●リプレイ本文
●迎撃体勢
丹波藩南西部にある、刃鋼が住処とする岩山。
どんどん寒くなっていく京都周辺の気候のご多分に漏れず、丹波も勿論寒い。
特に、骸甲巨兵を待ち構えて時が過ぎ、夜になってからはそれが顕著だ。
冒険者の大半は、しっかり防寒着の備えをしてあったのだが‥‥。
「うぅぅ‥‥さ、寒いですわね‥‥! 焚き火に当たっていても背中から冷えていきますわ‥‥!」
「あらあら、困りましたわね。それじゃあ女同士友達同士、肌と肌で暖めあってはいかがでしょう☆」
「もう‥‥緊張感が無いわね。これから最上級に危険な相手と戦おうっていう時に‥‥」
「いつものことだ。俺はもう慣れた」
そう、ぱふりあしゃりーあ(eb1992)とユナ・クランティ(eb2898)は防寒服を用意していなかったのである。
家にあったとしても今持っていなければ意味がない。加えて、この二人は普段から妙に薄着だ。
街中ではよくても、山中での活動には適していないのである。
溜息をつく南雲紫(eb2483)に、琥龍蒼羅(ea1442)はさらっとスルーを推奨する。
焚き火の前で、ユナがべたべたとパフリアに絡む姿は、仲睦まじそうではあるが目には毒である。
「いやはや、羨ましい‥‥いやいや、由々しき事態ですね。防寒着の予備があればよかったのですが、流石の私もそこまでの後始末には手が回りません」
「いいな〜、仲よさそうで。ねー御神楽さん、僕たちも抱き合いっこして暖まろ(抱きゅ)♪」
「ふぇっ!? わ、私は防寒着がありますから! というか、返事も待たず抱きつかないでください!?」
島津影虎(ea3210)が責任を感じる必要は無いが、確かに二人が寒さで能力低下をすると痛い。
一応、パフリアとユナはペガサスに乗って戦う予定なので、動きの鈍りはそこまで深刻ではないかもしれない。
まぁ、逆に考えると、風を切って空を舞うとさらに寒い思いをするということでもあるのだが。
一方、草薙北斗(ea5414)に気に入られている御神楽澄華(ea6526)。
慌てながらも振り払うことをしない二人のやり取りを見て、男泣きをする人物が一人。
「17って言やぁもう充分オトコだろうによ‥‥。なんであいつはあんな事が許されるんだよ! なぁ、おい!?」
「‥‥私に同意を求められましても。あえてノーコメントとさせていただきます」
「可愛いからではないですか? 草薙さんの可愛さは断じてあなたにはありません」
「チクショー! グレてやるーっ!」
チンピラである伊東登志樹(ea4301)はもうグレていないか? というツッコミは無しの方向性で。
これからの戦いに集中したい山王牙(ea1774)と、さらっと酷いことを言うベアータ・レジーネス(eb1422)の応対に、伊東は絶叫して更に男泣きするのであった。
『しっ。来たで‥‥お客さんや。でかい‥‥!』
岩山の主であり、今回の防衛対象であり、一同の友人である精霊龍‥‥金翼龍・刃鋼。
夜間でも問題なく遠くを見通す彼女の目が、遠方からゆっくりと歩いてくる巨大な人型の物体を捉えた。
耳を澄ませば、ずーん、ずーんという地響きのようなものもこちらに向ってきているのが分かる。
そして‥‥それが近づけば近づくほど、一行に見えないプレッシャーのようなものがかかり、じっとりと汗をかいていく。
そして‥‥彼等は現れた―――
●黄泉人軍団、再び
「ほっほっほ‥‥これはこれは。わざわざのお出迎え痛み入ります。お久しぶりとでも言うべきでしょうか?」
「知ったお顔が何人かいらっしゃいますが、やはり迎え撃ちにいらっしゃいましたか‥‥ご苦労なことです」
「ふ‥‥やはり貴様らか。また会えるのを楽しみにしていたぞ‥‥!」
巨大な骸甲巨兵の中から平良坂冷凍の声が二人分と、骸甲巨兵の肩に十七夜の姿。
全長18mの巨大な骸骨妖怪‥‥しかもそれが同サイズの刀や鎧で武装している姿は最早恐怖でしかない。
しっかり戦闘準備を終えて待ち構えていた一行も、木々をなぎ倒しながら平然と歩いてくるその姿を見て、言葉を失った。
「‥‥外見は以前と変わらない。大きさも変わっていないようですが‥‥!?」
「感じるプレッシャーは以前の比ではありません。皆さん、注意してください」
直接相対したことのある山王やベアータでさえ肝が冷えるのだ。
夜の闇に、髑髏の目部分に灯る真紅の光が更に不気味に感じる。
「ふん‥‥話には聞いていたが、まさかこれほどのものとはな。自分が相対するとは思わなかったぞ」
「向こうのペースに乗せられる前に動きますわよ! ユナさん、お乗りなさい。シフォニーで飛びますわ!」
「はいですの♪ (ぎゅーっとパフリアの腰に手を回し)‥‥パフちゃん、少し太った?」
「こんな時にまであなたはぁぁぁっ!?」
「おやおや、随分賑やかですね。念のために聞いておきますが‥‥邪魔を止めていただくことはできませんかね? 私としましても、無駄な労力はなるべく使いたくないのですよ」
南雲が手でサインを送り、一行は事前の作戦通りの配置に着く。
寒さに耐えながらペガサスに乗るパフリアとユナが、頼もしいのやら頼もしくないのやら。
そして、冷凍の要求に対する全員の答えは‥‥。
「御冗談を。冷凍殿程の方なら、私たちの答えなど用意に想像がつくでしょう?」
「島津さんの言うとおりだよ! 熱破に重傷を負わせたこと‥‥許さないよ‥‥!」
「やれやれ‥‥期待はしていませんでしたが。よろしい。なら死になさい」
問答が無駄だと確認した冷凍は、骸甲巨兵に指示してその巨大な刀を振りかぶらせる。
その狙いは‥‥あくまで刃鋼!?
しかも、あろうことかあの巨体でジャンプして刃鋼に斬りかかる!
「げっ!? おいおい、あんなんフォローできねぇよ!」
「任せろ。ストーム‥‥体勢を崩すくらいは!」
「お手伝いします」
琥龍、ベアータがストームを発動、跳んだ骸甲巨兵を体勢を崩して刃鋼への攻撃をカットする。
が、二人がかりでようやくといった具合なので事は慎重に運ばねばなるまい。
「あらあら? 御神楽さん、十七夜の姿がありませんわ。先ほどまで肩に乗っていましたのに‥‥」
「いつの間に!? 気をつけて、インビジブルとか使ってるかもしれないよ!?」
ユナの報告を聞き、草薙が微塵隠れで御神楽のすぐ傍に移動。
御神楽もグリフォンに乗ったまま、辺りを警戒する!
「‥‥‥‥そこですっ!」
神経を研ぎ澄まし、気配を探っていた御神楽は、グリフォンを巧みに操り疾駆。
手にしていた長槍で、虚空を貫く!
「ちっ!? いつぞや殺し損ねた女か!」
「そう何度も同じ手をっ!」
姿は見えないが、どうやら腕辺りを掠めたらしい。僅かだが手応えがあった。
十七夜は舌打ちをし、追撃に入った草薙から距離を取る。
「ん‥‥? ただの長槍かと思ったが‥‥魔法の武器だと? ‥‥まさかな」
「畜生道を突破した証のこの槍‥‥何やら覚えでもおありですか? 『陰陽師』様」
「‥‥‥‥」
とある経緯で手に入れた長槍を見せてカマをかけてみるが、十七夜は無反応。
いや、むしろ黙り込んだことが返答のようなものか?
すると、十七夜は消えたままで骸甲巨兵に向って叫んだ。
「比良坂様! 冷凍様! 申し訳ありませんが、確認しておきたいことができました! 先に帰還しとうございます!」
「ふむ‥‥いいでしょう。あなたがそう言うのなら重要なことなのでしょうからね。お退きなさい」
「また逃げるつもりか、十七夜。今度は前回のような芝居は抜きか?」
「‥‥ふん、芝居ではなかったさ。適当に負けたふりをして逃げようと思っていたが‥‥まさか使役すべき亡者共が反逆するとは思わなかった。危うく黄泉路へ逆戻りするところだったぞ。風使い‥‥そのうちまた会おう。特に、そっちの女はな‥‥!」
「おいおい、逃がしちまっていいのかよ!? 今ならまだ追えるぜ!」
「いいえ、駄目です。むしろ逃がした方が得策でしょう。数を減らせれば、それだけ骸甲巨兵の後始末に専念できます」
「‥‥そうです。あいつは、他にちょろちょろする敵がいながら相手ができるような物体ではありません‥‥!」
伊東の気持ちも分かるが、島津や山王が言うとおり、敵が勝手に数を減らしてくれるなら好都合。
姿も見えないことだし、逃げに徹されれば追うのはかなり億劫。
それに‥‥!
「ちぃぃっ! あのガタイでなんという鋭さだ! 下手を踏めば一刀両断にされる‥‥!」
「ちょっ、まっ! 皆さん、速く手伝ってくださいまし!」
「うーん、抵抗力高いですわね〜。アイスコフィンが通用しませんの☆」
骸甲巨兵に当たっていた南雲、パフリア、ユナが大苦戦しているのだ。
一撃でも刀の攻撃を受ければ死が見える以上、避けるしか防御手段は無い。
刃鋼もその刃の如き翼で攻撃を担当しているが、硬い鎧に阻まれてダメージを与えられない!
『くっ‥‥けど、みんなが集中攻撃すれば、いくらこんなバケモンでも‥‥!』
「ほっほっほ‥‥そう上手くいきますかね?」
「上手く行かすんだよバカヤロウ! 足の親指がないと踏ん張りが効かねぇ、コレ、人体学的ジョウシキのことアルヨ!」
伊東が骸甲巨兵の足元に駆け寄り、親指の骨を砕こうとするが‥‥!
「って!? ご丁寧に足まで鎧で覆ってやがんのかよ! 前もこんなんだったかぁ!?」
「足を止めてはいけません! 狙われていますよ!」
島津が伊東を突き飛ばし、真上から突き降ろされた刀の切っ先から救う。
生身でその刀を受け止めたことがある山王だけは、何かしらの異変に気がついた。
「‥‥これは‥‥以前よりパワーが増している? まさか!?」
全力で踵に攻撃を叩き込んでみて確信した。間違いない、防御力も増している。
大きさが変わらないのなら、その違いはどこから来るのか?
「ほっほっほ‥‥しかし、多勢に無勢は否めませんね。以前のように力を合わされても厄介です‥‥あの手でいきますか」
「そうですね。度肝を抜いてやるとしましょうか」
姿が見えないのでまるで一人芝居。
しかし、冷凍と比良坂は確かに骸甲巨兵の胴体部分に居る。
そして、次の瞬間。一行は、更に信じられないものを見た。
「な‥‥なんだ!? 骸甲巨兵が‥‥黒い霧に‥‥!?」
南雲の言葉通り、骸甲巨兵の姿が一瞬ぼやけたかと思うと黒い霧となって霧散し、中に居た二人だけが飛行魔法で飛んでいる!
あんな巨大な物体が一瞬で掻き消え、一体どこに‥‥!?
「ほっほっほ‥‥これも十七夜さんの研究成果と言いましょうか。骸甲巨兵の新たな力です。なあに、今回は特別です。見物料はいりませんよ!」
ぐん、と黒い霧が収束し、パフリアとユナに纏わりついた!
「きゃあぁぁっ!? ぐ‥‥あ‥‥は、ぐ‥‥!」
「ユナさん!? シフォニー、逃げてくださいまし!」
異様な光景だ。
小さなユナの身体に全長18m分の黒い霧が入っていく。その身体を侵食するのは桁違いの怨念。
パフリアが逃げろと言ってももう遅い。憑依は瞬く間の出来事‥‥抵抗を失敗した時点でアウツ。
「紫様!」
「分かっているが‥‥! どう助けるんだ、あれは‥‥!」
御神楽のグリフォンに乗せてもらい、舞い上がった南雲だったが、仲間の体に入られたショックはデカイ。外からどうすれば‥‥。
が、黒い霧はすぐにユナの外から抜け出した。骸甲巨兵が再び実体化する。
一方のユナは、意識を失ったまま目を覚ます気配がない。怨念にあてられたのだろう。
『燻ぶる悪意が、まさかこれほどとは‥‥! せやけど、そんなごっつい力が連続で使えるとは思えんわな!?』
上空から、冷凍たちが居る胴体目掛けて急降下突撃する刃鋼。
しかし、読まれている! 骸甲巨兵が刃鋼を睨み、右手に持っていた刀を刃鋼に投げつける!
『がっ‥‥! く、くぅっ‥‥!』
真正面からの迎撃を避けられなかった刃鋼は、大きな刀傷を負って弾き飛ばされる。
島津が急いで刃鋼の元に向うが、随分遠くまで飛ばされていたので合流に手間取りそうである。
魔法でサポートをする琥龍とベアータも、骸甲巨兵を前に有効打を与えられない!
ここで凄いのは、ユナ以外、殆ど直撃を貰っていないこと。
掠っただけで結構な衝撃とダメージを貰うので、ポーションまで使わなければ身が保たないが、直撃すれば一瞬であの世行きになりかねないことを考えれば安いものであろう。
やはり、五行龍との演習で巨大な相手と戦うのに慣れたのは大きいようだった。
「‥‥妙ですね。随分場慣れしている。この強化骸甲巨兵相手にこうも戦えるとは‥‥」
「しかし、また憑依させればすればやつらは仲間に手出しが出来ません。どうです冷凍さん。先にグリフォン乗りとペガサス乗りを潰しては」
「ほっほっほ‥‥金翼龍にトドメを刺すのも悪くなさそうですね。さて、どうしましょうか‥‥」
ただでさえ強力な骸甲巨兵が、攻防増強だの憑依能力だのと、大きくパワーアップ。
まずは空を飛ぶ手段を持つ面々を倒そうと、刀を回収する骸甲巨兵。
その豪腕を以って、御神楽とパフリアを狙う!
『ほっほっほ‥‥死になさい!』
二人の冷凍の声が重なった、その時である。
「身体を小さくすれば、通れる隙間はあるんだ!」
「何!?」
なんと、人遁の術で身体を変化させている草薙が、骸甲巨兵の胴体の中に入り込んでいた!
恐らく疾走の術や微塵隠れも駆使したものと思われるが‥‥!?
人か黄泉人か分からないが、片方の冷凍に斬りかかる‥‥!
しかし!
「残念‥‥私は黄泉人ですよ。惜しかったですね‥‥!」
「うあぁっ! く、くそう! こ、ここまで来て‥‥!」
骸甲巨兵の中の声は、外にもよく聞こえている。
草薙の危機を察した一行は、骸甲巨兵の右足に集中攻撃をかける。
気を取られていた冷凍たちは、これの対処の挙動が遅れた。
「‥‥比良坂さん。そろそろ時間ではありませんか?」
「む‥‥そういえばそうですね。仕方ありません、退きましょうか。運がよかったですね、忍者さん」
まだ余裕はありそうだったが、撤退していく骸甲巨兵。
大分生気を吸われたらしく、その内部から地面へ真っ逆さまに落ちていく草薙。
パフリアがペガサスを駆り、山王が草薙を受け止めた。
引き際が妙ではあったが、兎にも角にも骸甲巨兵は退いた。底の知れない相手に追撃の余裕はない。
刃鋼も他の五行龍より遥かに軽傷で済んだことで、この地に『月精龍と冒険者が力を合わせて巨大な怨霊を退けた』という伝承が残ることとなるのである。
骸甲巨兵との決着は、また別の話となってしまったが‥‥犠牲者が出なかったことを喜ぶべきであろう―――