【六道辻・終】六道の終点

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:03月09日〜03月14日

リプレイ公開日:2008年03月18日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「うーむ。しかし、黄泉人が女の子の物真似をねぇ。年季が入ってくるとそういうこともできるようになるんでしょうか」
「‥‥誰でも出来るっていうわけでもないでしょう。たまたま十七夜ってやつは他人を謀ることに長けてただけじゃないの? なんたって幻術使いなんだし」
 ある日の冒険者ギルド。
 職員の西山一海は、京都の何でも屋の片割れ、アルトノワール・ブランシュタッドと話していた。
 話題は、未だ続く黄泉将軍・十七夜と、それが作った六道辻の一件についてだ。
 大斧の修理を頼みにいき、鍛冶屋のアリサはなんとか救出できたが、十七夜の介入で結局斧は検分すらしてもらえず。
 その折に、アリサに変身した十七夜が見事にアリサを演じていたというのが話題の発端だったわけだが。
「アリサさんは京都に連れてきてますし、もう回復したそうですから、今度こそ見てもらえるでしょう。修理が出来るか出来ないかは別にして」
「‥‥陰陽寮の方は、六道関係の情報はさっぱりだけど黄泉人のほうの情報が見つかったみたいね」
「と言っても、黄泉人の勢力がいろいろな場所にあるんだ、程度じゃないですか。弱点が分かったわけでなし‥‥」
「‥‥ま、斧を修理したいんだから別にいいんじゃない?」
 と、アルトが面倒そうに頭を振った直後である。
「お姉ーーーちゃあーーんっ! あはっ、見ーつっけたっ♪」
 がばっ、とアルトに抱きついたのは、彼女の妹、アルフォンス・ブランシュタッド。通称アルフ。
 なにやら用があって日本に来たようなのだが、今では京都をぶらぶらするシスコンでしかない。
「‥‥また‥‥。あのね、錬術がいないんだから引っ付かないでくれる? イライラするから」
「えー、なんでよー。あの男がいないからこそ引っ付くんでしょー? そうそう、お姉ちゃんの絵、見たよー! 姉妹ながら惚れ惚れしちゃうなー、そのおっぱい♪」
「おぱ‥‥!?」
「‥‥髪の色以外殆ど同じ姿形してるやつが言う? 自分の裸を鏡にでも映して見てれば?」
「ぶー。それじゃつまんなーい。‥‥ん? どうしたのよ、一海。ふふーん、触ってみる?」
「是非」
「駄目ー。私のすべては、お姉ちゃんのものなのだー♪」
「なら言わないでくださいよっ!?」
「‥‥手玉に取られてるんじゃないわよ。それじゃ、五月蝿いのも来たし帰るわ。それじゃ」
「あ、待ってよお姉ちゃん〜!」
 嵐のように現れ、それまでの話を木っ端微塵にし、一海をからかって嵐のように去っていったアルフ。
 やっぱりどうにかすべきなのではないかと切に思う一海であった―――

●今回の参加者

 ea2445 鷲尾 天斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea6381 久方 歳三(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6415 紅闇 幻朧(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea9527 雨宮 零(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb0882 シオン・アークライト(23歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5073 シグマリル(31歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 ec3981 琉 瑞香(31歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

ヴェレナ・サークス(eb0013)/ タケシ・ダイワ(eb0607)/ リノルディア・カインハーツ(eb0862)/ 護堂 万時(eb5301

●リプレイ本文

●いざ‥‥?
 カンッ、カンッ、カンッ!
 京都内のとある鍛冶場にて、アリサ・シュヴェールトは大斧を叩いていた。
 小気味のいい音が断続的に響く中、冒険者たちは殆ど見ていることしか出来ない。
 と。
 カンッ、カンッ、カンッ、ボキッ!!
 嫌な音がした。
「クホホ‥‥こ、壊しちゃいました‥‥(泣)」
「あの‥‥もうこれで5つ目ですよ、アリサ様‥‥」
「予行練習をさせてみて正解だったと言うか、練習で材料が無くなりそうと言うか‥‥」
「‥‥壊すならまだいい。先ほどは、大斧を作っていたはずなのに薙刀が出来上がっていたな。その前は金棒だったか?」
 お聞きの通り、作業はお世辞にも上手く行っているとは言えなかった。
 珍しく重い溜息を吐く御神楽澄華(ea6526)や、思わず目を覆ったシグマリル(eb5073)は、持ち前の特技を活かし、アリサの修理作業を手伝っていたのだが、成果は芳しくない。
 紅闇幻朧(ea6415)もまた、わざわざ六道武器の一つ‥‥忍者刀『修羅道・解』をアリサに見せ、参考とさせるために来てくれた人物であるが‥‥。
「うぉぉーーい、折角黒勾玉貸してやったのに!? つか、なんで作ろうと思ったモンにならないんだ!?」
「うわーん、これでも頑張ってるんですよー!?」
 作業開始前、カッコよく『此処から先はお前の戦いだ。修理が成功しようが失敗しようが恨みっこ無しだ。けどやるからにはいい仕事をしろよ』とアリサを励ました鷲尾天斗(ea2445)。
 その行為を卓袱台ごとひっくり返すように、アリサは噂に聞くへっぽこ鍛冶屋ぶりを発揮しているようだった。
 狙って魔法武器を作れないとは聞いていたが、狙った武器が作れないほどトンチンカンとは聞いていない。
 鍛冶場には今回の依頼に参加した冒険者が参考にと持ち寄ってくれた武器がたくさん並べられており、最初こそ『改造したい‥‥じゅるり』等と呟いていたアリサであったが、時が経つにつれて余裕がなくなっていく。
 前回の偽物と全く同じリアクションをされた冒険者たちは、一抹の不安を覚えて予行練習を持ちかけたのだ。
 実際に武器を打たせてみると、鍛冶屋としての腕は確かであることがわかった。
 過程はどうあれ、出来上がった武器は上質で、変な特徴をつけようとしなければまともな武器が作れるのだが‥‥。
「こ、これでは本番に挑んでいただくのを躊躇ってしまいますね‥‥」
「なんだかなぁ。いつか話したみたいに、『遅刻道・解』にでもなりそうかなぁ」
「‥‥一回叩いたら粉々になりました、などということにならなければいいがな」
「はぁ‥‥どうする。一か八かだぞ、これは‥‥」
「ひーん‥‥すいませんです‥‥」
 紛う事なき本物のアリサはこのザマ。
 とりあえず、こちらはもう少し(違った意味で)時間がかかりそうであった―――

●黄泉人と丹波藩の因果関係
 さて、こちらは陰陽寮及び寺社仏閣などを回り、情報収集に専念しているメンバーたち。
 やはり片手間や急ぎ足ではなく、依頼の期間中、集中して調査をすると成果が違う。
 最終的にここ、陰陽寮の資料室に集まった四人(と藁木屋)は、分かったことについて纏めているところだった。
「まずは私たちから。寺社仏閣を回って聞いてみた結果、人間が黄泉人になったという事例は十七夜以外にはないそうです。むしろ、人間が黄泉人になるなどありえないという返答をいただいてしまいました。ついでに、ホーリーライトが十七夜に効果が無かったのは、十七夜にはきちんとした使命があったからでは、とのことです」
「陰陽師としての立町氏の経歴については、今までどおりでござるよ。神道や陰陽道、精霊魔法を融合させて新たな大系の術を多く作り出し、後期作は狂気じみたものばかりになっていった。黄泉人としての十七夜は、過去の人類側との戦いで暗殺を何度も行っているようでござる。話では、たった一人で100人の軍勢を壊滅させたとも」
 寺社仏閣へのアプローチを行ったのは、琉瑞香(ec3981)と久方歳三(ea6381)。
 いくら京都内でも単独行動は危険と判断し、二人一組で班分けしていたが、どうやら寺社仏閣班の成果は芳しくないようだ。
 六道辻の開発目的が魔法武器の封印であったということは分かったが、それも魔法武器の絶対数が少ない過去だから意味があったのである。今のように大量に氾濫している状況では焼け石に水だろう。
「では、こちらは古代の魔法武器について。形状などは現代の物とさして変わりはありませんが、どうやら昔は『材料そのものに魔法を染みこませる』というような工程だったようですね。魔術儀礼を行いつつ、腕のいい鍛冶屋が打つ事によって初めて出来上がる、というような。現代はすべて鍛冶屋さん任せですからね‥‥」
「数が出来ないわけよね。で、昔は修理するっていう概念が無かったみたいなのよね。壊れたら新しいのを使う。これは贅沢をしていたっていうんじゃなくて、壊れたら直せないということを分かっていたかららしいわ。そりゃ、壊れた部分を修理する時にも魔術儀礼が必要なら、新しいのを作ったほうが手っ取り早いもの。強度的にも安心でしょうし」
 陰陽寮で古代の武器などについて調べていたのは、雨宮零(ea9527)とシオン・アークライト(eb0882)。
 しかし、結果的には修理は不可能だというような結果が判明しただけであった。
 元々魔法がかかった武器が欠けたとして、余計な不純物の材料を混ぜて新たな魔法を付与して補うなど、武器として以前にこの世に存在する物質として不自然である。
 そんな出来損ないのようなものに命を託すより、新品の武器を用意したほうがあらゆる意味で安心なのだ。
 昔は人口も少ない。道具よりも、その使い手たる猛者が失われる事のほうが問題だったのだから。
「つまり、現代では絶対修理不可能と言うことですか?」
「正式な手順ではね。肝心の魔術儀礼の方法は失われているし」
「でも、アリサさんが現代の技法で魔法武器の再生をしてくれれば、地獄道・解も蘇れます」
「しかし、こう言ってはなんでござるが、そうならより腕のいい鍛冶屋殿に依頼したほうがよいのではござらんか?」
「いいえ。やはりこれは、アリサさんのような規格外と言うか特殊な方でないと無理でしょう」
「まるほど。腕がいいだけの鍛冶屋では、ただの大斧になってしまう可能性が高い。魔法の武器を作れる鍛冶屋でも、元々かかっている魔法を新たな魔法で塗り替えるというようなトンチンカンなことはできない、と」
 結局、アリサの腕次第、運次第ということだ。
 無論、他の六道武器や現代の魔法武器を参考に見せたことは無駄ではない。
 全く寄る辺の無い状態から修理に挑むより、遥かに成功に近いスタートだろう。
 あとは、こちらの班にできることは祈るのみ。
「で、それよりも問題はこっちよね」
「えぇ‥‥まさかそちらでもこの単語が出てきていたとは思いませんでした(汗)」
「こちらも意外です。丹波藩にも『出雲神社』があるとは‥‥」
「『出雲大神宮』‥‥。元出雲とも呼ばれ、出雲大社の元となったとも言われている神社でござるな」
 四人が調べた事柄の中で、『丹波の出雲神社』というのが共通項となっていたのだ。
 ついこの前、出雲や恐山に黄泉人の集落があるかもしれないという話と共に、妙に引っかかる。
 丹波にも根の国があるのか‥‥それとも、黄泉人を引き寄せやすい土地柄とでもいうのか。
 どちらにせよ、丹波の出雲大神宮に黄泉人に関わる何かがある可能性は高かった―――

●頑張った
 アリサは、非常に斑っ気のある鍛冶屋である。性格は一本気だが、その腕前は斑だらけ。
 しかし、そんなアリサにも意地はある。自分を頼ってくれ、期待してくれている人たちのためにも諦めたくない。
 いざ本番‥‥壊れた大斧、地獄道・解を目の前にして、アリサは唾を飲み込んだ。
 冒険者たちは、固唾を呑みつつ誰一人て声をかけない。
 それは、緊張もさることながら、迂闊に声をかけるとアリサの失敗を誘発させそうな気がしたからだ。
「いきます。今度こそ、クホりも(壊すと言う意味らしい)別なものになりもしません‥‥!」
 そして、アリサの槌が振り上げられ、地獄道・解に振り下ろされ―――

「‥‥で? 結局出来上がったのがこれか」
「す、すすす、すみませぇぇんっ! 頑張ったんですけどぉ‥‥!」
「何故だ。怒るより先に聞かせてくれ。どうして大斧が『大槌』になるんだ‥‥」
「と、とりあえず、『負けん道・解』と名付けてみようかと‥‥」
「名付けんなっ! 途中まで上手くいってただろ!? ちゃんと大斧の形してただろ!? なんで終ってみたら形が変わってるんだよ! どう見ても太いだろこれ!? 御神楽、傍で見てたんだから説明しろ!」
「い、今起こった事をありのままにお話します。『私は大斧が完成したと思ったら大槌ができていました』。な、何を言っているのか分からないと思いますが、私も何が起こったのか分かりませんでした‥‥。頭がどうにかなりそうでした‥‥。幻術とかトンチンカンとかそんなチャチなものでは断じてありません。もっと恐ろしいものの片鱗を味わいました‥‥」
「‥‥あの御神楽がここまで壊れるとはな‥‥よほど理解に苦しんだということか」
 つまるところ、作業は失敗。地獄道・解は大斧ではなく、大槌になってしまった。
 魔法の武器ではあるが、かつてとはその性質も形も違ってしまい、意味を成していない。
 アリサが巻き起こした現象の奇抜さから、陰陽寮のほうで調査を行いたいと言われ回収されてしまったことで、地獄道・解は完全に失われたと言っていいだろう。
 可能性はあった。全員精一杯努力もした。
 それでも成功するとは限らない‥‥遺憾ながら、これも現実―――