【五龍伝承歌・終】完成、五龍の陣

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:11月15日〜11月20日

リプレイ公開日:2007年11月20日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「ついに最終戦‥‥五匹の五行龍と対決ですか?」
「順当に行けばそうなる。まったく、普通は五種類もの精霊龍が一堂に会することすら稀なのだがな‥‥」
「っていうか、相手は牛鬼なんて化物をあっさり沈める戦力なんですよ‥‥?(汗)」
 ある日の京都冒険者ギルド。
 職員の西山一海と、その友人であり級との何でも屋である藁木屋錬術は、現在丹波で三度ばかり行われている五行龍の試験について話し合っていた。
 最近四度目の試験を行うというお達しが藁木屋に届き、それならばと依頼を出しに来たわけだ。
「そもそもが無茶な戦いではありますが、まさかあれほどの手練の方々が押されるなんて‥‥」
「それほどの戦闘力を持つ五行龍だからこそ、周りの藩から良い目で見られない。楠木正成殿のように自ら視察に来て文句を言う方が出ても不思議ではないさ」
「あ、それについてなんですけど‥‥(小声になって)ホントなんですか、楠木様が女の子っていうのは」
「(同じく小声)そうらしい。あまり公言はするなと言われているがね」
「聞く限りではツンデレさんっぽいんですけどねぇ‥‥そんな娘さんが、ねぇ‥‥」
「跡継ぎ問題などというものはどこにでもあるものだ。別に不思議とは思わんよ」
「とにかく、今は五行龍さんたちとの決戦に向けて作戦を練りませんと。向こうにはヒトとなんら変わりない思考レベルの刃鋼さんがいるわけですから、またフォーメーションとか組んできますよ?」
「如何にして相手にフォーメーションを取らせないか‥‥そして如何にして自分たちのフォーメーションを維持するか。力押しになれば向こうに分があるのは体験済みなわけだから、そうはならない方法を考えるしかあるまいよ」
 体格差、戦闘力、相性、向こうの出方‥‥それらをより深く読み、戦術に活かした方が勝つ。
 果たして、フルメンバーの五行龍に対する冒険者たちの策とは―――

●今回の参加者

 ea1442 琥龍 蒼羅(28歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1774 山王 牙(37歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea3210 島津 影虎(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4301 伊東 登志樹(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5414 草薙 北斗(25歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb1992 ぱふりあ しゃりーあ(33歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb2483 南雲 紫(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

ユナ・クランティ(eb2898)/ 木下 茜(eb5817

●リプレイ本文

●つよきっす
「うるさいうるさいうるさーいっ! 豪斬様のばーかばーかばーか!」
「お前は自分が不利になるとすぐそれだな!? そんなことで対外交渉が成り立つのか!?」
「豪斬様みたいな分からず屋、そんなにいないもん! 豪斬様以外にこんな態度取りませんよーっだ!」
「ええい、腹の立つ! 公人としてもっと節度のある応対をだな‥‥!」
 丹波藩某所、八卦谷。
 ついに五行龍全員が勢ぞろいし、その壮観な情景に誰もが息を呑んだ‥‥のも束の間。
 丹波藩主、山名豪斬(22)と、河内の豪族、楠木正成(18、女性)が、いつものようなノリで言い合いを始めた。
 この二人、かなり昔から付き合いのある幼馴染らしく、立場を無視してのやりとりをしている分には微笑ましい。
 が、そこはやはり公人としての立場がある上、楠木には神皇様への忠誠心もある。
 丹波の行き過ぎた魔法技術の突出を監視する意味でも、この五行龍の評価試験への同席には意義があるのだが‥‥。
「ほ〜ほっほっほっ! 礼儀のなっていない小娘ですわね! 相手は丹波藩の藩主でしてよ!?」
「それがね‥‥あの娘が楠木正成なのよ。となりのオジサマは楠木正長っていう親戚だそうよ」
「ツンデレさんだね〜。言ってることは名前の一文字目通り正しいんだけれど、二文字目の『成』はどうかな?」
「志士として、楠木様の懸念は分からないでもありません。が、種族の垣根を越えて協力を申し出て下さった刃鋼様以下五行龍様方のような方々を『禁忌』の一言で黙殺するは義に反すると感じます。未だ多くの脅威が燻るならば尚のこと‥‥」
 ぱふりあしゃりーあ(eb1992)は参加自体は二度目だが、楠木とは面識が無い。
 南雲紫(eb2483)に説明を受け、多少驚いたような表情はしたものの、やはりスタンスを崩したりはせず、やれやれと言った感じで『おかしな小娘ですこと‥‥』などとぼやいていた。
 草薙北斗(ea5414)にしても御神楽澄華(ea6526)にしても、楠木の弁が正しいのは分かる。
 しかし、明確な意思を持ち、対話も出来る相手をないがしろにするのはどうもいただけないと感じているようだ。
 付き合いの長い彼等からすれば当然かもしれないが。
「楠木正成‥‥どうやら悪い人物ではないようだな。言っている事も理に適っている。神皇家に仕える身であるのは俺も同じ立場だからな。だが龍達と話し、共に戦う事で彼らを理解することが出来た」
「いやはや、これが相手が話の通じない獣だというなら話は別なのですが‥‥五行龍の皆様方は違いますからね」
「おうよっ! 熱いチンピラ魂を共有できる森忌のダンナたちが協力してくれるっつってんだ! グダグダ細けぇこたぁ言いっこなしってやつだぜっ!」
 琥龍蒼羅(ea1442)や島津影虎(ea3210)の言うことは、例えば『牛が人間と同等の知性を持っていて、対話が出来たとしたら、あなたは牛を食べられますか?』と言うようなもの。
 伊東登志樹(ea4301)の言は少し乱暴としても、相手の人格(龍格?)を尊重すべきというのは間違いではない。
「‥‥これが、五龍の陣。味方の時は頼もしいですが、敵として見るとこれ程、恐るべき陣は有りません」
「まったくです。単純に考えても、こっちが牛鬼以上の強さを示さないといけないわけですからね」
「皆様の気骨ある『覚悟』に感動いたしました。揺ぎ無い覚悟で全力で立ち向かうことが大切なのですよね」
 山王牙(ea1774)、ベアータ・レジーネス(eb1422)が言うように、相手は牛鬼をあっさり撃破する戦力。
 しかもそれがフォーメーションを組み、戦術を用いてくる龍となれば生半可な腕や覚悟では撃破は不可能。
 とはいえ、一行の中にジークリンデ・ケリン(eb3225)が呟いた言葉を聞き、それに違和を覚えた人物は少ない。
 そして、いつの間にやら言い合いが終了したのか、豪斬がややぐったりしながら配置につくように言う。
 五行龍評価試験の最終戦‥‥五匹勢ぞろいした総力戦が、今始まる―――

●五龍の陣
『高速詠唱の煙幕!? またこの手かよっ!』
「前回のような先制を取らせはしません!」
 冒険者側は、前々回にも使ったジークリンデのスモークフィールド展開を初手に選んだ。
 勢ぞろいした五行龍の出鼻を挫きたいというのも勿論あるが、この煙幕展開である策を打ちたかったのだ。
 それは即ち‥‥。
「一旦退くぞ! 戦線を下げる!」
「人遁の術は終ったよ。遠目なら誤魔化せると思う」
「それでは私は、この中で待機しています。御武運を」
 御神楽、南雲の言葉で、『急激に場所を変えることでついて行かないわけにはいかない』雰囲気を作る。
 そして煙の中で草薙が忍術で変装、最大火力であるジークリンデを真似、ジークリンデ本人は煙の中で息を殺して待つ。
 後は、五行龍を一纏めになるよう誘導し、インフラビジョンとバイブレーションセンサーで戦場の様子を見計らっていたジークリンデが、超越級魔法を叩き込んで一網打尽‥‥と言う流れの予定だ。
『‥‥どう思いますか? 刃鋼姉さん』
『どうも気に入らんね。戦術として悪くないのは分かるけど、一度やった手をウチらに使うのは戦略的にどうやろ』
 変装した草薙を含め、冒険者たちは言葉通り退いて行く。
 その様子を見て、芭陸と刃鋼はどうも腑に落ちない。
『どうするの、刃鋼お姉ちゃん? このまま例の作戦通りにいくー?』
『うーん‥‥このままぼーっとしとっても、ジークリンデさんからごっついのもらうだけや。動こか』
『いよっしゃあああっ! そうやないといかんわぁぁぁっ!』
 刃鋼の指示で、五行龍たちも行動を開始する。
 冒険者たちはすでに煙幕からかなり距離を取っており、ベアータがスクロールで仲間に魔法を付与しているように見えた。
「来ますよ! ベアータ殿、レジストファイヤーは後何名ですか!?」
「2名です。しかし、もう一人は間に合わないでしょう。草薙さん、いざとなったら微塵隠れで離れてください」
「了解だよ! 僕なら多分逃げ切れる!」
「‥‥後は、気付かれないか‥‥そして集まってくれるか、ですね‥‥!」
 島津の声に、ベアータはスクロールの使用を中断。
 ソルフの実を使ってまで精神力を回復させ、スクロールを連続使用するのは、勿論ジークリンデの魔法に耐えるため。
 変装している草薙には自力で逃げてもらうとして、一応準備は出来た。
 あとは、山王の言うように五行龍が揃ってこちらに接近してくれるか否か。
 だが、そんな心配はとりあえず必要ないらしかった。
 五行龍随一のスピードを誇る森忌が、最大速度で冒険者の頭上を通過する!
「速い! 森忌‥‥今日は一段と吹き荒んでいるな‥‥!」
「まったく、ちょっと目を放した間に、ずいぶんと数が増えましたわね‥‥」
「へへっ、世界広しと言っても、五匹の精霊龍を同時に相手にすんのは俺らが始めてだろーぜ! しかもそれが!」
『ダチとくれば尚更燃えるわぁぁぁっ! パフリア、ワシの強さにお前が泣いたっ!』
「相変わらずですこと。よろしくってよ‥‥泣かせてごらんなさいな!」
 とりあえず、森忌は大丈夫。元々突っ込みたがる性格だし、ちょっと挑発すればすぐ乗ってくる。
 そして、刃鋼も追いついてきて冒険者との交戦に入り、氷雨・芭陸・熱破もこちらに向ってきている。
 ベアータのサイレンスで熱破の魔法は封じてある(熱破はテレパシーのようなもので会話している)ので、ファイヤーバードでいきなり加速してくるということもないだろう。
 あと少し。もう少し氷雨たちが近づいてこれば、ジークリンデが神威力のファイヤーボムを撃ってくれる!
 しかし、そう思った瞬間‥‥熱破だけが足を止め、煙幕の方を振り返った!?
「‥‥っ!」
 それに気付いた冒険者たちの一部が息を呑む。
 ばれた!? 何故!? インフラビジョンだって使えないはずだ!
『やっぱり本物はそっちか。ごめんなぁ、草薙君。ウチはヒトの顔覚えるの得意なんよ』
 羽ばたきの風で髪がなびき、耳が露出したことで確信を得た刃鋼は、仲間内にだけ思考を飛ばして熱破に指示した。
 そして、熱破が振り返ったことによる冒険者のリアクションで作戦を看破したらしい。
 ヒトの顔と名前を一致させるのにやたら時間がかかる他の五行龍とは、刃鋼は違う‥‥!
「くっ‥‥刃鋼! 撃て、ジークリンデっ!!」
 南雲の声に応え、煙の中から火の玉が出現する。
 が、それは冒険者と煙幕の間に居る熱破の目の前に飛来する結果となり‥‥!
『熱破君、頼む!』
『ちっ、しょうがねえなっ! オラぁぁぁぁぁっ!』
 ごっ!
 熱破はファイヤーボムに腹からのしかかり、暴発させる。
 熱破という壁に遮られた上、目標地点のかなり前で爆発してしまったので、冒険者の目論みは崩れたことになる。
 が、抵抗したとはいえ直撃弾を一身に喰らった熱破は、しばらく再生に専念しないと戦闘に加われない。
 とはいえ、ジークリンデがもう一発撃ったのをまた受け止めることくらいはやるだろう。
「いやはや、これは参りました。ジークリンデさんに頼れないとなると‥‥」
「か、固まってっから四匹から袋叩きってかぁ!? くそっ、上等! 盗んだ軍馬で走り出すぜぇっ!」
「盗んだんですか?」
「ノリだノリ! 素でツッコむんじゃねぇっ!」
 今更だが、伊東は戦闘馬に乗って戦場を駆けている。
 Fボムに巻き込まれたら、愛馬の方はどうなっていたか‥‥ちょっと恐い。
「ぐっ‥‥まずい、距離が近すぎる! 南雲、どうする?」
「このまま戦うしかあるまい。どうやら刃鋼たちの当初の作戦は潰せたようだが、こちらも目論見が崩れた。そしてこちらの方が立て直しが自力の関係上困難‥‥そう踏んだのだろう、刃鋼!」
『流石南雲さんやね。せや‥‥四方をウチらに囲まれたらあんたらじゃ持ち堪えられん。なんでかっちゅーと‥‥』
「うがっ!? う、後ろから‥‥!?」
『ごめんね〜。僕、そっちまで顔が届くんだ〜♪』
 芭陸と相対していた島津を、氷雨が首を伸ばして背後から噛付く。
 水牙龍と呼ばれるだけあり、氷雨の牙は容赦なく島津に食い込んでいく!
 包囲戦において、このリーチ差は絶望的だ。背後からも仲間を飛び越えて攻撃されるのでは、とても保たない。
「刃鋼様の仰る『燻る悪意』に対抗する為の試練‥‥些か破れかぶれな感はありますが、いざ、参ります! 瑞鶴!」
 御神楽はブレイクアウトからの連続攻撃を敢行すべく、グリフォンを呼び寄せる。
 が、それに逸早く気付いた森忌が、爪からのソニックブームでグリフォンを撃墜!
「そ、そんな!?」
「‥‥駄目です、大技に移れません! 後方にも注意しなければならないとなると‥‥!」
「ちぇぇーーーいっ! なんとか島津さんは救出いたしましたが、これ以上は無理ですわよ!」
「ね、熱破、大丈夫かな。あれ熱いよ、きっと‥‥」
「心配しなくても再生するでしょう。というかそういう場合ですか?」
 そこから山名豪斬の静止の声が入るまで、さほど時間はかからなかった。
 囲まれた状態から善戦はしたが、じわじわと傷が増え、ほどなく戦局が決したのである。
 100の力を持つ敵一体よりも、20の力を持つ敵が五体の方が対処に困る。要はそういうこと。
『戦いは数だよ、兄貴―――』
 草薙は、ふと誰かの台詞を思い出した気がした―――

●結果
「今までの模擬戦、御苦労であった。余が本当に見たかったのは、戦闘力もさることながら『人と五行龍の絆』だ。相対してなお、相手の実力を認め、慮るそちたちと精霊龍たち‥‥感服した。勝敗における不満はあるかも知れぬが、余は全面的に五行龍を受け入れることを約束しよう」
 豪斬の前に並んだ冒険者たちと五行龍たちは、その言葉に顔を綻ばせた。
 これで、名実共に五行龍は丹波藩の一員となれる。
 そう、思ったのだが‥‥。
「意義ありっ! ちょっと豪斬様、本気!? こんな名うての冒険者を十人も相手に圧倒する戦力なのよ!? こんな危険物を戦力として保有したら、河内としても黙ってられない!」
「戦力として迎え入れるつもりはない。丹波に生きる者として―――」
「それは詭弁よ! 神皇様の前でも同じことが言える!?」
「‥‥言って見せよう。それだけの覚悟はある。それに、此度の五行龍側の勝利も、冒険者たちの作戦が上手く行っていればなかったはずだ‥‥言わば紙一重。第一、こうやって彼等が一同に会することの方が珍しいのだぞ」
「だからって‥‥!」
「正成!」
「っ! な、何よ‥‥!」
「申し訳ないが、これ以上の討論の余地はない。内政干渉と受け止めるぞ。それに‥‥我が同胞を『危険物』呼ばわりするのは止めていただきたい‥‥!」
「ぐっ‥‥馬鹿ぁっ! このことは神皇様に御報告して、然るべき御沙汰をいただくものとします! 河内藩からも正式に抗議させていただきますので、そのおつもりで!」
「御自由に。『楠木殿』‥‥」
「‥‥! 豪斬、様‥‥」
 俯き加減になったかと思えば、すぐに振り返ってお付の正長と共に去っていく正成。
 果たして、丹波藩にはこれからどのような事態が起こるというのであろうか―――

●悪意の再動
「ほっほっほ‥‥そろそろ頃合でしょうか。私の新たな力‥‥お見せする時が来たようですね」
「は。実験段階ではありますが、あれの稼動も間近です。受けた屈辱は倍にして返すといたしましょう」
「それは楽しみです。あなたに再び遭えたのはとてもよい収穫でしたよ―――」