【封印司洞、六道辻】始まりの餓鬼道
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■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月10日〜10月15日
リプレイ公開日:2007年10月18日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
ある日の京都冒険者ギルド。
職員である西山一海と、その友人であり京都の何でも屋である藁木屋錬術とアルトノワールは、ある意味冒険者ギルドの名物となっていた。
藁木屋か、その相棒のアルトノワール・ブランシュタッドは、毎日のようにどちらかがギルドに来ているため、彼等に直接仕事を頼みにギルドにやってくる者も大分増えてしまったのである。
ギルドの他の職員からも、黙っていても茶を淹れてもらえてしまうあたり、馴染み具合が伺えた。
「ところで一海君。今日は新しい事件の依頼を持ってきたのだが‥‥」
「ほう。お伺いしましょう」
二人で茶を啜りながら、藁木屋と一海はいつものように話を進める。
懐から何やら巻物のようなものを取り出した藁木屋は、それを机の上に広げて指差した。
「これを見てくれ」
「指ですね」
「違う、その先だ」
「爪があります」
「指で指しているものを見てくれと言っているのだ! ‥‥というか、このネタは前に一度やっただろう」
「手屁っ♪ ‥‥と、なんですかこの書きかけの巻物は」
「最近、京都の六道の辻にある、六道珍皇寺で発見された資料の一つだ。かなり昔の物で、本来は白紙だったらしいのだが‥‥ある日、資料整理していた者がこれが発光しているのに気付き、住職に報告。開いてみると、ここに書かれた記述が浮かび上がっていた、というわけだ」
一海がその部分を読んでみる。
そこには、こんなことが書かれていた。
丹波南東にてかの術式を発見せり。
調査の結果、陰陽寮にて開発された『六道辻』に酷似。
立町様の失踪と関連があるかは不明。
最初の関門は餓鬼道の様子。
持ち出された武具の関連も含め、調査を続行すべし―――
「六道というのは知っているかね?」
「勿論。地獄道、畜生道、天道、人道、餓鬼道、修羅道の六つのことを指す宗教用語ですよね」
「そうだ。そしてこの『六道辻』という術は、六つの触媒を用意し、六つの仮想世界を発生させるものらしい。この術は洞窟の奥などのある程度開けていてなおかつ閉鎖された空間でしか発動しないとか。この巻物の記述では餓鬼道が始めとなっていて、そこから順に六道を攻略しなければならないようだ。ちなみに、六道の順番は全く不明となっている」
「二点ほど質問があります。まず、文中に出てくる『持ち出された武具』というのは?」
「その昔、黄泉人との大規模な闘争の時、人類側の戦士たちが使っていた魔法の武器のことらしい。詳しい資料が残っていないので眉唾ではあるがね。ともあれ、そう伝えられていた武具をかつての陰陽寮が回収し、保管していたが、この時行方不明になってしまっている」
「ではもう一つ。この『餓鬼道』を初めとする仮想世界っていうのは、具体的にどんなものなんです?」
「これは昔に研究された陰陽道の術の一つで、使い勝手の悪さか何かであっという間に廃れてしまったらしく、詳細は不明だ。六道の異界を現出させる術というが‥‥本当にそんな事が出来ると思うかね? 今はっきりしているのは、何らかの拍子にこの『六道辻』が長い年月を経て再発動したことと、丹波藩からこの件についての調査依頼が出ていることだけだ」
「しっかし、薄至異認の森の時といい、丹波南東部は妙な術がよく使われたんですね‥‥」
「京都に近く、人もあまりいないしな。陰陽寮が術の実験にでも使ったのだろう。とにかく、一筋縄ではいかなそうな事件だ‥‥知恵と実力を備えた冒険者の方々が参加してくれると心強いな」
現れた封印を司る洞窟。そして、古に消えた武具。
謎の六道辻なる術によって垣間見る餓鬼道とは、果たして―――
●リプレイ本文
●飛ぶが如く!
「今回は‥‥ちょっと我侭だったかなぁ。とにかく、急がないとまずいか!」
晴天の下、街道を馬で直走るのは、鷲尾天斗(ea2445)であった。
彼は単身、仲間と別行動を取って陰陽寮での資料調査を行っていたのである。
そこで思った以上の成果が得られたこともあり、仲間と合流すべく、愛馬の葉月を飛ばしているわけだ。
「しかし、新撰組一番隊組長代理の肩書きがこんなところで役に立つとは意外だったなぁ‥‥」
陰陽寮での資料探しの時、彼の肩書きを聞いた係員が、情報屋の藁木屋たちにも教えていない資料を見せてくれたのだ。
有名人とはいえ、藁木屋たちは所詮は一介の情報屋。
新撰組一番隊組長代理というような立派な役職を持つ鷲尾とは公的な場で差が出てくるらしかった。
とにかくその資料によれば、持ち出された六つ武具は、日本刀、忍者刀、六角棒、長槍、長弓、大斧の六種類であり、全て魔法の武器であったとされていた。
六つの武具と六道辻の関連性を六道珍皇寺の住職に聞いて見たが、明確な答えは返って来ない。
しかし、立町という人物に関しては、『何百年か昔の人物で、新しい術の開発に心血を注いだ優秀な人物だったが、だんだん手法や術の内容が狂気じみていったと伝えられている』程度のことしかわからなかったという。
ただ、はっきりしていることは‥‥。
「タカトです‥‥今日もテントと呼ばれたとです‥‥。タカトです‥‥タカトです‥‥」
鷲尾が名前を間違えられたことと、六道辻が凶器じみた部類の術であるという事実―――
●洞窟
「ここが例の洞窟かぁ〜。別に変わった所は見当たらないけどね〜?」
「六道輪廻ツアー。最後まで巡ると悟れてお釈迦様にでもなれるのかね」
「六道を突破すれば、仏になる為の魂の練成である輪廻転生を繰返した事になるのでは、とも思うが‥‥」
鷲尾を除く七人は、すでに件の洞窟へと辿り着いていた。
そこは草木に隠れるようにして存在してはいるものの、気合を入れて探せばわりとすぐ見つかった。
ミネア・ウェルロッド(ea4591)が言うように、人の手が入った気配もなく、天然の洞窟であると断言できる。
パウル・ウォグリウス(ea8802)やシグマリル(eb5073)は、六道辻の存在意義などについて議論しているようだが、後に鷲尾が合流することで、この術が修行目的で作られたわけではないことを知るのである。
「‥‥あら? そういえば偵察に出ていた方が戻っておられないようですけれど‥‥」
「そういえばそうですね。洞窟内部は一本道で迷うことは無いと言われましたが‥‥」
「まさか‥‥!? 最悪の事態を想定して、私たちも洞窟内部へ向いましょう!」
ふと、ジークリンデ・ケリン(eb3225)が斥候役で先に洞窟内に踏み込んだ忍者が帰ってこないことに気付いた。
神楽聖歌(ea5062)も言うように、この洞窟は断じて迷う構造ではない。
できれば鷲尾の到着を待ちたいところではあったが、一行は御神楽澄華(ea6526)の音頭に従い、歩を進めた。
鬼が出るか邪が出るか‥‥嫌な予感しかしない中、闇は深さを増していく。
そして、数十メートルも直線が続いた後、パウルが手にしたランタンの灯りが、開けた空間を浮かび上がらせる。
そこもまた、何の変哲も無いただの洞窟。
開けてはいるが、これ以上先の無い行き止まり。
しかし、その中心部に仲間の一人‥‥紅闇幻朧(ea6415)が倒れているとなれば話は別だ。
「おぉ!? げんろーが倒れてるよ〜!」
「バイブレーションセンサーに反応はありません。私達以外に動くものはいないようです」
「とにかく、紅闇さんをお助けしましょう。手遅れになっては困りますしね」
しかし、六人が紅闇に近づき、空間の中央辺りまで来た時。
「うっ‥‥な、何‥‥!? せ、世界が‥‥歪む‥‥!?」
シグマリルを始め、全員が意識が遠のくのを感じた。
吐き気すら伴うその揺らぎは、人の精神をぬるくねっとりと包み込んでいくようで‥‥!
「く‥‥ご、ゴーレムは、いる‥‥手は‥‥上がって‥‥いない‥‥?」
パウルは予めウッドゴーレムに『自分が消えたら右手を上げろ』と命令していたようだが、ゴーレムは何の反応も示さない。つまり、身体そのものが消えるわけではないことが証明された訳だ。
「は、始まりの餓鬼道‥‥切り抜け、無事に現世へと、戻りましょう‥‥! 偽りの‥‥六道如きに、足を止めている暇は‥‥無いの、です‥‥から‥‥!」
そして御神楽の言葉を最後に、洞窟内に静寂が戻った―――
●餓鬼道
「‥‥お前たちも来たか。すまんな、世話をかける」
「紅闇様! よかった、御無事で―――」
「静かに。気付かれるぞ」
次に一行が意識を取り戻したのは、さきほどの洞窟とは似ても似つかない‥‥というか、野外とか屋内とかそういうレベルではなく、この世であるかも怪しい世界であった。
鈍色の分厚い雲が空を覆い、木はおろか草の一本も生えていない不毛の荒野。
一行が今いるのは、その荒野に点在するクレーターの中の一つ。
軽く見積もっても日本ではないのは誰の目にも明らかだった。
そこに、先に飛ばされてきたのであろう紅闇の姿があり‥‥御神楽たちに大きな音をを立てるなと警告する。
「あちこちに餓鬼がいる。餓鬼道だけに当たり前なのかも知れんが、数が尋常ではない。どうせそのうち気付かれるだろうが、少しでも状況を把握しておきたいだろう?」
餓鬼。
欲の深い人間が、死後、罰を与えられてさまよっている姿だと言われている妖怪。
常に飢えており、近くにあるものはなんにでも噛み付いて、口の中に入れようとするという。
それが尋常でない数いるというのは、ここが仮想世界であるが故なのだろうか。
「あう。ごめん、ミネア、なんかしらないけど急にお腹空いちゃった。さっき食べたはずなのに、変だね〜」
「‥‥喰えるうちに喰っておけ。ここでは凄まじい速度で腹が減る。かく言う俺も、もう保存食を二つ食べた」
「それもこの餓鬼道の効果なのか!? どうして精神だけの世界で腹が減るんだ‥‥!」
「理屈は分からないが、どうやら食べないことには始まらないらしいな。それで、この世界をどう見る? 学者さん」
シグマリルやパウルにはこの世界の理屈がさっぱり理解できない。
とはいえ、話を振られたジークリンデにも皆目見当がつかないのも事実。
「確かなことは、食料が尽きたら私たちも餓鬼の仲間入りをすることになる、ということでしょうね」
「それまでにこの餓鬼道を打破する手段を探さねばならないわけですか? そんな無茶な‥‥」
とにかく、一行は保存食を食べて腹ごしらえする。
しかし、一日は保つはずの保存食を食べても、食べたそばから空腹感が忍び寄ってくるのを自覚した一行は、背中に冷たいものを感じて早速行動を開始しようとする。
しかし、打破する手段がわからない。
こんな荒野で、情報もなく何をどう探すというのか?
考えている間にも腹は減っていくわけだが‥‥どうやら考えることも長くはさせてもらえないようだ。
「しまった! 七人も揃って食事をすれば、やつらに気付かれるのは当たり前か‥‥!」
ふと上を見ると、餓鬼たちがギラついた目で一行を見下ろしていた。
その数、少なく見積もっても五十は下らない。しかもまだまだ増える気配がする。
紅闇の言葉の直後、一匹の餓鬼が飛び掛ってきてからはもう歯止めが利かなかった。
雪崩のように襲い来る餓鬼たち。
一行も腕には自身があるが、その圧倒的な数の差がどうにもならない。
「ゆ、弓が! 矢を番える暇が‥‥!」
「うあぁっ!? い、一匹に攻撃する間に三匹から攻撃されて‥‥!」
「うわーん!? ミネアは食べても美味しくないよ〜!」
シグマリル、神楽、ミネアなど、歴戦の冒険者も多勢に無勢。
容赦も遠慮もなくひたすら噛み付いてくる餓鬼たちは、一行を新鮮な餌くらいにしか思っていないのだろう。
一匹一匹なら取るに足らない相手でも、十倍以上の戦力差は流石に致死量か。
「ちぃっ! どうする、決断するなら今のうちだぞ!」
「‥‥迷っている時間はない。やるかやらないか、すぐに決めろ」
「し、しかし‥‥あの手段は、諸刃の剣もいいところなのですが‥‥!」
パウル、紅闇、御神楽がジークリンデを囲み、彼女にだけは手を出させないようガードしている。
御神楽の言う『あの手段』‥‥即ち、自爆承知の超越ファイヤーボム‥‥!
「‥‥いきます。それしか今は手段がありません」
「えぇっ!? ちょっ、待っ―――」
迷いは生き残る最後の希望すら打ち砕く。
この状況ではそれが真理だと判断したジークリンデは、敵味方全てを巻き込む超越ファイヤーボムを炸裂させた。
餓鬼は一撃で瀕死になる者が半数ほどだったが、それは冒険者側も同じこと。
まともに動ける人間はほぼ居ない‥‥!
「う‥‥ぐ‥‥! ま、まずい‥‥まだ、動く、餓鬼が‥‥!」
残りの半分は、重傷ながらまだ一行に向かい、その肉を食い千切ろうと歩み寄ってくる。
結局助からないのか? 一行に絶望感が過ぎった瞬間!
『ギギィィィッ!』
白刃一閃、何者かが餓鬼の一匹を切り伏せる。
現状で無傷でいられる者といえば‥‥!
「遅くなったが、間に合ったみたいだな。後は俺に任せとけ!」
「た、天斗殿‥‥! 遅い、ぞ‥‥!」
「悪い悪い。何があったかは大体想像がつく。みんなは回復に専念してくれ!」
シグマリルは悪態をついたが、彼を含め全員が安堵の情を禁じえない。
どうやら遅れていた鷲尾が洞窟に着き、同じように餓鬼道に引っ張られてきたようだ。
ある種最高のタイミングで無傷の仲間が‥‥しかも新撰組一番隊組長代理がやってきたとなれば必然的に流れは変わる。
動きの鈍った餓鬼たちが鷲尾に適うはずもなく、次々と切り伏せられていく。
そこに薬で回復した七人が加わったからには、もう負けはないだろう。
「この侍魂‥‥散らし損ねたのがお前らの敗因だ!」
「肉を切らせて骨を絶つ‥‥でしたか。実践するとなると厳しいものです‥‥」
「餓鬼道‥‥始まりがこれほどの難易度だというなら、次はどのような脅威だというのでしょうか‥‥!」
「いぇ〜い、ようやくミネアのターンだよ! さっきのお返しはきっちりさせてもらうからね〜!」
「人生何が功を奏するかわからんもんだなぁ。寄り道もたまには人命を救うってことで!」
「オーラの輝き‥‥今再び煌けることに感謝します」
「カムイ宿る破邪の弓音よ、千里の彼方、蝦夷まで響け!」
やがて、何十匹目かの餓鬼に止めを刺した瞬間‥‥世界が砕け散った―――
●封印
そして、一行が気付くと、そこは再びあの洞窟内部であった。
餓鬼道は消滅したようだが、冒険者たちはすぐに身体の異変に気付く。
餓鬼たちに噛み付かれて破けた服や、治しきれなかった傷がそのまま身体にも反映されていたのである。
もし餓鬼道の内部で死ぬようなことがあれば、そのまま戻っては来られなかったであろう。
と、その時だ。
ガラン! と洞窟内に音が響き、何もなかったはずの場所に突然六角棒が現れた。
パッと見はただの六角棒にも見えるが、鷲尾にはすぐにピンと来た。
「そうか‥‥こいつが例の持ち出された武器の一つだな。無銘だって話だから、『餓鬼道・解』とでも名付けるか?」
「およ。テント、なんか情報仕入れたの〜?」
「タカトです‥‥タカトです‥‥タカトです‥‥ってそれはもうさっきやったんだよ! 実はなぁ―――」
陰陽寮の資料を信じるなら、『六道辻』とは、物品を封印するために作られた術であるらしい。
どうしても他人の手に渡したくないものなどを対象に使うのが主だが、これには重大な欠点があった。
六道を攻略しなければ解除できないため、自分も容易に手を出すことができなくなるのだ。
まぁ、自分が使わないと断言できるなら心強い封印術なのだろうが‥‥。
「よくは分からんが、持ち出された六つの魔法の武器をどうしても再利用されたくなかったんだろうなぁ。立町ってやつがやったのかも不明だし。まぁ、餓鬼道・解も一応持って帰ろう。陰陽寮で見てもらわんと」
次の六道はすでに展開を開始し、安定した時に再び異世界を構築するという。
果たして、今度はどの六道が冒険者の前に立ちはだかるのであろうか―――