●リプレイ本文
●戦線移動
「いきなりで申し訳ありませんが‥‥仕切りなおさせていただきます」
『む‥‥スモークフィールドか。あかん、姿が見えへん』
『ちぃぃぃっ、面倒くせぇ真似しやがって! 芭陸、追えるか!?』
『一応は。‥‥どうやら森林地帯へ逃げ込むつもりのようですね』
某月某日、丹波藩八卦谷。
再び催された五行龍の試験と言う名目の戦いは、今回は刃鋼、熱破、芭陸の三匹が相手のようだった。
この戦い、開始前の魔法での準備は禁止されているらしく、冒険者側も五行龍側も準備万端で挑むとはいかない。
単純に身体的な差もある五行龍が三匹となると、まともに戦っていては不利。
そこで冒険者たちは、ジークリンデ・ケリン(eb3225)に開幕直後に超範囲のスモークフィールドを使用してもらい、戦場を移動することにした。
開始場所の開けた平原では単純な力勝負になりやすいので、身体が小さいヒト故の利点を生かすため森の木々の中へと身を隠しながら戦い、逆に五行龍の体躯を枷にできないないかと考えたのだろう。
「奇策、となるかも分かりませんが、皆様の移動の助けとなれれば‥‥!」
視界が煙で塞がれると同時に、御神楽澄華(ea6526)はペットのグリフォンに乗って刃鋼に突撃する。
事前に五行龍の編成が分からない以上、確実に戦場に存在する刃鋼を狙うのはいい作戦だ。
しかし、刃鋼もむざむざやられはしない。
御神楽が初っ端からグリフォンに乗っていたことを思い出し、逆に煙の中に突っ込んで特攻を回避する。
「‥‥御神楽さん、全員の移動が終りました! あなたも森へ!」
「くっ‥‥適切な対処です。流石は刃鋼様‥‥!」
山王牙(ea1774)に呼ばれ、御神楽は森へ向う。
グリフォンを狩る御神楽と刃鋼が真正面からやりあったなら、それは絵になる光景であっただろう。
「成功のようです。どうやら五行龍の方々は森に入ることを躊躇しているようですね」
「ふ‥‥流石は刃鋼だ。迂闊に追いまわすような真似はしないか。そうでなくては困る」
「それにしても、森林での戦闘だから、熱破がいるから山火事にならないかが心配だよ(苦笑)。ジークリンデさんの魔法も熱破以上に‥‥(汗)」
ベアータ・レジーネス(eb1422)が、森の中から熱破たちを見て呟く。
南雲紫(eb2483)の言うように、刃鋼は知略においても侮れない。
草薙北斗(ea5414)は火事にならないかの心配をしているようだが、無駄だろう。断言してもいいが火事になる。
現在森の中から見ているが、刃鋼たちは平原に固まったまま動かない。
何やら相談しているようにも見えるが‥‥その心中は分からなかった。
と、思ったのも束の間‥‥刃鋼たちは、各々苦手としながらも何らかの魔法を使用、更に芭陸が地面に消えた!
「げっ、ありゃアースダイブじゃねぇのか!? 熱破たちも近づいてくんぞ!?」
「いやはや、空・陸・地中三方向からの攻撃ですが。厄介ですね」
伊東登志樹(ea4301)や島津影虎(ea3210)が言うように、三方向からの攻撃されるとなると対処が難しい。
「前回見せた尻尾で薙ぎ払うと言った巨体を利用した攻撃は使いにくくなるだろうが‥‥微妙か」
「ふぅ、お相手が少女でないのが残念です。やはり、いぢめて楽しむならかわいらしい少女に限りますから♪」
琥龍蒼羅(ea1442)が危惧するのは、森の破壊を五行龍が躊躇するかという点。
自分たちもそうだが、いざとなればこの森が焼け野原になろうが知ったことではないと思っても不思議ではない。
そんな中、ユナ・クランティ(eb2898)だけはやっぱりマイペースであったという。
五行龍が戦いにくいであろう森の中を戦場に選んだ一行。
果たして、それに対し刃鋼の取った策とは―――?
●空・陸・地中
「うぉぉぉい、ジークリンデさんよう! あっちこっちにスモークフィールド張ってくれるのはいいんだが、こっちからも熱破の姿が見えなくなっちまってんぞ!?」
「くっ! は、刃鋼様も、木の高さギリギリ辺りをよくも器用に飛び回られるものです! 山王様!」
「‥‥分かっています。飛ぶためのはずの六枚の翼‥‥それがそっくり武器になるとは‥‥!」
ジークリンデが張ったスモークフィールドは、確かに有効だった。
しかし、それはむしろ自分たちにであり、不利になった感が拭えない。
刃鋼はその巨体ながら器用に低空飛行し、木々の間を縫って翼を振るい、大量の枝ごと冒険者を伐採しようとする。
六枚も翼があれば、そのうち二枚くらいを攻撃にまわしても飛ぶのに支障はないようだ。
御神楽と山王が攻撃を受け止めるが、翼を攻撃しようにも、翼の移動が速い上に木の葉が邪魔でその軌道も読みづらく、的確な反撃ができない。
ヒット&アウェイを上空で繰り返されると、流石にしんどいわけだが‥‥刃鋼は適時ムーンアローを使い、冒険者たちの居場所を割り出しているようだ。
『そこの坊主、まずはてめぇだ! 言っとくが、俺は一度火が付いたら徹底的に最高潮だぜぇぇぇっ!』
「いやはや、私はお坊さんではありませんよ。剃髪していれば僧侶と言うわけではありません。ええ」
「あらあら、暑苦しいことですわ。にしても、インフラビジョンでも使ったみたいですわね‥‥面倒ですの☆」
「芭陸さんの出方が気になるけど‥‥っていうか熱破、発火能力は駄目だってば!?」
島津は熱破の攻撃自体はひょいひょい避けるが、発火能力でジリジリダメージを蓄積されてしまう。
ユナはアイスブリザードとローリンググラビティの巻物で後方支援。
無論、たまに島津も巻き込むのだが、アイスブリザードの冷気が発火能力のダメージを軽減する場面もあったので、結果オーライとも言える。
そして草薙が熱破の周りを疾走の術と微塵隠れで撹乱するのだが、やはり発火能力でダメージを貰う。
熱破が移動するたびに火事が広まっていくので、手早く対処すべく伊東が攻撃を叩き込もうとするが‥‥!
「地中から芭陸さんが来ます。アイスコフィンで蓋をしますね」
「よせ! おそらくその程度では―――」
バイブレーションセンサーの巻物で芭陸の接近を感知したベアータは、持ち込んでいた布を地面に広げてアイスコフィンで固め、出現予測地点を封じ込めた‥‥つもりだった。
「どんだけぇぇぇ〜〜〜!?」
『御冗談を。この程度で小生を止められるとでも?』
制止の声を上げた南雲の予想通り、アイスコフィンをかけられた布そのものは砕けなくとも、地面に置いただけのそれが何の障害になろうか。
哀れ、伊東は芭陸の体当たりで弾き飛ばされ、その芭陸は再び地面に姿を消した。
「こういうときは私の出番です。Bセンサー‥‥位置確認。マグナブローで迎撃します」
ゴゥン、と大音響がして、地面から芭陸が抉り出される。
超威力のマグナブローを喰らえば、流石の芭陸も大ダメージである。
「‥‥おい、あまり無茶をするな。味方が起こした火事で焼け死んだでは話にならん」
琥龍のツッコミからも分かるように、ジークリンデの放った魔法で新たな火事が生じた。
トルネードの風で火消しはしたが、熱破が起こしている火事の方まではどうにもならない。
「熱破の発火能力がやはり厄介か! これ以上延焼する前に‥‥沈める!」
森への配慮もあるが、苦戦する島津たちの援護に向うべく南雲が動くが‥‥!
『あなた‥‥小生に突かれてみます?』
自己再生のために動かないと思われた芭陸が突然戦闘を再開、体当たりで南雲を攻撃し、援護をカットされる。
しかし!
「‥‥南雲さん、熱破様をお願いします。このままでは戦闘後の消火活動にも支障が出そうな気がしますので」
「芭陸様は私たちがお相手いたします! 瑞鶴!」
山王と御神楽が刃鋼から離れ、芭陸に狙いを変更。
森の中ということもあり、御神楽はグリフォンから降りて戦っていた。
グリフォンには戦闘の補助をさせており、芭陸はかなりの苦戦を強いられることになる。
『野郎、上等じゃねぇか! だが芭陸、悪いがてめぇでなんとかしろよな! 俺ぁこいつらの相手で忙しいんだ! えぇい、くそっ! 北斗はともかく、この坊主はよく避けやがる!』
「ですからお坊さんではありませんて(汗)。しかし、ジリ貧とはこういうことを言うのでしょうか‥‥」
「ちょっ、ちょっ、熱破、やりすぎだよ! 森を無くす気!?」
『真剣勝負だろバカヤロウ! いざとなったらそこの吹雪女がなんとかすんだろ!』
「あらあら、私はもうすでに精神力がなくなってしまいましたの。ですからのんびりお茶させていただいてますわ♪」
「どっから取り出したんだその急須とかはよ! つか、火事ン中でもマイペースかオイ!? まぁいいや、こうなりゃヤケよ! 今時のチンピラは、真っ直ぐツッコムだけじゃねぇんだよ! 人参収穫祭してやるぜぇぇぇっ!」
『意味わかんねぇんだよ、てめぇはぁぁぁっ!』
似たもの同士決戦をする伊東と熱破を初め、島津、草薙、ユナ(はちょっと違うかもしれない)が熱破を足止め。
こうなると、刃鋼は芭陸を助けに行かざるを得ない。
いくら殺し合いではないとはいえ、山王と御神楽の攻撃の重さは軽視できないのだから。
『刃鋼姉さん? いけない、これは孔明の罠です』
『罠でも助けんわけにはいかんやろ!』
そう言って芭陸のところに行こうとする刃鋼の真正面に、南雲が立ちはだかる。
彼女が熱破に当たっている間に、山王と御神楽が五行龍二匹を相手にしなければならなくなると判断したからだ。
このまま真っ直ぐ突っ込めば、どう足掻いても南雲の攻撃は避けられないが‥‥!
「刃鋼‥‥お前らしすぎて心苦しいくらいだ。だが、こちらも負ける気はないのでな!」
『っ!』
南雲が放った、エレメントスレイヤーからのシュライク+ソニックブーム。
精霊龍である刃鋼にはかなりのダメージとなるこの攻撃‥‥刃鋼はこれを避けられるほど回避に恵まれていない。
しかし、そこは刃鋼。どうやら攻撃を貰うのは覚悟の上だったようだ!
「なっ‥‥突っ込んで―――」
『た‥‥ただでは、やられんわ‥‥!』
攻撃を喰らっても、そのまま慣性の法則に従って南雲に体当たりする刃鋼。
刃鋼と地面とのサンドイッチにされ数メートル滑った南雲は、それこそ肋骨の半分くらいはいったかも知れない。
「やめよ。もうそこまででいい」
と、今回はここで丹波藩主・山名豪斬の静止が入った。
流石にこれ以上火事を広めるわけにも行かないと判断したのだろう。八卦衆・水の凍真が消火活動を開始していた。
いきなり戦場移動された挙句火事にまで巻き込まれてしまったが、見るところはしっかり見ていたようである。
長引けば八卦谷の森林地帯が根こそぎなくなっていたであろうこの勝負‥‥結果から言えば、刃鋼と言う司令塔がやられたことで五行龍側の負けだろうか?
とにかく、第二戦はこれにて終了である―――
●刃鋼の真意
「刃鋼さん、こうして模擬戦をする真意をお伺いしたいと思います。何だか、よからぬ事への備えというか訓練をして頂いてるようで、その辺が気になりましたので。私の思い過ごしでしたらいいのですけれど」
「そうね‥‥その辺りは私も聞いておきたかったわ。自分から戦いたいなんて、あなたらしくないものね」
「刃鋼様‥‥以前芭陸様の件でお会いした際は立て込んでいましたが、あなた様は争いを好む性格ではないと感じました。つまり、この模擬戦には何か意図があるのではありませんか?」
模擬戦終了後、ジークリンデ、南雲、御神楽が刃鋼に質問をぶつけた。
それに対し、刃鋼はゆっくり答える。
『この国に限らず、世界は人ならざる者の脅威と常に隣り合わせや。京都の比叡山の鬼騒動なんかは氷山の一角にすぎん。たまたま目立ち、強いのがおっただけ。せやから、あんたらヒトは学ばんとあかん。そんじょそこらの妖怪を超える、人ならざる者との戦い方をな。その手伝いができれば思うただけや。それに‥‥』
一呼吸置いて、刃鋼は続けた。
この丹波に、まだ燻ぶる悪意があるような気がする、と―――