【丹波藩侵攻】派兵

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:04月02日〜04月07日

リプレイ公開日:2008年04月03日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

 その日、冒険者ギルドに現れた人物は異質であった。
 三人の護衛らしき侍を連れた侍。都合四人の侍たちは、全員編み笠を被っていて顔は分からない。
 ただ、その口調からは自信と応対したギルド職員を見下す態度がにじみ出ていた。
「‥‥なんでそんな依頼を私に出させるんですか? 他の職員でもいいじゃないですか」
「貴様が一番丹波藩に関する依頼を担当しているからだ。別に貴様に頼みたいわけではないわ、たわけが」
「っ‥‥!」
「末端の貴様はつべこべ言わず依頼を出せばよい。此度の丹波藩への出兵‥‥よもや負けるなどとは思っていないが、念には念を入れんとな。山名の小倅めが、卑しくも神皇様にたてつくと言いよったのだから」
 声から考えるに、老人と言って差し支えないであろう侍たちのリーダー。
 応対するは冒険者ギルドの職員、西山一海。
 おちゃらけることの多い一海も、今日ばかりはボケる雰囲気ではなかった。
 いくらわけあり依頼人の話を聞くための隔離された部屋だとしても、一藩主を小倅呼ばわりするからにはかなりの地位に居る人物なのだろう。逆らえばどうなるか、一海は内心穏やかではない。
「依頼内容は、丹波軍に対する遊撃部隊の組織‥‥でしたっけ? しかしこの、『五行龍に関わり深き者求む』っていうのは何ですか? 凄く嫌な予感がするんですが」
「ほう‥‥勘はいいようだな。無論、その五行龍が出てきたときに対応させるためよ。我が方の兵は500、丹波の兵はよくても300程度であろうから、数の面でも練度の面でも負けはない。しかし、それを覆しうるのが八卦衆と八輝将の遊撃部隊。それに五行龍などと言う精霊まで加わってしまっては流石にこちらの被害も馬鹿にはなるまい」
「それはわかりますが、別に知り合いじゃなくてもいいじゃないですか」
「ふん。何故じゃ、知らぬ者より知っておる方が対応がしやすかろう。それに五行龍とは随分人間臭い特異な連中と聞く。知り合いともなれば油断もしよう。そこを突けば倒すのも容易だろうが」
「‥‥! それって、騙まし討ちしろってことですか‥‥!」
「それが一番効率が良かろうが。よいか、これは勅命なのだ。神皇様の御意思に逆らう不届きな輩を叩き潰す正義の戦よ。別に親兄弟と戦えと言っているのではないのだ‥‥容易かろう?」
 一海は何も言えない。
 この場で斬り殺されるのも困る。ギルドを首になっても困る。かと言って、素直に頷いては人としてどうかと思うのだ。
「納得のいかなそうな顔だな。わしは兵の犠牲を少しでも減らそうと、こうしてわざわざ冒険者ギルドくんだりまできてやっているというのに。良い将軍と思わんかね」
「‥‥さぁ。私は所詮歯牙ない一般人なので。では、そういう旨の依頼を出しておきます」
「ふ‥‥早死にするほどの馬鹿ではないらしい。口の利き方は知らんようだがな」
「‥‥一つだけ聞かせてください。騙まし討ちをさせられる冒険者さんは、どんな気持ちになるかわかりますか?」
「知れたこと。誇らしいに決まっておろう。神皇様の御為にお役に立てるのだからな―――」
 なるほど京都からすれば犠牲を最小限に減らす事が出来る。個人の感情より人の命。友達だから討てぬという言葉は戦では通用しない。そもそも受けなければ良い話である。
 しかし一海は一人思う。色んな意味で、こんなことがまかり通っていいのかと。
 大きく動き出した丹波藩を巡る事情。
 長年丹波の依頼を取り扱ってきた身として、今の丹波が消えてしまうのはあまりに惜しい気がするのだ。
 最早戦争と言っても過言ではない大規模な戦いに、冒険者たちは何を思い、どう動く―――

●今回の参加者

 ea1442 琥龍 蒼羅(28歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1774 山王 牙(37歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea3210 島津 影虎(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4301 伊東 登志樹(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8545 ウィルマ・ハートマン(31歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb1758 デルスウ・コユコン(50歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb2483 南雲 紫(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3529 フィーネ・オレアリス(25歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

宿奈 芳純(eb5475)/ 元 馬祖(ec4154

●リプレイ本文

●戦場へ
 四月某日、曇り。
 日が陰ればまだまだ冷える京都近辺の気温は、今日に限って真冬のようにも思われた。
 それはその一帯に住む者全員が感じるものではなく、ごく一部の人間だけが感じているものではあるが。
 実際問題、何百人という人間が行軍している状況ではむしろ暑くさえ感じられるのだ。
 目指すは京都のすぐ隣‥‥丹波藩。
 冒険者の何人かは、すでに行き慣れた道のはずではあるが‥‥今はその慣れが心を苛む。
 やがて、500名からなる京都軍は、丹波藩へ進入。
 陣を張るのに適した場所を見繕い、速やかに作業に入ったその手際は、指揮官の統率力と兵の練度の高さを伺わせた―――

●開戦
 そして準備が万端整った頃には、丹波軍も目視できる場所にまで接近していたのだが、ここで一つの疑問が湧いた。
「はて‥‥妙ですな。あの様子だとこちらが布陣している最中に攻撃してくることも出来たように思えますが」
「あくまで自分たちから仕掛けることはしたくない‥‥か。さて、偽善と言うべきか見上げた心意気と言うべきか‥‥」
「その心意気を、争わない方向へ持ってきてくださったのなら傷つく方もいなかったと思うのですが‥‥」
 デルスウ・コユコン(eb1758)、ウィルマ・ハートマン(ea8545)、フィーネ・オレアリス(eb3529)の三人は、今まで丹波藩に関わったことがない人物である。
 それぞれ思うことはあるが、今回の戦いに参加すると決め、京都軍の遊撃部隊として動く仲間である。
「延暦寺とジーザス教の連中が揉めて、ジーザスに肩入れしてる平織の動きが活発なこのご時世に、丹波に派兵‥‥何か腑に落ちねぇなぁ? 京都に迫ってるっつー埴輪の相手でもしてろってんだ」
「‥‥仕方がありません。常識的に考えれば、丹波藩はそれだけのことをしているのですから。気は進みませんが‥‥」
「そうね‥‥はっきり言って物凄く気の乗らない戦なのよね‥‥。でも、これが現実だから、受け止めなくちゃならないわね」
 伊東登志樹(ea4301)のように露骨に口に出さないまでも、山王牙(ea1774)や南雲紫(eb2483)の気は重い。
 幾度となく丹波の人間や五行龍たちと触れ合ってきた彼らにとって、この戦はとても歓迎できるものではない。
 かといって、傍観もできず‥‥戦いの中で何かできることがないかと参戦してくれたようだ。
「戦うという行為は、別の見方をすれば『相手と己を知るもっとも効果的かつ理不尽な手段である』とも言えます。‥‥かなり血は流れますが」
「それが致命傷にならなければいいがな‥‥。一つの藩とはいえ、丹波はそこまで大きな勢力ではない」
「‥‥大丈夫ですか? 私も気の重い後始末になるとは思っていますが、顔色が優れませんよ」
「‥‥はい。ここまできてやっぱりできません等と言っては志士の名折れ。豪斬様が己の志を貫くというならば。私は『志士たる志士』を貫き、掲げ、この戦場に、この国に示すのみっ‥‥!」
 個人個人の喧嘩というならベアータ・レジーネス(eb1422)の言うように絆が深まることもあろう。
 しかし、これはあくまで戦争レベル。琥龍蒼羅(ea1442)の予見もあながち在り得ない話ではない。
 島津影虎(ea3210)が心配するほど御神楽澄華(ea6526)は沈んだ表情を見せていたのだが、気付いていないのは本人だけらしい。キッと決意を新たにしたのも束の間、それが辛そうな表情に変化したのは僅かな後の事だった。
 と、そんな時の事である。
「あれが丹波軍か! 我に続けぇい! 一番槍は我等松永の部隊が貰い受けるっ!」
 京都軍の一角が、総大将の命令もなしに飛び出していく。
 騎馬武者と歩兵が合計50ばかり‥‥対する丹波は、槍を装備した足軽が前面に出ている。
「功を焦る軍隊に良い未来はないな‥‥」
「何を考えているの、彼らは!? 八卦・八輝がいるっていうことを全く念頭に置いていない攻め方よ、あれは!?」
「どういうことでしょうか?」
 フィーネの疑問は、南雲が説明する前に解消された。
 足軽たちの間から二つの火の玉が現れたと思ったときにはもう遅い。
 大音響と共にファイヤーボムが連続して炸裂し、迂闊に前に出た京都軍の部隊を焼き焦がす。
 流石に即死はしないものの、あとは足軽で充分というレベルにまで戦闘力が削がれてしまう!
 ウィルマの溜息もこれを予見してのことだったのだろう。
 しかし、これで戦端は切られた。
 味方を助ける意味も含めて、京都軍は大多数を正面の丹波軍へと集中させる!
「なんとも頭の悪い幕開けですなぁ。ま、こちらもせいぜいお仕事をしますかな」
「畜生、やるからにゃあやったるぜい! いくぜ野郎共!」
 デルスウと伊東のまるで逆なテンションを気にする余裕もなく、一行は戦場へと歩を進める―――

●戦いの中で
『戦場ではどこにでも道理はあるものだ。軽慮で利害を越えようというなら、それは想像力の欠如だ』
 これはウィルマの言である。
 そう、戦場ではどちらにもどれぞれの正義が、そして譲れないものがある。
 逆に戦場のどこにもないのは『正しい事』であろうか。
 あちこちで悲鳴が上がり、肉や骨を絶つ嫌な音、むせるような血の臭いが辺りを包む。
 戦場では容赦などをしていては自分が殺される。
 それをよく知っている冒険者でさえ、いざ戦場となれば無事では済まない。
 そして、悠長に馬などに乗っていると馬から殺られるのが当たり前。尚且つ、いくら魔法で怯ませようと敵の中に少数で突撃などは命がいくらあっても足りないということでそういう作戦は却下されてしまったが。
「ちぃっ! 倒しても倒しても敵が減った気がせん‥‥!」
「そりゃ、殺さずに気絶させてっからでさぁ。そんな姉さんに敬意を表するけどな!」
「俺たちは後方支援に徹する。巻き込まれるなよ」
「ふむ。では、私とベアータさんは五行龍の方々への警戒に当たりますか」
「分かりました。皆さん、御武運を」
 南雲、伊東、御神楽、山王が前線に出て攻撃。
 琥龍、ウィルマは各々魔法と弓で支援。
 島津とベアータは最大の目標である五行龍への警戒。
 デルスウとフィーネは、後方で総大将の護衛と治療行為に従事している。
 戦況はなんと五分五分。
 要所要所であちこちから魔法が炸裂し、京都側は足並みを乱される事が多い。
 どうやら八卦衆、八輝将は二部隊に分かれ、劣勢な部隊の支援のために奔走しているらしかった。
 そうなれば、当然‥‥!
「ぐっ‥‥な、何っ!? ヘブンリィライトニングの魔法、かっ‥‥!?」
「うぅっ‥‥あ、アイスブリザード‥‥こ、これを使えるのはっ‥‥!」
 冒険者たちが相手では、足軽や並みの丹波藩士では荷が重過ぎる。
 やたら手強い部隊が居るという報告を受けて、八卦衆が加勢にやってきたのだ。
 使われた魔法だけで、御神楽には誰が相手なのかすぐにわかった。
「なっ‥‥お前ら!? く、くそっ‥‥わかっちゃ‥‥わかっちゃいたがやりきれないぜ‥‥!」
「やれやれだぜ‥‥骨の折れる相手だな、これは」
「凍真! 電路! 呆けてると死んずまうだぁよ!」
「オウ! 悲しいけどコレ、ウォーなのよネ!」
 八卦衆の面々も、プロである。自軍の兵士を無駄死にさせるわけには行かない以上、知り合いであろうが誰であろうが敵ならば戦わなければならない。
 問答無用の高速詠唱で魔法を冒険者たちに叩き込み、素早く下がる。
 そこに足軽や鎧武者が斬り込んで来るという戦法は、数の劣勢を覆すために有効な手段であった。
「‥‥今ので最後の薬です‥‥! 一旦フィーネさんのところまで戻りますか!?」
「も、戻れるなら、な‥‥! 砂羅鎖のやつめ、しっかり後方に魔法を叩き込んでくれた‥‥!」
「どうも、魔法絡みや精霊絡みの手合いは‥‥届く手が長いという以上に、厄介でいかん‥‥!」
 山王、琥龍、ウィルマは自前の薬で回復したものの、まだまだ敵兵は多い。
 魔法の雨霰の第二波が来られてはまずい‥‥そんな嫌な予感がした直後。
「地震だと!?」
「いえ‥‥下です! 後方、避け―――」
 御神楽の言葉も虚しく、琥龍とウィルマが地中から飛び出した巨大な物体に弾き飛ばされた。
 見慣れた姿。結んだ絆。彼の名は‥‥。
「‥‥芭陸、様‥‥!」
 ギリ、と歯を食いしばる御神楽。
 その呟きに応える様に、土の龍は彼女のほうに振り返った。
『‥‥何故、とは聞きません。しかし、小生も退きませんよ。あなた方が作ってくれた、私達の居場所のために』
「っ‥‥!」
 その言葉‥‥こんな状況でなければどんなに嬉しかったか。
 事情を知らない京都軍の足軽たちでさえ、スモールヒドラがそんな台詞を口にするとは思わず動揺する。
 と、そこに。
「報告します。上空に刃鋼さんと森忌さんの姿を確認しました」
「氷雨殿はいないようですが、熱破殿は来ているようですね。いやはや、三龍が相手とは手厳しい‥‥と、四龍でしたか」
 ベアータと島津が戻ってくるが、こちらはこちらで芭陸と丹波軍に足止めされ、他の五行龍のところまで向えないということを察知して戦線に加わる。
 機動力のある空を飛べる五行龍を戦場で追いかけろと言うのも無茶な話だ。
「何をしている! 手心を加えて無事に済む相手か!」
 自分以外の人物は、どうしても躊躇してしまう。そう、ウィルマが思って叫んだ時だ。
「はぁぁぁぁぁっ!」
『‥‥‥‥!』
 ギィン、と耳障りな音がして、御神楽の槍と芭陸の角がぶつかりあう。
 ただ一人、面と向って芭陸に攻撃を仕掛けた人物‥‥それが御神楽澄華。
 島津も、山王でさえも躊躇した攻撃を、迅速とは言わないまでも意を決して行ったのだ。
 手加減はない。言葉もない。
 その行動を見送った面々には御神楽の表情は見えないが‥‥。
『‥‥御神楽さんらしくありませんね。小生相手に一人で突っ込むとは』
 ぎゅる、と身体を回転させ、御神楽に巻きつく芭陸。
 持ち前のゴツゴツした岩肌とCOのホールドで御神楽の骨を砕きにかかる‥‥!?
「う‥‥あ、あぁぁぁぁっ‥‥!」
「ば、バーロー! 気負いすぎなんだよ、ったく!」
「‥‥芭陸様‥‥簡単に説得できるとは思っていませんでしたが‥‥!」
「芭陸、それ以上は私たちも黙っていられなくなるぞ‥‥!」
「チッ、それみたことか!」
「申し訳ありません、芭陸殿。しかし、仲間を助けるためとあれば‥‥!」
「不毛だ‥‥。あまりにも不毛だ‥‥」
 伊東、山王、南雲、ウィルマ、島津、琥龍が攻撃して御神楽を救出するも、その隙を突かれて丹波軍に狙い撃ちされる。
 弓兵の矢に当たるならまだしも、刀で斬られた者はダメージが大きい。
 姿の見えぬ他の五行龍。八卦、八輝の遊撃。
 地の利と熟練した連携で、丹波軍は思いもよらぬ強さを発揮していた―――

●狙い
「やれやれ‥‥何故私まで怪我人の手当てなどをしなければならないのですかなぁ」
「戦闘が予想以上に激しいからです。こんなに怪我人が出ていては、魔法で治療していてはすぐに精神力がなくなってしまいます。薬や道具で治療しませんと‥‥」
 デルスウはともかく、フィーネはもう少し前線で治療活動をするはずだったのだが、担ぎ込まれる怪我人が多すぎてそうも言っていられない状況になってしまったのだ。
 緊急の怪我人は魔法で治したが、全員をそうするわけにもいかない。どうしても人手は要るのだ。
 デルスウは護衛すると言って総大将である藤原満定の傍に控えていたのだが、護衛する本人に『目障りだ。前線に出る気のない臆病者は衛生兵でもしているがよいわ、たわけが』と言われてしまったのである。
 まぁ、確かにデルスウがいなくとも京都軍の諸兵が満定を守っているのだが。
「やれやれ、これは最終手段の実行も考えておいたほうが良いかもしれませんな。精霊魔法を使うという志士を指揮する人間が精霊を殺せ等と‥‥まぁ、よくも言ったもので」
「それについてなのですが‥‥どうも京都軍の中にも精霊殺しを推奨する満定公のやり方に疑問を抱く方が少なくないようなのです。確かに軍の被害は少なくなるかもしれませんが‥‥」
「敵軍に加勢しているとは言っても、土地神ですからな。なんとまぁ、衛生兵扱いされたのが功を奏しましたか」
「茶化さないでください。反乱軍である丹波の方々と違い、必ずしも討たねばならないということはないはずなのですが‥‥」
 と、兵士の一人の治療が終った瞬間。
「火事だー! 兵糧が燃やされてるぞー!」
「なんだと!? 敵兵か!?」
「い、いや、違う! 見ろ!」
 兵士たちのざわめきを聞き、デルスウとフィーネが声のするほうに向ってみると、そこにいたのは‥‥!
『そろそろいいぜ、森忌のおっさん! 半分も燃やしゃいいだろ!』
『応っ! 運搬は任せぃやぁぁぁっ!』
 ウイバーンである森忌が、サラマンダーの熱破を空輸、上空から京都軍の兵糧集積所に投下、熱破の発火能力で焼却。
 ある程度燃やしたら発火能力をオフにし、森忌が回収して離脱。実に合理的で奇襲性に秀でた策である。
 すぐさま飛び去る二匹の精霊龍は、下から放たれた矢などものともせず空に消えた。
 地上では、言うまでもなく消火作業に大わらわである。
「くくく‥‥はっはっは‥‥! これはまた何と言いますかな。これを考えた指揮官は随分優秀な人物なんでしょうな」
「笑い事か! この役立たずどもが!」
 デルスウが堪え切れずに本音を呟いた時、間が悪く藤原満定もこの場にやってきていた。
 機嫌が悪いのも当然。精鋭たる京都軍が、丹波軍如きに互角の戦いをされている上に、食料を燃やされたのだから。
 腹が減っては戦は出来ぬ。まだ半分くらいは残っているからすぐに引き返すことはないが、大きな痛手には違いない。
「こんな時のためにも、やつらのことをよく知る冒険者を呼んでやったと言うのに何と言うザマだ! 報告によれば、前線のやつらも騙まし討ちどころか特に策もなく膠着状態、無駄に被害を広げていると言う! わしの意見を否定するからにはそれなりの策があるのだろうと思えば‥‥! 所詮家格の低い雑魚どもか!」
「おや‥‥あくまで『推奨』であって『命令』ではなかったと思いますがな」
「腕っ節ばかり達者なだけの連中は上の言葉に従っておればよいのだ! そもそもこれは勅命と申したはず! 然るに丹波よりむしろおぬし達の方が旧知の相手に身が固まっておるではないか。神皇様の兵の被害を拡大するなど、志士にあるまじき行為よ!」
「お気持ちは分かりますが、志士でない者も多いのです」
「もうよい! 貴様らは一旦京都に戻り、別命があるまで待機しておれ!」
「私としては願ったり叶ったりですが‥‥よいのですかな?」
「まだ戦が続くのであれば、人手は多いほうが‥‥」
「貴様らに喰わす飯が惜しいわ、雇ったわしも笑えんが‥‥このたわけどもが!」
 やがて、戦線そのものが膠着状態に陥ったのを機に、冒険者たちは京都に帰還したのであった。
 大半の人間が、心身ともに傷つきながら―――