【丹波藩侵攻】出雲大神宮
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■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 50 C
参加人数:10人
サポート参加人数:4人
冒険期間:04月14日〜04月19日
リプレイ公開日:2008年04月17日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「はぁ‥‥」
ある日の冒険者ギルド。
職員の西山一海は、手にした手紙らしきものを見つめたまま何度目かの溜息を吐いた。
差し出し主は藤原満定。先日丹波軍に出立した京都軍を指揮しており、現在も戦場にいるので直接依頼を出しに来られないため、書簡でということにしたのだろう。
が、それは一海にとって内容的にもこれっぽっちも嬉しいものではなかった。
と、そこに。
「んー? なーに溜息なんて吐いてんのよ一海。辛気臭いわねぇ」
「‥‥あんたはもうちょっと離れなさい‥‥! ‥‥で、どうしたのよ」
ギルドに現れたのは、京都の何でも屋、アルトノワール・ブランシュタッドとその妹、アルフォンス・ブランシュタッド。
妹だけがベタベタ姉に懐いている、一海とは馴染みの二人であった。
「あ、いえ‥‥また丹波侵攻の依頼が来まして。読んでみて下さい」
「何々‥‥? あはっ、ごっめーん。アタシ、日本語読めなーい(笑)」
「‥‥なら受け取らなきゃいいでしょうが‥‥。貸しなさい、役立たず」
不機嫌そうにアルトが手紙を奪い取り、目を通す。
そこにはこんなことが書かれていた。
『依頼を出し、冒険者たちを出雲大神宮へ向わせよ。そこに安置されている銅鏡を手に入れ、提出させること』
と、簡素ながら有無を言わせない命令が書かれていたのだった。
「出雲大神宮ぅ? それって確か、タンバにあるジンジャよね? 京都軍が依頼人だと、盗むことになんない?」
「‥‥あいつらにはそんなこと関係ないんでしょ。自分たちが正義だって思ってるんだから」
しかし、これは妙だ。
戦線は膠着状態、兵にかなりの被害が出た上に兵糧を半分焼かれてしまってもまだ戦闘は続いているのだ。
それなのに再び遊撃部隊として戦えと言うでもなく、神社に祀られている銅鏡を盗めという。
その銅鏡が、戦闘そのものより大事だと言うことなのか‥‥?
「‥‥で? 依頼出すの、あんたは。この依頼には私たちは関われないからどうでもいいけど」
「‥‥気は進みませんが、出さないと殺されかねませんし‥‥。それに、依頼を出すことでこそ変わるものもあるかもしれません。冒険者の皆さんなら、きっと‥‥!」
「なんでもいいわよー。どこの藩が潰れようと京都のメンツが潰れようとアタシたちには関係ないもん」
「見も知らない、関係ない人だって死んじゃうかもしれないんですよ、戦争は!?」
「いいじゃない。関係ない人間なんて何百人死んだって。ねー、お姉ちゃ―――」
「‥‥黙りなさい。次に同じ事言ったら、容赦なく喉元掻っ切るわよ‥‥!」
「‥‥ぶー。お姉ちゃん、こっち来て甘くなったわよね〜。けど、そんなお姉ちゃんも好きにゃん♪」
アルフの喉元に縄金票を突きつけてギロリと睨むアルト。
自分も普段は同じようなことを口走るくせに、今のアルトは心から不機嫌そうであった。
その時、一海にはピンと来た。
『人間誰しも最初は見知らぬ者同士さ。アルト‥‥私と君もそうだっただろう? 見知らぬ誰かの中には、生涯付き合える友や恋人がいるかも知れないのだよ―――』
この場には居ない誰かの台詞。
妹と同じく冷酷非情だったはずの姉は、少しずつ変わっていたのだと。
さて‥‥出雲大神宮へ向う今回の依頼。
果たして、そこに待つものとは一体―――?
●リプレイ本文
●道すがら
今更言うまでもないが、丹波藩は現在戦争状態である。
主戦力が京都軍とにらみ合っているので、丹波内の防衛力は総じて低下していると言って差し支えない。
故に、少数ならばあっさり丹波内に侵入することもできるし、目的地に進むのも難しくはない。
とはいえ、当然哨戒中の兵士などは存在するので、運が悪ければ道すがら戦闘となるのは当たり前だった。
そうなれば、関わりが深い者は知り合いと出くわすこともある。
南雲紫(eb2483)が、よい例であった。
「なっ‥‥南雲様!? まさか、こんなところで‥‥!」
「あなたは‥‥いつぞやの、東雲城での訓練の時に会った‥‥!」
和気藹々と話し、羨望の眼差しを南雲に向けていた青年。
五人ばかりの組で行動していた丹波藩士たちは、冒険者が丹波内にいる意味をすぐに理解し、迎撃態勢を取る。
が、意気込みだけでは勝てるわけがない。歴戦の冒険者相手では、5分と保たず全員地面に転がった。
「ま、安心しろや。命まで取りやしねぇって。俺たちも好きでやってんじゃねぇんだからよぅ」
「そういうことだ。こんな馬鹿げた依頼で殺しなど、する必要も価値もない」
「近くに寺院があったはずです。そちらに向ってください。動けないほどの傷ではないはずです」
伊東登志樹(ea4301)や、草薙隼人(eb7556)に限らず、全員丹波藩士を殺すつもりはないようだ。
琉瑞香(ec3981)は来た道の方角を指し示し、早く手当てするよう促す。
藩士たちは困惑した様子ながらも、頼りない足取りでその場を後にした。
「ふむ。腕は悪くないようですが、相手が悪すぎましたなぁ」
「痛そう‥‥(汗)。手加減してるって言っても、やっぱり斬るんだ?」
「‥‥逆です。斬らずに済ませる程の手加減をしては、こちらがやられる‥‥だから‥‥!」
デルスウ・コユコン(eb1758)に至っては盾系の装備だけでもあしらえてしまったのだが、幽桜虚雪(eb3111)のように回避能力だけに特化したメンバーは手が出せなかった。
俯き、搾り出すように言う御神楽澄華(ea6526)。ここしばらく、彼女の笑顔を見た者はいないというが‥‥。
「‥‥行くぞ。出雲大神宮はまだ先だ。そこにも敵兵はいるかも知れん」
「いやはや、またしても五行龍様方のお相手もするわけですからね。気持ちのよい依頼でないだけにしんどいもので」
「もうすぐ森の街道を抜けます。空からの目を避けた意味があるとよいのですが‥‥」
志士である琥龍蒼羅(ea1442)はともかく、フリーの忍者である島津影虎(ea3210)や神への信仰があるフィーネ・オレアリス(eb3529)も、神域への手出しをよくは思っていない。
だが、受けた以上はやる。万が一利用されていようと、それは変わらないのだ。
やがて‥‥遠くに出雲大神宮の鳥居が目に入る―――
●一次陽動―――
さて、目的地へと到着した一行であったが、出雲大神宮の雰囲気がおかしいことにすぐに気付いた。
辺りに兵士が一人も居ないのである。いや、神社なのだから当たり前と言われればそれまであるが。
代わりに、隠し様のない巨大な龍の姿が二つ‥‥!
「む‥‥まだ未見の五行龍ですな。青いのと紫色の龍ですか」
「これまた妙ですね。まさかここの守りを氷雨殿と氷雨殿だけに任せるとは考えにくいのですが‥‥」
「二龍じゃ私たちに勝てないっていうのは実証済みだものね。どうする? 作戦通り陽動かけてみる?」
「くぅ〜、森忌のダンナはいねぇのかよぅ! 拳で語り合いたかったってのによ!」
「今更作戦を変更も出来ないだろう。一次陽動組み、行くぞ」
琥龍の合図で、一次陽動組みの五人が境内に突入しようとした、その時である。
「あらあらまぁまぁ、乱暴な方々ですわね。他の参拝客の方々に迷惑でしてよ?」
『ッ!?』
不意に背後から声をかけられ、一同がぎょっとして振り返る。
同時に戦闘態勢を取っている辺り、冒険者側の練度が伺えるが、声をかけた人物は欠片も動じない。
そう、その『練度の高い冒険者一行』の誰もが気付けなかった。接近を感知できなかったのだ。
長い金髪。蒼い瞳。長いスカートを含むフリルの多い黒い服装の、およそ戦闘とは無縁そうな少女がそこにいた。
「あなた方が銅鏡を奪いに来た冒険者さんでしょう? 氷雨さんと刃鋼さんもお待ちですから、こそこそせずに堂々と入ってくださいまし。くすくす‥‥大丈夫ですわ、取って食べたりは致しませんから」
楽しそうに笑い、優雅な足取りで境内に入っていってしまう。
たかが16〜17歳くらいに見える少女一人に、一行のプランは一気に瓦解させられていた。
「ど、どうするの? このまま行く?」
「行くしかないだろう。陽動すると聞かれたからには、やるだけ無駄だろうよ」
「私たちと同じく、日本人ではありませんよね。ここの宮司さんや巫女さんではなさそうですが‥‥」
「あの娘‥‥何者だ? 全員が全員気付けなかったとは‥‥」
「例え誰であろうと‥‥邪魔をするのであれば、倒して進むのみです‥‥!」
一行は仕方なく、その少女の後を追い、境内へと足を踏み入れた―――
●拒否
『え!? え!? そ、そんな‥‥えっと、名前は思い出せないけど、慰めに来てくれた人たちがいる‥‥!?』
『あかんな‥‥琥龍さんに南雲さんに御神楽さんか。これはしんどいことになりそうや‥‥』
境内に入ると、こちらに気付いた五行龍二匹がそれぞれリアクションを返す。
精霊龍ですら動揺していると言うのに、黒い服の少女だけがにこにこと笑っていた。
「お初にお目にかかります。わたくし、カミーユ・ギンサと申します。漢字で書くと、銀砂紙遊となりますわ。母がイギリス人で、父が日本人のハーフですの。縁あって山名豪斬様にお世話になっている、言うなれば客人というわけですわ」
「あなたのことなど聞いてはいません! 退いてくださるのか、退いてくださらないのか‥‥御返答を!」
「あら‥‥恐い顔。余裕がなくてよ?」
「っ!」
「あー、待て待て、待ってくれ。こいつ、今ちょっと気が立ってんだよ。気を悪くしねぇでくれや」
「話してわかってくださるのであれば良いのですが。口ぶりから考えるに、私たちがここに来ると分かっていての待ち伏せとお見受けします。ならばお三方で私たちを止めるというのですか?」
「そのつもりだったのですが‥‥どうします? 刃鋼さん、氷雨さん」
『嫌だ! 僕はやらないよ! 友達と戦うなんて嫌だよぉ!』
『んー‥‥ウチも遠慮したいなぁ。冒険者言うても、知り合いが来るとなったら話は別や。戦場ならともかく、人的被害があるわけでなし‥‥鏡くらいくれてやったらえぇんちゃう?』
「あらあらまぁまぁ。それではわたくし一人であの方たちと戦うことになってしまいますわ。それは流石に御遠慮願いたいところなのですが‥‥どういたしましょう。けれど、ただ通してしまっては怒られてしまいます」
うーん、と場違いなほどに優雅に悩む。
御神楽ではないが、イライラしても不思議ではない。
そして、暫く考えたあと、右手の人差し指を顔の横で立て、にこりと一言。
「では、持って行っちゃってくださいまし。命あっての物種と言いますから」
「よろしいのでしょうか? いえ、争わなくて済むのならそのほうが良いのですけれども‥‥」
「‥‥何を企んでいる? 持って行かれても問題ないという意味だろう、その発言は」
「お山の大将から鏡を盗って来いと言われてうっかり来てしまったのですが、物によっては考え直しますので、由来などを教えて頂けませぬかなー‥‥っと」
「巨大な埴輪を操るための道具だ‥‥などと言うことはないか? ないことを祈るが」
「さぁ‥‥わたくしは詳しいことは存じ上げません。刃鋼さんは何かご存知ですこと?」
『ん‥‥悪い代物やないけど、そない大層な鏡とちゃうよ。魔力みたいなものをあんまし感じひん』
「変ね‥‥音に聞こえた出雲大神宮の宝が、そんな程度の物なのかしら‥‥?」
「ふむ‥‥引っかかりはしますが、持って行っていいと言われたのですからいただいていきましょう。いやはや、後始末が必要ないほどすっきり終ってしまうとは‥‥」
「ホントにもらってっちゃうよ? 後で返して、とか言われても、提出しちゃうから無理だよ?」
「はい。豪斬様も無理だろうと思った上でここの守りをわたくし達三名にお任せになられたのでしょうし。刃鋼さん、氷雨さん、それでよろしいですわよね?」
『僕はいいよ。よかった、戦わずに済んで‥‥』
『しゃあないね。ほんなら氷雨君、送ってくから掴まり』
「だ、そうです。それでは、足元に御注意してくださいまし〜」
そう言って、五行龍二匹は本当に帰ってしまう。
カミーユもカミーユで、優雅な笑顔と仕草で手を振り、一行を見送ってしまった。
一行は、凄まじく腑に落ちない気持ちを抑え、神宮の中へ―――
●謎の女
「ふむ‥‥これが例の銅鏡ですかな。中々どうして、いいものではないですか」
「そうですね‥‥それなりの力を感じます。ですが、この程度の物なら御所やそこら辺の寺院にもあるはず‥‥」
「あーもう、なんっかスッキリしねぇっ! これで取って帰って終りってか!? 拍子抜けもいいとこだろ!」
「いや‥‥違うな。これは良くできた贋作と見た。本物は別にある」
「琥龍さん? しかし、この祭壇に飾ってあるのが偽物なら、本物はどこに‥‥」
「なるほど、さっきのカミーユの台詞か。足元にご注意‥‥ってことは」
「見っけ! 祭壇の下に隠し階段があるよ! 中は真っ暗でよくわかんない」
「はて‥‥何故我々に教える必要があったのか。偽物を掴ませたほうが守れたのでは‥‥?」
「何にせよ、進むしかありません。戦わずに済ませていただいたのですから、文句はありません」
「まぁ、それはそうなんだけどね。いいわ、進みましょう」
隠し階段及びその先の通路は完全に闇の中。しかも人が一人通れれば御の字と言う狭さで、縦に一列になるしかない。
何度も右折左折を繰り返して進むが、終点が一行に見えてこないのはどういうことだろう?
しかし、この時点で一行は恐るべき罠に嵌っていたのである。
「あいてっ!? な、なんだぁ、今の衝撃はよ!?」
「壁‥‥いや、床や天井からもか。やられたな‥‥!」
「怨霊です。しかも数が多いようですね」
「そんな!? 曲がりなりにも神域で不浄の存在が闊歩しているなんて‥‥!」
「こいつら‥‥明らかに俺たちを狙ってるぞ! おい、戻るなり進むなりしろ! 止まってるとヤバイ!」
「ぐぅっ! こ、この体躯では動くのもままなりませんでな‥‥盾も構えられず‥‥っと!?」
そう、ランタンの灯りのみを頼りに進む一行。
狭い通路の中、青白いモヤのような姿の怨霊が、確認できるだけでも十匹ほど彼らに襲い掛かっていた。
武器を振るうことなど到底出来ない空間。
避けることも受けることも出来ず、ただじわじわと怨霊になぶり殺しにされていく!
「い、いやはや、やられましたね。カミーユさんはこれを見越したわけですか‥‥!」
「全員、全速力で来た道を戻れ! ここでは戦いにもならん‥‥!」
「幸い、一本道だったしね! ってデルスウさん、速く戻ってぇ!?」
「カミーユ様‥‥あの方は、一体‥‥!?」
最後尾に居たデルスウが素早く移動できないため、引き返す速度はお世辞にも速いとは言えない。
その間、舞い踊る怨霊が360度オールレンジから襲ってくるのだ‥‥このままでは殺される!
そんな時、文字通り必死で入口に戻る10人の前に現れたのは‥‥!
「あらあらまぁまぁ。みなさん、まだこんなところにいらっしゃんですの? もうとっくに本物の鏡を手に入れられたものとばかり‥‥買いかぶりすぎでしたかしら」
ランタンを持ったカミーユが、しれっとそんなことを言ってのけていた。
「て‥‥てんめぇ‥‥! こ、この怨霊どもは、何だオイ‥‥!」
「はい、地下祭具殿への道には怨霊がたくさんいるとお伝えし忘れておりましたので、こうしてやって参りましたの。ちゃんと魔よけの塩も持って参りましたので、安心ですわ♪」
そう言って、パラパラと塩を撒く。
どこまで本気なのか分からないが、その笑顔でもって撒いた塩は確実に怨霊を退けていた。
数分も経たないうちに、あれだけ襲い掛かってきていた怨霊がすべて居なくなってしまう。
闇を照らすランタンの光。
そこに浮かび上がる黒い服の金髪少女。
その姿は、神々しくも禍々しい。
彼女に害意があれば、ボロボロの冒険者はあえなく全滅するはずだが‥‥!?
「さぁ、これでしばらくは怨霊も襲ってこないはずですわ。あと少しで祭具殿なのですから、頑張ってくださいまし♪」
そう言って、またしても手を振って一行を送り出すカミーユ。
今度こそ最奥まで辿り着き、銅鏡を手に入れて帰ってきた一行であったが、すでにカミーユの姿はなかったという。
二度目の別れ際、彼女が言った台詞が一行の気を更に重くしていた。
「何事もプランどおりにいくとは限りませんわ。見通しが甘くてよ♪」
何はともあれ、命からがらながらも銅鏡は手に入れた。
ギルドに帰り着くとそこには御所からの使いが待ち構えていて、すぐさま銅鏡は回収されてしまったが。
この銅鏡‥‥はたして何なのか。どう使われるのか。
謎の女、カミーユのことも相まって、事態はさらに混迷の様相を呈していた―――