避していた。単体ならもう少し巧く動けるのだが、巨体で潰されたら一撃で終わる魔法使い組を庇ってとなるとやや分が悪い。
一方的に見えて、それでも冒険者に脱落者が出ないのは、刃鋼の攻撃が冒険者にフォーメーションを取らせない事を主眼においたものだからだ。まだまだ序盤の主導権争いである。
「駄目です。ウインドレスを使ってみましたが、飛行を封じることが出来ません」
「‥‥剣が届かなくては腕もへったくれもない、ということでしょうか‥‥!」
「ちょっと、皆様方!? 氷雨さんも近づいてきてますわよ!?」
ペガサスに乗り、上空で牽制をしていたパフリアが叫ぶ。
開始早々に刃鋼が突っ込んできたので足並みが揃わなかったのか、氷雨がずりずりと這いながらこちらにやってくる!
「ちっ。しかし、刃鋼殿のように空を飛ぶわけでなし‥‥!」
「おうよ! 今日の得物に選んだこのドス‥‥ドスを使いこなしてこそ、漢の貫目が上がるってもんよ!」
『いっくぞぉ〜! 刃鋼お姉ちゃんに教わった技だぁ〜い!』
刃鋼よりは対処しやすい氷雨にカノンや伊東が向き直ったのは無理のないことだった。
氷雨は一行の直前まで迫ると、急に身体を捻り、意外な敏捷性を見せて尻尾を冒険者グループの前列に向かってふるった。
「嘘っ!? でっかい棍棒が迫ってくるよ!?」
「ちぃっ! トルネードだ‥‥!」
「ぬわっ、止めろバカ‥‥っ」
地上を水平に薙ぐ巨大な鞭、逃げ場の無い攻撃に琥龍は思わずトルネードを自分中心に叩き込む。伊東の体が巻き込まれて空に舞い上がり、その後ろにいたカノンは氷雨のぶちかましを受ける。
更に水蛇は器用に体を反転させて、上空から落ちてきた二人と倒れたカノンを囲い込んだ。難なく捕まる琥龍と伊東。
『へぇ〜、こんな攻撃方法もあるんだね〜』
「ずぉぉぉっ!? ひ、氷雨、お前川かなんかに漬かったろ!? びちゃびちゃしてて気色悪ぃ‥‥ぎゃああっ!?」
『氷雨くん、もっとぎゅっと締めちゃいなさい』
『は〜い。ぎゅ〜〜〜』
「まずいですね。人質を取られては、うかつに魔法が撃てません‥‥」
「や、やってくれる‥‥! 刃鋼らしくない突撃といい、一味違うか‥‥」
『それもあるけど、あぁしとくと固まっててくれるやろと思ぅたんよ。魔法使いほっぽりだして散れんやろ?』
一撃必殺の魔法を持つジークリンデと、精霊殺しを握る南雲が攻撃を躊躇した。
まるで押し競饅頭のようにまとめられた三人を、氷雨は巨体で逃がさないよう取り囲んでいる。
流石は五行龍一の頭脳の持ち主にして、人とほぼ同等の思考レベルを持つ刃鋼‥‥といったところか。
「仲間の特徴を掴むのが上手い‥‥か。だが、これで一対七だぞ」
「氷雨君には悪いけど、そうしてる限り動けないよね! 一撃離脱させてもらうよっ!」
「シフォニー、魔法攻撃を! 上空ではわたくしは上手く戦えませんわ!」
山王が野太刀を振りかぶり、草薙がマグナソード、パフリアがペガサスに促しての魔法攻撃を各々敢行。
しかし、刃鋼が黙って氷雨をやらせるわけがない。
『甘いわ。パフリアさん、空中戦やったらウチの方が圧倒的に上やで?』
「きゃあっ!? シ、シフォニー!」
ペガサスとパフリアは刃鋼の翼に斬りつけられ、姿勢を崩し墜落。シフォニーの実力は刃鋼に大きく劣るものではないはずだが、模擬戦というシチュエーションに神聖な戦いを好む天馬は乗り気では無かったのかもしれない。ベアータのグリフォンと一緒に攻撃していたら立場は逆になったかもしれないが、ベアータは戦闘に耐えられるような騎乗技術を持たないので後方に居る。
その間、仲間を傷つけないよう注意しながら攻撃した山王と草薙に、氷雨は我慢できず戒めを解いてしまっていた。
『氷雨くん、もうちょい粘ってや‥‥』
『ご、ごめんなさい、刃鋼お姉ちゃん‥‥』
実は氷雨は締めが得意では無い。
本気で潰さないように配慮している節もあり、気持ちが緩むとすぐに解いてしまうのである。
そして、その隙を見逃す者など、この面々の中にいようか。いやいない(反語)。
「威力は落としておきますが‥‥マグナブローです」
『うわっち!? こ、高速詠唱でこんな超威力なの!?』
爆炎のあだ名は伊達ではない。仲間を巻き込まないよう常に注意しても被害が出るほどの威力だが、破軍と評しえる大魔法使い。
「‥‥抵抗しましたか。しかしそれでもダメージは大きいはず‥‥!」
ジークリンデお得意の火の魔法が炸裂し、山王がそれに続く。
あえてエレメントスレイヤーを使わず、魔法がかかった野太刀で挑んだ山王である。
彼の一撃は重いと知っている刃鋼は、急いで援護に回ろうとするが‥‥!
『っ!? ソニックブーム‥‥南雲さんか!?」
「すまんな。私もあれから‥‥強くなった」
「離れていると思って油断しないで下さいね。ストーム、はまだ無理なら、このライトニングサンダーボルトのスクロールを」
南雲、更に遠距離射撃でベアータが刃鋼をカット、氷雨の援護に向わせない!
「森へ移動する間もないとなれば、攻めるしかあるまい! 知恵の回る龍か‥‥相手にとって不足なし!」
「過程はどうあれ、最後をしっかり締めることが後始末屋にとっては重要なのです。ええ」
「ほ〜ほっほっほっ! やられてばかりなんてわたくしには似合いませんわね! 氷雨さんに逆恨みの一撃ですことよ!」
「一発逆転は男の花道ってな! チンピラ魂‥‥受け取れやぁぁぁっ!」
カノン、島津、パフリア、伊東が氷雨に向かい、追撃をかけようとする。
とはいえ、山王にやられた傷が痛む、氷雨もこのままでは終わらない。
『転がるけどいい? 答えは聞かないけど!』
縦に伸び、回転して体当たりを行う氷雨。さっきの攻撃といい、同類であるはずの蛟が見れば卒倒しそうな力技のオンパレードである。ある意味凄いが。
四人は氷雨に轢かれたような格好になるわけだが、これがまた痛い。
重いわ勢いがあるわで、絶対的な質量の差というのを思い知らされる一瞬であった。
ようやくお互いノッてきた‥‥ヒートアップしてきたところで、思わぬ静止が入る。
「それまで。もうよい、本気の殺し合いをする必要はないのだ」
丹波藩主、山名豪斬。
すっかり忘れていたが、今回の依頼は御前試合のような形式で、彼が視察に来ていたのだった。
「すっこんでろい! 今いいところなんだ‥‥いくら丹波の藩主様といえど、喧嘩の邪魔は遠慮願うぜ!」
『そうだそうだー! 僕はまだやれるよ! 邪魔はんたーい!』
「やめなさい、氷雨。きっとこれも試験の一環だと思うわ。止めろと言われてきちんと止められる分別があるかを量られているのよ。多分、ね」
「南雲の姐さんよぅ、それじゃこっちの収まりもつかねぇってもんでさぁ! 俺はまだ倒れてねェ! 負けてねェ!」
『‥‥伊東君、やったっけ? 大事そうに持っとったあの植木鉢、頑張って育てたんやねぇ』
「ごふっ! ‥‥さすがだ‥‥森忌のダンナが、姐さんと呼ぶ御人だ‥‥か、勝てねぇ‥‥」
何故かガックリと膝をつき、いきなりの敗北宣言をする伊東。
そんなに植物を育てるのに難儀をしていたのだろうか(何)。
わかってくれたのはあんただけだぁ、などと刃鋼に泣きついているが、とりあえず無視しよう。
「氷雨君、今回はこの辺にしておこうよ。模擬戦っていうのは、大変なことになる前に止めるのが普通なんだからさ」
「そうです。あまり駄々をこねると、刃鋼さんに怒られてしまいますよ」
『うー‥‥わかったよぅ。刃鋼お姉ちゃんに迷惑かけるわけにもいかないしね〜』
「‥‥正直、驚きます。物分りがいい‥‥と言っては失礼かもしれませんが、こんなに話の通じる精霊がいるなんて‥‥。魔法に携わって長いですが、初めてのことかもしれません」
「‥‥まったくだ。私も色々な国を旅して回ったが、フォーメーションを組んで戦う精霊、な‥‥興味は尽きん。刃鋼殿、よろしければお話を伺いたいが‥‥よろしいか」
『勿論や。ウチら月精龍は、お話大好きやさかい』
模擬戦とはいえ、激しい力と力のぶつかり合いをした後でなお、こうして和気藹々と語り合える。
その光景を見て、豪斬も優しい笑みを浮かべたと言う。
「現場にいなかったのは残念ですけれど、十七夜も倒したことですし、五龍とのこういった機会も必要ですわよね」
「ほう‥‥珍しく意見が合うな。俺もそう思っていたところだ」
「‥‥困難を乗り越え、五行龍の方々と人々が協力できる未来。今はただ、それを目指して‥‥」
「未来に繋がる後始末というのも、中々に乙なものかも知れませんね」
途中で止められてしまったものの、一進一退の攻防を繰り広げた一同。
続けていればどうなったかは、神のみぞ知ると言ったところだろうか。
まだまだ五行龍の試験は始まったばかり‥‥さてさて、次の対戦はどうなることやら―――